浮島七瀬の番です。
―――物心付いた私にとって母は、世界そのものだった。
幼い頃の記憶を思い返して行くと、最も鮮烈に残ってるのは……大人たちの醜く歪んだ関係と、それとは別で……母が私へ向けていた失望した表情。その二つはよく覚えている。
私は浮島家の長女として生を受けた。浮島家は一族としての実力的な地位はそこまで高くはなく、これまでも目立った功績も人材も出した事の無い……正直、パッとしない家だったらしい。やっている事と言えば、他との関係を持ち力を借りる、またはその仲介役としての力を見せていた、そんな所だと思う。
それが悪い事だとは今でも思った事は無い。人脈を作りそれを使って力として活用する、並大抵の振る舞いじゃ出来ないと思う。私の父も先代から引き継いだそれを使って頑張っていたのを幼いながら見てた。娘の私に不自由の無い生活と、何か才能が無いかと様々な伝手と方法を試してくれていた。
ま、結果として突出した才は見当たらなかったけどね。と言っても、それはあくまで歴代の人達や同年代の天才と比べての話。これまでの浮島家と比べれば幾分才能があった方だとは私は思っている。というか事実だし。
けど、母はそうは思わなかったみたい。何と比べて私を見ていたのか……まぁ多分、噂で良く聞いていた璃玖とだったでしょうね。その時のあの人の表情と来たら……ガッカリを通り越して絶望したみたいな顔だった、と思う。
自分や父に大きな才が無かったのにどうしてその娘の私に過度な期待を寄せたのか理解が出来ないけど。
母の実家は、父と似たような系統の家だった。多分、政略結婚に近い形だろう。更なる繋がりを得る為にお互いに利があったはず。
それから母は、私を連れ回す様になった。
浮島家にはこれまで培ってきた人脈がある。母はそれを使って様々な人と交流を持った。時には一族の人間、時には表の業界、当然裏の人々とも……。私はよくそれに連れ回されていた。
それに合わせて、私の教育の方針が変わって行った。武を身に付けるための修行を減らし、作法や礼儀など人と話すための技法を重点に置く時間が増えて行った。
幼い私はそれが正解だと思い、出来る限りの努力をした。武では母は私を見てくれないと考え、喜んでもらえる為に……きっと私も母の様に振る舞えれば笑ってくれるんだと信じていた。
幼少期は母の言う事に全て従った。自分の意見も考えも……感情も表に出さない様に気を遣って……まるで人形、あの人の操り人形的な生き物に成っていた。
醜く、お互いがお互いを出し抜いて利を得て上に立とうとしている世界をずっと横で見て、感じていた。
そんな人生を過ごしていた時、ある話を耳にした。
『九重家から新たな逸材が生まれたらしい』と……。
九重家。それはこの一族の始まりにして現トップの家。その当主である九重宗一郎は歴代でも最も強いと言われてる人物であり、様々な強者が排出されている一家でもある。
当主の娘は勿論、孫も同じ才能を引き継いでいるらしい。そして更に新しい才能が生まれたとの事。少し前までは一ノ瀬家の神童と騒いでいたが、次の話題へと移ったのか最近はあまり聞く頻度が下がっていた。
そして、その噂を初めて耳にしてから……暫く経ったある日、母の様子がおかしくなっていた。
予兆……というか予感はあった。何かを見つけたかのように、それに想い馳せるかのように……切望していた。
それは……私に見せる事の無かった表情だった。私が……望んでいた、想い求めていた、歓喜の……喜びの笑顔。
何に対して、誰を考えその顔を浮かべているのか、当然気になって尋ねた。すると母はその表情で私を見てこう言った。
『九重家に居る九重舞夜という少女に取り入りなさい』と。
当然私はそれを受け入れ、返事をした。それと同時に……その人物が気になった。なぜ、貴女がその感情を向けられるのか……と。
それから九重家と時間を作り、実際にその本人と会った。
そこに居たのは、無表情で愛想も無い年下の少女だった。
