9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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主人公→新海翔→主人公と、視点が変わり変わりです。




第20話:それぞれの戦い

 

 

「ん?もう朝……?」

 

日の光がカーテンから差し込み、スマホから鳴るアラームの音で閉じていた目を開ける。

 

「今日は5/12、大丈夫。コンディションはいける。多少の眠気はあるけど……」

 

座ってた体を伸ばして一度リラックスする。

 

「んんんーっ、お腹も丁度空いたし何か食べますかっ!」

 

テーブルの上に置いてあるコンビニの袋から適当に朝食を取り出して封を開け、食べる。

 

「しゃけおにぎりだね、アタリだ」

 

食べながら、差し込んで来る日光で自分の身体を確認する。

 

「ありゃま、昨日より少し進んでるなー」

 

肌が出ている部分を軽く見たが、しっかりとスティグマが広がっていた。

 

「ま、今日さえ持てばいい事だし、いっか!」

 

一つ目を食べ切り、続けて二つ目を取り出し食べる。

 

「あーナインボールのご飯が恋しいなぁー……それか九條先輩の手料理をたべたいぃー。天ちゃんと遊びたいし結城先輩や香坂先輩とも会ってないよー……」

 

浸食が進んでいるが、それがあろうがなかろうが欲望に忠実である。

 

「こうもジッとしていると、色々溜め込んじゃうし、全部終わったらぱーっと遊ばないとね!」

 

二つ目を食べ終え、ゴミを袋へ入れる。

 

「っよし!今からが正念場!気合を入れる!」

 

お腹を満たした事で出てくる眠気を飛ばす様に気合を入れた。

 

 

 

 

朝食を終え、元の姿勢に戻ってから少し時間が経ち、休む連絡を入れるならそろそろ電話しているかなと思っていると、急に能力に対して反発するような力が来る。

 

「っ……!き、たぁ……!」

 

ここ数日、ちょくちょく感じてはいたが、これまでとは比にならないレベルの力を感じる。

 

「って……事、はっ!せんぱい、が……!」

 

押し返されない様に全力で能力を使う。視界に見えるスティグマが急速に浸食しているのが分かる。

 

「思って、いた、よりっ……つよいなぁ……これっ」

 

アーティファクトの暴走なのだから、人が扱うより遥かに強力な力が働くだろうとは想定していたけど……!

 

「確かに、これを制御しろって無理な、話だね……!」

 

こちらもより強い力で押し返す様に心に強く想う。それに答えるように輝くスティグマと、広がる模様。

 

「……っ!くぅ……、はっ!はぁ、はぁ……!」

 

暫くすると、反発するような力は消え、次第に落ち着きを取り戻す。

 

「ふぅ……。これは、天ちゃんが安定したの……かな?」

 

疲労と汗を消す様に近くに置いてあるタオルで顔を拭く。

 

「とりあえずは、一旦はこれで一安心だね」

 

ついでに体も拭きながら浸食したスティグマを見る。

 

「うわぁ……今のでかなり出たなぁ」

 

身体を見渡すと、体表面の殆どに広がっていた。

 

「やっぱり相当な力だったのかな?」

 

ゲームではそれを何とか瀬戸際で繋ぎ止めていたが、凄いことだったのかもしれない。

 

「愛、なのかなぁ……?」

 

思い耽りながら朝の定時連絡をしようとスマホを触る。

 

「ありゃ?おりょ?」

 

だが、触った画面はうんともすんとも言わない。

 

「これは……あはは、なるほど、なるほどねぇ……そういう感じね、うんうん」

 

反応しないスマホを見て理解する。どうやら、力の影響が私にまで来ているらしい。

 

「てっきり近くに居る先輩にだけかと思っていたけど……って一応私も近くっちゃ近くなのかな?それとも……」

 

さっきの攻防のせいなのか定かでは無いけど、結果だけ見れば影響を受けてしまった。

 

「これじゃあメッセージ送れない……でも、直接顔合わせるのは論外だしなぁ……」

 

