9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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イーリス戦その二ですね。




第10話:神と鬼

 

 

「クソッ!ちょこまかと動きやがってっ!」

 

「先輩、来ますよ!」

 

私たちから距離を取るように移動しながら、ときおり斬撃の様な攻撃を飛ばして来る。先ほどより威力が跳ね上がっており、このままでは手元の武器だけでは心許無くなってきている。

 

「あ~、これももうダメですね。先輩、残念ながら手持ちの在庫が切れました」

 

「マジかよッ、けど助かった!」

 

「非常に申し訳無いのですが、一旦離脱しても良いですか?とっておきを持ってきますので!」

 

「それはっ……!頼もしいな。ゴースト!行けるか」

 

「当たり前だ!こっちは任せな!」

 

「直ぐに戻りますっ」

 

イーリスを先輩に任せて一時離脱し、四人の元へと移動する。

 

「ええっと、確かここに……」

 

今日の為に持ち出したバックの中身を漁り始める。

 

「舞夜、戦況はどうかしら」

 

私に駆け寄るように結城先輩と香坂先輩が来る。

 

「イマイチですね……。どっちも決定打が無くてちまちまと攻め合っている感じです」

 

「そう。なら私も参戦するわ」

 

「いえ、結城先輩のはまだ、ここぞという時の一撃にとっておいてほしいのです。そこまでは私と先輩で何とかして見せましょう」

 

「勝算はあるの?」

 

「ふふん、当たり前ですよ。ですが、少しでもその可能性を上げておきたいのです」

 

顔を上げて、香坂先輩を見つめる。

 

「香坂先輩。先輩の力が必要です」

 

「……ふがいないですわ。わたくしの勝利のイメージが、全く実を結ばなくて……それが唯一の役割ですのに」

 

「いいえ、違います。結城先輩は既にお気づきだとは思いますが、先輩はまだ……全力ではありません」

 

「え、そ、そんなことは……」

 

「私もそう思うわ。だって、あなたはまだ人格を変えるための余力を残している。違うかしら?」

 

「ぁ、……そ、それは……」

 

「先輩、別にそれを責めようとか考えていません。……ですが、この局面、出せる力は出すべきだと私は思います。そして、香坂春風になら、それが可能だと、私には分かります」

 

真っ直ぐに揺れる瞳を見つめる。

 

「こ、九重さん……」

 

「怖くて何かに頼りたくなる気持ちも分かります。自分に自信がない所も……。なので、先輩に少しでも勝利への希望を……勇気を掴み取れるというイメージを、私が創りましょう」

 

バックから目的の道具を取り出して、腕に装着する。

 

「あなた……それは」

 

「ふふ、我が家のとっておきのアイテムですよ」

 

具合を確かめる為に軽くお互いに小突く。金属の音が響く。

 

「では……言い出しっぺの私から先に、本気というものをお見せします」

 

「九重さん……」

 

「結城先輩、後の激励はお任せします。そろそろ新海先輩の方が心配なので」

 

「ええ、あなたの実力、確かめさせてもらうわ」

 

二人に背を向けて、急いで新海先輩の元へ戻る。

 

「お待たせしました!どうですか?生きてますかっ」

 

「おかげさまで何とかな!って、また物騒なものを腕に付けて来たな!」

 

「かっこいいでしょう!性能も折り紙つきですよ!」

 

「ははっ!それは心強いっ」

 

そう言って高らかに笑った先輩の頬や腕には切り傷が出来ていた。

 

「さぁ、反撃と行きますよ!」

 

拳と拳を合わせて、戦闘態勢を取る。

 

 

 

 

 

「せい、やぁっ!」

 

逃げ回るイーリスへ九重が一瞬で距離を詰め、そこで殴打を決める。

 

「……んー、駄目みたいですね……おっと危ない」

 

結界を殴るが効果が無い。そこへ飛んできたイーリスからの攻撃を軽々と避けて戻ってくる。

 

「やっぱりだめか?」

 