私が声をかけたり話題を出しても一切の興味も無く淡々とテキトーな返事をしていた。一秒でも早くこの場から去りたい、その程度の感情しか出していなかった。
その時得られた情報と言えば精々、九重家当主やその部下の人達に直接教えを受けている事、それと結構な世間知らずであろう偏った知識だった。
最初のコンタクトはあまり目ぼしい成果も無く、結果としては失敗になった。
母からは必ず成功するようにとだけ言われた。そこには私に向けた感情は無く、唯々九重舞夜に対して向けられた感情だけだった。
今にして思えば、当時の舞夜に取り入りろうなんて誰がしても無理って話だった。だって本気で無価値として切り捨てていたし、それ所じゃ無かったからね。
それからも私は何度も諦めず交流を持ち続けた。それだけが唯一母が喜んでもらえる私の価値であるとそう信じて。
時間を作っては会いに行った。いつも、それこそ一日中鍛錬をしている彼女との時間を作るのは大変だった。話せるのは精々食事の時のみ。
頑張っている彼女を褒め、気分を良くしてもらい少しでも印象に残ってもらおうとしても無駄だった。なんせ目指している相手があの九重家の当主、九重宗一郎だ。
ある日、なぜそこまでして強くなろうとしているのかを尋ねた。私が見ている限りでもあまりにも過度な鍛錬に思える。聞いた所でもそれを一日中、休まずにずっと続けているらしい。常軌を逸してるとしか思えない。
返って来た答えは『強くならなければいけないから』とだけだった。
その言葉には、ある種の覚悟と決意……それと、それこそが自分のあるべく答えである。そう聞こえた。
物心ついた頃から母に連れ回されたせいで、相手が言っている言葉の真意がある程度分かる。だからその言葉には一片の迷いも感じなかったのが直ぐに分かった。
凄い、と素直に感じた。
その時から私は、母に言いつけられたことだけでは無く自分の意思で疑問を投げかけるようになった。
始めは母が言っていた人物に対して、嫉妬するような気持ちもあった。これだけ努力している私が見られずに他の人を見るなんて……。けれど、話していく内にこれには勝てないと思ってしまった。
だって、この子は……私や九重家、更に一族の事に対しても一切の興味なんて無かった。唯々何かを成すためだけに強くなりたい……それだけだった。
交流を続けていたが、成果は平行線に近い形が続いた。
そんなある日、決定的な出来事が起きた。
母のある発言から始まった。
最近は以前に増して九重舞夜を……もはや崇める様な賛美の言葉増えていた。そこに私が入り込む余地など一切無いかのような。
『神の遣い』や『一族の悲願を叶える巫女』などと最早私でも理解出来ない発言をし、それに対して尋ねても教えてくれなかった。『あなたはただ私の言う事を聞いて動いたら大丈夫よ』だったかしら?
でも確かにあそこまで純粋に力を求めるあの子ならそれにふさわしいとも思える……。それでもどうしても気になった私は、独自で勝手に調べた。
私も浮島家の人間だ、秘密裏の伝手くらい少しは持っている。それを使って母の行動を調査した。
調査の結果分かったのは、母が何やら人を集めているらしい。数人とかではなく様々な人に声をかけているとのことだ。更に新たに組織的な物まで作ろうとしている動きもある。
最初は浮島家が更なる力を付けるためにしているのだとそう思っていた……が、調べて行く内にその考えは消えて行った。
母が作っていたのは、あの九重家の……九重舞夜を頂点としての……まるで宗教の様な歪な組織だった。
しかもそれを本人や九重家、更に私や父にも一切話さずに進めている。周囲から裏で金を動かしているが、幾つかは浮島家からも流れていた。
つまり母は、私では無く……あの少女、九重舞夜を求め、選んだという決定的な証拠だった。父や私などの浮島家では無く……。
それを知った私は、あまりの現実に絶望し泣いた。これまで母の為に頑張って来たのに報われることも無く、私の望みは他の人間に向けられていると知ってしまった。これまでの人生は全て……無駄だったと。
