遂にリグ・ヴェーダ・アスラとの直接対決が……。
「与一、キミがリーダーだ。キミに従おう」
「そんなものに担ぎ上げられても困るけど」
心底めんどくさそうな表情をして頭を搔いている。……うん、確かに嫌かもしれない。
「そっち側でいいのか……与一」
先頭の新海先輩が、怒りを我慢して絞り出すように問いかける。
「え、何が?」
「そっちにいて良いのかよっ!お前は!!」
「……翔ってさ、性善説とか信じてるタイプ?」
「……は?」
「人を石にするなんて、理由があったはずだ。人を殺すなんてどうにもならない事情があったはずだ。なければならない。そんなこと考えてたりする?」
「理由があったとしても許されることじゃない……。でも、人を殺したんだ。何か事情がーーー」
「ねぇよ」
先輩の言葉を無感情に切り捨てる。それを見て新海先輩から恐れる様な雰囲気が出ている。
「力があるから使った。それだけだよ」
「人を殺す力をか……っ!」
「結果的にそうなっただけ。九條さんと何が違うっていうのさ」
「学校が火の海になって、九條さん、使ったよね?力を使って、ユーザーの暴走を止めた」
「そっちの先輩も、玖方の子も、妹ちゃんとその友達だって。好きに力を使ってる。翔だってそうでしょ?どうして僕だけ責めるのさ」
「なに、言ってんだ……お前。全然違うだろ……っ」
……確かに言っている事を理解できない……とは捨てきれないのが嫌な所ですよね。九條先輩だって、本来なら火事のユーザーを結果的には殺している訳ですし……。でもまぁ、殺すことを知っていて実行するのとは違いが……ってこれについては私が言える立場では無いですね。
「問答は無駄。あの男はーーー」
一人で考え事をしていると、結城先輩が新海先輩より一歩前に出る。
「悪そのものよっ」
「ハハッ、ハハハッ、かもね。そうなるかもっ」
「で?どうすんだ?その悪そのものってヤツを前にしてよぉ?」
「言ったでしょ?裁くと……」
「……ずっと、力を正しく使いたいって思っていた。きっと今が、その時……っ!」
「あたし、何も出来ないけど、でもっ!あの人を放っておいちゃダメな気がする……!」
「同感ですわね……。翔様、ご学友と戦う覚悟はありまして?」
「……出来ています。あいつがまた犠牲者を出そうとしているのなら、俺が、俺たちが……お前を止めるっ!」
皆が先輩の横に並びながら覚悟を決める。
「新海先輩、……頑張って下さいね?」
「ああ、けど……もしもの時は、頼んでいいか?」
「ふふ、他でもない先輩の頼みなら喜んで引き受けましょう。それまでは能力だけに留めておきますね」
小声で、昨日の夜に交わした決まりを確認して
「あぁ……めんどくさい展開になってきた。熱血だねぇ……はぁ」
「ハッ、いいじゃねぇか。オレは好きだぜ、こういう展開」
「ここは私に任せてもらおう」
「ア?なんでだよ」
「キミたちが出る幕でも無いだろう?火の粉は私が払う。任せてくれ」
「お好きにど~ぞ」
「チッ……オレがやっちまった方がはやいのに」
「フッ……だろうな」
最初の先鋒が決まり、高峰先輩が前に出てくる。
「最初に宣言しておこう。私はゴーストの……いや、与一の完全なる下位互換だ。つまり、私は弱い。甘く見積もっても、与一の二割といったところだろう」
「だが、そんな私でもーーー」
その瞬間、新海先輩の目の前に瞬間移動し、みぞうちに向かって拳を出す。そのタイミングに合わせて、先輩の服を後ろから引っ張り衝撃を減らす。
「っぐ……!?」
みぞうちに意表の一撃をもらい、膝をつく。
「……む?」
インパクトの瞬間に違和感を感じ、高峰先輩が自分の拳を見る。
「お兄ちゃん!?」
「騒ぐな。覚悟の上だろう」
次に私の反対側に居る天ちゃんの背後に回って投げ飛ばすのを確認し、地面に衝突する寸前で地面との間に腕を差し込み受け止める。
「ーーーぃっ!?」
「ほぅ、素晴らしい反応速度だ」
「っ!ジ・オーダー!アクティブ!」
「射程圏内、だけど……っ!」
「遅いっ!」
「ぐーーっ!」
「きゃっ!?」
天ちゃんを受け止めている間に、結城先輩と九條先輩が攻勢に出るが、高峰先輩の拳から出た槍のアーティファクトによって阻止され、ダウンする。
「さて、次はエンプレス……キミかな?」
「空間跳躍に、なんらかの遠距離攻撃……。外傷は無さそうですから、物理的な攻撃ではないようですわね」
