増援……増援?
「そろそろ応援呼んだ人達が街に到着するみたい」
次の日、朝食を食べ終えてから三人で片付けをしている最中に連絡が入った。
「思ったよりも早い合流ね」
「ね、私もまだまだ時間が掛かると思ってたけど……」
昨日の晩に白巳津川……九重家の方には既に連絡を取っておいた。この街の今の騒動を収拾する為に正式な部隊を送る手筈にはなっているけど、予定よりもかなり早い段階での到着とのことらしい。
「私はそのまま
「うん、勝手に動いた浮島家……正確には私を捕えようと勝手に動いた派閥の暴走を私と一緒に阻止した、って話だからね。一応事実だしおじいちゃん達にもちゃんと連絡済みだよ?安心して」
「そう……世話になるわ」
「しっかりとアフターケア……と言うか最後の着地地点まで終わらせてこその約束だからね」
「後続部隊の方は誰が来るのかしら?」
「多分、壮六さん辺りが指揮を執るのが楽だけど―――っ?」
一番こういった事に能力のある人が向かわれるだろうと考えていると、物凄い速さで何かがこっちに向かってくる気配を察知する。
「舞夜?どうしたの……って、何か来るわね……」
隣の七瀬さんも向かって来る気配を感じ取り、直ぐに警戒する。
「どうか、したのか……?」
私達の変化に気付いた新海先輩が不思議そうに私達を見る。
「―――なんて速度よ……準備する時間も無いじゃない」
「敵……が来ているのか?」
「知らないわ、けど……誰かが向かって来ている。わざわざこちらが分かるように殺気までばらまいて……」
「……ううん、敵じゃない。多分、驚かせようとしているだけだと思うから先輩は安心して下さい」
このままだと入り口の扉が破壊されそうだと思い、早々に扉を解放する。
「舞夜……大丈夫なの?」
「平気平気。……なるほどー、だからこんなにも早くここに来たってことかぁ……単独なのかな?」
「九重……?扉を開けて良いのか?」
「大丈夫ですよ。寧ろちゃんとお出迎えをしないと怒られますし……七瀬さんには、念のため先輩の安全を確保してもらっても良いですか?」
「……分かったわ」
入口から数歩出てから、こちらへ向かって来る相手を待つ。
「んー……向こうでの戦いがよっほど退屈だったのかなぁ……?」
その八つ当たり……とまではいかないけど、ちょっとした発散をしたいのかも。
構えを取る。そろそろ相手が視界に入ってくる頃だろう……と、思った時には既にそのお相手は目の前まで迫って来た。
「ふふふ……!」
私と目が合うと、嬉しそうに笑みを浮かべたまま攻撃に入る。それを受け流すが後方に衝撃の余波が押し寄せる。
狭い通路もあり、風圧がそのまま拠点内へ向かった。
「安全って……私にこれを止めさせる為ね……はぁ……」
呆れた表情の七瀬さんが洗い物で使っていたハンドタオルを手に持ち、それを振るって相殺する。
「くぅっぉおっ!?」
七瀬さんの後ろに立っている先輩が驚く声を上げる。
「随分と張り切った感じだけど……何かあったの?
