オーバーロードによって、二日前の話に戻りました。
ですので、ややこしいのですが7話と表記します。
第7話:反撃への一手
ハットリさんから、新海先輩が家に帰宅したと報告を受けてから、そわそわと落ち着きがなかった。
「どっちだろ、どっちだろ~……」
少し前に近くの玄関の扉が閉まる音を確認したので、間違いなく帰って来てはいる。たぶん今はソフィが来訪してお話中のはず。
「どっちかによっておじいちゃん達への連絡もガラリと変わるしー、何だか私がドキドキしちゃうなー……」
気持ちを落ち着かせる為に、取りあえずスマホの時間を眺めながら時が過ぎるのを待つ。
ピンポーン。
暫く待っていると、玄関のチャイムが鳴る。スマホには特に誰かからの連絡は来てはいない。
「……これって、もしかして……?」
「九重っ、いるかっ!」
急ぐように焦る気持ちが混じった声で、再びインターホンが鳴る。
「は、はーーいっ」
期待と、緊張する感情が混じりながらも返事をして玄関を開けると、そこには私を見て一瞬驚きと安堵の表情を浮かべた新海先輩が居た。
「ど、どうかされたのですか?随分と凄い顔をされていますが……?」
「っ、今から時間大丈夫か?大事な話があるんだ……!」
「っ!?……告白ですか?と、ふざけられる雰囲気じゃないみたいですね」
「ああ、俺の部屋まで来て欲しい。ソフィも居る」
「……分かりました。行きましょう」
先輩の後ろに付いて行きながら、部屋に入る。部屋には、テーブルの上に居るソフィ人形が目に入った。
「さっき振りね」
「……そうみたいですね。二人が一緒に居るってことは……」
「ええ、そう言う事よ」
「つまり、また先輩の力が働いたってことですね?」
「話が早くて助かるわ」
「そのことについて、九重にも協力して欲しい」
「話を詳しく聞かせてください」
ソフィを挟んで二人でテーブル越しに座ると、先輩の口から説明が始まった。
「纏めますと、先輩達はやはり騙されていて、毒を掴まされていたと……そして殺した後にアーティファクトを手に入れる。それが狙い」
「ああ」
「そして、先輩はその枝の記憶を未来の自分から引き継ぎ、今に至る」
「そうなるな」
「そして、この枝ではそれを阻止する為に、イーリスをどうにか打倒する必要があり、方法としては世界の眼からの接続を切る、もしくは世界の眼の継続的な破壊。後者は向こうも理解しているため可能性は困難と……」
「あとは、与一が魔眼を奪われない様にする、だな」
「そして、最終手段は……」
「イーリスの魂を弱らせて、サツキの体から引き剝がすね」
「なるほど、正面からのガチンコ勝負ってわけですね」
「こちらの勝利条件は、イーリスに魔眼を取らせない、成瀬先生との同調の乖離……ですね」
「正面からは、まず不可能でしょうね。イーリスは、何百……最悪、何千ものアーティファクトを取り込んでいる、文字通り化け物よ」
「ああ、あくまで選択肢の一つとして入れておく……が、九重はもしそうなった場合、勝てる見込みってあるのか?」
「……先輩からの枝の話を聞くだけではまだ何とも言えません」
前の枝の私はどうやら力を見せずに次へ託すことを最終的に選んだみたいだね。
「……そうか」
「……ですが、本気で、全力を出せば、勝てる見込みはあるかと思います」
「本当かっ!」
「あなた、本気で言っているの?」
「はい。実際に戦ってみないことには分かりませんが、遅れをとることはまずありえません」
「そうか……それならまだ可能性はあるなっ」
「どうやら、何か手段があるみたいね」
「一応、奥の手的な物もありますので……最悪何とかなるかと」
「そう。けど、くれぐれも突っ走らない様に。慎重に事を進めるのよ?」
「ああ、分かった。皆にも相談するし、迂闊な行動はしない」
「それでいいわ。こちらもアンブロシアの製造を急ぐ。完成したらすぐに知らせるわ」
