9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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5/4 最後の日ですねぇ……。

視点がちょこちょこ変わります。




第8話:茜色に染まる公園、ベンチに寄りそう二人。完璧な一枚絵だねっ!

 

 

「そんじゃ、あたしらもいきますか!」

 

新海先輩、香坂先輩、結城先輩の三人と分かれ、天ちゃんと九條先輩と一緒に行動を始める。

 

組分け時の『グッパ』で二人がグーを、新海先輩らがパーを出す動きを目で追いながらグーを出した。

 

「二人とも、よろしくね」

 

「こちらこそお願いしまーす」

 

「向こうは神社方面に向かっているみたいですけど、私たちは取りあえず逆方面に歩きましょうか?」

 

「うん、そうしよっか」

 

「舞夜ちゃんの案にさんせーい」

 

「この街で猫はあまり見かけないので、効果があればすぐにわかると思いますし……」

 

三人で並びながら雑談をして歩くこと数分、早速効果が表れ始める。

 

「うっわぁ……まじだよ……」

 

「すごいね……野良猫が沢山……」

 

「既に六匹を目撃してますよ。あ、七匹目ですね」

 

「にぃに達に連絡しとこっと。こっちは出逢っているよって」

 

「向こうも私達みたいに会えているのかな……?」

 

「多分こっちが会えているのなら向こうはもっとすごいかもしれませんよ?香坂先輩本人が居るわけですし」

 

「確かに、それもそうだね」

 

「うっし、メッセージ送ったよー。それにしてもすごいねー、香坂先輩の能力の範囲!」

 

「だよねー、本人が望むことなら距離関係無しだもんね」

 

「それに比べて私のとか、ユーザーには効きにくいし、認識されてたら無意味だし……」

 

「天ちゃんの力も、九條先輩みたいに実はもっと拡張性があったりするかもしれないよ?まだ気づけていないだけで」

 

「そうかなぁ?だと良いんだけどー……例えばどんなのがあんのかね」

 

「存在感の操作、だよね?」

 

「そうそう、みゃーこ先輩の言う通り。人の気配を薄くしたりできる」

 

「……うーん、人だけじゃなくて、物とかにもかけられたり?」

 

「あーなるほど、確かにそうですね。物とかもいけますね」

 

「私の能力も人や物、現象とか目に見えないことに効果発揮できるし、天ちゃんのも可能じゃないかな?九條先輩の力も可能だしね」

 

「ふむふむ」

 

「後、他にはー……存在感を無くせるなら存在自体を無くせたり……?」

 

「ん?それはどゆこと」

 

「極論かもしれないけど、天ちゃんの力を可能な限り強力にしたら対象の存在を消せたり……とか?」

 

「それはつまり、相手をこの世から消すってことかな?」

 

「言ってしまえばそうですね」

 

「あたしが言えたことじゃないけど、舞夜ちゃんもエグいこと思いつくなぁ……」

 

「別に人に限らずだよっ!例えば物とかに!そう、能力とかにも有効じゃないかなって……」

 

「あ、そゆことか。相手からの攻撃とかを私の能力で消すってことか」

 

「そうそう!出来たらかっこよくない?」

 

「……ありだね。それ採用っ」

 

「降り注ぐ槍の雨を指ひとつ動かさずに目前で消える……。そして一言、『今、何かしたか?』」

 

「いいねいいね!最高にイケてる!」

 

「それが出来たら、天ちゃんも戦えちゃうね」

 

私たちが盛り上がってるのを、横で困った様に笑っている九條先輩が目に入る。

 

「もし天ちゃんに可能なら、九條先輩も出来るんじゃありませんか?」

 

「え、わ、わたしも?」

 

「はい、九條先輩の能力が対象を押収し自分の力にする系なので、相手が使った能力の一部も対象に出来たり……とか?」

 

「あ……」

 

「なるほどぉ~、私が消すならみゃーこ先輩は相手の力を自分のものにしちゃうのかぁ~……」

 

「で、出来るのかな……?」

 

「多分、可能じゃないかと……学校の火事でアーティファクト自体を対象に出来たのならその能力も可能かと思いますよ?」

 

「にぃにに聞いてみよっか?また何かさらっと言ってくるかもしれませんよ?」

 

「それアリだね、ついでにソフィにも聞けたら聞いておこっか」

 

「もしそれが出来たら、私もみゃーこ先輩もかなり戦力アップだよね!」

 

「うん、そうだね。ありがとね舞夜ちゃん」

 

「いえいえ~、あくまで私の妄想なので。漫画とかでよくあるパターンを当てはめてるだけですし……」

 

「ううん、それでも十分凄いよ」

 

「まぁ、私も自分の能力が人だけだと最初は思っていましたので……」

 

「実体験済みと……」

 

「そんな感じだね」

 

能力のことについて三人で話していると、それぞれのスマホに通知音が鳴る。グループのかな?

