21話時点で平均文字数が6666文字とかすっごく不吉な……。
今回、ちょっとグロや嫌な描写を挟みますのでご注意を。
「本日のお仕事は休みになっちゃいましたかー」
拠点で時間を潰し、夜になったのでいつもの集合場所へ集まった。今回はちゃんと二人とも建物内にいたが、少年の方がこちらへ殺意を向けるような眼差しで睨んでいたので、一旦スルーしてもう一人に話を聞いた。
結果、昨日の件で情報を精査する為に一日お休みらしい。
そうなると、時間も作れたことだしこの後発信機の件で動いても良いかもしれないね。
そう考えて先輩の方を見ると、視界の端で壁にもたれ掛かっていた少年がこちらへ向かって来ていた。
「おい」
「ん?どうしたの?」
相手の態度と雰囲気から私へ聞きたい内容は大体予想出来てるけど……。
「これ、お前のか?」
そう言って、ポケットから妹へ渡していたお菓子の包装紙を取り出してこちらへ見せる。
「おや、ちゃんと召し上がって貰えたようで。美味しかったですか?」
「やっぱりか……!どういうつもりだ?」
持っている包装紙を握りつぶす。
「別に変な意味はありませんよ?ただ、偶然見かけたので……。可愛らしい妹さんですね?ふふ」
「っ……!」
こちらが意味深な笑みを浮かべると、怒りを露わにして胸倉を掴みかかって来る。
「お、おいっ!?」
それを見た先輩が止めようと動くが、手で制止する。
「それほど感情を前に出すって事は、余程大切な家族なんだね?」
「このっ……何が目的だっ!」
「まぁまぁ、声を荒げず落ち着いて。そうだ、甘い物食べる?」
懐から昨日妹の方に渡した物と同じお菓子を取り出す。あれ?イライラしている時に甘い物って逆効果だっけ……?ほんとはカルシウム?ま、いいか。
「馬鹿にしてんのかっ!!」
やっぱり逆効果だった……!
「だから落ち着いてって、そう怒ってると話も出来ないよ?それと、この手も放してくれない?」
私の胸倉を掴んでいる手を指差す。
「お前が話せばな……!」
んー……どうしてこんな強気なんだろ。普通に考えればこっちが妹の命を握ってると思うんだけどなー。勢いのままなのかな?
「もう少し女の子には優しくした方が良いと思うけどなぁ」
女の子って年齢でも無いけどね。
このままだと先に進めなさそうなので、掴んでいる少年の手と腕に私の腕を組み、関節技で軽くその体勢を崩す。
「っ!?」
痛みから逃れる様に姿勢と重心が動き、勝手に掴んでいた手が離れた。
「てめぇ……っ!」
私から離れるように数歩後ろに下がってから睨む。
「さて、これでお話が出来る状態になったね。それで、何が聞きたかったんだっけ?」
「お前の目的だっ!俺の後ろを追ってあの家まで付いて来やがってっ!俺を脅す気だろ!」
「だから別にそう言った目的じゃないって。単純に隠れるように何処かへ向かって行ったのを偶々見かけただけだって。あの場所の近くを歩いててね」
「嘘を言うなっ!俺は知ってるんだからな?お前らがコソコソと何か探しているみたいに歩き回ってるのをっ!」
「コソコソしてたのはそっちじゃないの?私達を見張るように後ろを付いて来てたし」
「そんな怪しい見た目の奴らを変に思わない方がおかしいだろ……!」
ごもっともで。
「何か変なことでもしたら、直ぐに殺してやるからな……!」
……ふーむ、殺意の籠った目ですね。それに虚勢には見えない。この子じゃどう頑張っても私を殺す事は不可能だと思うんだけどなぁ……?やっぱり、背後にここの組織の人間が居るってことなんだろう。
「君じゃ殺すのは無理だと思うけど、どうやって私を殺してみせるの?」
「自分が居る場所が何処だか考えれば分かるだろっ!」
「この場所……?ああ、組織ってこと?凄いね、組織の人間を動かせるんだ」
「俺がその気になればお前みたいな女、直ぐに殺せるんだからな……!」
「なるほどなるほど……組織の上の人間、しかもそれなりの地位の人とのパイプをお持ちと……」
けどそれって……今この瞬間は無力って事だよね?