「ですね。やはり本気で行かないと駄目みたいです」

 

「恐ろしい子ね。まさかそのまま素手で殴りつけてくるだなんて……やっぱりサルなのかしら?」

 

「ですが、攻撃に回ると先輩達へのフォローに穴が出来る可能性が出て来るので……」

 

「俺らの事なら気にすんな」

 

「いえ、それもですが後ろの皆さんのことです。いつイーリスがみんなを標的にするか分かりません」

 

「無駄よ。……ほんと疲れるわねぇ。誰かさんが反則みたいなアーティファクトを持っているせいで、ちまちまと攻撃しないといけないだなんて……不本意だわ、本当に」

 

「言われてますよ?誰かさん」

 

「だとよ。痛い思いしてんの自分のせいだぜ」

 

「その苦労も無駄じゃない。例え失敗しても、そいつを糧にして乗り越えてやる」

 

「そうなのよねぇ……。あなたたちをいたぶったところで、結局徒労に終わると思っちゃうと……やる気がなくなっちゃうのよねぇ……」

 

逃げ回っていたイーリスが、唐突に動きを止める。

 

「あぁ……そうだわ。私ったら、うっかりしていたわ」

 

「あなたは殺せない。つまり……この枝で魔眼は手に入らない、ということよね?」

 

「ああ、絶対に渡したりしない」

 

「あ……っそ。じゃあーーー」

 

「無くなったわ、この体を大事にする理由」

 

「……っ!」

 

ぞわりと、背筋に走る悪寒。

 

なにか、まずい予感がする……!

 

「本気、見たがっていたわよね」

 

イーリスの額のスティグマが、広がっていく。先生の体を浸食していく。

 

「私じゃなくて、あなたたちのやる気を削げばいいのよ。簡単な話だった」

 

イーリスの発する声が冷気となって、周囲を凍てつかせる。凶悪で凶暴な力が、膨れ上がっていくのを感じる。

 

「いくら運命を書き換えても無駄だと思えるほどの絶望を、与えてあげる。フフフ……」

 

「おいおい……ふざけんなよ……」

 

「……っ」

 

身体が重い。全身から脂汗が吹きだす。

 

気を抜くと、意識を手放してしまいそうだった。くそ、イーリスの領域ってやつが、強化されたのか……っ!

 

「これは、不味いかもな……っ!」

 

弱音を吐くべきではない。だが、本能がそれを恐れ、怯えていた。

 

目の前の、化け物を……!

 

「無理してでも立ち上がって下さいっ!来ますよ!」

 

顔を上げると、真剣な表情でイーリスを見ている九重が目に入る。

 

「よく、立っていられる、な……!」

 

「お生憎様、鍛え方が違いますので……ね!」

 

「フフフ、ほんと素晴らしい資質ね。でも、魔眼を逃した憂さ晴らしと、世界の眼へのお返しは……させてもらうわよ」

 

こちらに手を向けイーリスが笑う。

 

「ーーーっ!」

 

すると、隣の九重が俺を抱えてその場を飛び退く。

 

「なっ……!」

 

さっきまで居た場所に赤い烈風が吹き荒び、ゴーストを消し飛ばした。

 

「あら、逃げられちゃったわね。けど、いつまでそれが持つのかしら?」

 

「先輩、一人で立てますか?」

 

「ああ、すまない。助かった……」

 

手を借りて起き上がると、目が赤く染まっている九重が居た。

 

「選手交代です。先輩とゴーストは皆を守って下さい」

 

「一人で戦うのか……?」

 

「そうですね。出来れば……あまり見せたくない物ですが……贅沢は言えません。それに、一人の方が戦いやすい性質なんですよ」

 

「……そうか。すまない。足を引っ張った」

 

俺たちを守るために周囲に気を張り巡らせていたんだろう。そのせいで戦いに集中が出来てなかったと。

 

「違います。それも私の役割なんですよ。そしてここからは攻めに移るだけです。その間、皆の事をよろしくお願いします」

 

