9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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勢いのまま続きを……。

どうも、強化のお時間です。




第31話:到達点

 

「イーリスッ!」

 

正面の深沢先輩が叫ぶ。

 

「どうせ見てるんだろっ!使える幻体を作ってやる!手を貸せっ!」

 

イーリスへ呼びかける……が、当然現れない。

 

「……ッ、いつまで姿を晦ましてんだあいつは……!僕を手伝う気が無いのなら―――」

 

「もっと力を寄越せ!イーリスッ!」

 

「―――同調深度を上げろっ!!」

 

来た。次のフェイズに無事移れた。

 

「グ……ッ、ォォオオオッ!」

 

苦しむ様な声を響かせる。

 

「……っ、与一っ!」

 

「スティグマが……広がってく……」

 

深沢先輩の身体の肌をなぞる様に、赤い線が広がっていく。

 

「グッ……ッ!ハァ……、……ハハハッ!!」

 

準備が済み、こちらを見て笑う。

 

「第二ラウンドと行こうか……っ!」

 

「良いですよ。飽きるまでお相手します」

 

どのくらい強化されたのか分からないので、試しに幻体を槍に変え、側面に回って投げつける。

 

「ハハッ!無駄だよっ!」

 

けど、強化された結界は破壊出来なかった。

 

「まだですよっ!」

 

今度は幻体を腕に纏わせ、結界を殴りつける。

 

「……こちらの想定より固めですね」

 

全力……とまではいかないがかなり力を込めて攻撃したが破壊は出来なかった。

 

「どうやら結界は壊せないみたいだね……!なるほど、最初からこうしてれば良かった……なっ!」

 

私に向かって攻撃が飛んできたのを距離を取って避ける。

 

「それでは、そちらもパワーアップしたので私も一段階上げときましょうか」

 

目を閉じ、アーティファクトの能力を強める、暴走じゃない。力を掌握する……。天ちゃんの枝の様に……!

 

「九重……お前……それって……っ!?」

 

後ろから新海先輩の驚くような声が聞こえる。

 

目を開けると、望んだ通りにスティグマが紅く光り、体に広がる。

 

「ここからは私も本気を出しましょう」

 

「……ちっ。分かってたさ、そっちがまだ本気じゃないってことぐらい」

 

私に対して、心底嫌そうな表情を浮かべ、言葉を吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

九重の身体を覆うようにスティグマが広がってくと同時に、その青い色が紅く輝き、スティグマを染め上げる。

 

「あれって……舞夜ちゃんの……」

 

「アーティファクトを、掌握した……?この一瞬で……?」

 

「に、にぃに、大丈夫なのっ?あんなに勢い良く広がってさっ!」

 

「……ああ、大丈夫だ。それも含めて九重の作戦通り進めている」

 

一応事前に軽く聞いてはいたが、本当に一発で覚醒するとか……。

 

「彼女なら、可能だったのでしょうね」

 

「他の枝で確認済みだったが……ほんとにやっちまうとはな……」

 

少し心配ではあるが……。

 

「安心しなさい。あの子なら問題無いわ」

 

俺達の不安を読み取ったのか、ソフィが姿を現す。

 

「アーティファクトが暴走した時特有の魂の揺らぎも、消耗も見られないわ」

 

「つまりは……」

 

「ええ、完全にアーティファクトを自分の物にしてるのよ。あの一瞬で……相変わらず、とんでもない子ね」

 

呆れるような声のソフィが正面を向く。それに続いて俺達も与一と九重を見る。

 

「なんでだ……っ!なんで勝てないんだっ!まだ足りないってことかよ……っ!!」

 

「これで何度目でしょうかっ!深沢先輩っ!」

 

目で追えない速度で縦横無尽に動き回る。

 

「次、行きますよっ!!」

 

与一から少し距離を取る様に離れ、今度は幻体を日本刀みたいな刀に変える。

 

「居合・―――『閃』ッ!!」

 

結界が割れる音が響くと同時に、九重が持っている幻体の伸びるような軌跡だけが後に残る。

 

「抜刀術……」

 

後ろに立つ先輩が呟く。確かにそんな風に見える。

 

一瞬静寂が訪れたと思うと、与一の身体がズレ……その場に崩れ落ちる。

 