けど、私が知っている事を母に悟られる事はあってはならない。私がそれを知っているのはおかしいからだ。感情を殺し、今まで通りに母と接していつも通りの会話をしてその日の予定にある九重家へ向かった。
心の底を知ってしまったからだろう……私に向けて発せられる母の言葉や仕草、行動全てが空虚な物に思えた。それは私ではなく……全てはあの九重舞夜の為に……と。
母は私に何も期待してなどいなかったのか、端から都合の良い駒の一つだったのか。色んな考えと感情が混ざり何も分からなくなってしまった。でも、私に出来る事は……母に言われた事を、こなす為に動くこと……。
無意味で、無価値な……私にとって何のためになるのか……。幾ら頑張っても報われる事の無いまるで私自身に価値がない様にすら思える。そんな感じ。
一体私は何のために……。
その時、心の奥から湧き出る物があった。それは怒りとも言えるし憎悪とも呼べるコントロールの出来ないマグマの様な体を焦がす感情。これまで母へ向いていた感情が丸ごとひっくり返ったかの様な……私を埋め尽くす気持ちが。
ああ、そうだった……この世界は、騙し騙され、利用し利用され、食うか食われるかの世界だ。母もその世界の一つであり、私は食われた側のことだけだ、そう……たったそれだけのことだった。
なら私も……それに従うのみ。だって、それが私の知っている世界……全てだから。
その日から私は、自分の好きな様に生きる事を決めた。それと心に誓った。
―――私を見限ったあの人の人生を壊してやろう、と。
やり方は直ぐに決まった。九重舞夜だ。あの女が一番求めている少女を使って滅茶苦茶にしてやれば良いだけの事だ。
それにあの人は勘違いをしている。九重舞夜は、誰かを見向きすることは無い。何があってそこまで求めているのか未だに不明だけど、九重舞夜はあの人の思う様に動くわけが無い。それは何度も接触した私がよく分かっている。
ならば……それを利用してやろう。取り敢えずあの人の言う事に従ってる様に見せつつ、九重舞夜に情報を流して破綻させれば良い。私が味方であると信用を得る必要もあるし、それと同時にあの人の行動も誘導しなければ……。
どちらも利用して、私の望みを叶えるために―――。
と、思っていたんだけどね……。
九重舞夜にこれまで以上に接していく内に、影響を受けていたのはどうやら私の方だった。
あの子は……純粋、とは違うわね。何と言うか……綺麗だった。気高い……と言うのとも違う、真っ直ぐって言うのかしら?
初めて凄いと素直に思ってしまったあの日から何も変わらずに、腐らずにそのまま成長していった。自身を邪魔する者、煩わしい人間関係のしがらみ、それら全てを跳ね退け上へ……前へと歩みを止めなかった。そんな姿を見せられたら、感化するのは当然ね。
ある日、私は再度問いかけた。『何故そこまで強さを求めるのか、強くなって何を成したいのか』と。
以前とは違って、本心で気になった。
私を数秒を見た彼女は、少し考慮してこう返した。
『倒すべき相手が居るから』
それを聞いた当時の私は、恐らく九重家の当主である九重宗一郎だろうと予想を付けた。聞くところによれば九重家当主は強者を求めているとの事だ。きっとそれを倒したいのだろう。
だけど、このまま行けば目の前に居る少女があの歴代最強と言われる人に迫る頃には年齢の問題で難しいだろう。普通に考えればそれを継いだ次世代の当主を打倒するのが現実的だ。
この子は絶対強くなるだろう。現に九重家に居る上位者から直接的に学び、それを表すかのように強くなっている。なら近い将来必ず私の利になる、間違いない。
そこで私はちょっとした賭けに出た。
九重家のトップを取ろうとする気であるなら、私もそれに同調すれば良い。同じ目標を掲げていると示せば少しは歩み寄ってくれると……。
簡単に要約すると、『私は浮島家を父から継ぐ為に力を付けている母が邪魔になる。協力してほしい』って感じのやんわりとね。
以前からあの人が作り拡大を狙っている組織の情報は流している。この子経由で九重家にも流れているだろう。納得できる理由に聞こえると思う。