「……ああ、分かった!前は任せる。後ろの事は気にせずに、存分に暴れてこいっ!来いっゴースト!」

 

「選手交代かよ、しゃーねぇな!」

 

「後ろは任せます!」

 

そう言ってイーリスの方へと向き直す。

 

「作戦会議は終わったかしら?」

 

「ええ、まさか待っててくれるとは思っていませんでしたが……」

 

「フフ、あなたたちの心を完全に折るためですもの」

 

「そうですか。目論見が外れる計画ですね」

 

「この状態でも強がれるだなんて、健気なこと」

 

よし、今の内に後ろに下がろう。

 

「翔様っ!ご無事でっ」

 

「ああ、俺は大丈夫です」

 

「それより、あなたが下がって来て、あの子は一人で大丈夫なの?」

 

「ああ」

 

「にぃに、舞夜ちゃん一人で良いのっ!?」

 

後ろをみると、回復した天と九條も居た。

 

「心配ない。九重なら戦える。なんなら俺が要らなかったくらいだ」

 

「その根拠は?」

 

「俺の記憶がそれを知っている。別の枝での九重をな。あいつはまだ、本気を出していない」

 

「さっきもご自身でそう仰っていましたが……あのイーリス相手では……」

 

「何かあれば俺が即座に助けに入りますよ」

 

「私たちではここより先へ踏み込めない……」

 

「まぁ、見ていてください。本人が戦うと宣言したのです」

 

イーリスの攻撃がこっちへ向かないか警戒しつつ、両者の戦いを見守る。

 

と、思った瞬間、九重が姿勢を低く落とした……と思った時には姿が消えており、金属が激しくぶつかり合う様な音が何度も境内に響き渡る。

 

「結界を、破れていないみたいね……」

 

「そう、みたいだな……」

 

イーリスからの幾重にもなる攻撃を躱しながら攻防を続ける。その流れ弾がこっちへ飛んでくる。

 

「っ!……ほんとにお構いなしだな!」

 

炎でそれを払う。

 

「驚くほどの身体能力ね。貴女、本当に人間?」

 

「一応、人間をさせてもらってます……よ!!」

 

「無駄よ。割れるわけないじゃない」

 

「……はぁ、そうみたいですねぇ……」

 

一度、イーリスから距離を取って対峙する。

 

「んー……威力は申し分ないと思うんだけどなぁ……やっぱり素手じゃ厳しいかぁ」

 

「当たり前じゃない。アーティファクトなしで結界を破壊しようだなんて……ほんとおサルさん」

 

「……あはは!その通りかもね!でも……」

 

イーリスと向き合っていた九重が、構えを解き、だらりと手を降ろす。

 

「そう言われると……その表情を歪ませたくなるんですよねぇ……?」

 

九重の声がいつもとは違い、重く、冷たい声へと変わる。

 

「良いでしょう。折角ですし、私も本気の全力でお相手します。光栄に思ってくださいね?」

 

「あら、虚勢かしら?楽しみにしてもいいの?」

 

「ええ、勿論です」

 

九重が右手で拳を握り胸の高さまで持ち上げる。そしてそれをそのまま自分の心臓へと打ち付ける。

 

「っ……!ぁあ……!」

 

次の瞬間、体が跳ねるように、ドクン。と鼓動が響く。

 

更にドクン。と鳴り、次第にその感覚が短くなってくる。

 

「ぁ……アアァアア!……フゥゥゥウッ!」

 

すると、九重の肌に血管が浮かび上がり、肌を赤く染め上げ始める。

 

「か、彼女は……一体何をしているの……?」

 

横に居る結城から、怯える様な声が上がる。

 

「はッはッ……さ、てと……行きますよっ!!」

 

「あなた……本当に、人間?まるで化け物じゃない……」

 

正面でそれを見ていたイーリスが眉を潜めるように呟く。

 

「どうでしょう……ね。でも神を討ち破るためなら、鬼とでも化け物とでも好きに呼ぶと良い!」

 

九重が低く、更に低く姿勢を落として構えを取る。まるで四足歩行で動くかのように……。

 

「ーーーッラァア!!!」

 

……動き出す!そう思ったと同時に、結界が割れる音が響き渡る。

 

「はぁ!?」

 

これにはさすがのイーリスも驚きの表情を見せる。

 

マジかよ……。能力関係無しにあのイーリスの結界をぶち破りやがった……!!

