9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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やってまいりました、イーリス戦!

と言ってもあまり長くは無いんですが……w




第32話:ラストダンス

 

「さて……」

 

皆を守る為にイーリスと対峙するように前へ出る。

 

「あらぁ?あなた一人でいいのかしら?」

 

「お礼が必要なのは、私ではありませんか?イーリスさん」

 

「フフ……そうね、まずはあなたにこれまでのも含めて返さないといけないわね」

 

妖しく笑うイーリスの気配が増す。

 

ああ……とうとうここまで来れたのか、いや帰って来れたと言うべきだろうか。

 

ナインから記憶を引き継いだが、まさかあんな先の未来まであったなんてね。流石に予想外だよ全く……。けど、そのおかげでこの戦いに余裕が出来た。

 

自分のアーティファクトの力を確認する。

 

……よし、大丈夫そうね。最後と言うのに結局アーティファクトの力でイーリスと戦わないというのは少し粋が欠けるけど……でも。

 

「ふふふ、今の私の身体でどこまで耐えられるか……実験に付き合って下さいね?」

 

最後に信頼できるのは努力して身に付けた武に違いない。それは全てこの時の為。

 

「いいわよぁ、私もこの子の体の使い心地を試したいもの」

 

イーリスが手を振るう。すると、目には見えない透明な何かが迫って来るのを空気の揺らぎで感知する。

 

手の様なものが私の首まで伸び、そのまま掴んで持ち上げる。

 

「………」

 

「九重ッ!!」

 

「舞夜……っ!」

 

心配そうに声を上げる二人へ手を出して制止させる。

 

「安心していいわよ。殺しはしないわ。じっくりと苦しめてあげるだけ……」

 

……なるほど、これが初手で新海先輩が食らっていた見えざる手、だね……。

 

どんなものかと思ったけど、正直期待外れだった。

 

「……ふっ」

 

透明な何かを掴み、引きちぎる。

 

「あら……もう外しちゃったの」

 

「お礼ですから。しっかりと受けさせてもらいましたよ」

 

「どういたしまして。喜んでもらえたかしら?」

 

「ええ、とても」

 

「それじゃあ、これはどうかしら?」

 

手を前に出し、私へ向けて烈風を飛ばす。

 

「意外とワンパターンね……楽しみが無さそう」

 

「―――『絶』」

 

右足を一歩前へ踏み込み、荒れ狂う風の一部へ向けて衝撃破を叩きつける。

 

勢いを失った風が霧散する様に周囲へ散る。

 

「これだけですか?」

 

「ほんと、素晴らしい身体ね……」

 

「そりゃ、ここまで鍛えたもので」

 

保険として幻体を出して先輩達の傍に付ける。

 

「では、私からも行きます……よっ!」

 

地面が沈み、今の私が想定していたより遥かに速く、無駄が削がれた動きでイーリスの目の前に現れる。

 

「期待、通りね」

 

私が来るのを想定し、予め正面へ布石の罠を仕掛けていた。

 

「これだけじゃないわよ?」

 

周囲にも大量の飛来物を向けてくる。

 

なので、敢えてそれらを正面から全て叩き潰した。

 

「あらすごい」

 

指をこちらに向け、レーザーの様な光を放つ。

 

「――ふんっ」

 

髪飾りのナイフを外し、真っ直ぐ向かって来るそれを角度を付けて弾く。

 

「やるじゃない」

 

手元のナイフを見ると、少し刃が欠けていた。ちぇ、お気に入りだったのに……。

 

「次はこっちの番ですよ」

 

結界へ手を添える。

 

「すぅ―――『鎧崩し』ッ!!」

 

右手から結界へ衝撃が伝播する。込めた力に比例して足元の地面が沈み割れる。

 

対象の結界はあっけなく砕け散る。

 

「まさか……これでも破壊されるなんて……ね」

 

転移で私と距離を取るように離れる。

 

「褒めてあげるわ。全力とは行かないまでにしても、私のを壊しちゃうなんてね」

 

「私も全力とは程遠いのでお互い様ですよ」

 

今の身体だとこれ位が限界だし。

 

「まぁ……技の冴えはそこそこは行けるわよ?イーリス?」

 

イーリスの背後へ回る。

 

「―――っ!?」

 

