9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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五章の最終話になってしまいました。
そのせいで文字数がががが……。




第39話: 始まりよりも前の物語

 

 

「はい、到着ですです」

 

九重に付いて行き、またこの場所にやって来た。ここまでの道中はいつも通りなんてことのない雑談をしていたが、いつもよりも話題が続くのが少なかった気がする。

 

「今日は特にお土産は無いけど我慢して下さいねー」

 

石が積まれ並べられている墓へ向かって言葉を向ける。

 

「さてと……何から話しましょうか?」

 

近くの崩れた箇所に腰を掛けて座り、こちらを見る。

 

「長話になりますし、どうぞ先輩も適当に座って下さい」

 

柔らかい笑顔で促すのを見て近くの安全そうな場所に座る。

 

「それでは……そうですね、最初に先輩が不思議に思っていたこの人、鈴音と言う名前の人との関係性について紐解いて行きましょうか」

 

九重の視線が名前の刻まれている墓石へと移るのにつられて俺もそっちを見る。

 

「この人は……なんて例えるのが一番しっくりくるのでしょうね。正直、私も正解を持っている訳では無いのですが……」

 

困った様な表情を浮かべ、手を顎に当てて首を傾げる。

 

「前世の自分……異世界転生?それとも別の世界の自分……?」

 

ポツリポツリと話し出す九重の口からおかしな単語が出てくる。

 

「別世界の自分……?」

 

その中でも俺にも見覚えのある言葉を拾う。

 

「あー、先輩にはこれが一番分かり易いのかもしれませんね!」

 

「それって……どういう事だ……?」

 

俺と同じ……という事なのだろうか?だが、俺は世界の眼を経由して別世界の同一人物である相棒と繋がってる。

 

「あ、ですが先輩と同じって訳では無いので正しくは無いですねこれは。やっぱり前世の自分と言う異世界への転生的なのが一番近いのかもしれませんねー……あはは」

 

恥ずかしそうに頬を掻く九重。

 

「前世……えっと、その、なんだ……?あれか?漫画とかである……あれか?」

 

「そう言われるとありきたりな物になって少し嫌ですが、まぁ、そんな感じです」

 

「前世の記憶……みたいなを、持ってるってこと、なのか?」

 

近年急激に人気が出始めたジャンルでよくある展開……漫画やアニメなどに取り上げられており、そのほとんどが自分が居た世界とは異なる世界へ移る始まりとなる。

 

「んー……まぁ、前世……なのかは分かりませんが、この世界……と例えるならここにいる私とは違う記憶を持っているのは事実になりますね。覚えてますか?以前話した内容で、何故私がこの世界の未来を知っていたのかを……」

 

「あ、ああ……覚えてる。確か小さい頃に自覚したとか、だよな?」

 

「ええ、その自覚した場所が……ここになります」

 

崩れた天井を見上げ、静かに笑って俺を見る。

 

「もしかして、前世の記憶って言うのは……」

 

「ふふ、その予想は当たってますよ。未来が視える……なんて馬鹿げた超能力とかは持ってません。そんなのがあるのならもっと簡単に物事が進んでますからね」

 

それは俺も不思議に思っていた事だ。未来が分かるのならもっとこう……やりようがあった場面が多いと思う。

 

「私の中にあるのは……新海先輩達の辿るべき運命……辿ったであろう枝を知っている。それだけです」

 

「つまり……その前世の記憶ってのが、九重が言っていた俺達の事を色々と知っていた理由で……そして、それを持っていたのが……」

 

「はい、先ほど名前の出したこの人……多分女性だとは思いますが」

 

『鈴音』。聞いた感じだと女性だとは思うのだが……それよりも。

 

「だと思う……?九重は知って無いのか?」

 

前世の記憶と言うくらいだ。どういった自分だったとか分かると思うのだが……?

 

「あー……なんて言いますが、記憶の全部を引き継いでいる訳では無いのですよ」

 

「所々に穴が空いている感じなのか?」

 

それはオーバーロードでもあるから理解出来る話だが……。

 

「所々……と言うより足りてない部分の方が圧倒的に多いですね!」

 

俺の質問に、くわっ!!目を見開いて手を広げる。

 

「あるのはさっき話した記憶と、こんな人間だったかなぁ~?とかいうぼんやりとした知識や感覚と……」

 

話を聞いていると、急に明らかに失言したような顔をし出す。

 

「感覚と……?」

 

「あー……いえ、一応鮮烈に残っている記憶もあったなぁー……っと思い出しただけです。はい」

 

「どんな記憶なんだ?」

 

「えー……あー……聞かない方が良いですよぉ?あはは……」

 

苦笑いをしながら目線を横へ逸らす。何か気まずい内容なのだろうか?

