お泊まり会の前話とかです。
最後辺りで翔視点へ変わります。
「遂にやってきました!第一回お泊まり会with九重家っ!!!」
全員が揃って和室で座っている中、両手を広げて堂々と宣言する。
「イエ~イ!」
「パチパチパチ~」
「遂に来たか……この日が……!」
ここを使ってから数日が経ち、ゴールデンウイークも中日が来た今日、全員の予定が合ったのでお泊まりを決行した。
「今日はただただ楽しみましょう!夜には皆で夕食を作りましょう!」
「おおっ、いいね!因みに何作んの~?」
「ふっふー、本日のメニューはカレーです!誰でも食べれると思って九條先輩と決めましたっ!」
「ほぅ……カレーか……素晴らしい……」
「無難で悪くないチョイスだな」
「舞夜ちゃんと一緒に買い出しもしてきているよ」
「イエスッ!お買い物デートをしてきましたっ」
「既に準備済みってか……」
「すみません、ちょっと楽しみ過ぎて先走りしていました」
「舞夜ちゃんすっごく楽しみにしながら買い物してたんだよ?ふふ」
「まぁ、グルチャでめっちゃ伝わってきてたもんねー……」
時刻は夕方前なので、夜までまだ時間はある。基本的にそれまでは自由に過ごしてどうぞって感じにはなっている。
「一応、トランプとかのカードゲームや将棋やチェスとかのボードゲームもありますよー?」
近くの引き出しから新品のゲーム達を取り出して置く。この日の為に買って来ていた。
「チェス……フフフ」
「……チェス」
高峰先輩と結城先輩はチェスに反応を示す。似た者同士だなぁ……。
取り敢えずチェスを高峰先輩に渡す。
「やりたそうなのでどうぞこれを。結城先輩なら嗜んでいると思いますよ?」
「有難く受け取ろう。……して、結城君?」
「当然の嗜みね」
「流石だ。ルールは?」
「普通ので行きましょう」
「よかろう。九重君、トスを頼む」
「え、あ、はい。行きますねー?」
コインを打ち上げて手の甲で受け止める。結果としては高峰先輩が先行だった。
「こちらが先行だ。色の選択権はそちらに譲ろうじゃないか」
「当然、黒ね」
「フフフ……なら私は白で行かせてもらおう」
チェスはちょっとしかルールは分からないが、何だか真剣そうな空気なのでそのまま置いておく。
「えっと、あたし達はトランプでもしときますか?」
「……だな、俺は何でも大丈夫だから、もし他にやりたいのあればそれを」
「ううん、私は大丈夫だよ」
「わ、私も、それで……大丈夫です」
大丈夫だと言った香坂先輩だが、少しチェスの対戦にも意識が向いている。……二人が落ち着いたタイミングで交代出来ないか聞いてみようかな?
そんな感じで各々楽しむことになった。
「~~~」
「あったっ!!」
天ちゃんが、畳に並べられているカードの中の一枚に素早く手を置く。
「これでやっと四枚目っ」
嬉しそうにガッツポーズをとる。
トランプで一通り遊び、他に無いかと漁っていると、かるたが出て来た。しかもことわざかるた。皆で懐かしいと話していた流れでそのままやることになった。
今は天ちゃん対九條先輩である。戦績は天ちゃんが四枚、九條先輩が七枚である。十枚先取にしているのであと三枚で九條先輩の勝ちになる。
「それじゃあ、次行くね?」
読み上げは私がさせてもらっている。
「~~~」
「あっ」
九條先輩が上の句を読み上げた時点でカードを取る。今回は天ちゃん側に正解があったが取られてしまう。
「うわぁ~近かったのにぃ~……しかもあと二枚じゃん!」
「おい天、もうちょっと頑張れよな」
「うるさいやい、私とみゃーこ先輩じゃ頭の出来が違うんですー」
「そ、そんなことないと思うよ……?」
「自分でそれを言うのか……」
ま、確かに知っているかどうかの差は大きいと思う。けど、なるべく公平にするために、開始前に全ての組み合わせの説明と解説はしてある。
「くっそー……逆転しないとぉ……」
「あー……次行くね?」
これは九條先輩の勝ちかな?と思いながら次のを読み上げる。
「~~~」
「あっ!」
上の句を読み終えるより前に天ちゃんが声を上げる。
「えっ!?」
その速さに九條先輩が慌てるように反応する。
天ちゃんの手が素早く伸びる……が、カードに手が付く直前に動きを止めて再び探し始める。
「……え?……あれ?」
それを見て九條先輩が困惑している。
「もらいっ!」
