9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

63 / 146

……あんぱんと牛乳は持ったか?




第4話:残りを全部食べ切ったと言った時の、結城先輩の安堵した表情を私は見逃しませんでした

 

「すみません、遅れましたっ!」

 

私以外が到着したのを確認してから数分後に先輩らと合流する。

 

「いや、俺もついさっき来たばっかりだ」

 

「どのみち、長時間待つことになるから」

 

「そんじゃ、全員揃った事だし移動するか」

 

目的の場所が見えつつ、周囲から目に付きにくい場所を見つける。

 

「この辺で待つか。メシ食いながら」

 

「そうしましょう」

 

「あ、私、念のためと思って、これどうぞ」

 

九條先輩が持っている大きめの鞄からレジャーシートが出てくる。

 

「直に座るより、いいかなーって」

 

「流石は九條先輩っ、気の遣い方が神ですね!」

 

「広げるの手伝うよ」

 

「ごめんね、ありがとう」

 

「あっ、私もやります!」

 

草地の上にシートを広げて、その上にそれぞれ荷物を置き、中央に九條先輩手作りの弁当箱を置く。

 

「……これ、完全にピクニックだよな」

 

「そう、だね……。場違いな物ばっかり持って来ちゃったね……。ごめんなさい……」

 

「張り詰めているより余程良い。……いただきます」

 

「俺もいただきますっと」

 

「私も頂いて良いですか?」

 

「うん、気にせず食べて?良かったらお手拭きもどうぞ」

 

鞄から人数分のお手拭きを渡して来る。

 

「ありがとう。至れり尽くせりだなぁ……」

 

「ナインボール出張版ね」

 

「ふふ、どうぞ召し上がれ。ぁ、紙皿と割りばしも持ってきたよ」

 

「あざっす。いただきます」

 

「ありがとう。使わせてもらうわ」

 

「ありがとうございます!もらいます!」

 

皆で手を合わせて俵型のおにぎりをそれぞれ取る。

 

確かこの時の新海先輩、天ちゃんとモック行ってるから実はそこまでお腹空いてなかったんだよね……。

 

ま、私が全部食べ切れるから大丈夫なんだけど!

 

楽しみであった九條先輩のおにぎりを食べる。

 

「滅茶苦茶美味しいですねっ!このおにぎり!」

 

「だな、めっちゃ美味いな」

 

「……、おいしい。全部……九條さんが作ったの?」

 

「はい、あまり手の込んだの作れなくて申し訳ないんですが……」

 

「……敬語、やめて」

 

「え?」

 

「仲間なんだから、必要ない」

 

「ぁ、はい……じゃなかった。うん、わかった」

 

うんうん、良いですなぁ。友情が深まって行くのって。

 

「結構手間がかかってそうだけどなー……。すげぇご馳走に見える」

 

「先輩、見えるんじゃなくて実際にご馳走なんですよ」

 

「ふふ、誤魔化すのが上手なだけかも。色鮮やかな野菜入れると、華やかに見えるから……。ほら、プチトマトとか」

 

「………」

 

プチトマトと言う単語を聞いて、結城先輩が困った様な顔をする。

 

「ぁ……苦手?」

 

「……少し」

 

「じゃあ俺が食べるよ」

 

新海先輩が気を利かせる。

 

「……いえ、私も食べる」

 

だが、それを拒否する。

 

「? 嫌いなんだろ?」

 

「……何年も食べてないから、今ならいけるかもしれない」

 

「ああ、確かに成長すると、食べれなかったものが食べれるようになってるとかありますしね!」

 

まぁ……結果はお察しなんですが。

 

渋りまくった表情でプチトマトを箸で持ち上げ、自分の皿へ乗せる。

 

皿の上のプチトマトをじーーーっと見つめ、口に運ぼうと持ち上げて……。

 

「………ぅ」

 

再び皿へ戻す。

 

「………」

 