 

「に、枚目……!!」

 

続けて結界が割れる音が鳴る。

 

「……ッ!」

 

不味いと察したのか、イーリスがその場から距離を取る。

 

「逃がしません!!」

 

移動したと思った時には、目の前に九重が現れ、結界を割る。

 

「くっ、……調子に……乗るんじゃないわよっ!」

 

姿を捉えられないと分かったイーリスが、全方位に赤い烈風を飛ばす。

 

「そんなそよ風、効きません……うっらぁっ!!」

 

早すぎて分からないが、九重がその場で裏拳を出し金属がぶつかり合う音がけたたましく鳴り響いた。

 

「あの攻撃を……防いだ?」

 

結果だけを見ると、イーリスからの攻撃を九重が防いだことになるが……。

 

「……圧倒的ね、彼女。これが貴方が言っていた自信の理由?」

 

「いや……あんなの俺も知らなかった。俺が視たのは、もっとスマートな感じで、あんなに荒れ狂う姿じゃない」

 

「ねぇ、お兄ちゃん!あれ、大丈夫なの?舞夜ちゃん平気なの!?」

 

「九重さんからは想像もできない程の力と速さ……普通じゃありえません」

 

「それなら、かなりの負担をかけていることになるわね」

 

「新海くん、私たち、このまま見ていることしか出来ないのかな?」

 

「……いや、そうじゃない。幾ら九重がイーリスに勝てても、先生の身体からは引き剥がせない。その役目は俺たちがしなくちゃいけない」

 

「急ぎましょう。彼女がいつまで持つかわからない」

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

「このっ……!」

 

イーリスからの攻撃を搔い潜り、更に一枚結界を破壊する。

 

身体中が熱い。脳が焼けるような痛みを能力で無理やり押さえつけて攻撃を続ける。

 

「残りはあと、何枚です、かっ!!」

 

先輩達へ意識が向かない様に攻めの手を休めない。このまま私がイーリスを圧倒出来ても、倒しきれないのは新海先輩も分かっている。この空間を攻略するためには、香坂先輩の力が必ず必要になる!

 

私はその時間稼ぎに徹すれば良いだけ……!

 

「なんなの……あなたは……。これ程までの力……まさかアーティファクトの力かしら」

 

「第一人者の貴方でも分からないみたいですね……。ま、ご想像にお任せしますよ!」

 

「……っ、死になさい!」

 

イーリスから放たれた無数の真空刃。それを目視で確認しながらすべて避けきる。

 

「余裕、無くなって来たみたいですねぇ……?あはははっ!」

 

「この!化け物がッ!」

 

腕を大きく振い、攻撃を飛ばす。それを腕の手甲で威力を逃しながら上へと弾く。

 

先輩達を見ると、心配そうに私を見る天ちゃんと、お互いに話し合っている四人が目に入る。

 

「よそ見とは、随分と余裕ね……!」

 

「今の差が全てを表していますよ。白蛇様?ふふ、あはははぁ!」

 

あっ、やばい、変な笑い方したせいで……。

 

口の中に鉄分豊富な味が広がる。

 

「………」

 

どうやら、幾らアーティファクトの力で抑え込んでも、代償は軽くはない……ということらしい。

 

「あら、急に黙ってどうしてのかしら?もしかして、限界がきたのかしら?」

 

「いえ、限界はありませんよ」

 

「そうは見えないけれど?」

 

「正確には、限界が来ても関係ない。が正しいですね……。私を止めたければ心臓の根を止めてみてください」

 

