一気に飛びます。ループとか諸々。
視点が何度か変わります。
俗に言う学生の街であり、比較的飲食店などが駅前に多くみられ、学生たちの憩いの場となっている。街を代表する観光産業は特に無い。
しいて言うならばコーラなどで有名なコロナ飲料の本社がある位だ。それだけでも十分だと思うのだが、偉い人達はそれだけでは満足できず、観光地として有名になろうと、町興しをする。
輪廻転生のメビウスリングというアニメがあった。
さっき話した白巳津川に昔から残る伝承をモチーフにし構成されたアニメなのだが、設定や物語が難解過ぎる内容であるため作品としては失敗。しかし一部のアニメファンからは高く評価されるという謎のアニメである。
そして去年、この白巳津川で地域振興という目的でメビウスフェスが開かれた。が、地元住民から圧倒的不支持であったからか、春に合わせて無理矢理作られたからか定かでは無いが、結果は散々だった。地域振興としては完全に失敗として幕を閉じる。
アニメ放送から早二年、去年大敗したはずのメビウスフェスが再度開催となった。去年行っていないから比べられないが、そこまでの盛り上がりは見られないと思われる。一部のコアなファンだと思われる人はあちこちで確認できるがそれでも成功とは程遠かった。
それに追い打ちを掛けるかのように地震が起き、フェスが中止となる。余震の可能性があるため当然避難しなくてはいけない。つまり、今年は去年以上に失敗が決まったのである。
「ま。私には関係の無い事だけどね」
地震後、周りの人が会場地から去って行く中、携帯を耳に当てながら、とある人物を観察していた。対象の人物は、この街に1000年程歴史があると言われている白蛇九十九神社にある神器が破損した事で指を切ってしまったらしい。丁度妹である新海天、天ちゃんが絆創膏を持ってきたみたい。これなら無事にこの世界とむこう側のゲートは繋がり、アーティファクトがこちら側に流れたとみて良さそうだ。
「先輩も無事に世界の眼を取り込んだみたい」
少し離れた位置からその様子を観察し続ける。消毒液を塗り絆創膏を貼った後、この神社の巫女さんでもある成瀬沙月、成瀬先生と話し込んでいる。
「これは……少なくともラストスパートじゃ無さそうかなぁ……」
『どうじゃ?そろそろ判断が付きそうか?』
電話越しから年老いた男の声が話しかけてくる。
「あー、もう少し様子見するけど、多分何もないで終わると思う」
『分かった、他の者にはまだ警戒するようにと伝えておく』
「うん、ありがとね」
『なに、可愛い弟子のお願いじゃからな、儂にかかれば余裕よ』
電話越しから頼もしい声が返ってくる。その声を聞きながらも視線はずっと対象の人物に向けている。
暫く見ていたが、三人で会話をした後にお互いに背を向けて離れていく。解散したようだ。
けど、その目には焦りと怒りなどが混じった濁った眼をしていた。
「………、ごめん、おじいちゃん。対象の見張りと連絡をお願いしても良いかな?」
『なるほど、了解じゃ。つまり、そこまで来ておる……という事でいいのだな?』
「うん、多分だけど……もう終わりが近いかも」
新海先輩に見つからない様に人混みに紛れながらもその様子を観察する。去り際にスマホを取り出して何を打ち込む。
……これは確定かな?多分、深沢与一と連絡を取っているはず。
「私も身を隠すから、後のことはお願いしてもいい?」
『ああ、監視と報告はこちらで随時送ろう』
おじいちゃん達に任せ、近くまで迎えに来て貰った車に乗り込み、実家へ向かう。
「……イーリスは同調で手が離せないから今はまだ大丈夫だよね」
もし、ここまでが私の記憶にある通りの物語なら、まだ猶予はありそう。……と、言っても私が新海先輩達と協力してイーリスと敵対したという前提の話だけど。
「そうなれば私を含めて皆を殺しに来ると思うし……」
自分で口に出しておいて、嫌な気分になる。
「……ううん、まだ早いから。助けるのは、先輩が自覚してからじゃないと……」
オーバーロードの本当の持ち主と、世界の眼を正しく認識してもらわないといけない。そうじゃないと完全にイーリスは殺せないだろうし……。