「頼む。こっちも何かあったらすぐに報告する」
「ええ、じゃあね。くどいけれども、二人とも突っ走らない様に」
「わかったって、絶対無茶はしない」
「ご安心を~」
私たちの返事と同時に、ソフィが帰っていく。
「ふぅ……」
一息つくように先輩が短く息を吐く。
「新海先輩、大丈夫ですか?」
顔を見ると気分が悪そうな感じである。それもそうだよね。
「……ああ、すまん、大丈夫だ」
前の枝の光景を思い出してしまったのだろう。顔を歪ませながら口元を抑える。
「……一つお聞きしたい事がありまして」
今聞くのは気が引けるが、自分がどの様な結末を迎えたかが、気になってしまう。
「どうした」
「私の最後は……イーリスに石にされたのでしょうか?」
「……いや、石にされたのは九重以外の皆だ。九重は事前に察していて、俺に注意を出していたくらいだ」
「と、なると……」
「お前は……次の枝の……、今のこの枝の俺に託すって言って、自分からイーリスに殺されたよ」
その時を思い出したのか、口元を抑えながら目を閉じる。
「ごめんなさい、嫌な記憶を……その、思い出させてしまって……」
「いや、気になるのも当然だ。簡単にやられるとは思ってないからこその疑問だろ?」
「……はい。ありがとうございます」
さっきから先輩の視線がやたら私の顔……首元に注がれる。多分、死因が関係しているんだよね?となると、首ちょんぱとかだろうか?
流石にその状況までは聞けないので、話を変える。
「はいっ!暗い過去のお話はここまでにしましょうっ。ここからは勝利のための明るいお話です!」
「……そうだな。絶対イーリスの目的を達成させてはいけない。もう、誰も死なせたくない……あんな未来は、二度とごめんだ」
顔を上げ、立ち上がり、決意を灯した目で私を見つめる。
「その為には、九重の力が必要だ。……手を、貸してくれ」
私に向けて手を差し出す。
真っ直ぐと、怒りや後悔、悲しみを含んだ目をしているが、イーリスを倒すという覚悟の目をしている……それならば、私もそれに応えないと名が廃るってものだよね。
「……その使命、九重家序列六位、九重舞夜が確かに引き受けました。私の力の全てを振るい、その願い、その望みを叶えると誓いましょう」
同じように立ち上がり、強く先輩の手を握る。
「……それは、何かの決め台詞とかか?」
「いえ、先輩に対する最大級の信頼の証ですよ。一族の決意証明的な物です」
「まじもんのだったのか……ってことは、九重より上が、後5人も居るってことだよ、な?」
「はい。これ、かなりの秘密事項なので、他言は避けていただくと助かります」
「言っても信じてもらえないだろうな……はは」
「表向きは普通の道場ですしねー、あはは」
「今更ながら、九重が味方になっていることに感謝しないとな」
「……急にどうしたのですか」
「いや、本当ならこうやって知ることなく、天の友達って認識のまま関わるだけだったんだろうなって思ってさ……」
「……ああっ、そう言う事ですね!確かにアーティファクトが無ければ、知られることはありませんもんねっ!」
「だよな」
一瞬、先輩の発言を理解出来なかったが、言われてみれば先輩視点だとそう思いますもんね。
「ではでは、作戦会議といきましょう!ふふ……今夜は寝かせませんよぉ?」
手をワキワキと動かしながら先輩に迫る。
「そっちが言うセリフじゃないよな……それ」
それに対して苦笑いをして返して来る。
「それじゃあ、先輩が私に言いますか?『生涯女性に言ってみたい台詞ランキング』上位に食い込む奴ですよ?今なら言いたい放題ですよ?」
プリーズと手をクイクイと動かす。
「いや、何そのランキング……」
「ほらっ、カモンですっ!」
「全く……んんっ、……今夜は、寝かせねぇぜ?」
「きゃーーっ!……さて、録音しましたし、グループで送りますか」
