浮島家との問題を片付けて行きます。
ちょっと長くなってしまいました……。
「……それで、俺に話があるっていうのは何でしょう……?」
先程、俺に話があると言って来た目の前の浮島七瀬さんと一緒に拠点へ先に戻った。九重が戻ってくるまでにまだ時間があるので内容にはよるが大丈夫だと思う。
ここに戻るまでの道中は特に一言も会話を交わさず、喋ったことと言えば俺が天のアーティファクトの能力で対象に含めたとかそんぐらい。
……ぶっちゃけ、めちゃくちゃ気まずい。話した事も無い、恐らく年上に見えるが……。ここに来た最初の時はお淑やかな感じの人だったが、今はその姿は無くぶっきらぼうな表情を浮かべている。猫被っていたんだろう……多分。
「そんなに身構えなくて良いわよ、大した用事じゃないから」
足を組み大した事では無いと示す様に手をひらひらと振るう。
「は、はぁ……」
「単純に、どうして舞夜があなたをわざわざこんな場所に連れて来たのか気になっただけ」
「九重が……ですか?」
「ええ、何かきいてるのかしら?」
「えっと……そうですね……」
この場合、この人はこちらの事情を何処まで知っているのだろうか……?少なくともアーティファクトの存在は認知しているようだが……。
「ああ、そっちの事情は大体は聞いてるから変に濁さなくても大丈夫。能力も含めてね」
俺がどう話そうか考えてるのを察したのか、相手から問題無いと出て来た。
「……分かりました。九重から聞いている範囲では……俺が他の枝、世界へ行った時の為の保険として付いて来て欲しいとは聞いてます」
「ふぅん……まぁ、妥当な理由と言えば妥当ね。ここ以外の世界でも可能性は高いもの」
顎に指を充てながら納得をする。
「けど、それだけじゃないのでしょ?もっと大事な意味がある……違うかしら?」
俺の考えを覗き込むような視線を向けてくる。
……これは、この人に話した方が良いのか?確かに、現状九重の傍で見て来ているが進展らしい何かがあったとは言えない。別視点からのアドバイスや俺よりも長い付き合いがあると思われる人の意見を聞いた方が得策かもしれない。
相手は恐らく何かあると分かっている。それを変に誤魔化すのも難しいだろうし……俺もあまり得意じゃない。
「正直に話すと……あるかもしれません」
「その言い方という事は、あなたもまだ分かっていないってことね?」
「はい。九重からは……ここに、この街に来て……自分を知ってほしいと言われてます」
「自分を……」
「それが何なのか俺はまだ分かっていませんが……今回の騒動が済めば色々と話してくれると約束はしています」
「……なるほどね。舞夜は、話すことを選んだという事ね」
目を細め、何か知っている様な口振りで話す。
「何か知っているのですか?」
「さぁね、私もあの子のことを深く知っているわけじゃないし。そもそも誰にも話して無いんじゃないかしら?」
「そ、そうなんですか……?」
「私は何となくあの子がそう言った秘密を抱えているってのを感じているだけで、内容までは知らないわ」
「……そうですか」
「きっと、それを知るのは貴方だけなのでしょうね……」
少しだけ目を伏せ、ボソッと呟く。
「ま、私には関係の無い事だから別にどうでも良いわね、それより……この街の状況を教えてもらえない?」
気持ちを切り替えるような言葉で片付け、話題を変える。
「えっと、街について……?」
「ええ、一週間程滞在しているのでしょう?それなりに見て回ったと思うのだけど?」
「ま、まぁ……そうですね。そこそこ歩き回ったかと……」
「どんな場所だったのかしら?ここは」
「そ、そうですね……一言で言い表すのは難しいのですが……無秩序、と言いますか」
「人としての生活レベルはどんなものかしら?」
「場所によって差が大きかった感じです。九重の言葉を借りると……俺達が居るこの場所が―――」
どういった意味があって聞いてくるのかよく分からないが、真剣そうに聞いてくるので正直に答えた。
「……なるほど、概ね想定通りの場所というわけね」
聞かれたことに対して俺が知っている情報と感想をある程度話すと、納得したように目を閉じて頷いた。
「ありがとう。礼を言うわ」
「い、いえ……」
納得してくれた……で良いのだろうか?この人が何を知りたがってるのかよく分からないが……。
「あと……それとは別で謝っておくわ。あなたと舞夜を私のせいで余計な時間を使わせてしまった事に対して」
