9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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 前回に続けてまた新海翔視点です。暫くはこれが続くかも……?



第17話:忘れない為に忘れること

 

 

「今日はお前も学校休んだ方が良いかもしれないな」

 

「やっぱり、そうした方が良いのかなー……」

 

一日が経ち、少なくとも昨日より力の範囲と効力は悪化しているのは確かだろう。それに……昨日天は俺の部屋で泊まった。そのことを実家の方に連絡をしていない……。それなのに、二人からは天の事について連絡は一切無かった。つまりは、そういう事なのだろう。

 

「家には俺から連絡しておくよ」

 

「うん、おねがい」

 

スマホを取り出し、昨日と同じ様に連絡を入れようとする。

 

「っと、メッセージ?ああ、九重か……」

 

多分、朝の定時連絡のだろう。

 

スマホの画面をスライドさせ表示させる。

 

『おはようございまーす!先輩は今日も休みですか?体の調子はどうでしょうか?あ、それと、今日は天ちゃんもお休みしていた方が良いと思います。学校に行っても辛いだけだと思いますので……先輩と一緒に居た方が元気出るかと愚考致しますっ!』

 

会話の中に天の名前を見て安心する。九重はまだ覚えているらしい。

 

「……だれ?舞夜ちゃん?」

 

「ああ、九重から朝の連絡だな。あいつも今日は休んだ方が良いってさ」

 

「舞夜ちゃんは学校に行くのかな?」

 

「行くんじゃねぇの。流石に休む訳にはいかないだろ?」

 

「それもそっか」

 

取りあえず、"石化は残り靴だけだから明日には良くなると思う"、"天も今日は学校休ませる"この二点を書きメッセージを返す。

 

「俺はおかんに連絡入れとくから、早くご飯食べてくれ」

 

「ん……」

 

のそのそとベットから這い出て朝食を食べ始める。良かった、一応食欲はあるらしい。

 

それを見て、部屋から出て電話帳を呼び出し、自宅に電話をかける。

 

「もしもし、新海です」

 

「ああ、母さん。翔です」

 

「ちょっと、なんで名前を言うのよ。人のネタ潰さないでよね」

 

「母さんのネタしつこいんだよ。悪いけど今日も学校に電話しといてくれるかな?」

 

「あんたまだ具合悪いの?沙月ちゃんから話は聞いているけど結構ひどいらしいじゃない」

 

「あ~……多分、今日で治ると思う」

 

「早く治しなさいよ?もし大変ならそっちに様子見に行くから」

 

「いやっ、それは大丈夫。そこまで心配するほどじゃないから」

 

「あらそう?それなら良いのだけど……」

 

「とにかく、連絡の方お願い」

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

「それじゃあ、また……」

 

通話を終え、スマホを耳から下げる。

 

……母さんからは天の話は出てこなかった。昨日家に帰って無いはずなのにそれを聞いたり心配する素振りすら無かった。

 

「っ!……くそっ」

 

間違いない、天の事を忘れてしまっている。……どうする、天にこのことを伝えるか?いや、今下手に不安がらせて刺激するのは良くない。

 

「連絡終わった?」

 

どうするべきかと考えていると、部屋から天が顔を覗かせる。

 

「あ、ああ。今日も休むって連絡しておいたぞ」

 

「あたしのこと、何か言ってた?」

 

「あ、ま、まぁな……」

 

咄嗟に返事をしたが、表情に出てしまった。

 

「あー……やっぱり、忘れているのかぁ。……そうだよね」

 

「……もしかして、気づいていたのか?」

 

「そりゃあね。昨日は連絡も無しに家にも帰らず泊まっているのに私に連絡も無いもん。いつもなら、にぃにの部屋に居るのかとか聞いてくるのが無かったら……嫌でも気づくでしょ?」

 

「………」

 

考えてみれば当然のことだった。父さんが天に連絡をしないわけが無い。

 

「お兄ちゃんも何となく察してたでしょ?わざわざ聞こえない様に電話してたし……」

 

「……なんだ、お見通しだったってことか」

 

「普通に分かりますとも。私が何年お兄ちゃんの妹をしてきたと思いますか」

 

笑いながら自慢げにこちらを見てくる。

 

「隠すだけ無駄だったみたいだな」

 

「わたしに気を遣ってくれたのは嬉しいけどね」

 

スマホをポケットに仕舞って部屋へ戻る。

 

「なんだ、まだ食べ切って無かったのか?」

 

「うん、もういいかなって……、食べる?食べかけだけど」

 

「勿体ないし、食べるよ。そんなに残って無いしな」

 

正直そこまでお腹に余裕がある訳では無いが……。

 

テーブル前に座り、天から皿を受け取って残りを食べていく。

 

「……どうかしたのか?」

 

正面を見ると、何故か楽しそうな顔をして、俺が食べている様子を見ていた。

 

「ううん、なんでもないよ?」

 

