9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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オーバーロードで初日へ戻ります。

新海翔と主人公の視点を行き来することになります。




第2話:4/17

 

 

「翔の兄貴~、持ってきやしたぜ~」

 

「ほい、絆創膏」

 

「さんーーー」

 

 

『記憶をインストールする』

 

 

「ーーーい、って……!」

 

「うわ、だいじょうぶ?そんなに深く切った?」

 

「あー……いや、大丈夫」

 

「大丈夫じゃないじゃん。めっちゃ血出てるじゃん。ほら使いなよ、絆創膏」

 

「ああ、ありがとな」

 

「その前に、消毒液使ったら~?もってきてあげたよ」

 

「ありがとうございます」

 

傷口に消毒液をぶっかけ、絆創膏を貼る。

 

……少し混乱は残っているものの、さすがに慣れて来たな。突然未来の記憶をぶち込まれるの。

 

いや、この俺にとっては初体験なんだけどさ。……オーバーロードを使いすぎていつか本来の自分を見失う、とか漫画とかでありがちな副作用はないだろうな?

 

わからねぇけど、濫用はしない方がいいかもな。スティグマ浸食の件もあるし……。

 

「……にぃに、ほんとにだいじょうぶ?」

 

「ちょっと顔色悪い?家で休んでく?」

 

「や、大丈夫です。思ったより血が出てビビっただけです」

 

「よっわ」

 

「うっせーな。それより、神器、どうですか?直せそうですか?」

 

「どーだろ?完全に壊れちゃったし。駄目だったら、紙粘土とかで適当にレプリカ作っておけば良いんじゃない?」

 

「まじっすか……いいんすか、それで」

 

「さぁ?」

 

「フェスは、流石に中止ですかね」

 

「知らないけど、二人はもう帰っていいよ。また地震が来たら危ないし」

 

「ほーい。じゃあにいやん、帰ろっか」

 

「そうだな」

 

立ち上がり、チラリと目を向けたその先には……。

 

「あ、あの、ごめんなさい。今は写真をご遠慮していただけると……。まだ地震があるかもしれないので避難を……!」

 

帰る前に、フォローしておくか。

 

「天、先に行ってろ」

 

「ん?うん。なんで?」

 

「最後にひと仕事してく。先生、お疲れさまでした」

 

「は~い、お疲れ様~」

 

「申し訳ありません、写真はご遠慮ください。今は避難をーーー」

 

「すみませ~ん。非常時なので避難誘導に従ってくださ~い」

 

指示に従ってくれなくて困っている九條に助け舟を出す。

 

「え、新海くん……?」

 

「ご協力ありがとうございま~す。あちらにお集まりくださ~い」

 

俺に邪魔されて、九條に群がっていた連中が露骨に不機嫌そうな顔をしながら散っていく。

 

「それじゃあ、俺は先にあがるから。お疲れ様」

 

「……うん。お疲れ様。ありがとう」

 

周囲の人が一通り居なくなったことを確認して天の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「これは……少なくともラストスパートじゃ無さそうかなぁ……」

 

『どうじゃ?そろそろ判断が付きそうか?』

 

電話越しから年老いた男の声が話しかけてくる。

 

「あー、もう少し様子見するけど、多分何もないで終わると思う」

 

『分かった、他の者にはまだ警戒するようにと伝えておく』

 

「うん、ありがとね」

 

『なに、可愛い弟子のお願いじゃからな、儂にかかれば余裕よ』

 

電話越しから頼もしい声が返ってくる。その声を聞きながらも視線はずっと対象の人物に向けている。

 

暫く見ていたが、三人で会話をした後に、()()()()()()()()()()、新海先輩は九條と一緒に避難誘導をしていた。それを見て電話相手へ声を掛ける。

 

「ごめん、おじいちゃん、無しでお願い出来る?」

 

『了解じゃ、他のを解散させよう』

 

「うん、ごめんね?無駄足になっちゃって……」

 

『気にするな、必要な事だったのだろう?』

 