このまま連絡せずにおいておく?いや、確か先輩も影響を受けて同じになっていたはず……。

 

「って事は、どの道向こうも触れないじゃんっ!意味なっ!」

 

真実に気づき天井を仰ぎ見る。

 

「あー……うん。問題ない、天ちゃんの事は普通に覚えているし、先輩の事も知ってる」

 

多分、今の先輩に近い状態だと思う。

 

「それなら大丈夫。違いがあるとすれば精々体にスティグマがある程度だし……」

 

こめかみに指を当てながら現状をまとめる。

 

「大丈夫。多少の想定外はあったけど、やる事は変わらない」

 

今日一日、たった一日乗り切れば良いだけなのだから……。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

昼飯のカップ麺を食べ終えたのを片付け、一息つくようにベッドに背中を預けるように座る。

 

後ろを見ると、寝不足だったのか、食べ終えては直ぐに寝てしまった天が一定のリズムで寝息をたてていた。

 

「無理もないよな」

 

力を常時発動しているみたいなもんだ。体力の消耗もだが、俺を巻き込んでしまったというショックもあるのだろう。

 

だが、間違いなく持ち直した。さっきも覇気は無かったが、自棄になってはいなかったし俺ともちゃんと会話が出来ていた。

 

「この調子でいけば……」

 

希望が出て来たことを喜んでいると、テーブルの上の空間が歪む。ソフィか。

 

「ハァイ、調子はどうかしら」

 

「今朝はかなりやばかったが、何とか持ち直している」

 

「それは僥倖。こちらもアンブロシアの精製を急いでいるわ。この調子だと今日の夜中には完成しそうね」

 

「本当かっ!?」

 

「ええ、だから、それまでしっかりと持たせて頂戴」

 

「ああ……!そっちも頼んだ」

 

「それじゃあ、また夜に来るわ」

 

浮かび上がったソフィが消える。

 

「今日の夜中……」

 

今の感じで行けば間違いなく持つ。大丈夫。大丈夫だ。

 

「……そういえば」

 

最早反応しないスマホの電源ボタンを押して画面を点ける。試しに触ってみたが、やはり反応は無かった。

 

「今日一日、九重からの連絡はまだ無かったよな……」

 

昨日まではあったが、今日の朝から来ていない。返信は出来ないが通知が鳴るから来ているかどうかぐらいは分かる。

 

「画面にも通知が来ていないって事は……」

 

流石に、今朝の悪化で九重も忘れてしまったのだろう。

 

……朝の母さんみたいに、俺の事も忘れたのだろうか?だが、能力を使っている九重が忘れるのか……?天に対しては使っているが、俺には対策していないとかか。

 

「………」

 

少し前から気になっていたことがあった。

 

今朝、天の力が暴走してしまった時、天は相当ショックを受けたはずだ。自分がお兄ちゃんさえいればいいって願ってしまったから、そのせいで俺まで天の影響を受けてしまったと……実際、消えようとしていたし、最後の願いをとかを言い出していた。

 

本人の心が折れてしまった様な発言をしていた。少なくとも俺にはそう見えたし、天もそれを受け入れようとしていた。

 

「……だが」

 

その後、俺が天と同じ様に機械に認識されなくなってしまう程、悪化してしまった。が……天を忘れる様な傾向は見えなかった。

 

今になって考えれば、俺がかなり悪化してしまったのだから天も同じように……もしくはそれ以上にアーティファクトの影響を受けていてもおかしくない。それこそ、天を認識出来なくなってしまう傾向とかが更に進んでしまうとか。

 

しかし、天は今朝から変わっていない様に見える。測れないので実際はどうか分からないが、少なくとも、俺は天の事を観測できている。

 

「天への影響が……少なくなっている……?」

 

楽観的過ぎる考えかもしれない。希望的考えを持ちたいのかもしれない。けど、そうは思えずにいられなかった。そう思ってしまうのは……。

 