「そのわりには俺の顔を見ている様に見えるけどな」

 

「間接キスだなって、ただ思っただけ」

 

「……お前は小学生か」

 

「思っただけだしー、そっちが無理やり聞き出してきたじゃんっ」

 

「まさかそんな事を言って来るとは思っても無かったからな」

 

食べている朝食を一気に食べ切る。

 

「よし、それじゃ俺は洗いもんしてくるからな」

 

「いやいや、私が洗いますとも。まだ足が治って無いんだからさ」

 

「別にこのくらい平気だって」

 

「じゃあさっ、一緒に洗お?」

 

「一緒にか?」

 

「うん!それならあたしとお兄ちゃんの言い分が叶うでしょ?」

 

「まぁ、別に良いが……狭いぞ?」

 

「そこは役割分担すれば平気でしょ!」

 

一緒に洗い物をするだけなのに、ご機嫌になった天が食器を持ってキッチンに向かう。その後を追いながら一緒に皿などを洗っていく。

 

「~~♪」

 

狭いキッチンで肩を並べながら洗い物をしていく。隣では嬉しそうに鼻歌を歌っている。時折こちらに洗い終わった食器を渡してくる際に肩をぶつけて来たり、体を当てて来たりしていた。

 

「割れ物持ってんだから気を付けろよ?」

 

「流石にこの位平気だって~、寧ろお兄ちゃんの方が気を付けないといけないんじゃない?」

 

そんなこんなで洗い物を終えた。

 

「さてと、今日は何すっかなー」

 

「いつもはどう過ごしてたの?」

 

「あー……ダラダラとしてたり映画とかアニメ見てたり?後はアーティファクト関連について考えてたりとかしていたな」

 

「随分と良い暮らしをしているな~……」

 

「おいおい、今日からお前もこちら側になるんだぞ?」

 

「そういえば、そうだった……」

 

「俺がサボりの先輩として一日の過ごし方を伝授してやろう」

 

「うっわ、この野郎。罪悪感の欠片も無いのか」

 

「ここまで来れば寧ろ清々しい気分だな」

 

「でもなんか、学校休んだ日って、ちょっとわくわくするね。しかもお兄ちゃんと一緒に。悪い事してる気分」

 

「そんじゃ、適当に映画でも漁るか」

 

「おおぉ~いいねー」

 

「更に、ここには先日九重が大量に買って来たお菓子がまだ残っているからな!」

 

前の休みに買って来てくれたが、結局あまり食べることなく持て余していた。いい機会だろう。

 

「あ、そういえば気になってたやつがあるんだけど、それから見ても良い?」

 

「おおいいとも。時間はたっぷりとあるからな、取りあえず昼まで映画でもみるか」

 

「おっけ~」

 

PCの前に座り、早く早くとテーブルを叩いて急かして来る。起きた時は少し元気が無かったが……とにかく、喜んでくれているようで良かった。

 

「それじゃあ、折角だし電気とカーテンも閉めておくか。雰囲気作り程度にはなるだろ」

 

「隙間から日光全然入ってくるけどねっ」

 

今は辛い事を忘れて、楽しむことにしよう。

 

 

 

 

「んんーー!終わったー」

 

「なんか腑に落ちない終わり方だったなぁ……」

 

「だねぇ、中盤で出てた伏線とか設定って結局明かされないままだったし」

 

「勢いは面白かったんだけどな」

 

「確かに、怒涛の展開だった」

 

昼から2人でアニメを見始め、気が付けば日が落ちた頃になっていた。

 

「腹減ったな~……なんか頼むかぁ、食べたいのとかあるか?」

 

「出前取るの?」

 

「出掛けるのも面倒だしな」

 

「う~ん……お兄ちゃんは何か食べたいのとか無いの?」

 

「特に思いつかないな。天の食いたいもんで良いぞ」

 

「じゃあ……、お寿司とか?なんかお高い物とかどうかな?」

 

「お、寿司か。それで言うならうな重とかも美味しそうだよな」

 

「いやいや、流石にそれは高すぎでしょ。お小遣いじゃ届きませんってば」

 

「高望みし過ぎか、何か無いか調べてみるか……」

 

ポケットに仕舞っていたスマホを取り出して、あることに気づく。

 

「あ、忘れてた……」

 

「なに?どしたの」

 

「いや、九重からの連絡返すのをすっかり忘れていた」

 

「あー……アニメ見てたもんね」

 

「取り合えず返事するか……」

 

LINGを開き、九重の個人のやり取りをタップする。通知が数件来ていた。

 

『少し遅れましたが、お昼です!お二人は何を食べられたのでしょうか?家に籠っているのでしたら出前とかおススメですよ、こういう日くらい多少贅沢しても文句は言われないかと思いますっ。ではまた夜に連絡しますね!』

 

『夜の連絡です、先輩……一つご相談なのですが、もう夜ご飯は食べた後でしょうか?もしまだでしたら返事をお願いします』

 

