9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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この作品では初めての英語文字を使用してみました。意味は……まぁ、主人公の名前と掛けてるだけですね、はい。

まともな戦闘描写は今回で最後かな……?いや、白巳津川サイドがまだあったか……。




第30話:Dancing Night

 

 

「それじゃあ、先輩はそれを着たままで居て……死体の代わりはレナにして貰いましょうか?」

 

「はいはい、分かったよ。俺はここで寝てれば良いんだな?」

 

「お願いしますね?なるべく死体っぽく横になっていて下さい」

 

「死体っぽくってなんだよ……」

 

九重の指示で俺を装ったレナが地面に倒れる。まだ戦闘が続いているのを向こうに知らせる為か、敵から奪った銃を適当に撃ちながらも俺達と話す。

 

……なんか、この状況にも少し慣れて……はいないけど、順応してきている気がするな。あまり良くないけど。

 

「私はこの先の行き止まりで死体のフリをしますので、先輩はさっきの人に報告しに行って貰っても良いですか?」

 

「一応ここの服装をしてるけど大丈夫かこれ?バレないか?」

 

「この人たちは恐らく使い捨ての駒ですし、一々全員を覚えているとは思えないので大丈夫ですよ。後は堂々としていれば問題ナッシングですっ」

 

「……まぁ、頑張ってみるさ」

 

「駄目だったらサクッと次の方法で行きましょう」

 

「ああ、気負いせずに行くよ」

 

九重と一旦別れ、暗闇の道をゆっくりと進んで行く。道中に先ほどの戦闘で倒した人らが居たが、それらを見ない様にして先へ進む。

 

「おいっ、誰かいるのか?」

 

突然の声に反射的に体が止まる。

 

……今の声は、さっきの案内人の男の声だな。

 

これから進もうとした先から音がしたので気を付けながら小走りで向かう。

 

「………、終わったみてぇだな」

 

逆光で少し分かりづらいが、俺の姿を見て安堵するように笑う男が目に入る。

 

バレない様にとなんとか取り繕って男との会話を続け、何とか作戦通りに事を進めて行く。

 

「終わったら報告しに来い」

 

そう言って九重を連れてこの場を去って行く。

 

……よし、動くぞ。

 

その背中が見えなくなったのを確認してから、アーティファクトで気配を消して後を尾ける。

 

これまでの道とは違う場所を通りながらも迷う素振りも無く目的の場所へとたどり着く。

 

「さてと、部屋は奥の一つ前だな」

 

以前連れられてきた場所より少し大きめの建物らしき場所へ出て、前方の男が扉をノックする。

 

中から返事がしたが、少し待ってから中へ入って行く。

 

……よし、運よく入口は開いてるな。

 

人一人分の隙間を入り込み、部屋の隅っこで大人しく待機する。

 

後は、九重がどう動くか……だな。

 

目的は既に達成してる。部屋の中には前回会った組織のトップの男と、その護衛らしき執事の男が立っていた。

 

話を聞いていると、俺達を殺した証拠の隠蔽をするらしい。このことが他にバレると不味そうな雰囲気が漂っている。

 

……いつまでそのままで居るんだ?もしかして相手から何か情報でも聞き出そうと待ってるのか?

 

未だに動き出そうとしない九重を少し心配しながらも待つ。

 

話が終わったとばかりに九重を担いでいる男が部屋の外に向かおうとする。

 

一応俺も付いて行った方が良いのか?このままだと中に取り残されるよな?

 

取りあえず付いて行く為に動こうとすると、漸く九重が動き始めた。その声を聞いて、俺以外の全員が驚いた表情で九重を見る。

 

……ま、死んだと思っていた人間から声がしたら誰だってそうなるよな。

 

少しだけ相手側に同情の気持ちが湧き出てくる。

 

「……一応聞いておくが、さっきまで死んでいたはずだよな?」

 

トップの男が確かめるように隣に立つ護衛に聞く。

 

「ええ、間違いなく。確かに死亡しておりました」

 

そう返事をして男を守るように前に立つ。

 

「……っ!?くそっ!嵌められたのかよっ」

 

