駅にて解散。
その後、視点が変わります。
ナインボールを出て、駅に着いたので今日は皆解散となった。
「気をつけて帰れよ」
「わかってるってば。お父さんが迎えに来てくれるから大丈夫」
「結城さんも電車ですか?」
「いえ、私は徒歩」
「うち近いんですね。香坂先輩とあたしは同じ方面ですよね、電車」
「ぁ、えと、はい。たぶん」
「舞夜ちゃんは徒歩だよね?」
「そだよー」
「にぃに、結城先輩と舞夜ちゃん送ってあげたら?徒歩なの三人でしょ?」
「あ~、そうだな。結城は家どっちだ?」
「……、あっち」
「俺たちとは真逆だな。まいっか」
「わざわざ送ってもらう必要はない。そもそも相手は転移が可能、警戒しようがない」
「けど、九重が居れば対処は可能、違うか?」
「まぁ、私の手の届く範囲にいてもらえるのでしたら、そのくらい対処可能ですね」
「予備動作なしの転移をそのくらいて……」
「ですが、少なくとも今日は襲ってこないと思いますよ?向こうは警察に通報とかを警戒するはずですし……」
「私のことはいい。彼女を送ってあげて」
「お兄ちゃんも、うちに帰ってきたら?一人暮らしよりはマシでしょ」
「そうだな……。考えとくよ」
「じゃあ……今日はお疲れ様。また後日、集まりましょう」
「ああ、また」
「お疲れ様でした。結城さん、途中まで一緒に。同じ方向なので」
「ええ」
「にぃに、寄り道すんなよ。気を付けて帰れよ」
「わかってるって。先輩も、また」
「はい、おやすみ、なさい……」
「あ、香坂先輩っ、この後お時間良いですか?話があって……」
「ぇ、ぁ、はい、大丈夫、です……」
「ありがとうございます。ごめんね天ちゃん」
「んにゃ、平気平気、そんじゃね~」
皆が解散し、天ちゃんが駅内に消えて行くのを確認して香坂先輩へ向く。
「あ、あの、話というのは……?」
「すみません、急に呼び止めてしまって……実は新海先輩の事でして」
「新海さんの……?」
「今日の事、かなり落ち込んでいる様に見えたので、可能でしたら先輩に元気付けて欲しいなって思いまして……」
「……私にでしょうか?」
「香坂先輩も何となく気づいているかと思います。先輩、結構人のことを見ているので」
「私に、出来るのでしょうか……」
「寧ろ先輩にしか出来ませんよ。新海先輩、男一人なので私たちに弱い所を見せたくないって内心思っているはずです。そこでっ!一番年上の香坂先輩の出番ですよっ!優しく包容力がある所見せれば新海先輩もコロッといきますって!」
「……元気になって、下さるのでしょうか?」
「香坂先輩なら大丈夫です。自信もって下さい。ほら、今走れば追いつくと思いますよっ、行ってください!」
急かす様に背中を押す。
「わ、わ、分かりましたっ」
後ろから押され、慌てるように動き出す。
「あ、あの……」
走り始めた香坂先輩が止まり、こちらを見る。
「どうかされましたか?」
「あ、ありがとう、ございます……」
「お気になさらず!」
オドオドしながらもお礼を言ってくれる先輩に笑顔でグッドポーズを見せて送りだす。もう一度前を向いて新海先輩を追いかける為に走り出していく。
「……青春、だねぇ」
好きな男を励ますためにその後ろを追いかける。まごうことなき青春の一ページである。……そりゃ恋愛シミュレーションゲームだし当たり前か。
「舞夜様」
当然のことに笑っていると、横をすれ違って行く通行人に紛れて声をかけられ、意識を向ける。
「車の準備が出来ております」
「うん、ありがとうございます。お待たせしました」
「いえ、お仲間との大事な一時ですので、こちらの事はお気になさらず」
「あれ、今日はハットリさんなんだね」
「宗一郎さんからのご指示でしたので、『たまにはワシから離れてくれ』と……」
「あはは、護衛だもん、仕方ないよね~」
この声の人はハットリさん。本名は知らないし顔も姿も見たことがない。なので忍者みたいと昔から私が勝手にそう呼んでいる。
「自分より舞夜様の方が重要度が高いとの判断でしょう」
「この枝からはそうなるかもねぇ……。ま、一番重要なのは先輩だけど」
「順調ですかな?」