「……あなた、頭がおかしいのかしら?」

 

「いえいえ、正常です」

 

「狂っている様にしか思えないわ。自分が死ぬというのに、恐れすら感じないなんて……」

 

「覚悟の差が違うのです。私は……私たちは今日、神を倒しに来たのですからっ!!」

 

「誰かが死ぬ未来を視たくないと先輩は言った!みんなを守りたいと……!笑って明日を迎えたいと!ならば、私はその願いを全力で叶えるまでです!その未来のために、イーリス!あなたという存在が邪魔なのです!」

 

「九重っ!!」

 

背後から私を通り抜けて行く炎と一緒に、新海先輩が隣に立つ。

 

「先輩!?そっちは大丈夫なの、ですか?」

 

「ああ、このままイーリスを倒す。力を貸してくれ!」

 

咄嗟に後ろを見るが、香坂先輩が覚醒した様子は見られない。

 

「っ!?作戦はっ!」

 

「結界を全部ぶち破れるかっ?そのあとはこっちでとどめを刺す」

 

香坂先輩の覚醒イベントは……!?え、……いや、確かにそれでも行けますが……。

 

「あはっ、そういう手も、アリかもしれませんね……。分かりました!すべてこの舞夜にお任せをっ!」

 

「頼りっきりですまんが、任せる!」

 

「いえ!私にも責任がありますので……!」

 

これは後で色々とフォローが必要そうだなぁ……。まぁ、終わってから考えよ!

 

「行きます……出遅れないで下さいね!」

 

最後の攻撃と、全力で仕掛ける。

 

「ーーーハァァアッ!!!」

 

結界へと真っ直ぐ。突っ込み、まずは一枚。そのまま逆の手でもう一枚。更に蹴りを繰り出して三枚目っ!!

 

「ッ!?」

 

四枚目!ーーーと行こうとすると、手ごたえが消え拳が空ぶった。……無くなった?

 

「フフ、油断したわね」

 

「っ!?」

 

その正体に気づき、咄嗟に体を強引に捻る。

 

「遅いわよ」

 

周囲に幾つもの刃が仕掛けられていた。……罠かっ!

 

「っ……うらァ!」

 

イーリスからの攻撃に能力をかけ、無理やり飛び退いてその場から離脱する。その結果、受け身も取れずに地面に落ちる。

 

「大丈夫か!?」

 

「ええ、ギリギリでしたが……やられました」

 

「嘘でしょ。あのタイミングで避けられるだなんて……けど、無傷とは行かなかったみたいね?」

 

右横腹に激痛が走っている。確認すると、出てはいけない中身が覗いていた。

 

「九重……!お前、その怪我っ!」

 

「軽傷です。気にしないで下さい……っ」

 

「馬鹿言うな!死ぬぞ!下がれ!」

 

っうぅ……いったぁ……。ちょっとこれは流石にまずいなぁ。

 

「……っ!!くぅぅっ!!」

 

傷口を触り、出てきている中身を中に押し返す。一応臓器は無事みたいっ……!

 

そのまま能力で固定し、腹部を抑える。

 

「すみません、少しの間、引きます……すぐに戻ってくるので……!」

 

「無理すんな!休め!」

 

先輩に任せて一旦離脱する。力も解除してから後ろに下がる。

 

「おい、大丈夫なのかよっ!」

 

「舞夜ちゃんっ!?その傷……!」

 

「ま、まって……あとでね?今は忙しいから……」

 

傍へ駆け寄る皆を制止してバックを漁る。確かこの辺りに……!