一瞬の反応に遅れたイーリスへ手を向ける。

 

「この―――!」

 

こちらを向いたイーリスの体へ向けて衝撃を放つ。

 

「っ!?」

 

仰け反る様に一歩下がり、口から血を吐く。その血が私まで飛ぶ。

 

「い、一回の攻撃で……これだけの……フフフ……」

 

更に口から血を吐き出す。

 

「……汚い血、ですね」

 

顔に掛かったが口へと入って行く。

 

「……フフフ、この子の血を……飲んだわね?」

 

私が深沢先輩の血を摂取したのを見て、嬉しそうに笑う。

 

「……それが、どうかしたのですか?」

 

「馬鹿ねぇ……もっと用心深くしないと……こうなっちゃうわよ?」

 

次の瞬間、私の身体の中から何かが浸食するように湧き出てくる。

 

「―――ッ!?こ、これは……!!」

 

「人体アーティファクト化、その方法は一つだけじゃないのよ……?フフフ……」

 

不気味に笑うイーリスの気配が私の中で膨れ上がって来る。

 

「あなたの身体、もらうわね?」

 

次の瞬間、深沢先輩の身体からイーリスの気配が完全に消える。

 

「なる、ほ……ど。今度は、私の……体を……っ」

 

「前々からずっと狙っていたのよぉ……あなたのこの体」

 

宿主を失った深沢先輩の肉体が地面に崩れ落ちる。

 

「ふふ、ふふふ……」

 

それを見て思わず笑みが零れる。

 

「あら?どうかしたのかしら……?それにしても、やっぱり抵抗が激しいわね。まぁ、分かっていたことだけれども」

 

イーリスが完全に私の身体に移った事で()()()()()使()()()()()()()()全て自分へ回す。

 

「あは、あははッ!あはははっ!!」

 

「そんなに笑っちゃって……何がそんなに嬉しいのかしら……?」

 

「ただでは、死なない……ということですよ……ッ!!」

 

イーリスへ乗っ取られかけている身体の支配を無理矢理一部奪い返す。

 

「……まさか、あなた……」

 

自分の腕を振り上げ、加減無しで心臓を貫く。

 

「―――ぐッふ……ああ……これで、この体は使い物になりません、ね……?ふふふ、あははっ!」

 

ああ……最高ね。こんなにもあっさり……と。

 

「あなた……相当狂っている様ね。その自己犠牲……けど、無意味よ」

 

分かってるよ。オーバーロードを使う……そうでしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!来……た、ァあああっ!!!」

 

イーリスが完全に私の身体に移った。そのおかげで私とイーリスの間に僅かな繋がりが出来ている。未来のイーリスがオーバーロードを使った瞬間を認識出来た。

 

「……っ、まさか……!?」

 

ソフィと成瀬先生、ナインの思惑に気付いた様だけど、もう遅い!

 

一瞬繋がったパスを私の能力を使って全力で繋ぎ合わせる。

 

「あははッ!この時を……っ!待っていたんですよ!!イーリス!!」

 

自由が利かない身体の視線だけを先輩達へ向ける。

 

「今ですっ!」

 

「……ああっ!ようやく、繋がった!―――希亜っ!」

 

「……ええ、この瞬間を、待っていたっ!!」

 

結城先輩が一歩前に出る。

 

「……はぁ、本当にむかつくわね」

 

呆れた声でイーリスが吐き捨てる。

 

「……不本意ではあるけれど、退かせてもらおうかしら―――ッ!?」

 

「ふふふ、無駄ですよぉ……!逃がすわけないでしょうが!」

 

自分の身体と周囲の空間全てを固定させる。

 

「な……っ」

 

「当然……!肉体ともしっかり繋がっているので、そちらの身体にも返しませんよ……っ!!」

 

「ッ!ほんと……!どこまでも私の邪魔を……っ!!」

 

イーリスが全力で私の身体の主導権を奪いに来る。

 

「体の制御が奪えない……、なんなの……この抵抗力は……!!」

 

「さぁ、私と最後まで踊りましょうよ……イーリス?あはははっ!」

 

「ッ!?」

 

「ジ・オーダー……フルアクティブ!」

 

結城先輩の身体を纏うようにアーティファクトの力が広がる。

 

