9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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イーリス戦の決着シーンへ巻き戻りですね。




第23話:雪中松柏

 

「ジ・オーダー……アクティブ!」

 

スティグマが広がる。希亜の身体に術式が刻まれ、ジ・オーダーの力が増す。

 

「さよなら、イーリス。哀れな神よ」

 

「哀れ……?私が、哀れですって……!」

 

「愛を知らず、傷つけることしか知らないあなたは、哀れでしかない。たった一人でも、あなたを大事に思ってくれる人がいれば……その力、正しく使えたでしょうに」

 

「………」

 

「哀れね。……本当に、哀れ」

 

「小娘がぁッ……!」

 

「……小娘じゃない。結城希亜。あなたを殺す者の名……覚えておきなさい!」

 

「パニッシュメント!」

 

稲妻が、イーリスを貫く。

 

「ぁ……っ」

 

世界を越え、希亜の魂の光が、イーリスの魂を焼き尽くす。

 

「っ、く……っ、か……っ……わ、私が、こんな、小娘に……ッ」

 

「こんな、終わり方……っ、私はみとめーーー」

 

言葉は、そこで途切れた。瞳は虚ろに揺れ、力を失った頭ががくりと垂れる。

 

先生の身体から……イーリスが、離れた。

 

「先生……!」

 

「沙月ちゃん、大丈夫なの!?これっ」

 

「大丈夫だよ、まぁ、もう少しは動けないと思うけどね」

 

「……ちゃんと息もしているし、脈も正常。気絶しているだけ」

 

「それならよかったぁー……」

 

「び、病院へ、連れて行った方が……」

 

「そうね。でも……」

 

希亜が、周囲に視線を向ける。

 

感染者たちが、その場に崩れ落ちてーーー。

 

「え……?」

 

異変に、気が付いた。

 

ほとんどの感染者は、イーリスの支配が解かれ、倒れている……だが、一部の感染者だけ、立ち尽くしたままだった。

 

いや、正確には……石になって。

 

「どういうこと……?」

 

希亜が困惑した声を上げる。そして、更に気がつく。

 

石となっているのは、特定の方角を向いている感染者だけ。

 

俺達を……いや、俺達の背後を向いている。

 

「いいね、すごくいい」

 

その場に似つかわしくない、明るい声。聞き覚えがある声。

 

……どこか、予感があったのかもしれない。

 

みんなが動揺している……。けど、俺は。

 

「石になるまでの時間、じれったくてイライラしてたけど、楽でいいね。()()()()()()

 

「……与一」

 

こうなるだろうと、きっと……予感していた。

 

「ただ、こっちを見ている人じゃないと石に出来ないのは不便だなぁ……。どうにかならないの?これ」

 

「ならないわよ。魔眼はそういうものだから」

 

与一の傍らに現れた、異質なぬいぐるみ。当然、ソフィじゃない。

 

「イーリス……」

 

「ハァイ、お久しぶり。あぁ……あなたたちにしてみれば、さっきぶりかしら」

 

「……嘘でしょ?」

 

「そんな……」

 

「どう、して……」

 

「確かに、手応えはあった……!間違いなく死んだはず……!」

 

「………」

 

「フフフ……」

 

ゾッとするような不気味な笑み。動揺する俺達を、イーリスは嘲笑う。

 

「少し、お喋りさせてもらってもいいかしら?」

 

「どーぞ、お好きに」

 

「あなたたちにしてみれば、せっかく殺したのにすぐに復活したように見えるでしょうけど、私にとっては数百年ぶりなのよ?」

 

「時間が欲しかったから、死んだふりをしてみたの。どう?うまくできていたかしら?」

 

「死んだふり……?じゃあ、私が倒したのは……っ」

 

「ごめんなさいね?ぬか喜びさせちゃった?」

 

「……しくじった?そんな……」

 

「あなたたちの力を知っているのに、対策しないはずがないじゃない、馬鹿ね。信じられないなら、試してみる?私の魂、捉えられるかしら?」

 