「……はぁ、もっといい方法があればよかったんだけどなぁ」
けど、どの様な流れでかは分からないけど、ここまで来ている。これまでの枝での努力を無駄にはしたくない。
「その為には、生き残らないとね……」
今日だけで何度目かのため息を吐きながら、外の景色を眺めていた。
日が暮れる。
外はすっかり空にオレンジ色になっていた。届いたコーラは全く減っておらず、溶けた氷でむしろ増えていた。
走り回って喉は枯れているのに、飲む気になれない。
頭の中は色んなことで回っていたが、身体は動かず無為な時間を過ごしていた。
「………」
結局、コーラには一口もつけないまま、席を立って店を出た。
目的も定まらない疲れた足で、駅前へ向かう。
希亜も、香坂先輩も、九條も、九重も居ない。
天から連絡先を聞いて、電話をしてみたが一向に九重が出る気配は無かった。
みんなを探したけど、どこにも居ない。
天は大丈夫だろうか。ちゃんと家にいるだろうか。
スマホを再び取り出すが……確認を取る勇気が出なかった。
……もし、返事が来なかったら。
それが、怖かった。
ふらふらと、歩く。ただただ歩き続ける。
みんなを探して、俺は何をするつもりなのか。
俺一人じゃ……何も出来ない。
結局、守ってもらって、なんの力にもなっていなかった。
みんなと一緒に居るタイミングでは、九重が居たから守る事は出来た。けど、それでは与一とイーリスの同調を防ぐことは出来ない。また同じ結果になってしまう。
……時間を、戻すべきだろうか?
戻して、どうすれば良いんだろうか。
向こうは一方的に俺たちの場所を把握している。皆を守るには、時間が圧倒的に足りていない。
纏まらない考えのまま、歩いていると、すっかり日が沈んでいた。
それでも、歩く。目的もないまま、歩き続ける。
分かっていた……。俺たちが与一とイーリスに対抗出来ていたのは、九重が居たからだった。あいつの力のおかげで皆で戦えていた。
それが無くなれば、イーリスにとっては俺たちは遊んでも勝てる程度の相手だったんだろう。
それに……与一は躊躇わず、迷わない。純粋な殺意を俺達に向けて来ていた。
本気で……殺しに来ている。
勝てるわけが無かったんだ。為す術がない。抵抗すら出来ずに、殺されて終わりだろう。所詮はただの一般人だ。
例え与一をどうにか殺せたとしても、オーバーロードで振り出しに戻る。
「………」
……多分もう、みんなは。
死んでる。
「……っ」
足が止まってしまった。
全部、無駄に思えてしまった。俺がしたこと……これからすること、全部。
何もかも……無駄に……。
結局、俺一人では無力だった。何もできやしない。
……少し、疲れた。
歩き出した足は、自分のマンションへと向かっていた。
生産性の無い思考のまま、帰って来た。
全て忘れて、眠りたい。
失敗続きで、気持ちが折れかけている。一度眠って、リセットしたい。
弱気は……ここまでだ。眠って、疲れを癒して。
また、跳ぶ。
跳んだ所で、俺に何が出来るか分からない。でも、跳ぶ。
がむしゃらに、目指すしかない。
最良の結果を……。
自分の部屋の階に着き、部屋に戻る前に最後の望みをかけて三つ隣の部屋のインターホンを鳴らす。
「………、だよな」
少し待ったが、中から人が出てくる気配は感じれず。諦めてそのまま部屋に入る。
靴を脱いで、明かりを点ける。
「……?」
玄関を上がって進もうとした瞬間に、ふと違和感を覚えた。
俺の部屋なのに……俺の部屋じゃない。そんなよく分からない、異質な違和感。
「……なんだ?」
とにかく、猛烈に嫌な予感がした。
足音を殺して、進む。
リビングへの扉に手をかける。
「………」
息を殺し、音を立てずにゆっくりと、扉を開ける。
……誰かいる。
窓際に、人影が見える。
窓にもたれ、足を投げ出し、座ってる。
小柄なシルエット。
暗闇で目が慣れなくて、顔は良く見えない。
それでも、分かった。……分かってしまった。
誰なのか、俺には。
「ぁ、……、ぁ、ぁ……」
