戦いが終わり、残るは日常のみ。ん?高峰、連夜……?
ゴーストが石化し、消えたのを確認して新海先輩の方へ駆け寄る。
「先輩、お体……では無いですね。体調の方は大丈夫ですか?」
ゴーストからの攻撃を結構食らっていたのだ。多少なり魂にダメージは残っているだろう。
「あ、ああ……。俺の方は大丈夫だ、九重の方は無事か……?無理、したんじゃないのか?」
「ふふ、ご心配ありがとうございます。私の方は大丈夫ですよ。見ての通り一回も攻撃を受けておりませんので」
その場でくるりと回りながら問題無いとアピールする。
「それもそうなんだが……目の方は、大丈夫なのか?後で話すって言っていたが……」
「そのお話ですね。そうですね……先輩だけには話していた方が都合が良いのかもしれませんね」
私に気を遣ってか、慎重に言葉を選んでいる先輩に向かい、開いている目に向かって指を指す。
「取り敢えず、今は問題ありません。ね?元通りでしょう?」
「ほんとだな。さっきは赤く充血してなかったか?」
「そうですね。先輩が見た通りの状態になっていました」
「何か、理由があるのか……?」
「話すと、とっっても長くなってしまうので、簡単に話しますね?」
「ああ、九重さえ良ければ聞かせてほしい」
その場に座りながらこちらを見る先輩の周りを歩きながら話始める。
「とある街に、昔からその土地に根付いている一族が居ました」
「その一族にはずっと昔からの目標……悲願がありました。それは、とある人物に勝つこと」
「ですが、当時ではどうあがいても勝つことが出来ず、敗れてしまいました」
「どうすれば勝てるのか?その時の人はこう考えました。『今は勝てなくても、また再び相まみえた時に備えて、強くなろう』と……」
「その一族は強くなるためにありとあらゆる手段を試しました。強い人間同士での交配、肉体の強化、改造」
「長い年月をかけて、少しずつ……、少しずつ肉体を変え、技を、心を鍛え、強くなっていきました」
「全ては、来るべき戦い……次の勝利の為に」
歩くのを止め、新海先輩の正面に立つ。
「先輩がさきほど見たものは、その力の一端です」
「つまり……九重はその力を持っているって事なの……か?」
「正解です。古来より引き継がれる人を越える力。その力を、私は受け継いでいます。先輩も何となくおかしいと気づいていたのではないでしょうか?私の様な可憐で、か弱い乙女にはあり得ない動きをしていると」
「……そうだな。護身術とか言われてたが、それで説明できる範疇を越えていたとは思う」
「私みたいな存在でも、人ならざる力を行使することを可能にする。これが……」
目を合わせる。
「ーーー九重一族の力です」
枷を解き、力を使う。
「………」
私を見て先輩が驚きの表情を見せる。
「と、まぁ……そんな感じですね~。どうですか?かっこよく演出したと思うのですがー……」
目を閉じ、使うのを止める。
「でも、そうですね……普通の感性では気持ち悪いですもんね。すみません、御見苦しい物をお見せしちゃいました、あはは」
誤魔化すために、少し髪を弄る。
「あ、いや、驚いたのは確かなんだが……それより、それを使って体は大丈夫なのか?」
「え?ああ、ええ、はい。大丈夫ですよ?」
「本当か?無理して使って後遺症とか、何かしら残るとかは無いんだよなっ?」
「まぁ、はい。一応完全に制御出来ているから使っているので……」
「そっか。それなら安心した」
私に問題無いと分かって、安心するように力を抜いて座り込む。……うーむ。
「怖くないですか?普通の人とは違う存在や、異端の力を持つ存在が目の前に居るのですよ?それこそ、『化け物がっ!』って罵られても仕方ないと思うのですが……?」
「そう言われてもな、そんな存在にならここ最近、嫌な程出会っているからな。異世界人だろ?超能力にそれを使ってる殺人鬼に……」
自分の指を折りながら数えだす。
「だから、九重がそういった力を持っていても、別に怖がったり忌み嫌ったりしないぞ?見た目はちょっと怖いかもしれないが……その力に助けてもらったからな。寧ろ感謝しかない」
先輩の目を見るが、心の底からそうと思っている様にしか見えない。
「そ、そうですか……」
「ああ、そうだな。だから……前の公園の時、今日の事。後は天の事とかも色々含めてありがとな?凄く助かった」
少し疲労が見える顔で精一杯こちらに感謝を伝えてくる。
「……こちらこそ、ありがとうございます。頑張りが報われた様な気がします」
正面から真っ直ぐな感謝を向けられたので、恥ずかしくなり背を向ける。
「も、もし、いつか……私の力が必要になったその時は、遠慮なく頼って下さいねっ!そのための力なのですから!」
