九重家へ訪問を、新海翔視点でいきまーす。最後にチラッと九重家の視点ですね。
「さささ、どうぞこちらですっ」
九條と天の件があってから二日後、昼休みに九重から俺と希亜に連絡が来た。
『今日の放課後、お時間良いでしょうか?』
という感じのメッセージが送られてきたので了解と返して合流したのは良いが……。
「か、かなり趣がある家ね……」
隣を歩いている希亜が借りて来た猫の様に大人しい。
……まぁ、それもそうか。
他の枝で俺は既に体験済みだが、いつ見ても屋敷と言ってもおかしくない広さだ。実家が道場をしているとか歴史があるとか聞いているが、やっぱりかなりの金持ちなのだろう。
「来る前に言っただろ?ビビるってさ」
「心構えはしていたつもり。想定よりも上だった」
「着きました、一先ずここのお部屋です!」
廊下を歩き、部屋へ案内される。
「ぉお……」
ザ・和風だ。旅館みたいなイメージで作ったのだろうか?中心に円状のテーブル、クッションが乗ってある木製の座椅子、障子が窓側にありテレビなども設置されていた。
「すみませんが、ちょっとここでくつろいで貰ってても良いですか?実家の人と話をしてきますので」
「あ、ああ……、全然大丈夫」
「ありがとうございますっ、もし、何かあればこのベルを鳴らせば人が来ますので、遠慮なく使って下さい!あとトイレはこちらの突き当りを右手に見えますので~」
「あっ、飲み物は冷蔵庫にありますので……はい、どうぞ!」
冷蔵庫を開け、ペットボトルのお茶をベルと一緒にテーブルに置いて行く。
「それでは、ごゆっくり~」
「お、おう」
こちらに手を振りながら素早く去って行く。
「……取りあえず、座るか」
「……ええ、そうね」
俺も希亜も若干どうすれば良いのか分からないが、待っていてくれと言っていたので遠慮なく寛ぐことにする。
「私達は、ここで待っていれば良いのよね?」
「だな。そっちと合流する前に軽く聞いたが、これから九重を含めて作戦会議をするらしい。しかも決行は今夜との事だ」
「なるほど、だから私に夜まで時間を空けていて欲しいって連絡を送ってきたのね」
「そっちにもちゃんと連絡していたのか」
「ええ、たぶん同じ内容じゃないかしら」
「となると、希亜も晩飯誘われたのか?」
「そうね。彼女の家でってお誘いが来てたから、折角だし食べることにした」
「どんなのが出て来るんだろうな。旅館みたいな感じのが出てくるんかな?」
「他の枝ではここに来たことはないの?」
「怪我したお見舞いではあるけど……そのくらいだな。一緒に九重の奢りで外食とか出前で食べた事はあるが」
「二人で?」
「ん?いや、その時は天と一緒の三人でだったな。いやぁ……出て来た料理がめっちゃ美味しかったけど、後で値段見て一気に青ざめた記憶だったわぁ……」
「高かったの?」
「……ああ、一人4万ちょっとだった」
希亜の方を見ると、目を見開き小さく呟く。
「……これだけの実家、相応と言うべきかもしれない」
「かもな」
他の枝のは、ディナーの無料券があるからって言ってたが……たぶん俺達が遠慮しない様に作った口実だったはず。あの時の俺は天が元気になればとしか考えていなかったが、冷静に考えればタイミングが良すぎている。九重が天の為にと動いてくれたんだろうな。
「……今回の件、イーリスが関わっていると思う?」
思い耽っていると、真剣な表情の希亜が聞いてくる。
「……可能性は十分にあり得る。九重の話を聞く限りでは、かなりの規模で暴れているみたいだ。イーリスが好きそうなやり方だ」
「大勢の人を巻き込んで混乱を起こす……」