「………」
「………、……っ、……、っ」
名前を呼んだ。
けど、声にならなかった。
ずっと探していた、俺の大事な恋人は。
……ここにいた。
痛々しい姿で、力なく座って。
ここに、こんな、ところに……っ。
「や、おかえり」
視界の端で、影が動く。
テーブルのそばに移動し、腰を下ろす。
「死体って重いね。運ぶの結構苦労したよ。まぁ、イーリスに跳ばしてもらっただけだけどさ」
「………」
「まだあるよ、お土産」
テーブルの上に並べれていたのは、みんなのアーティファクト。
髪飾り、バングル、ネックレス。
そして、
「………」
360度、一秒たりとも隙のない監視の中、私はただ時間が過ぎるのを待っていた。
時間は昼を過ぎた辺り。おやつの時間だ。
そんな考えをしている時に、ポケットに違和感を感じた。
「……ん?」
特に意識せずにそのポケットを触る。
「……っ!?」
中の物を触った瞬間、頭の中に情報が流れこんでくる。
「これって……っ!」
急いでそれを取り出す。
「……アーティファクト」
見た所、ゲームで見た意匠とどことなく似ている。しかも使い方を知った。
「……!?まずっ!」
私の手にアーティファクトがあるということは、イーリスにここの位置がバレてしまう……。
「ああもうっ!やっちゃったよ!というかこれは流石に想定外!!」
急いで立ち上がり、部屋の外に連絡を送る。
「すみません!緊急事態です!想定外の事が起きてしまいました!」
焦るように外部と連絡を取って外に出る。
「こうなると……場所は特定されるから、どうにかして諦めてもらうしか……!」
移動しながら別の作戦を考える。
「……私は知らないってことだし、なんとか魔眼対策をして、アーティファクトを渡せば……」
「いや、それだとアンブロシア打たないといけない?気絶するよね?それか……逆に手を組む?」
「向こうが私をどんな感じで認識しているからわかんないし……」
……先輩の血を取って、ナインに記憶をインストールしてもらえたら楽なのになぁ。
そんな現実逃避をしながら、
「………」
ピンポーン
「………」
ピンポーン
「………」
「勝手に入っちゃうよー?」
玄関が開き、声の主が上がり込む。
「あれ……?電気点いて無いけど……いるんだよね?……なんか変な匂いするなぁ。ゴミ屋敷とかになってない……?」
「おーい。翔ー。大丈夫かー、生きてるかー?」
「………」
返事をせずに黙っていたが、そのまま部屋まで進み、扉を開けた。
「あ、やっぱいるじゃん。電気も点けずに何してんのー?寝てる?」
「起きろー。電気点けるよー?」
そのまま部屋の電気を点け、現状が露わになる。
「ずっと学校休んでるけど、体調でも―――」
「ちょ、っと……嘘でしょ……」
明かりを点け、それを見てしまい絶句する。
怯えた目で、俺達を見る。
「なんなの、これ……」
「……そういう反応されると思って、居留守を使うつもりだったんですけどね」
「翔くん……、なに、してんのよ……」
「何って……一緒にいるだけですよ、恋人と」
「っ……」
「鍵、かかってたはずですけど………。どうやって入りました?」
「私が中から開けた」
「ソフィか……。この枝では、初めましてだな」
「ええ、はじめまして。どの枝よりも絶望的で、異常な状況ね」
「……そうかもな。なんで二人が一緒にいるんだ」
「この枝では、イーリスがサツキに興味を示してないみたいなの。だから、私から接触した。いざとなったら、同調させてもらおうと思って」
「……同調しても、大したこと出来ないだろ」
「そうね。衰えに衰えた私では、深く同調することも難しいし。ま……気休めね」
「ちょ、っと……。そんな話、どうでもいいから、警察に……」
「呼んでもいいですけど、無駄ですよ」
「無駄って……」
「存在を消してますから。希亜のことも、俺のことも、みんなのことも」
「そういうこと……。ソラのアーティファクトね」
「ああ。だから、騒ぎになってない。俺たちのことが分かるのは、ソフィと、先生と……あいつらだけです。多分ね」
「いやぜんっぜんわかんないんだけど……」
