9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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ちゃちゃっと一週間が過ぎていきます。

ちょっと与一を苦しませ……?




第29話:囚われし者、進む者

 

 

「ああ、もうっ……クソッ!一体どうなってるんだよっ!!」

 

目覚めてから二日が過ぎ、体もある程度癒えたのを確認してから、早速翔以外を殺しに向かった。

 

「誰一人殺せず……いや、そもそも近づく事すら出来ないなんて……」

 

最初に一番やり易かった翔の妹を狙ったが、ある一定の距離まで詰めると必ず攻撃が飛んできた。それはまだいい。それ以降は僕が認識出来ない何かで毎回殺された。

 

試しに九條さんや他の人に変えても似たような結果だった。違ったのは精々殺され方くらいだ。

 

タイミングが悪いのかと一日置いた今日、再び仕掛けてみたけど、結果は全くの同じ。

 

何度やり直しても近づく前に殺される……。

 

一回、目覚めた日からやり直してみたけど、どうやっても翔達のもとに辿り着く前に殺されていた。

 

「一日中見張りを付けている……?それに、僕の位置を常に把握している。これ以外ありえない……」

 

日や時間なんて何一つ関係がない。どんなにこっちのタイミングで殺しに行っても殺せない。

 

「フェスの日に戻っても無駄になる……一番早くてやっぱりあの日しかない……」

 

僕がどう動こうが、結果は変わらない。まるで手の平で遊ばれている様な感覚だ。

 

「何があったらこんな芸当が可能に……」

 

間違いなく、九重舞夜……実家の九重が関係している。殺される瞬間に見えた服装も似たような人が何人か居た。

 

「先にこっちを撃ってくる人を始末してから動こうとしても意味がない……」

 

何度か先に狙撃の場所に向かってみたが、こちらが向かっているのを察した瞬間お構いなしで逃走を図られた。ご丁寧に人混みや建物などの邪魔が多い場所を通って……。

 

それに、追いついてもかなり抵抗された。こちらの攻撃は避けるし、狙った人によってはこれだけで数回は殺されている。

 

最悪な事に、そいつを殺しても、すぐに別の場所からの狙撃が飛んできたことだ。殺しても殺しても終わった時には人が配置されている。

 

そしてそれを繰り返していると、時間切れと言わんばかりに殺された。

 

「一人は前の女の声……これは間違いない。だが、それ以外に少なくとも数人は僕を殺せる奴がいる……」

 

ただの一般人じゃない。明らかに戦い慣れをしている動きだった。躊躇いなくナイフや銃を使って来るのを見るに、舞夜ちゃんと同じだろう。

 

「……やはり、裏の人間ってことか」

 

いや、そんなこと今はどうでもいい。問題なのは、僕が何も出来ずに一方的に殺されているってことだ。

 

「魔眼対策もされている。結界も破壊され、攻撃を避けて来る……」

 

最初はイーリスにも相談を持ち掛けていたが、役に立たなかったので途中から呼ぶのを止めた。

 

「ちっ、ほんと使えない人形だ」

 

身動きの取れない様なイラつきに舌打ちが出る。

 

「落ち着け、目的の場所を囲うように人が居る。それから一定の距離に近づくと、直接僕を殺しにくる奴がいる……」

 

おそらく、その人間が守りの本命だ。明らかに周囲で僕を狙っている人間とは違うレベルに感じる。

 

「他に狙えるタイミングなら……学校か」

 

学校なら多少はましかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、学校の校門の前で立っていた。

 

校内へ入らず……いや、入れずにいた。

 

「……ここまで手が伸びているとか、ほんっと用意周到だな……はは」

 

呆れた笑いが出る。

 

十回近くの死を経験して戻って来た。

 

まず、ここより一歩先に進む。校内へ足を踏み込んだその瞬間に狙撃された。周囲に生徒などが普通に歩いてるなんてお構いなしだ。僕を殺せればやり直すと知っているからだろう。

 

そして、この場を転移や結界で乗り切っても結果は変わらなかった。

 

ある時は、すれ違う生徒が僕を殺した。ある時は、僕に話しかけて来た教師に殺された。

 

