日が明け、4/18ですね。石化事件が起こる日です。
「あ~……眠たい」
朝、目が覚める。と言うかあんまり眠れなかった。それも仕方がない……、まさか私自身もユーザーになるだなんて誰が予想出来たのだろうか。
「……取りあえず、準備しよっと」
重たい瞼を擦りながら軽くシャワーを浴び、朝食の準備を進める。
「てか、私がユーザーって事は……」
当然、新海先輩もそれを知っている可能性が高いわけで、今の枝では初期の段階から仲間集めをしている。そうなると向こうから私の方にコンタクトを取って来る可能性が非常に高い。
「むしろそっちの可能性が高いよね……?」
今日は放課後に九條先輩と結城先輩とナインボールで公園の石化事件を阻止する為に作戦会議をするはず。もし先輩が私の力を知っているのなら絶対戦力に加えたいと考える。
「……どっちみち、流れは変わんないか」
アーティファクトでも私の力でも九重家の力でも何でも良いや。大して違いは無い。
「くぅぅ~……良い匂いがしてきたなぁ……」
それよりも、今はこの空腹を満たすことが最優先だしね!
結局の所、今日会って話せば全て解る事だと結論を出して、朝食へ意識を向けた。
「悪い、お待たせ。掃除が長引いた」
掃除を終え校門へ向かうと、出てすぐのところに九條が待っていた。
「ううん、大丈夫。あの、話って……」
「歩きながら話そう」
「あ、そ、そうね。よかったら鞄、カゴの中に入れてね」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
自転車のカゴに鞄を入れさせてもらい、歩き出す。
「……で、話なんだけど」
「うん」
「実は俺も、九條と同じ状況だ」
どう切り出そうかと思ったが、率直に話すことに決めた。
「え……?」
「超能力が使えるようになった、だろ?」
「………」
ポカンとした顔を浮かべ、足を止める。
その表情は、『突然なにを言っているんだこいつ』と呆気をとられているわけではなく……、夢か気の迷いか、朧気だった事象が途端に現実味を帯び始めた。そんな戸惑いの顔だ。
「新海くんも……?」
「ああ」
恐る恐る確認するように問う九條に対して、確かに頷く。
それを見て、驚きつつもどこかホッとした様な表情をする。
「急に不思議な事が起こって、私、変になっちゃったのかなって、そう思ってて……」
「さっきはごめんな。先生もいたし、アーティファクトがーって言えなくてさ」
「アーティファクト……」
「そう名前をつけたろ?」
「う、うん。びっくりした……。そっか、そうだよね。新海くんもフェスに居たし、アニメ知ってるものね。私と同じように名前を付けてもーーー」
「いや、違うんだ。九條から聞いた」
「……へ?」
やっぱりその反応をするよな。
「歩きながら詳しく話すよ」
「ぁ、そ、そうね」
止めていた足を再び前へ。大丈夫だとは思うが、九重とこの道で遭遇しておきたいので同じ様に動いておく。
「ああそうだ。今から会う人も俺たちと同じユーザーだ。俺が知っていることを話す約束をしている。だから、九條も同席して欲しい」
「できれば話を聞かせてもらいたいけれど……ごめんなさい、私これからーーー」
「バイトなら無いぞ」
「え?」
「今日は、九條のシフトは入ってない」
「入ってない……。ぇ?ぁれ?」
「……あれぇ?」
俺の言葉を聞いてポカンとした表情をする。
「それと、実はもう一人、約束はしていないけど、この道でこの後出会う人が居る」
「えっと……その人も、ユーザー?」
「ああ、俺たちの仲間だ。九條もよく知っている子だ」
「私もよく知ってる……?」
九重の名前を出そうとした時、丁度正面からこちらに向かって歩いている九重の姿を見つける。
「っと、噂をすればなんとやら……だな」
「あれ?九條先輩じゃないですか」
九條を見つけ、驚くように声を掛けてくる。よし、上手く行ったな。
「舞夜ちゃん?」
九條が不思議そうな表情を浮かべて名前を呼ぶ。
「お隣の男性は……もしかして放課後デートの最中でしたか?」
記憶の中と変わらず、楽しそうな表情で九條を揶揄い始める。
「新海くん……もしかして……?」
「ああ、さっきの話は九重の事だ」
「舞夜ちゃんも……」
「ん?どこかでお会いした事ありますか?私の名前を知っている様ですが……」
自分の名前を出され、不思議そうに首を傾げながらも俺を見る。
「一方的にな。俺は九條と同じクラスの新海翔だ。ちょっと事情があって九條と一緒に帰っている」
「あ、ご親切にありがとうございます。九重舞夜って言います。既に知っているみたいですが、一応自己紹介しておきますね」
「九重、突然ですまないが、これから時間あるか?」
