作戦実行です。
空を駆けますね。
「……開始時間まで、残り数分ですね」
「そうなんだが……」
屋上の風に靡かれながら、右に立っている新海先輩が困った様に口を開く。
「本当に、抜け出して良かったのか?」
「はい!それについてはしっかりと問題無い箇所の配置でお願いしましたのでご心配なくっ!」
「それよりも……私達が目指す建物は正面のビルじゃないのかしら」
「そうですね。目の前に見える廃れた無人のビルになります」
夕食も終わり、炙り出しも完了したのでようやく動くことになった。今回の流れとしては、まずは陽動組が一階から虱潰しで制圧を行い、下に意識が向いている間に私達三人がビルの屋上から侵入し、ターゲットを確保。そのままとんずらしようとする作戦である。
「んで、だ。ここからどうやって隣の建物まで行く気だ?」
「ふっふっふー、そこは任せて下さいよ~。私に最善な案がありますので!」
「……その様子だと、かなりの自信があるようね」
「はいっ!最速かつ安全に屋上へお届けしますので!」
「なら良いんだが……」
スマホを見ると、残り一分を切っていた。
「残り一分を切りましたので、そろそろ準備しますね」
耳に当ててある無線に連絡をする。
「こちら舞夜、予定通り定位置で待機しています」
『了解です。こちらも予定通り開始致しますので、ご友人共々御武運を』
「何かあれば連絡しますので」
無線を切り、両隣に立つ二人に話しかける。
「では、私達も行きましょうかっ!」
「行くって……どうやって?」
「簡単です。私の力を使って隣のビルまでひとっ飛びです!」
「……は?」
「え……?」
予想通りの反応ありがとうございますっ。
「私でしたらお二人を連れたまま屋上まで行くのも楽勝なので!」
「いや、いやいやいや、何言っちゃってんの?」
「向こうの建物まで、少なくとも20メートル以上は離れている」
「そうですね!ですがモーマンタイッ!」
二人の体を掴むように腰に手を回す。
「心の準備は出来ましたか?」
「九重?じょ、冗談だよな……?」
「し、下までどれだけの高さがあるとーーー」
「ではではっ!二名様をお空の旅へご案内ですっ!」
九重家の力を使い、二人を持ち上げる。念のためアーティファクトの能力で固定し、全力で駆けだす。
「ま、……待て待て待てぇぇええええっ!!!???」
「えっ、ちょっと……!?きゃぁぁあああ!!!?」
屋上の端に足を出しそのまま踏み込んで飛ぶ。
「落ちるっ!?落ちるぅぅぅううう!!!!??」
「ッ!??……ッ!!!」
目を見開き悲鳴を上げる新海先輩に対して、結城先輩は目を閉じて現実を見ない様に縮こまった。
10メートル程度宙を飛び、速度が落ちる寸前に空中に足場を作る様に能力を使い、それを踏んで更に跳躍する。
「ぅうおっ!??!!はぁ?!」
「ほいっ!ほっ!」
タイミング良く飛び、ビルの屋上の目前まで辿り着く。
「着地しますので、衝撃に備えてくださーいっ」
最後の足場を越え、無事屋上へ降り立つ。
「よっ……っと。お疲れ様です、こちらがお隣のビルになります」
能力と力を解除して二人を下ろす。
「し、死んだと思った……」
「……つ、着いたの……?」
その場に尻もちを付く新海先輩と、ゆっくりと目を開ける結城先輩。
「はい、何事もなく辿り着けましたっ!パチパチパチ~」
私としても怯えた猫みたいな結城先輩を見られて大満足ですなぁ。
「ど、どうやって……ここまで飛んだの……?」
「私の聖遺物の力で空中を固定化することで、足場として使ったんですよ」
「そ、そんな使い方が……」
状況が飲み込めず若干素が出ておられますね。ふふ。
「せめてやる前に一言説明しても良かっただろ……」
