9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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イーリスとご対面。

騒がしくなっていきます。




第28話:月に叢雲、花に風

「イーリス……っ!」

 

その姿を見て、結城先輩が怒りを露わにする。

 

「……この一帯の電気を止めたのは、あなたですね?」

 

「ええ、そうよ。あの子が起きる為に邪魔だったもの、止めさせてもらったわ」

 

「つまり、深沢先輩は起きてるのですね?」

 

「正解。せっかくここまで頑張って来たのに、ごめんなさいねぇ……フフ」

 

「その本人が見えないようですが?」

 

「起きたばかりで上手く身体が動かせないみたいなの、一週間もあんな状態で眠らされていたんだもの。ひどいと思わない?」

 

「……逃げる、ということですか?」

 

「違うわよ、そろそろ来るんじゃないかしら?」

 

イーリスの言葉と同時に、薄暗くなった道からその隣に姿を現す。

 

「……はは、久しぶり、で良いのかな?それとも、ここでは初めまして、がいい?」

 

「与一……」

 

「まったく、残酷なことをしてくれるね……まさかこんな目に遭うなんて流石に想定外だったよ……」

 

「深沢先輩、少し痩せました?元気無さそうな声ですが?」

 

「あはっ、僕をこんな状態にした本人が、それを聞く?」

 

目覚めたばかりで立つのも少し覚束ない姿勢で、こちらを睨む。

 

「自業自得かと」

 

「ほんとあっさりしてるなぁ……。僕が言うのもおかしいけど、人を見る目じゃないよ、その目……」

 

「生まれつきです」

 

「はっ、……まぁいいや。今回は、せっかく起きたんだから、挨拶くらいはしておきたかっただけだし……。殺すのは、また今度にさせてもらうよ」

 

「そんな状態で、まだ諦めないのですね」

 

「当然さ、仕返しくらいしたいじゃないか」

 

「仕返し……ですか」

 

「楽しみにしとくといいよ、また翔の心を……折ってあげるから、さ」

 

「……っ!」

 

「希亜」

 

「……ええ、分かってる。安心して」

 

「用が済んだのでしたら消えてくれませんか?これから私達、ここでお泊まりをする予定ですので」

 

「は?お泊まり……?……随分と余裕じゃないか。いいの?そんなことをしちゃってて」

 

「はい、予定を変更するほどの相手ではありませんので、どうぞご勝手に」

 

「……ムカつくなぁ。その目と態度……。まるで僕を見ていない」

 

「ええ、見ていませんよ。所詮、イーリスの口車に乗せられた哀れな人形ですし」

 

「っ……、殺す……!」

 

殺意の籠った目で私を睨み、その場から消える。……転移のアーティファクトの親戚とかかな?

 

「フフフ、それじゃあまた楽しみましょう……」

 

深沢先輩が消えたのを見て、イーリスも消えていく。二人が居なくなったと同時に電気が戻る。

 

「……行きましたね」

 

「いやぁー……焦ったぁ……超緊張したわ……」

 

「深沢くんとイーリスが……とうとう……」

 

「だな、出て来てしまったな」

 

「ん?その割には、にぃに焦ってなくね?」

 

「まぁ、計画通りって感じだからな……、だよな?」

 

事前に私から内容を聞いている新海先輩が確かめるように見てくる。

 

「ですね、思ったより遅かったみたいですが、無事出てくれたみたいです」

 

「な、何か、作戦を立てていた……という事でしょうか?」

 

「結城さんも慌ててはいないってことは、もしかして……翔くんから聞いていたり?」

 

「ええ、皆に黙っていたのは謝るわ。こちらの反応で向こうに悟られたくなかったの」

 

「だから焦らなくて平気だ。この後もちゃんと考えてる。……だよな?」

 

「全部舞夜ちゃんに任せてんじゃん……」

 

「しょうがねぇだろ。出来ることの多さが違うんだから」

 

「まぁまぁ、皆さんにも見せておきますね。えっと……これを見て下さい」

 

懐からある機械を取り出す。

 

「なにこれ?」

 

「画面に、赤いマークがあるね」

 

「何かの、位置情報……とかでしょうか……?」

 

「香坂先輩正解ですっ。舞夜ちゃんポイントを贈呈します!」

 