嫌いな食べ物を見ながら嫌な表情を浮かべてる結城先輩が可愛い過ぎて鼻血出そうです。

 

「ものすんげぇ渋い顔をしてるぞ?」

 

「無理して食べなくても大丈夫だよ?」

 

「ぅ………」

 

「……いただきます」

 

意を決したように声を出してプチトマトを口へ入れる。

 

「ぁ」

 

「………」

 

「………、ん……っ!?」

 

その瞬間、結城先輩が固まる。

 

「うぇぇぇぇ………っ」

 

今にも吐きそうな表情で情けない声を上げる。

 

「ぁ、ぁ……っ」

 

それを見て、慌てだす九條先輩。

 

「駄目だったかー」

 

「こ、ここに……、私の皿に吐き出して……っ!」

 

「……そういう、わけには、ぃ、いかない……っ!」

 

死にそうな声でプチトマトを食べ続ける。

 

「結城先輩。どうぞ、飲み物です」

 

目を閉じて必死に食べ切ろうとしている結城先輩に、袋から取り出したペットボトルの蓋を開けて手渡す。

 

「っ!……ん…、………ぅん、ん………」

 

無言でそれを受け取り、勢いよく飲み始める。

 

「ぷはぁ……、ふぅ……」

 

「大丈夫……?」

 

「もう、大丈夫……」

 

全然大丈夫そうに見えない表情で返事をする。

 

「そう言えば他の枝では、なんだっけ?プラ……プラ何とかが濁るって言って食べなかったな」

 

「……プラーナ」

 

「そう、それ」

 

「……かなり濁った。私はもう戦えないかもしれない……」

 

疲弊しまくった表情をして、頼りない声で呟く。

 

「そんなにかよ……。そんなに嫌いか」

 

「好きな物、お口直しにどうぞ」

 

「……いただきます」

 

気を取り直しておかずを食べる。

 

「あの、話変わっちゃうけど、他の枝って並行世界ってことだよね?」

 

「ん?ああ、そうだな」

 

気になってるご様子の九條先輩が質問する。

 

「他の枝でも、こんな風に四人で食事してたんだね」

 

「もっといた。俺の妹と、あともう一人。三年生の先輩も」

 

天ちゃんと香坂先輩だね。

 

「それが、ヴァルハラ・ソサイエティのメンバー?」

 

「だな。あとソフィも加えるなら、全部で七人か」

 

「一番上手く行った枝で、そのメンバー。最初の枝では、結城に警戒されてたな」

 

「なぜ?」

 

「まだ俺の能力が分からなかったし、アーティファクトも見せられなかったからな」

 

「見せなかった……ではなくて、見せられなかった?」

 

「体の中にあるんだ。傷口から、中に入っちまった」

 

「そんな事もあるんだ……」

 

「それは災難でしたね……」

 

「普通はないけどな。そういう特殊な状況だったから、俺が石化事件の犯人かもって、警戒されてたんだ」

 

「結城との関係が微妙だったのは、その枝だけだな。他の枝では、ピンチの時に助けてくれたり……、いつもタイミング良く来てくれるんだ。正義のヒーローみたいにさ」

 

「正義の、ヒーロー……」

 

新海先輩の言葉を聞いて、驚くように言葉を繰り返す。

 

「ぁー……女子に使う例えじゃなかったかもな。悪い」

 

「いえ……、私にはその記憶は無いけれど、そう振る舞えていたのなら……誇らしい」

 

「結城はどんな状況でも、正しい行いを貫いてきた。まさに、ヒーローだよ」

 

「………ぅう」

 

真っ直ぐな感情を当てられ、恥ずかしそうに唸る。

 

「い、今も、聖遺物は体内にあるの?」

 

それを誤魔化す様に話題を次へ変える。

 

「ん?ああ、そのはず」

 

「……そう。なら、見せたくても見せられないわね」

 