「……うまく隠れているわね。まんまと騙されたわ」

 

「そうでしょう?頑張ったのよ。本当に死んじゃいたくないから。フフフ」

 

「……っ」

 

希亜が悔しそうに、拳を握る。

 

イーリスを、殺せなかった。

 

その事実は、すんなりと受け止められた。うまく行き過ぎたことに、違和感を抱いていたから。

 

俺が動揺しているのは、イーリスが生きていることじゃなくて……。

 

「……数百年ぶり、ということは、そちらも持っているのですね?」

 

俺の横に立つ九重が確かめる。

 

そう、数百年ぶり。そう言った。つまりーーー。

 

「フフ、さすがに察したかしら?そうよ、その通り。お礼を言うわ。ありがとう、カケル」

 

「オーバーロードの存在を教えてくれて」

 

「運命を操る魔術なんて御伽噺だと思っていたの。荒唐無稽で研究する気にもなれなかったけれど、実在するのなら話は別」

 

「アーティファクトは、人が創り出した物。オーバーロードも、例外じゃない。だったら、私にも創れるはずでしょう?」

 

「……っ」

 

唇を強く噛み、血の味がする。

 

しくじったのは、俺だ。

 

俺が、オーバーロードが実在すると、イーリスに教えてしまった。他の枝よりもかなり早い段階で。そのせいで、対策する時間を与えてしまった。

 

死を偽装し、俺達を安心させ、オーバーロードを自ら生み出す時間を……!

 

「……解せないわね。なぜ戻って来たの?今更カケルたちに拘る理由なんてないでしょう?」

 

「あるわよ、大あり。私たちって不老でしょう?憎たらしい子がいても、勝手に死んでく」

 

「そう、勝手に死んじゃうのよ。死なれたら、憂さ晴らしもできないじゃない。引きずるのよねぇ……そういうの。気持ちよく生きる為に、きっちりやっておかないと……」

 

「死んだふりなんて屈辱的な真似をさせられた、そのお返しを……フフフ」

 

「ふざけんなよ……っ、こんな大勢の人を巻き込んで……!死なせて……!」

 

「演出よ、それなりに達成感があった方が、あなたたちも嬉しいでしょ?私なりに気を遣ってあげたのだけど……お気に召さなかった?」

 

「て、め……っ!」

 

「あら怖い、怒った?」

 

「……話長いよ。もういいだろ」

 

「ふふ、ごめんなさい。私って元々研究者でしょう?好きなのよ、誰かに解説するの。自分が苦労した話なんて、特に熱が入っちゃう。つい喋り過ぎちゃうのよね。……あなたなら、わかってくれるんじゃない?」

 

「ま……、僕もお喋りだけどさ」

 

「……与一、邪神に与するのか?」

 

イーリスと話している与一を見て、高峰が問う。

 

「そういうことになるんじゃない?知らないけど」

 

「……いいんだな?それで」

 

「良いも悪いも、僕は好きなことをしてるだけだよ」

 

「そうか……」

 

「……すまない、みんな。裏切る」

 

一度こちらを向いて、謝る。やはり、こうなってしまったか。

 

高峰が俺達から離れ、与一の方へ向かう。

 

「ーーーっが!?」

 

しかし、その途中でいきなりその場に崩れ落ちる。

 

「……裏切る、ということでしたら、私達の敵ですよね?」

 

隣を見ると、右手をプラプラと振っている九重が立っていた。

 

「……も、もしかして、倒したのか?」

 

「はい。わざわざ敵対宣言してくれたので分かり易かったです」

 

「うわぁ……蓮夜かわいそ。相変わらず容赦ないね、舞夜ちゃんは」

 

「深沢先輩が敵対した時に、こうなると予想出来ていましたからね。当然の結果です」

 

倒れている高峰を持ち上げ、近くの茂みに投げ込む。

 

敵となった瞬間から容赦がない……が、こうなると予想出来ていたなら納得は出来る。

 

「……それで?私達と戦う、で良いのですね?」

 

「ははっ、そうだね。その通りだ。そっちが分かり易くて助かるよ」

 

隣にいる九重の雰囲気が変わる。その目は初めて見るような殺意の籠った目だった。

 

「それじゃあ、始めようか。人目に付きたくないし、さっさと終わらせないと」

 

「……何をする気?」

 

与一の言葉に希亜が警戒心を露わにする。

 

「決まってるでしょ?」

 

「ーーー全員殺す」

 

言葉と同時に、与一の顔にスティグマが浮かび上がる。

 

ーーーマズイッ!