「あ、いえ……元々は俺が……こちらが首を突っ込んだだけで……浮島さんの方にも事情があったでしょうし気にしてませんので……」
「……そう。それと、苗字では無く名前の七瀬で良いわ。あまり苗字で呼ばれるのは好きでは無いのよ」
「わ、分かりました」
「それじゃあ話は以上で。明日辺りまで厄介になると思うけどよろしくお願いするわ。一応この後舞夜にも改めて言っておくけど」
「了解です」
思ってたよりすんなりと話が終わった事に少し安堵する。もっと九重に関して色々と聞いてくるかと思ったが……。
「……帰って来たみたいね」
俺から意識を逸らし入口の方に顔を向ける。すると、拠点の入口を開けるような音が鳴り扉がゆっくりと開く。
「ただいま戻りました。二人とも」
用が済んだと思われる九重が手を振りながら中へ入って来る。
「戻ってきたようね」
「うん、こっちは問題無く終わったよ。一応体は残してあるけどどうする?持って帰る?」
「……そうね、何人かは遺族の元へ還す必要がありそうだから後で回収しておくわ」
「明日まで残ってるか保証は出来ないけど……」
「その場合はそれで構わないわ、あれば有利程度の話よ」
「分かった。じゃあそう言う事で」
あちらの話が終わったのか、今度はこちらを向く。
「おつかれさん。怪我は無かったか?」
「そりゃ勿論ですよっ。先輩こそ七瀬さんと二人っきりで気まずく無かったですか?いじめられていませんでしたか?」
「ちょっと、するわけ無いじゃない。そんな低俗なこと。少し世間話をしていただけよ」
「へぇー……世間話をするほどには仲良くなったのですか?」
少し意外そうな顔で俺を見る。
「まぁ、確かに世間話と言えばそうなるな……うん」
「私はてっきり七瀬さんの雰囲気に負けてお互い無言のままだと思っていたのですが……」
「あんたねぇ……明日までお世話になるのだからその程度は打ち解けておいた方が楽でしょ?」
「一理ある」
「それと、後続はあと四時間後には着くように手配しているから、残りも手伝って頂戴」
「了解、それまではここでゆったりとしておく?」
「そうね、あまり外には出たいとは思わないわ」
「あはは、それは私も賛成かな?故郷だけど案内できる名所も観光スポットも無いしね」
「既に存在自体が名所じゃないかしら?」
「百理ある」
次の目的まで時間が余ったのでここでゆっくりする事が決まり、二人で雑談をしている。お互い特に気を遣っている様子は無く普通に話している。うき……七瀬さんの方もさっきとは違って九重と話している表情は少し楽しそうに見える。
「そう言えば、白巳津川……あなたの実家の方はどうなってるの?」
「んー……どうだろ?一応もう動いているとは思うけど。特に連絡も無いから問題なく進行していると思うよ?今日の夜には連絡取るつもりだけど」
「璃玖の方も上手くやってるかしら……」
「大丈夫じゃない?おじいちゃん達も居るし、私の幻体も置いて来てるから。……心配?」
「そこまで崇高な理由じゃないわよ。今後に支障をきたさないか気になっただけ」
「素直じゃないねぇ……、多分璃玖さんの方も同じようにこっちを心配してるんじゃないかな?」
「そこまで余裕が出来てるのなら良いけどね。……ここでやるべきことはまだ残ってるのかしら?」
「ん?んー……、七瀬さんの件が終わったら少しだけ後片付けがあって……、それが終わり次第完了かな?」
「そ、私は明日にはここを出るからそれまではよろしく」
「うん、大丈夫。折角七瀬さんが来たんだから今日の夜は少し盛大にしておこっか?」
「……ふふ、そうね。お願い出来るかしら?」
お互いに不敵な笑みを浮かべながらアイコンタクトを交わしている。……怪しい見た目だなぁ。
「勿論!記念になる日だしね……!って、先輩の前で不適切でしたね。失敬」
と思ったら慌てる様に俺に謝って来た。
「あ、いや……俺の事は気にしないで続けてくれ」
「いえいえ、三人いるのですから仲間外れは良く無いですよ!ですよね?」
「そうね、どちらかと言えばお邪魔虫は私になるもの」
「えー……七瀬さんってそう言う事言っちゃうタイプなんだー。わざわざその言葉を選ぶって、何に対してのお邪魔虫か気になって仕方ないなぁ……?」
「さぁ?私は色恋にはあまり興味が無いから知らないわ」
「色恋って自白しちゃってるからね?それに、先輩には既に四人の素敵な恋人さん達が居るんだからっ!」
「んなっ……!?」
バーンッ!と、片手を俺に向けて広げる。九重お前……!それを言うのかよっ!?
