優雅に朝のお茶を一人で満喫していると、寝室の方から人の動く気配を感じ取る。
おや、目を覚ましたのかな?
新海先輩が起きたのに気づき、テーブルの上に置かれている朝食を手に持って台所に向かう。
「~♪~~♪」
鼻歌を歌いながら朝食の準備を進める。
「……お、おはよう」
後ろから起きて来た先輩が声をかけてくる。
「あっ、おはようございまーす。よく眠れましたか?」
「あ、ああ……眠れたと、思う……」
「丁度朝ご飯を準備しているので、顔でも洗って来て下さいねー」
「わ、分かった……」
私に対して何かを言おうか迷っているようだが、取りあえずは従って洗面所へ向かって行った。
「別に気にしないで良いですのに……ふふ」
お湯で温めた物の封を開けて紙の器へ移していく。
「お味噌汁と……これは海苔?」
棚に置いてある海苔が目に入り、使うか分からないけど取りあえず用意しておく。
「何か、手伝える事とかあるか?」
洗面所から戻って来た先輩が訪ねてくる。
「では、これらをテーブルに持って行って貰っても良いですか?」
「了解、って……お粥か?」
「一応病人でしたからね。消化に良い物を選んでみました」
あれ?それなら海苔って消化に時間が掛かった様な……?まぁいっか。
「なるほど……」
「梅と玉子味があるので、お好きな方を選んでください」
「なら……梅の方を貰おうかな」
「海苔とかもあるので、必要ならご自由にどぞどぞ~」
「サンキュー」
味噌汁の方も用意してテーブルへ並べていく。
「それじゃあ食べましょうかっ」
「ああ、作ってくれてありがとな」
「いえいえ、レトルトを温めただけですので!いただきますっ」
「いただきますっと」
手を合わせてお互いに正面のご飯を食べていく。
「そう言えば、食欲とかありますか?体調の方は……?」
見た感じ問題無さそうだけど……。
「いや、食欲は普通にあるぞ?体調の方もいつも通りだと思う」
「それなら良かったです。もし足りなかったら言って下さいね?おかわりくらいなら幾らでも用意できますので」
「多分これで足りそうな気がするが……もしそうだったらお願いするわ」
「あーい」
食べながら気づいたけど、私もお粥を食べる必要あったかな……?いや、片方だけ別物を食べるのってなんか変だし……同じ席に居るなら同じ物を食べるのが普通だよね?
ちょっと味が薄いけど、そこは海苔を食べながら味のバランスを取っておく。あと味噌汁が普通に美味しい。
「ごちそうさまです」
「ごちそっさん」
「では片付けますね~」
「俺がやるよ」
「先輩は病み上がりなんですから座ってて下さい」
「いや、もう大丈夫だって……」
「そういう時が一番危ういんですって、そいっ」
立ち上がろうとした先輩を能力で椅子に縛り付ける。
「―――!?って、おまっ……そこまでやるか!?」
「私の言う事を聞かないからですよ、大人しくしてて下さい」
ササっとテーブルの容器を回収してゴミ箱へ運ぶ。
「何か飲みますか?と言っても、水とお茶……あと紅茶ですけどー」
「……それじゃあ、お茶で」
「了解ですです」
「あと、そろそろ解いてくれ。大人しくしとくから」
「はーい。温かいのと冷たいのどっちが良いですか?」
能力を解いてから先輩へ確認する。
「冷たいので頼む」
「冷たいのですねー」
私は温かいのを飲むので別で作る。
「どうぞ、えと……んー……あっ、アルカリイオン水ですっ」
「無理にボケようとしなくても良いからな?」
「なんか先輩とのこのやり取りの時は毎回しなきゃって使命感がありまして……」
「ま、言いたい事は分かるけどさ……さんきゅ」
席に着いて淹れたお茶を飲む。
「はぁ~、落ち着きますな~」
「おばあちゃんみたいなことを言ってるぞ」
「なっ!?私がおばあちゃんなどなんてしつれ……いえ、否定は出来ませんね……くっ!!」
「いや、否定しろよ」
「誤魔化すのにちょっと葛藤がありまして……それよりっ!女性にそんなデリカシーの無い事を言わないように!断頭物ですよ!」
「すまんすまん、なんか滅茶苦茶様になってたからさ」
「そんな雰囲気出てましたか?おばあちゃん属性出てましたか?」
「おばあちゃん属性ってなんだよ……まぁ……、何となく?」
「ふーむ、お茶を飲んで気が緩んでしまったのかもしれませんね……」
こう……体が温まって来る感覚が……温泉と似ていると言いますか……。
「ま、どこからどう見ても清楚で可憐でか弱い美少女ですけどねっ!!」
胸に手を当ててドヤ顔をする。
「あーはいはい、か弱いか弱い」
「適当ですねぇ……」
想定通りの反応を見ながらお茶を飲む。ふぅ……美味しぃ。