「滅茶苦茶な幻体の使い方ねぇ……何でもありじゃない」

 

「……イーリス、さっさと次へ行って下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで何度目でしょうかっ!深沢先輩っ!」

 

目で追えない速度で縦横無尽に動き回る。

 

「次、行きますよっ!!」

 

与一から少し距離を取る様に離れ、今度は幻体を日本刀みたいな刀に変える。

 

「―――クソがぁっ!!!」

 

九重が構えを取った瞬間、与一がその場から転移する。

 

「……はぁ、……はぁ……っ、どうやら、今までみたいに僕の移動を封じれない様だね……!!」

 

「いいえ、その必要が無くなった……それだけです」

 

「は?」

 

与一が転移した先を見ていると、先ほどまで刀を構えていた九重が与一の背後を取っており、既に刀は抜かれていた。

 

「……は?」

 

体を動かそうとした与一の胴体が二つに分かれ、地面へ落ちる。

 

「……次です。こんなのさっさと消して下さい」

 

今の一瞬で、何が起きたんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呆れるような声のソフィが正面を向く。それに続いて俺達も与一と九重を見る。

 

「クソッ!!クソッ!なんだよ……!なんなんだよ!クソがぁぁぁああああ!!」

 

対峙している与一が叫ぶ。抑え切れない怒りを声にして吐き出す。

 

「随分と荒れてますねっ!何か嫌な事でもありました……かっ!」

 

「―――ッ!」

 

与一が九重から距離を置く。

 

「はぁ……っ、はぁ……。これでもまだ、足りないのかよ……化け物め……ッ!」

 

「可愛いって言ってくれたのに酷い気の変わりようですね。私、まだ何もしてませんよ?」

 

「何もしてない……っ!ほんとムカつくよ……!その余裕な態度がっ!!」

 

怒りに任せてこちらに攻撃を仕掛ける。吹き荒れる烈風が九重を襲う。

 

「あははっ!……無駄、ですよっ!!」

 

それに対して幻体を自分の身長よりも大きな斧へ形を変形させる。

 

「どっおおせっいっ!!」

 

斧を振り回しながら与一の攻撃を消し飛ばす。その余波が風となってこちらまで届く。

 

「トドメ……ですっ!!」

 

手に持っている斧を次は槍に変え、その場で与一に向かって投げつける。

 

「ふざ、けるなぁぁァあああ!!」

 

結界にぶつかり、割れる。それでも止まらない槍が与一へ向かうが、それをギリギリで避ける。

 

「……やり直しましたね?」

 

さっきは割れなかった結界が今度はあんなに簡単に破壊された。

 

「好き放題にやってるわねぇ……あの子」

 

「なんか、今までで一番生き生きしてる様に見えるよ……」

 

これまでの枝では見た事ない攻撃が多い。他の枝では主に素手で制圧していたが……いや、それで充分だったが。

 

「一体、どれだけの修行を積めば、あんなになれるのかしら?この世界に来て一番の謎だわ」

 

「同感だ……」

 

イーリスの力で強化された与一が手も足も出ない。攻撃をする隙も碌に与えずに一方的に攻めている。

 

……何度か、殺さない様に加減しているのは、イーリスを引きずり出す為なんだろう。与一が力を求める為に……。

 

二人の戦いを見ていると、ふと九重が立ち止まる。

 

そして不思議そうに自分の手を開いては閉じる。今度は身体を確かめるように触る。

 

すると、与一を無視してこちらを向き、一瞬で戻って来た。

 

「ちょっと確かめたいことがあって戻りました」

 

「確かめたいこと……?」

 

離れた与一を見ると、息もするのも辛そうにその場で立っている。

 

「新海先輩……いえ、その相棒さんにですね」

 

「相棒に……?」

 

何が……。

 

「相棒さん。……違いますね、敢えて()()()と呼びます。聞こえているのでしたら私の願いを聞き入れて下さい」

 

俺ではなく、宙に向かって声を出す。

 

「先輩と同じ様に、私にも教えてない記憶があるのではないでしょうか!先ほどから戦っていて違和感を感じてますっ」

 

「違和感……?何かあったのか?」

 

「……自分が想定しているより、技や力の出力が大きいのですよ。それにアーティファクト関係無しに体の使い方が妙に分かるんですよね」

 

自分の手を広げて見つめる。

 