「うん……そう。あくまで今回は必要としなかっただけで、どこかで必ず必要になる」

 

『なら大丈夫。余計な気遣いは無用だ』

 

「ありがとね……。でも、最後の枝まで来たのは確認出来たから」

 

『四番目の世界、という事か……。間違いないのか?』

 

「うん、先輩の行動と表情を見れば分かる。九條先輩への接し方に遠慮と恥じらいが見られないし、堂々としてる。それと天ちゃんを待たせずに先に向かわせたのも……」

 

『そうか。ならこちらもそれに合わせて備えよう』

 

「お願い、私は念のために結城先輩と接触するかまでは確認しておくね」

 

『ナインボールへ行くのか?』

 

「うん。あ、そうだ。折角だしおじいちゃんも一緒にどう?そっちで忙しいなら別の日にするけど……?」

 

『気にするな。可愛い弟子との食事との方が大事じゃ』

 

「ありがとね」

 

『早速車を向かわせる。あやつらより先に居た方が自然だろう』

 

「そうかも。それじゃあ表に出るね」

 

通話を切り、急いで合流地点へ向かう。

 

指定の場所に着くと、既に車が止まっていたのでそのまま乗り込む。

 

「おまたせしましたー」

 

後部座席へ座ると、前の席におじいちゃんと壮六さんが居た。

 

「舞夜様も来ましたので早速向かいましょうか」

 

「お願いします」

 

壮六さんの運転の元、ナインボールへ発進する。

 

「それで舞夜よ、今後の予定で何か話しておきたい事はあるか?」

 

「……うーん、今の段階だと何とも?話している通りなら予定は変わらないと思うし……まぁ、多少何かがあっても先輩が対応出来ると思うから」

 

「なら九重としては……一先ずは白泉の後始末程度か」

 

「かなぁ……?後は、野良ユーザーの位置の特定、とか?」

 

「神社の件じゃな?」

 

「だね、街で幾つか目撃証言があるみたいだし大丈夫だと思うけどね」

 

「段取りと配置は私の方で進めておきます」

 

「お願いします。私の方は先輩とコンタクト取れる様に動きます」

 

ここが結城先輩の枝なら結構な速さで事件が動くからなるべく早く先輩と知り合っておきたい。

 

それと、可能ならこれまでの枝の詳細を聞いておきたい。私の知っている結末で進んで来たのか、それとも……。

 

「………」

 

先輩との関係や私の立ち位置がどの程度なのかも知っておかないと。

 

「今はそのまま動いて……何かあればまた連絡、という事で」

 

「わかった」

 

「畏まりました」

 

まだ情報が少ないので、取りあえずはそのままと言う事で。

 

 

 

 

 

カラン、という音が背後から聞こえ、お店のドアが開く。

 

「来たようじゃな」

 

正面でお茶を飲んでいるおじいちゃんが小さく口を動かす。

 

「ん」

 

それを聞いてデザートのシフォンケーキを一口食べる。

 

お店に入って来た先輩へ意識を向けながら経緯を見守る。

 

「コーラだのぅ」

 

いつも通りだね。確か毎回コーラ飲んでるはずだし。

 

スマホの黒画面の反射で先輩を見てみるが、チラチラと結城を見ている。うーん、ストーカーかな?

 

コーラに頻りに口を付けながら覚悟を決めた表情を見せ、グラスと伝票を持って席を立つ。

 

……っ!来たっ!来た来た!ショータイムだ!

