遂にこの戦いも終わりを迎えます。
長くなりそうだったので、前と今回の二つに分けました。
「先輩……申し訳ありません。助けに入るのが遅くなりました」
俺とゴーストの間に立ちふさがった九重が、申し訳なさそうな顔でこちらを見る。ゴーストの動きが止まっている状況を見れば、能力を使っている事が安易に分かる。分かるのだが……九重の身体に広がるスティグマの色がいつもとは違って、赤色だった。
「どうしたんだ……?そのスティグマの色は……?」
「あはは、これですか?……少し、気持ち悪いかもしれませんね。問題はありません」
少し寂しそうに自分の身体を見せてくる。
「いや、そういう意味じゃなくて……っ、これ以上使ったら……!」
「落ち着きなさい。その子のスティグマは安全よ」
消えていたソフィが再び人形の姿で出てくる。
「安全って……色が赤いんだぞ!?」
「だから落ち着きなさい。今はゆっくりと説明する時間がないわ。マヤ、ソラみたいに異常は感じるかしら?」
「大丈夫です。寧ろ、
「そう感じているのなら取りあえずは、問題無さそうね」
「ありがとうございます。それでは先輩はゆっくり休んでいて下さいね?後は……私が片付けておきますので」
労うように語り掛けて来た九重だが、振り返りながら最後に呟いた言葉には、確かな怒りがこもっていた。
「……っ!!っ!!」
身動き一つ出来ないゴーストを見つめたーーーと思った瞬間、ゴーストが大きく後ろに吹き飛ぶ。
「っがぁ!?」
数メートル先に転がり、倒れる。何が起きたのかと九重を見ると、上げていた片足をゆっくりと下ろし始めていた。
……ゴーストを蹴った?
「さぁ、ゴーストさん。今ならお得意のお喋りが出来ますよ?」
「……っ!て、……めぇっ!」
腹部を手で押さえながらゆっくりと起き上がる。
「……し、ねっ!」
背後に出現した槍が一斉に九重に襲い掛かる。難なく避けれるが、背後に俺が居るため、避ける素振りを見せずに手を前に翳す。
「とまれ」
冷たくそう言い放つと、正面の槍が動きを止める。
「先輩、今の内に安全圏へ移動をお願いします」
くるりと回り、こちらに笑顔を浮かべる。
「あ、ああ……わかった」
状況がイマイチ理解できないが、今の俺が足手まといになっているのはわかったので、その場を離れる。
「それでは、ゴーストさん。第三ラウンド……と、行きましょうか」
能力を解除し、向かって来る槍を全て難なく避け切る。
「すげぇな……」
さっきのもそうだが、運動神経が良いとかそんなレベルの話では無かった。
「ちょこまかと避けやがってっ……!」
複数の槍が出現し、射出する。それを避けようとした九重が、何かを察知してその場から大きく横に飛ぶ。
「なっ!?」
その瞬間、さっきまで居た足元から槍が突き出てくる。あんな事まで出来るのかよ……!
「残念、視線の動きでバレバレです」
動揺したゴーストに高速で詰め寄る。
「……っ!?ちっ!」
槍が間に合わないと分かりその場から能力を使って距離を取ろうとしたゴーストだが、足がその場から離れず、そのまま接近を許してしまう。
「残念、力は使えませんよ?」
能力を発動させた九重が、ゴーストの頭部を撃ち抜く。しかし足が離れない為その場から動く事の出来ないゴーストに続けて追撃をする。
「頭部、右太もも、左肩、次は、右腕、右太もも、腹部……ですね?」
何かを呟きながらゴーストの身体に指を突き刺している。……何かの武術なのだろうか?
「ぐっ!……っ!ごちゃごちゃと、うっせぇんだよっ!」
大きく手を振るって上空から槍を降らせるが、直前にそれを察知して後ろに下がる。
「くそがっ……ちまちまと攻撃しやがって……っ!」
「安心してください。まだ殺しません。あなたには同じ分だけの痛みと……破壊を尽くすつもりですので」
ここからでは何を言っているのか分からないが、九重がゴーストを圧倒している。これだけは分かる。
「これは……楽に勝てそうかしら」
「ソフィ、聞かせてくれ。あの赤い色のスティグマは何なんだ?大丈夫って言っていたが……」
「そうね……こちらの世界の人間で前例が無いから不確かだけど、アーティファクトを完全に掌握出来た証、みたいなものよ」
「アーティファクトを、掌握……?」
「ええ、そうね。アーティファクトを完全に理解し、それを十二分に扱える領域に至った……って所かしら?」
「つまり、覚醒したって事なのか?」
「その認識で構わないわ」
「そうか……それなら良かった」
「あれを見る限り、能力も必要なさそうに見えるわね」
「……確かにな」
二人の戦いを見ていると、ゴーストの攻撃を九重が躱し、常に動きを把握させまいと動き回っては攻撃を仕掛ける。隙を作ろうと俺に攻撃を仕掛けようとすると、能力を使ってそれを阻止。一方的な戦いに見える。
「どうして、最初からあれをしなかったんだろう」
これ程強いのなら、もっと楽に勝てたんだが……。
「知らないわよ。でも、そうね……何か制約があるんじゃないかしら?普通の動きじゃないわよ。あれ」
「制約……」
俺が前に出るなと言ったから引っ込んでいたのかと考えていたが……確かに。普通、あんなに動けるものなのか?