その隙に正解のカードを勝ち取る。
「やったー大成功!」
「こっすい事してんなぁ……」
「なんだよぉ、作戦勝ちでしょうが!」
「作戦……?」
未だに首を傾げている九條先輩。
「えっと、読み上げ役として私が解説しますと……、九條先輩が見つけるよりもかなり早い段階で天ちゃんが声を上げたじゃないですか?」
「うん、すぐに見つけられたと思って焦っちゃった」
「それが、天ちゃんの作戦なのですよ。声を上げることで先に見つけられたという考えを与えて慌てさせる……すると、余裕が無くなるので正解のカードを探す思考が鈍る。そんな感じです」
「わが妹ながら情けなくてすまん」
「いいじゃん!思いついたから試してみただけ!」
「あ、ううん。天ちゃんのも立派な作戦ってことだよね?それならインチキじゃないから私は気にしないよ?」
「ほら~!みゃーこ先輩もこう言ってるよ?」
「人の善意につけ込むとは……ま、九條がそう言うならいいさ」
「次、行きますね?」
それからも攻防が進み、天ちゃんが六枚、九條先輩が九枚まで来た。あと一枚で負けとなる天ちゃんは若干焦っているが、全体の枚数も減って来ているのでまだ可能性はある。
……と、思っていたが、結果としてはこれがラストとなった。
「あ~ちくしょー……負けたぁ……」
「ふふ、天ちゃんの作戦を真似させてもらいました」
「因果応報だな」
「自業自得ですねぇ……」
最後の一戦、焦っている天ちゃんを見ていた九條先輩が、天ちゃんと同じ様に読み上げている最中に小さく『……あっ』と声をあげて手を伸ばした。
それに釣られて視線を一か所に固めてしまった天ちゃん……だが、正解は九條先輩側にあった。
しかも、中々性格が悪い戦法だと思うのが、最後の方は天ちゃん側の枚数が少なく、九條先輩側が多かった。九條先輩は天ちゃん側の下の句を全部記憶しており、無いと分かりながらもそちらに手を伸ばし、天ちゃんの思考と視線を手元に留めた。
「……純粋だったみゃーこ先輩が悪に手を染めてしまった……」
「え、ダメだった……かな?」
「んなこと無いから」
「いい作戦だったと思います」
「えっと、うん、ありがとね」
「策士、策に溺れる……がくっ」
ちょーっと違う様な気もするけど、可愛いからよしっ!
敗者の天ちゃんを慰めながらも九條先輩の勝利で終わる。
「次、どうします?新海先輩と香坂先輩いきますか?」
「俺は構わないけど……先輩、大丈夫です?」
「あ、え……えっと、ごめんなさい。こういった記憶するの、あまり得意じゃなくて……譲ります」
「それじゃあ、残った私がやりますか」
「九重かー……なんかこういうの得意そうだな」
「変な偏見ですねぇ……因みにですが、天ちゃんと同じくらいですよ?あまり興味無いので教養レベルでしか覚えてません」
「それなら……まだ勝ち目はあるって感じか」
「ではでは、香坂先輩、読み上げるのをお願いしても良いですか?」
「わ、わたしが……でしょうか?」
「はいっ、あ、もしやりにくいのでしたらもう一人の先輩に変わって読んで貰っても良いですよ?あちらの先輩も結構好きなので!」
「もう一人の、私で……?」
「あの口調と声で読んで貰えるって、結構良い感じな気がしますのでっ」
女王様トーンで読み上げて欲しい……!
「おい、九重、若干趣味に走ってないか?」
「まっさか~、気のせいですよ?」
「あ、いえ、私は大丈夫なので……ちょっと待ってください」
一度目を閉じる。
「お待たせしました」
「あの~先輩?無理して応えなくていいんすよ?無視しても大丈夫なので……」
「いえ、こちらのわたくしにも好きと言ってもらえて嬉しいですわ。なので、お気になさらず」
「あ、そすか」
「おぉ……じゃあ、香坂先輩っ、お願いします!」
私からカードの束を受け取り、軽くシャッフルを始める。
少し慣れない手付きでシャッフルを……あっ、落とした。
何事もなかったかのように拾ってシャッフルを続けた……。
「それでは、いきます」
準備が整ったので新海先輩と向き合う。
「良薬はーーー」
おお……やっぱり私の想像通り良い声だなぁ……。
「もらったっ!」
私が香坂先輩の美声に酔いしれていると、一枚を取られる。
「あ、取られましたね」
「二枚目、行きますね?」
「どうぞどうぞ~」
出来れば上の句が長いのをお願いしますっ!
