一ノ瀬璃玖視点から。今回で白巳津川の方も終わりになりますね。
「……来たか」
ドーム状の広い部屋に入ると、反対側の奥に叔父さんが立っていた。
周囲を見渡すと、よく分からないけど天井や壁には大量の装置と思われる機械が取り付けられていた。
「招かれたのでな、来てやったぞ」
先頭に立つ当主様が笑う様に答える。
「無事にここまで辿り着けた事に安心しました」
「あの程度のお遊びで止められると思って無かろう?それともあれか?もう手駒が居ないのか」
「単なる時間稼ぎと考えていただけなのでご安心を。勿論本番はこれからですので」
「これらの立派な機械らは今回の為に作っておいたのかの?」
「そうですね……実験の一環みたいなものです。きちんとその成果も確認済みですよ?」
「ふむ、そこにワシらを呼びだしたという事は、それのお披露目をする……で良いのか?」
「……ええ、使うのならば一族の中で最も強い人間に使うべきでしょう。その方が良いデータが手に入りますから」
「よほど自信作と見える」
「その結果は、ご自身で確認してください」
冷静に……というよりは余裕を見せる様に会話を続けていたが、叔父さんの方から戦闘態勢へ入る。
「良かろう。一族の当主として付き合ってやろうではないか!」
相手が戦う意思を示した事で、ご当主様も戦闘態勢へ移る。
「……良いのか?勝手に二人で盛り上がってんだが?」
まやまやの幻体……ゴースト?だっけ、いや、レナって名前の方だった。彼女が不破壮六さんに問いかける。
「……いつもの事なので。ですが何かあれば止めに入って下さると助かります」
「あー……その時が来ればな。負けるとは思えねぇけどよ」
「戦いには何が起こるか分かりませんから。それに、向こうもそのつもりで来ているでしょう」
「ま、それもそうか。一応警戒はしとく」
「お願いします。私の方も見ておきますので」
「おう」
二人の会話を聞いていると、待ちの姿勢を示している叔父さんを見て、ご当主様から攻めに出た音でそちらに意識を向ける。
相手との距離を詰め、手が届くほどの至近距離まで接近してから攻撃を仕掛ける。
叔父さんもそれに対応するように繰り出された腕を弾き、反撃に出る。
一秒に満たない時間の中で幾つもの攻防と駆け引きが起き、読み合いの動きを見せるが最初のコンタクトではお互い無傷で終わる。
静寂が一瞬だけ訪れ、すぐさま次が始まる。
先程と似たような攻防が続いたかと思うと、叔父さんが弾いたご当主様の腕が止まらずにそのまま相手の首を強引に掴む。
「くっ……!!」
「くかかっ!腰の入ってない攻撃じゃのうっ!」
その瞬間、掴んだ腕に力が入ったのが分かる。勢いを付けたまま地面へ叩きつけようと体勢を作る。
「こ、の……!」
咄嗟に首を掴んでいる腕を両手で握り、体を浮かせて両足を相手の首へ回す。
腕をへし折る動きと足で首をへし折ろうとする反撃を同時に繰り出す。
「―――ふん!」
殺す気で反撃に出た叔父さんの技に対して、ご当主様が身体に力を入れる。すると膨れ上がるように筋肉が浮き上がる。
「っ!?―――!」
首を折ろうとした攻撃が失敗したと分かった瞬間、地面へ叩きつけられる直前に首を掴んでいる手の親指だけをへし折った。
「―――ぐっ!……はぁ、危ないとこだったな……」
折れた親指側から何とか掴まれていた首を逃すが、勢いを殺しきれずに一度地面へ叩きつけられながらも衝撃を逃しつつ後ろへ下がる。
「余りにもやる気のない戦いじゃったからのう……少し活を入れさせてもらったわい」
折られた親指をなんてことの無いように元の位置へ戻し、手ごたえを確認する様に動かす。