「いやぁ~、お二人を驚かせたくてぇ~……。大成功のようですね」
「ぜってぇ寿命縮んだわ……」
「私も……かなり削られたかも……」
「あはは、だいぶお疲れみたいですし、ちょっと休んで行かれまーーー」
『休んで行かれますか?』と聞こうとしたが、下側から聞こえた破壊音で口に出すのを止める。
「ーーーと、言うわけにも行かないですよねー……」
「そうね。私達の役目は少しでも早くこの事態を収拾させること」
「ああ、ここで休んでる場合じゃないな」
気力を持ち直して立ち上がる。
「了解ですっ。それでは、私が先頭を歩くのでお二人は後を付いて来て下さい」
「ええ、よろしく」
「一応、俺も後ろの警戒をしつつ付いてくよ」
「ふふ、頼りにしていますよ。新海先輩?」
「まずは、屋上を出て下の階へ行きます」
九重の言葉に俺と希亜が頷く。……と、その前に。
「ソフィ」
念の為、ユーザーの場所を再確認する。
「心配しなくても大丈夫。場所は変わらないわ」
「何かあればすぐに知らせてくれ」
「ええ」
返事と共に姿を消す。
「なるべく物音や足音を立てずに進みたいので、お二人もお静かにお願いしますね」
いつもより真剣な声でこちらへ伝えてくる。
「……鍵は、掛かってはいないみたいですね」
屋上のドアノブをゆっくりと回してドアを開ける。一人分が通れそうな隙間を作ると、するりとその隙間を抜けて向こう側へと消える。
数秒後、静かに扉が開く。
「直ぐそこには居ないみたいです。行きましょう」
ゆっくりと安全を確保しながら階段を下りていく。
「………」
階段を降り、1つ下の階の廊下の角に立った九重が、こちらに待てと合図を送る。
「……っ」
それを見て、俺と希亜がその場で待機する。
壁に背を当てた九重が、胸元のポケットから何か道具を取り出す。
「………」
それを少しだけ角からはみ出させている。
……あれは、鏡?……なるほど、向こう側の確認をしているのか。
今回、九重は他の枝で見たような作業着……では無いけど、仕事着の様な黒の服装をしていた。
「………」
安全と分かったからなのか、静かに身体をこちらから出して向こう側を確認する。
その間、俺と希亜はなるべく息を潜めながら待つ。
「……大丈夫です。少なくとも見える範囲には居ませんね」
安全だと知り、安堵のため息が出る。
「さてと、ソフィが言うには……この階の一番奥に居るようですが……」
九重に続くように俺と希亜も動く。ビルの建物と言っても、一本道の廊下の両端に部屋があるとか簡単な構造ではないらしい。
「……まぁ、とりあえず進みますか」
特に周囲を警戒せずにスタスタと歩き始める。……人が居ないと分かっているのだろうか?
と、思っていると、下の方からガラスが割れるような音や、何かが壊れるような激しい音がここまで聞こえてくる。
「あちゃー、始まりましたね」
次に、連続で発砲音が響く。
「……ッ!?」
その音を聞いて、俺と希亜が驚く。
「け、拳銃……?」
「ですねぇ……ドンパチですから」
「し、下は、大丈夫なのか?」
「まぁ……問題は無いと思いますよ。部屋でも言いましたが、今回は相手側が銃刀法違反をしている前提で動いていますので」
そういえば、言っていたな……。
「……少し、急ぎましょうか」
先頭を歩く九重の歩くスピードが少し早まる。
それに付いて行き、廊下の角を曲がって先に進むとーーー。
「止まって」
小さく、呟く声に足を止める。
「……この先に部屋の前に、人が居ますね」
「ソフィ」
歩いている感じではこの先が一番奥になると思うが……。
「その部屋で間違いないわ。入口に一人、中に三人ね」
「ユーザー除いて三人か……」
たぶん、ボディーガードとして身を守っているのだろう。
「まずは入口の一人からですね……」