 

「あ、った」

 

鞄から包帯とガムテープを取り出す。傷口の服を上げて、包帯を上から被せ、ガムテープでぐるぐると巻く。

 

「よし、これで完了っと……。戻らないと……!」

 

「あなた、どこ行くつもり?」

 

立ち上がると、結城先輩に声をかけられる。

 

「どこって……新海先輩の所ですよ?」

 

「馬鹿言わないで、あなたのそのお腹の傷、血の量からして決して軽くはないわ」

 

「死ななければ全ては軽傷です」

 

「大人しく安静にして。あなたは充分に頑張った。後は私たちが何とかする」

 

「結城先輩こそ、馬鹿言わないで下さい。この程度まだ戦えます。それに、どうやって勝つつもりですか?今も新海先輩は私たちの為に時間を稼いでいます。イーリスからの攻撃を必死に耐えながら……」

 

「そんな先輩一人に任せて座ってろと?冗談じゃないです。そのくらいなら戦って死んだ方がましです」

 

私の言葉に結城先輩の言葉が詰まる。……普段言わない口調だし驚かせたかな?

 

「皆さんはそこで大人しく見ていて下さい。新海先輩は皆を守ろうと、死なせない様にと必死に抗っています。なら、私はその先輩を救いたい。守りたいのです。私にはその力があります」

 

皆を……香坂先輩を見るように語る。

 

「その力があるのなら、守られるままの存在を受け入れるなど、私のプライドが許しません。後悔など……したくはないのです」

 

「しかしっ、その傷じゃ……あなたが死ぬわよっ」

 

「どの道、ここで勝たなければ皆殺されますよ?なら生きて勝つしかないのです」

 

伝えたい事は伝えたことだし……戻らないと。

 

皆のもとを離れて新海先輩の場所まで移動する。

 

「九重っ!?お前、安静にしてろって……!」

 

「大丈夫です。応急処置はしております」

 

服をまくり上げて怪我の位置を見せる。

 

「能力で固定もしておりますので、暫くは持ちます。それに、勝てなければ一緒ですから……ね?」

 

「クソっ、その言葉、信じるからな!」

 

「先輩こそ、男の勲章がまた増えましたね。休まれては?」

 

「そっちに比べたら全部軽傷だよ!気にすんな!」

 

お互いを励ます様に笑い合う。よし、第三ラウンドと行きますか!

 

「死にぞこないが、戻って来たみたいね。お腹、大丈夫かしら?」

 

「殺し損ねた人が心配とは、余裕そうですね!」

 

再度イーリスと対峙する。

 

すると、赤く、暗いオーラが吹き荒れていた境内全体に、温かく、眩い光が広がる。

 

「な、んだ……!」

 

これは……。この光は……!?

 

咄嗟に後ろを向く。そこには眩しいほどの光を放ちながら立っている香坂先輩が居た。

 

「……っ!~~っ!!」

 

その姿に、謎の感動を覚える。遂に、遂に来ました!これで確実に勝てる……!

 

「先輩……ッ!」

 

隣の新海先輩もその姿を見て驚きの声を上げる。

 

「才能豊かな子ばっかり……。ムカつくわね」

 

「新海さんっ!九重さんっ!」

 

「ごめんなさい、ずっと、うじうじと……!けど、もう死なせはしません!傷つけさせません!好きに動いて下さい!二人がしたい事は、全部私が叶えます!」

 

「了解!」

 

「したいこと……できること……」

 

もし香坂先輩の力で可能ならば……!

 

拳を握り、一つの事を頭の中で思い浮かべる。

 

それは腕を纏う様な形の……()()。新海先輩が先の枝でしていた幻体の応用。……大丈夫。条件は揃っている。私の身体には先輩の血を既に取り入れている。

 

それならば、出来ない道理は……ない!

 

目を開き腕を見る。すると、腕の手甲に纏うような半透明な何かが、そこにあった。

 

「あはは……すごいや。ほんとに出来ちゃった……」

 

これはイーリスが嫉妬するのも頷ける。

 

「よし、これなら……!」

 

イーリスの結界を簡単に破れるっ!!

 

「新海先輩!結城先輩!合わせてください!結界を全部ぶち抜きます!」

 

「ああっ!」

 

天ちゃんに任せるのも手だけど……このまま負けで引き下がるほど、安いプライドじゃないんでね!

 

 





次でイーリス戦もおわりですね。
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