9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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猫の回……になってしまった。




第8話:ぁ゛ぁ゛ぁ゛~……(尊氏)

 

「二人は、もう知っているか?」

 

今日も高峰が来て三人で昼食を食べていると、いきなり話し始めた。

 

「なに急に。知らないよ」

 

与一の返事に高峰が顎で、近くの女子のグループを指す。

 

耳を向けてみると、変質者が現れたと。すごい勢いで走ってくる。飛び掛かって来たかと思ったら消えた。あれは幽霊だ。

 

そんな話で盛り上がっているようだ。

 

「朝から盛り上がってるね。幽霊話。部活の先輩から聞いたって、誰かが言ってたけど」

 

「噂の発信源は、うちのクラスの女子かもしれんな。学校帰りに襲われたそうだ。件の幽霊に」

 

「幽霊……ね」

 

確かにいきなり話題になってる気がするな。

 

「きな臭いとは思わんか?」

 

「ユーザーとは限らないでしょ?」

 

「だが、そう考えるのが妥当だろう。もっとも……イーリスとやらに操られているかどうかは分からんがな」

 

「どうでも良いけどね、僕には」

 

巻き込まれたくないからか、興味無さそうに返す。

 

「もし暴走したユーザーならば……どうする?新海翔」

 

「アーティファクトを奪って、破壊して、無力化。……ってしたいけどな。もっと詳しいことが分からないと、調べようがない」

 

「では、耳をそばだてておこう。何か新しい話が飛び出すかもしれん」

 

「いや直接聞いたら?クラスの人に」

 

「与一よ……。こういうのは、人知れず動くものだ」

 

「だからなにかっこつけてんの……。声をかける勇気無いだけでしょ……」

 

「高峰って、物怖じしないタイプに見えるけどな」

 

「このキャラが通用する相手にはな」

 

「いつまで厨二病引きずってんだが……」

 

「いつからこのキャラなん?」

 

「中学くらいでしょ、確か」

 

「もっと前だ。『コード・ゲッシュ 反逆のハルーシュ』に出会ったことで、私は生まれ変わった!」

 

「あー……そのアニメ、確か結城も好きって言ってたな」

 

公園のベンチで話していたな。

 

「むっ、そうか。では次に会った時は、コード・ゲッシュ談議に花を咲かせるとしよう」

 

「盛り上がるだろうな、多分」

 

結城もハルーシュが好きって言ってたしな。

 

「幽霊の件は、後で他の皆にも聞いておく。女子の間で噂になっているなら、少なくとも俺達よりは知っているだろうし」

 

「今たぶん、ちょうどその話してるだろうしね」

 

パンを食べながら九條の席に目を向ける。

 

ただ、視線を向けただけで、視界に入ってくる情報は意識の外にあった。

 

幽霊の出現。別の枝ではこんな噂は無かった。

 

だから、ユーザー絡みである可能性は高い。……飛び掛かって来たと思ったら、消えた……。

 

すぐに思いつくのは、短距離転移のアーティファクト?

 

別の枝で起きなかったのは、与一が狩っていたからだろうか?それじゃあこの枝では、与一が狩っていたアーティファクト絡みの事件が発生する?

 

……そう考えてしまうのは短絡的だろうか?

 

まぁ、なんにせよ、イーリスがユーザーを感知出来るアーティファクトを持っているのは間違い無いはずだ。

 

当然、ソフィにはその力は無いだろうな。

 

考えれば考えるほどに、こっちの不利が浮き彫りになるな……。

 

「ふむ、ソーセージロールも中々いける……」

 

「駅前のパン屋だっけ?今度僕も買ってみようかなー」

 

「結構混んでるんだよなぁ、あの店」

 

……ともかく、だ。

 

今は、出来る事を積み重ねていこう。

 

 

 

 

 

その日の放課後、昨日話していた猫の……いや、能力の制御の件で公園に来ていた。

 

一緒に……はちょっと会話に困りそうだったので、現地集合にして貰った。

 

先に結城が来ており、俺が到着した直後に香坂先輩と共に、なぜか九重がやってきた。

 

「あれ?九重?どうしてここに?」

 

「こんにちわですっ。さっき天ちゃんを駅まで送って帰っていたら香坂先輩を見かけまして……。面白そうなことをしようとしているみたいだったのでついて来ちゃいました!」

 