 

「因みにだが……どういった系の話だ?」

 

「えっと、グロ系ですね。死を彷彿とさせるようなやつです」

 

「……今の言葉で、何となく内容が予想出来てしまったわ、ちくしょう……」

 

前世と言ってるし……こういうパターンでよくあるのは、生涯最後の……。

 

「あはは~、ほんと申し訳ないですっ。気分を悪くしないで下さいね!」

 

「どんな最後だったんだ……?」

 

「へ……?」

 

「前世の最後は、どんな終わり方だったんだって聞いた」

 

「えと、あの……?聞きたいのですか?普通この流れはスルーすると思ったのですが……?」

 

「ああ、聞いておきたい」

 

「……どうして、ですか?」

 

さっきまでおふざけな空気を醸し出していた九重が困った様に聞いてくる。

 

「知っておきたいからだ。九重の事を」

 

「……なるほど、です」

 

「けど、勿論九重が嫌なら言わなくても良いからな?きっと、良い記憶じゃないんだろ?」

 

「まぁ、死に際の記憶なんですし良くないのが普通でしょう。けど……そうですね、話しておきましょう」

 

「大丈夫なのか?」

 

「はい。それに……私だけじゃなく他の人にも知っておいて欲しいって感情がありますし……誰にも知られずに終わるのは、思ったよりも寂しいものでしたから」

 

目を伏せ、悲しそうな声で呟く。

 

「覚えてるのは……急激な揺れと、私を目掛けて倒れてくる家具の数々。部屋中と体がシェイクされたみたいに動いた、でしょうか?」

 

「揺れ……?もしかして、地震か?」

 

「状況的に考えてそうですね。後は、家具か建物か分かりませんが、それの下敷きになって身動きも取れず、真っ暗で何も見えなくて……徐々に薄れて行く意識と、冷たくなっていった身体の体温……ですかね?」

 

「それが、最後だったのか……」

 

「だと思います。まぁ、奇跡的に救助された可能性……はあり得ませんか。そこで死んだんだと思います」

 

「そして、記憶を引き継いだのが、ここで落下した衝撃で気を失ったタイミングだと思います」

 

「上から落ちたってやつか」

 

「ですです。気が付いた当時の私は中々戸惑いましたよ。この街しか知らないのに何故か外に違う世界が広がってるって直感的に分かってしまっていて」

 

「確かにそれは戸惑うな」

 

「ですよねっ!起きて目の前に居たこの人が自分に何かしたのかと暴れたものですよ、ふふ」

 

「ま、結果として命の恩人だったのですが。それからその人と一緒に生活して生き延びている内に次第に気にしなくなっていました」

 

「え……?……あっ、前に話してた忘れてたってこの事か!」

 

「大正解ですっ!」

 

それじゃあ、再度思い出すのは白巳津川へ来てからになるのか……。

 

「再び思い出したのは白巳津川に来てから数年……多分二年程経っていたと思います」

 

当時の時を思い返す様に指を折って数える。

 

「ふふ……思い出した切っ掛けはですね~、ふふふ」

 

と思えば、急に楽しそうに……いや、嬉しそうに微笑み始める。

 

「なんだ?急に笑って」

 

「いえ~……これは乙女の秘密って事にしておきますね♪」

 

「なんだよそれ……」

 

「いつかどこかの枝の私から聞き出して下さいな。好感度が足りてれば話してくれると思いますよっ」

 

「……はぁ、了解。分かったよ」

 

またその変な言い方を……。けど、心の底から嬉しそうに笑うのを見たらなんか……無理に聞けなくなるな。

 

「ま、これが秘密にしていた内容の大体ですかね?纏めると、前世の記憶的な物を持っていたからアーティファクトやイーリスに対して上手い感じに立ち回れたって事です」

 

「なるほど……。……ん?ふと、思ったんだが良いか?」

 

「なんなりとどうぞ」

 

「その、前世の記憶?はなんで俺達の未来を知っていたんだ?」

 

最初は本当に未来が分かると思ってたが違ったし、アーティファクトとかでも無いのなら……なんでだ?