「え?あ、あの……あ、ありがとう、ございます……?」

 

「この画面に映っている赤いポイントは、ある人の現在地を示してます」

 

「ある人って……」

 

「与一のことだ」

 

「あー、私がカッコよく言いたかったのに……ブーブー!ネタバレッ!ダメッ!絶対っ!」

 

「あーはいはい、分かったから続きを説明してやってくれ」

 

「雑に扱って……まぁ良いでしょう。先ほど転移らしきアーティファクトでこの場から去って行った深沢先輩ですが、私が持っているこの機械で何時でも場所の特定が可能です。ですので、別に逃げられてもノーダメージなんですよ」

 

「発信機でも付けてるってこと?」

 

「その通りっ!天ちゃんにもポイント贈呈っ!」

 

「お、おう……あんがと……」

 

「これがあるので、向こうに動きがあってもすぐに対応出来ますし、なんでしたらこちらからも攻撃を仕掛ける事が可能です」

 

「今思ったんだが……それって、イーリスに察知されて逃げられないか?」

 

「いえ、私達がやる訳では無いですし、気が付かれる前にやれますよ?試しに一度やってみましょうか?」

 

「……何をする気だ?」

 

「彼にも、死が隣り合わせという現実を味わってもらうだけですよ?」

 

ポケットから通信機を取り出し、深沢先輩が居る場所から一番近い人と連絡を取る。

 

「もしもし、こちら舞夜です。そちらからターゲットは確認出来ますか?」

 

『ええ、この瞬間も照準を合わせています』

 

「撃って下さい」

 

『了解』

 

狙撃の指示を送ると、遠くから発砲音がこちらまで小さく聞こえた。

 

『標的の死亡を確認』

 

「お疲れ様でした」

 

用が済んだので通話を切る。

 

「……っ、い、今の……。まさか……!?」

 

新海先輩には、こちらからも攻撃可能とは伝えてはいるが、その手段は言ってはいない。

 

「今の……銃の音?舞夜……あなた、何をしたの?」

 

「こちらからも何時でも殺せる、と警告を送っただけですよ」

 

深沢先輩が死んだことで、どうせやり直しになりますけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポケットから通信機を取り出し、深沢先輩が居る場所から一番近い人と連絡を取る。

 

「もしもしこちら舞夜です。そちらからターゲットは確認出来ますか?」

 

『ええ、この瞬間も照準を合わせていますが……?』

 

「撃って下さい」

 

『了解』

 

狙撃の指示を送ると、遠くから発砲音がこちらまで小さく聞こえた。

 

『ターゲットの生存を確認。何かに弾かれたようです、撤収します』

 

こちらの返事を待たずにすぐに狙撃ポイントを変え始める。

 

「結界で防がれたということは、一度やり直してますね……これ」

 

「……まさか、与一を……?」

 

「殺しました。ですが、イーリスがオーバーロードを使用したと思われます」

 

「何をしたんだ」

 

「ふふ、秘密です。それより……ソフィ」

 

呼びかけると、すぐにその姿を現す。

 

「大丈夫よ。変わらず順調よ」

 

「これで多分イーリスは成瀬先生のことは放置すると思う。あとどのくらいかかりそう?」

 

「そうね……次の土曜、一週間ってことかしら」

 

「なるほどね」

 

前の枝と似た感じのタイミングかな。

 

「そちらは耐えれそうかしら?」

 

「ま、大丈夫でしょ」

 

「てきとうねぇ……。けど、そっちは任せたわよ」

 

「了解、出来次第教えて」

 

「ええ、こちらも可能な限り急ぐわ」

 

話が終わり、すぐに戻っていく。

 

「ソフィも順調みたいだな」

 

「それよりも翔、あと一週間って……」

 

「……ああ、イーリスとの決着までの時間だ」

 

「え、なに?一週間後には戦うのっ?」

 

「そうなるな」

 

「だ、大丈夫なのでしょうか……」

 

「一応、策は用意してはいる。あとはソフィ次第だが……」

 

「深沢くんとイーリスを倒す作戦が、あるってこと?」

 

「あるにはある。確実ではないがいける可能性が高い」

 

「それまで、向こうの奇襲を凌ぎ切らなければならない……ということね」

 