「その……九重?」
会話が途切れ、沈黙が訪れたと思ったら先輩の方から遠慮気味に話しかけてくる。
「はい?なんでしょうか?あ、もしかして昨晩の件ですか?」
「あ、ああ……そうなるな……」
どうせ態度から内容は予想付くのでこちらから話題に出す。
「昨日の夜の件は……そうですね、治療ですのでお気になさらず。それ以上でも以下でも無い。それがお互いの為にも良いかと思いますが……」
お茶を飲みながら答える。
「……分かった。そっちの方が……助かる」
「他の皆さんには……大人しく怒られるとしましょう」
「多分怒らないと思うけどなぁ……」
「そうですか?んー……確かに最終的には許してくれそうですが……」
香坂先輩、天ちゃん、結城先輩、九條先輩の順で大丈夫そう……。その後の新海先輩との行為は嫉妬で激しめになりそうだけどねー。
「それと……助かった、ありがとな……?」
恥ずかしさと気まずさが混ざった様な表情と声でこちらへお礼を言う。
「……ふふ、どういたしまして?」
これでこの件については終わりで大丈夫だろう。
「話も一段落した事ですし、今日からのご予定を話し合いましょうか」
「何か分かったのか?」
「分かった……ではありませんが、気になるのが少々って感じですね」
「気になる事……?」
「まずは昨日の燃えた建物の跡地を見に行きます、それから荷台が帰った場所へ赴きます。どうやらあの二ヶ所で色々と取引をしていた記録がありましたので」
「荷台の……結局、何を運んでいたんだ?」
「……まぁ、そうですね、食料と言えば察せますか?」
「……あ、ああ、そう言う事か」
「反対に、見返りは外から運ばれてきた食料や武器を渡していたみたいです」
「ということは、荷台の元の場所には武器や食料が戻って行ったのか」
「そうなりますね。そこそこに対立しているかと思っていましたが、一部ではコソコソとやり取りをしているようです」
「今度はそこを調べるって感じか」
「その予定ですね」
「動くのは夜からか?」
「あー、それについてなのですが、先輩の方は安全をとって今日一日安静しておきましょう」
「安静って……もう治ってると思うんだが……?」
「念のためにですよ」
「そう言われると……言い返せないな。でもそれだと九重一人で動くことになるぞ?」
「確かに先輩を連れて来た意味が薄れてしまいますが……まぁ大丈夫でしょう」
詳細は後で話せば良いし。
「ならいいけど……」
「一先ず、お昼までは何も予定は無いのでこのままダラダラと過ごしましょう。あ、一応食後のお薬も飲んでおきましょうか」
「……だな、念には念を入れておかないとな」
「その通りです!」
「ふぅ……」
九重が出て行き、一人寝室で一息吐く。
「ぁあ~……なんつーか……やっちまった感がやべぇなぁ……」
顔に手を当てながら落ち込むように呟く。
昨日の調査に付いて行ったのは良いが、何か変な薬の影響でおかしくなってしまった。九重が言うには、媚薬?みたいな興奮剤って言ってた気がするが……正直、記憶が若干あやふやな部分がある。
例えるなら……春風の能力を受けた時みたいな感覚。
しかも自分でどうにか制御しようとしたけど、どんどん酷くなっていきどうにもならなかった。
「九重をあんな目で見て……しかもそのせいで……」
あいつ自身は自分が原因でとは言っていたが、あんなことをする義理も無いだろうに……。
「……はぁ、いや、今はそれを考える時じゃないな。それよりも……」
もう過ぎてしまっているのだからどうしようもない。もし何か問題が起きたらオーバーロードを使ってやり直そう、うん。
「九重の……生まれ育った場所、か……」
ベッドに寝転がり、思い返す。
説明されていたより遥かに……恐らく軽めに茶化して説明をしていたのだろうけど、俺の中にある常識が一切嚙み合わない……で合ってるのか分からないが、知らない世界だった。
まず前提条件として、この街では人の命は物凄く軽い物なのだと直ぐに認識させられた。きっと、食べ物や飲み物よりもずっと軽いはずだ。じゃなきゃ人が食べ物の代わりとして成る世界なんてありえない。
それと一緒に、暴力や人を殺すと言う犯罪行為などもあちこちで起きているんだろうな。……そして、九重もそれに対して特に深い感情を持っている様には見えなかった。もしかすると、俺に気付かれないように上手く隠しているかもしれないけど。
「仕方ない……のかもな」
こんな場所で生まれ育てば、その常識が普通だと身に付く。分かり易く言うのなら……家庭ごとである家訓やルールが他所の家では違ったみたいな……いや、流石に微妙に違うか?