正直、私怨的な気持ちが多いのは認める。けど、嘘でも無い。将来的に邪魔になるのは事実だ。
「どう、でしょうか?お互いに協力……助け合いませんか?」
「………」
私の提案を最後まで聞いた彼女は、不思議そうな顔をしてこっちをみた。
「母親が憎い……ってことですか?」
「えっと……どうしてそう思われたのでしょうか?」
正直ドキリとした。表に出したつもりは無かったからだ。
「その、ですね?目が……私が住んでいた場所でよく見た目をしていたので……」
「目、ですか……?」
「はい。沢山見て来たので分かるんですよ。取り繕っても……瞳の奥にあるその感情、怒り、憎しみ、恨みや殺意的な衝動が。ここ最近の浮島さんはそういう目をしているので」
「………」
思わず黙ってしまった。少なくともここで否定するのが正解であったと思う。でも、見透かされていた……他人に興味が無いはずのこの少女に。
「舞夜さんには……私が、そう見える、と……?」
「少なくとも。もしかすると、私が特別敏感なだけかもしれませんが……」
「……そう、ですか」
……どうする?この子には私の本心がバレてしまっている。今更言い訳しても多分無駄になる。それなら……。
「……正直に伝えます」
私はもう一度賭けに出る。それもさっきまでの小さな賭けじゃない。大きな……私の今後を決めかねない博打を……。
「舞夜さんが言う様に……私は、母が……憎いです」
一度俯きながら震える声で答える。同情を誘うためだ。
「……そうですか」
俯いた状態でも分かるほどの、淡々とした声が返って来た。
「………」
やっぱり、あまり感触は良くない……。
「私に目を付けた理由は何ですか?」
「……以前に話しましたが、母が貴女に執着しているからです」
「なるほど、その目的である私が使えれば目論見を確実に潰せると?」
「そう、なります……ね」
「………」
無言が続き、顔を少し上げて目線だけを正面へ向ける。視界に入ったのは、私の言葉を吟味しているのか何かを考えている姿があった。
「……一つ、条件を出しても良いですか?」
「………、何でしょうか」
返って来た言葉に顔を上げる。目が合った彼女は、真剣な雰囲気を纏いこちらを見つめてる。
「あなたの本心をここで曝け出して貰えないでしょうか?母が憎いと言う、その理由を……」
「……それが、条件でしょうか?」
「ええ」
「………、私がそれを言えば、協力すると……?」
「約束します」
表情や声から嘘を付いてる様には思えない……。私の本心を聞いて弱味を握る為だろうか?……けど、ここまで来たらもう後には引けない。覚悟を決めなければ……。
変わらず真剣な瞳で私を見つめる彼女に、これまでの全てを打ち明かした。私が生きて来た人生の道と……その無意味さを。
「はぁ……はぁ……」
最初の一言を吐き出したその瞬間から、自分でも制御が出来ないくらいの……激情に駆られ、冷静さを失って吐き出した。憎い人を私の知っている限りの口汚い言葉で着飾った。更に目の前に本人が居るというのに感情の赴くままに罵詈雑言を並べた。
「すみません……取り乱してしまいました……」
呼吸が落ち着くにつれて冷静さを取り戻し、頭を下げた。
「いえ。それで……私に何をして欲しいのです?」
「協力して下さると受け取っても……?」
「はい、約束通り」
約束とは言え、すんなりと協力を取り付けた事に驚く。
「あ、ありがとうございます。……あくまで私の考えなのですが……」
自分の中で組み立てていた計画を話す。とは言っても今の所大きく動くつもりは無い……強いて言うのなら、九重舞夜と正式に手を組めたのだからあの女に対する誘導を次の段階へ移る程度だろう。
当然私だけではなく九重舞夜の条件や考えも組み込んだ。まぁ、結果は私と同じで現状維持をするという事になったのだけど。
それから私は舞夜と会う度に情報を流した。時には舞夜が気になってたり欲しがる情報を浮島家を使って集めたりもした。その経過を都合の良い様に変え、母にも伝えた。