「そこはご安心を。当初の予定通り私の方でお守り致しますのでっ!」

 

「……改めて確認させてもらうけれど、可能なの?相手は聖遺物を持っている。それも大量に」

 

「私一人で深沢先輩に勝てる時点で、可能です」

 

結城先輩……皆を安心させる為にはっきりと宣言する。

 

「……わかった。これまでのあなたを信じるわ」

 

「ありがとうございます」

 

「他のみんなもそれでいい?」

 

結城先輩が振り返り、他の全員へ確認を取る。

 

「……うん。私も、舞夜ちゃんを信じる」

 

「ここまで来たらそうするしかないけどさー……不安だしにぃにの部屋に泊まろうかなぁ……」

 

「わ、私も、九重さんを信じますっ。神社での戦いを見ていますので……っ!」

 

「仮に何かあっても、俺がオーバーロードを使ってやり直す。怖がるな……って言うのは無理はあるが、変に気を張り過ぎない様にな」

 

「既にこの街の至る所に監視や警備の人を配置しています。もし街の中で何か起きてもすぐ動くように指示は出しているので安心してください」

 

「いよいよ一大事になってきてるなぁ……」

 

「実際そうだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、はぁ……、まさか歩くのに一苦労する日が来るなんてね……」

 

思うように力が入らない身体を無理矢理動かす。

 

「今すぐにでも翔達を殺しに行きたいとこだけど……まずは体調を整えないと、ね……」

 

「そうねぇ、まずはその弱った体を何とかする方が先かしら」

 

一週間。僕が意識を失っていた時間だ。イーリスに聞けば、薬を打って起きない様に管理していたらしい。しかも動けない様に拘束まで施して。

 

「僕を実験動物のような扱いをして……っ」

 

舞夜ちゃんがしていたあの目……視線は僕に向けていたが、その目には一切僕を映していなかった。

 

「……クソッ」

 

憐れんでも無い。怒ってすらいない……無関心だ。僕と言う存在にまるで興味がない。そんな目だった。

 

『所詮、イーリスの口車に乗せられた哀れな人形ですし』

 

「ムカつく……」

 

僕より上だという絶対の自信を持っている。あの目を……っ。

 

「その為にまずは休める場所を―――っ、っ!?」

 

またあのビルにでも行こうか。そんなことを考え始めていると、唐突な頭痛と共に記憶が流れ込んでくる。

 

「は……?なにこの記憶」

 

未来から来た記憶には、歩いている僕に何か強い衝撃が襲ってきた様な感覚だけが……。

 

「結界、張ったほうがいいわよ」

 

「―――っ!?」

 

イーリスの言葉に、反射で結界を出す。

 

それと同時に、何か硬い物が擦れた様な甲高い音が鳴った。

 

「なんだっ!?」

 

「あなた、さっき一回死んだわ」

 

「何が起きた……?」

 

「さぁ?よく分からないけれど、何かがあなたの頭に当たった様に見えたわ。それで死んだ」

 

結果だけを淡々と告げてくる。

 

「……今の音のが原因か。一体何が……」

 

周囲を見ると、近くの壁に何かが刺さった様な穴とヒビがあった。

 

「……これは」

 

その穴をアーティファクトで崩し、中身を見る。

 

「銃弾……?」

 

「それが原因で良さそうね」

 

「どうしてこれが―――!?」

 

銃で撃たれる。そんな事態に巻き込まれる事なんてまず無いだろう。

 

「どうやら、あの子が関係しているで間違いなさそうね」

 

「九重、舞夜……」

 

他の枝の記憶を思い出す。九條さんを狙って待っていた時に、舞夜ちゃんに撃たれて殺された枝を……。

 

「相変わらず、容赦がないわね。あの子」

 

「僕を、殺せるって言いたいのか……」

 

オーバーロードがある限り、殺しても無駄になる。それでも僕を殺した。

 

「イーリス、撃ってきた場所はどこだ?」

 

「残念、既に逃げられてる。誰も居ないわ」

 

「ちっ、使えないな……」

 

翔達から離れてすぐに殺しに来るとは……向こうも徹底的にやる気らしい。

 

「ははっ、楽しめそうだ……こっちが一度死んだんだから、やり返さないとね……」

 

「あら、何する気」

 

