9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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第四章、『ゆきいろゆきはなゆきのあと』の始まりです。

オーバーロードを使いこなす為にあれこれします。




Episode.Ⅳ Noa Yuki
第1話:世界の狭間で


 

「ハァイ、こんにちは。それともこんばんわかしら」

 

「カケルの世界の眼が不完全なせいでしょうね……。あなたを見つけるの、本当に大変なのよ。無事繋がって良かったわ」

 

「さっきーーーあなたにとってはさっきじゃないかもしれないけれどーーー別にどうでもいいわね、そんな細かい話は」

 

「以上、と言ったけれど、あなたが本格的に運命に介入を始める前に、確認させて欲しいことがあるの」

 

「簡潔に聞くわ。あなた、オーバーロードを使いこなせていないでしょう?」

 

「………。相変わらず反応が薄いわね……。朧気に戸惑いが伝わって来るけれど……」

 

「まぁ……確認するまでもないわね。オーバーロードを完全に掌握していたのなら、私の接触に戸惑うはずがないし」

 

「あなたの今までの干渉の仕方から、無数の枝を自由に観測することも出来ないんじゃないかしら。違う?」

 

「………質問しても無意味ね。意志疎通が困難な時点で、使いこなせていないのは明白。オーバーロードは言い伝え通りのスペックならば、世界の眼の完全な上位互換なのよ」

 

「つまり、私に出来ることはあなたにも出来るはず。いえ、出来なくちゃいけないのよ。なにせ、あなたは世界の支配者なんだから……」

 

「オーバーロードの使い手が情けないままじゃ、がっかりなのよね。私としては」

 

「というわけで、練度を上げるわよ。私が手伝ってあげる」

 

「意志疎通が出来ないことは、まぁいいわ。さして重要じゃない。問題なのは、自由に観測、干渉が出来ていないこと」

 

「私がどうやって他の枝を認識しているのか、そのイメージをあなたに伝えるわ」

 

「集中して、いくわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、おかえりなさい。流石オーバーロード。時間の概念なんて関係ないわね。数秒で戻って来るんだから」

 

「大丈夫、疑って無いわよ。あなたがしっかりやり遂げてくれたって、ちゃんと分かっているから」

 

「四月十七日の私と接触したことで現れた変化についてーーー話す前に……」

 

「もしかして……私の姿、見えてるんじゃない?」

 

「ああ、やっぱり。さっきより強く繋がっているみたいね……。あなたの戸惑いと驚きが手に取るように分かるわ」

 

「私からは相変わらずあなたの姿が見えないのは……残念だけど、多分これはこっちの問題ね」

 

「あなたの方は、オーバーロードの扱いに早速慣れてきたようね。それとも、あなたが私を探して繋げてくれたからかしら?だから、繋がりが強くなった……」

 

「まぁ、なんでもいいわね。無駄話はこれくらいにしておきましょう」

 

「四月十七日の私と接触したことで、目論見通り『私が最初からカケルに協力的な枝』が生まれたわ。ただ残念ながら……期待通りとは行かなかったわね。たいして大きな変化は生まれなかった」

 

「観測しか出来ないワタシの力では、運命に与える影響なんてその程度……ということね」

 

「けれど、観測できる範囲が増えたわ。カケルを監視しなくなったおかげでね」

 

「それじゃあ、整理しましょう。情報の共有も兼ねてーーー」

 

 

 

 

 

「まずは……これ。カケルがミヤコと親しくなる枝ね。おそらく、あなたが最初に観測した枝じゃないかしら?干渉の仕方が、明らかに他の枝とは違うのよね。どこかたどたどしいと言うか……」

 

「そのせいか、結果も一番芳しくない。魔眼の入手どころか、魔眼のユーザーの正体も分からないまま……。極めつけは、本来仲間になるはずの彼女と敵対してしまっていた枝が存在していること……」

 

「……次はこの枝。おそらく、これが二番目に観測した枝ね。ソラが暴走しかけた枝」

 

「あなたが明確に運命に干渉し始めたのが、この枝からなのよ。私も不審がっていたわね。この枝で、カケルは魔眼と対峙することになる。もっともユーザー本人じゃなくて、幻体だったけれど……」

 

「そして、三番目。この枝から、あなたはカケルへの干渉を強めている。魔眼のユーザーの正体を、必死に伝えようとしているわね。そして運命を操り、カケルの死の運命を否定し続けた。その成果もあって、皆と一緒にイーリスを退け、魔眼を入手することが出来た」

 