翔の元に辿り着いた時もあったが、数秒経てば結界が破壊され死ぬ。

 

そう、数秒だ。たった数秒で誰かが僕を殺しにやってくる。多分、これは舞夜ちゃんだろう。

 

「……少し、やり方を考えないといけないか。闇雲に攻撃をしてもまた同じことだ」

 

何か別の手段を考えないと、殺される可能性が高い。

 

「いっそのこと、全部捨てて逃げるか……?いや、それはなんだか悔しいな……」

 

ずっとやられっぱなしだ。せめて一矢くらいは報いたい。

 

 

 

 

 

 

「もう一週間も中日が過ぎますねー……」

 

深沢先輩が脱出してから数日が過ぎ、今日は平日の水曜である。

 

「んだねー。あれからあの人って見てないけど、どっかで何かあったりする?」

 

隣で歩く天ちゃんが聞いてくる。

 

「んー……まぁほどほどかなぁ?予想では何回も試してはやり直してると思うよ?」

 

「うひゃ……まじですか。それってつまりは、あっちを撃退してるってことだよね?」

 

「だね。やり直してるってことはそういうことだと思うよー」

 

「あたしは何度狙われてんだろ……うひー……嫌だなぁ……」

 

狙われたことを想像し、嫌な顔を浮かべる。

 

「にぃにはどこまで知ってるんだろね」

 

「どうだろ。向こうがやり直してるから知らないと思うよ」

 

「そうなんかね……っと、噂をすれば本人が……おーいっ、兄貴ーっ!」

 

正面の校門の人混みに新海先輩を見つけ、大きな声で呼びかける。あの人混みの中で良く見つけたなぁ……。

 

天ちゃんの声に反応し、こちらに手を上げる。

 

「お疲れ様でーす」

 

「おう、そっちも終わったか」

 

「ですです。あれ?九條先輩と香坂先輩は?」

 

「九條は今さっき自転車を取りに。先輩はそろそろ来るってさ」

 

「なるほど。ケッタマシーンを取りに……」

 

「あ、それあたしが言ったやつじゃん」

 

「なーんか、薄っすらとそんなことをここで聞いたような気が……」

 

「おまたせ~」

 

ケッタケッタ言ってると、九條先輩が自転車と並びながらこちらへ来る。

 

「おっ、ケッタの人が来た」

 

「ケッタ……?」

 

「確かどっかの方言で自転車のはず」

 

「あ、そういうこと……。私が自転車だから」

 

「九條先輩お疲れ様ですっ」

 

「舞夜ちゃんもお疲れ様」

 

「後は春風先輩だけですね」

 

「結城先輩の方はどうなっていますか?」

 

「先に向かってるってさ」

 

「らじゃ」

 

少し雑談を挟んでいると、最後の香坂先輩が到着する。

 

「す、すみません……遅れました……っ」

 

「いえ、全然待ってないので気にしないでください。よし、それじゃあ全員揃ったことだし行くか」

 

「だね、向かいまっしょい」

 

「鞄、自転車のカゴの中にどうぞー」

 

「あざっす、あざっす」

 

「そんじゃお言葉に甘えて」

 

その後はナインボールに集まり、天ちゃんや結城先輩とフルーツパフェなどを食べた。いや、最高でした。ほんと。

 

 

 

 

 

「………」

 

時間は同日の深夜を過ぎた辺り。ビルの屋上で風に揺れる髪を押さえながら立っていた。

 

「……よし、そろそろ良いかな」

 

深沢先輩が例のビルに入ってから時間が経ったが、動く気配は無さそうだ。

 

「もしもし、日付も変わったことですし……そろそろ次の作戦を始めましょうか」

 

『そんじゃ、こっちも指示を送るぞ』

 

電話相手の茂さんに開始の合図を出す。

 

「うん、お願いしますね」

 

通話を切って遠く離れたビルを眺める。

 

暫くすると、次々へと九重家の人達が建物の中へと侵入していく。

 

「……どのくらい持つのかな」

 

その様子を静かに見ていると、通信が入る。

 

『ターゲットの死亡を確認』

 

「まずは、一回目だね。何回繰り返すか楽しみだね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どのくらい持つのかな」