「翔達たちへ引き返す」

 

「さっきとは言ってることが逆ね」

 

「やられっぱなしは嫌だからね」

 

「……好きにしなさい。どうせ死んでもやり直すだけなのだから」

 

僕の言葉に呆れるような声で返し、消える。

 

「ふん、好きにさせてもらうさ」

 

身体の方はまだ全然戻ってないけど、奇襲を仕掛けるだけなら簡単だ。転移で跳ぶだけだから。

 

後ろを振り返り、アーティファクトを使って来た道を戻る。

 

「……よし、次ぐらいで着けそうかな……っ、―――っ!?」

 

もう一度跳ぼうとした時、再び頭痛が襲う。

 

「……は?死んだ……?」

 

流れ込んで来た記憶は、さっきと同じ様に身体に何か強い衝撃が襲って来た記憶だった。

 

「転移した直後に……?」

 

しかも、跳んで直ぐに殺されている。

 

「どういうことだ……?たまたま場所が悪かったのか……?」

 

運悪く跳んだ先に居た……?

 

「今度は別の場所に―――いったっ……はぁ!?」

 

しかし、再び流れて来た記憶には、またも同じように死んでいた。

 

「全然違う場所だぞ……!?どうなってる……」

 

何かがおかしい……。跳んだ先で殺されている……。

 

「警戒網を張ってる……?それとも……」

 

自分の居場所が、バレている……。

 

「……っち、面倒だけど、何度か試して行かないと分かんないか……」

 

今度は撃たれない様に、身体を壁などの遮蔽物に隠しながら転移で近づく。

 

「……狙撃は、無しか」

 

結界は張りつつ、翔たちが居るであろう敷地へ足を踏み入れる。

 

人の気配は感じない。このまま翔たちがいる場所へ―――。

 

進もうとした時、何かに引っかかる。

 

「……ん?なんだ」

 

「あら、お客さんが来たみたいね」

 

女の声。そう認識した時には、結界が破壊される音が耳まで届いた。

 

「……はっ?……っ!、ごほっ!?」

 

体に力が入らず、その場に倒れる。

 

「な、にが……っ!?」

 

目線を自分の身体に向けると、足や腕などが切断されており、お腹からは大量の血が噴き出していた。

 

「かっ、っ!?……っ!」

 

喉に血が溜まり、息が止まる。

 

そして最後に感じたのは、喉に糸の様な細い何かが触れた感触だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――っ!?かはぁ!はぁ……っ、はぁ……」

 

敷地へ跳ぶ前に戻って来た……で良いのだろう。

 

「結界が、破壊された……?」

 

女の声が聞こえた……そう思った時にはもう壊されていた。一瞬の出来事だった。

 

「……っ、イーリスッ」

 

「どうしたのかしら?」

 

「どうしたじゃない、何があったっ!」

 

「私も詳しく知らないわ。確かなのは、何者かによって結界が破壊され、あなたは殺された……これだけよ」

 

「直前に、女の声がした……」

 

「私にも聞こえた。けれど姿は見えなかったわ」

 

「どうなってる……何が起きたんだっ!クソッ!」

 

訳も分からず死んだ。それだけしか分からない。

 

「……日を改めた方が賢明ね。向こうはかなり守りを固めてるみたいね」

 

しかも、結界を破壊したのは翔たちじゃなくて別の人間だった。

 

「そんなのありえ……いや、ありえなくはないか……。舞夜ちゃんが居るんだから、似たような人が実家に居ても……」

 

そうなると、敵の本拠地に攻めていることになる。恐らく、僕が殺しに来ても返せるだけの人を用意しているはずだ。それはあの余裕な態度が証明している。

 

「今は少し、分が悪い……か」

 

落ち着け。別に今日じゃなくてもいい。チャンスは幾らでもやって来る。

 

「……仕返し出来ないのは癪だけど、我慢しよう」

 

「あら、意外とすんなり納得したわね」

 

「無駄なことはしたくはないからね。今日に拘らなければ機会はある」

 

「そ」

 

今日はゆっくりと身体を休める……それからでも遅くない。

 

方針を決め、その場を去った。

 

 





久しぶりの与一視点……?

次回も出てきますね。もう少しで最終決戦へ行きそうです。

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