問題は、俺にこれらを見せて何を知ってほしいのか……それを知る必要がある。それは多分、俺にしか出来ないはずだ。
「実家関連のごたごたを他の枝でも片付けて欲しいだけなら、ここまでの事はしないはずだしなぁ……」
俺が知っている九重なら、絶対に関わらせないはずだ。それでもこうやってわざわざ足手まといの俺を連れてまでこの街で動いているって事に何か大事な意味があるに違いない。
「………」
……俺が九重という人物を知ることにどの様な意味と変化があるのだろうか?俺が知りたいって言ったから教えてくれるだけ?それなら口で話すだけで充分のはず。直接見せる必要とかあるのか?
「なんだかなぁ……嫌われるようにしている感じがあるんだよなぁ……」
距離を置いて貰おうとしている、とでも言うのだろうか?九重から見せられたり説明をして貰ったりした中で、わざと俺が……いや、一般人の常識として禁忌感を反射的に感じてしまう事を教えている、そんな気がする。
「それをして自分から離れて貰おうかとしている、のか……?」
それこそ、この枝じゃなくて他の枝で……?自分と関わると危ないって教えるためにか?
「……違うな」
やっぱり、俺に何かを伝える為。この可能性が一番高いはずだ。じゃなきゃ命の恩人である人の墓に連れて行く意味が分からない。
「今の騒動が終われば……全部聞き出すしかないか」
もう一人の大事な人と言っていた人の事も。そして、九重自身はどうしたいのかを……。
「そこまで周囲への引火はしてないんだねぇ」
先輩を拠点に残してから一人で昨晩の建物の経過を確認しに来た。建物は全焼しており、今も周囲に人が居て連絡の為だろうか駆けまわっている人もチラホラと見えた。
近くの建物三つ程を巻き込んだ火事だけど、鎮火するまでが早かったのかな?燃える物が無かった?幾らでもありそうだけど。
それらを離れた建物から見下ろしていると、他の人とは違って身なりの良い男の人が現れる。
「……ふぅーん、まずは一人目かなぁ?」
この街の人間では無い事は確実だろう。しかも、歩き一つ取ってもそこらに居る人間とは格が違う……私が良く知っている雰囲気だ。
見覚えは無いけど……一ノ瀬家の人間だねあれは。
昨日の火事で呼ばれたのか、自発的に見に来たのかは知らないけど何やら建物内の調査の指揮を執り始めていた。
「気付かれないようにささっと退散しておこうかな」
あそこにいる人がその程度の実力を持っているのか正確には分からないけど、ここに派遣されるくらいには信頼のある人間と思って良いのだろう。それか、捨て駒。
「纏ってる雰囲気的に前者だと思うけどねー」
ハットリさんから聞いた情報では少なくとも数人は居るって言ってたし……。
この街で最も警戒しておかないといけない人らの一人を早速見つけたので、バレない内に立ち去って今度は情報屋の場所へ向かう。
「お邪魔するよ」
相変わらず錆びた金属の扉を開けて中へ入る。
「……あんたか。今日は連れはいねぇのか?」
「彼は少し体調を崩してしまってね。それより、今大丈夫かい?」
「なんだ?」
「気になった事をが幾つかと情報を渡そうかと思ってね」
「……言ってみろ」
「この街の中に、外の番犬達が歩いているらしいのだけど、既に知っているのかい?」
「目撃情報ならあるな」
「それと、昨日ボヤ騒ぎがあったみたいだね、相手さんの組織で……」
「んなこと既に耳に入ってるに決まってるだろ」
「そしてそのボヤ騒ぎが跡地で内部の確認の指揮を執っている人が居たそうだ」
「はぁ?何が言いた―――ああ、なるほど」
「あれが外の戦力に対抗出来る存在ってことだね?」
「さぁな。俺も詳しくは知らねぇよ」
「既に私の方でも数人は確認しているのだけれども、どの程度抱え込んでいるんだい?」
実際は一人だけど。
「だから知らねぇって言ってんだろ」
「それじゃあ、外から来たその人らがどこの人で、何を目的に動いているのか……気にならない?」
「……聞くだけ聞いてやる。言ってみな」
「鬼の一族の一家。目的は……そうだねぇ、下剋上とかかな?とある一家の没落、とか?」
「……てめぇ、どこまで知ってるんだ?」
「知っていることしか知らないよ?偶々耳にしたのさ」
「……何が知りたい?そっちの目的を聞かせろ」
「ふふ、察しが良くて助かるよ」