 

そう思った瞬間、俺達と与一の間に赤い炎の柱が燃え上がる。これは……っ!?

 

「やっぱり、初手は魔眼ですよね……」

 

能力を持っている九重が呆れるように呟いていた。

 

「……すまん、助かった」

 

「いえ、まだ最初を回避しただけです。次が来ますよ」

 

炎の向こう側に居る与一の手が上がる。

 

「っ!?マズイ!避けろっ!」

 

その手は、天の方を向いている。

 

「天ちゃんっ、こっちへ跳んで!」

 

「ぇっ、っ……!」

 

九重の声を聞いて、天が咄嗟にその場を跳んで、俺の後ろに()()()()

 

炎の柱を切り裂き、さっきまで天が居た場所を刃が通り過ぎる。

 

「うぇ!?何今のっ!やっべぇ……!」

 

「……ふーん、避けられちゃったか。今のがやりなおし、なのかな?やっぱり面倒だね」

 

「その子の反応も早かったわね……。殺すのは大変かしら?」

 

「ま、いーや。じゃ、次はそっちの番ね。僕のこと、お好きにどーぞ」

 

「……何を言ってる」

 

「そのまんまだよ。抵抗しないし、石にもしない。僕を殺していいよ。どーぞ」

 

「………」

 

「あー、そっか……。翔はそういうタイプだったっけ……?それなら……」

 

与一の視線が俺から外れる。

 

「舞夜ちゃん、お願いしていい?君なら簡単でしょ?」

 

「……オーバーロードの性能テストをするってことですね?」

 

「そういうこと。翔は殺すのNGみたいだし、殺せる人に頼もうかなって」

 

「……はぁ、嫌なことを言いますね」

 

ため息を吐いて、与一へ近づく。

 

「こ、九重……っ!?」

 

こちらの呼びかけに応えず、与一の目の前に立つ。

 

「あ、出来れば痛くない殺し方だとありがたいな。一瞬で死ぬやつ」

 

「……ありますよ」

 

静かに言った九重の手をブレる。……と、同時に与一の首が身体から離れ、地面へ落ちる。

 

噴水の様な夥しい程の血が辺りに飛び散る。

 

「……イーリス、さっさと戻して下さい」

 

「フフフ、やっぱり、あなたは良いわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、出来れば痛くない殺し方だとありがたいな。一瞬で死ぬやつ」

 

「……ありますよ」

 

「……っ、頭いったぁ……。あ、ストップ、もういいよ」

 

「……巻き戻したのですね?」

 

「そ。僕のお願い聞いてくれてありがとねっ。おかげで痛い思いしなかったよ。なるほどねぇ……こんな感じなのか」

 

納得する様子の与一を一瞥してこちらへ戻って来る。

 

……今の言葉通りなら、九重が与一を殺して巻き戻したのか。

 

「いやー、初めてだからどうなるか心配だったけど。案外あっさりしてるんだね」

 

「心配しなくても平気よ。たとえ死んでも私が巻き戻してあげる。安心して好きにやりなさい」

 

「安心ねぇ……。失敗を無かったことに出来るのはいいけど、一度死んで痛い思いするでしょ?微妙だなぁ……」

 

「あと記憶の復元?頭痛するのもなんとかしてよ」

 

「それは私にもどうにもならないわよ。自分で何とかなさいな」

 

「……はいはい。じゃあ、死なない様に頑張るしかないね」

 

「それなら、徹底的にやらないとね」

 

与一が手を前に出すと、赤い烈風が俺達へ放たれる。

 

「ふっ!」

 

しかし、九重が出した炎がそれを相殺する。

 

「……だよね、やっぱりこうなるよね。それに……」

 

自分の手を見つめる。

 

「……駄目だな、これ。派手なだけだ。やれることが多すぎて迷うな……。相手が居るんだし、色々試してみないと」

 

今のは……イーリスが使っていた能力っ!