後ろが大丈夫だと確認してから正面の相手に話しかける。
「向こうがあまりにもつまらなかったから少し気分転換にね。元気にしてたかしら?」
拳を下げ、揶揄う様な表情を浮かべながらもそう答えた。
「向こうは良いの?残党処理が残ってるって聞いてるけど?」
澪姉を拠点へ招き入れ、最初に気になった事を聞いてみる。
「良いのよあんなのは。どうせ大して重要じゃないし、ここに一番近いのが私だったからついでに来てあげたわ」
話を聞いてみると、どうやら自分の役目をさっさと終わらせてから白巳津川が大丈夫だと分かるや否や、この街へ向けて動き出していたらしい。
「えっと……壮六さんの方に連絡、とかは……?」
「当然してないわよ?それじゃあサプライズにならないでしょ?」
「あー……なるほど、サプライズ……」
これは後で、壮六さんに連絡入れておかないと……。
「それで?こっちでやることはまだ残ってるのかしら?」
「えー……えっとね?残りは……その、こっちも後片付け程度で、騒動を収めるとか、残党処理なんだけど……?」
「……ちっ、少し遅かったわね。もっと早く来るべきだったわ」
「てかてか、澪姉はどうやって来たの?」
「心配しなくても平気よ。ちゃんと正式なルートで来ているから。緊急事態という事で先に一人でここに来たって入口には話しているから」
「あー……だから私の場所まで最速で来たんだ」
既に九重家……というよりは一族としてこの街で大きな騒動が起きている事はここの管理元へ報告はしているらしい。それを治めるために部隊を送るとも連絡は言ってるはず。だから澪姉が来るのはおかしくは無い。けど、来たと言う連絡も九重家に行くはず。それを聞いた壮六さん辺りが私に連絡を飛ばすから、それが来るより早く来たって訳かぁ……。
「あとで怒られると思うけど?」
「いいじゃない、この位。寧ろ早く終わらせる為に働いてるって褒めても良いじゃない?」
「うーん、ま、いっか。一応私も適当に口添えしとくね。あ、そうだ……それなら一緒に後片付けする?それなら大丈夫じゃないかな?」
「……そうね、それで我慢しようかしら」
「とは言っても……多分お気に召す相手はいないけど」
「別に誰かと戦いたいから来たわけじゃないからいいわよ。単に暇つぶしみたいなものだから」
「了解、久しぶりに澪姉と一緒に働きますか」
「何年振りかしら?」
「この世界だと数年振りかな?」
「他じゃ……どのくらい?」
「あはは、長らく……?」
数十年振りかな?……懐かしいね。
「それじゃあ。七瀬さんと先輩はこのままここで待機という感じに―――って、連絡が来たね。壮六さんの方からかな?」
私と澪姉が話しているのを見守っていた二人へ振り向き、予定を話そうとした時に連絡が送られてくる。多分、澪姉の事に関してだろうと予想して内容を確認する。
「………、んー?……あー……そうなったかぁ……」
壮六さんから送られてきたメッセージを見て苦笑いをする。
「なんて来たのかしら?」
「あー……それが、澪姉は戻って来いとの……ご連絡がぁ……」
「………」
私の言葉に嫌そうな顔をしてそっぽを向いた。
「一応、建前として七瀬さんを連れ帰って来いと」
「………」
「あの、聞いてる?」
「………」
顔を背けたまま返事ない姉上様に声をかけるが、今度は耳を塞ぎ始める。
「……わざわざ来て貰って、ひじょーに申し訳ないんだけど……とんぼ返り、という事で……お願いします」
何故か私が気まずい感じになりながらもとりあえずお願いする。
「………、……はぁ……。仕方ないわね。了解したって送っておいて」
「うん。ありがと。なんかごめんね?折角来たのに」
「良いわよ別に。舞夜の顔を見れたから満足しておくわ」
「そりゃどうも?お詫びか分かんないけど、機会があれば今度穴埋めをお願いしとくね?澪姉と一緒に行ける依頼があるか分かんないけど……」
「舞夜とは系統が合わないけど……ま、別に依頼じゃなくても良いわ。今度また出掛けましょう?良い場所探しておくから空けるように」
「はーい、楽しみにしておくね?」
「それで?私の仕事内容を聞かせて」
「だね。えっと、先ほどお願いしていた増援が街に入ったみたいだから、その人達と入れ違いで戻って欲しいってさ。そこで七瀬さんを連れて一旦近くの場所で落ち合う様にして欲しいって」
「近くの街?」
「うん、事前に七瀬さんが帰る時用に備えてる人らを置いていて、保護した後はそっちと合流して一度浮島家に帰還する予定だったの。本来ならその後に九重家と会ってこれまでの経緯を説明。って流れだったんだけど、澪姉が保護したって形にするから九重家に連れ帰って浮島家を九重家に呼びだす事に変更したみたい」