 

ワクワクしながら意識を向け続ける。正面のおじいちゃんが若干呆れたような表情を浮かべているが今はスルーする。

 

結城先輩の横に立ち、数秒見下ろしてから堂々と正面の席に腰を下ろす。

 

「……相席なら、遠慮して欲しい」

 

興味無さそうな声で拒絶を示す結城先輩。

 

「結城希亜だな?」

 

「……どこかで会った?」

 

「いいや、まだだ」

 

「……まだ?」

 

「ああ」

 

良い感じの滑り出しを見て、満足感と共にケーキを食べる。

 

「この世界線では、な。だが……別の世界線では、もう会っている」

 

うわぁー……言っちゃったよ。切り出したよ。

 

「………」

 

だけど結城先輩のリアクションは薄め。恥ずかしいだろうなぁ……あはは。

 

「俺は、ヴァルハラ・ソサイエティの一員だ」

 

「……!」

 

「あなた、いったい……」

 

「聖遺物は手に入れたか?」

 

「ぇ……?」

 

「……まだみたいだな」

 

出た、結城先輩直伝の『もったいぶった方がかっこいい作戦』だねっ!

 

「紙とペンは持っているか?」

 

「ええ……、持っているけど……」

 

「貸してくれ」

 

先輩の言葉に従うように鞄を開けてペンと紙を取り出す。それを見てケーキを食べ切る。

 

「おじいちゃん、そろそろ出るから合わせてね?」

 

「ああ、好きなタイミングで行って構わんぞ」

 

「聖遺物を入手したら、連絡してくれ」

 

「え?ええ、と……」

 

「怪しいよな、わかるよ。でも、すぐにわかる。俺がなぜ、こんな話をしたのか……」

 

テーブルの上を軽く片付け、伝票を持ってレジへ向かう。

 

「脅威が迫ってる。結城の力が必要なんだ。連絡待ってる。じゃあ」

 

レジへ着くと、後ろから立ち上がる気配を感じつつ支払いを進める。

 

「えっと、少し待ってください……おじいちゃん、細かいの持って無い?10円とか」

 

「……残念じゃが、細かいのは持ってないの」

 

「はーい。すみません、五千円からでお願いします」

 

後ろで立っている先輩に意識や視線を向けない様におじいちゃんと話しながら支払いを済ませて店を出る。

 

店を出てすぐに立ち去らず、出口のすぐ横でおじいちゃんと雑談を始める。

 

「いや~お腹一杯、美味しかったね!」

 

「じゃな、変わらずの出来じゃったな」

 

「デザートのケーキも美味しかったし、大満足って感じだねぇ~」

 

和気藹々と話していると、新海先輩が会計を済ませてお店から出て来た。

 

「っ、………」

 

一瞬私を見て目を見開くが、すぐに何事も無かったかのように反対側を見て歩き出す。

 

それを見送ってから車に戻る。

 

「おかえりなさいませ。ご食事はどうでしたか?」

 

「凄く美味しかったですっ。流石九條先輩のおじいちゃんですね」

 

「満足された様で何よりです。首尾の方は如何でしたか?」

 

「概ね予想通りですね。初手の感触としては悪くないと思います。既に私の事は知っている様でした」

 

「となれば、過去で既にそれなりに関わっているという事ですね」

 

「ワシの方には特に意識は向いて無かったがな」

 

「おじいちゃんとは、面識無かったのかな?」

 

となると……九重家とはそこまで深く関わってはいなさそう?

 

「んー……まぁ、今考えてもしょうがないし、早めに先輩と顔合わせ出来たので一先ずは完了という事で」

 

「夜はどうする?また行くか?」

 

「それだよねぇ……昼も夜もナインボール行くってどうなんだろ?」

 

「そこまでおかしいとは感じませんが……」

 

「九條の孫の件を確認しに行かぬのか?」

 

「……現段階である程度状況は把握出来たと思うから、夜はお家に行こうかな?そっちの方が話し合いが進みそうだし」

 

「了解じゃ。では屋敷へ向かおう」

 

「分かりました。それでは向かいますね」

 

九重の実家へ向けて車が動き出す。

 

……どう接触しようかな?当初の予定では明日の九條先輩の帰り道でバッタリ出くわす計画だったけど……。

 

「やっぱり自然にだと明日の放課後かなぁ」

 

その夜に公園での件を阻止するからタイミングとしては悪くはない。うん、それじゃあ当初の予定通りのタイミングで行こうかな?