「あ、あの、九重さんも、一緒に来たいと、言われて……」

 

「ああ、いえ、別に大丈夫ですので気にしないで下さい。結城もいいよな?」

 

「ええ、私も構わない」

 

「ありがとうございます!私はそこのベンチで見ているだけなのでどうかお気になさらず進めて下さいっ」

 

観客気分なのか、滅茶苦茶楽しそうな表情でベンチに座る。

 

「それじゃあ、早速始めましょうか」

 

「ぁ、ぁの、私はどうすれば……」

 

「まず、先輩の力を理解するところから始めましょうか」

 

「理解……は、はい」

 

「ぶっちゃけ先輩、今困ってますよね?少女漫画のヒロインになりたいって考えちゃって」

 

「ふぇっ?ぁ、ぇ、ぅ、ぁっ……」

 

「……新海くんは並行世界の私たちを知っているから、隠しごとは出来ないと思った方がいい」

 

「ぁ、そういう、力、ぁぅ、ぁあ……」

 

「……それと、新海くんはもう少し伝え方を考えて。ストレート過ぎる」

 

「ぁ、はい……、すみませんでした……」

 

またやっちまった……。ほんと気を付けないとな。

 

やらかしたことに気付き、反省する。結城と先輩の後ろのベンチで座っている九重からも『デリカシーがなっていないぞー!プライバシーの侵害だぁー!』とかヤジが飛んできている。

 

「い、いえ、ぁの、……、そ、その通りなので……ぅぅ、恥ずかしい……」

 

先輩が顔を赤くして恥ずかしそうに目を閉じて顔を伏せる。申し訳ない事をしたと思うと同時に、後ろでニヤニヤとこっちを見ている九重に対して非常に腹が立つ。

 

「ぁ、ぁの……、軽率に、変な妄想を……、し、してしまったせいで……、毎朝、大変なことに……」

 

「です、よね。で、えーっと、先輩、能力にネガティブなイメージ持ってませんか?」

 

「……持て余して、しまっているので……、そう、ですね……。ネガティブ、かも……」

 

「でも、先輩の力って、超ポジティブなんですよ」

 

「猫」

 

「待て結城落ち着け。物事には順序がある」

 

「ご、ごめんなさい。気持ちが逸ってしまった……」

 

昨日から若干暴走気味だな……。それを見て九重が『うはッ!?』とか言って悶えてんだが……?

 

「あ、昨日話していた、あの、猫を呼ぶ……」

 

「そうです。そういうポジティブな使い方もあります。そういうのも含めて、先輩の力の本質は……、あ~……、なんて言えばいいんだ?ちょっと大袈裟な言い方ですけど……、本質は、戦場のコントロールにあります」

 

「戦場の……?」

 

「はい。例えば……そうだな。発想が貧困なんで、ゲームの例えになっちゃいますけど」

 

「だ、大丈夫です。その方が、わ、わかりやすいかも……」

 

「例えば……敵の攻撃の命中率が100%で、こっちが30%だとして。先輩が、敵の攻撃外れろ、こっちの攻撃当たれって願ったらーーー」

 

「敵の命中率が0%になり、こちらが100%になる」

 

「そういうこと。しかも、こっちの攻撃がクリティカルになれって願ったら、実際にそうなる感じ」

 

「先輩の力は敵を弱体化しつつ、味方を強化出来るんです」

 

「弱体化と、強化……。あぁそっか……、私の力は、味方全体にかかる精神コマンド……」

 

「味方全体に必中ひらめき熱血を同時にかけると考えると……、ゲームバランス壊れるくらいには強力ね……」

 

「またピンポイントな例え出して来たな……。二人ともロボゲーもやってるんだな」

 

「好きなアニメが登場する作品だけね」

 

「ぁ、わ、私もそうです。だから、にわか……です」

 

「俺も詳しいわけじゃないけどーーーいや、それはよくて」

 

あぶない、話が脱線するところだった。

 

「とにかく、先輩の力は味方にも作用するわけです。先輩なら、自由に奇跡を起こせる」

 

「味方全体に奇跡をかける……。強力すぎる……」

 