 

天ちゃんがメッセージを見る。

 

「まじか……、香坂先輩が能力の使い過ぎでやばいから公園に集合だって」

 

「え、大丈夫なの……?」

 

「一応は大丈夫みたいです」

 

「かなりの範囲で能力を行使してたので、やっぱり消費も半端じゃないみたいですね」

 

「ん?結城先輩から、やっぱり今日はこのまま解散だってさ」

 

「解散……?」

 

天ちゃんの言葉に疑問を持ち、九條先輩も自分のスマホを確認する。

 

「香坂先輩が、これ以上厳しそう……」

 

「との事です。なので私たちはこのまま現地解散となりそうですね」

 

「向こうには新海先輩と結城先輩が居るから問題は無さそうだし……こっちは終わりにする?」

 

「ん~……だね。先輩の事は心配だけど、大丈夫ってことだし」

 

「九條先輩もそれで大丈夫ですか?」

 

「うん、私は問題ないよ」

 

猫の痕跡集めは、香坂先輩が燃料切れという事で解散となった。一旦ナインボールまで戻り二人とは分かれた。

 

「……では、公園に行きますか」

 

香坂先輩が目を覚ますのは確か夕暮れ時。今から行けば普通に間に合うだろう。

 

スマホを取り出して新海先輩にメッセージを送って現地に急いだ。

 

 

 

 

公園に着くと、少し離れたベンチで新海先輩に寄りかかりながら寝ている香坂先輩と、その寝顔を見ている新海先輩を見つける。

 

先輩を起こさない様に、新海先輩の視界に入るように近づき無言で手を上げる。向こうも意図に気づき手を振る。

 

「お疲れ様です」

 

真横まで近づいて小声で声をかける。

 

「ああ、今は疲れて寝ている」

 

「了解です。では私は二人の邪魔をしない様に遠くに離れていますね?」

 

「すまん、ありがとな。護衛なんかをさせて……」

 

「気にしないで下さい。今の二人があちら側と出会ったらまずいのは分かりますので、先輩は香坂先輩の事だけを気に掛けて下さい」

 

空が夕暮れに染まり始めているので、その内目を覚ますだろう。

 

「……では、何かあったらいつでも呼んでくださいね」

 

気配と音を消して傍を離れる。あとは高峰先輩とのエンカウントまでのんびりしておこっと。

 

スマホで九重家の人達で連絡を取りつつ経過を見守っていた。無事高峰先輩とも会え、その心情も聞けたことだろう。流石に会話の内容まではこの距離からは聞けなかったけどね。

 

新海先輩がベンチから立ちあがり、私の名前を呼ぶ。

 

「九重っ」

 

「ここに」

 

先輩達が向いている方向と逆側から迫り、背後に出現する。後ろから声をかけられたので二人共ビクッと体を強張らせていた。

 

「うぉっ!?そっち側だったのか……」

 

「高峰先輩の後を追いますか?」

 

「ああ、多分高峰がそれを望んでいる」

 

「分かりました。私も一緒に……と言いたい所なのですが、すみませんがお二人だけでお願いします」

 

「九重は来ないのか?」

 

「ちょっと別件で……、まぁさっきのを見た感じですと、戦闘にはならないと思いますので大丈夫だと思います」

 

「そっか、それじゃあ俺と先輩だけで後を追うよ」

 

「すみませんがお願いします。また何かあれば気軽に呼んでくださいね?」

 

「ああ。それじゃあ先輩、行きましょう」

 

「はいっ」

 

高峰先輩の行った場所に向かってく二人。それを姿を見えなくなるまで手を振って見送る。

 

「………」

 

ここで付いていけば、そのまま屋上で制圧戦が始まる可能性があるので一緒に行くのは少しばかりまずいかもしれない。この枝では失敗してもらう必要があるのだから……。

 