「え、今からですか?……一応、平気ですが……」
「それは良かった。俺と九條は、これからナインボールであることについては話し合いをするつもりだ。九重もそれに参加して欲しい」
「ある、話……?」
「超能力、と言ったら伝わるか?」
「……どうしてそれを私に?」
さっきまで笑顔だった九重の表情が切り替わる。
「九重が一番よくわかるはずだ。昨日の夜、部屋でアクセサリーの様なものを拾わなかったか?」
「……どうやら、同じ人達と言うことですね」
俺が言いたい事を理解したのか、静かに目を閉じる。
「そうなる。ここにいる九條もそうだ。それと、もう一人ナインボールで待っている」
「良いでしょう。喜んでご同行させていただきます」
まだ警戒心があるのか、堅い口調で返事をする。……ま、今は付いて来て貰えることに喜ぼう。
「九重の了承も得た事だし、向かうか」
再びナインボールへ向けて歩き出す。
「舞夜ちゃんも、その、ユーザーなの?」
「ユーザー……?そう呼んでるのでしたらそうですね。九條先輩とお仲間ってことですよ?」
「本当なんだ……」
「突然言われた時は驚きましたが、九條先輩が心配なのでご一緒します!」
「私が、心配……?」
「もしかしたら悪い男に騙されているかもしれません、超能力とか言いつつ怪しい壺などを売りつけてくる悪い集団かもしれませんよ?」
「んなもん誰が売るか」
「か弱い乙女の仲間として、見過ごすわけには行きませんっ。安心してください、これでも護身術を嗜んでるのでそこら辺のチンピラでしたらちょちょいのちょいです」
「か弱い、ねぇ……」
訂正、九重は九重だわ。
こいつの実力を知っているけど、何も知らずに見れば九條と同じ様にどこにでも居るような高校生に見える。ふざけた様な態度も絶対的な自信から来ているのかもしれないな。
……いや、素の性格かもしれん。
「あ、あのー……新海先輩?先ほどから私に視線を向けている様ですが……はっ!もしや、私も標的に……!?」
「あほか」
「あ、あほ……。初対面の女の子になんて言いぐさ……傷つきました。九條先輩ぃ……慰めて下さい」
「え、えっと、よしよし?」
「あぁ~……満たされます」
若干困惑している九條に撫でられ、ご満悦な笑みを浮かべる。
……ほんと、見えねぇなぁ。
記憶の俺と、今の俺との認識を擦り合わせながらナインボールへ向かった。
「私は結城希亜。見ての通り、玖方女学院の生徒。学年は新海くんと同じ」
「よろしくお願いします、九條都です」
「白泉の一年、九重舞夜ですっ、どうぞお見知りおきをー」
学校からナインボールまでの道中で無事新海先輩達と出会えた。そして、そのままナインボールへ連行されてしまった。
「その、結城さんも……ユーザーだと……」
「そうね、昨日聖遺物……彼の言う、アーティファクトを手に入れた」
「私もなんです。急に不思議な力が使えるようになってしまって……」
結城先輩と九條先輩の会話を横で聞きながら到着した飲み物のストローに口を付ける。
んー……どうやら、新海先輩は私の力も多少なりに知っていると思われるね。か弱いって言葉に反応していたし……。
呑気にストローで吸っていると、新海先輩がこちらを見る。
「良いのか?会話に参加しなくて?」
「んまぁ……いきなり連れて来られた訳ですし、自分なりに情報を纏めているところです」
「そうか」
と言うのは嘘で、話している最中にボロが出ない様になるべく口を慎んでいる。さっきも何も知らない振りをしながら会話していたが、オーバーロードを持っている先輩に変に感づかれたくはない。少なくともこれまでの枝の詳細を聞き出すまでは静かにしておきたい。
「お互いに自己紹介も終わった事だし、ひとまず俺の話を聞いてくれるか?」
「ええ」
「了解です」
「よし、順番に話していく。まずはーーー」
そして、先輩の口から、アーティファクト、異世界、ソフィ、イーリス、魔眼のことらについて話が出てくる。
「魔眼がイーリスという悪神の手に渡れば、世界は破滅する。私達の使命は……世界を守ること」
一通り説明が終わり、結城先輩が確認で聞く。
「ざっくり表現すれば、そうなるな。いきなりこんな壮大な話されても困るだろうけど……」
「……いえ、問題は無い。心の準備は、既にできている」
「ジ・オーダーを手にした瞬間から……いえ。あなたと出会った瞬間から、私はこうなることを予測していた」
「私の力が世界を救う一助となるのなら、喜んで手を貸す」
迷いなく、ハッキリとそう宣言する。
「頼りにしてる。九條はどうだ?ついてこれてるか?」
「大丈夫。少し戸惑っているけれど、私も……うん。役に立てるのなら、頑張りたい。そうしなきゃ、いけないんだと思う」