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ~」

 

日が落ちた道を歩きながら、再び俺はナインボールにやって来ていた。

 

九條と仲良くなるきっかけは、しっかりと再現しておいた方がいいだろう。

 

昼間の結城の件の時に九重が居た事に驚きはしたが、考えてみれば居てもおかしくはなかった。俺と同じぐらいナインボールに通っているって言ってたしな……。

 

「ビーフカツレツのセットを、ライスで」

 

「はい、ビーフカツレツのセットを、ライスで。以上でよろしいでしょうか?」

 

「はい」

 

「かしこまりました」

 

手早く注文を済ませる。

 

「ごめんなさい、新海くん。少しだけいい?」

 

「うん、どした?」

 

「これ、見覚えないかな?」

 

「アクセ?」

 

ちょっと罪悪感を抱きつつ、アーティファクトの話は適当に惚けて見せてーーー。

 

「フェスの後にバイトなんて、大変だな。お疲れ様」

 

「新海くんもお疲れ様。いつもありがとう」

 

「いつも?」

 

「お店に来てくれて」

 

にこっと笑い、九條が厨房の方へと歩いて行って会話終了。

 

「………」

 

会話の内容までは覚えてなかったから、最後のに……ドキッとしてしまった。

 

チョロいな、俺……。

 

と、とにかく、きっかけ作りは完了。

 

……ただ。

 

このまま記憶通りに進めていいんだろうか?

 

明後日に起こるはずの火事をきっかけに、九條は俺にアーティファクトの事を打ち明ける。

 

でも記憶通りに進めれば……火事を起こしたあのユーザーと対峙する時に九重が参戦してくる。

 

それに……そもそもの発端である人体石化事件。多分、明日の夜に犠牲者が出る。

 

与一がーーー人を殺す。

 

俺は……俺だけはそれを知っている。

 

「………」

 

変えるべきだ。その為の未来の記憶だろう。

 

炎のユーザーの件も、与一の事も、きっと未然に防げる。そうすることで未来の記憶は一切役に立たなくなるだろうが、誰かが死ぬよりマシだろう。

 

「お待たせしました。ビーフカツレツのセットです」

 

「あ、コーラとプリン……」

 

「今日のお礼。嫌いだったら残しても良いから。ごゆっくりどうぞ」

 

トレイを抱えて、ぺこっと頭を下げて立ち去る。

 

……おまけしてもらえるの忘れていた。ありがたくいただこう。

 

「いただきます」

 

手を合わせて箸を取る。……誰も死なせずに、最良の結末へと辿り着く。

 

そうなるように、努力しよう。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました~」

 

食事を済ませ、店を出る。

 

「……ていうか、九重が見当たらなかったが……?」

 

確か、記憶では俺と同じ様に家族と夕食を食べに来ていた……はずだ。

 

「昼に来ていたし、夜は控えたのか……?」

 

ソフィの話では、九重は俺に話していたみたいに運命の流れに干渉出来るらしい。だからこれまでの枝では行動がバラバラだとか……。

 

「まさか、夜に来るか昼に来るかの二択があったのか?」

 

どういった気持ちの変化があって昼に変わったのか分からないが、思ったより自由過ぎる。

 

「……んまぁ、九重らしいって言ったらそこまでだが」

 

問題は明日の放課後に九條を送る時にどう出るかだ。

 

「確か、俺達とは逆……学校方面に向かってたよな?」

 

何か忘れ物でもあったのだろうか?でも九條の話を聞いて同行してくれたし……。

 

「んー……っと」

 

不思議に思っていると、ポケットの中のスマホが震えた。

 

 スマホを取り出して確認するが、知らない番号。

 

「……来たか」

 

恐らく、結城からの着信だろう。

 

「もしもし」

 

画面をタップし、俺はすぐさま電話に出ることにした。

 

 

 






「聖遺物から授かった力に……私はとある名をつけた。答えられる?」

「ジ・オーダー」

「………」

「私は、あなたを信じる」


このシーン個人的にめっちゃ好き。

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