「やはり貴方は異常だ……今の攻撃を自身の肉体のみで弾くなど」
「貴様が決死の一撃のつもりで仕掛けていたのなら話は別じゃが……安全策を取っておる技などたかが知れ取るわ」
「……それは認めよう」
「何を狙っとるのか分からんが、このままチマチマと続けるのもつまらん。お主が必死になるように少しギアを上げてゆくぞ?」
そう言ったご当主様の気配が強まる。筋肉が膨れ、血管が浮かび上がるのに合わせて赤い目が徐々に黒く染まっていく。
「……やはり、それを出して来るか」
それを見た叔父さんが静かに息を吐く。
「ふむ……ワシがこれを出すのを待っていた様に見える」
「ええ、もっと耐えるつもりだったが……予想よりも早く出して安心してる」
笑みを浮かべた叔父さんが右手を上げる。その瞬間、部屋を包むように激しい振動と一緒に音が響き渡る。
「っ……!なにこれ……!」
酷い頭痛に頭を抱え顔を顰める。隣に居る二人も似たような症状が出ていた。
「ははは……!やはり効果はあった様だ……!」
安堵と嬉しさの混じった笑い声に視線を向けると、ご当主様がその場で片膝を付き、目や鼻から血を流していた。その目は黒色では無く元の状態に戻っていた。
「……ほぅ、これは……」
血を流した箇所を指で擦り、状況を確認している。
「おいおいおい……!なんだよ今のは……。頭が割れそうだったぜ」
「っ……、恐らくは……音か何かだと思われます……!部屋中の装置が発生源かと……っ」
さっきまで割れそうな頭の痛みが止まる。多分アーティファクトの力で影響を止めたんだと思う。
「くく……なるほどのう……、振動じゃな。脳へ直接送り込み強引に解いたわけじゃ」
「ご名答」
「音響兵器、とでも呼ぶ物じゃが、出力は鎮圧などで使われているそれの比じゃない……。ワシらでも効果が出るレベルまで増幅させておる……な」
「知っての通り、一族の力を使うにはそれ相応に制御する必要がある。が、そのコントロールを無理やり乱すことで今の貴方の様な状況を作り出すことが出来る」
自分の成果が上手く行った事に対して上気したように声を上げて語る。多分……私達が受けた衝撃は、あくまでご当主様へ向けられた攻撃の余波程度なんだと思う。
「意識を保つだけでも辛いだろう。立つこともままならないはずだ」
「くくく……かも、しれないのぅ……ほれ、トドメを刺しに来んのか?」
「はっ、貴方の強さは知っている。今の状況からでも私を殺せるだけの力は残っているだろう」
「あ、あの……、大丈夫……?」
ご当主様にはまだ余力を残している様に見えるが、良くない状況に思える。
「……いえ、心配ないでしょう。あの程度で殺されるのでしたら歴代最強を名乗っておりません」
「ま……大丈夫だろ。舞夜のあの一撃に耐えれる奴ならこんくらいで死なねーはずだ」
私の言葉に二人とも心配している様子は無い。
「……最後に確認しておくが、これがおぬしがワシを殺すための切り札、と見て良いのか……?」
「切り札……そう思って貰っても構わない。ここは同族を殺す為に……貴様を殺す為に用意した場所だ」
「なるほど。なるほど、の……、―――案外、拍子抜けじゃな」
「―――っ!?」
先程まで膝を付いていたご当主様が立ち上がる。
「……まさか、もう耐性を……?」
「くくく……くかかっ……耐性?そんなものはない。気合いじゃよ、気合い」
「……っ、出力を最大にしろっ!」
再度右手を上げ、どこかへ指示を飛ばす。すると激しい衝撃が部屋中を揺らす。……どうやら、叔父さんの方には支障が出ない様に何かしらの調整がされているみたい。