「ありがとう。九重の方はどうだ?理解は出来ているか?」
「はい、流れは一応把握出来ました。他の世界で色々とあった様で……」
「それと、新海先輩に一つ確認なのですが……良いですか?」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「先輩は、私の事をーーーどこまで知っているんですか?」
「……どこまで、か。九重から聞いている所までしか知らないな……、それについては後で2人きりで話したい」
「……それもそうですね。分かりました」
うーん、これは……どうだろ?イーリスを撃退しているってことは、私もそれなりに頑張ったってことなんだろうし……。
『後で話したい』かぁ……。もしかすると、前回の枝で私から何か伝言とか受け取っているかもしれないね。その内容次第ではおじいちゃん達と色々話さないといけないかもだし、うーん。
一人で考え事をしていると、話は既に魔眼のユーザーの所まで来ていた。
「犯行の場所は?何時ごろなの?」
「場所は公園だ。時間は……詳しいのは分からない。確か……被害者は塾帰りだったはずだ」
「塾……。被害者も、私達と同年代?」
「だな。玖方の生徒」
「玖方の……」
「心当たりとかあったりするか?玖方の人が通っている塾」
「……いえ」
「学生の多い街だから塾も多いし、心当たりがないなら、特定は難しそう……」
「だなぁ……。ってことは、公園に張り込むしかないな」
「了解。それじゃあ……十九時。一度帰宅して着替えてから、集合しましょう」
「そうですね」
「分かりました」
結城先輩の決定に返事をする。
「三人も来てくれるのか?」
「むしろ、あなたを一人で行かせる、という選択肢が存在しない」
「うん。話を聞いてしまった以上、私も出来る事をしたい」
「ですね、殺人現場予定地に皆さんだけで向かわせる訳にはいきませんよ」
「……ありがとう」
「礼は不要。もう私達は仲間なんだから」
「うん、そうだね、仲間」
おっと、やっぱりこの枝の結城先輩はデレるのが超絶早い。
「なんていうか……ホッとしてる。俺の話を信じてくれて」
「ふふ、アーティファクトを拾ってなかったら、少しは疑っちゃってたかも」
そこで、"少し"しか疑いを持たない九條先輩の人の良さが逆に心配です。
「私は……出会い方が意味深過ぎたから。信じるしかない」
「どんな出会い方だったんですか?」
好奇心のまま九條先輩が聞く。
「ここで突然声をかけられた」
「突然?」
「ええ、突然。不審者かと思って警戒した」
「そりゃそうだわな……」
だろうねぇ……。
「けれど……ヴァルハラ・ソサイエティの名前を出されたら、信じないわけにはいかない。ヴァルハラ・ソサイエティの事を知っているのは、私以外に一人だけ。妹だけだから……」
「妹さんがいらっしゃるんですね」
あちゃ。でも……この会話は今後重要になるからねぇ。
「………、そうね。正確には、いた」
「ぁ……、ご、ごめんなさい、私……」
「気にしなくていい。安易に話題を出した私が悪い」
「結城先輩はここでなんですねっ、私なんてついさっきその辺で連行されたんですよ!」
「連行……?」
「はい!九條先輩を見かけたので声を掛けたら、急に『これからナインボールであることについては話し合いをするつもりだ。九重もそれに参加して欲しい』と言われて……」
「私としては……とても恐くて、逆らえずにそのままずるずると……」
「あー……九重の妄言は置いといて、大体話終えたが、何か聞きたい事とかあるか?」
「あ、スルーされた」
なーんか、私の扱いが若干雑な感じだねぇ……。過去の私は何をしでかしたんだか。
「知りうる限りの、聖遺物の契約者が起こした事件を教えて」
「大きな事件はさっき話したやつ、人体石化事件。少なくとも……犠牲者は二人」
「連続殺人事件……というわけね」
「ああ。だからこそ止めたい」
「他には?」
「うちの学校の火事がある」
「え……学校の?」
「ああ。ただこれは……事件っていうか、事故に近い。力が暴走したんだ」
「暴走……」
「力を使う時、紋章が出るだろ?人によって違いはあるんだが、力を使い過ぎるとそいつが全身に広がる。しっかりと制御出来れば、紋章ーーー俺はスティグマて呼んでるんだが、そいつが自分の魂の色に変わる」
「制御出来なければ暴走する……ということね」
「そういうことだな。俺が知る限り、三人がすぐにその状態になることはないんだけど……力の使い過ぎには気を付けてくれ。暴走すると、精神もやられちまうらしい」
「……うん、わかった」
「火事はいつ?」