「さっき話した新たに生まれた枝だけれど、結局この枝に統合されたわ。何が起こるかカケルが知っていたおかげで、マヤが重傷を負わなくなったくらいかしら?変化と呼べるのは……。でも、そのおかげで、分かったことがあるの。いえ……、見逃していたことに気づいた、と言うのが正しいわね」

 

「覚えてるかしら?イーリスの言葉を。ノアがアーティファクトの力を発動させたときよ。あの女は、こう言ったの」

 

「ーーー私の魂へ狙いを澄ました一撃、と」

 

「引っかかってはいたけれど、余裕が無くてそのまま忘れてしまっていたのよね。迂闊だわ。けれど、さっきの枝のおかげでじっくりと観察出来た」

 

「ヨイチとカケル達がイーリスの結界を破った瞬間、わずかにサツキとイーリスの魂が揺らめいていたの。つまり、ほんの僅かにではあるけれど、二人の力はサツキとイーリスに届いていた、というわけ」

 

「もう一人、ノアも結界を破って見せたわね。けれど、他とは明らかに違った……。揺らめいていたのは、イーリスの魂だけ」

 

「分かるかしら?あの女の言葉通りよ。まさに、狙い澄ました一撃。ノアはサツキの魂を素通りして、同調したイーリスの魂だけを狙ってみせたの」

 

「結界さえ無ければ、おそらくノアならーーー」

 

「早速で悪いけれど、あの枝に跳んでくれるかしら?もしかしたら、これであっさりと終わっちゃうかもしれないわね」

 

「頼んだわよ、ナイン」

 

 

 

 

 

 

 

 

「新海さんっ!九重さんっ!」

 

「ごめんなさい、ずっと、うじうじと……!けど、もう死なせはしません!傷つけさせません!好きに動いて下さい!二人がしたい事は、全部私が叶えます!」

 

香坂先輩の温かい光を受け、全身の痛みが消えていく。

 

「新海先輩!結城先輩!合わせてください!結界を全部ぶち抜きます!」

 

隣を見ると、勝利を確信した様な眼差しの九重が高らかに叫ぶ。

 

「ああーーー」

 

 

『記憶をインストールする』

 

 

「ーーーっ!?」

 

「待てっ、九重!」

 

走り出そうとする九重を制止する。

 

「っ、何かあったのですか!?」

 

こちらに背を向けながら俺に問いかける。

 

「結界を破壊してイーリスの動きを止めることは可能かっ?」

 

「手間ですがやれます!」

 

迷うことなく即答してくるのに頼もしさを感じる。

 

「そしたら、結城にトドメをしてもらう!それまで時間を稼いでくれ!」

 

「っ!?……分かりました。先輩の指示を信じます」

 

「頼んだ!」

 

俺の言葉と同時に九重の姿が消えた、と認識した時には既にイーリスの正面で拳を構えていた。

 

「無駄なことを……今のあなたじゃ……」

 

イーリスが呆れるような声を出す。その言葉を無視して結界を殴りつける。

 

「は……?」

 

激しく割れる結界と共に、驚愕の表情を浮かべる。

 

「ありえない、幾らあの子の能力で強化されているとはいえ……」

 

「勝手な決めつけが、命取りです、ね!」

 

そのまま畳みかけるように九重が結界を破る。

 

「チッ……。これは流石に不味いわね……ッ!?」

 

この場から逃げようとするイーリスに手を翳し、能力を使って固定させた。

 

「結城先輩っ!」

 

「ええ!パニッシューーー」

 

「待て!結城っ!」

 

能力を発動させようとする結城を止める。

 

今、結城がすべきことはーーー!

 

「直接狙え!イーリスを!!」

 

「……っ」

 

動きを止められているイーリスから焦りが現れる。

 

「今ならやれる!いけっ!」

 

「イーリスを倒せ!」

 

「倒す、イーリスを……」

 

「……了解した」

 

軽く頷くと、結城の瞳が燦然と輝く。

 

ーーーいける!