「……行けるのか?」
「ま、私にかかればちょちょいのちょいですよ」
「大丈夫なの?」
「はい、勿論です。お二人はちょっとここで待ってて下さい。その間、結城先輩をお願いしますね?」
俺の方を向いて、希亜を任せたと伝える。
「……ああ。任せてくれ。と、その前に」
九重が離れるのならと、レナを出しておく。
「これでこっちは大丈夫だ」
俺の返事に対してにっこりと笑い、部屋の方を向く。
「では、行って来ますね」
次の瞬間には姿が消えたと思ったら、部屋の前で立っている男の体が崩れる。その体を受け止めゆっくりと地面へ寝かせる。
無言で俺達に手招きをし、『こっちへ』と合図を送る。
「行こう」
「ええ」
「相変わらずやべぇ速度だな……」
足音を立てない様に静かに部屋の前まで辿り着く。
「ここからは、私一人で突入しますので、私が部屋から戻ってくるまでここで待っててください」
「大丈夫か?」
「この人が銃を持っているので、確実に中の人も所持しているはずです」
地面で倒れている男の胸元から黒い拳銃を取り出す。
「……マジかよ、これ本物か?」
「貰います?」
「捕まるだろ、それ……」
「ですねっ」
こちらに差し出して来た拳銃をそのまま右手で持ち、構える。
「あなたそれ、使えるの……?」
「まぁ、護身術をしていますので……」
「ぜってぇ関係ねぇだろ……」
「ま、威嚇ぐらいにはなると思いますよ」
すっ……っと立ち上がり、扉の前に立つ。一度俺たちを見て『行って来ます』とウィンクをしてきたので頷いておく。
左手をドアの前まで上げて、そのまま扉をノックした。
コンコン。
中の人間に警戒されにくいようにと扉をノックする。すると、すぐに中にいる人の気配に動きが出た。
……よし、これで先制は貰えたかな?
九重家の力を使うと、加減が少しばかり難しくなるので今回は無しで行く。
扉から一歩下がり、挟んで向こう側の人間がドアノブに手をかけたのを確認して思いっ切り扉ごと蹴り飛ばす。
「ッ!?」
扉が圧し折れ、男の人を巻き込んで部屋の中に吹き飛んでいく。
素早く部屋の中を確認すると、異常事態に反応したもう一人が胸元の服へ手を伸ばし始めていた。
させまいと手に持っている銃を全力投球する。咄嗟に反応出来ずに顔面に直撃し、顔が仰け反った。
今回は殺しは無しだから、気を付けないと……!
その隙を見逃さずに男との距離を詰め、先に右腕と右手の関節を破壊する。
「ぐっ……!?」
男の胸元にある銃を抜き取り、扉と一緒に倒れている男の方へとぶん投げる。
「がぁはっ!」
悶絶している男に更に追加で人間が圧し掛かる。そのままトドメを刺そうと向かった瞬間、投げ飛ばされた男が咄嗟に左手でナイフを取り出し私に向かって振るう。
「おっと」
ナイフの軌道を読み、持っている銃で受け止める。
嫌な金属音が部屋に鳴り響く。
「はっ!」
そのままナイフを掠め取り、今度は左腕の関節を外し、男の首を絞めて意識を落としにかかる。
「このっ!どきやがれっ!!」
下敷きの人が抜け出そうと暴れるが、上から力を掛けている為抜け出せずにいる。
「っ……!死ね!」
腕をこっちに伸ばして来たかと思うと、銃を手に持っていた。
射線上から外れるように体を下げる。すぐ横で発砲音が鳴り、顔横数センチを掠める。
上の男を絞めつつ、下の男の手から銃を足で蹴り飛ばす。
「大人しく、してて……下さいねっ!」
更に上から力をかけ、足で下の男の腕を抑える。
数秒過ぎ、一人目の意識を奪ったのを確認してもう一人の男も同じように制圧する。
「ふぅ……これでよしっと……」
両腕と手の関節を破壊して結束バンドとロープでぐるぐる巻きにして更に目隠しを行う。これで先輩達にもおかしく見えないはず!