 

「それはですねー……、私には不明ですっ!!」

 

ニヤッと意味深な笑みを浮かべたと思うと、堂々とそう言い放った。

 

「はい?……九重も知らないのか?」

 

「当然ですっ!寧ろ私が聞きたいですよ!なんで私にこんな記憶が来たのかっ!なんで知っているのか!知らない方が圧倒的に多い私の方が聞き出してやりたいくらいですっ」

 

ギャーギャーと身振り手振りで荒ぶっている。

 

「あー……なんだその、どんまい?」

 

「いえいえー。もし大層な理由を付ける必要があるのでしたら……そうですねぇ……私に運命を変えて欲しかった、とかかもしれませんね」

 

「運命を……?」

 

「ぼんやりとですが、何となくあるんですよ。記憶……と言うか感情みたいなものが。変えてはいけない結末の枝を……救った世界を見てみたいって気持ちが」

 

「それは……その鈴音って人の記憶に?」

 

「ですね。ま、なんとなーくですけどねっ」

 

「九重は……その記憶に従って、俺達を……助けようとしたの、か?」

 

「それは違います。あ、いえ、違わなくもありませんが……。確かに切っ掛け……始まりはそうだったのは認めましょう。ですが、この世界の……九重舞夜という一人の人間の意志でそうしたいと選びました。私自身が先輩達を救いたいと心から願い、強さを求めたんですよ?」

 

胸に手を当て、内に秘める想いを吐き出す様な口振りで俺を見る。

 

「……そうか、すまん。勝手にそう思ってしまった」

 

「ふふ、間違っていませんよ。切っ掛けだったのは正解ですしね」

 

「と、そんな感じがこの鈴音と言う人物との関係性になりますねっ!」

 

パンッ!と話を締めくくるかのように手を鳴らす。

 

「それでは、次に移りましょう」

 

「次……?」

 

「はい。私からも色々と先輩に伝えておきたい事項がありますので~、あはは」

 

「九重から俺に……」

 

伝えたい事……か。別の枝で起きた時の為の話、とか?

 

「まずそうですねぇ……この枝の私についてから説明して行きましょうか」

 

「この枝の……九重?」

 

さっきの話の続きとか……だろうか?少し話が見えないが。

 

「ええ、先輩ももしかすると違和感を感じているかもしれませんが、この枝の私は他の枝の私とは色々と違っています」

 

「あー……まぁ、何となくそうだとは思ってはいたが……」

 

この枝の九重は……なんて言うか、他の枝の記憶にある九重よりもかなり大人びた雰囲気を出す時がある。

 

恐らく、与一との戦いの際にオーバーロードで引き継いだ記憶が原因だろう。

 

「深沢与一と戦った時にナインにお願いして引っ張ってきてもらった記憶がその理由なのですが……ここより先、ずっと先の記憶を所持しています。今の私」

 

「それは……前世の記憶は関係なく、だよな?」

 

「ですね。私自身が体験して来た枝の記憶です」

 

「……どれくらい先の、未来なんだ?」

 

「ふふ、私がおばあちゃんになっちゃう程度の未来ですよ」

 

「……は?」

 

今の九重が……?

 

「驚きましたか?」

 

「……あ、ああ。正直かなり驚いた。想像していたよりも……」

 

「それは良かったです。……という事は、先輩の中にはその位長い年月を過ごした枝の記憶は無いみたいですね。もしかするとナインが意図的に伝えてないかもしれませんが……」

 

「無いな。少なくとも覚えはない」

 

「それならいいです」

 

「けど、九重にはあるって事だよな?どの枝なんだ……?そこまで長く続いたのは」

 

相棒に確認しようかと思ったが、意図して記憶を引き継いでいないのなら思い出す事は無いと考え九重に聞いてみる。

 

「私が知っている範囲で最も古い枝、でしょうか……分類的には九條先輩の枝にあたります」

 

「都の……枝」

 

「先輩は記憶にありますか?先輩と私が敵対……ではありませんが、私の事を不振がっていた枝の事を」

 

「……ああ、知ってる。俺が九重を疑っていた枝、だよな?」

 

確か……九重が石化事件に関与している可能性があると俺が都に話して……それから怪しんでいた枝があった。

 

「この私は、その枝のずっと先の未来にいた自分の記憶をインストールしている九重舞夜になります」

 