案内をしていた男がこの状況に文句を吐き捨てながらも九重から距離を取る。

 

「さてさて、無事ここまで案内してくれて助かったよ。意外と面倒くさそうな道のりだったからね?ありがと」

 

「―――ッ!?」

 

九重から距離を取ったと思ったが、くるりと振り返った瞬間に男が入口の扉を突き破るように吹き飛んで行った。

 

「乙女の体を足で無下に扱ったお返し」

 

バラバラと崩れ落ちる壁や扉を一瞥してから正面に向き直る。

 

過程の動きが全く見えなかったけど、九重がさっきの男を蹴った事だけは結果として分かった。

 

『……先輩、居ますか?もし居るのでしたらそのままでお願いしますね?』

 

「……?」

 

俺に対して普通に話しかけているが、相手側は特に反応している様子は無い。……多分、俺だけに聞こえるようにアーティファクトで調整しているんか?これ。

 

「随分と好戦的な挨拶だな」

 

「ふふ、それはこっちの台詞だと思うけど?か弱い乙女に大の大人をあれだけ差し向けといて」

 

「もう一人の男はどうしたんだ?連れて来ていないのか?」

 

「それを貴方に話す必要はあるのかな?これから死ぬって言うのに……」

 

「……ちっ、やっぱりそうかよ」

 

「まぁ、先に仕掛けて来たのは素直に褒めても良いかもね。こういうのって先手取るのが常套だしさ」

 

「……冥土の土産に聞いておきたいんだが、どうやってあの場を乗り切ったんだ?」

 

「どうもこうも、普通に正面から乗り切っただけ」

 

緊張感が漂う中、問答が続く。

 

「……今からこの場をお開きにする気は?」

 

「ふふ、残念だけど無いよ?」

 

「……そうか」

 

「ところで……そろそろそっちの準備は出来た?」

 

「……おい、やれ」

 

「どうやら逃がしてくれそうにも無い……仕方ありませんね」

 

「私に背を向けて逃げれる自信があるのならご自由にどうぞ?」

 

『先輩、今からこの護衛の男と戦って来ます。先輩は後ろの男の監視をお願いします。逃げだしそうなら倒しちゃっても大丈夫なので』

 

「ここでは少し手狭ですし、場所を変えましょうか」

 

そう言った九重がその場で前方へ足を踏み込む。

 

「っ!?」

 

地震が起きたかと思う様な揺れと共に、男たちが居る方の部屋が床から捲れて宙に浮かび上がる。

 

護衛の男がその衝撃に体勢を崩しながらも、即座に後ろの男を安全な方へ投げ飛ばす。

 

「読み通り。では行きましょうか!」

 

バランスを崩した護衛の男へ向かって更に接近して後ろの壁ごと建物の外へ吹き飛ばしてから自身も飛び出して行った。

 

その姿を崩れた部屋の壁から見るが、既にその姿は見えなくなっていた。

 

「ぐぅ……!」

 

その少し横で、先ほど投げ飛ばされたトップの男が痛がるように体を起こす。

 

「化け物が……。だが、これで時間は稼げる」

 

「……待て」

 

この場から立ち去ろうとする男を呼び止める。

 

「ッ!?やはり付いて来ていたのか……!」

 

突然後ろに現れた俺に驚愕の表情を浮かべながらも対峙する。

 

「だが、お前だけならまだ可能性はある……」

 

懐を弄るように手を入れる。

 

―――銃か!

 

そう判断した瞬間に男が懐から手を出す。その手には黒く光る拳銃が握られていた。

 

咄嗟にその銃をアーティファクトの力で奪い取る。

 

「これで―――っ!?なっ……!?」

 

「……これが本物か」

 

想像していたよりも重い拳銃を手に持つ。金属の塊だし当然だよな。

 

「動くな」

 

手に持った拳銃を男へ構える。

 

「俺の銃……!?一体どうやって……っ」

 

混乱するように取り乱す男へ一歩距離を詰める。

 

「これ以上の抵抗はせずに大人しくしていてくれ」

 

「……っ、く……いや、撃てねぇだろ?お前には」

 