「あいつは混沌や人同士が争うのを作ろうとしている。今度もそう仕向けているはずだ」
「……もどかしいわね。ここで待っている時間というのは」
「今は耐えるしかない。今回のは個人ではなくて会社や組織を巻き込んだ大規模な事件だ。俺達だけじゃユーザーに辿り着けるかすら怪しい」
「……そうね。むしろここまで近づけた事を彼女に感謝しましょう」
自分を納得させるように目を閉じる。
「そういえば……」
すると、何かを思い出す様に顔を上げて俺を見る。
「仮にユーザーだった場合、九條さんの力が必要じゃない?」
「ああ、そのことか。もしユーザーだった時は気絶させて九條の所まで連れて行くそうだ」
「可能なの?」
「らしい。九條の方は九條のおじいさんとも交流が深いって言ってたから、大丈夫って九重から聞いた」
「そっちじゃなくて、事件となれば犯人の身柄を確保する必要があると思う」
「……言われてみればそうだな。何か考えでもあるのか」
「確認してみましょう。流石に無策とは思えないけれど……」
「最悪、幻体で一時的に交換するとか?」
「そうなる前に九條さんを連れてきた方が楽そうね」
それから待つこと15分ほど、小走りの足跡が聞こえて来たと思うと九重が戻って来た。
「すみません、お待たせしましたっ」
「おう、おかえり」
「あ、はい。ただいまです。一応、必要な人が揃ってこれから始めようとしているのですが……」
少し困った様な表情でこちらを見る。
「お二人も、会議の場に……参加、されますか?」
「それでは、次にーーー」
九重の提案に、希亜が乗っかるような形で参加したのは良いが……。
「……滅茶苦茶場違いだよなぁ」
和室の広間……とでも言うのだろうか。幾つかの部屋の襖を開けて繋げたような長方形の部屋の一番端っこの椅子で、話をひっそりと聞いている。
俺の左には本当の端に座る希亜と、右には手元の紙を捲っている九重が居る。その他にも、関係者であろう人達が離れて座っているが、未成年なのは俺達だけだろうな。
幸運なのは、俺達が座って居る近くには誰も居ないことだろうか。
「先輩先輩」
小声で話しかけながら、今回の資料と思われる紙をこちらにスライドさせ見せてくる。
「こちらが対象人物のプロフィールです」
「ありがとう。……ソフィ」
ありがたいことに顔写真まで付いている。これなら楽に見つけて貰えるだろう。
呼びだすと、すぐに正面に現れた。
「ええ、先にこちらで見ておくわ」
「頼む」
資料をチラ見してすぐに消える。
「私達三人は別で動けますので、他の人達を気にする必要は無さそうです」
「そうなのか?」
「はい、周囲の警戒……ま、ぶっちゃけ居ても居なくても変わらない場所に配置してもらったので、好きに動けますよ」
「それは好都合ね」
「ああ」
「ただ、ひとつ懸念点がありまして……」
「懸念点?」
「こちらの会社、裏の悪い人たちとも手を組んでいまして、ちょっと激しめのドンパチをするかもしれないです」
「抵抗されるってことか?」
「そんな感じです。反社会的勢力な人達なので、銃刀法違反を犯している可能性が……」
「……マジかよ」
「一応、それも想定してこちらも動くつもりではありますので、ご心配なく。ですので、私達三人はユーザーのみに絞って最短距離で攻めましょう」
「そうね、ユーザーが操っているとなれば、それが最も早い解決になるはず」
「ですです。多分……いえ、確実にユーザーの方にボディーガードが居るとは思います。そちらに関しては私で対処させてもらうか、最悪結城先輩の能力で眠ってもらいましょう」
「詳しい場所はソフィに調べて貰っている。俺たちはそこだけを目指そう」