「さぁ……?としか言えないね。でも大丈夫。例えこの枝で達成できなくても、どこかの枝の先輩が必ず目覚めるはずだからね」
「ご自身の命を犠牲に……ですか」
「ふふ、この枝の私の命で目覚めてくれるなら安いもんだよ」
車に向かって歩いてる私のすぐ後ろに歩いているであろうハットリさんの言葉が詰まる。
「冗談だって、勿論簡単に投げ出すつもりは無いよ?」
「必要とあらば……?」
「喜んで」
「そうですか、それなら私からはこれ以上言いません」
「ありがとね。心配してくれて」
「小さい頃から見て来たのです。このくらい当たり前ですよ」
「私的には一方的に見られてて、ハットリさんを見た事無いんだけどなぁ……?」
「はて、仰っている意味が良く分かりませんな」
「実はハットリさん、姿を消すアーティファクトとか持って無い?ほら、天ちゃんみたいなやつ」
「ふふ、訓練の賜物ですよ」
「ぜぇーったい、おかしいって……。今の私ですら姿を視認出来てないしさー」
「まだまだ鍛錬が足りませんな」
「そりゃ、おじいちゃんクラスの人だし実力がかけ離れているのは理解出来てるけどぉ……。せめて顔だけっ!ね?お願いしますっ!」
「舞夜様ご自身のお力で暴いて下さい」
「むむむ……私のアーティファクトで縛り付けてやろうかな……」
「おや、その様な力に頼ってしまうとは……おじいさまが聞かれたらなんて言うか……およよ」
「多分、よくやった!って頭撫でて来ると思うよ?」
「それもそうでしたね」
「でも、いつかその姿暴いて見せるからねっ。勿論アーティファクトは使わないで!」
「その意気です。上昇志向があるのは良い事です」
駐車場に着き、車で待機していたもう一人の人が出て来て、後部座席のドアを開ける。
「すみません、お待たせしました」
「それでは、私はここで」
「ん?ハットリさんは行かないの?」
「ええ、舞夜様の目的の人達を監視する役目がありますので……」
「なるほど、確かに適任過ぎるね」
「では、またその内」
「はーい、また家でね!」
ドアが閉まり、車が走り出す。
「イーリスの目から逃れるとなれば、その位必要かもね」
この後、新海先輩達は成瀬先生に憑依したイーリスと会い、話を持ち掛けられる。その内容をなるべく把握しておきたいので誰かがそれを聞く必要がある。
始めは私が直接行こうかと考えたが、おじいちゃんが受けると言ったので任せたけど、まさかハットリさんまで出して来るとは……。
傍受とかでも良かったけど、万が一妨害とかされてたら面倒なので人を配置する。こっちはそれで問題無い。後は深沢与一の方は親の物件を絞ってもらい、それぞれに監視を付けている。攪乱させているアーティファクトで追手が撒かれても大丈夫のはず……。
「あとは、最近出て来た未確認のユーザーの人かぁ……」
壮六さんから何度か話を聞いている感じだと、間違いなくアーティファクトユーザーである。
「この二日間はヴァルハラ・ソサイエティでの活動は中止だし、丁度良いタイミングだよね」
物語的には先輩達が温泉に行って、身体を休め……ああ、あと河本の監視もだね。こっちは適当に人を割り振っておこう。
車中の窓から、通り過ぎて行く夜の街を眺めながら小さく笑った。
今日は4/30、昨日はおじいちゃんと一部の九重の人達と公園での出来事、その後の経過、監視対象の現状、今後の配備などを話し合いその日は取りあえず解散となった。
本日は例の女社長の件で引き続き話し合う……というか大体方針は決まっているので問題はそれをいつ決行するか。判断はほぼ私に委ねられている状態である。
「んー……、明後日は無理だし……明日は明日で夜に先輩の部屋に行って話をしておきたいしなぁ」
となれば、一番早くて今日の夜である。
「あら、舞夜じゃない。難しそうな顔して何か考えごとかしら?」
予定を考えていると、後ろから声をかけられ振り返る。
「澪姉!?帰って来てたんだねっ」
「ええ、大事な時だもの。サクッと終わらせて来たわ。これから話し合いでしょ?」
「うん、澪姉も参加する?」
「ええ、丁度暇になったことだしね」
「それじゃあ、いこ。おじいちゃんと壮六さんが中にいるはずだよ」
襖を開けて中に入る。