「……ん?」

 

相談事?それに連絡が来たのは15分ほど前か。

 

「舞夜ちゃん何か言ってたり、する……?」

 

「ああ、すまん。大丈夫だ、ちゃんと覚えてるから安心してくれ。なんか俺に相談事があるらしい」

 

取りあえず、まだ食べていないと返事だけ返しておく。すると、すぐに既読が付き、メッセージが返ってくる。

 

『それは良かったですっ!実はですね、知り合いのお店のディナー無料券的な物を手に入れまして、三人分ありますので、もし宜しければご一緒にどうでしょうか?勿論、天ちゃんと一緒に』

 

「招待券……?」

 

『こちらとしては嬉しい誘いだけど、良いのか?俺たちに使ってしまって?』

 

『期限が今日までなの忘れていたのですよ!一人で行くのは流石に勿体ないので……私を助けると思ってお願いできませんか!?』

 

「なぁ、天」

 

「んー?何?」

 

「九重からディナーのお誘いが来ているのだけど、行かないか?」

 

「え、どゆこと?」

 

 

 

 

「ささ、お二人とも、こちらですっ」

 

九重からの誘いに乗り、マンションの出口で待ち合わせをすることになった。正直、天に会わせるのはリスクがあったが、九重と話している限りではその様な傾向は出ていなかったので直ぐに忘れることは無いと判断した。それより友達と会った方が天が元気になってくれることの方が期待として勝った。

 

出口で合流すると、俺たちの前に黒い高級車が現れ、後部座席のドアが開く。勧められるがままに車に乗ると直ぐに発進した。

 

「な、何だか……あれみたいな車だよね……」

 

少しすると、声を小さくした天が、俺に耳打ちをする。

 

「俺も同じこと思った……」

 

前を見ると俺たち2人の反応を見て楽しそうに笑っている九重が居た。

 

「いや~……二人のその反応が見れただけで頑張って用意した甲斐があったってもんですねぇ、借りて来た子猫みたいにガチガチですねっ!壮六さん、作戦成功ですよ」

 

「喜んでいただけた様で何よりです。ですが、あまりご友人らを揶揄うのはおやめになさった方がよろしいのでは?」

 

「その分、この後楽しんでもらう予定なので、チャラってことでどうでしょうか?」

 

「それをお決めになるのは、そちらのご兄妹ですので、私からは何とも……」

 

「先輩と天ちゃんなら優しいから大丈夫かなっ」

 

どうやら、九重が俺たちを驚かせるためにわざわざ用意したらしい……。どうやって準備したのか良く分からんが……。

 

「どうかな?天ちゃん、驚いた?」

 

「そりゃ、ちょーおどろいた。どこか連れて行かれるのかと思ったよ」

 

「あはは、実際に連行するんだけどねー」

 

一通り満足したのか、こちらを向くのを止め座り直す。

 

「なぁ、九重。これからどこに行くんだ?」

 

「そうですねぇ……あと5分もかからない場所におじいちゃんのお知り合いに和食のお店を経営してる人が居まして、本日の夕食はそちらになりまーす」

 

パチパチと拍手をしながら行き先を言う。和食だったのか。

 

「私も以前に食べに行った事がある場所なのですが、味は保証します。超超超絶美味しかったのでっ!もう脳が溶けるくらいには!」

 

「今更なんだが、ほんとに良かったのか?車で送って貰ったりまでして……」

 

「はいっ!ちゃんとおじいちゃんから許可は頂いているので問題無いです。ですよね?」

 

「そうですね。車での送迎はご本人からのご提案ですので、新海さん達はお気になさらずにどうぞ楽しんで来て下さい」

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

「ありがとう、ございます……」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

……まて。車のインパクトに意識が持っていかれていたが、運転手さんって、天の事認識出来てないか!?

 

隣の天を見ると、同じ様に気づいたらしく驚いた顔で俺を見ていた。

 

「天……今のってさ」

 

「う、うん。してた……よね?」

 

俺たちの驚いた様子に気が付いた九重がこちらを向き、深い笑みを浮かべて人差し指を口の前に持ってきた。

 

……このことについて聞くなって事なのか?九重が天を認識出来ているのは理解できるが、隣の人まで認識出来ているのは何故だ?昨日の時点で一般の人は天の事を認識出来なくなっている筈……。この人も俺みたいに抵抗力が高いのか……?

 

それとも、同じユーザー?いや、それならわざわざ九重が口止めする理由が分からない。

 

すると、スマホに通知が入る。内容を見ると助手席の九重からの様だ。

 

『後で説明しますね』

 

事情があるみたいなので、『了解』とだけ返事をする。

 

「あ、お店が見えてきましたよー」

 

九重からの言葉に釣られるように前に顔をあげながら、スマホをポケットに仕舞った。

 

 





和食のお店にご招待。以前に女社長の会談を傍受する為に赴いたお店ですね。

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