「そうなるな。スティグマも出ないっぽいから……俺がユーザーであるって、実は証明出来ないんだ」

 

「今更、疑うつもりはないけれど……?」

 

「一応、私のアーティファクト、三人に見せておいた方がいいかな?」

 

「……そうね、そうしましょう」

 

「いや、見せなくてもいい。知ってしまう事が弱味になるかもしれないし……」

 

「ぁ……そっか、私みたいに、見たものを奪えたりしたら……」

 

「だからこそ、見せる。信頼の証に」

 

そう言って先陣切った結城先輩が、鞄からアーティファクトを取り出し皆に見せる。

 

「好みではないから……身に付けたりはしないけれど」

 

「リング……。私のと、全然違います。これなんですけど……」

 

続いて今度は九條先輩がアーティファクトをポケットから取り出す。

 

「髪飾り……意匠はどことなく似ている気がするけど……」

 

「元々は水銀みたいな液状っていうか、液体っていうか。ユーザーごとに形が変わるんだよな」

 

「そうなんだ……。不思議……」

 

「……次は私の番ですね」

 

「無理に見せなくて良いんだぞ?」

 

「いえいえ、知られても大した事では無いので。寧ろここで私だけ見せないのは、空気読めない人になっちゃいますからね!」

 

当初の計画ではアーティファクトだなんて計算に入れてないから例え無くなっても支障は無いしねっ。

 

取りあえず三人に見えるように右側の髪を掻き上げて耳を見せる。

 

「じゃーん。私のはイヤリング型です!」

 

「付けて来てたのか……」

 

「折角ですし、オシャレしてみようかと思いましてっ。どうです?似合いますか?」

 

「うん、凄く可愛い」

 

「ありがとうございまーすっ」

 

「皆それぞれ違う様ね……。見た目はただのアクセサリーだから、忘れてしまいそうになるけれど……これは、異世界の物質……」

 

「興味深い。オリハルコンやミスリルに類するような……特殊な金属なのでしょうね」

 

「ある意味、伝説の武器みたいなもんだよな。手に入れただけで特殊能力が使えるようになるんだからさ」

 

「ゲームだと、ラスト辺りに手に入るアイテムですよねぇ……」

 

「そういえば……契約の解除って、どうすれば良いのかな?」

 

「薬がある。ソフィがもう手配しているはず。来月には出来るんじゃなかったっけな」

 

「ソフィという人物にも……会ってみたいわね」

 

「あー、連れて来ればよかった。ここに来る直前、話していたんだ。それで、九條に相談があるんだ」

 

「なぁに?」

 

「火事の話。喫茶店でしたよな?」

 

「うん、そうだね」

 

「事前に九條の力で、アーティファクトを奪ってくれないか?そうすれば、火事を未然に防げる」

 

「奪うだけで、大丈夫?」

 

「大丈夫。奪った後に破壊する。そのあと、力は解除してもらっていい」

 

「わかった、やってみる」

 

「……火事は、明後日ね」

 

「ああ。明日の放課後までに奪いたいな。……って、俺がやるんじゃないけどな」

 

「頑張ってみる。舞夜ちゃんと同じクラスの人なんだよね?」

 

「だな。クラスの男子だ」

 

「やるなら……放課後が良いかもな。時間に余裕があって、自由に動ける。もし奪ったらすぐソフィに渡して、確実に破壊してもらって、九條は能力を解除」

 

「渡して……解除。見えていないと奪えないし、十メートルくらいまで近づかないと駄目だけど……大丈夫かな?」

 

「見えていなくても大丈夫。そこにあるって分かっていれば、奪えるはずだ」

 

「ぁ、そうなんだね。昨日色々と試してみたんだけど……。そっか、見えないと駄目って思い込んでた」

 

「ついでに言うと、形が無い物も奪える。記憶とか視力とか」

 

「き、記憶に視力……?」

 

