最終シーンへ突入っと……。
「おにいちゃ~ん。今何時~?」
夜も深まり、『眠たいから顔洗ってくる!』と言って洗面台へ向かった天が戻って来た。
「ん~今は夜中の一時ぐらいだな」
「もうそんな時間になったんだねー」
「ソフィからの連絡は無いけど、あと一、二時間には完成出来ると思う」
「は~い。で、なんの話してたっけ?」
「お前がこの前、おとん達三人で焼肉に行ったって話を自慢していたところだな」
「あ~……お兄ちゃんのコレクションが全部捨てられてた話だったね」
「おい、やめろ。嫌な記憶を呼び起こそうとするんじゃねぇ!」
天のせいで忘れようとしていた記憶が……!くっ、ストライクディスティニー……、フラッグセブンソード……。
「あ、また精神崩壊しちゃった?」
「してねぇよ。人の嫌な記憶を呼び起こそうとすんな」
「いやぁ、ついつい……」
「少しお高い店に行きやがって……今度はちゃんと俺も誘えよな?」
「分かってる分かってる。でも、この前舞夜ちゃんに連れて行って貰った店と比べちゃうと……ねぇ?」
「舌が肥えたのか」
「肥えたって程じゃないけど……上を知ってしまった故の悲しみというか」
「まぁ、確かにあのレベルの味を知っちまったからには思ってしまうよな……」
「結局、私はスマホ触れなくて調べられなかったんだけど、幾らぐらいだったのかな?」
「……知りたいか?」
「調べてたの?」
「ああ、好奇心が抑えきれなくて、つい……な」
「幾らぐらい?やっぱり結構お高かった?」
興味あり気な天がこちらを見る。
「………」
「いや、なに神妙な顔してるんだこいつ」
「……4万だ」
「はい?」
「4万。俺たちが食べたコースの値段だ」
「は?よ、よんまん……?え、三人の合計が……?」
想像通りの反応を見せる天に静かに首を振る。
「え……マジ?一人当たり……?」
「ああ、一人4万。更に正確に言えば、42400円だ」
「……Wow」
「後悔しただろ?」
「これから、何か食べるたびに思い出して比較してしまう程には……はい」
そして、俺と天はお互いに顔を合わせ、無言で九重の部屋へ向けて手を合わせた。
時間は午前二時……を少し過ぎたくらい。明かりの無い部屋で、静かにその時が来るのを待った。
「舞夜、調子はどうかしら?」
「んー……絶好調、かな?」
「身体の方は?」
「どうなんだろう。確かに馴染んだって感覚?みたいのはあるけど……よくわかんないや」
「無事なら良いわ。それにしても、綺麗な色ね」
「えへへ、そうかな~?似合う?」
「そうねぇ、力を使った時と似たような色だし……映えるんじゃないかしら?」
「あ、確かにっ!相まって見栄え良さそうだもんねー」
「魂の、色ねぇ……。あなたが言っていた覚醒者……最初に見るのが言っていた本人だなんて驚きだわ」
「それについては、私が一番驚いてるねっ」
「現実は予言通りにいかないって訳かしら」
「その原因がここに居ますよー」
「向こうが終わるのはいつかしら」
「んと、もうそろそろじゃないかな?夜中の二時は過ぎてるし、流石に霊薬は完成したと思うよ」
「なら、もう少しかしら……あら、噂をすればーー」
玄関の方を見る澪姉に釣られて顔を上げると、チャイムの音が部屋に響く。
「来たみたいね。私は下がっているわ」
窓を開けて、ベランダから出て行く澪姉を見ながら能力を解除する。ベッドから立ち上がり先輩へ声を掛ける。
「はーい、今行きまーす」
部屋から出て玄関の扉を開けると、驚きながらも安心した先輩の顔が目に入る。
「九重!無事だったか!?」
「しっかりと生きてますよ~。先輩が来たって事は……」
「ああ、間に合ったんだっ!さっきソフィから薬を受け取って天の契約を解除したんだっ」
「そうですか……無事に契約を破棄できたのですね……」
「今は霊薬のせいで寝ているが、問題無い。ちゃんと無事だ!」
「ほんと良かったです。先輩も、お疲れさまでした……」
無事に乗り切れるとは分かっていたけど、ちゃんと本人から安否を聞けたのは実感が大きい。