「この……ッ!私が……!たかがこんな子供に……恐怖を……っ!?」

 

一瞬勢いが弱まった主導権を逆に奪いにかかる。

 

「ありえない……千年以上も生きている私が……!こんな小娘に……圧されてる……!?」

 

「あははッ!あなたが相手しているのは千年の武、その頂きですよ……!」

 

「このままじゃ……ッ!!」

 

悪あがきで結城先輩の方へ攻撃を放とうと手を向けるが、私の幻体が即座にその手を叩き折る。

 

「フッ……無駄ですよ、魔女さま?」

 

あざ笑うように私を見下す。

 

「ガキが……ッ!!」

 

「舞夜っ!」

 

「大丈夫ですっ!やってください!!」

 

「希亜!九重なら大丈夫だ!イーリスを討て!」

 

「―――ええ!―――パニッシュメントッ!」

 

集約した力の奔流が、私の身体を通してイーリスへと直撃した。

 

「………ぁあ……」

 

「千年……生きた……この私が、まさか……あんな子供如きに……ね」

 

「悔しいけれど、潮時ね……」

 

「さようなら。地獄でまた会いましょう……フフフ」

 

最後まで嫌な笑い声を響かせながら、イーリスの存在が消滅したのを感じた。

 

「―――ッ!ハァ……っ、ハァ……」

 

体の制御が戻った事で体勢を整える。

 

「……やっ、た……?イーリスを……っ」

 

「……ああ、終わった。今度こそ……倒した」

 

新海先輩の勝利宣言を聞いて、結城先輩が安堵する。

 

「ついに……イーリスを……」

 

二人の会話を聞いている内にある程度体が落ち着いたので、折れた手を元に戻して先輩達を見る。

 

「……どうやら、私達の勝ちの様ですね」

 

「ああ、勝てた……勝てたんだな……っ、そうだ、与一は……!?」

 

「安心してください。ちゃんと生きてますよ。ちょっと臓器へダメージはありますが……」

 

「それ、大丈夫って言えるのか……?」

 

「死ぬよりましでしょう。一応、私の能力でこれ以上の悪化は止めていますよ」

 

「そっか……与一も生きたんだな……」

 

「ええ、私達の作戦勝ちってやつですね」

 

「はは、ほとんど九重一人で終わらせていたけどな……」

 

「最後のだけはどうしても私ではいけませんから。それまでの道を整えた、それだけです」

 

……ああ、終わったんだ。この戦いが。

 

「舞夜ちゃん……!」

 

新海先輩と話していると、他の皆も駆け寄って来た。

 

「イ、イーリスは……」

 

「大丈夫です。今度こそ倒しました」

 

「深沢くんは……無事そう……かな?」

 

「ええ、命に別状はありません。少し入院は必要かもしれませんが」

 

「いやいやっ!そっちの人より……!舞夜ちゃん平気なのっ!?体乗っ取られていたじゃん!!」

 

「ふっふっふ……これでも護身術をかなり嗜んでるからね!あの程度へっちゃらってものよ!」

 

「お前はいつまで護身術でゴリ押しする気だ……」

 

「天ちゃんが騙されるまで……でしょうか?」

 

「いやぁ、流石の私でもあんな護身術ないって分かるから……」

 

「ありゃま、心が穢れてしまった……新海先輩のせいですね……およよ」

 

「勝手に人のせいにすんな」

 

戦闘後の場に笑いが零れる。

 

「いいかしら」

 

ソフィがぷかぷかと浮かびながら近寄る。

 

「一先ず、お疲れさま」

 

「いえいえ、ソフィもありがとうございます。ちゃんとタイミングを合わせてくれて」

 

「私の方は大したことじゃないわよ。簡単だったわ。それに……一番頑張ったのはあなたよ」

 

「ふふ、どうも」

 

この歳でも褒められるのは素直に嬉しいもの……ってまだ若い若い。

 

「皆さんも、お疲れ様でした」

 

みんなを見回して笑う。

 

「なーんもしてない私達が言われても……ねぇ?みゃーこ先輩……?」

 

「う、うん……ほんとうに、見ているだけだったから……」

 

「わ、私も……能力を使ってはいたけど……あまり実感が……」

 

「それを言うなら私もね。最後の最後に一撃だけなのだから」

 

