9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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美味しい物は全てに勝る。多分……。




第18話:束の間の憩い

 

 

「いやー、美味しかったですね!お腹一杯です」

 

九重に連れられてきたのは人生で一度も行った事の無いような煌びやかなお店であった。

 

夜というのも相まってか、ライトアップから中庭が見える廊下を通り、個室へ通された。食事の内容は既に決まっていたらしく、準備が出来次第運ばれてきた。食べるたびにテーブルに並べられていく料理は表現しづらいが食べた事の無い美味しさであった。

 

「どうでした?おススメするだけの美味しさはあったと思いますが」

 

「いや、正直かなり美味かった……今まで食べて来た中で一番驚いたかもしれない」

 

「ちょー美味かったっ!あのメインで出て来たお肉とかやばかったよねー」

 

「ほんとにな。この前食べた焼き肉が霞んで見える程度にはインパクトあったわ」

 

「ふふ、楽しんで頂けて良かったです~。やっぱり美味しい物を食べると元気出ますもんね!」

 

俺たちの反応を……いや、特に天の反応を見て嬉しそうにしている。やっぱり今日の場は天の為に用意してくれたのではないだろうか……?

 

気になって聞こうかと考えたが、以前お昼休みに九重に言われたことを思い出して口に出すのを止める。

 

「天ちゃん、あのデザート凄くなかった?」

 

「あ、わかるぅ。見た目もそうだけど味も美味しかったよねっ」

 

二人で楽しそうにワイワイと感想を話し合っているのにわざわざ水を差すのは良くないだろう。

 

「あ、私ちょっとお手洗い行ってくるね~」

 

「は~い。出て右を真っ直ぐ行ったら分かると思うよー」

 

「りょうかーい」

 

天がトイレにと席を立つ。これは……いい機会かもしれない。

 

「なぁ、九重。車での事、今聞いても良いか?」

 

味わうようにお茶を飲んでいた九重が、ゆっくりと湯飲みを置いてこちらを向く。

 

「良いですよー。何が聞きたいですか?答えられることなら何なりとお答えしましょう!」

 

「まずは……お店に来る前の運転手さんだけど、天の事認識出来ていたよな?」

 

「はい、そうですよ」

 

「どうしてなんだ?今の天は普通の人にはもう感知できないと思っていたんだが……」

 

「さぁ?思ったより天ちゃんの進行が遅かったとかでは無いでしょうか?それか偶々、って言ったら信じてくれますか?」

 

笑みを浮かべながら首を傾けてこちらを見つめてくる。

 

「って言う事は偶然じゃないんだな?」

 

「まぁ、そうなりますね。……先輩、私の能力って覚えていますか?」

 

「……確か、選んだ対象の動きとかを止める、だったか?」

 

「そうそう、そんな感じです。その力なのですが、止めれるのは目に見える動きだけって訳では無いのですよ」

 

「そうなのか?」

 

「はい、例えばですよ?人の記憶を対象に能力を使えば、記憶の保持が可能だったりします。今回の答え合わせはそれですね」

 

「……なるほど、つまり、天に対しての記憶や認識を九重の力で維持していたって感じで良いのか?」

 

「概ねそんな感じです。一応ですが、この力は私自身にも使用しています。先輩みたいに抵抗力があるかはっきりと分かっていませんし、保険をしていた方が良いと考えていましてーー」

 

「っ!?それがあれば、天の事を忘れずに済むのか!」

 

驚きの言葉に、つい身を乗り出す。

 

「……個人差によりますね。維持していると言っても完全ではありません。徐々に天ちゃんの暴走の力を受けていると思います。ですので、元々抵抗力が無い人ですとそこまで意味がありませんでした……」

 

残念そうに目を伏せる。

 

「既に試していたんだな……」

 

「はい、私達の中で一番最初に影響が出ていた九條先輩に試したのですが……次の日には元通りになっていました」

 

「……っ、そうか」

 

九重の言う通り、一番初めに天の事を忘れかけていたのは九條だろう。つまりもう天の事を……。

 

「なので、恐らくですが、元々アーティファクトに対して耐性がある人には効果はあるのかもしれないです。これについては試した数が少ないのではっきりとは言えませんが……」

 

「いや、それが分かっただけでも心強い。ありがとな」

 

「……ですが、正直気休めにもならないと考えています。一番重要なのは、天ちゃん自身が意思を強く持つ事だと思いますので……」

 

「そうだな、ソフィも同じことを言っていた。天の心が折れれば一気に崩れる。その逆もってな」

 

「今日ので少しは楽しんで頂けたのなら良いのですが……」

 

「心配すんなって、さっきのあいつの顔、満足そうだったろ?」

 

「美味しそうに食べていましたね~」

 

先程までの光景を思い出したのか、少し頬を上げて笑う。

 

「あと数日の辛抱だ。絶対に天を助けて見せる」

 

「私も出来る限り頑張りますので、天ちゃんの事を頼みます」

 

「ああ、すまんが宜しく頼む」

 

一段落着いたところで気になってたことを聞いてみる。

 

「ところで、どうして長袖長ズボンで来たんだ?暑くないのか?」

 

「いやー咄嗟に着る服が用意できなかったので、適当な物を着ちゃいました♪」

 

 

 

 

その後は食事を終え、再び九重と一緒に送迎をして貰った。

 

「壮六さん、今日はありがとうございました!」

 

「いえ、この程度でしたら幾らでも言って下さい。それでは」

 

ドアを閉じると、車が走り出し来た道を戻っていく。

 

「それじゃあ!部屋へ帰りましょうか」

 