「フッ……。冷静に分析、か。存外、キミはクレバーだな」
「いいえ、怒りに煮えたぎっていますわ。ですが、私の仕事は確実な"勝利の未来"を掴むこと。とはいえ……残念ながら、今はそのときではないようです」
「ほぅ……。ではどうする?」
「お好きにどうぞ。煮るなり焼くなり」
「フッ、潔いな。……では、望み通りにしてやろう」
宣言通り、高峰先輩から放たれた複数の槍が香坂先輩の身体を貫き、両膝をつき倒れ込む。
「……っく、手も足も出ないのか……!」
ゲームと同じ様に惨敗を喫するヴァルハラ・ソサイエティの面々。
「……先輩、私が出ましょう」
抱きかかえている天ちゃんを先輩に渡してそう呟く。
「勝てるのか……?」
「うーん、まぁ任せて下さいな」
笑顔でグッドポーズを決める。
「舞夜ちゃん……?危ないよっ、一人でなんて……!」
「ふふ、大丈夫だよ?これでも私、結構強いから。まぁ、見てて」
「無様な……。我らの敵ではないな、ヴァルハラ・ソサイエティ」
背後から侮辱を込めた声でこちらを煽る。その言葉を聞いて立ち上がり、振り向く。
「ほぅ……まだ無傷だが、最後はキミが戦うのかな?」
「……ですね。多少はその退屈そうな態度が変わる事を期待しといて下さい」
「なんでもいいけどさー、早く終わらせてくれない?あまり時間があるわけじゃないし」
「そうだな。……実は少し期待しているのだよ。新海翔、その妹への攻撃に対して反応が出来ていたからね……」
「褒めても拳しか出ませんよ?足でも良いですが……?ご希望はどちらにしましょうか?」
「フッ、やはり面白いーーー!」
先程の先輩と同じように瞬間移動して私の目の前に現れる。小手調べなのかな?
勢いを乗せた体勢から拳を繰り出される。が、半身を横にずらし、出された腕を片手で掴み空中に投げ飛ばす。
「ーーッ!?っく!」
宙で体勢を立て直しながら能力で元のいた位置へ瞬間移動する。
「……やるな、まさか私を投げるとは」
「この程度の大芸道なら幾らでもお見せしますよ?」
挑発するようにひょいひょいと手で煽る。
「ククク……心が躍る……。良いだろう、ならば見せてもらうぞっ!」
今いる位置から姿が消え、私の背後に一瞬で気配が移る。
「はぁっ!!」
背後からの攻撃を即座に振り返り、繰り出された攻撃を躱してもう一度腕を掴んで元居た位置へ投げ飛ばす。
「これも反応するとはな……っ!!」
心底楽しそうにこちらに笑みを浮かべる高峰先輩。
「おいおいおい、だっせぇなっ!おもちゃみたいに捨てられてんぞこいつ!」
「蓮夜って強かったよね。つまりあの子もそれなりにやるってことか……これは時間かかりそうだなぁ」
「オレも出る。そうすりゃすぐに終わるさ」
「む、女子に二対一は……いや、私だけでは確かに厳しそうだな。手を貸してもらえると助かる」
「ハッ、最初からそう言ってればいいんだよ!」
「私はどちらでも構いませんよ?お好きにどーぞどーぞ」
「……虚勢ってわけでもねぇようだな。なおのこと楽しみだ」
「九重っ!」
背後から新海先輩の心配する声が聞こえたので、そちらを振り返って問題無いと笑顔で返す。
「よそ見とは随分と余裕じゃねぇかっ!」
瞬間移動を使って二人が私の両サイドに現れる。同時……と言っても少しだけゴーストの方が早い。先にゴーストのフードを掴み、強引に高峰先輩の方へ引き込み、ぶつける。
「っぐ……!?」
「クソっ!」
自分の方へゴーストが突っ込んできたので一旦攻撃を中断した高峰先輩へ足を上げ、こちらに背中を向けて無防備なゴーストの背中ごと、そのままぶち抜く威力で蹴りを出す。
「ーーーがはっ!?」
ゴーストの身体でこちらが視認出来ていなかったこともあり、もろに蹴りを食らい吹き飛ぶ。体を貫かれたゴーストは維持が出来ず霧のように消える。
「がっ、ぐ……!」
何回か転がりながらも受け身を取って立ち上がる高峰先輩。けど、今の一発で結構足に来ている。
「高峰先輩、ここらで止めていた方が良いですよ。耐えれるのは精々後一発くらいでしょ?」
「まさか……ここまでとは……フフ……」
「おいおい……まじか……やられちゃったよ」
「深沢先輩も、ここらで撤退としませんか?お互いの為にも……」
「うーん、確かにそうだねっ。でもさ、やっぱりやられっぱって嫌じゃん?」
私の提案に笑顔で返し、ゴーストを召喚する。
「クソ……油断したぜ……!」