 

その様子を静かに見ていると、通信が入る。

 

『ターゲット生存。撤退します』

 

「了解です」

 

最初の奇襲が失敗に終わったことで全員がその場から離れる。

 

「次は二時間後ですね。準備しておいてください」

 

『了解』

 

通信を切る。多分一回死んだね、これ。

 

「これで向こうもそれなりに焦るだろうね、ふふ」

 

深沢先輩が脱出してから前半の数日は、こちらはあくまで守りの体勢……来たら殺す程度の対応を取っていた。

 

けど、後半の残り三日はこっちからも仕掛ける。それも単発的に。

 

最初の攻撃を失敗した時点で即撤収。仕掛ける前に相手に少しでも動きがあれば中止して時間を変える。これを一日中繰り返す。

 

「常時命の危険に晒されるって、普通の人間では到底耐えられませんから……ね」

 

まず精神が持たない。二日も経てばまともな思考など残らないだろう。いや、二日は持つ方かな?

 

それに、向こうはオーバーロードでやり直す。それをすることでこちらから仕掛けるタイミングが分かる。分かってしまう。

 

そのために動きを見せれば来るはずの攻撃は来ない。来ると思っているためいつまでも警戒を続ける。

 

「食べ物に毒を混ぜたりするのも悪くないかも?それか部屋一帯を毒で……」

 

食べ物は近くで買うか、配達で補っているから忍ばせるのは簡単だろうし。

 

「あと、三日……精々楽しみましょうね」

 

イーリスを殺す為に……。

 

 

 

 

 

 

 

「サツキとの同調が完了したわ」

 

金曜の夜、お馴染みの九重の実家の離れで集まっていると、ソフィから嬉しい報せが入る。

 

「……つまり、いよいよってわけか」

 

「遂に決着をつける日が来たのね……」

 

「あ、あたしら、なんの準備もしてないけど、大丈夫なん?このままでさっ」

 

「大丈夫だ」

 

天の不安を落ち着かせるように言う。

 

「自分の身を最優先に動いてくれ。それと一応、先輩は能力で俺と九重の強化をお願いします」

 

「は、はいっ。頑張ります……っ」

 

「希亜の力は、最後まで取っていてくれ。必ずチャンスを作る」

 

「分かったわ。二人を信じて力を溜めておく……その瞬間が訪れるまで」

 

「九重、いけるか?」

 

「何時でも行けますよ。あとはやる事をやるだけですし」

 

ここまで俺たちは何事もなく来ている。与一からの攻撃を一度も経験していない。それはつまり、九重の方で完璧に対処しているということだ。

 

「あ、それと最後に……この後に新海先輩と二人きりで話したいことがあるので、時間少しもらっても大丈夫ですか?」

 

「ん?ああ……別に良いが」

 

俺だけ?何か大事なことでもあるのか?

 

「少し、確認しておきたいことがあるので」

 

皆に聞こえるように告げる九重の表情が、いつもよりも硬い様に見えた。

 

「……それじゃあ、明日に備えて今日は解散しましょう」

 

それを察してか、希亜が帰る支度を始める。

 

「だねー、多分緊張して寝るの遅くなりそうだし。あ、みゃーこ先輩にも明日って連絡入れとこっと」

 

「そ、そうですね。多分私はいつも通りの時間まで起きそうですけど……」

 

希亜に続いて皆も帰る準備を始めた。

 

「それじゃ、二人も遅くならない様に。おやすみなさい」

 

「ああ、また明日」

 

「んじゃねー!」

 

「おう、気を付けて帰れよ」

 

「そ、それではおやすみなさい」

 

「はい、先輩も」

 

続けて帰っていく皆を見送り、部屋に残ったのは俺と九重だけになった。

 

「……それで、話ってのはなんだ?」

 

座っている九重と向き合う。

 

「そうですね……っと言っても内容は決まっているんですが」

 

「何か、起きたのか……?」

 

明日に迫ったこの時に話すことだ。良くない事かもしれない。

 

「違います違います。問題は起きてませんし、順調ですよ」

 

「なら、俺個人にか」

 