「来たか……ってお前もか」
「ええ、楽しそうな事になりそうだもの」
「全く……まぁよい。では始めるとしよう」
私と澪姉が座った事で話し合いが始まる。ここ最近の出来事を壮六さんから説明と共に紙を渡されるので目を通す。
「直接的な会話無しで影響を受けていると……」
顎に指を当てながら詳細を読んでいく。
「確認出来ている限りでは、電話は音声のみですね」
「そう、ですか……うーん」
「舞夜も知らない能力ってことで良いのかしら?」
「うん、そうだね。私が知ってるのは視線を合わせたり肉体的接触とかが主かなぁ……?一応対象を認識していれば発動可能なのはあるのはあるけど……」
「これだけなら声だけでも可能と言うことじゃな」
「何がトリガーなんだろうね……相手に音を聞かせればオッケーとかかな……でも、それならもっと被害出てそうな物だけど……」
単純に慎重にしているのか……結城先輩みたいに踏むべき段階があるのか……。
「そこは取りあえずよい。問題はこれからどうするかじゃ」
「こんなの即座に始末すべきだわ。私が今から行って消してきてもいいわよ?」
「舞夜はどうするつもりじゃ?」
「……可能ならすぐに終わらせたい、かな……?明日も明後日も予定を入れてるから、今日くらいしかまともに動けないかも……」
「なら決定ねっ!さっさと滅んでもらいましょ」
「でも、それだと後が色々大変じゃないですか?」
急に動くことになれば、その分の用意や後始末が大変である。
「いえ、ご心配なく。そうなっても大丈夫な様に準備は整えております」
「え、そうなんですか……?」
「はい、こういった事態は慣れていますので」
チラッとおじいちゃんを見て私を見る。
「なんじゃ、それがお主の役割じゃろうが」
「昔からの経験が活きたってわけね」
「あはは……」
何だか壮六さんから哀愁が漂っている様な……。
「では、決行は今夜としよう。壮六、問題は何かあるか?」
「いえ、ありませんね。それでしたら……こちらの時間帯に行うのがやりやすいかと」
一枚の紙が出され、丸く印が付く。
「本日の予定ですと、この時間はここを通るはずですので、少し外れたこちらに誘導すれば人目に付く事は少ないでしょう」
内容に目を通すと、ターゲットの行動を可能な限り細かく書かれていた。……すごいなぁ、行動予測とかも書いてるし。
「なら、適当に道を交通止めにして逸れてもらいましょ」
「じゃな、後は煮るなり焼くなり殺すなり好きに出来る」
「壮六さん、車の中にはターゲット以外に人は?」
「恐らく運転手と……居たとしても護衛が一人程度でしょう」
「そっか。ならその運転手さんは可哀そうだし、こっちですり替えるとか可能ですか?」
「そうですね……問題無いかと思います。顔を寄せればバレることは無いでしょう」
「それなら、誘導もスムーズに行けそうね。流石舞夜っ」
「方針は決まったな。決行は夜、各々準備しておけ」
好戦的な笑みを浮かべて、おじいちゃんが立ち上がり部屋を出て行く。
「……もしかして、おじいちゃんも参加するの?」
「そのつもりみたいよ?必要なのかしら」
「いえ、過剰戦力ですね」
三人で顔を合わせ、苦笑いをする。言って止まるとは思えないからである。
「まぁ良いんじゃない?適当に遊ばせておけば問題無いでしょ」
「対象の乗っている車の安全は保障出来ないのですが……後処理が……」
「わ、私が可能な限り穏便に済ませられるように……努力はしますので……!」
「……お気遣い感謝します」
無駄な努力と分かっているからなのか、妙に優しい声で返事が戻って来た。
「ふぅ、今回も難なく終われたわね」
本日の予定の会談を終え、無事に今日を乗り切れたことに安堵しながら車の窓から夜の街並みに目を向ける。
何の前触れなく、突如私の前に現れた不思議なアクセサリー。手に取ると頭の中に直接何かが送り込まれ、それが特別な力と自覚するまでにはそう時間はかからなかった。
何故かその力の使い方を頭が理解しており、出来心で取引先の相手に試してみると……望んだ通りの結果になった。相手が私の言う事を聞いてくれるようになり、会談は楽に終わる事が出来た。その時、私は理解した。特別な力を得た……選ばれたんだと。