「私もまだ……戦えるのを忘れてもらっては困るな……!」
「んー……やっぱりそう言うよね。それじゃあ、とっておきを出しちゃおうかな?」
ポケットに手を突っ込み、
「フッ……とっておきとは、楽しませてくれるようだな」
「ボロクソにやられたやつが言ってんじゃねぇよ……」
「それで、何をするの?」
「そちらの制限時間を強制的にゼロにします」
手を開き、向こうに見せる。
「これを……こうすれば……!」
手に持っているアイテムのピンを抜き、投げつける。すると、夜の公園にけたたましくブザーの電子音が響き渡る。
「……なるほど、防犯ブザーか。確かにそうだね」
「安心して下さい、沢山ありますよっ!」
ポケットにある防犯ブザーをもう一個取り出してピンを抜き、足元に落とす。
「トドメは……」
息を精一杯吸い込んで、大声で叫ぶ。
「火事だっーーーー!!!」
取りあえず人が一番反応する言葉を叫ぶ。
「ふぅ、……さて、どうしますか?」
「……これは、大人しく言う事を聞いた方が安全かな?」
「……不本意だが、与一に従おう」
「チッ、つまんねぇ幕引きだな」
ゴーストが怒りをぶつけるように足元の防犯ブザーを踏み砕く。
「でも、その前に……」
深沢与一の周囲に大量の槍が出現し、新海先輩達に向かって放たれる。
「ーーー残念ですが、無駄です」
槍が先輩達に到達するよりも早く前に立ち、能力を使ってその動きを止める。
「わぁお、まさか今のを防ぐなんて驚きだよ。最後に嫌がらせでもして去ろうかなって思ったけど、完敗だね!」
意味が無いと分かり、出していた槍を消す。
「それじゃあ、はやいとこ去ろうかな。あ、そうだ、学校は休むからさ、先生には適当に言っておいてくれない?じゃあねーーってまた会う事になるだろうし、またね。が正しいかな」
「またねーーー翔」
笑顔で新海先輩へ別れを告げ、憎しみを込めた顔でこちらを見る。
「次は殺す」
そう言って立ち去ろうとする、深沢与一を呼び止める。
「まだ何かある?」
「その袋の、先輩の分のアイスを置いて行って下さい」
手を出して、渡せと要求する。
「ん?ああ……、ははっ、嫌だねっ!」
こちらに一矢報いるように笑いながら拒否し去って行く。
「あ~……先輩のアイスぅ~」
その様子を警戒しながら見守り、消えたのを確認してから皆の方へ向かう。
「九重!与一は……」
「申し訳ございません。先輩のアイスは戻って来なかったです……。彼が持ち去って行きました……」
「いや、アイスなんかどうでもいい……くそ……っ!」
私のボケに返す余裕がないご様子。自分の情けなさに拳を地面に叩きつける。
「なにも出来なかった、なにも……っ!」
「そうですね。それは事実です」
「すまない……全部九重に……」
「ぅ……っ」
『気にしないでください』と返事をしようとすると、先輩の隣で倒れていた香坂先輩が我に返る。
「ぁ……先輩」
「……今は介抱を優先しましょう」
香坂先輩の介抱は新海先輩に任せて、天ちゃんを見るが、驚愕の呆けた顔で私を見ていた。……ふふ、可愛い。
取りあえず、倒れている結城先輩と九條先輩に近づき、意識の覚醒を促す。
「ぅ……」
「……、ぅ、……ぁ」
軽く揺さぶると、目を覚ます。
「目が覚めました?体、起こせそうですか?」
目をさましたことでゆっくりと体を起こす。
「悔しいけど……完敗ね」
「………。抵抗することも出来なかったなんて……」
「約束通り、最後まで手出しはしてあげなかったけど、私の予想通りね」
空間が歪み、ソフィが現れる。
「……っ、そう、だな。九重以外は手も足も出なかった……」
「それについては私も想定外よ。まさか凌ぎ切るなんてね」
「いえいえ~それほどでも~……あはは」
「凌ぎ切った……?」
さっきの状況を知らない結城先輩が不思議そうにこちらを見る。
「全員起きた事ですし、取りあえず場所を移しませんか?」
「まずは、状況の整理をしましょう」
場所はナインボール。アーティファクトの攻撃を受けてはいるが、このまま帰ることは出来ないと今日の反省会が開かれ、全員分の飲み物と、私が頼んだパフェがテーブルに置かれると、話が始まった。
「まずは……あの男、司令官の能力」
「瞬間移動、槍を飛ばす遠距離攻撃……」
「下位互換って言ってたけど、魔眼の弱いバージョンも持ってるのかな?」
「そう考えた方がいいのかもね……」
「そうね。逆に言えば、司令官が所持している力は、他の二人も使用できる」