「ですね。……明日のことですが、深沢先輩とやり合うのは、私一人に任せてくれませんか?」

 

「九重一人にって、……全部か?」

 

「はい。最後まで、です」

 

「……何か、考えがあるのか?」

 

当初の計画通り、与一やイーリスと戦うことになった時は九重に戦闘を任せ、俺はそのサポートをするつもりだったが……。

 

「……新海先輩は、救える命があるのなら救いたいですよね?」

 

「そりゃ、そうだが……」

 

当然のことを聞かれ、普通に返す。

 

「望むなら、誰も死ぬことのない未来を……作りたいですよね?」

 

「どうしてそれを今―――ま、まさか……九重お前……」

 

その言葉を、このタイミングでわざわざ確認してくる……その意味は。

 

「救うつもりなのか……?与一を……?」

 

「……出来るかもしれない、その程度の望みではありますが」

 

驚いた顔で聞く俺に、静かに笑う。

 

与一を殺す。これは今回の作戦の内の一つだ。与一を殺すことでイーリスを表に引っ張って来る。

 

つまり、イーリスを殺す為には与一の死は避けられない。前提条件と言っても良い。それを……。

 

「……いや、予定通りでいく」

 

それで全てが駄目になっては遅い。それに……。

 

「先輩は、深沢先輩を……友達を止めたいんですよね?」

 

「……他の枝で俺が言ったことか」

 

他の枝の公園で与一が魔眼の持ち主だと知った。それでも、どうにかしてあいつを止めたい。そんなことを考えて九重に相談した。

 

「その考えは、今もどこかで思っているのではないですか?もし、可能なら……と」

 

「既に手遅れなとこまで来ている。あいつをどうにかするには……もう」

 

殺すしかない。イーリスを倒す為には、必要なことなんだと……。全部を救うなんて、贅沢が過ぎる。

 

「……そうやって自分に言い聞かせては納得しているんですね。気持ちは……わかります」

 

「もっと良いやり方があったんじゃないか?自分にもっと出来ることがあれば今よりもましな未来があったんじゃないか……?けど、皆を助ける為には、このやり方が最善……そんな風に自分に言い聞かせて、納得させた」

 

「……九重?」

 

「その為に、必要な犠牲だと沢山割り切り、目を逸らして、先へ進む。ですが、手に入れた未来で残るのは、その捨てて来た過去の罪悪感」

 

「皆が笑っている。生きている。その喜びを味わう……分かち合える。でも、心のどこかでしこりが残ってしまう。捨ててしまったあの時の選択を悔いてしまう……」

 

「先輩には、そんな未来を送って欲しくありません」

 

まるで俺の心の中を見透かす様に、ゆっくりと話す。その表情は、まるで自分のことのように寂しそうな笑みをしていた。

 

「新海先輩にも、皆と同じ様に……笑って平穏な日々を過ごして欲しい。深沢先輩の死を気にする様な未来を歩んでほしくはないのです」

 

「俺の……俺たちの為に、九重がこれ以上無理する必要は……ない。これまでので、もう十分だ」

 

「……いえ、これは先輩達の為じゃないです。私の……私が望んでいるのです」

 

「九重自身が……?」

 

「誰かの死の上で成り立つ未来を……否定したい、犠牲なくイーリスを消し去る。そんなのは無理だと諦めていた……ですが、わずかな可能性があるのでしたら、それを掴み取りたい……そんな感じです」

 

「自分の中の私が、それを望んでいるのです」

 

目を閉じ、自分の胸に手を当てる。

 

「それなら、私はそれを叶えたい。可能なのだと証明したいのです」

 

目を開き、真っ直ぐな瞳で俺を見つめる。

 

「協力を、してくれませんか?私が望んだ未来の為に」

 

九重の願いを聞き、小さくため息を吐く。

 

「……そんな言われたら、嫌とは言えるわけないだろ」

 

別の枝で、希望を捨てきれなかった俺のエゴを、九重は快く引き受けてくれた。

 

なら、俺の答えは―――。

 

あの時の言葉を、そのまま返してやった。

 

 





一区切りをつけたら少し短くなりました。

次で与一戦からイーリスへ続きます。

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