「はは!そうだな。女子に頼りっきりにならない様に俺も頑張るさ」
「先輩は頑張り過ぎなのです。少しは他の人を頼るって事を覚えた方が良いですよ?頼もしいヴァルハラ・ソサイエティの皆が居ますからね」
「俺以外皆女子だから頼るのはちょっと……な?」
「あはは、男の矜持がってやつですねっ!それなら仕方ないですね」
自分の事を打ち明けるのは、少し不安ではあったけど……流石は新海先輩ですね。これはヒロインが惚れるのも無理は無いですよ。
心地良い感情が湧き出る。今日はいい夢が見れそうな気がする。
「それでは先輩、そろそろ帰りましょうか?天ちゃんが心配していますよ?」
「ああ、そうだな」
手を出して、先輩を立たせる。ふふ、早く帰らないとね……。
振り返り、凱旋と洒落込もうとした時、背後から人の気配がして振り返る。
「なんということだ……」
声が聞こえたと思うと、暗闇からゆらりと現れる。
「な……っ!?」
「あーー……」
そういえば忘れていました。まだこの人が残っていましたね。
砕けたゴーストの石像を愕然と見つめている。
「高峰……蓮夜……っ」
「キミたち……、なんてことを……。なにをしたのか……わかっているのか!」
大声でこちらに向かって叫ぶ高峰先輩。前に出ようとした先輩を制止させ、代わりに出る。
「降りかかる火の粉を振り払っただけです。自分の力に溺れ、最後はその力によって自滅する……。お似合いの結末だと思いますが、高峰先輩はどう思われますか?」
「どう……、どう思うかだと……!?」
顔を歪ませ、怒りを露わにする。
「彼女は、私の希望だった。私の、光だった……!いいや、全てのユーザーの母となる人だったっ!」
「それを、貴様らは……!」
これは、戦闘開始って事で良いですよね?
やる事をやり切って、いざ帰ろうとしたところに追加で来る。これ程、めんどくさい事は無い。
「くっ……!戦うしかないのかっ」
隣で戦闘の覚悟を決める先輩の声を聞きながら、力を解放する。
「ーーーはぁっ!!」
高峰先輩の顔にスティグマが浮かんだと同時に、全力で距離を詰める。踏み込んだ石の足場が砕ける。
「っ!?」
一呼吸する間もなく背後へと回り込み、ポケットに仕舞っておいたアンブロシアを取り出す。
「真夜中ですので、お静かにお願いしますね?」
そのまま横腹に注射器の先端を刺し、流し込む。
「ぐっ!?あっ、ぁああ!!」
「ですから、お静かにと」
膝裏を蹴り、姿勢を崩させて、手刀で首元を振り抜く。
「がぁっ……!」
「っよっと……おやすみなさいです」
糸が切れたように膝から倒れる高峰先輩を支えながら、ゆっくりと地面に寝かせる。
よし、これでゲーム通りに再現できたね!
本来の使用方法で消費出来た事に確かな満足感を覚えて、頷く。
「は……?た、倒したのか……?」
「はい、うるさかったので眠ってもらいました」
「今さっきまで、俺の横を歩いていなかったか……?」
「歩いていましたよー?」
「こ、これも、九重が持っている力……で、良いんだよな?」
「その通りです。今のは少し面倒だったのでサクッと終わらせました」
先輩を見ると、さっきまで私が立っていた位置と、高峰先輩が倒れている位置を何度も交互に見ていた。
「足元のブロックが……とんでもねぇな」
「ささ、邪魔者は消えたので、今度こそ帰りましょう!!」
「いや、大丈夫なのか?あれ。あのまま放置するのは」
「問題ありません。後ほど九重の人達が回収して、安全な場所で介抱しますのでご心配なく」
「それなら良いんだが……」
本当に大丈夫なのか少し不安を感じつつも振り返る先輩と一緒に境内を出る。
「無事、終わったようね」
歩いていると先輩の横の空間が乱れ、ソフィが出現した。
「ああ、無事終わった。どこ行ってたんだ?」
「あなたの妹を宥めていたのよ。ほんと、騒がしい子ね」
「天が起きたのか!?」
「ええ、あなたを探しに行くって騒いでいたから無事終わったって知らせておいたわ。今は大人しく家で待っているところよ」
「そうだったのか、すまん。ありがとう」
「疲れちゃったわ、全く。成果も出なかったし……、私は戻るから何かあればまた呼んでちょうだい」
「分かった」
疲れた様な声で消えていくソフィ人形。お疲れ様です……。
「天ちゃん、無事契約を破棄できたのですね」
「だな。これでようやく安心できる」
ふと、頭の中に思いついたことがあり、スマホを取り出す。
「……お、うわっぁ……」
「どうしたんだ?」
「私に天ちゃんからのラブコールが大量に来ていますね。見ます?」
スマホの画面を差し出す。
「あー……俺がスマホを置いて行ったからかぁ」
「それで私の方に……、心配させちゃってるし、電話、してやって下さい」