「もしかして……九重か……?」

 

先日、九重に連れて行かれた店で、能力について話した。"使用できる対象は記憶などにも有効"だと。

 

「……っ!?ま、まさか……?」

 

最悪な事が頭に思い浮かび、体を起こす。

 

アーティファクトは人やその記憶すらも対象に出来る。天や九條の力も目に見えないものに対して発揮できることが可能だ。ならば九重も当然……。

 

「天に……使っているのか……?」

 

仮に、仮にだ。九重の能力が記憶だけではなく、天の存在感の操作と同じ様に、()()()()()()()()()()対象に出来てしまうのなら……?

 

あのお店から帰った日の部屋の前での九重の言葉を思い出す。

 

『もし何かあっても必ず助け出すから安心してね』

 

優しく笑顔で天に語り掛けるその顔は何かを守る為の表情だった。それに、あいつなら間違いなく能力を使うだろう。実家が護身術をしている事もあり勇猛心溢れる目をいつもしている。俺と同じで天を守りたいと強く想っているはずだ。

 

「これが本当なら……!まずいっ」

 

もし天や俺の事を忘れておらず、能力を使ってしまっていたのなら……!今朝の暴走の影響をもろに受けた筈だ。

 

「……ソフィッ!」

 

天を起こさない様にキッチンへ向かいソフィを呼ぶ。

 

「切羽詰まった顔ね、何かあったの?」

 

「今、九重がどこに居るか調べることは可能か?」

 

「あの子を?」

 

「ああ、もしかしたら……まずい状況かもしれない。部屋に居たりしないかっ」

 

「理由を聞かせて」

 

「あいつの能力は知ってるな、その力を天の暴走を止める為に使っている可能性が高いんだ」

 

「確か……対象の動きを止める、だったわね」

 

「ああ、動きだけじゃなくて記憶とかにも有効らしい」

 

「そう言う事ね。分かったわ、少し待っていなさい」

 

少しの言葉で状況を把握したソフィは直ぐに姿を消し、少ししてまた現れた。

 

「見つけたわ。自分の部屋に居るわね……あなたの悪い勘が的中したわよ」

 

「部屋にっ!?どんな状況だ」

 

「見た所、体中にスティグマが広がっているわね。ベッドの上で瞑想している様に見えるわ」

 

「スティグマが……!クソっ」

 

嫌な予感が当たってしまった。間違いない、天の暴走を止める為に能力を使っている。

 

「ソフィ、すまないが天の様子を見ててくれないか。九重に止めるように言って来る」

 

「そう言うと思ったわ。しょうがないわね、全く。……玄関のカギは開けて置いたから、さっさといってらっしゃい」

 

「ああ!助かる」

 

靴を履き、三つ隣の部屋の玄関をノックせずに開けて入る。

 

「九重っ!」

 

真っ暗なキッチンを抜け、部屋の扉を開けて中に入る。すると、首元に冷たい何かが触れる。

 

「動かないで下さい、……って、新海先輩……?」

 

俺の首元から当てていた物が離れ、驚いた様子の声が暗い部屋の中で響く。

 

「ど、どうかしたのですかぁ~……?こんな時に女の子の部屋に突撃するなんて……天ちゃんと一緒じゃなくて良いんですかぁ?」

 

声の場所を見ると、部屋着か分からないが、全身が隠れるような服を着ている……が、首元から顔にかけて青く伸びる模様が見える。

 

「九重……お前、その姿……」

 

俺に気づかれたのか、恥ずかしそうに顔を伏せる。

 

「あー……いえ、これは、その、……調子乗って能力を使い過ぎてしまって……あはは」

 

「天に、力を使っているんだな……?」

 

言い訳が出来ないように直球で質問する。言い当てられたのか、体をびくりと跳ねて黙る。

 

「反論しないって事は、そうなんだな……」

 

「ど、どうしてわかったの……ですか?」

 

こちらを窺うように上目遣いで見つめてくる。

 