「―――っ、なに、来ると分かれば耐えれない程でもない」
音の衝撃を食らったのか、後ろへ頭を揺らしたご当主様だったが、すぐさま持ち直す。目や鼻、口や耳などから血を流しているがその目は既に黒く染まっていた。
「クソっ!化け物が……!!」
接近されない様に距離を置こうと後ろへ下がる……が、その焦った故に出た行動の隙を突かれ一瞬で距離を詰められる。
「中々良い着眼点と方法だったが、ここまで接近を許してしまえば出せまい」
「こうも……!これほど差があると、言うのか……っ!」
消耗していると読んで叔父さんが攻撃へ移るが、それでも攻めきれずに徐々に反撃を受けて行く。
「っ……撃て!」
このままでは不味いと察し、自分ごと巻き込む勢いで指示を飛ばす。
「ぐっ、がぁああああっ―――!」
「―――かっかっか!負けず嫌いじゃのう……!」
ご当主様へ向かって見えない攻撃が放たれるが、すぐそばに居る叔父さんもその影響を受ける。
「し、ねっ……!」
痛みに耐えるように叫びながらも攻撃の手を止めずに動く。ご当主様も獰猛な笑みを浮かべてそれに応じる。
「……これは勝負あったな」
「……ですね」
隣に立っている二人が静かに呟く。……確かに、これ以上叔父さんに手が無ければ勝負は付いてしまう。
「―――はぁ、くっ……!はぁはぁ……、くそ!くそっ……!」
次第に叔父さんの方が押され、膝を付くという逆の光景が広がっていた。
「やはり……俺では勝てないと言うのか……」
「どうした、ここまでか?」
「……なぜだ。想定では現状の出力で行けるはずだった……何か装置に不備でもあったのか……?」
「ブツブツと言っておるが、もう終わりかの?」
「……一つ聞きたい。何故耐えれる?」
「ふむ、何が言いたい」
「俺の予想なら……今回用意した装置程の出力であれば確実に行動不能に持ち込めたはずだ。これまで取っていたお前のデータよりも……上を見越して設定していた。なのに何故……だ?」
「……何を言い出すかと思えば、くだらん。貴様はワシが成長しないとでも思っておるのか?」
「肉体は確実に老いへ向かっているはずだ。全盛期よりも下回っている」
「……くく、なるほど、それはそうかもしれないな。ワシ自身もそれを感じ、受け入れていた所じゃ」
叔父さんの問いかけに愉快そうに笑う。
「じゃが、最近弟子の成長を実感のぅ……ワシもまだまだ負けてられんと鍛え直しただけじゃ。その原因となった愛弟子から色々と面白いやり方を聞いて試しておる所じゃな」
「愛弟子……く、はは……そうか。またもやあの少女によって阻まれたのか」
「聞きたい答えはそれだけか?」
「ええ……最後の最後まで邪魔をした本人を直接排除出来ないのは残念だが……」
諦観したような表情を浮かべたかと思うと、直ぐに目に力が入る。
「この場に居る全員くらいは道連れにしておくとしよう」
不気味な薄ら笑いをしてこちらを見上げ、左手を上げる。
「何をする気じゃ」
「ははっ……幾ら化け物染みても、この場で生き埋めになれば生き残れまい……!」
道連れにするって……まさか、自爆?
叔父さんの言葉を聞いて次に来るのが予想でき、全員が警戒しまやまやの幻体は既に能力を使っていた。
「………、……何も起きない様だが?」
「……何故だ、おいっ!起動しろ!!」
当の本人は、何も起きない事に対して何処かへ叫んでいる。
「……もしや、止めていられるのですか?」
「いや、オレじゃねぇな。一応この場の安全くらいは確保しているが……」
幻体じゃないのならどうして……?