それから何度か検証として繰り返したが、結果は同じだった。今までの頑張りは何だったのかと思うくらい交渉は楽に進み、こちらが有利な取引で終わる。相手側の都合や、折り合い、妥協点を探す必要など無い。私が望めばその通りに事が進む……これ程素晴らしい力を、私は得たのだと歓喜した。
「ふふ……もっと、これからよ……」
選ばれた証である腕に触れ、笑いが零れる。輝かしい未来を想像するだけで体が高揚する。
「あー……なんだかこの先、工事している様ですね。申し訳ないですが……少し遠回りをして向かいます」
「あら、そう。分かったわ」
こういう時に限って悪い事があるのよね……ほんと、昔からそうだったわ。けれど、その位些細な事だと思える程度には今の私には余裕がある。たかが少し帰るのが遅れるなんて大した問題じゃないわ。
悦に浸りながら外を見ていると、車が停止する。
「……何かあったのかしら?」
街道から外れ、薄暗い道で停止したので運転手に声をかける。
「目的地に着いたので、止まっただけですよ」
正面を向いたまま返事が返ってくる。
「何を言っているの。私の家はまだ先よ。早く車を走らせて」
「いえ、確かにここで合っていますよ。あなたの人生の終着点ですので……」
低く暗い声でそう言った運転手がゆっくりとこちらに振り返る。
「冗談はいいからーーひっ!?」
文句を言おうとしたが、振り返った運転手の顔を見て悲鳴が上がる。
「あ、あんた……何なの……?その目、は……」
目の前に居る男の目が……真っ赤に充血していた。
「これですか?……ふふ、ふふふふふ……!」
自分の目に手を当てながら気味悪く笑い始める。すると、地震にでもあったのかと錯覚するみたいに車が激しく揺れ始める。
「きゃぁっ!?なんなのっ!何が起きているのよっ!!」
中に居るのは危険だと判断して、咄嗟にドアを開けて外に飛び出す。
「っく、く……車が……」
転がるように車から離れて振り返ると、信じられない光景が目に入る。
「人が、持ち上げている……?」
暗くはっきりと見えないが、一人の人間が後ろから車を持ち上げている様に見える。
「は、離れないと……!」
何が起きているのか分からないが、この場に居るのは危険だと本能が言っている。すぐに立ち上がり、来た道を戻ろうとする。
「……っ!?」
前を見ると、暗闇から大勢の人がこちらに向かって歩いて来ているのが見える。咄嗟に反対側に逃げようと振り返るが、逆も同じように道を塞ぐように人が沢山居た。
「な、何なの……?貴方たちは……」
私を逃がすまいと、周囲を囲うように人が立っている。どこかに逃げられないかと見渡すが、建物の上、塀の上など、見る場所全てに人が立っており、こっちを見ていた。
「誰よっ!私に何するつもりっ!?」
強がるように腕を強く握る。大丈夫、何が起きているのか分からないけど……私にはこの力がある……!選ばれたこの力があれば、この場を切り抜けられる!!
「……さっきの運転手の……お仲間って訳ね」
注意深く観察をすると、周囲に立っている人全員の目が、赤く充血していた。
「……まるで、化け物ね……」
どうしてか分からないが、こちらをじっと監視しているだけで口を開かない。
「誰かっ!助けて!」
大声で叫び助けを呼ぶ。
「ーーー残念ですが、助けは来ませんよ?」
背後から女の子の声が聞こえ咄嗟に振り返る。
が、振り返った瞬間、頭に味わった事のない衝撃が走る。
「ーーぇっ……?」
体に力が入らず、その場に崩れ落ちる。
き、急に体が……どうした……の?
何が起きたか理解できずに意識が薄れて行く。
そして、最後に視界に入ったのは、こちらを無機質な目で見下ろしている、女の姿だった。
~その後~
宗一郎「わしの出番はこれだけか……」
澪「はいはい、はやくその車を降ろしましょーね?中の人出てこれないでしょ?」
宗一郎「舞夜が早々に終わらせるから……」
舞夜「だって……長引かせると壮六さんが可哀そうだし……絶対車無事じゃ無かったよね?」
宗一郎「何を言う。まだ無事じゃ」
舞夜「既にトランク部分が半壊しているんだけどねー……」