「ずっと先……」

 

「先輩は、その枝の記憶はどの辺りまで保持していますか?」

 

「……都が、与一に石にされた所まで、だな」

 

「なるほど、他と同等のタイミングだったのですね」

 

「ああ。同じ時点だったからそういうもんだと思ってたが……そこからはどうなったんだ?」

 

「あは、結構お辛いかもしれませんが……聞きます?」

 

「聞かせてくれ」

 

「……分かりました。九條先輩が魔眼によって石にされた後、事件は未解決のままでした。先輩は九條先輩を亡くした事で抜け殻の様な人になっていました。天ちゃんが献身的なケアをしてましたが……あまり効果は無かったですね」

 

目を閉じ、冷静さを保とうとゆっくりと語り始める。

 

「結城先輩もそれを見て犯人は別にいると分かり、敵にバレない様に安全性を強めて行動するようになり、私はそれらを……ただただ静観していました」

 

「自分の知っている記憶は、先輩と同じく九條先輩が石化した時までで……変わらず続く日々に頭が真っ白になっていました。どうすれば良いのか……記憶には無い出来事が起きている……関与すべきか否か……そんな事をぐるぐると考えてながらも見ているだけに留めていました」

 

「それから少し時間が過ぎた時に、香坂先輩が行方不明になりました」

 

「先輩が……」

 

「当然、原因は分かっていました。ですが、私はそれを止める事をせずに野放しにします。言い訳は色々と思いついていましたが……結局はイレギュラーを起こすのを恐れたんでしょうね。知らない世界に変えることに対して足踏みをしてしまった」

 

「香坂先輩が行方不明になってから更に一ヶ月が過ぎた辺りで、今度は結城先輩が行方不明になりました」

 

「………」

 

あくまで落ち着いた様に話す九重の言葉を、黙って聞く。

 

「勿論、こちらに関しても原因は分かっています。なんなら、どちらも監視させていた九重家の人から報告を受けていたので……あはは」

 

「次々とアーティファクトが原因と思われる事件が起きて行く中、先輩は天ちゃんを守るために私に協力を頼みます」

 

「こ、九重に……?」

 

「ええ、恐らくですが、私にアリバイが存在するタイミングがあったので、天ちゃん経由でそれを聞いたのでしょう。もはや、この枝が早く終わってほしいと願っていた私は……ただ頷いて受け入れました」

 

「それから夏になり……私と先輩がこの街に来ることになった原因……一族間での争いが起きました」

 

「……その枝では、防げなかった出来事、だよな?」

 

「はい、襲撃に遭い白巳津川を巻き込んでの泥沼みたいな騒動でした。何とか鎮火しましたが、一族にも沢山の死者が出てしまいました」

 

「白巳津川を巻き込んでの……死者が……」

 

「事前に先輩と天ちゃんには安全な場所に避難して貰っていましたが……そのタイミングを見計らってか、二人が襲われました」

 

「……俺達は、どうなったんだ?」

 

「詳細は分かりませんが……逃げていた途中と思われる現場には、意識不明の先輩だけが倒れており、天ちゃんの姿はどこにはありませんでした」

 

「っ、……そうか」

 

「そこから私の方で先輩が目を覚ますまで治療を頑張ってみましたが……最後の最後まで目を覚ますことは……無かったです」

 

「俺が目覚めると思って……ずっと看病していた、のか?」

 

「看病……なんて良い響きでは無いですよ。先輩が目を覚ませば、全部無かった事に出来ますから」

 

「そんな日々をずっと過ごして……ある日、遂に先輩も居なくなり……私一人になってしまいました。その時の私は……正直安堵しました。これ以上頑張る必要は無いんだって。先輩が亡くなった事で絶対オーバーロードは発動するはずですし、やっと終わるんだって」

 

「けど、そんな時でした。私の中にとある記憶が流れ込んで来たのは……」

 

悲しい結末を迎える……そんな流れだったが、それは違った。そうだ……その記憶を引き継ぐことになる。

 

「それは……私が知っている世界では無かった。長年頑張って組み立てて来た計画を最初から無視する様に私が動いていた枝の数々があり……ま、アーティファクトのせいってのが大きいですが……」

 

「イーリスを倒す為にこの力が必要なら……と喜んでその手を取ってこの枝へと来ました。おかげで、今までの努力は無駄なんかでは無かったと自分自身に納得させることが出来ました」