 

イーリスの方を見ると、能力で動きを止めている九重が悲痛な表情を浮かべていた。

 

「九重っ!?」

 

「持たせます!だから早くっ!」

 

そう言い放つ九重の肌には急速に広がるスティグマが見える。

 

「ーーーッ!な、んて対抗力……!?この私がーーー!?」

 

「ジ・オーダー……アクティブ」

 

結城から力が迸る。

 

無防備なイーリスに裁きの雷がーーー。

 

「パニッシューーーッ!?」

 

その瞬間、ぴたりと結城の動きが止まった。瞳が小刻みに揺れ、額には脂汗が浮かぶ。

 

様子が……おかしい。

 

「……っ、は、はぁ……、はっ……」

 

「結城さん……?」

 

「まさか、攻撃を……」

 

「っ、くそ!」

 

違う、限界が来てるんだ。

 

イーリスの領域の中で意識を保ちながら力を使おうとしている。本来気絶してもおかしくないプレッシャーを受けているはずだ。

 

「頼むっ!結城!踏ん張ってくれ!」

 

「…………ッ、ハァッ……ハッ、ハァ……ッ!」

 

「おいっ、急げ!舞夜が止めてるが長くは持たねぇぞ!さっさと仕留めろ!」

 

「仕留める……、仕留め……、私が……っ、わた、しが……!」

 

小さく呟く結城の表情が、さっきより酷く歪む。

 

「……ッ!先輩!」

 

九重の声に振り向くと、イーリスの人差し指がこちらに曲がる。

 

その瞬間、荒れ狂う様な力の奔流がこちらを目掛けて飛んでくる。

 

「ゴーストッ!」

 

「大将も合わせろっ!」

 

同時に正面に飛び出し、全力で相殺を狙う。

 

「うおぉぉぉお!!」

 

炎をぶつけたが、完全に消すことは出来ずに余波で後ろに吹き飛ぶ。

 

「っがぁ!?」

 

背中を地面に叩きつけられながらもなんとか立ち上がる。

 

「く、そ……!」

 

周囲を確認すると、後ろの皆は余波の風圧で転んでたりはしていたが、無事の様だ。

 

「九重っ!」

 

正面を見た瞬間、イーリスが今度は人差し指を九重に向けて曲げる。

 

「っ!」

 

危険だと判断した九重が拘束を諦めて距離を取る。

 

「はぁ、はぁ……、やはり、()()()()()()()()()()()()……」

 

その姿には明らかに疲労が見える。広がっていたスティグマが、少なくとも見える肌を覆っていた。

 

「そう落ち込まなくて良いのよ?寧ろ褒めてあげたいくらいだわ。ここまで抵抗されるなんてね」

 

見下ろす様に九重を見つめるイーリスが嬉しそうに言う。

 

「そのせいで、この体が完全に使い物にならなくなっちゃったわ」

 

先生の身体を確かめるように動かす。

 

「……もってあと数十分ってとこね」

 

「それはそれは、ご愁傷様なことで……!」

 

「でも……、それだけあれば充分だわ」

 

怪しく微笑んだ瞬間、イーリスの姿が視界からかき消える。

 

「ッ!?」

 

「くそ……ッ!」

 

しまった……!

 

「それじゃあーーー」

 

声が聞こえた場所を振り返ると、結城の目の前にイーリスが立っていた。

 

「くっ……!」

 

まずい。そう思ったと同時に、イーリスの体がその場から吹き飛んだ。

 

「ーーーッ!?」

 

「先輩、ごめんなさい」

 

さっきまでイーリスが立っていた場所に九重が居た。そして、こちらを寂しそうな、申し訳なさそうな表情を浮かべて謝る。

 

「この枝は……ここまでです」

 

九重の口から静かに発せられた言葉を聞いた時には、その姿が宙を舞っているイーリスと同時に消えた。

 

そして数秒後、横の林の中から姿を現す。

 

「こ、九重……?」

 

「……先輩、今の結城先輩ではイーリスは倒せないんです。覚悟が……足りません」

 

「ど、どういう意味だ……?」

 

戸惑いながらも問いかける俺へ、九重は只々辛そうな目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい。見ていたわ。狙いはよかったけれど……失敗ね」

 

「あの様子と……マヤの言葉通りなら、結果は変わりそうにないわね。残念だけれど、あの枝ではイーリス本体を倒せない」

 

「けれど……解せないわね。イーリスの動きはマヤが止めていたのに……。ノアになにがあったのかしら?対抗力の低いミヤコとソラがダウンしている中、気合で力を行使した子よ?多少マヤのアーティファクトで初撃を耐えたとはいえ、例え限界だとしても渾身の一撃を放つわよ、あの子なら」

 

「他に可能性があるとすれば……殺すことを躊躇った?」

 

「ミヤコの様に道徳心が高すぎればありうるけれど……覚悟が足りなかった?」

 

「最後にマヤがカケルに言った言葉をそのまま受け取るとすれば、ノアにイーリスを殺す覚悟が無かったという事になるわね」

 

「あの子に限って覚悟を決めて無かったとは思えないけれど……」

 