「これ、ソフィから貰った霊薬のもう一本だ。これは九重が使ってくれ」
「私がですか……?」
「天の無事が分かったんだ。そっちも契約を破棄した方が良いだろ?」
「あー……それもそうですね」
先輩が手に持っているもう一本のアンブロシアは、本来神社で高峰先輩に対して使う物。ここで私に使うのは……。
「注射器みたいなやつで、針を体に刺して押せば契約を解除出来るらしい」
「ふむふむ、見た目はまんまお注射ですねぇ」
「刺しても体じゃなくて魂に直接刺さるから肉体に傷は付かないから安心してくれ」
そう言って私に渡して来たので仕方なく受け取る。
「刺すときはベッドで横になってからすると良い。意識が無くなるから立ったままだと危険だからな」
「は、はぁ……ありがとうございます~……」
私が受け取ったのを確認し、先輩は自分の部屋へ戻っていった。
「……どうしよ、これ……?」
私が使えば高峰先輩の能力が破棄できずに脅威と……なる?勘違いしたままだったし……それに、私は能力が暴走する可能性は無くなっちゃったし。
「どうせこの後の戦いに付いていくつもりだったし、ゴーストとの戦いが終わった後にサクッと勝手に刺しちゃえば大丈夫だよね?」
本来ならその役は天ちゃんだけど……いや、勝手に部屋に置いていくか?うーん……。それだと天ちゃんが私の分って聞いたら使わなさそうだしなぁ。
私が覚醒しているって教える?でもわざわざソフィの前で能力使ってごちゃごちゃ話すのは時間が足り無さそうだし……。
「よし、勝手に刺しちゃお。それで万事解決!その後ゆっくり説明すれば大丈夫だよね」
アンブロシアを一旦テーブルの上に置き、着替えを始める。戦闘前提の服装を引き出しから出して着ていく。
「ん~……先輩はまだ部屋にいるし、ソフィからゴースト復活の知らせを聞いた辺りかな?」
最後に手袋を着け、問題無いか鏡で確認する。
「よ~し、完璧」
今回は武器などの装備は要らないので拳一つである。
「あとはー迎えの車をお願いして……」
スマホで神社に向かうと連絡を入れる。
「これで後は先輩が来るまで部屋前で待機しておくだけ」
静かな真夜中、目的の部屋からは人の話し声が聞こえ、声が次第に近づいてくる。
「お、来た来た」
中から『ソフィのヒーローマスク』の話が聞こえ、ゴーストとの決着をつけると気合いを入れて玄関のドアを開ける。
「っ!?……九重?どうしたんだ俺の部屋の前で……?」
「やぁやぁ、さっき振りですね。新海先輩」
部屋から出て来た先輩を笑いながら出迎えた。
「やぁやぁ、さっき振りですね。新海先輩」
部屋を出ると、玄関横の壁にもたれ掛かっている九重が俺に声を掛けて来た。
「ああ、そうだけど……もしかして俺に何か用か?てか、どうしたんだその恰好」
よくよく見ると、さっきまで着ていた恰好では無く、上下黒の服を着ていた。何かの仕事着にも見えるが……。
「先輩に用があると言えば当たってますが……正確には神社に居るゴーストに……大事な用があるって感じですかね?」
「っ!?」
九重の言葉に驚いてしまう。
「……部屋の会話を聞いていたのか?」
何処で知ったのか。普通に考えればついさっきソフィから聞いた時に聞き耳を立ててたとかになるが……。
「え?あ、ああ……いえいえ違いますよ?そんな変態みたいな行為を私がする訳無いじゃないですか~、あはは」
一瞬、キョトンとした顔になると、何かを誤魔化すように顔の前で大きく手を振って否定する。
「違うのか?」
「はい、色々事情を説明する時間が無いので省きますが、私の実家……九重家はこの街の警備会社的なのもしておりまして、ゴーストの情報をここ最近ずっと集めていたのですよ。勿論内容は伏せてますよ?」
「九重の実家が……?」
「はい。おじいちゃんが『可愛い孫娘を危険な目に合わせようとするやつがこの街に居る』とか何とか言って張り切っちゃてて~。ついさっき神社で目撃情報が私に入りました」
「そ、そうなのか……」
どうやら彼女の実家は、俺が想像していたよりもずっと凄い家らしい。ソフィより早かったって事だよな?やばくないか?