「もしもっ、あるのでしたらそれを下さいっ!責任は自分で負います!とてもやりにくいんです!加減を間違えそうです!」

 

「加減を……ってそれもそうか」

 

それじゃあ、これまでのは気を遣って戦っていたのか……?それなら……。

 

 

『分かった』

 

 

「……っ」

 

その時、相棒の返事が確かに届いた。

 

「……ありがとうございます」

 

九重にもその声が届いたのか、微笑みながら返事をする。

 

「……っ、………、………」

 

一瞬反射的に顔を顰めた九重だが、次の瞬間には驚愕の表情を浮かべていた。

 

「……こ、九重?」

 

俺の声にゆっくりと顔を向ける。

 

「に、新海、先輩……?」

 

俺を見て驚くような顔をする。

 

「な、何かあったのか……?まさか、変な記憶をっ……!?」

 

「あ、あ……っいえ!大丈夫!大丈夫です!ちょっと驚いただけです!」

 

こちらを心配させない様に手をブンブンと振る。

 

「それにしても……」

 

周囲を見渡し、最後に俺たちを見る。

 

「ああ……また、皆さんに会える日が来るなんて……ふふふ……あはは……」

 

「ま、舞夜ちゃん……?どしたん?」

 

「ううん、何でもないよ天ちゃん……」

 

涙を拭う様な仕草を取る。

 

「舞夜……あなた、泣いているの?」

 

「ど、どこか……怪我でもされたんじゃ……っ」

 

「ううん、平気。ちょっと感動しちゃっただけ。すっごい記憶が流れてきたもんだから……」

 

「記憶が……」

 

「おっと、それよりも今は、深沢与一の相手が先だったわね……」

 

くるりと優雅に振り返る。

 

「え、ほんと大丈夫なの?口調も若干おかしくね……?」

 

天の言う通りだ。なんて言うか、かなり大人びた雰囲気を纏っている様に見える。

 

「九重……?本当に平気か?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。むしろやる気に満ち溢れているくらいには……っ!!」

 

九重のスティグマが一層輝く。

 

「お喋りは終わりで良いかなッ!翔ぅ!!」

 

体勢を整え終えた与一が無数の浮遊物を作り出し、こちらに向けて放つ。

 

「くそッ!」

 

あれは以前に俺達へ向けて使った技だ。前回は九重が止めたが、足に怪我を負っていた。

 

「……大丈夫です。安心してください」

 

こちらもあやす様な静かな声で一歩前に出る。

 

「来て」

 

幻体が現れたかと思うと、九重が手に纏わる。

 

「案外簡単ね」

 

腕を大きく振るうと、手に纏わせていた幻体が無数の細い糸の様に伸びる。

 

腕と指を高速で動かし、迫って来る攻撃を全て捌き切る。

 

「こんなもんだよね。所詮」

 

何ともない様に呟く。

 

糸状に伸びた幻体が手に戻り、ナイフが一本生成される。

 

「はッ、この場に及んでナイフ……?どこまで僕を馬鹿にして……っ!!」

 

「それはどうでしょう」

 

直立の体勢でナイフを持ち、腕を振りナイフを投げる……いや、投げたんだと思う。

 

その動きは見えなかったが、与一の結界が割れた音が響き渡った事で結果として理解出来た。

 

「―――は?なんで……?」

 

「良いんですか?そのままボーっとしていると首……貰っちゃいますよ?」

 

「ッ!くそっ!」

 

すぐにその場から跳び、別の場所に現れる。

 

「なんでだよ……さっきまで壊せなかっただろ……なんでいきなり……っ!!」

 

「手加減、って言葉……分かりますか?深沢先輩?」

 

「手加減……?それじゃあ、今まで何時でも殺せたのに敢えて……?」

 

「怒り過ぎてまともな思考回路までやられちゃってるみたいね……ああ、イーリスから力を借りている程度の脳みそじゃそれもそうか……ふふ」

 

わざとらしいねっとりしたような声で与一を挑発する。

 

「もっとイーリスにお願いすればいいんじゃないですか?『勝てないから僕に力をください~』って。憐れなお人形さん?」

 

「―――ッ!ァ――ァアッ!!!」

 

与一から声にもならない叫びが聞こえる。

 

「これは、勝負あったわね」

 