 

「残念ですが、そちらのお遊びに付き合うつもりはありませんよ」

 

冷たい言い放った九重が懐から何かを取り出し、頭上へ掲げる。

 

パンッ!と音が鳴り、俺たちの上空で赤い煙が広がる。

 

「……発煙弾?」

 

「赤色の物です。緊急時にこれがあったら、見た人達はどうするでしょうね?」

 

「なるほど。公園の時もそうだったけどこちらが嫌がることを平気でしてくるね」

 

「既に警察や緊急の人も街へ来ています。人が寄って来るかもですね?」

 

「……ほんとね。こちらへ向かって来てる気配を感じるわ。急いだ方がよさそうよ」

 

「それならさっさとーーー」

 

結界が割れる音が鳴る。

 

「ーーーがっ……ぁ……っごは!?」

 

少し呆れるように、与一が目を閉じた。その一瞬で九重が炎のアーティファクトを腕に纏い、結界ごと破壊して与一の心臓を貫いていた。

 

俺が見えたのは、終わった後の結果だけだった。

 

「だから、一瞬が命取りですよ?深沢先輩……」

 

「っは、……やる、……ねっ」

 

貫いた手を抜き、与一が崩れ落ちる。

 

「イーリス、次ですよ?」

 

与一を殺したことに対して何の感情も抱いていない様な声で、イーリスへ話す。

 

「……これは、苦労しそうねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほんとね。こちらへ向かって来てる気配を感じるわ。急いだ方がよさそうよ」

 

「っ……、なるほど、結界を破壊して心臓を、かぁ……」

 

「……二度目の死ですね?」

 

「その通り。けど、人間の心臓を貫いて殺すだなんて、人間技じゃないね。目も赤くなっていたしさ」

 

隣をみると、その目は既に赤く染まっていた。

 

九重が与一と対峙している。与一の目には既に俺たちは眼中に入っていない。あくまで、脅威となるのは九重一人ってことだろう。

 

「……こういうのはどう?」

 

与一の周辺に、無数の浮遊物が生成される。

 

槍に、剣に、回転する刃、球体ーーー。

 

「全部、防ぎ切れるかなっ!」

 

全ての攻撃が俺達に向かって飛んでくる。到底一人では処理出来る数には見えない。

 

それに対して九重は、構えを取って前に出した右足を持ち上げる。

 

「ハァッッ!!ーーー『震脚』ッ!!」

 

「うぉっ!!?」

 

地面に打ち付けた足を中心に地面が割れ、重く激しい振動が地面を伝って周囲へ広がる。

 

衝撃でめくれ上がった地面が伝播するように次々と前方のタイル巻き上げていく。

 

与一が放った攻撃が、周囲へ飛び散ったタイルに当たり、消える。

 

周りに広がった揺れに耐えきれず、その場に居た全員が尻もちを付く。

 

「……っう……。やっぱり、私の身体じゃ九重の技は耐えられませんかぁ……はぁ」

 

その原因を作った本人だけがその場に立ち、地面に打ち付けた足を持ち上げ確認していた。

 

「な、なに今の……じ、地震?」

 

「ま、舞夜ちゃんが、やったの……?」

 

俺を含めて皆がその様子に驚いていた。

 

「おいおい……、え、まじかよ……今の人間技じゃないでしょ……」

 

九重が放った衝撃で後ろに倒れ込んだ与一が驚愕の表情を浮かべていた。

 

「人を止めているわね……あの子」

 

「それで?深沢先輩……まだやりますか?」

 

「えぇ……まじで?流石にこれは想定外」

 