「塵も積もればーーー」
ーーー山となる。ふむ、ヒロインで一番大きい山だしね。先輩、幾つあるんだっけ……?確実に80台は越えてるし……あれ?90丁度だったっけ?
「これっ!」
私が香坂先輩の胸部に夢中になっている間に二枚目も取られる。
「ありゃ、お早い」
「九重……今、よそ見してなかったか?」
「えっ?勝負中にそんなことするわけないじゃないですか~……あはは」
「いや、全然動かなかったからさ」
「ただただ見つけられていないだけですよ?」
「ほんとに得意じゃないのか」
「得意ではありませんね」
まぁ、それどころじゃないんですが。
「次、行きます」
「は~いっ」
そんな感じで勝負は続き、戦績が私二枚、先輩が九枚まで来た。
「いやぁ~……ここまで来ちゃいましたねぇ」
因みにだが、私の二枚は先輩がお手付きで自爆したのでゆっくりと取れた二枚である。
「これはにぃにの勝ちだねー」
「ここから逆転は、厳しいね……」
「それなら、ここから華麗なる逆転劇をお見せいたしましょうっ!」
「……やっと真面目にやる気になったか?」
「まるで私がテキトーに相手していたかのような言い方ですね」
「ここまで来ても全く焦って無いからな。端から勝つ気が無いのか、この状態を待っていたかのどっちかだろ?」
「……ふふふ、さぁ?どっちでしょう?」
「次、読み上げますね」
「はーい」
「………」
最後の勝負と言わんばかりに、新海先輩が今まで以上に集中する。
「雨降ってーーー」
「っ!!」
答えが分かった先輩が素早く手を伸ばすーーーが、カードに触れる前に正解のカードを掠め取る。
「なっーーー!?」
直前までそこにあったはずの場所に手を付ける。しかし、既にカードは無くなっていた。
「……先輩が求めているカードはぁ、これですか……?」
正解のカードを見せびらかす様にヒラヒラと動かす。
「くっ……!勝ったと思ったのにっ」
「人間、自分が勝ったと思った瞬間こそ、一番隙が生まれる生き物なのです……これ、テストに出ますよ?」
「……ありがたく聞いておくさ」
「次ですね」
「火中のーーー」
「ほいっ」
新海先輩が動き出すよりも先にカードを抑える。
「……っ」
「四枚目、ですね?」
これで四枚目。
「人の振りみーーー」
「よっ」
確実にこれと分かる所まで聞いてから五枚目を取る。
「……まじかよ」
「人から始まるのって何枚かあるので迷ってしまいました……えへへ」
「先輩、次……行きましょうか?」
その後、新海先輩に一枚も取らせることなく無事に十枚目を取って終わる。
「……八連続って、にぃに完全に遊ばれてたんじゃ……?」
「うっせ、わかってたよ……はぁ」
「中々の……接戦でしたね……!先輩っ!」
「どこがだっ!勝とうと思えば何時でも勝てたのに遊びやがって」
「いえ、これにはちゃんと理由があるのですよ」
「理由?」
「はい、可能な限り……一番長く香坂先輩の読み上げる声を聞きたかったという大事な訳が……!」
「あら?わたくしの声を?」
「はいっ!そのためにお願いしましたのでっ!」
「あら、あらあらあら」
嬉しそうにニコニコしている。どうやら嬉しくてあらあらと言うbotになってしまわれた様だ。
「私の勝利ということで、九條先輩とですか?それとも天ちゃん?」
「いや、あんなのに勝てないっしょ。いや待てよ、みゃーこ先輩ので視界を奪えばいけるか……?」
「それは流石に、舞夜ちゃんがかわいそうじゃないかな……?」
それから他のゲームや人を変えたりして遊び、日も暮れたので夕食を作る事になった。
ここは女子陣だけで楽しむ為に、先輩達二人には部屋でおとなしく待機を言い渡した。
「九條さん、野菜の方は切り終えたわ」
「わ、私の方も、終わりました」
「ありがとうございます。こちらでもらいますね」
「炊飯器のスイッチもオッケー」
「それじゃあ肉と一緒に炒めますか」