情報交換の合間に愚痴を零す様になった。誰にも言えないことなので爆発する前に適度に発散するのは必要だと言い訳を添えて……。舞夜はそれを毎回律儀に最後まで聞いていた。
どこか興味あり気な表情を浮かべて……。
とまぁ……その時の私は甘えていたんでしょうね。唯一自分の感情を吐き出せる相手が居る事に……。
舞夜と手を組んでから暫く時間が経ったある日、会わせたい人が居ると言われた。
内容は何となく予想できたが、問題の相手が誰なのか分からず警戒しながらその場へ向かった。
いつも話をしている場所へ入ると、そこに一ノ瀬家の娘……一ノ瀬璃玖が座って居た。以前から度々九重家で顔を見かける事はあったけどそれだけの間柄だった。
向こうも私が来たことに少し驚いた表情を浮かべた様に見える。つまり、相手も私と同じだったわけになる。
取り敢えずお互いに挨拶を交わしてからこの状況を仕組んだ犯人を見る。察した舞夜から説明が始まる。その内容は案の定、一ノ瀬璃玖を協力者へ迎え入れる事だった。
それを聞いた私は、舞夜へ向かって『納得できる説明を』と視線を投げた。流石にてきとうに選んでないとは分かっている。けど、私の秘密を知る数が増えるのはそれだけでリスクになる。
舞夜から聞かされたのは、一ノ瀬璃玖の生い立ちから近況報告の様なものだった。話している内容的には私の方で入手している情報とも時期も合致している。隣に居る本人もそれを聞いて頷いていた。
一先ず納得した私に……正確には私達二人を見て、今度は舞夜から話が出た。
『二人を信頼に値する人物として、私の本当の目的に協力して欲しい』と、これまでで一番真剣な声で……。
内容については……始めは信じろと言うのが無理だった。だって、これから数年……大体五年後に一族が長年悲願としているとされる相手がこの街に現れるなんて。
未来を知っていて、舞夜はそれを倒す為に強さを欲しているらしい。
けど、あの異様なまでの強さへの渇望を見るに、その本気度が伺える……。既に九重家の一部の人間とはそのことを共有しており、準備を進めているみたい。
嘘みたいな……荒唐無稽と鼻で笑えるような内容だけど、舞夜からの話を聞いて、色々と腑に落ちる事があった。
以前からあの女が言っていた、『神の遣い』や一部噂になっている『予言の子』……それが何を意味していたのかを。
……どこでその情報を掴んだのかは不明だけど、確かにあの狂ったような組織を作るだけの価値はあったのかもしれない。理解は出来ないけど。
その時に備えて信頼できる仲間が必要で、最初の協力者が私達というわけだ。
私と一ノ瀬璃玖は、それを聞いてお互いに同意し、三人で同盟を結んだ。
舞夜が高校へ入学した年に起こる地震の時に備え、準備を始めた。舞夜の方は時間が経つにつれて爆発的な成長速度を見せた。次から次へと功績を残し今まで以上にその名が広く知られるようになった。
それに合わせて接触する人も増え、更には母がとうとう巫女派閥などという一派閥を作り上げるまでに組織を拡大していた。
私の方で可能な限りトップである母を使って制御をさせた。基本的には資金巡りや舞夜が依頼や任務に出る際のサポートやバックアップを強化した。組織の人間にもなるべく接触は控えるようにと通達はしていたが、人が多い分それを聞かない人も居た。
正直、今すぐにでもこの組織を潰して関わる人間全員を消し去りたい気分だった。けど、舞夜が有名になればなるほど関係者が浮き彫りになり、どこまでを線引きとして扱うかが分かり易くなっていた。舞夜の方でも自分のせいで増長しているのだからしっかりと後始末の方もすると返事があった。
……少し、申し訳ない気持ちが無い訳でもない。だけど、舞夜に任せるのが可能性が高いのだから頼むことにした。
そして、更に数年が過ぎ……舞夜が言っていた時間まで残り一年に差し掛かろうとしていたある日、九重家当主である九重宗一郎からとある報せが一族全体へ伝えられた。
『これより約一年後に、一族の悲願を果たせる時がやってきた』と。