「先輩の方もどうやらソフィの方で知ってたみたいですね」
「もしかして、一緒に行くつもりか?」
「あはは、何を当然なことを言っているのですかー」
「相手は人を殺そうとしている奴だぞ?それに、身体の方は大丈夫なのか?」
「それは前回で身をもって知っていますから……、身体の方も大丈夫です」
目の前で心配ない様に手をグーパーして俺に見せてくる。しかし……俺が今からしようとしている事は……。
「その子なら平気よ」
どう断ろうかと考えていると、俺の肩にソフィが出てくる。
「いや、身体とかの問題ではーー」
「それ込みで言っているわ。あなたが言うミヤコやノアみたいに障害になる可能性は低いから、連れて行っても問題ないわ」
「本気か……?」
「ええ」
ソフィからの言葉を聞いて疑うように九重を見る。俺と目が合うと、にっこりと人懐っこい笑顔を返して来る。
「先輩が考えている事、分かりますよ~?これからゴーストを倒しに……いえ、濁すのは良くないですね、
「……ああ、そのつもりだ」
「それを私は否定しませんよ、何なら大賛成です」
「……その理由は?」
「あちらはアーティファクトを狙っていますから、今後も天ちゃんや先輩、他の先輩方を狙うと考えています……」
「ああ、俺もそうなると思っている」
「ですよねっ。なので、やられる前にやっちゃおうって感じですね!大切な友達や先輩方の脅威になるというのなら消えていただこうかと」
おちゃらけて笑いながら俺の問いに答えているが、目が笑っていなかった。
「あの人が生きている限り、天ちゃんはその存在にいつまでも怯えているままです。先輩はそれを許容出来ますか?」
「………」
どうやら、九重は俺の考えと同じみたいだな。
「カケル、あなたは嫌かもしれないけど、その子は戦力になるわ」
「本当に良いのか?死ぬかもしれないんだぞ」
「ふふ、心配ご無用です。その為の護身術ですからっ!」
自信満々に右手の拳を握る。その顔に恐怖は見えない。
「……分かった。でも、ゴーストとは俺が戦う。九重はサポートを頼む」
「……先輩、
「いや、実はさっきソフィから借りたんだ。だから戦える」
「そうなんですね!それなら一安心です」
俺が戦闘出来ると分かると、嬉しそうに歩き出す。
「ささ、行きましょうっ。実は下に迎えの車を呼んでいるのですよ」
「車を……?」
九重に誘われるままにマンションを出ると、黒い高級車が一台止まっていた。
「お一人様、ご招待でーす」
後部座席のドアを開けて俺を中へ催促する。色々聞きたい事があるが、時間が無いため言われるがままに乗り込む。
「あれ、運転手は澪姉なの?壮六さんは?」
「気にしなくて良いわよ。私が勝手に出て来ただけ」
「あー……まぁいっか。それじゃあ、神社までおねがい」
九重が目的地を告げると何事もなく車が動き出す。
「……この前の男の人じゃ、ないのか」
「ちょーっとこちらで手違いがぁ……ま、気にしないで下さい!」
「それじゃあ、しっかりと掴まっていなさい。急ぐわ」
そう言うと、急に車が加速し始める。
「っうぉ!?」
その反動で背中のシートに体をぶつける。
「澪姉?大丈夫?法定速度超えてるけど」
「安心しなさい。今夜に限れば見つかる事は無いのよ」
「まー確かにそうだけどさぁ……」
明らかに普通の速度では出ない轟音が車から聞こえる。一体何キロで走っているんだ!?
交差点を勢いよく曲がった時の遠心力で体が扉側に引っ張られる。ぶつかると思ったが、直前で止まる。
「ちょっとちょっと、後ろの先輩が危ないから安全運転してもらえると助かるなー!」
「あら、仕方ないわね」
九重の言葉を聞き入れ、次第に速度を落としていく。あぶなかった……。さっきのは多分、ぶつかる寸前で九重が力で動きを止めてくれたんだろう。
「ありがとな、色々……」
「ん?いえいえ~」
特に気にすることじゃない様にこちらに手を振って応える。
その後は特に何事もなく神社へ到着する。
「はい、着いたわよ」
「ありがとねっ、それじゃあ行ってきます!」
「えっと、送っていただきありがとうございました」
「気を付けて行ってらっしゃい」
ドアを閉めると、静かに車が走り去って行った。
「さぁ先輩、ここからは引き返すことが出来ませんが……それでも行きますか?」
少し前を歩いていた九重が振り返り、問う。
「当たり前だ。寧ろそっちこそ、引き返すなら今の内だぞ」
「兵士に撤退という二文字はありませんので!」
「奴の目を見ない様に気を付けろよ?」
「大丈夫です、先輩だけを見ておりますので!」
冗談が言えるくらいには問題無さそうに見える。
「今、ドキッてしました?妹の友達に自分だけを見ているって言われて不覚にもドキッてしちゃいましたか!?」
「おまえなぁ……」
「冗談ですって~、そんな事言ったら天ちゃんに怒られますしね!ふふ」
揶揄うように笑って並びながら境内へ向かう。天に怒られるって……もしかして。
「お前、天の事……知っていたのか?」
「ん?天ちゃんが先輩の事を好きって事ですか?見てれば分かりますよ」
これは驚いた。
「あいつ……バレない様に隠してるとか豪語してたくせに、あっさりバレてんじゃねーか」
「いえいえ、他にはバレていないと思いますよ?実は私、それなりに人を見る目がありますので~」
自分の目を指差しながらどや顔で語る。なんか、色々とスペック高くないか……?
「あ、着きましたね」
境内までの道のりは終わり、目的の場所まで辿り着く。
「よぉ、早かったじゃねぇか。まさか本当に来るとはな」
真夜中の境内に一人立っていたゴーストが、こちらを見て楽しそうに笑った。
遂に決戦の地へご到着。これから始まる壮絶なバトルが……バトルが……!起きたり、起きなかったり……。