焦る様な表情から一変、こちらを挑発するような声に変わる。

 

「構えや姿勢からして素人丸出しだ。だから詰める必要の無い距離まで詰めてんだろ?脅す為に」

 

「………」

 

俺が撃ったことの無いのを直ぐに見抜き、逆にこちらを煽る。

 

「何なら人を殺した事も無いだろ?震えてんぞ、持ち手が」

 

確かにそうだ。銃を持ってそれを人に向けるだなんてこれが初めてだろう。しかも玩具じゃなくて本物の。

 

「……だけど、そうだな。お前の言う通り大人しくしている。ほら、両手もあげて壁際で座ってるさ。これで良いだろう?」

 

「………」

 

さっきとは裏腹に、素直に壁際まで動く。その行動が怪しく思い、目の前の男の記憶を読む。

 

……なるほど、ね。

 

「さぁ、言う通りにしたぞ?」

 

「……はぁ」

 

その様子を見て、向けていた拳銃を下ろす。

 

「―――っ!」

 

その瞬間、座ろうとした男が入口へ向けて走り出す。

 

「レナ」

 

「まぁ、そうなるよな」

 

「なっ!?」

 

入口を越えようとした時、廊下側からレナが立ち塞がる。

 

「クソ……まだ伏兵が居たとは……っ」

 

「いやいや、外の連中が来ない時点で想像出来ただろ」

 

「レナ、他の部屋の前に居た人達は?」

 

「全員その場でくたばってるから安心しな。てかよぉ……舞夜の能力ってつくづく便利だよな。敵を動かさず音が漏れることなく楽に倒せるんだからよ」

 

「全員……通りで誰も来ないわけだ」

 

こちらの会話を聞いて口惜しそうに答える。

 

「つーわけで、てめぇも寝てな」

 

「―――っ!!」

 

レナの言葉に咄嗟に動こうとするが、既に能力で身動きが取れなくなっていた。

 

そのまま抵抗出来ずに攻撃を食らってその場に崩れ落ちる。

 

「すまん、助かった」

 

「良いって事よ。荒事はオレに任せな?その為に散々しごかれたんだからよ。それよりもこいつを適当に縛っておいてくれ。起きて逃げられても面倒だろ?」

 

「……だな」

 

適当に幻体で縄を生み出して男を厳重に縛り付ける。

 

「取り敢えずこんなもんで良いか」

 

「んで、この後はどうすんだ?特に聞いてねぇけどよ」

 

「多分、九重の決着待ちになると思う。そんなに時間は掛らないとは言ってたけど……」

 

「そんじゃ、オレらは観戦でもしとこうぜ。一応こいつらも見張りはしておくけどな」

 

「……だな、大人しく待ってるか」

 

レナと一緒に九重が飛び出して行った場所から外を見る。

 

俺達が男を捕まえていた間にも外では時折爆発音や建物が崩れるような轟音がここまで聞こえて来ていた。つまりはまだ続いているって事だ。

 

どの辺りまで場所を移したのだろうと周囲を見ていると、丁度すぐそこの建物の屋上に何かが勢いよく落ちた。

 

舞い上がる砂塵や煙が晴れると、床へ膝を付く護衛の男と、それを見下ろす様に立っている九重が僅かに見える。

 

「丁度戻って来たみてぇだな」

 

「ああ、恐らく勝負は付いた感じだな」

 

外は暗く、周囲にある灯りで何とか見えるが、少なくとも九重の勝利で間違い無いだろう。

 

その様子を見ていると、向こうもこちらに気が付いたのか顔を向ける。

 

その瞬間、膝を付いていた男がこちらに手を伸ばす。

 

「下がりな、大将」

 

レナが俺を横へ一歩押し出して何かを掴み取る様な動作をする。

 

「なんだこりゃ?針……?暗器か何かか?」

 

レナの手に握られていたのは、ペン程の大きさの針の様な何かだった。

 

「……今、こっちに向かって攻撃をして来たって事か?」

 

「みてぇだな。ま、オレには見え見えだったけどよ」

 

二人の方を見ると、九重がこちらに向かって両手を上げて丸を作っていた。

 