「ふーん、なるほどね」
「ぶっちゃけ、私的にはどっちも同じでは?って思ったけど、違いがあるってことだよね?」
「気にしなくていいわよ。面倒事を少し省く程度の話だから」
「わかった。という事で澪姉の方にも連絡が行くと思うから、街から出たら確認しておいて下さいな。細かい話はお二人で口裏合わせてね」
「はいはい、やっておくわ。それでいいわよね?」
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」
「それじゃあ帰るまでちょっとだけ時間あるし、私の方の経緯も話しておくね?」
「そうね、舞夜のも聞いた方がやり易くなるから聞かせてちょうだい」
「えーっと、どこから話そうかな……」
「それじゃあ、行くわよ?」
「はい。よろしくお願いします」
予め呼んでいた後続が来たので舞夜に別れを告げて街の外へ向かう。
「そう言えば、私は非正規のルートで入っているのですが、大丈夫なのですか?」
「平気よ。保護したって言えば記録には残るけどなんとでも出来るわ」
街の存在を知っている人間の把握として念のため記録には残す事にはなるでしょうけど、私達一族なら特に問題にはならない。
「それよりも、七瀬ちゃんのやりたかった事は達成出来たのかしら?」
「はい、舞夜の協力のおかげで無事終わりました」
「ふふ、少しだけ晴れやかな顔になってるわね」
「心の中がスッとした感じです。……ですが、自分が思ってたよりも満足感は無かったのが意外でした」
「そこまで恨んでいなかった……には思えなかったけど?」
「舞夜には、私の中にあるあの人に対する関心……みたいなのが少なくなっていたから、と言われました」
「なるほどねぇ、確かにそう言う方面もあるかもしれないわね」
「私は幼少期からあの女に囚われて来たと思っていたのですが、自分が想像していたよりもずっと自由だったのかもしれません」
隣を歩く七瀬ちゃんが少しだけ思い返す様に空を見上げる。
「そうね。意外と自分では気づけないものよ。そしてそれは後になってから分かることね」
人の機敏には聡くて冷静な子だけど、自分の事には存外疎いのね。案外そういうものなのかしら?
「そして、そのことに気付いていない……あるいは受け入れている者も少なくないわ」
「……舞夜のことでしょうか?」
「遠からず、かしら?あの子の場合は、未だにそれ以外を知らない……切り捨てて来たとも言えるわ。その場合、七瀬ちゃんとは少し違うかもしれないわね」
「……そうですね、舞夜はどこまでも薄く、鋭く……薄氷の様な刃に見えて誰よりも強固な意志を持ってる。恐ろしいほどに……」
過去の舞夜を思い出したのか、少しだけ体を強張らせていた。
「あの子はその道を自分で選択した。ま、いつまでも過去に縛られ続けているのはどうかと思うけど」
「過去……ですか?」
「ええ……別の世界の過去をずっとね」
「………、私にはその過去が何なのか知りませんが、この街で会った舞夜は……ほんの少しだけ前向きな感じがしてました」
……やっぱり、この子は良い観察眼をしているわね。
「七瀬ちゃんがそう言うのなら、きっとあの子も前に進めてるって事ね」
それについては私も同意見。さっき顔を合わせたけど、ここ数ヶ月間見て来たあの子とは違っていた。そして、それを成している人間は……。
「やっぱり、私達では叶えられない……そう言う事なのかしらね……」
あの子が小さい頃から様々な事を教えて来た。私が一番目に掛けて来たと自負している。戦いだけが……使命を果たす事だけが生きる意味では無いと。もっと世の中には楽しい事も可愛い物も沢山ある。色んな世界を知って、広めて欲しかった。
「……はぁ、ムカつくわね。ほんとに腹が立つ」
だから、私はあの少年が嫌い。この世界の……物語の主人公の彼が。あと私の気持ちを知りつつも変わらない舞夜もムカつく。そして何より、自分に一番腹が立つ。
「……?」
ここに居ない二人に対して文句を言ってると、一瞬だがこちらに向けて何か視線の様な気配を感じ取る。
「……澪さん?どうかなされました?」
「誰か知らないけど、今こっちを見ていたわ」
「視線?」
七瀬ちゃんが周囲へ意識を向けるが、当然出所は掴めない。
「……少し確かめて来るわ。待ってて頂戴」
「分かりました。お気を付けて下さい」
こんな街を歩いていれば視線なんて幾らでも感じるけど、さっきのは明らかに一般人の気配では無かった。
「………」
それに、私を見た途端に乱れるような途切れ方。あれは怯えや焦りに近い感情ね。