 

「私が居た枝で起きた騒動も、この枝では安全に処理することも出来て大満足です。……この枝の私は、もう充分過ぎる結果を手にしています」

 

「だから……新海先輩には、私などには深く関わらずに……大切な恋人達だけに注力して、幸せを享受していて下さればこれ以上望むことは無かったんです」

 

「……っ」

 

やっぱり、俺らをあまり自分の事情に関わらせたくは無かったんだろうな……。

 

「望むことは、無かったはずだったんですけど……ねぇ」

 

だが九重は……一度上を見上げ、ため息を吐いて下を向き、それを否定する。

 

「……何を、望んだんだ?」

 

「私自身の……違う可能性を、でしょうか?最初は先輩に別の枝でこの事件が起きた際に私に教えて貰える様に働きかけるつもりではありましたが、色んな枝を見て……私も、違った結末を望めるかもしれないって思ってしまったんです」

 

「違った結末を……」

 

「一族に小さい頃からの知り合いが居ます。彼女は一族の事にはあまり興味は無く、私の知っている枝でも最後までそのままでした。ですが、この枝では違いました。何が彼女にそう決めさせたのかは聞いてませんが……自分の足で前に進むと言ったんです。驚きの感情と同時に、少し羨ましかったです」

 

「それを見て、私にも出来るんじゃないかってちょっとした希望が出て来ましてね?そして新海先輩ならそれを叶えれるんじゃないかなぁーって身勝手な考えを抱きまして……あはは」

 

「俺が……か?」

 

俺に何を叶えさせたいんだ……?

 

「はい、この枝の私には無理ですが……他の枝、神器が壊れて世界が繋がったあのタイミングからなら、私も別の道を歩めるのでは?と……」

 

「九重は……今までのを、後悔……してるのか?」

 

「いえ、これっぽっちも後悔などありませんよ?言ったでしょう?満足しているって。それとは別に、違う可能性を見てみたいなって思っただけです」

 

「……俺は、何をすれば良いんだ?何をして欲しいんだ?」

 

「そうですね……何も起きない世界を、作ってほしいかなって」

 

「何も起きない……世界?」

 

「アーティファクト事件なんてものは起きずに、ただただ皆が平穏な日々を送れる。そんな世界……ですかね?」

 

「ソフィの世界から、アーティファクトが流れてこない枝……?」

 

「ええ、可能ですよ。既にその世界が作れる事は私の記憶にありますので」

 

「……つまり、俺がオーバーロードで記憶を引き継いで直ぐに門を閉じる……そう言いたいのか?」

 

「ご明察っ!冴えてますねぇ!」

 

ビシッとこちらを指差して笑う。

 

「なるほどな……確かにそれならアーティファクトの流出も防げるから誰も間違いを犯すことは無い……。あの日に跳んで神器の残りの欠片を全部取り込めば……閉じれるってことか」

 

「猶予は余り無いので、やり残した事があるのなら早めに片付けておくのがベストですね~」

 

「……九重は、それで良いのか?」

 

九重の言う通り、新しい枝を作り出せるだろう。事件も何も起きない枝を。

 

「ん?ええ、良いと思いますよ?」

 

「ここにいるお前の事は良いのかって、そう聞いてるんだ……」

 

俺の言葉を聞いて、納得するように笑みを浮かべる。

 

「ふふ……あはは、ほんとに先輩らしいですねぇ……あはは。……私がそれを望んでいると、そう仰ってるではないですか?」

 

「だが……っ、あくまで他の枝で……ここにいる九重じゃないだろ……?」

 

「何ともまぁ強情なお方ですね……ふふ。そうですね、それではこうしましょう」

 

俺の発言に困った表情を浮かべながらも、提案を出して来た。

 

「もし、もしも別の枝の私を満足させたのなら……もう一度ここに戻って来て下さい」

 

「九重を、満足……?」

 

「ええ、今の私とは違ってまだ純粋無垢でか弱い乙女なあの頃の私を無事に攻略出来たのなら、この枝の私ももっと欲を出すと誓います」

 

「攻略……?」

 

「ええ、そうです。この私を救いたいのでしたら、攻略難易度の低い他の枝の私程度落とせなくてはいけませんからっ!」

 

「待て。なんか変な方向に話が進んでないか……?」

 

 攻略難易度とか、落とすとか……。

 