「明後日の昼休みのはず」
「昼休み……急いで学校を出ても、私がついた頃には片付いていそうね」
「火事の方はこっちで何とかする。事前に防げるのなら、そうするつもりだ」
「だが、もしもの為に九重にお願いがある」
「ん?なんでしょうか?」
「暴走するユーザーは、実は九重のクラスで起こる」
「それはまた……なんともピンポイントなことで」
「その時、出来る限りで良いから火事の被害を抑えて欲しい」
「舞夜ちゃん一人に……?危険じゃないかな?」
「私一人に出来ることは限られていますが……安全第一で良いのでしたら」
「……ああ。それと、近くに天が居ると思うから出来るだけ安心させてやってくれ」
「天ちゃん……?新海先輩、もしかして、天ちゃんのお兄さんですか?」
「だな、妹がいつもお世話になってる」
「あ、ああ、いえいえ、こちらこそいつも仲良くさせてもらってます」
腰の低そうにペコペコとお辞儀をする。
「なるほど……それでしたら後ほど詳細を聞かせて下さい。出来る限り安全を確保しますので」
「それで頼む」
「大丈夫なの?彼女にそんな事をさせて」
「あー……、まぁ?」
どう話そうかと迷っていながらこちらに視線を向ける。
「ふふふ、九條先輩は知ってはいますが、実家が武術の道場を開いていますので、私自身もそれなりに嗜んでいるのです、えっへん。ま、護身術ですが」
得意気に胸を張る。
「……彼が大丈夫と言うならそうなのでしょうね。分かったわ。他には?」
「取りあえずは……こんなもんだな」
「意外と……って言い方は不謹慎だけど、少ないね」
「明らかにユーザーの犯行って分かるのがその二つってだけかもな」
「能力を隠した犯罪は、他にも発生しているかもしれない」
「って考える方が自然かもな。誰もが正義感の強い人間ばかりじゃないしな」
話も一段落付き、一旦解散となる。
「……九重、この後良いか?」
「ですね。私も先輩に色々と聞いておきたい事があります」
案の定、九重も俺に用があるとの事だ。
「帰りながら話そうか」
「そうですね。あ、先輩の家はどちらですか?駅までですか?」
「……そうだったな。驚け、九重と同じマンションだ」
「……そうなのですか?」
「ああ、極めつけは同じ階で三つ隣の部屋だ」
「何かの因果を感じてしまいますね……」
「な、偶然って恐ろしいよなぁ」
「そうですねー。それなら歩きながら少し話しましょう」
「だな」
お互いに目的地まで歩き始める。
「それで?俺に聞きたい事って?」
「そうですね……何から聞けば良いやら……」
真剣に考えるように目を閉じて首を傾げる。
「私についてはどの辺まで知っていますか?」
「そうだなぁ……九重自身の力とか、目のこと、とかか?」
「九重の事については?」
「そっちはあんまりだな。九重がそれなりに発言力を持っている立場って言うのと、バックアップしてくれているってことくらいか?」
「なるほどなるほど。概ね予想通りですね」
「さっきも思ってたんだが、あまり驚かないんだな」
「ん?そうですか?」
「結城や九條は結構驚いていたけど、九重はそうでもない様に見えた」
「あー……何となく予想が出来ていたので」
「まじか、すげぇな」
「別の世界線とか未来から来たとかは流石に驚きましたよ?ですが、同じ仲間を集めているってことは、敵対する……倒すべき何かが居るってことですから。初対面の私を引き込んだり今日顔合わせをさせたのも、その危機がすぐ目の前まで来ているから急いで行動を起こしているって考えれば理解出来ますし。まぁ、スケールが世界の危機とは予想外でしたが……」
「………」
普段はふざけた様な感じだけど、しっかりと考えてるんだよなぁ意外と。前の枝でもオーバーロードが使えるようになった時の為にとあれこれ言ってたし、実際にそれが現実となったわけだから馬鹿に出来ない。
「それと、お願いなのですが……今日明日辺りにでも、時間を作ってこれまでの枝の出来事を詳しく聞きたいです」
「それは別に良いが……どうした?」
「私の力がどの程度通用していたのかと……その他諸々と」
「分かった。今日の件が片付き次第話そう」
「はいっ、お願いします」
正直、九重が来てくれるのはかなり心強い。
俺一人では与一には敵わないが、九重が居れば話は別だ。
勝負は……今夜だ。与一を止めれば、確実に別の枝が生まれる。
絶対に、止めて見せる。
「張り込みにはあんパンと牛乳が定番って結城先輩が言ってたっけ?」
「でも、九條先輩お手製弁当をちゃんと食べたいし、飲み物だけにしておこっと」
「多分、お願いしたら実家の方からも重箱が出て来そうだなぁ……」
とまぁ、夜の公園でピクニックは次になりそうです。