「……ハッ、合格って言いてぇのか?ありゃ」

 

俺への攻撃が失敗した男は、静かに立ち上がり九重と対峙する。それを迎え撃つように九重もゆっくりと構える。

 

そこからの戦いは、最早俺の目には追う事すら出来なかった。横に立っているレナは笑う様な表情をしているが、その顔は呆れも含まれていた。

 

ただただ、映画やアニメのワンシーンを見せられている様な光景が目に映っていた。

 

それでも俺は、その光景が何故か綺麗だと思った。

 

暗い夜を空から照らす様に月が見え、その下で戦う九重……。男の攻撃を流れるような動きで捌き切っている様に見える。相手の男は次第に押されて行くが、必死に押し返そうと抵抗を続ける。それに合わせて更に九重が攻撃をして行く。

 

そのまま終わるかと思ったが、男が逸れるように横へ跳んで行った。側面から仕掛けるように動くが、それすらも防いでいる。

 

演舞……と言うのがピッタリなのかは分からないけど、テレビで見た事のある光景が頭に思い浮かんだ。

 

吸い込まれる様な姿をもっと目に止めて居たい。そう感じていたが、長くは続かなかった。

 

九重が動き―――男とすれ違った。

 

背中を向けたまま構えを解くと、男がその場に崩れ落ちる。

 

「どうやら終わった様だな」

 

「そう、らしい……」

 

戦闘を終えた九重がこちらに向かって大きく手を振る。それに応えるようにこちらも手を振り返す。

 

「お疲れ様です!そちらも首尾よく進んだようで何よりですっ!」

 

建物の屋上からこちらに飛び移り、嬉しそうに話す。

 

「まぁな。そっちも上手く行った感じだな?」

 

「はいっ」

 

「オレとしちゃもっと簡単に決着が付くと思っていたんだが……相手はそんなに強かったのか?」

 

「あー……いえ、先輩達の方が安全だと確認出来たので、少しばかり私の方も楽しませてもらったと言いますか……」

 

「どういうことだ?」

 

「えっとですね?相手はかなり有名で強い人らしいので、どの程度強いのかと気になってしまいまして……私もそれなりに強くなっているのでその……」

 

「つまり、実力を確かめたかったと……?」

 

「はい。最初はバリバリ攻めていたんですが、こちらへ来た辺りからは自分の力のみで戦っていました」

 

「なるほど、なぁ……」

 

だから少し長引いていた訳か。

 

「その、なんかすみません」

 

「いや、別に問題無いし大丈夫だろ。九重も自分の力がどの程度通じるか試したかったんだろ?」

 

「はい、やっぱり強くなった事を一応確認しておきたかったと言いますか……」

 

「それなら俺らの方からは特に何もないから気にしないでくれ」

 

「ま、大将がそれで良いんならオレも何もねぇよ」

 

「ありがとうございます」

 

「けど九重って、師匠のじいさん?と少し前に戦ってなかったか?」

 

「あー……そうですね。ですが、あれは論外と言いますか……比較対象としては参考にならないと言いますか……、人の枠からはみ出てますし」

 

あはは……と苦笑しながら頬を掻く。なんだよそれ……いや、確かに九重の右手に結構な重傷を負わせてたな。

 

……あれ?今の九重に対してそれって、かなりヤバい人なんじゃ……?

 

「えっと、一応念のために聞くんだが……アーティファクトとかって使ってなかったんだよな?」

 

「え?当然使ってましたよ?まぁ、自分の体を守るために使用していましたが……」

 

「お、おう……そ、そっかぁ……」

 

それでもって……どんだけ強いんだよぉ。

 

今更ながら九重の家族がどれ程ヤバいのかを実感してしまう。しかもその下にも数人居るんだろ?どんな一家だよ……。

 

「まぁまぁ、それでもアーティファクトを全力で使った先輩には敵いませんって!」

 

「いやいやいや、勝てる気がしないんだが……?」

 

そもそも相手になる機会とか無いから要らない心配だけどさぁ……。

 