「その証拠に、ほら、彼女の目、見えるかしら?」
「目……?」
動きが早すぎて追うのを諦めていたが、目を凝らしてよく見ると、確かに九重の目……所謂結膜の白い部分が赤黒い色になっていた。
「九重っ!その目……!」
俺の言葉にピタリと動きを止め、ゴーストから距離を取ってから、ゆっくりとこちらを向く。
「……後で事情は説明します。取りあえずは大丈夫ですので」
見られたくないみたいに再度ゴーストの方を向く。
「もう少し、お返しをしたかったのですが、これ以上は先輩に心配をおかけさせてしまうので………終わりにしましょうか」
「ふざけってんじゃ………ねぇ!コケにしやがってっ!」
ゴーストの顔にスティグマが浮かび上がる。まずいっ、石化だ!
「九重っ!」
「ハハッ!油断してたな!馬鹿がっ!」
すぐに視界を遮ろうと立ち上がったが、前を見ると、何事もなくゴーストへ向かって歩き続ける。
「残念ですが、今の私には石化の能力は効きません」
「っ!?一体なんの力なんだっ!てめぇは!」
苦し紛れに、九重を囲うように全方位から槍が出現する。
それを見上げるように確認した九重が静かに手を前に出す。
「ーーー動くな」
その瞬間、この場の時が止まった様な感覚に襲われる。
「……こ、これは!?」
周囲を見渡すと、目に映るもの全ての動きが止まっていた。ゴーストの槍、街灯に群がる虫の一匹一匹、風、それに吹かれる木々の葉っぱ一枚一枚まで。
「凄まじい力ね……」
隣のソフィも驚くような声を出していた。
そのままゆっくりとゴーストの目前まで迫る。
「どうですか?これで石にされた人達の気持ちが少しは理解出来ましたか?」
耳元で何かゴーストに囁き、右手で首を掴む。
「これで終わりです。今から、あなたを殺します」
「こ、九重……!」
それは、させない!それをするのは………俺の役目だ。
「まてっ!それは………っ!」
俺の言葉に振り返ると、こちらの意図を察したかのようにほほ笑み、前を向く。
そのまま、首を掴んだ腕でゴーストを持ち上げる。すると、ゴーストの身体が灰色に染まり始める。あれは、石化……?
「自分の力が返ってくる。……因果応報ですね」
急速にゴーストの身体を蝕んでいく。しかし、お構いなしにと手に力を込め、首を絞め始める。凄まじい力が加わっているのか、肌が裂け、血が出始める。
「まてっ!九重っ!お前が殺しちゃダメだっ!」
急いで近寄るが、突然身体が動かなくなる。……これは、クソっ!
もがこうと身体を動かすが、指先一つまともに動かすことが出来なかった。
視界に映るのは、身体の殆どが石へと変わり果てたゴーストとそれを持ち上げ、首を握る九重の後ろ姿。
「ーーっ!……っ!!」
やめろっ!能力を解いてくれ、このままじゃ!お前が、ゴーストを……!
必死に声を出そうとしたが、喉からは何も出ない。
「……先輩、大丈夫ですから……ね?」
正面を向いたままこちらに言葉をかけた九重は、全身が石になったゴーストの首を握り……破壊した。
落ちたゴーストの首が地面に落下し、砕ける。離れた身体は自由落下で地面に衝突し、砕け散る。
ゆっくりと手を下ろし、無言で自分の手を見つめた九重が、くるりと振り返る。
「お疲れ様ですっ、これで一件落着ですね!」
いつもと変わらない笑顔を浮かべた九重が、そこには居た。
これで第二章の大体は終わりましたね。後は、高峰先輩が出て来るけど……まぁ、彼は即退場になると思います。
後、一、二話で本編は終わりそうですが、後日談とか書きたいのを書いてから終わろうかと思います。