「流石にこの街で組織を敵に回したくないし……降参かなぁ?」
敗北の意思を証明するように両手を上げる。
「相手は大人数だしね。それに対してこっちはたったの二人、死ぬようなもんだよ」
「……ふん、最初からそうしておけばいい」
私の態度に安心したのか、怒りを鎮める。
「さっきのは誰にも言わないし秘密にしておくからね?だから殺そうとしないでね?」
「お前ら次第だ。少しでも変と思ったら遠慮なく殺すからな」
「それじゃあ、少しでも好感度を上げておこうかなー?」
先ほど取り出したお菓子を少年のパーカーのポケットへ入れる。
「っ!?なにして……!」
「友好の証にですよ。これでさっきのは許して下さいね?では、私達は帰りますのでまた明日です。行きましょうか?」
「あ、ああ……」
先輩を連れてその場から去る。背中に刺さるような視線があるけど無視無視。
「良かったのか?あんな感じで終わって……」
建物から離れた位置で私へ声を掛ける。
「大丈夫ですよ。最初はこっちが攻めようかと思ったんですが、さっきの方が都合が良さそうだったので勝手に路線変更しました、すみません」
「いや、それは全然良いんだけどな。どうしてそうしたんだ?」
「そうですねぇ……脅して従えさせるのも楽なのでそっちでも良かったんですが、なるべくこちらへ牙を向かない様にした方が穏便に済むのかなぁ……と思いまして」
「まぁ、それはそうかもしれないな」
「さっきの感じですと、相当妹さんが大切みたいですし……下手に脅すと暴走しかねないなと」
「そりゃあんな言い方すれば、なぁ?」
「ちょっとしたジャブのつもりだったんですけどね」
「どこがだ。どう聞いても向こうが言う事聞かなければ妹の方を人質に取るみたいな言い方だったろ」
「勿論そんな気はこれっぽちもありませんよ?」
「そこについてはちゃんと分かってる」
「それは良かったです。ま、必要ならしますが……」
「いや、すんのかいっ!」
「あくまで最終手段ですってば。そんな面倒な事しなくてもどうにでもなりますから」
先輩としても妹が人質とか気分悪いもんですしね。
「それよりもっ、この後暇になりましたし、この前付けた発信機の件の続きをしませんか?」
歩きながら隣の先輩を見上げる。
「前のアレか。場所は大丈夫なのか?」
「はい、記録はしっかりと残ってるので大体の特定は可能です。ちょっと歩きますが……」
「歩いて向かうのか?」
「一応通ったルートをなぞって行った方が正確なので」
「おっけい、今から始めるか?」
「そうですね、遅くなっても困りますし行きましょうか」
「了解、そんじゃ案内頼んだ」
「はーい、任せて下さいな。念の為存在操作の方お願いします」
「ああ、しておくよ」
「この先で一旦止まってから引き返してるようですね……」
発信機のルートを辿りながら歩いて行くと、少し進んだ先に建物があった。
中層に出て遠回りするように進んで再び内側のエリアへ戻って内側へ進んで行った。しかも今潜入している組織ではなく、私が敵として見ている組織側の縄張りに向かっていた。
「あの建物へ運ばれたのか……?」
「恐らくはそうですね。それなりに裕福な暮らしをしてそうですが……」
この街の中でも中々の暮らしをしていそうな建物だ。外装は多少劣化していても建物内には明かりが灯っている。しかも家電の光である。
「少なくとも、この街でも上の暮らしをしている建物なのは間違いないですよ」
場所も結構内側の方だし……。
「どうする?入口の前に見張りがいるが……」
「一先ず外周を見て見ましょうか。入れそうな場所があればそこから中へ行きましょう」
「了解だ」
「どこか開いてる場所があればお得なんですけどねー」
建物の入り口と思われる扉の前に一人の男が見張りとして立っている。けど、扉自体は人が通る程の幅しかないので、他に荷物を搬入している場所があるはずだ。
堂々と見張りの男の前を横切りながら建物を観察していく。