「そうだね、この調子だと少し時間が余りそうだし……んー、明日のお味噌汁も先に作っちゃおっか」
「イエッサー。喜んで手伝いますっ」
空いている方のコンロに水を淹れた鍋を置き、冷蔵庫から豆腐や味噌などの材料を取り出す。
「材料適当に切っておきますねー?」
「うん、お願い」
カレーの面倒を見ている九條先輩の許可を貰って始める。
「天ちゃん天ちゃん」
「んー?どしたの」
「今から曲芸するから見てて見てて」
「おっ?何をすんだい?」
豆腐をパックから取り出して手の平に乗せる。
「今からこれを一瞬で切ってしんぜよ」
包丁を右手を持つ。
「って、危なくない?」
「大丈夫大丈夫。いくよー?はいっ!」
自分の手を切らない様に気を付けながら高速で豆腐を良い感じの四角に切り分ける。
「これが……」
手を斜めに傾け、鍋へ投入する。切られた豆腐がボトボトと中へ落ちていく。
「うおぉ……かっけぇー……めっちゃはえぇ……」
「どやぁ……」
包丁を持ったまま腰に手を当ててどや顔を決める。
「危ないから変な真似は控えて」
「はーい」
結城先輩に注意され大人しく作業を進める。
「天ちゃん、味噌入れて貰っていいー?」
「おうおう、任せなされ」
突っ込んだ具材に火が通ったので、火を弱めてから味噌を入れ始める。
「これってさ、どんぐらい入れれば良いの?」
「どうだろ?私は良い感じの味になったら入れるの止めてたけど……ここは分量通りでいこっか」
「りょーかい」
「あとで九條先輩の味見で評価してもらおう」
「だね」
取り敢えず味噌汁の方は適当に完成しそうなのでカレーの方を見てみる。
こちらもルウを入れ終え、残りは煮込む程度だった。
「おぉー……そちらも終わりそうですね」
「そうだね、あと五分くらいで完成かな?」
「何か仕上げに隠し味とか入れたりは……?」
「んー、特に考えてなかったなぁ」
「ほら、チョコレートとかコーヒーとかヨーグルトとかハチミツとかとか」
「そ、そんなに沢山は難しいかなぁ?」
「隠し味が隠せなくなっている」
「だね、全部入れちゃ主張が激しすぎるってもんよ」
「そ、そう、そうですね……」
「えー、全部カレーと良い感じに入れたら調和とかしたりしないですかぁ?ほらっ!九條先輩の腕でなんとかっ」
「わ、私の……。そこまでやったことないから出来そうにない、かな?ごめんね?」
「あ、いえいえ冗談ですのでお気になさらず~」
うん、やっぱりそうだよね。全部……しかも全力投入は異常だよね。
チラッと香坂先輩を見るが、『へぇ~……』と言った感じの表情をしていた。
それから特に事件は起きずにカレーは完成し、適当にサラダを追加で作った。
「あっ、カレーに目玉焼き乗せたい人とかいますか?私今から焼こうかと考えていますが……?」
「まじか、ついでにあたしのも頼んだっ!」
「なら俺も」
「私のも目玉焼きを頼む」
「了解ですです」
ついでに言った人数分の卵を取り出して作る。明日の朝食分の卵の分はあるし問題は無さそう。
「んじゃ、皆揃ったし……いただきますっ」
全員で食への感謝として手を合わせ、夕食へ移った。
「ぷはぁー。風呂上りの一杯は最高ですなぁ!」
「ですなぁー……」
「二人とも、行儀が悪い……」
「でも、ついつい言いたくなる気持ちは分かっちゃうな~」
女性陣最後の私の風呂が終わり、次は男性陣へ開け渡した。
「最後の新海先輩が上がったら部屋へ案内しますね~」
「寝る所はベッド?」
「ベッドがある部屋と和室に布団敷いてある部屋の両方あるから好きな部屋選んで大丈夫だよ?」
「至れり尽くせりだなぁ……」
「お客様のニーズにお応え出来るよう誠心誠意を込めてますからっ!どっちも二部屋ずつあるから男女分ける事も可能です」
「おいおい最高かよ……」
「ベッドの部屋は一部屋にセミダブルが二つなので、まぁ大丈夫でしょう」
「充分過ぎる」