「そうだな、悪い少し借りる」
電話をする先輩の受話器から、こっちにまで届いて来た声を聞いて、無事に終わったと実感を得るのであった。
「さて、本日のサボりは私達三人ですねっ!」
夜が無事明け、二人は大事を取って学校を休むことになった……ので私もサボった。神社の後、事後処理の人達への指示や、おじいちゃんやしげさんとのやり取りをしていたら外が明るくなっていたので、行くのを諦めた。
朝に先輩の部屋を訪ね、天ちゃんの無事をその目で確認が出来た。
「それにしても、天ちゃんが無事解除出来てほんとに良かったねー!今日はお祝いしちゃいましょう!お祝いっ」
「お祝いって……、でも、なんか……、やっと落ち着けるな」
「だね、ず~~~っと大変だったもんね。石になったり、あたしがおかしくなったり」
「このまま解決だと良いんだがなぁ」
「そだねぇ~」
パソコンの画面を見ながら、覇気の無い返事を出す。その横でコップに入れたお茶を飲む先輩。うん、平和だね。
「昨日の事、何か記事になっているか?」
画面の内容が気になったのか、天ちゃんの後ろから覗き込む。それに釣られるように私も一緒に後ろから覗き込む。
「う~ん……特に、なさそう……」
「そうか……」
昨日の出来事が何一つ情報として発信されていない事を聞いて、先輩が私の方を見て目が合う。
「……っふふ」
天ちゃんに気づかれない様に人差し指を立て、口元に持ってくる。ついでに笑顔も添えて置く。
私の返事に苦笑しながらも再び正面の画面へ目を向ける。
「てかさ、ほんとに風邪だったら寝てれば良いんだけどさ、健康体だと何して良いのかわっかんないね」
「まぁな、今日は完全なずる休みだし……そういえばっ!九重お前、アンブロシア、高峰に使ったよな……?」
「ん?はい、使いましたよ?」
「……ソフィは問題無いって言ってたが、ほんとに身体に異常とか無いんだよな?」
「心配し過ぎですって~、念のため、後でソフィから追加でアンブロシアを貰っておきますので、何かあればすぐに破棄しますよ」
「え、なんの話?舞夜ちゃんにも何かあったのっ?」
「あ、いや、大丈夫だ。九重の方は問題無いらしいからな」
「舞夜ちゃんの方は……?」
「ふふーん、天ちゃんに実際に見せた方がいいですかね?」
「え、何々?」
「驚いちゃうと思うから先に説明しておくとね、私のアーティファクトが進化したんだ」
「進化?そんなのあるの?」
「らしい。ソフィが言うには、持ち主の魂がアーティファクトを完全に制御できる状態に至るとそうなるみたいだな」
「へ~なにそれ、すごいじゃんっ」
「その段階に至ると、スティグマの色が変化するんだって。こんな風に……」
能力を適当に使い、スティグマを出す。
「ほんとだ……赤色……?違うな、紅色に見える」
「やっぱり、その色に見えるよねー」
「でもさでもさ、スティグマ……全身に広がっちゃてるけど……これ」
「俺もそこが心配なんだが……取りあえずは問題ないらしい」
「そうなんだ……。でも凄いね!完全にアーティファクトを使いこなせるようになったんでしょ?」
「そう言う事~、どう、凄いでしょ!!」
腰に手を当ててどや顔を決める。
「どんなことが出来るの?」
「色々出来るようになったよ?え~っと……そうだなぁ……あ、見ててね?」
立ち上がって、二人から離れる。
「それでは!今から私のアーティファクトの真の力をお見せしちゃいまーす」
「おお~パチパチ」
「よいしょっ!」
その場を軽く飛び上がり、空中で素早く座禅を組み、足場を能力で固定し、印相を手で作る。
「秘技っ、仏様っ!!」
堂々の振る舞いを二人に見せつける。
「九重……お前なぁ……」
「アーティファクトを完全に御することが出来れば、神と同じことが可能なのですっ!どうですか!完璧でしょうっ」
「いや、まぁ……凄いのは認めるが……くっだらねぇ使い方だなって思ってさ」
「酷いっ!?でも、隣の天ちゃんにはウケはいいみたいですよ」
先程から、テーブルを叩きながら私を指差して笑っていた。
「こいつはあほだしな」
「大切な私の友達に酷い言いぐさですね。それに……」
能力を解除し、床に降り立つ。
「超能力なんて持たざる力、この位くだらない使い方が丁度良いですよ。そっちの方が楽しいと思いませんか?」
「……そうだな。そっちの方が、平和だな」
「そうですよ~、他者を恐怖に陥れる力で、人を笑顔に出来るのです」
未だに笑っている天ちゃんを見てると、そう思わずにはいられなかった。
「お前。神社ではあんなに凄い感じで使っていたのになぁ……」
「他にも出来ますよ。見てて下さい。ほっ、と」
「わかりますか!寝仏さん……!」
「いや、仏像から離れろよっ!?」