「舞夜」

 

背後から澪姉に声をかけられ振り返る。

 

「澪姉……」

 

「もう、全く……そんな顔するくらいなら今からでもぶっ壊しに行けばいいじゃない」

 

「……ううん。それはしちゃいけないし、私は平気だよ?」

 

「ならもっとまともな顔にしておきなさい」

 

「まともなって、酷いなぁ」

 

自分の頬をぐにぐにと触りながら苦笑いをする。

 

「……最後の晩餐は何が食べたいかしら?好きなの言いなさい」

 

「最後の晩餐って……。んー……やっぱり九重に戻って皆と食べることにする」

 

「そう。それじゃ帰りましょうか」

 

「うん」

 

澪姉と並びながら公園を後にする。この枝は明日で終わり。そのことは既におじいちゃんを始め関係者には通達済みではある。一応前々からこの枝の事は話しているし、それに対しても必要な事と完結はしている……が、いざ目の前に迫るとそれなりに想ってしまうのは仕方が無いのだろう。私も同じだしね。

 

「澪姉」

 

「何かしら?」

 

「先輩を恨まないでね?」

 

「……馬鹿ね。既に手遅れよ」

 

「えぇー……、手遅れなのぉ?」

 

「当然ね、あなたの話が真実と分かった時からずっとよ。()()もっとうまくすればこんなことにはならなかったでしょ」

 

「それは先輩に対して?それとも……」

 

「両方に決まってるじゃない」

 

「あはは。まぁ、私がもっと最善の方法とか思い付ければよかったんだけどねー」

 

「勿論、舞夜にも怒ってるわよ?少しだけど」

 

「……うん、ありがとね」

 

「まぁいいわ。暗い話はこの位にして、さっさと帰りましょう」

 

「そうだね、明日は忙しくなりそうだし!」

 

公園を出て、少し離れた場所に待機させていた家の車に一緒に乗り、九重家へと向かった。

 

 

 

 

「な~んか、あっさり見つけちゃったね」

 

「高層マンションの屋上……。よく潜り込めたわね」

 

「断片的だが、話は聞けた。与一の親の物件らしい。だから鍵とかも簡単に手に入ったのかも」

 

「そうじゃなくて、あなたたちが」

 

「へ?……ああ、そういうことか」

 

「あ、そういうマンションだと、エントランスはオートロックなのかな」

 

「高峰くんが、開けてくれたんです」

 

「え?親切に、どうぞ~、って?」

 

「いやそうじゃなくて、エントランスのドアが閉まらない様に細工してあった感じ。だから簡単に入れた」

 

「屋上へも、普通は行けないみたいなんですが、鍵が開いてて……」

 

「司令官が……魔眼の能力者の元へと、あなたたちを導いた……?」

 

「そうとしか考えられない。高峰はこう言ったんだ。与一が孤独になるから、そばに居ると」

 

「与一の人殺しに、共感しているわけではないみたいなんだ。幼馴染だから、見捨てられないって感じだった」

 

「高峰くんは、止めて欲しいんだと思います、私たちに……。だから、居場所を教えてくれた」

 

「じゃあ、私たちと……?」

 

「いや、表立って協力は多分無理だ。絶対裏切らないって、そう言っていたから」

 

「……あくまでも表向きはそういうスタンスを取る。ということね」

 

「ああ。だから共闘は出来ない……が、利用は出来る」

 

「……ヒーロー側のセリフじゃねぇな」

 

「天くん、ちょっと黙りなさい」

 

「はい」

 

「詳しく」

 

「私の力で、昨日の公園の時みたいに、出来ればなぁ……と考えていて」

 

「昨日高峰と出会ったのは、偶然では無くて先輩の力みたいだから、またそれをするってことですよね」

 

「は、はいっ、そうです!私の力の支配下にある人は、なんとなく、その、わかるのです……。高峰くんには、その感覚があったんです」

 

「ユーザーには効きにくいんじゃって、そう思っていたんですけど……多分、魔眼のあの人が特別なんです。たぶんですけど、ほとんどの人は、私の力で、私の望む結果へと、誘導することが……できる、と思います」

 

「ソフィが先輩と俺は対抗力が高いって言ってたけど、俺にも先輩の力、バッチリ効いてましたもんね」

 