「九條さんの力……かなり強力なようね」

 

「みたい、だね……。使い方、気をつけないと……。とても怖い力……」

 

「新海くんは、ヴァルハラ・ソサイエティのメンバー全員の力を把握しているの?」

 

「実は、結城の力だけはよく理解できてない」

 

「なぜ?」

 

「自分の中の基準がブレると危ない力だから、出来れば明かしたくない、ってさ」

 

「力を使う場面は、何度も見ているんだけどな」

 

「……そう。私が、そんなことを……」

 

「だから、無理に話さなくてもいい。頼りになるってことだけは、分かってるから」

 

「………、了解」

 

「先輩、先輩。私はどうでした?どんな感じでしたか?」

 

「九重は……枝によってバラバラだったなぁ。いや、それ以前の問題だけどさ。でも使いこなしてはいたぞ?人や物、現象とかにも干渉してた」

 

思い出す様に視線を上へ向けながら話す。

 

「……なるほどです。思ったより自由度高いのかもしれないですねっ!」

 

「割と考え方次第かもしれないな」

 

過去の枝の私は、結構アーティファクトの力を使っているみたいだね。

 

「明日、授業が終わったら私も白泉に向かう。着いた頃には済んでるかもしれないけど……」

 

「助かる。もう、俺の記憶は役に立たないだろうからなぁ……。何が起こるか分からないから、来てくれると安心出来る」

 

「アーティファクト、身に付けてたりするのかな?分かりやすい場所なら助かるね」

 

「多分、首にぶら下げるはず。十字架のネックレス」

 

「十字架……、うん。そこまで分かっているなら、スムーズに進みそうだね。さっき新海くんが教えてくれたこと、家に帰ったら確かめて練習しておくね」

 

「抵抗した時の制圧はこの九重舞夜にお任せをっ!」

 

おかずを口に運んだ手でそのままビシッ!っと決める。

 

「もしそうなった時は、よろしくな」

 

「はい、喜んで!」

 

「その為に、まずは今日を無事に乗り越えないとな……」

 

「しっかり食べておきましょう。魔眼の契約者に後れを取らない様に」

 

「私もいただきます。嫌いなものは、手をつけなくていいからね?」

 

「……そうする」

 

「あ、ご安心をっ。プチトマトは全部私が食べちゃってしまいましたので!」

 

「………、そう」

 

ああもう、可愛いなぁ!このこのっ。

 

「新海くんも、嫌いな物とか大丈夫?」

 

「俺は特に。全部ありがたくいただきます」

 

「舞夜ちゃんは?」

 

「見ての通り平気です!何でも食べれる体なので!」

 

「……私だけ、子供みたいでかっこ悪い……」

 

「別に、そんなこと思わないけどな」

 

「結城先輩の中では、許せない一線かもしれないですねぇ……」

 

けど残念!全部私が食べました!

 

 

 

 

 

 

九條先輩のご馳走でお腹を満たし、雑談で花を咲かせていた時。

 

「先輩方、人が来ましたよ」

 

夜の公園へ、スマホをいじりながら一人の女子生徒がやって来る。

 

「ぁ……玖方の制服」

 

女子生徒はスマホに目を向けたまま、ベンチに座る。

 

「……彼女が?」

 

「……ああ。魔眼の最初の犠牲者だ。このまま放っておけばな」

 

「結城さん、あの子を知ってたりは?」

 

「いえ……」

 

「このまま様子を見よう。与一が現れるまで」

 

先輩の言葉に全員が無言で頷く。場には中々の緊張感が漂い始める。

 

そのまま十分程様子を見ていると、ふらりと深沢与一が姿を現す。

 

「深沢くん……」

 

「彼が……魔眼の契約者」

 

特に目的の無いような足取りで公園内を歩き、女子生徒を見つける。

 

獲物を見つけたかのようにベンチに座って居る女生徒に近づくと、相手も近寄って来るのに気付く。

 