「巻き戻してもらっても大丈夫ですよ?殺し合いのイタチごっこを所望するのであれば、ですが……」

 

「しかもめっちゃやる気満々じゃん……、よっと」

 

与一が立ち上がる。

 

「面白くなってきた……って言いたいところだけど、そろそろ時間切れかな?サイレンの音も近いし……」

 

そう言って周囲を見渡してこちらを見る。

 

「……悔しいけど、一旦退こうかな?流石に今はこれに勝てる気がしないし」

 

「そうね、人が集まり始めてる。また機会を改めた方がいいわよ」

 

「もう少し、アーティファクトの能力を理解してからまた来るよ」

 

「……続ける、でいいのですね?」

 

「だね。負けっぱなしは悔しいし」

 

「……この場を去るのでしたら追いません。どうぞご自由に」

 

与一の言葉を聞いて構えを解き、去るようにと手を動かす。

 

「イーリスの言う通り、一番の障害になりそうだね。……でも、必ず殺す」

 

こちらを……正確には九重を睨み、その場から消える。

 

「……ふぅー……、一先ず、この場は凌げましたね」

 

安堵するようにため息を吐いて皆を見る。

 

「怪我などはしてませんか?かなりの衝撃だったと思いますが……」

 

心配するように振り返り、俺達に声をかける。

 

「あ、ああ……俺は大丈夫だが……」

 

「あ、あたしも平気」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「特に、怪我は、していませんが……」

 

「……私も問題無い」

 

「良かったですっ、安心しましたー……」

 

「九重のほうーーーって、血がっ!?」

 

九重の右足を見ると、靴が赤く染まっており、地面に血が広がっていた。

 

「えっ!?めっちゃ血が出てんじゃん!!」

 

「あー……大丈夫です。大したことありません、今は血を止めていますので」

 

「大したことないって……そんなわけないでしょう」

 

「もしかして……さっきの、攻撃で……」

 

血を流してる足はさっき地面に叩きつけた右足だ。

 

「さっきので……そうなったのか?」

 

「んー……まぁ、そうですね。九重家の技を使ったですが、やっぱり負荷が強かったみたいです」

 

けろりと答える。その表情に痛みを感じている様には見えない。

 

「アーティファクトの力で出血も止めているので今は大丈夫ですのでご心配なく。それよりも、優先して話す事がありますよ」

 

「……ああ、そうだな」

 

さっきの技や、怪我も気になるが、それよりも話さないといけない事がある。

 

「話を始めても、いいかしら?」

 

「はい、大丈夫ですよ~」

 

「こんな状況になっても、変わらないのね」

 

「しんみりした空気は気が滅入るので、明るくしてみましたっ」

 

「そ、まぁいいわ。取り敢えず、状況の整理ね」

 

「身をもって知ったと思うけれど……相当厄介な状況になってしまったわ。イーリスがオーバーロードを自らの手で作り出してしまった。さっきはマヤがなんとか退けてくれたけど、このままじゃ本当にイタチごっこになるわ」

 

「お互いに殺しても巻き戻して無かったことにし合う。いつまで経っても終わらない血みどろの戦いが……」

 

「……っ、どうすればいい?」

 

「まず、イーリスはダミーを介してサツキを操っていた。自分の魂は厳重に隠匿してね」

 

「それをどうにかして、ダミーでは無く本体を討つ必要がある。それが出来れば、イーリスがオーバーロードを作った枝を剪定出来る、はずよ……」

 

いつもと違い、ハッキリとしない声で言う。

 

「まだハッキリと私からこれといった案が思い浮かんだわけじゃない。けど、少なくとも……もっと前の日に戻る必要があるのは確か」

 

「っ!?それは……つまり」

 

「ええ、そうよ。あなたには辛い選択を強いることになるでしょうけど、ここはもう手遅れ。イーリスとヨイチが手を組んでしまってる」

 

「……それは、そうだが」

 

「考える時間を作るために……そうね、フェスの日、4/17に戻るのが一番よ」

 

「4/17……」

 