「ん?なに、にぃに、なんかあったの?」

 

「……いや」

 

言わなくていい下手な墓穴を掘ったと反省する。

 

「おい、なんだその反応は。なんでちょっと照れてるんだ、お前は」

 

「うるせーよ。とにかく、高峰なら先輩の力で操れるってことだ」

 

「……なるほど。司令官を操り……霊薬を飲ませる」

 

「そういうこと。昨日、コンビニで弁当と飲み物を買っていた。そいつに混ぜる」

 

「混ぜるって簡単に言いますけど、どうやって?」

 

「そりゃあ、きみ。九條さんの出番ですよ」

 

「私?……ぁ、飲み物を盗んで」

 

「そう、高峰と接触出来たら時間稼ぎをするから、その間に九條の力で飲み物を盗む」

 

「霊薬に入れて、元に戻す……」

 

「ああ、イーリスの話だと、少量でもいいらしい。だから二人分のペットボトルに薬を入れて、与一がどっちを選んでも良い様にする」

 

「もし飲まなかった時は?」

 

「その時は直接対決だろうなぁ……」

 

「その要のお方はこの場に居ませんけどね」

 

「外せない用件で遅れるってさ。夕方の作戦には必ず間に合わせるからって返事はあったから大丈夫だとは思う。霊薬を飲み物に入れる方法も先輩が見つけてくれたから問題はないはず」

 

「は、はいっ!これならバレずに混入は、可能だと思います……」

 

「一応流れを確認しておこう。まずは高峰と接触して九條が飲み物に霊薬を入れて戻す」

 

「うん」

 

「そのあと、マンションまで行って、二人が飲むのを待つ」

 

「薬が効いて能力が使えなくなったら、突入。っと」

 

「もし霊薬が効く前に、やむを得ず戦闘になったら……」

 

「前衛を舞夜に任せて、私たちはそのサポートをする」

 

「ああ。九重が言うには、魔眼さえどうにか出来れば三人相手でも勝てると豪語していた。相当の自信だったから大丈夫だろう」

 

「改めて聞くと、あの三人相手に勝てるって言い切れる舞夜ちゃんヤバいな……」

 

「ほんとな。それに関しては九條の力で対処は可能だし、最悪視線を遮りさえ出来れば解除は可能だ」

 

「ちょーっと、作戦がガバガバすぎな気もしますが?」

 

「………」

 

「あ、やっぱりみんなも同じだったんだ。勢いで進めようとしてたでしょ?」

 

「いや、それは……まぁ」

 

「仮に公園で成功してもその後は?いつ飲むかも分かんないし、私たちが居ない場所で飲まれたら終わりじゃんっ」

 

「契約が破棄されたアーティファクトも、すぐに回収しないと……だよね?時間が空くと、また契約しちゃう」

 

「そう!他にも色々と問題はあるわけですよ。それに関しては、にぃにはどうお考えで……?」

 

「……一応、ある」

 

「ほう、聞こうか」

 

「武力で押し通す」

 

「……えーと、つまりは、舞夜ちゃんにぶん投げると?」

 

「そうなるな」

 

「いや、クズかよ」

 

「九重がそれで良いって言質は取ってんだよ!ガバガバなのは百も承知だっ。もし作戦が失敗しても、無理やり飲ませれればこっちの勝ちだ」

 

「舞夜ちゃんの負担デカすぎでしょ……」

 

「それは俺もそう思う。けど、力の無い俺らには九重を頼るのが一番確実なんだよ」

 

「可能性を上げる為に別プランを用意しておくのは当然。全部終わったら彼女にお礼を言っておきましょう」

 

「……それと、穴だらけの作戦でもすぐに実行しておきたい理由が、他にもある」

 

隣の先輩を見る。俺が言わんとしている事を察して、小さく頷く。

 

……これを皆に話さないわけには先に進めないからな。

 

 

 

 

 

「よーし、特に準備することは無いけど、準備完了っ!」

 

九重の家で出掛ける支度を済ませ、家を出ようと玄関へ向かう。

 

「それにしても、先輩も不器用と言うかなんて言うか……」

 

昨日の夜、新海先輩から連絡があった。深沢与一を見つけたから霊薬を飲ませる為に作戦を練りたいと……。

 