「こんな、旅館みたいな家で……二階には、ホテルみたいな部屋が……っ」
外泊する機会があまり無かったからだろうか、九條先輩除いて皆少しワクワクしているご様子。特に香坂先輩。
「九重君、私と新海翔は一緒の部屋で寝た方が良いかな?」
女子とお泊まり……とまでは行かないが、お風呂上がりで少しラフな格好をしている女性陣が居るので若干距離を置いている高峰先輩が声をかけてくる。
「いえ、自由に選んで貰って大丈夫ですよ?例え和室とベッドで一人ずつでも大丈夫ですので」
「フ、そうか。私は和室を希望したいが……彼次第だな」
「先輩はベッドを選びそうですが……その時はその時で好みで寝ちゃってください」
「もてなし感謝する」
「このくらい大したことじゃないですので~。じゃあ、高峰先輩は和室ですね?この後案内します」
「ああ、よろしく頼むよ」
高峰先輩は和室っと……多分新海先輩はベッドを選びそうだなぁ。
「ではではっ、ごゆっくりお楽しみ下さいね!」
「こんな良い部屋を一人で使ってすまん」
「いえっ!数は足りているので遠慮せずお使いください!」
申し訳なく謝る俺に、特に気にしていない様に九重が返事をする。
「一応、高峰先輩が正面の和室で、奥の先輩側の洋式に天ちゃんと九條先輩。反対の和式に結城先輩と香坂先輩が居ますので、用があれば訪ねて下さいね?」
「九重はどっちで寝るんだ?」
「ふふふ、私はどっちにもお邪魔します!……ま、最終的には洋式に行きますが」
「了解。何かあったらお邪魔させてもらうよ」
「は~い。あっ、先輩先輩」
何かを思い出したかの様に顔を近づけてくる。
「ん?どうした」
内緒話かと耳を近づける。
「……一応、どの部屋も防音設備は万全なので、多少の音は外に漏れませんよ?」
「っ!?」
九重の意図に気付き、顔を離す。言った本人は揶揄うように笑っている。
「お、お前……」
「寝不足にならない様にだけ気を付けて下さいねっ?」
面白い物が見れて満足したのか、速足で去って行く。
「……はぁ」
揶揄われていたのは分かる。顔が熱い……。
「家主側が催促してどうすんだよ……全く」
顔の火照りを誤魔化す様にベッドに寝転がる。一人で寝るには充分過ぎる大きさだ。
「なんか……すげぇ贅沢してる気分だ……」
九重の厚意で使わせて貰っているが……普通に泊まるなら一泊幾らぐらいなんだろう?家を丸ごと借りている様なもんだしな。
設備も充実していて、皆で集まるには持ってこいなのは分かる。なんなら住めるレベルだ。
「九重の、実家の力……か」
実家でもかなり発言出来る立場とかは聞いてはいるけど……それだけなんだろうか?当主のおじいさんが師匠で、許可は貰っているのは知っているが……。
「一部、アーティファクトの事を教えていて、協力もして貰っているしなぁ」
毎日レナの練習にも色んな人達が協力してくれている。情報を共有はしているが……全員が人間を辞めている様な動きだった。
「ほんと、至れり尽くせりで申し訳ねぇ……」
イーリスと戦う時の為にこうやって鍛えてはいるが、それが何時になるかさっぱり分からない。完全に受け身の姿勢になっている。
「どっかのタイミングで……ソフィとも、はなしておかないと、なぁ……」
ベッドに横になっていたせいで睡魔が襲って来る。
一気にきたなぁ……と思っている内に、どんどん意識が遠ざかって行った。
コンコン。
「ーーーっんぁ?」
部屋をノックされる音に目を覚ます。
「やべぇ、少し落ちてたわ……。はーい」
ベッドから起き上がり、スマホを見る。どうやら30分近く寝ていたらしい。
立ち上がって部屋のドアを開ける。
「……希亜?」
「……入っても、良い?」
そこには、寝間着姿の恋人が顔を上げて、こちらを見つめていた。
お泊まり会、夜遅く、一人で寝る彼氏の部屋へ訪れる彼女……何も起きないはずもなく……。
次回っ、夜の密会っ!