一応これ以上武器を持っていないことも念入りに確認してから視線を外す。
「さて、と……」
部屋の一番奥を見る。会議室みたいな部屋で、窓などは無い。
「……逃げないね」
こちらに背を向けたまま、奥の椅子に座っている。逃げるどころか、声の一つも上げていなかった。
「……ソフィ」
嫌な予感がプンプンしているので、念のため呼びだす。
「終わったかしら?」
すぐに真横に現れる。
「……生きてる?」
「生きているわよ、確実に。……ただ、反応が無いのよね」
「そっか。暴走してるとか?」
「いいえ、まだギリギリしていないわ」
それは僥倖。まだ救える可能性があるならありがたい。
警戒しつつ、椅子に座っている女性に近づく。
「………」
目の前まで来ると、懐かしいと言うのか、妙な甘い匂いが漂って来た。
「ーーー、ーーー」
よく耳を傾けると、何やら小さく呟いていた。
椅子の背もたれを回して体をこちらに向ける。
「……これは」
虚ろな目で何もない場所を見つめながらブツブツとうわ言を口にしている。
「………」
口元まで耳を近づけると、『私は選ばれている……、悪くない……、もっと上を……、特別な力を……』とかなんとか。
そして、更に甘いような変な匂いが強くなる。
……この人は、どうやら壊れているご様子。
「どうかしら?」
「……ダメだね」
「精神がアーティファクトに耐えられなかったのかしら?」
「それもあるかもしれないけど……」
それよりも、もっと科学的な……人間の汚い部分で駄目になったと思う。
「これは、先輩達には見せられないかなぁ……?」
女の体を漁ると、内側のポケットからドックタグが出てくる。
「これだと思う?」
「ええ、それよ」
「そう言えば、ソフィが破壊し続ければ良いんだっけ?」
「そうなるわね」
「それって、物理的?」
「それがどうかしたのかしら?」
「……それなら」
ドックタグ型のアーティファクトを握り、力を込める。
「……お、出来た出来た」
手を開くと、粉々になったアーティファクトがあった。
「強引ねぇ……」
「いやぁ、神社の世界の眼が壊れるのならいけるかなーって思ってね。あ、はいこれ」
「わざわざありがと。手間が省けるわ」
あぐ、っと私の手を咥える。ぉお……!なんか変な感覚ぅ……!?
口が離れた時にはアーティファクトは消えていた。
「それじゃあ、先輩達に終わったって言わないとね」
「そこの子はどうするつもり?」
「なーんも。後は下の人に任せて私たちは退散するだけ」
「……そう、それじゃあ私は戻るわね」
「了解、また何かあったら連絡するね」
ソフィが消えたのを見て、入口へ向かう。
「すみませんっ、お待たせしました」
「お、終わったのか……?」
恐る恐る心配そうに私を見る。
「はい、滞りなく」
「怪我は……してないかしら?」
「この通りピンピンですよ!」
むんす、と力こぶを作る。
「アーティファクトの方も先ほどソフィに回収してもらったので、無事解決ですね」
「持ってた人は、無事か?」
「まぁ、ちゃんと生きているので大丈夫ですよ。命に別状はありませんから」
精神状態については考慮していませんが。
「中でやべぇ音は鳴るわ、拳銃の音が聞こえるわでこいつら滅茶苦茶心配してたぜ」
「いやぁ、少し荒っぽくしちゃったので……」
新海先輩が、そろーりと片付いた部屋を覗こうとしたので阻止する。
「先輩?見ないことをおすすめします」
肩に手を置き、口元に人差し指を当てて優しく伝える。それを聞いて無言で何度も頷いていた。
「……では、さっさと退散しましょうかっ。見られたらマズいですしね!」
「……そうね。ここはまだ戦場、気は抜けない」
「帰るまでが遠足ですしね」
「随分とあぶねぇ遠足だけどな」
「帰り道も同じように私が先頭を行きますので、付いて来て下さいね?」
殿をレナに任せて、下の方から未だに戦闘音が聞こえる中、来た道を戻った。
「やっぱり、興味深いわね……」
先程まで戦闘があった荒れた部屋で、椅子に座り項垂れている女のすぐ横に静かに声が響く。
「魔眼のあの子を……と考えていたけれど、どうにか手に入れられないかしら……」
「それにしても、私の話も聞かずに勝手に使い物にならなくなっちゃうなんて……ほんと低能なおサルさん」
椅子に座っている女を一瞥する。