それに対して深沢与一が手を振ると、相手が微笑んでいた。

 

「……二人は、知り合い?」

 

「……そう見えるわね」

 

「………」

 

女子生徒にどんどん近づいて行くのを見て、新海先輩が緊迫した表情を浮かべた。

 

……願っていた願望に対して、現実を知ってしまったが故、なんだろうね。

 

「先輩」

 

「……ああ」

 

「……新海くん?」

 

「……三人は、ここに居てくれ」

 

「……一人で行くつもり?」

 

「……あいつと、話させてくれ。頼む」

 

それでも、可能性を捨てきれずに話し合いを希望する。

 

「……様子がおかしくなったら、すぐに飛び出すから」

 

「……わかった。それと、九重。もしもの時は……頼んだ」

 

「了解です」

 

ゆっくりと立ち上がった先輩が、一歩ずつ……談笑している2人へ静かに距離を詰めていく。

 

楽しそうに話している女子生徒に、深沢与一がおもむろにしゃがんで視線を合わせる。

 

見つめ合うように、正面から目を合わせた。

 

「よせ、与一」

 

そして、それを先輩が止めに入る。

 

「……ん?」

 

声を掛けられ、後ろを振り向いたその顔には、スティグマが浮かんでおり、それを見た隣の二人が小さく声を上げた。

 

「……翔?」

 

相手が知り合いと分かり、すぐに能力の発動を止める。

 

「それ以上はよせ、与一」

 

「一線を越えたら、もう戻れなくなる。だから、よせ」

 

静かに、諭す様に、でも寂しそうな声で話しかける。

 

「………。誤魔化そうとしても、無駄みたいだね」

 

数秒の沈黙が流れ、全てを察してから、諦めるような表情で返事をする。

 

その後、不審に思っている女子生徒を追い出して、再び先輩を見る。

 

「そんな怖い顔しないでよ。僕、なんか悪いことした?」

 

「本気で言ってんのか?」

 

「あぁ……やっぱり知ってるのか。最悪だなぁ……」

 

「いっぱい疑問があるんだけど……、こう聞くのが早いかな?なんで分かったの?僕がしようとしてたこと」

 

「そういう力を、貰った」

 

「あー……だよねぇ。誰にも話してないし」

 

疑問が解け、納得出来たのか楽しそうに笑っている。その光景を見て『そんな……』と隣の九條先輩が驚いている。結城先輩の方は眉を顰めていた。

 

「これ以上は、見てられない。行きましょう」

 

「……うん」

 

押し殺す様に呟くと、立ち上がって二人の方に歩いていく。

 

その背後を、隠れるように付いて行く。

 

「その子達と一緒に?」

 

すぐ後ろまで来た私達を見て、新海先輩に問いかける。

 

「………」

 

「深沢くん……」

 

「あれ?九條さんじゃん。いつの間に仲良くなったの?」

 

「そんな話、どうでもいいだろ」

 

「良くないでしょ。ずっと女っ気なかった翔にいきなり三人もだなんて。興味津々だよ」

 

「私達も同じ聖遺物の契約者。ただ彼に同行しただけ」

 

「あなたを止めるため。あるいは……裁くために」

 

「裁くって……まるで悪者だなぁ、僕」

 

「白々しい。違うとでも言うの?」

 

「実際、何もしてないし」

 

「………」

 

「ああ……、言葉よりも、九條さんの方が一番効くね」

 

「え……?」

 

「憐れまれてる感じ。なにか理由があるはずだって、そんな目」

 

「だって、深沢くんは、明るい人で……」

 

「いいよそういうの、めんどくさい。翔は全部知ってるみたいだし、今更取り繕って言い訳しても無駄だし」

 

「それよりさ、どういう力?心が読めるとか?」

 

「違う。知っているだけだ。このままお前を放っておくと、何人も殺してしまうって」

 