「ふっふっふ、前に言った通り全ヒロインを攻略し終えると解放される特別なルートなのですよ、この私は」

 

胸に手を当て、何故か自信満々に鼻を鳴らす。

 

「今はな?冗談を言ってる場合じゃ―――」

 

「―――冗談じゃありませんよ?」

 

適当にはぐらかそうとしている九重に呆れて返事をしようとしたが、真剣な声でそれを遮られる。

 

「私は割かし本気です」

 

「………」

 

「この枝は色々と特殊です。先輩達の関係性、私自身の中身や一族での立場、今回の騒動含めても。それら諸々ひっくるめて尚、私をどうにかしたいのでしたら……そのくらい軽々とこなして貰いませんとねっ!」

 

「まぁ……確かにこの枝は他と比べたら異質なのは認めるが……」

 

「でしょ?ですので~、先輩。私に違う未来を見せて下さいなっ」

 

おちゃらけた様に俺を揶揄うが、いつもみたいに明るく振る舞ってるだけ……だと思いたい。少し疑問に思うのはいつもの九重の行いがあるからだろうか。

 

「……いわばこれは、私と先輩の勝負みたいなものですよ!」

 

「はぁ、勝負ね……」

 

「そうです!先輩は私をどうにかする、私はそれを受けて立つ、どっちが勝つかのバトルですねっ!」

 

「九重……お前ってやつはさ、もうちょっとこう……シリアスな感じを維持出来ないのか?」

 

明らかにワザとだとは分かるが、言わずにはいられない。

 

「辛気臭いのは私らしくありませんし、どうせなら楽しくやった方がお得ではありません?先輩もそっちの方が変な重荷にはならないでしょ?」

 

笑顔で俺を見つめ、首を傾げる。

 

「……はぁ、分かった。お気遣いどうも」

 

「勝利方法は……ま、先輩にお任せします。好きに動いて下さいな」

 

「おい、急に投げやりになりやがったな」

 

「新海先輩ならっ!女の子を四人も侍らせているのでっ!私みたいなか弱くて世間知らずな深窓の令嬢が如く可憐な少女など片手でちょちょいっと手籠めて―――」

 

「おい待て、聞き捨てならないからな!しかもなんだその意味わからん自称はっ!?」

 

「冗談ですよ~?あははっ」

 

楽しそうにひとしきり笑ってから落ち着くように息を吐く。

 

「ふぅ……さてと」

 

座って居た九重が立ち上がり、俺の方へ近づく。

 

「オーバーロードで4/17に跳んだ後は……この枝と同じ様に私は先輩の事を観察しているので、自由にお声をかけて下さいな。そこからの動きはお任せしますが……九條先輩を始め皆さんとはいつも通り仲良くなっていて欲しいです。そういった日常が望ましいので」

 

「ま、そうだよな」

 

そこについては既に一度は経験済みだし、何とかなるだろ。

 

「それが九重の望みって言うのなら……俺なりに頑張ってみるさ」

 

色々と納得いかない事も多いが……それを今問い詰めても九重は良しとしないだろう。

 

それなら、まず九重の条件を受け入れてからそれをこなすことで、言い逃れ出来ない状況を作った方が有利のはずだ。実際俺が勝てば正直になると約束してるからな。

 

「頑なな奴だな……全く」

 

「ふふ……こう見えても頑固なおばあちゃんですから。ん?これって合法何とかってやつですか……?語尾にのじゃとか付けた方が良いんですかね?」

 

「いや、それは知らんが……」

 

また急によく分からん事を……。

 

「さっき言った約束、やっぱなしは無いからな?」

 

「ええ、その時は私も負けを認めましょう」

 

「……分かった。なら行って来る」

 

「……ありゃ?今行かれるのですが?一度白巳津川に戻ってからでも……」

 

「いや、皆の場所に戻る時は九重も一緒に……本当の意味で俺達の輪に加わると受け入れた時にするさ。そっちの方が良いだろ?」

 

「……先輩」

 

俺の言葉に、大きく目を見開き驚く。

 

「……ふふ、あははっ。もう勝った後の事を考えてるなんて……ふふっ」

 

「当然だろ?なんせこっちにはオーバーロードが……って、門を閉じるから使えないんだった……」

 

「使えるのはこれまでの経験だけですよ?それでも勝つと言うんですか?」

 