「恋人が……四人……?」
それを聞いた七瀬さんが信じられない物を見た表情で眉を歪めている。
「待てっ、九重……!それは言っちゃ駄目なやつだろ……!」
「すみません、しっかりと否定しておかねばと思いまして」
「ああ、いや、言いたい事は分かるが……」
「……別にそっちの事情にどうこう言う気は無いけど、良く四人同時と交際が出来るわね……驚きだわ」
「ふふん、そりゃここまで様々な世界を巡り巡って来た先輩にだからこそ出来る芸当ですよ!」
何故か分からんが九重が自慢そうに胸を張っていた。
「ふーん、それってつまり……他の世界で色んな女性と交際をして来たってことになるのかしら?」
「うぐ……」
あっさりと突き止められる。
「なんだ、図星なのね。となると……あの四人ってことになるのかしら」
「その通り。七瀬さんが思い浮かんだ四人で間違いないよ」
「へー……四人だけねぇ……」
「うん、四人だけだよ?」
「……?」
何か二人の間で無言の間が続く。
「ま、良いわ。興味無いし私がどうこう言う事でもないから。精々背中を刺されない様にだけ祈っておくわ」
「大丈夫っ!先輩のオーバーロードがあれば解決出来ない問題は無いから!」
「その大層な力を痴情のもつれに使うのはどうなのかしら……?」
「それでは先輩、行って来ますね?」
「ああ、気を付けてな」
「ご安心を。これは最後の後片付け、みたいなものですので直ぐに戻って来ますよ。ですよね?」
「そうね。さっさと片付けて帰るわ」
「ではでは、留守をお任せしますねー」
先輩一人を拠点に残して七瀬さんと一緒に外へ出る。
「そっちの進捗はどんな感じ?」
「ちょっと待って……もう暫くで私が合流した地点に着きそうね」
「了解。それじゃあ私は指定の場所で待ってれば良い?それとも姿消して一緒に付いて行こうか?」
「付き添いは要らないから待ってて」
「ん、分かった。一応通路前までは送るよ。帰り道は覚えてる?」
「平気。それに幾つかのポイントにマーク付けてるから迷わないわ」
「私と合流したら何かする?それとも直ぐに終わらせる?」
「……そうね、最後に少しだけ時間を貰えるかしら?」
「全然大丈夫だよっ、一時間でも一日でも逃げられる心配無いし」
「数分で結構よ。私が合図を送ったら出てきてもらえる?」
「承知承知」
最後の打ち合わせをしながら七瀬さんを入口まで送り、少し急いで指定の場所まで移動する。
「うーん、多少は抵抗した痕跡でも残しておいた方が良いのかな……?」
流れとしては私を捕える事に成功したから合流となっている。連れて来た人達の大半は捕まえる際の抵抗で負傷したり死んだりと適当に理由を付けているので向かってるのは七瀬さんのみ。
「まさか本当に薬を用意していたなんてね……はは」
どこから調達したのか分からないが、かなり強力な薬らしい。これを飲み物に混ぜるのか力業で飲ませる気だったのか分からないけど……多分私に効くんだろうと思う。飲んでないから分からないけど。
だけど、アーティファクトを持ってる私なら異常を感じた時点で悪化を防げるので、仮に実行に移されても失敗に終わるだろう……。ま、向こうは私がどんなアーティファクトを持ってるのか知らないしね。
そもそも、万が一私が落ちても先輩が居るので最初から勝ち筋は一パーセントも無い。必ず負ける。
「七瀬さんが時間の無駄って言うのも分かるなぁ……」
先程打ち合わせ中にボソッと溢していた言葉を思い返しながら建物内の場を荒らす。
「こんなもんで良いかな?それじゃあ奥の部屋で待ってよっと」
気配を消してから大人しく外の気配を探っておく。
七瀬さん、最後に母親と時間を作って欲しいって言ってたけど、何か聞きたい事でもあるのかな?それとも何か復讐的な事でもするつもりなのだろうか?長年の気持ちをぶちまけるつもり……?