スマホを取り出して、操作する動作をとる。
「うぉいっ!?なにしてくれてんのっ!!」
「冗談ですよ~。良い声だったのでついつい……」
「いや、心臓に悪すぎだろ……」
「では、緊張もほぐれたことですし、始めましょうか」
「なに綺麗にまとめた、みたいな勢いで進めてんの?」
「嫌ですね~、緊張していた先輩を気遣った、可愛い後輩の優しいコントじゃないですか~、あははー」
「……そう言う事にしておくよ」
「はい。そういうことにしてくださいな」
変な空気は払拭出来たので、グダグダな作戦会議が始まったのであった。
今日は予定を変更し、俺の部屋に集まってもらうつもりだったーーーが、昨日九重と話している内に、今日は香坂先輩にとって大事な出来事が二つあった。
先輩の能力は、他人にも効力があること。
そして、結城と親しくなれたこと。
高峰との遭遇は、どうでもいい。その二つだけは、なかったことにしてはいけない。そんな気がした。
それに……俺の行動を、イーリスも監視しているはずだ。
もうバレているかもしれないが、もしバレていないとしたら……。俺はあまり、行動を変えない方がいい。九重には気休め程度もないと言われたが、しないよりはましだろう。
だからあえて、出来る限りの出来事をトレースしていく。
「綺麗に二人と三人で分かれたね」
「じゃあ、これで。二手に分かれて猫探しするか」
「へ?猫?痕跡捜しでしょ?」
「あ~、いや。あくまで実験だろ?間違っても与一に会いたくねぇし」
「痕跡の代わりに、猫を探すんだね?」
「そうそう、それなら出会う可能性ないし」
まぁ、出会うことはあり得ないんだけどな。
「いいと、思いますっ、猫っ」
「異議なし」
「それじゃあ、早速ーーー」
「行きましょう」
我先へと店を出ようとする結城。
多少怪しい場面はあったが、無事猫探しに行くことになり……。
「あっちの二人も、野良猫とすれ違いまくってるみたいです」
「よかった……。じゃあ、他の人にも、妄想のおすそわけ……ぁ、この表現違う……っ。その、はい、き、効きますね……っ!」
無事、実験も成功。
「かわゆいね~、二人は兄弟~?どっちもかわゆいね~。ん~、そっか~、そうなの~。にゃにゃ~。にゃ~にゃ~」
「………」
「………」
結城の恥ずかしい場面も目撃し。
「私たちっ、似てますねっ!趣味もそうだし、猫好きだしっ!うちも飼えないんですっ!」
「そ、そうなの……」
「そうなんですっ。今度一緒に猫カフェ行きましょう!結城さん!」
「猫、カフェ……」
「……希亜で、いい」
結城とも友情が芽生えーー。
「春風と呼んでも?」
「へ……?」
「確かに……気は合いそう」
「ぁ……、は、はいっ、よろしく、希亜ちゃーーー」
「っと」
能力の使いすぎでふらついた先輩を、抱きしめる。
ここまでは予定通り。
与一たちの居場所は既に割れている。高峰と遭遇する必要はない。そっちは九重に任せている。
そしてここからは、行動を変える……作戦開始だ。
「す、すみません。あれ……な、なんだろう、貧血……かな?」
「恐らく、能力の使い過ぎだと思います。一旦俺の部屋に行きましょう。横になって休んでください」
「すみません……」
「結城、天と九條に連絡をお願いしても良いか?グループの方で。俺の部屋に来てくれって」
「ええ、わかったわ」
「先輩、行きましょう」
「は、はい……」
「掴まって、肩くらい貸すわ」
「あ、ありがとうございます……」
「変な遠慮は不要」
先輩を支えながら、マンションへと向かう。あの話を、皆にするのは気が重いが……。とにかく、今日の本番は、これからだ。
「たっだいま~」
「お邪魔します」
俺たちが戻ってすぐ、天たちも部屋へやって来た。
話は先輩が起きてから、と、取りあえず寛いでもらう。
「先輩ダウンしちゃったなら、今日は解散の方が良かったんじゃない?そんなに大事な話?」