そうなると、ここまで来た皆との……。

 

「……私も、それに賛成です」

 

皆が目を伏せて黙っていた中、九重が賛成する。

 

「イーリスとの接触の可能性が低くなる最初の日が一番阻止できるはずです。……新海先輩には、嫌なことをさせてしまいますが……」

 

「っ……!」

 

二人の言うことは正しい。それが最も確率の高い方法だ。

 

だけど、皆との……希亜との思い出を消してーーー。

 

「翔」

 

決断を迷っている俺の名前を呼ぶ。

 

「希亜……」

 

顔を上げると、真っ直ぐな目で俺を見つめる。

 

「……ソフィと舞夜の言う通り、この枝はもう厳しい」

 

「あ、ああ……」

 

「だから、オーバーロードを使って」

 

「……希亜」

 

迷っている俺を断ち切るように伝える。

 

「今のイーリス達に対抗できるのは、あなたしかいない……。世界を救えるのは、翔しかいない」

 

「私達のことで迷わないで、行って。翔」

 

「……はは、希亜は強いな」

 

「強がってるだけ。それに、強くなれたのは、翔のおかげ」

 

「……っ」

 

"俺のおかげ"、そう言われてこれまでの思い出が頭をよぎる。

 

「もう……そんな顔してないで」

 

俺の正面に近寄り、伸ばした手で頬に触れる。

 

「私達の想い出は、無くなって……また最初からになっちゃうけど、大丈夫」

 

「例え記憶が消えてしまっても、翔が翔でいる限り、私は……」

 

「何度でもあなたを好きになる」

 

「希亜っ……」

 

「だから、迷わないで」

 

優しく俺を見て、両手で顔を包む。

 

「前に踏み出す勇気が必要ならーーー」

 

両手で俺の頬をゆっくりと引き寄せ、そのまま唇を合わせる。

 

「ぅおお……やるぅ……」

 

それを見ていた九重が感心する様な声を上げる。

 

「んっ……っ……はぁ……」

 

数秒、お互いにキスをして顔を離す。

 

「……これで、少しは出た?」

 

少し恥ずかしがるように口を押えながら目を逸らす。

 

「……ああ。出たよ」

 

ここまでされて、出ないとは言えない。

 

「それなら、よかった……」

 

今も若干頬を赤らめている最愛の恋人を見る。

 

「……分かった。行ってくるよ」

 

「……うん。それと、約束」

 

小指を差し出して来る。

 

「また、私のことを……迎えに来てね?」

 

「……ああっ、約束する」

 

互いに小指で契りを結ぶ。

 

「ずっと待ってるから」

 

「必ず迎えに行くよ」

 

希亜との約束を交わし、指を離す。

 

「……みんなも、行ってくるよ」

 

「うん、気を付けてね……?」

 

「い、いってらっしゃいっ!!」

 

「か、翔様の健闘を、祈っています……!」

 

三人からそれぞれ応援をもらい、俺を見ている九重の方を見る。

 

「……気を付けて下さい。きっと、辛い戦い待ってます」

 

「かもな。けど、勝ってみせるよ」

 

自分に言い聞かせるように宣言すると、その俺を見て寂しそうに目を細め、フッと笑う。

 

「もし……どうしようも無くなった時は、私を頼って下さいね?」

 

「ああ、これまでも助けて貰ってるけどな」

 

「それもそうでしたね、あはは」

 

別れを告げ、最後に希亜をもう一度見る。

 

「行ってくる」

 

「ええ、あなたの勝利を願っているわ」

 

決意を込めた目を見送られ、後ろを振り返る。

 

ここから先は、もう……振り向かない。

 

ゆっくりとその場を離れる。

 

「………、跳べ」

 

再び、会いに行く為に……。

 

 






「結城先輩、ありがとうございます。先輩を、送り出してくれて……」

「……別に、当然のことをしたまで。それに……」

「それに?」

「揺るがないあなたに負けたくなかった、それだけ」

「ありゃま、それはそれは……」


そして、忘れられている高峰……。

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