「……いや、これは彼女自身の問題だよね」
私はただ受けた約束を違えずに終わらせれば大丈夫。その後浮島家がどうなるかまでは関与する必要は無いはず……。お願いされれば手伝うけどね。
一時間ほど静かに待っていると、入口の方で三人程の気配が現れる。
……お、ようやく来たのかな?
バレない様に細心の注意を払いながらその動向を見守る。
「あら、出迎えは無いのかしら?」
「……捕らえる際に大多数がやられましたが、人は残っていました……少し妙ですね」
入って来た七瀬さんの母親が誰も居ない事を不思議に思い口に出す。それに七瀬さんも同調する。
「……もしかすると、私がお母様を迎えに行っていた間に、何か起きたのかもしれません」
「七瀬様、私が先頭を歩きましょうか?」
お付きで付いて来たと思われる女性が提案を出すが、それを断って自ら先頭を歩くと返事をする。
「お母様、念のためにご確認をしておきますが……もし有事の際、こちらからの連絡が途絶えたなどの事態が起こった時に何か保険などはなされていますか?」
「いえ、今回は特にしてきていないわ。……何か問題が起きてるのかしら?」
「……いいえ、この街は想定以上に危険が多いと聞いておりますので、もしもの時の為に聞いておきたかっただけです。ご安心を」
……そろそろ行動を起こすタイミングかな?それにしても緊急事態の保険を掛けて来ていないのは中々危機感が不足してると思うんだけど……。こんな街に来たら何が起きてもおかしく無いのに……もしかしてそうなる様に仕向けていたのかな?
「お母様、九重舞夜はこの奥の部屋におります」
「ええ、行きましょう」
私が居ると聞いた途端に声のトーンが上がった様に聞こえる。手に入れたいお宝が目の前にあると分かって嬉しくてたまらないんだろうなぁ……。
足音を聞いていると、母親の方が七瀬さんより前に出て扉を開けに来ようとしている。多分七瀬さんはそれを後ろから見ている感じだろう……そして隙を見てお付きの人でも殺す気かな?殺気はまだ感じないけど。
身を潜めていると、扉の空く音が鳴る。
「遂に私の元に……!……あら、どこに……?」
母親が部屋に入ったのを確認すると、その後ろを付いて来ていたお付きの人を背後から蹴り飛ばして無理矢理部屋の中へ押し込む。
「―――っ!?七瀬様!?一体何を……?」
「舞夜、出て来ても良いわよ。それと防音もお願い」
七瀬さんからの合図が出たので姿を現すと同時に、部屋をアーティファクトの能力で固定しておく。これで絶対にこの部屋からは出れない。
「はろはろー。貴女のお目当ての九重舞夜ですよ、こうしてお会いになるのは久しぶりになりますね。息災みたいで何よりです」
「っ!?……七瀬!これは一体どういう……!?」
「どういう……?ターゲットの彼女をこの場に留めておいたのですが……?」
「薬を飲ませていたはずでしょうっ……?」
「どうやら、彼女には薬の耐性があった様で……御覧の通りピンピンしておりました。申し訳ありません」
「眠らせていたと言うのは噓だったのね……!あなた、裏切ったの!?」
「裏切る……?これはまたご冗談を。私は裏切ってなどおりませんよ、お母様」
「ならっ!この状況をどう説明する気なの!!」
「九重舞夜を手に入れる……この計画で私は一度たりともあなたの味方に付いた覚えはございません。最初から彼女の味方です」
「っ!?」
とうとう七瀬さんの口から明かされる衝撃の事実っ!きっと今の彼女は最高に気分が良いだろうね。目の前の母親の驚く顔を見れたんだから。
「いつから……まさか……私に提案をした時から、既に……?」
「ええ、だからそう仰ってるのです」
今は二人の会話を邪魔しない様に大人しくしていようかな。取り敢えずお付きの人には静かに退場してもらおう。
「……どうしてかしら?どうして私を裏切ったの?」
「単純です。貴女が憎い、それだけです」
「私が憎い……?他の人間から私を排除する為に動いてるのでは無く……?」
「はい、これは私自身の行動です。九重舞夜にはそれを手伝って貰ってるに過ぎません。これは、私が望んで起こした事です。誰の介入もございません」
「尚更分からないわ!よりにもよってあなたがなんて……!誰に唆されたのっ!?」