「ふふ、やってみないと分かりませんよ?……っと、それよりも先輩らが捕らえた人はどちらですか?」

 

「ん?ああ、入口近くで気絶させて縛ってるよ」

 

「了解でーす」

 

すたすたと歩きながら部屋の入口へ向かう。

 

「大将、そろそろオレは消しても大丈夫だろ?」

 

「だな、助かったよ。お疲れさん」

 

「また必要になったら何時でも呼びな」

 

「そうさせてもらうさ」

 

役目を終えたレナを戻して一息つく。

 

「お待たせしましたっ!やることも終えましたので去りましょうか!」

 

「……そうだな。帰るか」

 

九重が何をする為に向かったのか理解しているが、それを追求せずに返事をする。俺も今日は少し疲れた……主に精神的に。

 

「お疲れ様でした。帰るまでが遠足ですが、取り敢えず此処は大丈夫でしょう!」

 

「九重もお疲れ。怪我とかは無いか?」

 

「傷一つ無い綺麗な体のままなのでご安心をっ!」

 

その場でくるりと優雅に回る。

 

「なら良かった。……そんじゃ、帰るか」

 

「はいっ!帰りは私にお任せを!……と言いたい所ですが、忘れ物と言いますか寄り道が一つありました」

 

「寄り道?」

 

「始末すべき人がまだ居たのを思い出しまして。ほら、荷台を運んでいた建物の人です」

 

「……あ~……」

 

「ですので、延長戦と行きましょう!」

 

「そこは大丈夫なのか?」

 

「ん~……居るとしたら、倉庫で会っていた刀を持っている人が居るとかですかねぇ?」

 

「……あの男の人か」

 

「まぁ、敵では無いので気にしなくて大丈夫ですよ。ではでは、行きましょう!」

 

「……ま、大丈夫か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げっ!早くそこの荷物を積み込むんだ!」

 

この街では一段と裕福そうな服装の依頼主が周囲へ怒声を飛ばす。

 

「わぁーってるよ、ったく……いきなりなんだよ……」

 

それとは反対に、護衛として呼ばれたはずの男がめんどくさそうに荷物を車へ積み込んで行く。その腰には刀が差されている。

 

「昨日の今日でこちらにも魔の手が伸びてきているんだっ!悠長にしていれば私の身が危ないんだぞ!?」

 

「何も聞かされていない俺からすれば、知らねぇって話だけどな」

 

「よしっ!全部載せたな?おいっ!さっさと出せ!」

 

焦るように助手席に乗り、運転席に指示を飛ばす。それを聞いて自分も積まれた荷物の上に乗り込む。

 

「急げ……!この瞬間にもここに来ているかもしれないからな……!」

 

「それはそれで面白そうだけどな」

 

走り出した車の中、積まれている荷物の上で退屈そうに頬杖を付く。

 

「このまま反対側に行けばっ……!」

 

「……ん?前方の道に人が居ますね?」

 

ハイビームの光の先に人影らしきものが映り、運転手の男が首を傾げる。

 

「こんな時にどこの馬鹿が……!」

 

何事かと思い刀の男が前方を見る。

 

「あいつは……例の女だぜ?」

 

「何っ!!?クソッ!もうここまで……!スピードを上げろっ!そのまま轢き殺せっ!!!」

 

依頼主の言葉に全力でアクセルを踏み込む。

 

「死ねっ!!死ねーーー!!」

 

「避けられて終わりだろ……普通」

 

道のど真ん中で立っている少女との距離がみるみるうちに縮まり、その距離は目の前まで迫っていた。

 

「殺せっ!!!」

 

この距離なら避けれまいと確信し、声を上げる。

 

次に来る衝撃に備えていたが……その結末がやってくることは無かった。

 

まるで時間が止まったかのように、車が目の前の小柄な少女と接触した瞬間から進まなかった。

 

「おいっ!何をしている!進めっ!!轢き殺せっ!」

 

「や、やっていますっ!ですが……っ!!」

 

幾らアクセルを踏もうが、一ミリたりとも前に進むことは無かった。

 

「何を馬鹿な……っ!!?」

 