「……与一の負け、か」

 

「ええ、最初から分かってはいたことだけれども……。あの子の魂は揺らいでいる。もうまともにアーティファクトも使えないわ」

 

……そのせいで九重の攻撃で簡単に結界が壊せたのか。

 

「けど、それよりも……」

 

ソフィが神妙な声で九重を見る。

 

「……いえ、今は関係ないわね」

 

「何か、あったのか?」

 

「気にしないで。大したことじゃないから」

 

こちらに聞かれたくないのか、話を切り上げる。

 

「殺す……っ!殺す殺す!殺すっ……!!」

 

与一が殺意だけを込めた言葉を吐く、その目は酷く濁っている。

 

「イーリスッッ!!!、力を……っ!!もっと、寄越せっ!!」

 

「こんなんじゃ全然足りないんだよ!もっと寄越せっ!こいつを殺せる力を……っ!!」

 

イーリスに力を求め、与一のスティグマが輝き始める。それに合わせて九重のスティグマも強く輝く。

 

「……っ、与一……」

 

大丈夫だ。落ち着け。まだイーリスは出て来ていない。

 

「……っ、中々やりますね、これ」

 

「九重、大丈夫か?」

 

「ええ、まだまだいけますよ。先輩はソフィと結城先輩と合わせて下さい。……来ますよ、イーリスが」

 

「寄越せっ!!力を―――ッ!!クッ!?」

 

突然、苦しむように胸を抑える。

 

「ハッ―――、ハァッ―――」

 

与一の身体を、スティグマが急速に浸食し始める

 

不穏な気配がその場を支配する。

 

「―――ッ、ハァッ……ハァ……!」

 

スティグマに染まった与一の姿が、変貌する。

 

「……なんなの、あの姿」

 

「人体アーティファクト化の……その極致、といったところかしら?」

 

「遂に、ここまで来たのか……」

 

「ええ、人を捨ててしまったわね。あの子」

 

「アァアアアアッ!!」

 

獣の様な雄叫びを上げ、腕を振るう。

 

今まで比じゃない赤い烈風が、俺達へ襲い掛かる。

 

「甘いですよ」

 

しかし、正面に出た九重が幻体の形を変えて前へ出る。

 

あれは……鞭……?

 

「―――『空乱』ッ」

 

それを目に見えない速度で振るい、迫った暴風を打ち消す。

 

「アーティファクトと言っても所詮、風の衝撃ですし……こんなもんですか。でも、ダメージが還って来るのやっぱりいただけませんね……」

 

困った様に肩をトントンと叩く。その表情には焦りは見えない。

 

「それで?こんなそよ風で何をしたかったのですか?あ、もしかして、スカート捲りでもする気でしたかぁ?深沢先輩?」

 

「はハハっッ!その余裕ガッ!どこマで続くかなッ!」

 

続けてさっきと同じ様に攻撃を仕掛けてくる。

 

烈風、飛来する真空刃、無数の飛来物。

 

それら全てを正面から受け、全てを消し去る。

 

「もうやめませんか?これ以上は無駄ですよ?」

 

「ナニ、自分には勝てない。そウ言いたいの……?」

 

「いいえ、まるでおもちゃを手に入れた子供みたいに力を使って……力の制御も、理性の自制すら出来て無いじゃないですか。死にますよ?このままじゃ……」

 

「ハッ!構わないさっ!力が使えれば……!」

 

「分別も出来ない()()、ですね……ふふ」

 

あざ笑うかのように与一を挑発する。

 

「ああ……そうだよ!その通りさ!僕もイーリスと同じさ。持っている力を振るいたいだけさ。その為に手を組んでいるっ」

 

「僕達にあるのは"我"だよ。ガキのままを貫きたい、ただそれだけさ!どこまでも……ね」

 

「抑圧なんてクソくらえだ……ッ、どこの誰かが作ったルールなんてどうでもいいね……!」

 

「君ならわかるんじゃないかな……?似たようなことを感じたことがあるんじゃないか?」

 

その言葉は、俺たちの前に立っている九重に向けられていた。

 

「……言いたい事は分かりますよ。生まれが、育ちが……スタートラインがそもそも違う。自分は他人とは相容れない生き物。自分だけが異常と気づきながらも、その衝動を抑えきれない。生き方を止めることが出来ない……。ま、そんな感じでしょう」