「ですから……いえ、これ以上は無意味ね。あなたに私の気持ちが分かる訳が無いもの。まぁ、気づかれない様に動いて来たんだから当然ね」
「な、ななせ……?」
先程まではまだぎりぎり取り繕っては居たけど、めんどくさくなったのか皮を脱ぎ捨てた。娘の当然の変わり様に困惑を隠せていない。
「はっきり言っておくわ。私が貴女がずっと憎かった。何度殺してやろうかと思ったか数えるのも嫌になるほどにね。でもしなかった……利用価値があったから。けど、舞夜の役目が終えた今、その価値も消えた。だから行動に移した」
「利用、価値……」
「ええ、舞夜には敵が多かったから。それにこの子の願いを叶える為に何かとお金も必要だったし人手もあればあるだけ便利になる。九重家の力だけでも良かったけど、私にもそれくらいの手助けはしてあげたかったから利用したわ。想定以上に規模が大きくなったのは困りものだったけど」
「私を……利用して……、それじゃあ……九重家が邪魔をしてこなかったのも……?」
「ご明察。舞夜にお願いして止めて貰っていたわ。それまで嫌がらせは程々に留めていたからすくすくと拡大して行けたでしょう?潰されないのが自分の手腕とでも思っていたのかしら?」
「今の話は……本当なのでしょうか……?」
七瀬さんの話が信じられないのか、私を向いて聞いてくる。
「んー、そうだね。お互いの為に協力してきた。私は私の叶えたい願いを。七瀬さんは七瀬さんの叶えたい望みを。私は神を殺して平穏を手に入れる事。七瀬さんは呪縛の根本を消し去ること……かな?」
「呪縛の……根本……?」
「ま、ここまで来たらその対象が誰かって嫌でも分かるでしょ?どうしてわざわざこの場におびき出されたのか」
「―――ひっ!ど、どうしてですかっ!!わた、私は……貴女が……!!」
「あー……そういうのは良いから。最初からあなた達の派閥には少しも興味無かったからね。どうして私を欲していたのか、何に惹かれたのかとか」
「貴女が……貴女こそが……」
「……あはは、まぁ気持ちは分からなくも無いけどねー、弱者が……心の弱い者が何かに縋りたくなる気持ちは。その対象を誰にするかなんて自由だしさ」
偶々そのタイミングで私が居ただけで……いや、これは流石に無理があるか。
「一族は神を滅する為にこれまで生きて来ている。その神を殺せる機会が訪れた。とある少女の言葉と共に……。確かに予言と呼べるし、九十九神社の巫女よりも巫女っぽいしね。希望を抱くのも無理ないでしょう」
「でもね……、私をまるで神とでも言いたくなるような形態の組織を作って何がしたかったのか理解出来なかった。私はそんな目的の為に生きる事を選んだ訳じゃない。強くなると決めた訳じゃない。それに……神を殺す為の一族なのに、紛い物の神を偽造してそれに縋るってどうなの?ってのが正直な感想」
「神を引きずり降ろす位じゃないとあの醜悪な魔女には……って、これを貴女らに言っても仕方ないね」
……もし、もしもこれが私の考えを汲み取ってくれて、一緒にイーリスを殺す為に頑張ってくれていたら……良い協力者に成っていたんだろうね。まぁ、それが七瀬さんに当たるんだけど。
「ですが……!確かに貴女様はっ!伝承通りの……!!」
「そんな過去の人が残した言い伝えなんてどうでも良いよ。だから私をトップに置く?九重家から出し抜く?強くなるのも運命通り……?聞いた時は発したその口を引き裂いてやろうかと思ったよ、あはは」
「私は私の意志で、望んで強さを求めた。そこに一族の言い伝えなんて関係ない。私が救いたいと願ったからだ」
……それに、その言い伝えの少女は……きっと結城先輩の事を指すと思うから。
「……と、まぁ?これが私の考え。貴女らが何を見てそう受け取ったのか分からないけど、納得出来た?」
「あ、貴女は希望なのです……!私達の……!いえっ!多くの人達にとって!一族の悲願の神を討ち滅ぼしたという……!」
「あー……それも違うよ。確かに一族の悲願だったけど、それはあくまでもおまけで達成したに過ぎないから。私は皆を……先輩を救いたかっただけ。その為に神を殺す必要があった。そしたらついでに悲願も叶ったね、良かった良かったってだけ。誰かの希望になるとか……まっぴらごめんだね。勝手に担ぎ上げようとしないでくれる?……担ぎ上げるなって話、前にも言ったと思うけど」