「ああ、めちゃくちゃ」
「だったら最初にすれば良かったのに」
「出来る限り、俺の今日の予定を変えたくなかったんだよ」
「なんで?」
「それも含めて、あとで話す」
「もしかして、また力が……?」
「ああ。これから先に何が起こるかが分かった」
「なるほど、様子がおかしいと思っていたけれど、そういうことだったのね」
「やっぱり気づくよな」
「当たり前でしょうが。お店に来るや否や、舞夜ちゃんに霊薬?渡したと思えば本人はどっか行っちゃうし……」
「きっと、良い報せではないのでしょうね」
「……まぁ、な。先輩が起きたら、全部話すから」
「あ、あの……」
ベッドで横になっていた先輩が、ゆっくりと体を起こす。俺が行動を変えた影響だろうか?目覚めるのが随分と早い。
「私、もう……大丈夫ですので……」
「あの、無理せず、もう少し休んでいた方が……」
「彼の様子を見る限り……その余裕もあまりなさそう。大丈夫なのよね?春風」
「は、はい。大丈夫……っ」
まだ少し顔色は悪かったが、先輩は力強く頷いて、ベッドから降りてテーブルについた。
全員が揃った事で、壁際に座っていた俺に、視線が集まる。
スマホから、九重に一言目メッセージを入れて、皆を見る。
「じゃあ……。ナインボールで話したことは、一回、忘れてくれ」
「ん?」
天が首を傾げ、他の皆も困惑していた。
まだ、心の準備ができてなくて、まとまりのない、たどたどしい伝え方ではあったけど。
全部、皆に話した。前の枝の……出来事を。
「おっ、新海先輩サイドは皆へ話を始めたみたいだねぇ~」
風に揺られる髪を抑えながら、スマホの画面を眺める。
「でしたら、こちらも行動を移しますかっ」
幾つかのプランを立てて、同時に実行しているが、どれか一つでも成功すればラッキー。全部失敗なら本来の作戦通りみたいな適当な感じで進めている。
「まぁ、一つに期待しちゃだめだしね」
「ねー?話はまだかなー?」
画面を見ていると、後ろから声をかけられ振り返る。
「もう少々待って下さい。高峰先輩がもう少しで買い物から帰ってくるはずなので、お二人が揃ってからにしたいです」
「なら僕とのおしゃべりに付き合ってよ。一人だと寂しくてさ」
「いいですよ。と言っても、共通の話題が分からなくて何を話そうか迷っちゃいますが……?」
「あ、それなら僕から質問良い?色々聞きたい事があるんだよねー」
「了解です、何から知りたいですか?」
「舞夜ちゃんの好みの男とかっ?」
「なんとも深沢先輩らしい質問を……、そうですねぇ、強い人。とかでしょうか?」
「強い人?」
「はい。力だったり、頭脳だったり、心だったり……、何でも良いですが、あ、因みになんですが、青髪で、一つ上の先輩で……、女子にナンパするようなチャラい男の人は駄目ですねっ」
「それ僕じゃんっ!!ピンポイント過ぎないっ!遠回しにっ、もっとオブラートに包んでよ!?」
「いえいえ~、誰も深沢先輩とは~」
「いや絶対僕でしょっ!僕を見ながら言ってるよね!」
「何やら騒がしいと思えば……これは予想外の組み合わせだな」
深沢先輩を揶揄っていると、目的の人物が到着する。
「お、蓮夜来たね」
「ん?どうやら私に用があるようだな」
「正確にはお二人に……ですけどね!」
「それで?わざわざ一人で来たってことは、何か話があるってこと?」
「降伏宣言なら聞くが?」
「ん~降伏では無いですね。言うならば……リグ・ヴェーダ・アスラと、ヴァルハラ・ソサイエティの同盟の提案、でしょうかっ」
「同盟の……」
「提案……?」
懐からアンブロシア(毒)を取り出す。さて、プレゼンを始めるとしますか!!
「実はですね……」
これでイーリスの視線をこちらに向けれれば儲けものですけど……どうなるやら。
九重舞夜による、アンブロシアのプレゼンテーションの始まり始まりです。
「This is Poison」
~完~