 

「なんだ……やっぱり君も同じ―――」

 

「ですがっ」

 

与一の言葉を遮る様に声を張る。

 

「私はあなたとは違います。救ってくれた人がいた。育ててくれた人がいた。私には、私を人として生きれる道を示した人達がいた……。その恩を返すまでは、私は決して道を誤らない。いえ、誤ることなくここまで来れました」

 

「なので、深沢与一。私はあなたとは違う人間です」

 

ハッキリと与一に言い放つ。

 

「……残念だよ、ほんとに……。正直、ちょっと期待していた。僕の気持ちを理解してくれるかもって……」

 

「でも、君も結局はそっち側で生きることを選ぶのか……。そっか……。僕と同じなのはイーリスだけか。……もういい、じゃあ死んでくれよ」

 

「良いですよ。殺せるものなら……ですが」

 

「ッ!殺す……ッ!今度こそ、僕たちの力でっ!キミがしたように!徹底的にッ!心を折って―――」

 

『悪いけど、別に私はあなたと同じじゃないわよ?』

 

「……ッ!?」

 

与一の動きが止まる。

 

―――声がした。

 

与一の内側から、低く、冷たく、響く声が……。

 

「な、にを……ッ!」

 

『力を貸してあげた。その見返りをもらうだけよ』

 

「ぅ、ァ……っ、……ッ!?」

 

『その子にフラれたからって私に縋るなんて……、結局あなたも誰かと繋がりが欲しかったのね。でも、興味ないのよ。ごめんなさいね?あなたの気持ち、わかってあげられなくて』

 

イーリスの声が場を包む。

 

『せめてものお詫びに、あなたのこと、沢山使ってあげるわ』

 

「……ッ!イー、リス……ッ」

 

『フフフ……』

 

苦しむ声を出していた与一の身体が……ピタリと止まる。

 

「……ハァ……」

 

喜びを表現するようにため息を吐き、体を動かし始める。

 

「……イーリス」

 

「感謝するわ。舞夜」

 

「この子強情で、中々渡してくれなかったの。けれど、あなたのおかげで……ようやく、私のものになったわぁ」

 

「遂に来ましたか……」

 

「今まで出てこなかったのは……、彼がイーリスの力を強く求めるのを……待っていた……」

 

「……先生の時みたいに。深沢くんの体を……」

 

「乗っ取りなんて生易しいものじゃないわ。あの身体は……完全にイーリスのものになった」

 

「……じゃ、じゃあ、もう、もとには……」

 

「戻らないわよ?」

 

事も無げに言い放つ。顔に刻まれたスティグマが、まるで笑っているかのように不気味に歪む。

 

「本当は、その子が欲しかったのだけれど……あら?まだ私の中に残っているわね……意外としぶといのかしら?まぁいいわ」

 

イーリスが不思議そうに自分の身体を見る。

 

……その反応をするってことは。

 

「この体は男の子だけど……言葉遣い、気を付けた方がいいかしら?もっと性別に合わせた方が良い?どう思う?フフ……」

 

「……どうでしょうね。ギャップ萌えとかあるかもしれませんよ?」

 

「ギャップ萌え……?私の知らない言葉ね。どういう意味かしら」

 

「え……素?これは予想外……かな」

 

イーリスの質問に九重が困った様に小声で呟く。

 

「……そうですね、内面と外面の違いによる意外性で、好感を抱く……。そんな感じの意味ですよ」

 

「へぇ……わざわざ答えてくれてありがとう。それじゃあ、そのお礼をしなくちゃいけないかしら」

 

イーリスの纏う気配が膨れ上がる。

 

「あの子との絆なんて無いけど、せめて私の中で自由に力を使うのを味わわせてあげないとね……フフ」

 

「新海先輩、来ますよ」

 

「ああ……必要か?」

 

「結城先輩同様、自分の役目を果たして下さい」

 

「……了解」

 

ここまで来ても自分一人で十分だと言い切る九重に任せて、後ろに下がる。

 

「……翔」

 

「大丈夫だ。九重ならやってくれる」

 

俺達は……俺達にしか出来ない役目を果たさないとな。

 

 





与一、完ッ!!

次回は主人公視点で色々行きます。次でイーリス戦も終わりかな……?

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