「考えても仕方ないわね。あの子、自分の能力を決して明かさなかった。おそらく、誰にも心を許していなかった。あの独特な言動も含めて、他者と自己の間に明確な境界線を引いているともとれるし……」

 

「確実に言えることは、イーリスを倒す鍵は、間違いなくノアが握っているわ」

 

「どうやら……知る必要がありそうね。心の内に隠した、あの子の素顔を。マヤは何か知っている様な口ぶりだったけど」

 

「問題は……その方法よねぇ。あの子、かなり気難しそうだし……。まぁ、やり方は任せるわ。あなたならきっと、何とかしてくれる」

 

「……なによ。不満そうね。別に投げっぱなしにするつもりはないわよ。そうね……、アドバイスしてあげる」

 

「決してーーー選択を躊躇わないこと」

 

「ソラが消えた枝、ハルカ達が石化した枝、悲劇的な結末を迎えた枝を、あなたは剪定してきた」

 

「わかる?カケルを導くことで、望まぬ運命をあなたは否定してきたのよ。ソラが消えたことも、カケルを残して全滅したことも、カケルが何度も死んだことも、全部無かったことになっている。オーバーロードの力で……」

 

「世界の眼を持つ私は観測出来るけれど、悲劇的な運命のその先は存在しない。ただ残滓が存在するだけ。あなたは運命を固定化することで、その残滓へと分岐する可能性をゼロに出来る……というわけ」

 

「もう一度言うわよ。望まぬ運命を、あなたは無かったことにできるの。だから、失敗を恐れないこと。誰かを死なせたら後味が悪いでしょうけど、それは飲み込みなさい」

 

「あとは……そうね。カケルに干渉する際、特定の相手への感情と記憶は与えない方が良いわね」

 

「まっさらな状態が好ましい。判断を鈍らせるかもしれないから」

 

「ま、くどくど話しちゃったけれど、結局、今まで通りのやり方で問題はないってことね。……少し喋り過ぎて疲れたわ」

 

「頼んだわよ、ナイン。ここで、吉報を待っているわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったわね、おかえりなさい」

 

「新しい枝のおかげで、情報を正確に共有出来て助かるわ。常に監視している、なんてカケルには言っていたけれど、実際はかなり甘かったのよね……。手抜きしていたわけじゃないわよ?あの子が悪人じゃないことは、早々に分かっていたから。四六時中張り付く必要はないって、そう判断したの」

 

「でも、今は抜かりないわよ?ちゃんと、あの子の行動は全て記録している。つまり、あなたがどんな干渉を行ったかもしっかり把握出来ている、というわけ。意志疎通が難しい以上、こちらで出来るフォローは可能な限りさせてもらうわ」

 

「………、反応が薄い相手に得意気に語っても虚しいだけね……。そもそも、本当に私の声聞こえてる?実は聞こえていなくて一人で喋っていたなんてオチだと、さすがの私も涙目になるわよ」

 

「ま……いいわ。色々と試していたようだけど、ノアの問題を解決するには至らなかったみたいね。最低限の干渉でイーリス打倒の運命に導けるのが一番ではあるけれど……手間を惜しんでいる場合じゃないわね」

 

「じっくりと時間をかけて、ノアと向き合うしかなさそう。あるいは、イーリスを倒す別の手段を見つけ出すか……」

 

「それと、ついでにもう一つ話があるわ。マヤのことについてよ」

 

「どうやらあの子、以前に私の勘違いでカケルに対して話していたけれど、相当流れに干渉出来るみたいね」

 

「そうね、特異点の話よ」

 

「私が見ている限りでも、あの子……カケルが動くのに影響されてるからか、大きく行動が変わっているのよねぇ……」

 

「見る時見る時、枝ごとでしている事や位置が全然違ってたりするのよ」

 

「ま、マヤに限っては、自力でイーリスに対抗出来る程の信じられない力を持っているみたいだし、動ける範囲が他より広いのかもしれないわね。あの子の背後にも大きな組織がありそうだし……」

 

「必ずあの子は味方に引き込みなさい。大抵のことはマヤが居れば対処可能なはずよ。接触するのもなるべく早めがおすすめね」

 

「……あの子にも、色々と秘密がありそうだけれども、それは今関係なさそうだし、ノアのことに集中した方が賢明ね」

 

「私から提案出来るのは、それくらいね。例の如く、やり方は任せるわ」

 

「以上。引き続き、よろしくね。ナイン」

 

 





次から結城希亜の枝を始めて行きます。



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