「ええ、これ以上一般人を巻き込まないために」
「そうですね。あの女の好きにさせない様にしましょう」
流れを決め、目の前の資料に目を落とす。
……会社の社長さんか。アーティファクトを悪用して事業の拡大を図ってるのだろう。となればやっぱり人の精神に作用する能力と見ていいかもしれない。
一気に広げているなら、それ相応に能力を濫用していることになると……暴走の危険がある。
今度も救えないかもしれないと考えると、自然と拳を握ってしまう。
「翔」
「……分かってる。分かってるさ」
「……そう。でも、一人で抱え込まないで」
「ああ、ありがとな」
それでも、やるしかない。
会議が終わり、三人でさっきの部屋へ戻ってきた。
「九重、これからどうするんだ?」
部屋に着き次第気になって聞いてみる。
「えっと、そうですね……夜までは待機になりそうです。ちょーっと確認すべき事がありまして……それに時間を割いている最中です」
「確認?」
「はい、内容は確認が終わり次第お話しますので今は内緒ですっ。あ、それよりも、お腹空いてたりしませんか?」
「まぁ、多少は?」
「少しは」
「ただ待つのもあれですし、ご飯にしましょう!」
名案の様に語る。……確認か、なるべく早く動きたいが、こればかりはどうしようもないのだろう。
「ここに来る前にも言ってたが、九重の家で食べるのか?」
「はいっ、勿論ここに運んでもらいますのでご安心を!流石に家の人達と一緒は楽しめないと思いますし」
「まぁ、それはそうだな」
「今ちょうど準備をしていますので、整い次第運んで貰えるようにしますね!」
「なんかすまんな、わざわざ俺たちの為に」
「お気になさらず!客人を精一杯もてなす様にしなければ、我が家の格に関わりますので~」
「……それなら、お言葉に甘えようかな」
「感謝するわ」
「いえいえっ、それと、苦手な物とかありますか?好きな物でも良いですよ」
「俺は特に大丈夫」
「……私も」
俺と同じ様な返事をする希亜を見る……が、目を逸らされた。
「……トマトは出ないので安心して下さい」
察した九重も苦笑いしながらも答える。
「……ありがと」
少し恥ずかしそうに返事をする。
公園で食べたせいで更に苦手意識がついたかもな。
「では、伝えてきますので少々お待ちをっ」
今度は足音も立てずにその場から去って行く。
やることも無いので外の景色でも見ようと障子を開ける。
「……ん?」
屋敷の景色は見えたが、少し外の景色に違和感を感じた。
「……窓ガラスか?これ?」
触ってみると、普通のより分厚い感じがする。
「どうしたの?」
「いや、景色でも見ようとしたんだが、なんか窓ガラスが厚い気がして……」
「……確かに分厚いわね」
「だよな」
「強化ガラス……では無さそうだけど」
「過去に割れた事があって、対策しているとかかもな」
そう思って障子を閉めて、椅子に座り九重が戻ってくるのを待つ。
「お待たせしましたっ!」
走って来る足音が聞こえ、すぐに姿を現す。
「おかえり、早かったわね」
「厨房の人に伝えるだけですからねっ。あとはのんびり待ちましょう。30分ほどで届くと思います!」
九重も戻り、三人で雑談……とはいかず、やはり話題に出てくるのはアーティファクト関連の話だった。
イーリスの話や、今回のユーザーの対処方法。それと、自分たちの能力の拡張性など、特に話題に関しては好きに話していた。
「……先輩方、一旦ストップで。人が来ます」
九重の言葉に話すのを止める。
まだ15分程しか経ってはいないが、もう準備が終わったのか?
そう思っていると、部屋の襖が開き、一人の女性が顔を覗かせる。40代ぐらいだろうか?