「御託は良いから要件を言えって言ってんだろ」
「そうだね、まずは……そっちの組織のトップと面会をしたいのだけど、可能かな?」
情報屋での件を済ませ、一度先輩の様子を見に拠点まで戻ってから再び夜になって外へ出る。
今度は、一応夜になったのでいつもの集合場所である倉庫へと足を運んだ。
「こんばんわ……って、君だけ?」
中に入ると、フードを被った少年が壁にもたれ掛かっていた。
「もう一人はどうした?」
「彼は体調を崩しちゃってさ、少し安静にしてもらってるよ」
「お前ら、昨日の夜はどこに居たんだ?」
「昨日の夜?ここより外側を歩いていたけど?……あ、もしかして昨日火事があったって話?」
「……知ってることがあるなら話せ」
「いや、歩いている時に街の人が話しているのを耳にしたって位しか知らないよ?結構燃えたらしい、とか……?」
「ちっ、何も知らないのかよ」
「それより、もう一人の人は……?」
「……あいつはお守りで今日は来ないからな」
「お守り……?」
「上の人間に呼ばれただけだ。お前には関係ない話だ」
……なるほどなるほど。昨日の火事の件で自分の身が心配になった人が護衛として呼んだ……とかで良いのかな?てか、めっちゃ喋るじゃん。前より会話に応じてくれるし、何か心境の変化でもあったのかな?
「そっかそっか、それじゃあ今日は何かある?」
「昨日の件のせいで今日は無い」
「りょーかい。そんじゃ解散かー……」
今日の内にやりたい事があったし、好都合かなー。
「待て」
用は無くなったので、出て行こうと踵を返そうとすると、呼び止められた。
「ん?何かあった?」
「……お前、昨日渡したやつ、まだ持ってるのか?」
「昨日……ああ、あのお菓子かな?一応もってるけど……?」
「それを寄越せ」
「寄越せとな……何、食べたいの?美味しかったの?」
「っ!黙って俺に渡せって言ってるだろ!」
おぉ、急に激おこしちゃって……まぁ、良いタイミングで来たのは確かだね。
「まー……良いけどさぁ」
アーティファクトを起動し、ポケットに入れてあるお菓子を取り出す。小腹空いたら食べようかなと考えて持ってたけど。
「はい、二つ。ちゃんと妹ちゃんにも渡してね?」
「黙れ。そもそも俺が欲しいわけじゃねぇからな」
「それは失礼」
となると、妹の方が要求してきたのかな?そのためにわざわざ私に言って来るとか……健気だねぇ。
「欲しいなら明日も持ってこようか?まだ多少なら渡せるよ?」
「……明日決める」
「りょうかい」
少しだけ、私に対しての警戒心が緩んだね。やっぱり食べ物で釣るのが一番効くんだよねぇ……私もそうだけど。
こんだけ楽なら、明日は別のお菓子も持って来てあげようかな?出所を怪しまれるから多くは出来ないけど。
お菓子を手に入れた少年は、用が済んだと言わんばかりにここを去って行った。……いち早くお菓子を渡しに行ったのかな?
試しに使って見たけど問題無く行けたので、残された私も建物から出る。
「さてと、発信機を回収に行きますか」
ここに来る前に確認したが、あれから荷台の移動は無いみたい。運ぶ先が燃えて無くなったのだからそれはそうだろうね。
「………」
なんだか一瞬、変な予感が働く。
……もしかして、今日あの侍さんを護衛に呼んだのって……荷台の元の人物とか、あり得るのかな?
昨日燃やした建物の人間が、こちら側の組織と密かにやり取りをしている。それが荷台の件、そうなると取引していた自分の方にも何かしらの被害が飛んで来たり……?みたいな予想で護衛を頼んだ?うーん、ちょっとあり得そう。
というか、こう言った時の出来事ってなんやかんやで繋がっている場合が多い。少しは昨日の件が関係しているとは思う。
「……遭遇しないように気を付けないとね」
もし万が一出くわしたら面倒だしなぁ……。新海先輩連れて行こうかな?ま、大丈夫でしょ。最悪目撃者ゼロになってもらおう。
先輩に心配させないように少しでも早く帰ろうと決め、目的地へ向かった。
若干翔との気まずさが無きにしも非ず……な主人公単体での行動ターンです。
五章の物語も中間を過ぎた辺りですので、この辺はサクサク進めて行こうかと思います。
次回は夜の調査と……五日目とかですかね?次回はちょっとしたハプニング?でも追加してみようかと。