てっきり私をその場に送り込んでお終い!って流れかと思っていたが、安全策として先に飲み物に仕込んで飲ませる案が出て来た。それが失敗した時に私に頼みたいと。

 

あくまで安全にことを終わらせたいと言っていたが、友達と戦いたくはないって気持ちもあるのだろうね。こちらとしては言い訳をする手間が省けたので助かったのだけど。

 

「舞夜」

 

玄関に着き、靴を履こうとしていると、後ろからおじいちゃんに呼ばれた。

 

「ん?どしたの?」

 

振り返ると、おじいちゃんだけではなく、澪姉も居た。

 

「なに、最後に顔でも見ておこうと思っての」

 

「最後って……まるで死地に向かう人みたいな言い方」

 

「何も間違ってはないと思うのだが?」

 

「あー……そこは認識の違いと言いますか、その……」

 

「まぁよい。舞夜、しっかりと務めを果たしてこい」

 

「……うん!任せてっ。しっかりと先輩に絶望を味わわせて見せるから!」

 

そう言って踵を返して戻っていく。

 

「澪姉も、行ってくるね?」

 

「ええ、行ってらっしゃい。次会うのはいつになりそうかしら?」

 

「そだねぇ、上手く行けば二日前じゃないかなぁ?」

 

「ほんっとうに……あんたは」

 

出発しようとした私の背後に回り込み抱きしめてくる。

 

「………」

 

なんて返そうか考えたが、喉まで出た言葉が詰まり、無言になる。

 

「このままにしたら、マンションには行けないわよね?」

 

「それは流石に困るかなぁ?私じゃ澪姉に勝てないし」

 

「今まで頑張って来たのに、こんな終わり方をしなきゃいけないなんて、私は納得してないわよ」

 

「終わり方……かぁ」

 

「そりゃあ、あなたにとっては違うかもしれないわよ?けど、こうしてあなたを見送った私たちが居るってことは事実よ。そこははき違えない様に」

 

「うん、大丈夫だよ。この枝が消える世界って分かってても、忘れないし、いつか絶対に思い出すから……ね?」

 

「分かっているのならいいわ。ほら、遅れないように行きなさい」

 

抱きしめていた手を解き、背中を軽く押す。

 

「それじゃあ、行ってくるね!」

 

「ええ、一族の責務を果たしてきなさい」

 

最後に手を振って玄関の扉を閉める。

 

「……最後。最後かぁ……」

 

私にとっては、ようやく終わりに向けた始まりの一歩を踏み出せた。これはオーバーロードを目覚めさせるには絶対に必要。能力の覚醒には強い意志が重要。ゆっくりとそれを促すには時間が足りないし、結局何度も世界をやり直す必要が出てくると思う。

 

「っと、暗い気持じゃ駄目だよね。最後まで明るくしておかないと……」

 

昨日も澪姉に注意されたのだ。皆に変に思われない為にもいつも通りにしておかないと。

 

公園の時と同じように、頬を触りながら新海先輩の部屋へと向かった。

 

 

 

 

「舞夜は行ったか」

 

「ええ、笑顔で行ってきますって言ってね」

 

「そうか」

 

「本当に、昔からどうしようもない子なんだから……」

 

「あやつが決めたことじゃ。撤回することが無いのは良く分かっておるじゃろ」

 

「嫌という程ね。背中を押したこっちの身にもなって欲しいものだわ」

 

「それについては同意じゃな」

 

「小さい頃から鈍いとは分かっていたけど、必要とあれば死にも飛び込む様な生き方は直して欲しい所ね」

 

「あのような場所で幼少期を過ごして生き延びていたのじゃ。当然と言えば当然と言える」

 

「一族にとっては悪くないからスルーしていたけど、もっと言っておくべきだったかしら」

 

「その程度で揺らぐ精神は持ち合わせておらんよ、あの子は」

 

「ふふ、それもそうね」

 

「この世界の舞夜の死も無駄ではない。次へ繋ぐための必要な犠牲と割り切れ」

 

「そう言って、自分こそ納得出来ていないくせに」

 

「ふん、何を当然なことを」

 

「……うまく、いくといいわね」

 

「既にワシらにはどうにも出来ん領域じゃ。歯がゆいが後は任せるとしよう」

 

「ええ」

 

 

 





次のお話でこの枝は終わりですねー……。


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