三階の備え付けられている窓が開いてるから、最悪そこから入ってしまおう。四階の二部屋に電気が点いているので人がいるはず。それとチラホラと中からも人の気配を感じるね。
半周程建物を歩いていると、裏側に閉じられたシャッターを見つける。
「もしかして、荷物ってここに運ばれたんじゃ……?」
「多分そうだと思います。念の為残りも見て回りましょう」
残り半周も見て回るが、それらしき扉は無かったのでシャッター前へ戻る。
「戻って来たのは良いけれど……」
軽く見るが、シャッターを上げる為にボタンの場所は開閉式の窓があり、鍵が掛かっていた。
「鍵が無いと開かないタイプなのか」
「意外とちゃんとしてるんですね、もっと杜撰かと思ってましたが……」
近場の壁や置物に鍵が隠されてないか調べてみる。
「……んー……、おっ、やっぱりありましたね」
コンクリートブロックの穴の一つの側面に隠されていた鍵を見つける。
「先輩先輩、多分これですよ」
「おお、よく見つけたな」
「今回みたいな管理者が分からない場合にはよくあるパターンですから」
鍵を差し込んで開ける。
「それではシャッターを開けたら先に私が入って中を確認してきますので、少しここで待ってて下さい」
「分かった、気を付けてくれ」
シャッターの開閉の音が周囲に漏れない様にアーティファクトを使ってから上げるボタンを押す。
人一人が通れる程度の隙間に入り込んで中の様子を確認する。
……人は居ないと。当然カメラとかの機器も無し。中身は……車が二台と、物資と思われる箱がちらほら積まれてるね。
どこにでもある裏手の搬入口に見える。
危険は無さそうなので先輩を中へ連れてシャッターを下ろす。
「なんか……こう言ったらあれなんだが……割と普通だな」
どんな想像をしていたのか、不思議そうに中を見渡す。
「ここに九重が怪しいって言ってたのがあるのか?」
「どうでしょうね、無さそうな気がしますが……」
「その心は?」
「人目を避けて運んでいる物をこんな場所に放置しないかなと」
「確かに、それもそうだな」
「ま、物色はしますけど」
積まれている箱の一部を漁る。段ボールやペール缶などがあり、他にも工具や刃物もそこそこ置かれている。
「中身は……おや、調味料ですね」
基本的な調味料だけど、塩が多めかな?それと香料が色々と……。
「……他も似たような物ですね」
どうやら、ここには単純な物資しかなさそうだ。
「残念ですが、ここには目的の物は無さそうですね」
「建物内を探すか?」
倉庫から中へ続くドアを見る。
「そうしましょう。一応見つからない様に警戒しつつ進みましょうか」
倉庫を後にして中へ入る。
ドアの先は、一本の通路……廊下が続いており、すぐ横に階段があった。
「階段があるな……しかも下に行けるみたいだぞ」
「ですね、まさか地下付きの物件だったとは……」
こんな街で地下付きだなんて、建築基準法は大丈夫だろうか?
「どっちから行く?」
「………、まずは一階から順序で探りましょう。地下に行くのは最後という感じでお願いします」
「了解」
正直、一人なら地下を先に行っていたけど……後に回した方が良いかもしれない。
先輩は感じ取っているのか分からないけど、地下に続く階段の方から漂って来る血の臭いに……死の気配がプンプンする。それもかなりの濃さだ。
離れるように一階を探索していく。
「空き部屋や物置部屋がほとんどですね」
一階の探索が終わり、続いて二階へ上がる。
「ここは……住居、ですかね?」
一番人の気配が多いフロアだし、小部屋も多い。生活感があるスペースも見られる。
「三階の方は……」
三階の方を見ていると、奥から何かを調理している様な食べ物の匂いが鼻に届く。
「……ん?なんか料理の匂いがするな」
先輩も感じたのか、鼻でスンスンと嗅ぐ。
「厨房でもあるかもしれませんね」
他の部屋をスルーして一番奥の部屋へ向かう。
「……中に人が居ますね」
少なくとも二人。話し声が聞こえてくる。
「男の声だな」
内容を聞き取る為に耳を澄ますと、どうやら献立の話と……何かの愚痴を言っている感じかな?