「あ、当たり前だろっ!男に二言は無い!」

 

……やべ、つい勢いで言ってるが、特に策とか考えてねぇんだよな。……急に不安になって来たわ。

 

「状況が分かって不安そうな顔をしないで下さいよー……さっきまでの威勢はどうしたのですかぁ?」

 

「別に不安がってねぇよ、大丈夫だ。何も問題は無いっ」

 

「なら良いのですがぁ……あは」

 

くそ、分かっていて馬鹿にしてるなこいつ。

 

「では、そんな先輩に一つ……アドバイスをしましょう」

 

「アドバイス?」

 

「はい。……そうですね、実は言うと私、九重舞夜は先輩が思っている以上に世間知らずの間抜けな少女なのです」

 

「……ん?馬鹿ってカミングアウトしてるのか?」

 

「ひどっ!?……こほん。ですので、私の知らない事を……世界を教えて広めさせて下さい。きっと、役に立ちますよ」

 

「えっとなんだ……色々と九重の知らない事を体験させろって言いたいのか?」

 

「ぶっちゃけそうですね。何を見せるかは先輩が選んでください。周りの人達を存分に利用して私を楽しませて下さい。そうすれば恐らく、私も変われると思いますので」

 

……そう言われると、回転寿司とかにも行ったこと無いって言ってたもんな。お高い場所にしか行かないと勝手に思っていたが……。それに海とか学校行事も……。今までそれらは切り捨てて来たんだろう。

 

想像するに、普通の人が通過するであろう経験が無いって感じなのだろうか?

 

「……何となく、糸口が分かった気がする」

 

「流石ですね!伊達に美少女四人を手籠めただけはありますね!」

 

「だからそのいじり方はやめろっ!言い返せないからなっ!?」

 

「ご安心を。分かっていて言っていますからっ!!」

 

「尚更たちが悪いわっ!」

 

最後の最後まで真面目な空気を維持出来ないのか、全く……。

 

「それから、なるべく九重家に関わる事件や案件から距離を置いた方が良いでしょう」

 

「……ん?それだと今回の件は……」

 

「ですね。可能なら私に秘密裏に処理するのがベストかもしれません。具体的には……九重家の人間に直接先輩が頼み込む、とか?」

 

「……行けるのか?俺で」

 

「寧ろ先輩だからこそ可能なのですよ。先輩の名前を出せば門前払いはまずありえませんから」

 

「そう、なのか?」

 

「はい。アーティファクト関連……もとい新海翔が言う発言は私の言葉よりも重きを置くようにと言っていますので……って、一つって自分で言っておいて二つもアドバイスしちゃいましたね。失敬」

 

「気にせずもっと口を滑らせても良いからな?」

 

「ふふ、では続けて……。先輩が九重家に進言をした場合ですが、多分私の姉と……おじいちゃん辺りが突っかかって来ると予想できます」

 

「マジかよ……」

 

どっちも知ってるが……滅茶苦茶怖いんだよなぁ。

 

「その時は……私の幸せの為にと……個人的に会うのは大丈夫と伝えれば大人しくなると思いますので」

 

「もしそれでも駄目だったら?」

 

「……頑張って説得して下さい」

 

「おいっ!俺に全振りしないでくれ!」

 

「あはは、大丈夫ですって。スムーズに事を運びたいのでしたら、壮六さんって覚えてます?天ちゃんの枝で外食の時に送迎をお願いした男性の人ですが」

 

「あー……ぼんやりとは覚えてるな」

 

「その人は割と合理的で、すんなりと納得してくれると思いますので攻めるならそこかもしれないですね。逆におじいちゃんを一発で説得出来れば他も頷くしか無いです」

 

「後者の説得に失敗すれば……?」

 

「んまぁ……最悪出禁とかですかね?顔も見たくないっ!!って感じで激おこかも?」

 

「ハイリスクハイリターンかよ……」

 

そっちは無しで行こう……。

 

「……別の枝の私はきっと、九重家が長ければ長いほど……先輩達と距離を置く可能性が高いので。実際私がそうでしたし……」

 

「可能な限り、俺達側に居た方が良いって事だな」

 

「そうです。ですが注意点が一つ、甘い夢を見れば見る程……現実を知った時の心の乖離は強まります。どうかそれを見逃さないで下さいね?」

 

「……分かった。忘れない様に心に刻んでおくさ」

 