「予知みたいな?凄いねっ。そっちの力が欲しかったかも」

 

相変わらず悪意の無さそうな表情で答える。いや、初対面だった。

 

「………」

 

「また怖い顔してー。分かってるって、もうしないよ」

 

「……口だけなら、どうとでも言える」

 

「手口がバレてるのに好き勝手やるほど馬鹿じゃない。折角手に入れた力だから使ってみようと思ったんだけどね~……。ま、仕方ないかぁ。それで?まだある?お説教とかは勘弁して欲しいんだけど」

 

「話したいことはある。聞きたいことも」

 

「明日で良い?そっちの子、翔より怖い顔してるんだもん。居心地悪くてたまんないよ」

 

「っ……」

 

「ほら、めっちゃ睨んでくる」

 

「ひとつだけいいか?」

 

「なに?」

 

「ぬいぐるみみたいなやつと、接触したか?」

 

「ぬいぐるみ?なに言ってんの?」

 

「してないなら、いい」

 

「分かるように言ってよ。なんの話?」

 

「お前のアーティファクト……力を欲しがっているやつが居る。じきにお前の前に現れるかもしれない」

 

「そいつに、気を許さないでくれ。危険なやつだ」

 

「ふぅん……よくわかんないけど、アーティファクト、ね。あのアニメから取ったのかな?確かに似てるね」

 

不思議そうに聞きながらも、納得して頷く。

 

「憶えとくよ。それじゃあね、翔。また明日!」

 

元気そうに笑いながら手を振ってそのまま去って行く。しかも去り際に、先輩だけではなく私達にも笑顔を振りまいていた。

 

「……なんなの、あの人」

 

静寂が訪れた時、不気味に感じた結城先輩の声が発せられた。

 

「ごめんなさい、私……やっぱり、実感が……。あの深沢くんが、人を殺そうとしていたなんて……。最後までいつも通りだった……」

 

「……だからこそ私は、気味の悪さを感じた。スティグマが浮かんでいた。力を使おうとしていたのは明白。自白と取れる発言もあった」

 

「それなのに……普通過ぎる。悪意も、罪悪感も、恐怖も、何も感じなかった。息をするように平然と……人を害する事ができる。私は、あの人と……決して相容れることはない」

 

「強く、そう感じた」

 

「平然と、人を……」

 

「サイコパスってやつなんですねー……」

 

「……ねぇ、新海くん。本当に、仲間にするつもり?」

 

「……大事なダチ、なんだけどな。こんなこと、言いたくはないけど……仮に手を組めたとしても、俺はあいつを、もう信頼出来ないと思う」

 

「……だから、仲間にするのは無理だ」

 

「……でしょうね」

 

「でも、敵対する理由もない。あいつが、人を殺さない限りは」

 

「なんにせよ、監視は必要ね。野放しには出来ない」

 

「もうしないって、言ってくれたけれど……」

 

「信じられる?」

 

「……ごめんなさい、わからない。でも……信じたいなって、そう思う」

 

「九條さんは、それでいいのかもしれないわね。疑り深い人間だけでは……バランスが悪い」

 

「私……人の悪意とか、そういうものに……鈍感なのかもしれない。ごめんなさい」

 

「癖?」

 

「え?」

 

「あなたは謝り過ぎる。もっと自分に自信を持った方が良い」

 

「ぁ、ごめんなさーーーぁぁ、き、気をつけますぅ……」

 

「そういった所も含めて九條先輩の魅力なんですよ!安心してくださいっ」

 

「……今日の所は、解散するか。取りあえずの目的は達成出来た」

 

「そうね、お疲れ様」

 

「ああ、そっちもお疲れ。九條もありがとな。弁当美味かった」

 

「う、うん、お疲れ様でした」

 

「駅まで送る……あ、九條は自転車?」

 

「うん。あっちに止めてあるよ」

 