「今朝、天の力が暴走した時違和感があった。俺は天の影響を受けて悪化したのに、本人にその傾向がそこまで見られなかった。そこで九重の能力が思い浮かんで、ソフィに確認してもらったよ」

 

「そう言う事でしたか……」

 

言い逃れが出来ないと観念したようにベッドに腰を下ろす。

 

「天ちゃん、様子どうですか?」

 

「今は何とか安定して、眠ってるよ」

 

「そうですか……つまり、先輩が天ちゃんを正しく導いたって事ですね……ふふ、よかったぁ……」

 

心の底から安心しているかの様に笑う。

 

「九重も、助けてくれていたんだろ?」

 

「いえいえ、私なんて大したことじゃありません。精々、天ちゃんの暴走を軽くする程度でした」

 

「ずっと、部屋に籠って維持していたのか」

 

部屋の中を見渡す。部屋から出ていないと分かるようにテーブルにはコンビニの袋とそのゴミが置いてあった。

 

「いやですねぇ、女の子の部屋をじろじろと見ないで下さいよ~」

 

揶揄う様に手をひらひらと動かす。

 

「先輩が仰っていた霊薬、あとどのくらいで完成しそうですか?」

 

「ソフィが言うには、今日の夜中らしい」

 

「夜中……そうですか、なら……問題無さそうですね」

 

「だから、九重が無理する必要は無いんだ。早く力を解除してくれ」

 

「残念ですが、お断りさせていただきます」

 

きっぱりと、強い意志でこちらを見る

 

「駄目だっ、自分の状況が分かってるのか!?」

 

「これ以上無いって位には把握しています」

 

「それなら……!このままだと、お前も天みたいに能力が暴走するんだぞ!?」

 

「そうかもしれませんし、その前に霊薬が間に合うかもしれません。もし後者なら、私も一緒に力の契約を解除しちゃえば解決ですね!」

 

「危険すぎるぞ」

 

「天ちゃんが契約を破棄したのを確認出来れば、私も能力を解く。こればかりは先輩のお願いでも譲る気はありません」

 

「九重……」

 

予想はしていたが、下がる気は無いらしい。

 

「……本当は、やめさせるのが一番なんだろうな」

 

「普通ならそうかもしれませんねっ。……因みにですが、兄として、家族として、天ちゃんを助けられる可能性を少しでも上げたいと思う気持ちは、何も間違っていません。どうぞ、遠慮なく私を使って下さいね?ふふ」

 

こちらの考えを見透かすように微笑みかける。

 

「……すまん」

 

「謝る必要はありません。先輩が天ちゃんを助けたいと想うように、私も同じ気持ちです。先輩は天ちゃんの傍で助けて、私はここから能力で助ける……」

 

ベッドから立ち上がり、こちらを見上げる。

 

「一緒に、天ちゃんを助けましょう。そうですよね?」

 

決意を表す様に俺に手を差し出す。

 

「……ありがとな。心強いよ」

 

「それはそれは……嬉しい言葉です!」

 

負けない様にと、嬉しそうに喜ぶ九重の手を強く握った。

 

 

 

 

 

突如押しかけて来た先輩が、話を終えて部屋へと戻っていく。

 

「まさか気づかれちゃったとは……やっぱり、変なところで勘が良いんですね……」

 

ゲームでソフィが言っていた台詞を思い出しながら、再び座り直す。

 

「あと、半日程度……造作も無いですよ」

 

目を閉じて、そこには居ない人間に語り掛ける。

 

「それまで、私が……維持できれば……っ」

 

閉じた目を強く瞑り、再度気持ちを強く固めた。

 

部屋は暗く、明かりとしてはカーテンから僅かに差し込む光と、部屋を照らす青い光。

 

その青い光が、輝きが……、赤く……。ーーー

 

ーーー()()()()()()変わっていたことを、誰も知ることは無かった。

 

 





さらっと正しい選択肢を選び終えていました。やったね。



おや?主人公の様子が……?

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