「希亜のは仕方ないだろ?他の人に出来ないんだから」

 

「まぁまぁ、皆さん。取りあえずそこで転がっている深沢先輩を連れて行かないといけませんし、移動しませんか?」

 

「……だな。喜びを分かち合うのはそれが終わってからだな」

 

「そうですそうです。なので、行きましょうか」

 

地面で倒れている深沢先輩を担ぎ上げる。

 

「……んー……あばら骨にヒビかな?臓器にもちょっとダメージ入ってそうだね」

 

通信機を取り出して、救急搬送の手配を送る。

 

「よーし、それでは!勝利の凱旋と洒落込みましょう!!」

 

拳を握り、高々と上へ掲げた。

 

 

 

 

 

 

イーリスを無事殺してから、数日が過ぎた。

 

僭越ながら、この九重舞夜がこれまでの経緯を軽く話しておきましょう。

 

まず、軽く重傷を負っている深沢先輩を医務班へ放り投げ、おじいちゃん達へ一言連絡を送った。

 

勝利した祝勝会を泊まり込みでやりたい……私を含めてみんな同じ気持ちだったが、こちらの都合で後日にして貰った。後処理で忙殺確定だったからね……はぁ。

 

皆を無事送ったあと、すぐにおじいちゃん達を集めて報告をした。

 

千年の悲願、その役目が終わったことを……。イーリスを滅したと。

 

その場で宴が始まりそうな空気だったが、流石に止めといた。

 

そこから二日間は報告と処理に追われた。……ゴールデンウイーク中でほんと良かった……はぁ。

 

取りあえず落ち着け始めたのを感じ、実家を出て住んでいるマンションの部屋へ帰った。

 

……不思議な気分。自分が住んでいた部屋なのに、そうじゃなくなった記憶もある。そんな変な感じ。

 

グループで皆とはちゃんとメッセージのやり取りをしていたけど、祝勝会は私が落ち着いてからしようと日にちは決まっていない。ありがたいことですよ……ほんと。

 

「……さてと」

 

けど、まだこの枝ではやることが残っている。……いや、私が言わなくてもいつかは行くとは思うけどね。

 

部屋を出て、三つ隣の部屋のインターホンを押す。実家には帰っていないって言ってたし、大丈夫よね。

 

「はーい、って九重か」

 

「お久しぶり……で良いんでしょうか?」

 

「数日振り、だな。取りあえず上がるか?」

 

「お邪魔しまーす」

 

そのまま案内されて部屋へ招かれる。

 

「そっちはもう落ち着いたのか?」

 

「ですね、ある程度は……。あとは私がいなくても大丈夫だと思います」

 

「そっか、改めてほんと色々とありがとな。実家の人の手を借りさせてもらって」

 

「ふふ、いえいえ。これが私の役目ですので……と、それより」

 

「ん?なんだ」

 

「新海先輩は、他の枝の自分に勝利宣言はされていますか?」

 

「他の枝の俺に……って、ああ……そういうことか。確かに、必要だったな」

 

「他の枝だと、存在しないイーリスを倒すぞー!って動いてるかもしれませんよ?」

 

「そうだった。なんかこの枝で倒せたことで忘れていたよ。サンキュ」

 

「どういたしまして。会いに行ってあげて下さい。それぞれの枝の、皆に……」

 

「……そうだな。そうしないといけないよな」

 

「はいっ、この枝の皆さんはそりゃもう先輩のせいで色々と厄介ですから……ね?」

 

「あー……それを今言うかぁ……?」

 

「ですので、せめて自分の枝だけでも先輩と喜びを分かち合ってもらいましょう」

 

「……ああ、そうするよ。相棒、頼めるか?」

 

「新海先輩と、そのお相手にも……ですよ?」

 

 

『分かった』

 

 

「……大丈夫みたいだな」

 

「みたい、ですね」

 

これで、無事結城先輩に会いに行ってくれるでしょう。この枝はちょっと複雑過ぎるしね。

 

「では、行ってらっしゃいませ。皆さんとお幸せに」

 

「ありがとな……」

 

「向こうの私にもよろしくお願いしますね?ちょっとうるさいかもしれませんが……」

 

「自分でそれを言っちゃうのか……」

 

「自分だからこそ分かるんですよっ」

 

長年付き合って来た性格だからね!