「どうして……どうしてなのですか……」
「もしかしてまだ受け入れて貰えるって考えて……って、それは無いか。だからこんな強硬手段を持ち出したもんね」
チラッと七瀬さんの方を見ると、少し見下した様な無表情でこちらの会話を聞いていた。
「……私からの無駄話はこの辺にしといて、何か聞いておきたい事とかあるかな?七瀬さん」
「……もういいわ。もう分かったから満足したわ」
「そっか」
最後に話すと言っていたけど、もう良いのかな?それとも知りたい事が知れたのか。
「それじゃあ、一応確認しておくけど……何か言い残すこととかあったりする?遺言的な意味で、だけど」
「―――!?お、お願いします!!どうか……!どうかお考え直して下さいっ!私は……!私は……!!」
最後に何か七瀬さんに言う事でもあるのかと聞いてみたけど、何故か私に縋りついて来た。それに……この言葉を向けるなら相手が間違っている。
「私は貴女が一族にとって最も相応しい人だと確信しております!そのためであればどんな事だって―――っ!?」
何を言い出すのかとドン引きしていると、背後に立っていた七瀬さんが護衛用と思われる武器を取り出し、そのまま背後から心臓部分を刺しだした。
「―――あ、あ……?な、なせ……!」
「ありゃ、予定と違うけど……?」
「これ以上見てられないわ」
切っ先を捻じり、刺した武器を抜き取る。
「あ―――ああっ!あああああっ!!!」
自分が背後から刺されたと理解し、胸から流れ出る血を手で抑える。
「あなた……!このっ……!!」
振り返り、七瀬さんを睨み掴みかかろうと手を伸ばす。
「こ、の……親不、考……っつ。ぐ……っ!」
伸ばした手は首に掛かろうとしたが、その直前で力なく垂れて行きそのまま倒れる。
「もう……少しで……っ、わ、わたし、は……」
最後にボソボソと何かを呟き、そのまま息絶えた。
「……ふぅ、これで終わりね。おつかれ、舞夜。礼を言うわ」
「いえいえ、約束したからね。それで……良かったの?自分でトドメを刺しちゃって」
「良いのよ。さっきまでのを見て……私の手で殺してやりたいって思ったから」
「そっか。……多少の復讐心は満たされた?」
「そうね、清々しい気分にはなったわ。ざまぁ見ろって気分も良い……けど、思ったよりも満たされてない気がするのよね、意外だわ……」
「ふふ、きっと七瀬さんの中でのこの人の比重がそこまで高く無かったんじゃないかな?」
「そんなもんなのかしら?」
「正確には高く無くなって行った……かな?確かに最初はもっと憎んでいたと思うけど、今の七瀬さんは昔とは違うからね」
「ずっと変わらないと思っていたけど……自分では分からない物ね」
「それは多分、昔より色んな事を知ったからだと思うよ。囚われていたあの頃と違って……ね?」
「それも……そうね」
「本番はこれからになりそうだけど、大丈夫そう?」
「問題無いわ。後処理の方も手を回しているもの。九重家の方からも口添えは貰えるのでしょう?」
「そこは問題無し。私本人からのに合わせておじいちゃん達とも口裏合わせは終えてるから」
「後は私が派閥を解体したら解決ね」
「それじゃあ、一応片付けて戻ろっか?」
「ええ、そうしましょう」
足元で息絶えてる死体を持ち上げる。
「あ、七瀬さんはそこの人お願い」
能力を解除して地面へ倒れ込んだ人を顎で指す。
「……いつの間に殺してたの?」
「ん?能力でちゃちゃっとね?」
「動けずに声も音も上げず……ほんと便利な力ね」
「ほんとにねー、あはは」
その後、拠点へと戻り一段落したと先輩へ伝え、今日は外に出る予定も無いので順番でシャワーを浴び汚れを落とした。
日も暮れ始めた辺りに夕食の準備を始め、その日のご飯は少しだけ豪華……と言っても数を増やしたり単品と単品を組み合わせてオシャレ風にしただけのご飯だったけど、雰囲気作りの為頑張ってみた。本人の七瀬さんも少しは楽しそうな表情を浮かべていたと思う。
……思えば、七瀬さんとこうやって何気なくご飯を一緒に食べるのは初めてだったなぁ……と記憶を掘り返しながら三人でどうでも良い雑談を楽しんで一夜を明かした。
これで大体は終わりですかね?残りは後処理的な話を書いて、主人公と翔とのやり取りを書いたら、この騒動も終わりになりますのでもう暫くお付き合いください!