「……誰ですか?」
返事をする九重の声には明らかに不機嫌と言うか、不信感を持っていた。
「突然申し訳ありません。こちらに来たので、どうしても挨拶をしておきたくて……」
腰の低そうな態度で頭を下げている。それを見てさらに不機嫌な表情を浮かべる。
「許可なく開けないでください。それと、邪魔なので出て行って下さい」
九重がテーブルのベルを躊躇いなく鳴らす。すると、すぐに他の人が来て女性の人を捕えるように肩を掴む。
「あぁ……、ーーーさま」
悲しそうに九重を見たまま、連れて行かれる。当の本人は既に興味を無くしたようにこっちを見ている。
「すみません。変な邪魔が入りました」
申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「あ、ああ……別に大丈夫だが、何だったんだ?」
「えっと……なんて言いますかぁ、私の実家にも色んな派閥的なのがありまして……」
答えにくそうに言葉を選びながら話す。
「その中でも私が嫌いな人達が居まして……」
「それが、さっきの人って訳か?」
「……はい。それと、今は今夜の作戦の為に各自他との接触を断っている最中でして……」
「接触を断っている……?」
「はい。詳細は話せませんが、こちら側に裏切っている人がいる可能性がありまして……現在その確認途中になっていて」
「……だから私達はこの部屋で待機をしている……と言うわけね」
「はい。各々待機を言い渡されています」
「……なるほどな。なのに、訪ねて来られると困るって訳か」
「……そうなりますね。ものすっごーっく困ります!」
だから、滅茶苦茶不機嫌な態度を取っていた感じか。
「あなたを訪ねて来ていたみたいだけど、何か用だったのかしら」
「どうでしょう。今回のでこちらに来たので、そのついでに顔を見せに来たとかだと思います」
「……九重にか?」
「さっきを見た感じになりますが」
「……翔から軽くは聞いていたけれど、それなりの立ち位置にいるみたいね」
「あはは、私の師匠……おじいちゃんが当主なので、それが大きいかもしれないですねぇ……。家の人から姪っ子みたいに可愛がってもらってますし」
「祖父ってことね。……さっきの時に一番上座に居た人かしら?」
「そうですそうです。もう結構なお歳の人です」
「結構な雰囲気あったよな。武術の達人みたいなオーラが」
当主ってことは、やっぱり強いのかね。
「確かに纏う空気が凄かったわね。周囲の人達も含めて」
「皆さん雰囲気ありますしねー」
そう言う九重は、何事もなく面白そうに話す。……慣れてるって感じか。
それと、さっき気になったが……、連れて行かれた女性の人が最後に九重に向かって言った言葉。
俺の聞き間違えじゃなければ、『巫女様』って呼んでたと思う。
すぐに思いついたのは九十九神社の巫女ーーー先生のことだが……。
九重も、そう言ったことに関わっていたことがあったのかもな。
「……さて、壮六よ。炙り出しは終わっておるか?」
「大体の絞り込みは済んでおります」
「相手の出方はどうじゃ」
「監視からの報告では、迎え撃つ形で人を固めていると」
「ほう、それは寧ろ好都合じゃな。自ら一か所に集まってくれるとはな」
「現在、包囲網を整えている最中です」
「虫一匹逃がすなよ?徹底的に潰すつもりでゆけ」
「裏切っている者たちは当初の通り、生け捕りにという事で」
「舞夜から生かして欲しいと来ているからのぅ……。聞いてやらねばならん」
「舞夜様も、ご友人が巻き込まれたので今回の件はかなりご立腹かと」
「当然じゃな。そこら辺の一般人まで使って来ておる。あの子としても犯人を生かしたくは無いだろう」
「……彼らの為に、でしょうね」
「ああ、救える可能性があるのなら、救っておきたい……とな。あやつらに見せる為に、わざわざそれ用の資料と会議までして、表向きはまともにさせておる」
はぁ、とため息を吐く。
「まぁ良い。此度は舞夜達が終わらせるまでの間、儂らは派手に動けばよいだけだ。最悪、あの小僧が何とでもするじゃろ」
「それもそうですね」
「全く、馴れ馴れしくあの子の隣に座りおってからに……。何があっても舞夜はやらんからの!」
「ありえない未来を語らないで下さい。対象は反対側の人です」
「分かっておる。じゃが、もし、万が一奴が舞夜の魅力に気づいて……!」
「……私は引き続き進めておきますので、時間になったら人を送ります」
相手にするのが面倒になり、壮六はそそくさとその場を去って行った。
次は襲撃回ですね。多分I can fly!します。