「一旦そのゲームから離れろ。いや大体合ってるけど。……まとめると、先輩の力を使うだけで、俺たちが強化されます」

 

「だから、どうしても先輩を仲間に加えたかった。イーリスと戦うためには、先輩の力が絶対必要なんです」

 

俺の言葉に、後方彼氏面の九重がうんうんと腕を組んで頷いている。

 

「ぁ、ぅ……、……、ぉぇっ」

 

「ぅぉっ、えっ?」

 

「気分が悪いの?」

 

「す、すみません、……ぅっ、だ、誰かに必要って、言ってもらえたこと、なかったので……ま、舞い上がって、は、吐き気が……」

 

「あぁ……。彼……ああいう言葉を平然と言うから、今の内に慣れたほうがいい」

 

「は、はひ……」

 

「え……?ああいう、ってなに……?」

 

「私たち陰の者が狼狽えるような言葉よ」

 

「えぇ……?」

 

二人が……?何か駄目だったのか?

 

「す、すみません、もう……だ、大丈夫です」

 

「じゃあ……はい。練習、してみますか」

 

「は、はい、猫を、呼ぶ……んですよね?」

 

「ですね。先輩も、猫好きですよね?」

 

「で、です、はい」

 

「苦手な男子じゃなくて好きな猫に囲まれて、能力へのネガティブなイメージを払拭しましょう」

 

「ぁ……、は、はい」

 

「……釈然としない様子ね」

 

「へ?ぁ、ち、違います。男子が、苦手なことも……、し、知ってるんだな、って」

 

「あー、はい。すみません、デリカシーのないことを言いましたね」

 

「い、いえっ、私の、その、えーっと、私のことを、理解してくれて、いるんだな、って……。単純に、そ、そう思っただけなので、だ、大丈夫です」

 

「……新海くんのことは、平気そうね」

 

「ぁ……、はい。以前、親切に、あの、声をかけて、もらいましたし……あんまり、なんていうか……えぇと……、圧が、ないので……」

 

「俺、割と怖いって言われるんだけどなぁ……。目つきとか」

 

「背も高いし、多少の威圧感はあるけれど……言動が落ち着いているから、怖いとは思わない」

 

「は、はい、そんな、感じです」

 

「んー、そっか。あぁいや、俺の事はどうでも良くて……」

 

「そう、猫」

 

「は、はい、猫……っ」

 

「練習、始めましょうか」

 

「がんばり、ます……っ。えと、猫が、寄って来るイメージ、ですよね?」

 

「はい。で、先輩だけじゃなくて、結城にも寄って来るイメージをお願いします」

 

「そうね。そこ大事」

 

「わ、わかりました。………、私だけじゃなくて、結城さんにも、猫……」

 

集中するように目を閉じて言葉を繰り返す。

 

「……ぁ」

 

すると、早速近くの茂みから猫が顔を出した。

 

ニャーと鳴いて、こちらへ近づいてくる。しかも一匹だけじゃなくて、二匹、三匹とどんどん増えていく。

 

「わ、わわ、猫ちゃん……!ほんとに来た……!」

 

「か、かなり……驚いている。ここまで分かりやすく、効果が出るなんて……」

 

「自分でも、び、びっくりしてます……!そっか、こういう風に使えばよかったんだ……」

 

「それじゃあ、もう一歩。進んでみましょうか」

 

「も、もう一歩……?」

 

「寄ってくるだけじゃなく、懐く」

 

「な、懐く……っ!?」

 

「そうです。いつも素っ気ない野良猫が、懐く」

 

「そ、そんな……っ、そんな贅沢なことを……っ、ね、願ってしまってもいいんですか……!」

 

「いいんです。やっちゃってください」

 

「ぁ、わ、猫ちゃんを、強制的に……っ、懐かせるなんて……ぁゎゎ……っ」

 

「……っ……!」

 

「期待し過ぎてバグった動きをしている人が居るんで、サクッとやってあげてください」

 

結城がバグった動きをしている中、ベンチに座っている九重が両手で顔を覆いながら小さく震えていた。

 

「は、はひ、な、懐く、懐く……」

 

念じるように呟くと、周囲の猫たちが二人の足にスリスリと体をこすり始めた。

 

「ぁ、ぁぁ……」

 

「ふわわわ……っ!」

 