つまり、私の事を知っている存在。
相手に悟られない様に気配を消しながら視線の元へ向かう。
「……やっぱり、誰か居たわね」
痕跡すら消さずに慌てて逃げるような雑さ……ワザと?罠かしら?けど、怯えるような感情があったのならその本能に従って逃げた方が順当ね。
動きからして脅威になる敵では無いと判断して最速で距離を詰める。
「―――あれね」
数十秒ほど跡を追っていると、少し先で男を視界に捉える。私が追って来ている事に気が付いた男は、絶望したかの様な表情を浮かべて逃げる速度を速めた。
「―――ヒッ!?来るなっ!……来るなぁ!!」
こちらも更に距離を詰め、その背後に手が届く範囲まで来た時、男がこちらを向いて攻撃を仕掛けて来た。
それを難なく捌き、取りあえず動けない様に足の骨を圧し折る。
「ぁがぁっあああっ!!?―――ぁあああっ!!!」
「動きは素人じゃないわね。それに……」
動きからして暗殺系統の人間だと判断し、続けて両腕と手も潰しておく。
「―――っ!!???」
声にならない悲鳴がその場に響く。
「さてと、明らかにこちらに友好的じゃないみたいだけど……誰かしら?」
「く、来るな……!!来ないで、くれっ!!……俺は関係ない……っ!!!」
さっきから明らかに普通には見えない怯え方でこちらを見ている。
「私の質問に答えたら考えてあげるわ」
「あの女の関係者だろっ!?俺は危害を加えるつもりは無い!!本当だっ!」
「あの女?」
「鬼の一族の……!あの化け物のっ!九重舞夜って女のだよ!!」
「あ、分かったわ。あんた、あの場に居た若い男ね。確か……弟子とか何とか?舞夜が見かけなかったって言ってたわね」
舞夜から話が上がっていた取り溢しの一人。アーティファクトで彼があの死神の記憶を読んだ際に弟子として連れて来ていた……だったかしら。
「今後一切あんたらには関わらない……!元々あの男があんたらに対して執着していただけだ!俺は何も関係無い!敵対するつもり無いし、ただただ付いて来ただけなんだよ……っ!」
「そ、分かったわ」
「ああ、だからこのまま見逃し―――っ」
さっさと七瀬ちゃんの場所に帰るために喋ってる途中の首を蹴る。
「血、付いて無いわよね?」
得物や衣類に血痕が付くのを嫌い、打撃だけを行ったが大丈夫そうだ。
蹴られた対象は、その衝撃で首が折れ、すぐそこの壁に叩きつけられる。
「死体の回収は……面倒だし連絡だけしておきましょう」
死んでることだけを確認してから、舞夜に送るための死体の顔写真を撮り、早々に元の場所へと足を向けた。
増援の人達にこの後の事をお願いしつつも引継ぎをしていると、澪姉から連絡が入っていた。
どうやら、さっき話していた生き残りを見つけたから処分したみたい。ご丁寧に顔写真付きで送られてきた。首が明らかにおかしな角度になって顔中のあちこちの穴から血を垂れ流している何とも人様には見せられない写真だった。
先輩には見せない様に気を付けながら返事をして、引継ぎを続けた。
それらを何事も無く終え、後は騒動が片付くまで待つのみ……と言う段階まで来たけど、この後はどうしようか?
新海先輩の方を見る。私と目が合うがどうかしたのかと首を傾げて来た。
「引継ぎ?はもう大丈夫なのか?」
「ええ、これでこっちがする事はほぼほぼ無いです。あったとしても何か緊急事態が起きた場合のみだと思います」
「他にやることはあったりするのか?」
「いえ、もう私達がすることは無いですね。一応いつでも白巳津川へ帰還可能ですよ?」
「そっか、一先ずこれで落ち着けるな」
「ですね。一段落ってやつです……ですので、この前先輩と約束していた事を果たしましょうか」
「……約束」
「はい。私の事を話すって言ってたでしょう?」
「ああ、覚えてる。もう九重の言う好感度は足りたのか?」
「ふふ、さぁ?どうでしょうか。とは言っても、そこまで大層な内容じゃありませんけどね」
「……わかった。聞かせてくれるか?」
「了解です。ここでは何ですし、雰囲気作りとしてもう一度同じ場所に行っても良いですか?」
「それは全然構わないが……雰囲気作り?」
「そっちの方が口が滑り易そうな気がするのでっ!」
どうせなら話すのに相応しい場所が良いでしょうし、思い返すのにおあつらえ向きと思いたい。
「では、向かいましょう!最後のイベントをこなしに!」
「イベントって……」
苦笑いをしながらも後ろを付いてくる先輩と一緒に、再びお墓参りへと向かった。
トンボ返り。
弟子さん……。大人しく息を潜めていたが主人公とは違う気配を感じて覗いたのが運の尽き。それもひとえに勝手に街へ来た澪が居たから……。