「送ってもらう必要はない。一人で帰れる。それよりもこの子を送ってあげて」

 

「そうだね、舞夜ちゃんも一人だし……」

 

「あ、ご心配なく。どのみち先輩と帰り道一緒なので」

 

「そうなの?」

 

「ああ、驚くことに同じマンションに住んでたんだよ」

 

「それは……都合が良いわね」

 

「近くに居るって分かってると安心だもんね」

 

「そうですねぇ……」

 

「となると……ここで解散にするかぁ。九條、後で連絡するよ。明日のことを話そう」

 

「火事のことだね、分かりました」

 

「それじゃあ、お疲れ」

 

「さようなら」

 

「また明日」

 

「お二人とも、気を付けて帰ってくださいねー!」

 

帰路につく二人を先輩と一緒に途中まで見送る。

 

「んじゃ、俺らも帰るか」

 

「了解です。お供します」

 

夜道を歩いて帰る。

 

「……っと、その前に」

 

隣を歩く先輩が思い出す様に声を出す。

 

「ソフィ、いるか」

 

「ええ」

 

女性の声が聞こえたかと思った瞬間、何もない空間が歪み、人形が出て来た。

 

うおぉ……、これがソフィ人形かぁ……。

 

「頼みがある」

 

「魔眼の子なら、ちゃんと見てるわよ」

 

「そ、か……。ありがとう。もし、何かやらかしそうなら……」

 

「伝えるわよ、当然。私では止められないから」

 

「頼む」

 

「それだけ?」

 

「ああ」

 

先輩が頷くと、用が済んだとばかりにその場から消える。

 

凄いなぁ……。ほんと空間移動だ。

 

「先輩、今のが……」

 

「ああ、さっき言ってたソフィだ」

 

「なんか、すいぶんとファンタジーなお姿でしたね」

 

「ああ見えて、結構あたりが強いから気を付けた方がいい」

 

「あはは……、覚えておきます」

 

そして、何か思い詰めるような表情で黙ってしまう。

 

……まぁ、唯一の友達がイカレ野郎って知ったら誰だってそうなるかなぁ。例え他の枝で知ってると言ってもダメージはデカいだろうしね。

 

「新海先輩」

 

「ん?どうした?」

 

「辛気臭い表情ではこの先やって行けませんよ?もっと笑いましょ?笑顔は大事ですよ?」

 

元気付ける為に笑顔を浮かべて話しかける。

 

「……すまん」

 

「今の先輩の心を読みましょうか?あれです、あの人が悪い事をしないか疑って、道を外れない様に監視をしている自分に嫌気が差してるって辺りでしょうか?」

 

「……凄いな。まんまその通りだ」

 

「やっぱりビンゴでしたか。まぁ、気持ちはわかーーーいえ、安易に共感出来るとは言えませんが、理解は出来ます」

 

「ですので、私から一つだけ提案をします」

 

「提案?」

 

「困ったり悩んだ時は、一人で抱え込まずに周りに相談し、頼って下さい。厳しい言い方になると思いますが、全部一人で解決出来るだなんておこがましいです。どんなに凄い力を持っていたとしても、人一人に出来ることなんてたかが知れてるんですから……」

 

「先輩が言ってた通り、明日からはもう未知なのですから。皆で解決して行きましょう」

 

「……そうだな。ありがとな、心配させた」

 

「何も知らない後輩が生意気言っただけなのでお気になさらず」

 

「そんなことはない。気が楽になった」

 

「なら良かったです!」

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて……さっそく相談があるんだが、この後いいか?」

 

「はい、是非とも。私も聞きたい事が山ほどありますので!」

 

うんうん、少しは目に活力が戻って来たみたいだね。そうじゃなくちゃ困ります。

 

 





次回は先輩の部屋でこれまでの枝の説明と、火事に向けての作戦会議ですね。

この枝では既にこの段階で九條先輩の手作りを食べているとか……くっ!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。