それを見た二人が変な声を出しながら全身を硬直させる。

 

「こ、これは、現実なの……?猫が……、猫様が……私如きに……!」

 

「す、すごい……。これが、エデンの本当の力……っ!猫は世界を救う……!」

 

完全に様子がおかしくなっているが、突っ込むのは野暮なので俺は静かに見守ることにする。

 

……ちょっと、いや、かなり羨ましいな、あれ。

 

「な、撫でたら……に、逃げちゃう、でしょうか……!」

 

「わ、わからない……」

 

「や、やってみます……!」

 

「ゆ、勇者ね、あなた……」

 

完全に固まっている結城に対して、先輩が動く。変なとこで思い切りが良い様に見える。いや、他の枝でイーリスから貰った注射器の時もそうだったか。

 

「ね、猫ちゃーん……」

 

猫を驚かせないよう、ゆっくりとしゃがみ……恐る恐る手を伸ばして撫でる。

 

「……っ!?ふわ、わわ、わわわ……っ!」

 

抵抗せず受け入れた猫を見て驚愕の表情を浮かべる。

 

「こ、こうも容易く……っ」

 

「撫でられましたーーー!ふぁぁぁぁああーー!!」

 

「ふへぇっ!?」

 

先輩の突然の奇声に驚き、結城が正気に戻る。

 

「ふぁぁぁぁあっ、すごい、モフッ、モフモフ……ッ!猫ちゃん、モフモフですねぇ……!」

 

「こ、香坂さん……?」

 

「わーっ、かわ、かわい、かわわわ……っ!ドゥフフッ、かわいいですねぇ!グフフフッ」

 

「こっ、香坂さんが、猫様の魔力に当てられて……お、おかしく、なってしまった……!?」

 

「おかしくなったんじゃない。よく見るんだ、結城。これが欲望を解放した人間の姿だ」

 

「はわーーっ、こんな、こんな幸せな事が……っ!デュフッ、鼻血、鼻血出そう……っ!ふぁぁああああ!!」

 

「こ、ここまで自分をさらけ出せるなんて……。すごい……、私には、とても……」

 

「まぁ……真面目な話あそこまでさらけ出さなくてもいいけど。折角、猫が懐いてくれたんだ。こっちの目なんか気にせず、思う存分撫でればいいじゃん。気取らずにさ」

 

「………」

 

「はーっ、天使……!天使に囲まれて、も、もう、死ぬ……!ぁ、ここは天国……!もう私死んでる……!」

 

荒ぶりまくる先輩を、じっと見つめて……。

 

「……っ」

 

意を決したように、結城もその場にしゃがみ込んで猫を撫で始めた。

 

「……ぁっ」

 

この前は逃げられてしまったが、今回は無事に伸ばした手が猫の頭に触れる。

 

「ぁ……ぁあ……」

 

感動に酔いしれている結城を見て、その場を離れて九重と一緒のベンチに座る。

 

「ぁぁぁあ……猫に触れて感動してる二人がぁ……はぁ……尊いぃ……」

 

こっちはこっちでよく分からんが、悶えていた。

 

「ぁぁああ……、あっ、先輩、お疲れ様です。無事上手く行きましたねっ!」

 

「ああ、おかげさまでな……」

 

嬉しそうに猫を撫でる二人を見る。……先輩は若干危ない目をしているように見えるが……まぁ大丈夫だろう。

 

「可愛いねぇ~……。三毛だから……女の子?ふふ、美人さんだねぇ~」

 

「あ、こっちの子は靴下はいてるねー。可愛いね~、ふふ」

 

「ぁ゛あ゙あ゙ぁ゛ぁ゛~~~……」

 

結城が優しく猫に語りかけるのを見ていると、突如隣で死んだような声を出して空を見上げ、ぐったりしている九重が居た。

 

「ど、どうした……!?」

 

「……結城先輩が可愛い過ぎて即死しただけですので、お気になさらずぅ……」

 

口をポカンと開け、だらんと両手を垂らしている。……大丈夫に見えないが?