「舞夜ちゃ~ん、今日はありがとね?めっちゃ美味しかった!」

 

「運よく三人分あったからね~、喜んでもらえてよかったぁー」

 

「今日はありがとな、また今度お礼させてくれ」

 

「ふふ、そうですねぇ……今度ナインボールのパフェでもご馳走してくださいね?」

 

「対価に見合うとは思えないが……それで良いのなら」

 

「それを天ちゃんと一緒に食べますので!二つ分でお願いしますっ」

 

「うぇ!?わたしも?」

 

「一人で食べるのは気が引けるし一緒に食べた方が美味しさ共有できて良いと思ってね~、先輩っ、良いでしょうか!」

 

「その位なら全然余裕だな」

 

「やったーっ!」

 

くるくると回りながら喜びを表現している九重を見ながら部屋の前に辿り着く。

 

「あ、もう着いちゃいましたね」

 

「ああ、それじゃ九重、またな」

 

「はーい、天ちゃんもおやすみー」

 

「う、うん。おやすみー」

 

先ほどまでは楽しかったが、いざ別れとなればいつ忘れられるのか分からない不安が襲って来たのだろう。少し遠慮がちに返事をしていた。

 

それを見て察したのか、九重が天と距離を詰めていきなり抱き着いた。

 

「えいっ!」

 

「わっぷ!?」

 

抱き着いた九重が天の頭を撫で回す。

 

「大丈夫だよ、天ちゃんの事ちゃんと覚えてる。明日でも明後日でも……。もし何かあっても必ず助け出すから安心してね?」

 

ゆっくりと、優しく語りかけるように微笑みながら伝える。

 

「それに!天ちゃんには心強いお兄ちゃんが居るから何にも心配も問題もナッシング!」

 

天の身体から離れ、グッドサインを突きだす。

 

「そう言う事なのでっ、おやすみなさい!また明日です」

 

こちらに手を振りながら部屋へと帰っていく九重に手を振り返す。玄関の扉が閉まり、場が静まる。

 

「……俺たちも部屋に戻るか」

 

「……うん、うんっ」

 

少し涙声の天に気づかない振りをしながら部屋へと戻った。

 

「それにしてもほんとに美味かったな、あのお店」

 

「ねー、値段って幾らくらいなんだろ」

 

「調べたら後悔しそうだな」

 

「でも気にならない?あの美味しさがどの位お高いのかって……」

 

「確かにそれはある。外観とか内装からして高級感出まくっていたよな」

 

「ほんとそれ、廊下歩いてた時に見た中庭とかやばくなかった?」

 

「テレビでしか見た事なかったわ、あんなの……」

 

ベッドに座って一息着くと、天がスマホを弄り始めた。

 

「……っ!?」

 

が、何故か何度も画面をタップし続けていた。

 

「なんだ?どうかしたのか、そんなに強く叩いて」

 

「え、あ、ああ~……ううん、何でもない」

 

スマホを置き、何かを隠す様に取り繕う。

 

「良いのか?店について調べようとしてただろ」

 

「いや~やっぱり値段を見るのが怖くなってさ、やめといた」

 

「妥当な判断だな」

 

「パソコン使っていい?見たい物があるんだけど……」

 

「自分のがあるだろ?」

 

「スマホだと見づらくてさ~、こっちの方が良いんだよね」

 

「ま、別良いぞ。好きに使ってくれ」

 

「あざ~っす」

 

パソコンを弄っている天を横目で見ながらスマホを取り出し、九重に改めて今日のお礼を送る。直ぐに既読が付き、『私も楽しめたのでお互い様です!また機会があれば今度は九條先輩や結城先輩、香坂先輩も誘って行きましょう!』と返信があった。

 

『その時はもっと一般向けのお店でな』とメッセージを送った。

 

その後、気になって今日行った店の値段を調べたが、やっぱり調べた事を後悔してしまう羽目になった。

 

 

 

 

 

「~~♪」

 

鼻歌を歌いながら風呂を出る。今日は天ちゃんと先輩を連れてご飯を食べに行った。少し強引だったけど喜んでもらえたようで安心安心。

 

体を拭きながら、洗面台の鏡に映った自分を見る。

 

「あちゃー、思っていたより広がっちゃってるなぁ……」

 

肩から腕へ、腹部まで広がっているのが光っているスティグマで確認できる。

 

「身体隠せる服を着て正解だったね」

 

広がっている模様を指でなぞりながら微笑む。

 

「さてさて、後、二日。もしかしたら三日になるかもしれないけど、それまでは何とか持ちそうかな?」

 

頭の中でラストスパートを考えながらベッドに腰を下ろす。明日は二人でカラオケと映画のコンボを決めに行くはずだ。その時には既に電子機器も使えず認識もしなくなってしまうはず。

 

「少しはましだと良いんだけどね……」

 

その次の日には先輩も同じ事態に陥る。可能ならその事態を避けたいけど……あの場面があるから結果的に天ちゃんは自分の気持ちを言えて、先輩もその気持ちに応えることにした。もしそれを無くしてしまえば私の知っている結末へといかない可能性がある。

 

「それだけは避けないとね……」

 

後は新海先輩に託すことしか出来ないのだ。私に出来ることは、明後日の夜中までの時間をなるべく安定させることと、その後の神社での戦いでの手助けくらい。

 

「うーん、直接的に解決出来ないのはやっぱりもどかしいなぁ……」

 

行き場のない葛藤に憤りを感じながら、スマホを手に取った。

 

 





あっと、二日!あっと、二日!

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