面白そうな能力だと思って近づいたが、一切こちらの話に聞く耳を持たず、好き勝手に動いていた。多少は誘導はしたけれど……。
「まさか、変な物に手を出しておかしくなっちゃうなんてね。少し想定外だったわ」
「……ま、収穫もあったことだし良しとしておきましょう」
「次はどうしようかしら……フフフ」
アーティファクトの回収が無事に終わり、やることが終わったので結城先輩を送る為に三人で夜道を歩いていた。
「なぁ、九重……持ち場を離れて来ても良かったのか?」
「大丈夫ですよ?担当の人には遅いので帰りますって連絡は入れてますし、そもそも要らない配置でしたからっ!」
「まだ向こうの作戦は実行中じゃなかったの?」
「大体の制圧は済んでいますし、それに、未成年の私達が相手側と出くわしちゃったら面倒ですから居ない方がありがたいんですよ」
アーティファクトを回収するためだけに組んで貰った作戦だしね。用が済めば帰って良いと既に確認済み。
「なら良いんだが……」
その後も暫く街中を歩いていると、結城先輩の足が止まる。
「……ここまでで大丈夫。すぐそこだから」
「そうか?」
「ええ、それに、あまり親には見られたくないから」
「あー……そりゃそうか。遅くに男と居るのはなぁ……」
「そういうこと」
「それでは、ここで解散ですねっ!」
「……その前に、少し良いかしら?」
結城先輩が私を見る。
「私ですか?何か話が……?」
「……ええ、そうね……」
「俺、外した方が良いか?」
空気を察して新海先輩が提案する。
「……そうしてもらえるとありがたい」
「おっけ。向こうのコンビニで待ってるから、終わったら言ってくれ」
「乙女同士の秘密のお話なので男は退散ですねっ!」
「はいはい」
こちらの声が聞こえない程度に離れるのを見て、私の方へ振り向く。
「それで、お話と言うのは……?」
まぁ、十中八九今日の事だろうけど……。
「まずは……今日はお疲れさま。ほとんどあなたに任せるような形になってしまったけど」
「いえいえ、適材適所ですから!」
「適材適所……、あなたは、今回の様な事に慣れているのかしら?」
私のことを疑問に思う様な、確認するような目を向けてくる。
「結城先輩から見て、そういう風に見えた……ってことですか?」
「……ええ、そうね。少なくとも、場慣れしているように見えた。私や翔と違って落ち着いていた」
「……そう見えるのでしたら、つまりはそういうことですよ?」
「隠さないのね」
「誤魔化したり隠せる時は過ぎましたからねー……」
「あなたのそれは……実家が関係しているの?」
「ふふ、それは秘密ですっ。ま、何となく分かると思いますが!」
「……そう。彼はこのことを知っているのかしら?」
「何となく察していると思いますよ?他の枝の私から少しは聞いているみたいですし……」
「そうなのね」
「結城先輩の考えからすれば、あまり理解は出来ないことだとは理解しています」
むしろ、私はどちらかと言えば深沢先輩寄りですし。
「……素直に言えば、そうなるわね。部屋に入る前のあなたと出てくる時の姿や表情に特に変化は無かった。相当な修羅場を経験しているか、それが当たり前な環境で育った……そんな風に私は感じた」
「拳銃を見て、当然の様にそれを手に取ったあなたを見て、正直……訝しんだ。私達とは違う価値観で生きているのでは?……と」
「正常な反応だと思いますよ?気味悪いですもんねぇ……あはは」
正義感の強い結城先輩には受け入れがたい世界ですしね。
「……人は自分の理解出来ない物を排他しようと考える生き物……そういうことをよく聞くわ」
「ですね」
「……だからこそ、私はそれを知りたいと強く思う。あなたにはあなたなりの信念がある様に見える。共に戦う仲間として、理解したい」
真っ直ぐな、力強い目で私を見る。
……あぁー……、流石って感じだなぁ……。ちょっと眩しすぎると言うか、なんて言うか……。
「……以前にも軽く話しましたけど、困っている人に手を差し伸べたいって言ったと思います」
「ええ、聞いたわ」
「私の場合……その目的と手段が、皆さんとはちょっと違っているって事です。特に結城先輩が目指す正義とは、相容れない物です」
「………」
「ですが、私にも私なりの正義……とは綺麗事は言いませんが、信条を持っている。とだけ知ってもらえたら嬉しいです」