すると、突如車が傾き始める。フロントガラスの外に映る光景が徐々に傾き、地面を映す様に浮き始める。

 

「なんだなんだっ!!何が起きてるんだっ!?」

 

「まじかよ……っ」

 

乗っている車が持ち上げられていると認識した刀の男がドアを蹴破って外へと逃れる。

 

すぐさま現状を確認すると、例の女が片手のみで車を持ち上げていた。車の内部から悲鳴が聞こえる状況の中、持ち上げられた車が勢いよく道脇の建物へ叩きつけられる。

 

凄まじい轟音と周囲へ飛び散るガラスや金属製の部品。相当の衝撃が加わった事で中の人間にも相応のダメージが入っているだろう。

 

「おいおい……なんつー馬鹿力だよ……」

 

その様子に呆れるような声で呟く。

 

「んん……おじいちゃんのを真似てみたけど……今の私じゃやっぱり堪えるなぁ」

 

件の少女は、放した右腕を確認するように見ている。

 

「ぅ……ぅう……な、なにが……」

 

「た、たすけ……だして……」

 

「ありゃ、まだ普通に元気そうですね?まぁ、動けなさそうですし今は放置でも良いでしょう。……それよりも」

 

ゆらりと夜の闇に溶け込みそうな滑らかな動作でこちらを見る。

 

「お久しぶり、で良いんですかね?ここ最近はそちらも忙しくて碌に顔を合わせておりませんでしたが」

 

「やっぱり嬢ちゃんだったか……久しぶりにしても中々スリリングな挨拶だったがな」

 

「あはは、それについては謝罪します。巻き込んでしまったみたいで」

 

「……目的は、中の男か?」

 

「ええ、あの男一人のみですよ?」

 

「なるほど……な」

 

「私としましては、一緒の班で働いた先輩としてこのまま見逃しても一向に構いませんが……」

 

「そりゃありがたい提案だ。けどな、一応依頼として俺も受けてんだ」

 

「ですよね」

 

「はいそうですかって尻尾巻いて逃げるわけには行かないんだわ。男としてな?」

 

「まぁ、そのプライドは……何となく理解は出来ますが」

 

「それとな、こんな上物が目の前に居て……易々と見逃したくはねぇ」

 

「ふふ……あはは、本音はそちらでしょうに」

 

「くく、バレちまってたか」

 

「はい、あなたの目を見れば分かりますよ。少年の様なワクワクした目。戦いたくて仕方が無いって顔です」

 

「ま、一応大人として建前ってのが必要だからな。護衛任務として」

 

「その護衛対象を殺そうとする相手が目の前に居れば、下がる訳にはいきませんよね?」

 

「ああ、これはしょうがないってやつだ」

 

「……まぁ、いっか。良いよ、やろっか」

 

「礼を言うぜ、嬢ちゃん」

 

「ううん、色々と教えてもらったり、ご飯を報酬で貰ったからね。そのお礼と思ってもらえれば良いよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

嬢ちゃんの言葉を聞き、刀に手を伸ばして構える。

 

集中しろ……こんな機会、滅多に来ないぞ。

 

「準備出来た?」

 

こっちが武器を構えたのに、一向に自分の武器を出さずに確認してきた事に疑問が浮かぶ。

 

「……嬢ちゃんの武器は出さねぇのか?」

 

「実は私、武器より素手の方が強いからね。邪魔になるし……」

 

本気か?そうなるとこの前は俺に合わせたって事になるが……。

 

「ははっ、それは楽しみだ……!ならいくぜっ!」

 

―――なら見せて貰おうかっ!

 

前回と違い、自ら距離を詰める。走り出した時には既に間合いに入っているが、更に一歩踏み込む。

 

後ろに避けられることを防ぐ為に本来の間合いよりも近づき、相手の認識を一瞬でも間違わせる事を狙っての行動。

 

「―――っらぁ!!」

 

左腰に差してある刀を高速で抜き、正面の相手へ向かって振り切る。こちらの武器が相手に触れると思った瞬間、目の前の少女の姿が消える。

 

「っ!?」

 

振り切った刀を即座に手元に戻そうと動くが、引く腕に対して抵抗するように刀が動かなかった。

 

何事かと右手の先を見ると、姿を消した少女が振り切った刀の剣先を掴んでいた。

 

「おいおいおい……嘘だろ……?」

 

咄嗟に刀を刺し込むと、それから逃れるように一歩下がる。

 

……まさか、俺のより先に動いたのか?