「っていうかさ、にぃにだけ思いっ切り殴られてなかった?」
「ああ。けど、九重が直前で後ろに引いてくれたからそこまで酷くはないな。それなりに痛むくらいだ。ありがとな」
「いえいえ~、お礼を言われるほどのことじゃありませんよー……あむ」
晩御飯を食べてないのに食べるデザートは格別だねぇ……。
「それが無かったら多分一発で沈んでたと思う……。我ながら情けない」
「私も同じ、一瞬で距離を詰められたことに動揺して、反応が遅れてしまった……」
「私も……。覚悟していたつもりだったのに、全然足りなかった。……ごめんなさい」
「いや、そんな、謝ることじゃ……」
「あたしも後ろから投げられたけど、舞夜ちゃんがギリギリで受け止めてくれたからダメージとか特に……その節は感謝しやす」
「たまたま近かったからね~、高峰先輩なら危険な落とし方はしなかったとは思うけどね」
「あー……なんかすっごい綺麗に投げられたな……にぃにも格ゲーみたいな殴られ方だった」
「あの男の体捌き、見覚えがある。何か武術を嗜んでいるのかもしれない」
「真神流古武術……」
「まさか……魔人都市?」
香坂先輩のつぶやきに一瞬で結城先輩が反応する。
「あ、は、はい。そうです。三日月慎也のーーー」
「えーっと……何か知っている感じなんすかね……?」
「あ、ぇと……魔人都市っていうアニメの作品で……」
「真神流古武術は、その作品の登場人物、三日月慎也が用いる武術……いえ、暗殺術よ」
「アニメの武術を会得している……ってことですか?」
「そうね。様々な武術がベースになっているそうよ」
「そう、ですね……多分ナイフは使わないと、思うのですが……」
「作中でナイフを使ったのは、たったの二回。わざわざ言及するなんて……あなた、詳しいのね」
「あ、はい。私も、好きなので」
「今度、ゆっくりと語らいましょう」
「は、はいっ」
「……妙なきっかけで友情が芽生えたな」
「……っていうか、そのアニメの武術を習得している司令官に負けず劣らずの存在がここにも居ますが……?」
天ちゃんの言葉に全員の視線が私に向けられる。
「……ん?私ですか?……はむ」
「呑気にパフェを食っていやがりますが、超凄かったですよ」
「私たちは意識が無かったから分からないけど、彼女が一人で撃退した……という認識で間違いない?」
「ああ、そうだな。俺と天はただそれを見ている事しか出来なかったよ」
「……すごい。舞夜ちゃん一人で」
「それほど強力なアーティファクトを所持していたのね」
「あー……それはだな」
私の事を話しても良いのか迷い、こちらを見る。
「アーティファクトも使いましたが、基本的に体術で戦いましたよ?」
「体術で……?」
真実なのかと目撃者の天ちゃんを見る結城先輩。
「ですね、ゴーストと司令官って人相手に漫画みたいな戦いをしていましたね、はい」
「それで、怪我とかは……大丈夫?」
「あたしが見た感じ特に攻撃はもらって無かったように見えましたが……どなの?」
「ご安心を、傷一つない綺麗な肌ですよ?……ぱく」
「呑気にパフェ食べている姿からは想像出来ないわね……」
「舞夜ちゃんが強いってのは、おじいさまから聞いた事あったけど……」
美味しそうにパフェを食べる私を見て、懐疑的な視線を送ってくる。
「こ、九重さんも、何か、武術を……?」
「はい、実家の流派をそれなりに修めていますね」
「実家のっていうと、前に言ってた九重流護身術か?」
「ふふふ、あれはあくまで一般人向けの体験版ですよ。っとこれ以上は禁則事項なので話せませんねっ!」
「禁則事項て……」
「お家の事情ってやつだね。長い歴史の一家だから、それなりに色々って感じだよ~?」
「ま、大事なのは九重が向こうに対抗できる程強いってとこだな」
私の話題から逸らすために新海先輩が話をまとめてくれる。
「そうね、問題は私達のほう」
「私の能力って向こうに効かないし、にぃにのは戦闘向きじゃないし……もしかして、新海兄妹役立たずでは……?」
「……言うな。今それを言うな」
使いこなせれば天ちゃんの力も凶悪なんだけどねっ、先輩のは言わずとも最強だけど。
「ソラはともかく、カケルの力が鍵になりそうよ」
空間を割き、普段より小さいソフィ人形が現れた。
戦闘はあまり派手さはなくサクッと終わりました。まぁ、その後のボス戦があるので……。