「……っ、先輩、離れましょう」
その内容を聞いて、先輩の耳に入る前に手を引いてその場から立ち去る。
「何か聞けたのか?」
「えっと、上の階に居るトップの愚痴について……ですかね?偉いさんは四階にいるみたいです」
「一番上の階か……」
「ここにはもう用は無いので、先を急ぎましょう」
四階を目指すためにスタスタと歩きながら厨房の会話を振り返る。
さっきの男二人の会話……最初はどこの部位の在庫が減って来ているなどの困った様な会話が聞こえたが、口振りからして肉の部位だとは簡単に想像できる。
肉の元についても直ぐに理解出来たし、先輩にも既に軽くは話している。その後の片方の男から『新しいのを下で保存しているから明後日以降も平気だ』と伝えていた。
安心した様子の男から、『注文が細かくて調達するにも一苦労だよなぁ……若くて肉付きのある女とかよぁ……』とため息を吐きながら愚痴を零していた。『昨日はタンと指とかで、今日は脂身の多い部分だろ?んで、明日は骨付き部位とか作るこっちの身にもなってほしい位だぜ全く……』とかなんとか。
前に先輩に冗談で「グルメが~」とか話していたけど、まさか本気で引き当てるとは……。いや、少なくとも人の売買している場所だとは思っていたけど、食する方だとは……。
と、なると地下から漂っていた血の匂いは確実に解体現場だろう。ここに運んでバラす……夜に運ばれていたのは女性の体。生死は不明だが、若い女性だったのだろうね。
つまりこの建物の上に住んでいる偉いさんは、好んで肉を食べている事なのだろう。わざわざ解体所とそれを調理する場所まで揃えているのだからかなり拘りがある人間だ。
……まぁ、こんな街で生きているのだからそういった趣向の人が存在していてもなんら驚きは無いけどね。九重の一族にも同じ趣向の人が過去に生きてたし。
人の生死に直接関わる場所に居ると、稀に存在するらしい。人によって始まりは差異はあるけど、倒した相手を食らうとか、死ぬ直前の極限時に食べた肉の味が忘れられないとか、単純に美味しそうだったとか、理由は色々だった。
だけど、その様な人は人間という種として生きるための枷が何処か外れているのが大体だった。だから危険視される。
下手に実力とコネが存在している為確保出来てしまう。
しかし、一族はそんな事の為に存在しているわけじゃ無いので、その人は消される。
これまでに、二人ほどその対象の殺害をしたこともある。
今思えば、私に対する注意喚起も込めていたのかもしれないなって考えもある。まぁ、可能性はあったかもしれないしねー。
何が言いたいのかというと、上の人には死んでもらいましょうって感じだね。どうせ後で纏めて消えてもらうつもりだからそれが早いか遅いかの違いだし問題は無し。
四階へ上がると、一つの部屋の前に待機するように扉の前で立っている一人の男が目に留まった。
あそこかなぁ……?
目的と思われる部屋を一度スルーして、ドアの開いている他の部屋を覗く。
その中の一部屋に、書類と思われる紙などが机の上に置かれていたので中へ入って内容を見てみる。
「何が書かれてるんだ……?」
後ろから覗くように先輩が見てくる。
「字が汚くて読みづらいですが……帳簿、に近い何かですね」
軽く流し見をしているが、何かの記録に見える。
「多分ですが、物資とかの数を纏めているかと思いますよ」
何のためにしているのかは不明だが、仕入れ状況との照らし合わせとかだろうか?
他にも漁ってみると、他と比べて綺麗な用紙が見つかる。
「これは……」
紙に書かれていたのは、物資の名称と数の一覧が載っていた。
「調味料やら食料……後は武器、ですか」
他のとは字が違うため、別の人が書いている紙なのだろう。
内容をある程度覚えてから元に戻す。それよりも……。
さっきから本命の部屋から聞こえてきているであろう音が気になってしまう。
ドタバタと動くような音と、ドンドンと響くような音がこの部屋にまで届いている。
「なんか、騒がしいな……」
「ですね。模様替えでもしてるんですかね?」
うーん、けどなぁ……この音は、あまり良くない感じがするんだよねぇ……。
何かを殴る様な打撃音にも聞こえるんだよねぇ……これ。
「新海先輩、ちょっと良いですか?」
「どうした?」
「この後、私一人で目的の部屋に赴こうかと思いますので、先輩はこの部屋で待っててもらっても良いですか?」
「ここでか?別に良いけど……何かあったのか?」
「ちょーっと、危険な香りを感じ取ってしまったので、一緒だと危ういかなと」
「……分かった。俺はここで待ってれば良いんだな?」
「なるべく直ぐに戻りますので、少しの間お願いします」
「気を付けてな、危ない真似は控えてくれよ?」
「あはは、善処致しまーす」
少し心配そうな先輩を見ながら外へ出る。ドアを閉め、開かない様に能力で固定する。
目的の部屋の前に立っている男に近づき、膝裏を蹴って崩れた所で頭を掴み、そのままへし折る。