 

結果だけを考えるに……俺が振った刀の軌道の振る速度より早く動いたことになる。その終点を捉えたって感じか……?

 

「まだやります?」

 

状況の整理をしているこちらに、何事もない様に聞いてくる。

 

「こりゃ……想像以上の相手だったって感じか」

 

このままだとマズイ流れになると考え、仕切り直しと間合いを測る。

 

「ではでは、今度は私から行かせて貰いますね?」

 

俺の準備が出来たのを見るや、姿勢を落として重心を動かす。

 

―――来るっ!!

 

僅かな体の揺れから動くと予想した。そう頭が判断した時には既に懐に入り込まれていた。

 

「―――っ!!」

 

この一瞬で武器の距離を殺されたかっ!

 

拳を構えてるのを見て、小柄の身長を考えると下から上へ打ち上げるタイプの攻撃と予測し、咄嗟に右手の刀で防御の体勢を取る。

 

「ごはッ―――!?」

 

来るだろうと予想した軌道に刀を置けば相手も多少は躊躇うと考えた行動だったが、それが意味を成すことは無かった。

 

目の前の少女は、俺の刀など最初から無かったかの様に、俺の刀と腕ごとガードの上からぶん殴って来た。

 

小柄な体から繰り出される力とは思えないほどの衝撃が身体中を突き抜け、そのまま数メートル地面から浮き上がる。

 

「ぐっ―――!」

 

激痛を全身に感じながらも、視界から外さまいと俺を殴り上げた相手を見る。

 

―――居ない!?

 

ついさっきまでそこに居たはずの少女の姿が、既に見えなくなっていた。

 

「これで、終わり」

 

その答えは、宙に浮いている俺よりも更に上から聞こえた。

 

「……は?」

 

声がする方へ視線を向ける。そこには、既に攻撃の構えをし終えた嬢ちゃんが居た。

 

反撃しようと体を動かすが、さっきの一撃で既に刀は折れ、腕にも碌な力が入らなかった。

 

……はは、嘘だろ。

 

「マジかよ……」

 

最早呆れるような感想しか出なかった。

 

次の瞬間、先ほどの一撃よりも更に強い衝撃が体中を走り抜ける。

 

「―――かはっ!!?」

 

勢いよく背中から地面へ叩きつけられる。その衝撃を逃せず全身がバラバラになったと錯覚するような感覚を味わう。

 

「……っ、ぁ……く……っ」

 

まともな受け身も取れずに直でダメージを受けた事で脳が揺れる。

 

……これは、マズイな。体が動かねぇ……。

 

指一本にすら力を込めれずに痺れるような感覚がするのみ。何とか視線だけでもとこちらを見下ろしている嬢ちゃんを見る。

 

「……安心してください。殺しはしませんよ?貴方はターゲットではありませんし、一時とは言え同じ班の仲間でしたから……」

 

「ぁ……かっ……、く……」

 

そいつは……安心したぜ……はは。

 

にしても、なんつー身体能力だよ……。たった二発でこれとか……噂より全然やべぇー連中じゃねーか……。

 

「それでは、その内目を覚ますと思いますのでそのまま寝てて下さいね?起きた時には既に事は終わっていますが……」

 

あやす様な声を俺にかけ、用が済んだとばかりに踵を返す。

 

……また新しい刀を、調達しねぇとなぁ……。

 

そんなことを頭に思い浮かべながら、その意識は途切れた。

 

 





~その後の主人公視点~

「ありゃ……放って置いたら車が燃え始めてしまいましたか。まぁ手間が省けて良い事だと思いましょうっ!」

「……道端に放置していたら危険ですし、一応この人は建物の中まで運んでおきますか」

「これで良しっ!さて、近くで待機して貰ってる先輩の元へ戻りましょう」

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