9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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後半です。

夜に書いたので自分に対して飯テロ案件……。



第3話:ー調査報告書ー『すごく美味しかったです。』報告者.九重 舞夜

 

 

「こちら舞夜。指定地点へ着きました」

 

耳元に付けてある無線へ声を飛ばし、状況を伝える。

 

『了解、一応相手さんの席周辺には色々仕掛けてあるからこちらに内容は筒抜けの筈だ』

 

「なるほどです。では私の方は客としてお店を楽しんでおきますね?」

 

『ああ、精々店の売り上げ向上を手伝ってくれ。もしもの時は……』

 

「分かってます。判断はこちらでしますが必要なら合図ください。前に出ます」

 

『んじゃ、楽しんでくれよ?』

 

しげさんとの通信を切り、取りあえずメニューを取る。反対側の耳には盗聴用に仕掛けた機器の受信先を付けている。これで常にある程度の状況は把握可能だろう。

 

「んーー。よくわかんないから季節のコースとかが良いのかな?刺身の造りとか美味しそう……。馬刺し……握り?この煮付け料理もだし、汁物……へぇ、かき揚げ丼なんてあるんだ」

 

普段食べない料理の写真を眺めてはテンションが上がる。よくわからずに見ていると、部屋へ女将と思われる人が入って来た。

 

「この度はご利用ありがとうございます」

 

「あ、こちらこそ急に来たのにも関わらず、すみません……。見た所、貴女はこのお店の女将さんですか?」

 

「はい。ご安心を、ちゃんと九重家の者ですよ」

 

部屋に入って来た女将さんが証拠を見せる。

 

「……これでよろしかったでしょうか?」

 

「うん。ありがとうございます。確かに確認致しました。私も証明した方が良いでしょうか?」

 

「いえ、それには及びません。貴方様の事は昔からよく聞いておりますので確認の必要はございません」

 

何だかよく知らない人にまで周知されてるのは恥ずかしいのだけど……。

 

「分かりました。今回はよろしくお願いします」

 

「はい、楽しんで頂けるようにおもてなしさせていただきます。何か御用があれば外に居ますのでお呼びください」

 

「あ、それなら早速お願いしていいですか?」

 

立ち去ろうとする女将さんと呼び止め、注文をする。

 

「初めて来るのでどれが良いとかよくわかんないのですが……おススメ?今の季節限定とかあったりしますか?」

 

「そうですね、それなら最初のページにある季節のコースとかがおすすめですね」

 

「あ、これですね!それじゃあそれをお願いします」

 

「アレルギーや苦手な食べ物があれば仰って下さい。他の料理に変えますので」

 

「多分大丈夫だと思いますっ」

 

「かしこまりました。では準備させますね」

 

注文を受け取り、部屋から出る。扉越しに気配を感じ取れるがかなり消している。意外と接客業に使える技術なんだなぁ……。

 

身につけた技や技能が一般に出ても活用出るのは良い事である。当代で九重の役目が終えてしまえば表に出る人も増えるだろう。

 

待ち時間を潰しながら、向こう側の様子を窺う。会談……もとい会食までまだ少し時間がある。相手側の女社長は既に着いており、時折物音や独り言が聞こえる。聞く感じだと今日の会談で更に上を目指すんだとかなんとか。……貴女が目指してる先は裏家業に首を突っ込んでるので間違いなく下だと思うんですが……。

 

そうこうしているうちに一品目の料理が運ばれる。……見た感じお吸い物なんだろうか?

 

品の説明と今日のお品書きを渡し、部屋を後にする。……おっと、危ない。完全にフリーズしてしまった。

 

ええっと、春の……湯葉と桜麩だっけ?多分この白いのと、桜を模ってるこれのことなんだろう。

 

渡された紙に目を通すと、コースのメニューが書かれていた。最初が折敷、多分この汁物の事だろう。続けて、椀盛・焼き物・強肴・吸い物・八寸・香の物・主菓子・濃茶、と書かれていた。

 

「……品名見てもイメージが……うん。何となくこれなんだろうなとは思うんだけどね」

 

八寸って何だろう?香の物?お茶漬けなんだろうか?いや、漬物かも……。

 

「……よし!食べよう!」

 

考えていても辿り着かないと分かり、放棄した。それより目の前の料理が冷めてしまわない内に味わう事が重要である。

 

「いただきまーす……」

 

箸を持ち、取りあえずスープを飲む。

 

「……っ!?美味しいっ!え、透明なこれが……!?」

 

透明だからと舐めていた。決して味は濃くはない。濃くは無いが口に広がる。

 

「……ファンタスティック」

 

初めてお高い料亭のご飯を食べたが、不思議な味である。今までのガツンと来る暴力的な味では無く沁み通ってく様な……。

 

「最初でこれなら、後に出てくるのは一体どんだけの……ゴクリ」

 

一瞬仕事の事が頭から離れそうだった。いかんいかん。

 

味わいながら飲み切ると、丁度良いタイミングで次の品がやってくる。えっと、椀盛……これは煮物だね。

 

蓋を開けると中に野菜と魚と思われる料理に半分ぐらいまで透明な汁が……すまし汁だっけ?