表向きには肯定をしていなかったが、正式にそれを認め、新たな組織を作り舞夜をそのトップに当てた。以前から私と璃玖は知っていたがそこからは大騒ぎだった。
舞夜が居る組織に入ろうとする人達が大勢居たけど、それを選ぶ権限は全て舞夜本人に一任していた。当然母から私もそこへ入れと指示が出た。
表向きは私が舞夜にしつこく接触しており舞夜はそれを煩わしく思っている様に見せているから、すんなりと選ばれるのは周囲に怪しまれる。なので母の組織から莫大な資金提供の元、強引に席を一つ勝ち取った、という体で入り込んだ。その提供されたお金は全て舞夜の好きなように使い切った。
忙しなく動き回ってる内に、一年後は直ぐにやって来ていた。
舞夜が私達に話した通りに白巳津川でアニメの祭りが開催され、地震によってそれは中止となった。あと私に出来る事は……精々あの子の邪魔にならない様に遠くで見守る程度の仕事しか無いだろう。動けばそれだけ迷惑が掛かりそうだし……。
次に舞夜から私の所に入って来た情報は、『神を打ち取った』という言葉だった。
それを聞いた母の組織の連中と来たら……狂ったように泣き、喜びを全身で表したかのように叫んでいた。流石の私でもそこまで振り切れず、『信じていましたから』と澄ました表情を精一杯頑張って装ってる風に見せた。
盛大な祝いが開かれた日に、久しぶりに舞夜から招集が掛かった。内容は多分……私のだとはなんとなく想像は出来る。
部屋に入ると、既に璃玖が寛いでいた。……どうやら私一人だけでは無かったらしい。
席に座ってから舞夜に用件を聞き出したが、その内容は想像以上だった。近い将来に璃玖の……一ノ瀬家が騒動を起こす事が確定しており、更に浮島家……正確にはあの女の組織が関わっている。
丁度良いタイミングという事もあり、それらを同時に叩き潰そう……ざっくり言えばそんな話。舞夜の故郷とかとんでも話も飛び出て来たけど、私には関係の無い事だからスルーした。
期限は八月の後半……また忙しくなりそうね……。
璃玖は璃玖の方で話し、私は私の方で舞夜と個別に話を進めた。今回の事件に合わせて巫女派閥内における力のある人らを軒並み処分する必要がある。流石に大量の人間を一気に消すのには後始末が大変だが……死体の処理という点で言えば舞夜の故郷が打って付けらしいのでその提案に乗っかった。手続きの方も秘密裏に進めた。
怪しまれない様に手に入れている重要な情報も含めて、全て私経由で母の方へ話した。あの街へ行くように誘導もした。舞夜との計画通り、何の疑いも持たれることも無く候補の人ら全員を街の中へ連れ込んだ。
……一つ予想外があると言うのなら、舞夜が彼を連れて行くことを選んだことくらいかしら?
あの子にとって、あの街に居る彼ら……件のアーティファクトに関わる一連の関係者全員が守るべき対象になる。その為だけの人生を捧げて来たと言っても過言じゃない、実際に事実になる。
そんな彼に自分の秘密を……恐らく知られたくないと思われる余計な情報を与える事になる。それは舞夜が嫌いそうなことに思えるけれど……。
新海翔。舞夜が救いたいと言っていた男……。一体、どれだけの価値があるのだろうか?これまでの彼女の姿を見て来た私にとって、その源となる人が少しだけ気になった。
舞夜が私が連れて来た同伴者を建物内へ連れ込み、中へ入ろうとした一瞬……視線が誰も居ないはずの場所へ向けられたのを確認した。
「……どうせいるのでしょう?姿を見せてくれるかしら」
周囲を見渡しても人の気配すら感じられない……恐らく、話に聞いていた気配を消す能力を使っているのでしょうね。
「別に害を成すつもりはないから安心して。少し話がしたいだけ」
数秒程無言の静寂が訪れた後、数メートル離れた場所から突如人の気配が現れた。
「やっぱり居たのね。もし居なかったら恥ずかしい思いをするとこだったから安心した」
これがアーティファクトってやつね。実際に味わってみるとほんとに厄介な能力。
気配が出て来た場所に視線を向けると、少し警戒した様子でこちらを見る……新海翔が居た。
んー、文字が多くて見えづらい気が……。