 

「そ、そうか……」

 

触れない方が良いと思って再び前を見る。

 

……確かに、九重が言うように、今までの結城では想像出来ないくらいには声も表情も違う。

 

たぶん、素に近いんだろう。仮面をつけていない、鎧を纏っていない自分。人に見せちゃいけない姿。

 

だからこそ、別の枝では俺たちに見られない様に、隠れて猫を撫でていた。

 

自分を出せないんじゃなく、人目を必要以上に気にし過ぎているのかもしれない。

 

理由は……亡くした妹さんに誇れる自分でありたいから。

 

そんな結城の想いを、否定することは出来ない。偉そうに『肩の力を抜け』なんて言ってしまったことも、少し後悔している。

 

けれどーーー。

 

「ぇ、ぇ、なに……、ぇ?抱っこ……させてくれるの?」

 

「ぇ、ゎ、ちょ、ちょっと……っ。……す、すごいことに……、ど、ど、どうしよう……っ」

 

腕の中、膝の上、肩……。猫たちによじ登られ、困惑している。

 

でも、楽しそうだ。

 

澄ました顔より、気取った態度より……俺は、こっちの結城の方が魅力的だと思えた。

 

イーリスのこととか、トラウマのこととか……今は、忘れて、猫の天国を楽しんでもらおう。

 

……俺も混ざりたいところではあるが。

 

「なんだか自分も混ざりたいような顔をされてますねぇ?」

 

「……まぁな。正直羨ましいと思う」

 

「それは、結城先輩らに対してですか?それとも、猫に対してですかぁ?」

 

揶揄うように口元を隠しながら俺を見る。

 

「アホか。ってか、九重の方は良いのか?混ざらなくて」

 

「ふふ、私も充分に堪能させてもらっているので……はい、このままで満足ですよ?」

 

だらしなく口元を緩ませながら、猫と戯れている二人を見ている。

 

「そっちの目的は……猫じゃないみたいだな」

 

「猫も可愛いとは思いますが……それ以上の可愛さを見つけているので……ふふふ」

 

「……まぁ、確かに……否定はしない」

 

「先輩も、猫が駄目ならせめてこの光景だけでも楽しんだ方がいいですよ?」

 

「……そうだな」

 

幸せそうに先輩と話している結城を見られただけでも、今日の練習の意味はあっただろう。

 

「ぁ、ちょっと……動いちゃ駄目、くすぐったい……ふふっ」

 

「………」

 

結城が無邪気に笑う。

 

不覚にも……ちょっとドキリとしてしまった。

 

不意打ちと言うか……、ああ、こんな顔もできるのか、と。

 

「ふふ、駄目だってば、あはっ、ふふふっ」

 

「いやぁ~……良い笑顔ですねぇ。結城先輩」

 

「普段ではまず見れないな」

 

「ギャップが凄すぎて貧血起こしそうです……はぁ……」

 

それを、頬に手を当てて惚けるような表情で見ている。重症だな。

 

……無意味な、仮定だけど。

 

もし、痛ましい事故が無ければ……いつも、こんな風に明るく笑っていられたんだろうか。

 

……過去は変えられない。俺では、届かない。

 

だから、せめてーーー。

 

これからは、たまにでいい、時々でいい。

 

結城がこんな風に、無邪気に笑える一時があればいいと……心から、思う。

 

「ふふっ、みんな元気だね~、ふふふっ」

 

「ほ、ほんとかわいい……。デュフッ、ドゥフフフッ」

 

ただちょっと……先輩の方はあかんな?女子があんまり見せちゃいけない顔だな?……あとで絶対恥ずかしがるから、先輩は出来るだけ視界から外しておこう……。

 

「ふふ、なぁに?だっこ?待って待って、順番ね~。皆可愛いねぇ~。モフモフだね~、ふふふっ」

 

「ーーッ!ーーーーゥ!ーーァァッ!!!」

 

笑っている結城を見ていると、隣の九重が両手で顔を抑えながら頭を上下に振り、足をばたつかせてその場で暴れはじめる。

 

「フゥーーゥ、………ワたシも、ならんダら、ダッコして……なでてもらえルのでしょうか……?」

 

こっちがビビるくらいの眼差しを指の隙間から覗かせてボソボソと呟く。

 

「……いや、何言ってんの?」

 

訂正しよう。見せちゃいけない顔をしているのは……二人だった。

 

 





幽霊まで行きたかったけど一旦区切ります!

猫回のギャップが……鼻血出そう。

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