 

「いただきますっと……うぉお、美味い。少ないと思ったけど普通に美味しいぞこれは……」

 

身も美味しいが汁も美味しいのである。

 

「うえぇへ、こんなの食べてたら頭が溶けそう……」

 

脳が処理しきれない内に次の焼き物がやって来た。旬の白身魚であろうか……?

 

「いや、これは分かる。食べるまでもない。絶対美味しいに違いない……!」

 

箸を入れ一口食べる。

 

「ーー~っ!??っ!」

 

美味しさのあまり手に持っている箸をブンブンと上下に振りまくる。

 

「っかは!おいしい!」

 

身に付いている骨を外す。そのまま食べてしまったのは一応口から出しておいた。

 

次から次へと来る暴力に、もはや半分は料理の美味しさに脳のリソースを奪われてしまっている。

 

「つ、次は……強肴……ナニコレ強そう」

 

今まで以上の破壊力が来るとでも言うのだろうか……?これ以上はどうにかなってしまいそうなのにぃ……。

 

覚悟を決めて待ち構えていると、そこに来たのはなんと……肉料理だった。

 

あ……これは屈しますね。はい。ここで肉料理とは……あは。

 

目の前に置かれる肉料理。恐らくはステーキ系とローストビーフだろう。品の紹介など左から右へ通り抜けていく。

 

「……よしっ。行くぞっ!」

 

箸を持ち目の前にある肉を掴み、口へ入れる……!

 

……あぴゃーー。

 

最早感想など言うまでもない。満足である。

 

「ううぅ……こんなに美味しいなんてぇ……もっと早く知ればよかったぁ……」

 

今まではおじいちゃんとナインボールへよく行ってはいた。時たまある親戚や一族の集まりなどにも参加していたが、あまり口にはしなかった。と言うか警備とかで忙しかったのだ。

 

「いや、それもこれも私が望んだ事なんだけどね……」

 

早く経験を積み、強くなりたいと無理を言って色んなことをさせて貰った。食事を口にするとかあまり考えてなかった。

 

「……人間、心の余裕が大事って本当なんだなぁ……あはは」

 

以前に、今回の様な事もあったが、今みたいに食べながらなんてする気も起きなかった。ただ功績を積み上へ登り詰める事だけを考えていた。

 

しんみりと過去を振り返っていると、次の品が到着した。これは……吸い物だね。

 

蓋を開ける。最初のより少し小さめの椀で出てきている。口休め……だったっけ?

 

丁度良い。ほんとにベストタイミングで来てくれた。

 

「では……いただきます」

 

手に持ち汁を飲む。

 

「……はぁ、しみわたるぅ……」

 

口の中に存在する味の残りが洗われるように流れていく。ついでにショートしかけていた脳が癒される。

 

「……ぶっちゃけこれも美味いので口休めになるでいいのかな?」

 

他と比べれば確かにそうなんだが、引けを取らない位には美味しい一品である。

 

脳に余裕ができて来たので向こう側の会話にリソースを割く。

 

「……そこそこ話が進んでいるみたい」

 

一応ここまでの会話は全て聞いてはいる。いるけど、商談やよくわからない会話は全部スルーしている。そこは大人たちに丸投げである。

 

その後も会話を聞き続けていたが、特にこれと言った情報は無く、怖いほどにスムーズに進んで行った。女社長の手腕が凄すぎるのだろうか?

 

 

 

 

「九重舞夜、戻りました」

 

「おっ、舞夜ちゃん。おつかれさん」

 

「しげさんもおつかれさまです!」

 

「なんて言うか、何事もなく終わっちまったな……」

 

「ですねぇ。私なんて懐石料理を楽しんだだけですよ?」

 

「ははっ!そりゃ羨ましい事だっ。いやそちらとしてはマイナスか?」

 

「当初の望みは叶えれませんでしたが、美味しいご飯を食べれたので大満足です。また次の機会を待ちます」

 

「それなら次も舞夜ちゃんが参加出来るように推薦しておくぞ?」

 

「はい、それでお願いします」

 

「一応、今日の事は纏めて出しておいてくれ。少し不可解だからな。色んな人の考えを聞きてぇ」

 

「えっと……私はコースについての感想で良いですか?食レポになりますよ?」

 

「100%呼び出し食らうなっ!それはっ」

 

「あははっ、確かにそうですね!」

 

「ぶっちゃけ、舞夜ちゃんはどう思った?今回の」

 

「会食……というか商談の事ですよね?」

 

「ああ」

 

「私そっち専門では無いので良く分かりませんが……あんなにスムーズに進むもんなんですか?」

 

「やっぱり舞夜ちゃんから見てもそう思うか?」

 

「はい。一方的……とまでは言いませんが、女社長への態度や対応が好意的?友好的に感じました。お互いに前から付き合いとかあったのですか?」

 

「いや、こちらで調べた限りでは組織と会社の付き合いはおろか、個人的なやり取りも過去には無い。今回が初だな」

 