ドアを開け、中の様子を見ると、中から異様なキツイ匂いと共に、奥の方から興奮するような男の声が聞こえてきた。
こちらがドアを開けたのにも気づいた様子もなく、何かにご執着と思われる。
殺した男を部屋の中へ引きづって捨ててからドアを閉め、部屋の様子を確認する。
この街にしてはかなり綺麗な状態の生活感と、調度品がチラホラと置かれており、電気を使った家電がある。
……なんともまぁ、贅沢な暮らしを。
そのまま声のする方へ足を進める。部屋の奥には大きなキングサイズのベッドが置かれており、そこから一際異臭が鼻まで届く。
そのベッドの上で、部屋の主であろう太めの男が興奮した様子で声を上げながら何かを殴るような動作を取っていた。
その様子を後ろから覗いて見ると、全裸の女性に全裸で馬乗りになり、暴行……まぁ、暴行だね。性的も含めて。
真後ろまで来ているのに未だに私に気が付いた様子は無い。目の前の玩具に夢中のご様子。
女性の方は既に悲鳴や抵抗する元気もなく、小さく声を上げている。
……予想はしていたけど、やっぱりそれなりに感じる物があると言えばある。見慣れていた光景なのにね。
サッと部屋の全貌を見るが、気になる物も見当たらないので、死に体の女性に暴行を加えている男の脳天目掛けてベッド横に置いてある照明をフルスイングする。
衝撃でベッドから吹き飛び、転げ落ちる。当たった照明は見事にへし折れて砕け散る。
当の本人は痙攣するように体を震わせて、口からよだれや泡を吹き始めて唸っていた。
放って置いてもその内死ぬと思ってベッドの上の女性を見る。
まだ少し意識があるね。……もう手遅れだけど。
右腕が折れており、指も滅茶苦茶に曲がっている。腹部は異様に凹んでいるので臓器や骨が駄目だろう。血も吐いてるし内出血も酷い。
正直、ギリギリ生きているだけと呼べる状態だった。
掠れるような息が口から漏れているのを見て、楽にしてあげようと手を伸ばすと、その女性と目が合った。
「………」
伸ばした手が止まり、その目を見ていると、微かに口が動く。
「ぁ……ぁ、の 、こを―――」
「あの子……?」
子供……?母親なのだろうか?
伸ばした手を引いて、部屋を見渡す。すると、壁際にそれらしきものを見つけた。
子供程の大きさの……生きていれば人だったんだろうなと思えるほどの損傷の体がそこに落ちていた。
場を見る限り、最後は壁にかなりの力で叩きつけられたんだろうと思える血痕が残っていた。
近づいて様子を確認するが、当然生きておらず、似たような暴行の痕があちこちにあった。
その事を伝えようとベッドに戻ったが、既に母親と思われる女性は息絶えていた。
「………」
それを見て、一瞬感情がざわついたが直ぐに元に戻す。
「今まで嫌と言う程見て来ているのに今更だね」
壁際の子供をベッドに居る母親と寄り添うように置いて手を合わせる。
数秒の黙祷をしてから気持ちを切り替えて再び部屋の中を見る。
「……匂いの原因は、これかな?」
ベッドの頭部の方の棚に置かれていた瓶を手に取る。部屋の中を覆う様な酷い匂い……あまり良くない物なのは確実だろう。
「これは……興奮剤?いや、少し違うね」
過去に似たような匂いを澪姉との実験で嗅いだことがある気がする。
「結構キツイ物だとは思うけど、私でも大丈夫なものとなると……」
そこまで多くの耐性は持って無いので、人体に被害は無いのだろう。多分興奮剤とか精力剤に近い何かのはず。
寝室のベッドで裸で居たのだから、興奮するパターンだと思って捨てる。
「……最後は地下のか」
個人的な趣向の為に確保している場所だ。消し去ってしまっても問題は無いだろう。
燃やしてしまおうと決め、先輩が居る部屋へ一度戻る。
「ただいま戻りましたー」
「おかえり、大丈夫だったか?」
「はい、何事もなく。まぁ、部屋の主は厄介な人でしたが」
「厄介な……っう、九重……なんか変な匂いがするぞ?お前……」
私の服の匂いがしたのか、先輩が顔を顰める。
「ありゃ、ちょっと移っちゃいましたか……あまり嗅がない方がいいですよ」
距離を置くように数歩下がる。
「それで、もうやる事終わったのか?」
「んー……最後の仕上げが残っていますが、一回ここを出ましょう」
「最後の仕上げ?」
「ここも昨日と同じ様に燃やします。危険な物が沢山ありましたので残しておくと面倒ごとになりそうです」
「こ、ここもか……?」
「はい、昨日より徹底的に燃やす必要が出てきました。ですので、先輩にはお外で待っていて貰いたいです」
「……それも、必要なこと、で良いんだよな?」
「そうですね、一切の痕跡も残したくない位には必要かと」
「……分かった。九重が必要と思うのなら従うよ」
「受け入れてくれてありがとうございます」
「それじゃあ、まずはここを出ないとな」
「お連れしますので帰りも付いて来て下さいね?」
文字数が多くなりそうなので、ここらで一区切りと……。