「……最後の最後でまさかの失敗のようじゃが、もしかして見捨てられたのか?」
「馬鹿な……そんなわけ……」
「それかもしくは……まぁ、何でもよい。今度こそ貴様の手は尽きた……となったわけじゃな」
「っ……!」
ご当主様の問いかけに対して今度は右手を上げる……が、さっきまでとは違い何も起こらなかった。
「……ふむ、完全に反応無しじゃの。残念じゃ」
「……まさか、制圧された?」
「面白い催しではあったが、如何せん場所を選ぶのが問題になるの。ここまで大掛かりな装置を用意せんと出来ないのはマイナスじゃ。しかも人の手が要る。次世代に繋ぐには他にも改善点が山積みじゃな」
自身の顔から流れていた血を服などで拭いつつ口から吐き捨てる。
「……さて、ワシの出番はここまでのようじゃな。そろそろ代わるとしよう」
「代わる……?何を言って……」
「この戦いを終わらせる役目は別の者が適切……ということじゃ」
……来た。ようやく私の番が。
こちらを見たご当主様に頷き、前に出る。
「……今更出来損ないの貴様が何の用だ?」
「一応……今回の一件の責任を。事件を内密に済ませる為の方便として」
「……何が言いたい」
「私が叔父さんを殺すってこと」
「……はっ、なるほど。そう言う事か……はは、あくまで一ノ瀬家で留める気か」
「そう」
私が言いたい事を察し、呆れるように笑う。……それも当然か。
「貴様が俺を止めたとしてその後はどうする!?この騒動をどこへ持っていくつもりだ!」
まくしたてる様に私へ言葉を吐き捨てる。
「―――私が、父の跡を継ぐ」
「……は?」
流石に今の発言が予想外だったのか、大きく目を見開き言葉を漏らす。
「お前が……一ノ瀬家の?何の冗談だ……?」
「嘘でも……冗談でも無い、本気」
「この場に及んでか?今の今まで逃げて来たお前が、か?」
「それは……素直に認める。きっと私には相応しくないのかもしれないけど。でも、その資格は……あるから」
「………、はっ……今更……今更になって……っ」
呆然とした表情を浮かべていた叔父さんがガクッと顔を下げる。
「……ふざけるな。それなら俺がしたことに……なんの意味が……!」
……やっぱり、こうなるよね。
「最初からお前が……!……冗談も大概にしろ……っ!」
怒りを露わにした顔で立ち上がり、私を睨む。
「自ら放棄して置いて……ここに来て身勝手に主張するなど……!許される訳が無かろうが……!俺が許すと思うかっ!!」
「……そう、でも私は叔父さんに認められようとは思ってない。あくまで父を説得するつもりだから」
「ふざけるなっ!!兄が貴様の為にどれだけ手回しをしていたか……!九重舞夜と接触しても他家から干渉されない様に気を遣っていたのを……!それもこれもお前が継ぐ気は無いと考えてのことだ!それを……!!」
「……父には、後で沢山謝る。これまでの事を……そして、これからの事を話すつもり」
「……あの座は、貴様が想像しているよりも……!容易いものでは無い」
「そうかもしれない。けど、やりようは幾らでもあると思う」
私を殺しかねない眼差しを向けていたが、遂に戦闘態勢をとる。
「許す訳がないだろう……!そんな、都合の良い話を……!」
「……でも、叔父さんは一族の掟を破ってる。違反者の言葉に、耳を傾けるつもりは無いから」
「ではでは、こちらになりますのでどうぞ中へ。少し散らかってますが我慢して下さいねー」
アーティファクトの能力で姿を消しつつ、案内をする九重らの後を付いて行ったが、そこには多少ボロくはあるがここらでは形を保っている方の建物があった。
連れて来た全員を中に入れると、同伴している女性と話し始める。
「っと、七瀬さんはここまでだね。後は私の方で片付けておくけどどうする?先に戻っておく?」
「……そうするわ。お願いしてもいいかしら?」
「了解了解、それじゃあ行ってくるね」
一瞬だけ俺へ視線を向け、そのまま薄暗い建物の中へと入りドアを閉めた。
……さて、俺も一緒に先に帰るべきだろうか……?
どうするか考えていると、同伴者……七瀬、さんだっけ?その人が周囲を見渡す。
「……どうせいるのでしょう?姿を見せてくれるかしら」
その言葉は、明らかに俺に向かって告げられていた。
……どうする、出る……べきか?
どういった意図があってかは分からないが、俺に用があるらしい。
「別に害を成すつもりはないから安心して。少し話がしたいだけ」
「………」
九重と同じ人達だ、その心配は要らないだろう。
「やっぱり居たのね。もし居なかったら恥ずかしい思いをするとこだったから安心した」
アーティファクトの能力を解き姿を現した俺の姿を、赤く染まった瞳で捉えていた。
次回は……一ノ瀬璃玖の時みたいに、浮島七瀬視点の話を入れようかと思います。