「……となると女社長の手腕が凄いってことでしょうか?」

 

「どうだろうな。組織の連中を知っているが、あそこまで難なく進むとは思えないんだよなぁ……」

 

「骨抜きにされたとか?」

 

「トラップか?どうかなぁ……?弱みを握られている感じでも無かったが……」

 

「謎ですね」

 

「ああ、謎だ。気持ち悪い違和感だろ?」

 

しげさんが口の中に虫が入ったみたいな顔をして悩んでいる。最近になって出て来た会社、不可解な違和感……ん?これって、もしかして。

 

「しげさん。もし次にその女社長の案件が来たら私も参加させてください」

 

「ん?元からそのつもりだが……何かあるのか?」

 

「もしかすると……ですが、最重要事項、それも特級に値する件かもしれないです」

 

「本気か?」

 

「可能性が、ある……程度ですが」

 

「おいおい、ご当主様案件かもしれないとか厄災かよ……」

 

今の事項は仕事や案件などを振り分けた時に一番上に来る問題である。何を差し置いても最優先しなければならないものである。何故なら、アーティファクト関連に当たる案件だ。

 

「丁度この場に責任者が居る事だし……引き継いだ方が良いか?」

 

「いえ、まだ確定ではありません。なので、もし次があるのであれば必ず私を呼んでください。確かめます」

 

「あー……わかぁった。項目内容が何なのか全く分かってない身からしたらすぐさま手放したい案件なんだがなぁ……。ていうか初めて出たよな?その特級。正直、飾りだと思ってたぞ」

 

「多分制定してから初だと思いますよ?」

 

「はぁ……姿を見せなかったその最高責任者さんが、久しぶりに来た日にそれに出くわすとは……いや、詳しくは聞かないでおくさ」

 

察するには十分だよね……急に来たかと思えば個人的な戦いがあるとか言って……いや、遭遇はほんとたまたまなんだけどね?

 

「それに関しては私からおじいちゃん達に報告しておきます。申し訳ないのだけど、しげさんは今日のをお願いしたいですが……」

 

「大丈夫、気にすんな。俺の方からは普通の視点でちゃんと報告いれておくよ。だからそっちのは任せたぞ?」

 

「はい。ありがとうございます。話もおわった事だし……私は急ぎますねっ。またその内!」

 

「ああ……出来れば会いたくはないけどな」

 

疲れたような顔を手で覆いながら反対側の手で私に手を振って送り出す。うーん何だか申し訳ないなぁ……。

 

 

 

「……はぁ。まさかなぁ……」

 

舞夜ちゃんを送り出した後、疲れたように置いてある椅子に腰を下ろす。

 

「きな臭い案件が激ヤバ案件に早変わりってか……ははっ」

 

先程の会話を思い出しながら乾いた笑いが出る。

 

今回のじいさんからの提案……と言う名の捻じりこみを受け、久しぶりに九重舞夜と仕事をすることになったが……。

 

「やっぱり、あの子が首を突っ込むと嫌な事しか起きねぇわ……」

 

この仕事を長くしていたが、あの年齢であそこまで急成長を遂げている子供はそうそう居ない。居たとしても九重の血を濃く継いだほんの一握りだ。

 

しかもあの子は当主様が遠方の地から拾ってきた捨て子である。何故あの子だったかすら明かされていない。もしかしたら何かの血筋なのかもしれねぇが、詮索することは禁則事項の一つだ。

 

「来た時はボロボロなガキだったのにな……」

 

それが少し見ない内にみるみると成長を遂げ、頭角を現していった。まだ15も満たない時にこっちにも回されてきたが、自ら最も危険な死地に躊躇いなく突っ込んでいく様な奴だった。しかもその全てを蹂躙して五体満足で生還している。

 

「それが気が付くともう高校生で、あんな可愛い子ちゃんに育つとは驚きだぜ……」

 

今回の件だってわざと個室で飯を食わせ、諜報に当たらせた。流石に戦闘となったら頼るが可能な限り関わらせたくは無かった。それが逆に特級案件なんだから笑えない。

 

「逆に関わらせた方が吉だったのかぁ?笑えないぜ全くよ……」

 

過去の経験と勘から、これから起こるであろう嫌な予感が消えない事に嘆いた。

 

 





九重 茂(ここのえ しげる)

主に街の情報を集め、統括している人物。戦闘面では劣るが諜報活動面に力を伸ばしている。
九重家の生まれにも関わらず、才能があまり伸びなかったことを小さい頃に外野から言われ、今でも劣等感を持っている。

実は戦闘面では無く、諜報面での予測や勘が常人を遥かに上回る。それを認められているため街の情報管理を任されているが、本人はあくまで経験から来るものだと考えている。※それが更に評価を高めている。

自分みたいな血筋や才能無い人間が上位まで昇りつめた主人公をかなり気に入っていると同時に嫉妬心も多少なりとある。任務の際はなるべく危険地帯から離そうとした結果、逆に死地に突っ込んでいくという事が何度もあり一緒に仕事をすると胃が持たないと嘆いている。

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