恐らく……今の言葉が最も大事な内容になる。……そんな気がする。

 

「っと、思ったよりも色々と話してしまいましたね」

 

「俺としては助かってるけどな」

 

「それなら良かったです……。そろそろ……行きますか?」

 

「……そうだな、忘れないうちに行ってくるよ」

 

「分かりました。……変に気負いせずに楽しんで下さいね?私に悟られない様にお気をつけて」

 

「ああ、頑張ってみる」

 

ポーカーフェイス、鍛えた方が良いのかね。

 

以前他の枝で敵に言われた事を思い出す。

 

「よし。それじゃあ相棒、あの日に跳んでくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……良いの?あんな騙すような言い方で送り出して」

 

「ソフィ……?お久しぶりですね。……騙すなんて人聞きの悪い事を」

 

「門を閉じればナインとの繋がりも切れる。カケルがここに戻ってくることは出来ないわよ?」

 

「先輩も何となく察してたと思いますよ?それでも聞き入れてくれたのですから」

 

「あの子がそんな簡単に受け入れるとは思えないのだけどねぇ……」

 

「その時はその時ですよ。もし戻って来たのなら……そうまでして私に執着があると喜んで受け入れますから」

 

「あなたもあなたで、相当面倒な生き方をしてるわね……」

 

「これが私ですから……ふふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翔の兄貴~、持ってきやしたぜ~」

 

「ほい、絆創膏」

 

「さん―――」

 

 

『記憶をインストールする』

 

 

「―――っ……!?」

 

「うわ、だいじょうぶ?そんなに深く切った?」

 

「あー……いや、大丈夫だ」

 

……よし、問題無く戻って来れたな。まずは―――。

 

「へ?どこ行くの?絆創膏は?」

 

「あー……ちょっとやり残した事があってな。後で使う」

 

その場から歩き出し、俺を見ていた九重と目が合う。

 

こっちを認識した九重が一瞬驚くが、直ぐに取り繕い電話を続ける。

 

「………」

 

その姿に近づき、通り過ぎる時に言葉を掛ける。

 

「門を閉じてくる」

 

「っ……、はい……」

 

俺の言葉に小さく返事をしたのを確認してそのまま神器を探しに向かう。

 

「お、新海くーん。消毒液持ってきたよ~。使いなー」

 

どこにあるのか考えていると丁度いいタイミングで沙月ちゃんが来た。

 

「ああ、ありがとうございます。あの、壊れた神器って、蔵ですよね?」

 

「うん。蔵にしまったよー」

 

「ちょっと、ポケットに欠片が入ってたみたいで……」

 

「あー、片付けといてあげる」

 

「いや、自分でやっときます。鍵って―――」

 

「ああ、持ってる持ってる。はい、これ」

 

「ありがとうございます」

 

適当に言い訳をしつつ鍵を受け取る。

 

「あと消毒液も」

 

「そっちは後で。天に渡しておいて下さい」

 

やや強引に話を切り上げて、鍵を開けて蔵の中へ入る。

 

「……これか」

 

神器が入ってる箱を見つけ、中を確認する。

 

砕けた欠片。これを飲み込めば……。

 

少し勇気がいるが、時間が無いので躊躇ってる暇は無い。

 

「っ、んく……くそ……っ」

 

意を決して纏めて飲み込もうとするが、喉に引っかかり痛む。

 

「……よし、飲み込めたぞ」

 

全て取り込んだ事で世界の眼の存在と、その力をハッキリと感じた。

 

「これで行けそうだ」

 

後は扉を閉じれば……。

 

「………、それじゃあ、扉を閉じるよ。一時のお別れになるかもしれないが……俺なりに精一杯やってみるよ。正直、自信なんてものはこれっぽっちも無いけど、また一から皆と頑張ってみる。だから、俺を信じて待っててくれ」

 

「……次に会う時は俺だけじゃなくて、もう一人も連れてさ」

 

「だからさよならじゃなく……またな、相棒っ!」

 

 





※主人公はこの世界がゲームだと前世の記憶で知っているが、正直に話す気は無いので誤魔化しながら話しています。


さてさて、ようやく五章も終わりを迎える事が出来ました!ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございます。
次からは第六章へと移ります。これで最後の章になる予定です。

イメージ的には、新章の最後の枝を作った世界……的な感じですかね?
五章ほど長くはならないかなぁ……と予想しています。

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