「警察が来ても、俺たちのことは認識出来ないってことです。そういう風にしています」
「ど、どうして?」
「……静かに過ごしたいんですよ。今は、静かに」
「………」
「……なにか用ですか?」
「用はないけど……様子を見に来たの。心配で……。学校来ないし、それと……ソフィから、色々聞いたし……」
「色々?」
「私が観測できた範囲のことは、伝えてある。ヨイチって子に、徹底的にやられたことも」
「そっか……。悪いな……ソフィ。負けた」
「……謝るのは私の方ね。元々は……私が蒔いた種だから」
「……別にいいよ、そんなの。途中から……完全に私怨で動いてた。……もっと、うまくやりたかったよ。希亜を、みんなを……こんな目に遭わせることなく」
「………、先生、見ての通りです。ちゃんと生きてるんで、心配しないで下さい」
「無理でしょ……。相当異常な状況だよ、これ」
「……かもしれませんね。与一に言われましたよ。壊れて来てるって……」
「まぁ……あいつにだけは、言われたくないですけど」
「………、これ、本当に……深沢くんがやったの?」
「……はい、みんな、殺されました。……あいつと、イーリスに」
「……な、なんて言ったら、いいか……。ソフィ、なんだか大変みたいって、軽く言うから……。私、こんなことに……」
「軽く言ったつもりはないわよ」
「でも、………、ぁー……」
「大体のことは、聞いてる。白蛇様は二人いて、悪い方の白蛇様……イーリスが、良くない事をしようとしてる、って……」
「よくわかんないけど、翔くんがとんでもないことに巻き込まれてるなら、取り敢えず……相談だけでも乗ってあげられればって……」
「……なにか、ある?私にできること……」
「ないです。……俺と関われば、みんな死ぬ」
「ただ……そっとしておいて欲しいんですよ。今は……ただ」
「でも……」
「………。サツキ、行きましょう」
「あ、……う、うち来ない?久しぶりに一緒にご飯でも―――」
「サツキ」
「………、本当になにも、ないの?できること……」
「ありません」
「そ、か……」
「行きましょう」
「……っ、わかった……」
「………」
「ああ、そう。最後に私からも、いいかしら?」
「ああ」
「あなた、本当に……折れてしまったの?」
「………」
「……そう。わかった。行きましょう。サツキ」
「また来るね。せめて……ご飯はちゃんと食べなね?」
「……心配してくれて、ありがとう。沙月ちゃん」
「……うん、それじゃ……」
心配そうに俺を見つめ、帰って行った。
「………」
静かになった部屋で目を瞑る。
「……もう少しだ」
「もう少し……、もう少し……」
「………」
あれからかなりの時間が過ぎた。
部屋でじっとしている俺を心配してか、ポストに軽い食べ物が毎日届けられていた。律儀に毎回内容を変えて三食。
たまにデザートとかも入っており、久しぶり口にしたが、あまり味はしなかった。……けど、その気遣いはありがたかった。
身支度を整え、部屋の電気を消す。
「………」
一度だけ部屋を見渡して、最愛の人を見る。
「………、行ってくるよ、希亜」
最後に一言、別れを告げて、部屋を出る。
玄関で靴を履いて、家を出る。
与一は恐らく、あのマンションに―――。
行き先を考えて玄関のドアを閉めると、隣から人の声が聞こえた。
「おや、遂にこの日が来てしまいましたか……」
「―――は?」
その声を聞いて、今日まで感情が希薄になっていると自覚があった俺でも驚いてしまった。
「お、おまえ……どうして、ここに……」
「あはは、かなり間抜けな表情をされてますよ、
俺を見て静かに笑うその表情は、いつもより寂しそうにしていた。
「なんで……っ!?」
理解が出来ず、言葉が詰まる。
「なんでって……そんなの、決まってるじゃないですか」
「―――この、クソみたいな運命を変えるために、ですよ」
この場に居るはずのない人物。
死んだと思っていた。
そこには、俺の記憶の中と変わらない不敵な笑みを浮かべて笑う―――九重が居た。
はい、ここで一旦CMです。