「私とは、違う……」
「はい。ですので、私のことを信じられなくても大丈夫です。代わりに、新海先輩の事を信じ、信頼して下さいね?」
「……あなたは、それで良いのかしら」
「まぁ……こうなるかなっと予想は出来ていましたし、致し方ないかと」
「……そう。分かった」
「他に聞きたい事はありますか?」
「いいえ、もう大丈夫」
「は~い」
「……今回のこと。そちらからすれば、私に一番知られたく無かった内容だと想像出来る。それでも、話したってことは……あなたなりに私を信じたと受け取っても?」
「ふふ、ご自由にどうぞ。私としてもプラスに受け取ってもらった方が嬉しいので」
他の枝の結城先輩だったら、まず関わらせないのは確かだけどね。
「それなら……好きに受け取っておく」
「了解ですっ」
「それじゃあ、私は帰るわ。そっちも気を付けて」
「はいっ!お疲れ様でした!」
「ええ、彼にもそう伝えておいて」
「お任せをっ」
ビシッと敬礼を決める。それを見てフッ……と笑い、背を向けて歩いて行く。
角を曲がり、姿が見えなくなったのを確認してくるりと反対側を向く。
……思ったより、好感触に受け取っていたね。やっぱり徐々に変化してきているんだろうなぁ。
四月も残り一週間を切っている。新海先輩の部屋で結城先輩が泊まるのが4/30だから、四日後になるね。
5/1の昼には天ちゃんが乱入するし……どうしよう、私も一緒に突撃しようかな?
そこからかなり期間は空くし……何か考えておかないとね。
ビルの件の次の日、学校終わりに実家に戻って来ていた。
「それでは、昨晩の報告をさせて頂きます」
和室の一室に、私とおじいちゃんと壮六さんで座り、情報の共有を行った。
「まずは、今回の件、一先ず終息へ向かっています。残党がまだ散らばっていますが、こちらも時間の問題でしょう」
「能力の影響を受けていた人達はどうなりましたか?」
「それなのですが、その時の記憶は保持しており、『それが普通だと思っていた』とのことです」
「……うーん、となるとやっぱり思考を誘導している感じだね」
「ですが、一部はそれ関係なく裏切っている組織もありましたね」
「他の連中の口車にまんまと乗せられたか、良い機会だと考えたか……そんなところじゃろ」
「まぁ、快く従っていない人もいますしねぇ……。損害や犠牲者は?」
「損害の方は、しばらくすれば落ち着くかと。被害の方は、こちらからは重傷者が二名と、それ以外の負傷者が十六名ですね」
「舞夜の方はどうじゃった?」
「私の方は……相手にしたのは三人だけ。手慣れている人達だったけど、それだけだったかな?プロでは無かった感じ」
「ターゲットの方は、私が来た時には既にあんな状態だったからねぇ……目的だけ済ませて放置しただけ」
「その方ですが、やはり薬物でした」
「やっぱりかぁ……誰かが使ってるのを見て、手を出しちゃったのかなぁ?」
「ストレスや責任から一時的に逃れる為に使った……と護衛をしていた男から聞いています」
「なるほどなぁ」
そこにアーティファクトの浸食のコンボでああなっちゃたとか?
「その女についてはどうするつもりじゃ?」
「現在はこちらで確保しておりますが……」
「……そうだね、消しておいた方が都合が良いかも」
当初は消えてもらう予定だったし。
「では、抗争に巻き込まれて……という形にしておきます」
「お願いします」
「では、この件はこれで終了じゃな!舞夜、今夜の飯はどうするつもりじゃ?」
「んー……特に考えていないかな?面倒なら帰りにナインボールで食べようかなとか」
「折角じゃ、ここで食べようではないか。最近機会が少なくなって来ているからの」
「昨日も食べた気がするけど……?」
「昨日はあやつらとじゃったろうが。ワシらとじゃ」
「それはそうかも……あれ?少し前に普通に食べたような……?」
「ワシとしては毎日でも構わんが、舞夜の都合もあるからの」
「あはは……、それはごめんなさいとしか言えないなぁ」
「今日は良い魚が入っていると聞いておるから、楽しみにしておれ」
「おぉ~……それは楽しみっ」
帰り道も当然、来た時と同じなのでもう一度絶叫体験を味わった二人であった……。
女社長は割と指図されるのが嫌なお方なので、イーリスの話を聞くことはありませんでしたとさ……。