 

「それじゃあ、跳んでくれ。相棒」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天と九重が部屋を出て行ってすぐに、グループの方でメッセージが入る。

 

今は希亜がシャワーを浴びているので、適当に返事をして動画を見て待つ。

 

……暫く経ち、ちらりとディスプレイ端の時間を見る。

 

結構時間かかってるな。

 

店に入って席を取っておくとは言っていたが、一応遅れるって連絡はいれておくか。

 

「……よし」

 

スマホの画面を閉じ、動画を再生する。

 

―――と、隣で人が動く物音がした。

 

希亜がシャワーを浴び終えたみたいだ。

 

「……お待たせ」

 

いつも通りの服に着替えている希亜が出てくる。

 

「ああ。それじゃあ―――」

 

 

 

『記憶をインストールする』

 

 

 

「っ……」

 

駆け巡る記憶……。それを実感し、無性に、胸が熱くなった。

 

「………」

 

俺の変化に気付いたのだろう。優しく微笑んで俺を見る。

 

「おかえり、翔」

 

「あ、ああ、ただいま」

 

戻って来た喜びのままに、希亜を抱きしめる。

 

「ぁ……」

 

「終わったんだな……全部……」

 

「ええ、全部……」

 

その実感を確かめるように、希亜を強く抱きしめる。

 

「他の皆にも、伝えないとな……」

 

「そうね。あと、天と舞夜を待たせてしまってるから……ね?」

 

暫くこのままで居たかったが、そうもいかない。

 

「翔は、シャワー浴びる?」

 

「体拭いたからいい。出かける準備、もういいか?」

 

「うん、平気」

 

「じゃあ……あー……、九重に、さっきの件無しにしてくれって言わないといけないな」

 

「そうだった」

 

「取りあえず出るか」

 

「うんっ」

 

マンションを出て、歩きながらグループと九重にメッセージを送る。

 

すぐに既読が付き、『承知っ!』とスタンプ付きで返って来た。

 

 

 

 

 

「おっ、にぃにー、こっちこっちーっ」

 

入口のドアが開きベルが鳴る。来客を確認すると、新海先輩と結城先輩だった。

 

「ごめんなさい、待たせて」

 

「気にしないでください―――って言うところですけど、ちょー待った。お腹ぺっこぺっこですよ」

 

「飲み物は先に頼んでますけどねー」

 

「悪いけど、もうちょっと待ってくれ」

 

「はーー?なんでさ、お腹減り過ぎて割とイラついていますよ、あたし」

 

「全員が揃ってしたいんだよ」

 

「私の件も無しにした……ということはそれなりに大事な用件の様ですね」

 

「ああ。かなりな」

 

新海先輩と結城先輩の表情を見る感じ、別の枝でイーリスを討伐したと思われる。

 

「正直ファミレスとかじゃなくてもっといいとこ行って贅沢したい気持ちだが……」

 

「……なに?付き合ってまーすって発表する気?」

 

「……違う。みんなにとってもいいこと」

 

少し、拗ねるように返事をする。うひー……可愛らしい反応なことで。

 

「みんなに?なんだろ」

 

「みんな来てからのお楽しみってことで」

 

「めでたい事でしたら、どこかで外食とか良いかもしれませんねっ!」

 

「だなー……焼き肉とか行きたいが……予算的に今はちょっとなぁ……」

 

「私も……持ち合わせが心許ないかも」

 

「あたしなんて今財布持ってねぇしなっ!」

 

「嘘つけ、ぜってー奢んねぇぞ」

 

「チッ、くそ」

 

飲み物を飲んで雑談をしていると、すぐに九條先輩が到着した。

 

「お待たせしましたー」

 

「おっ、みゃーこ先輩が一番乗り」

 

「ふふ、自転車飛ばしてきちゃった」

 

九條先輩の発言に天ちゃんが私を見る。

 

「……ぁ、春風、こっち」

 

「す、すみません、電車のタイミング、合わなくて……。ぉ、遅くなりました」

 

「こっちこそすみません。急に誘っちゃって」

 

少し後に香坂先輩がやって来て……。

 

「む……。私が最後か。すまん、待たせたな」

 

最後に制服姿の高峰先輩が到着したことで全員が揃う。

 

取りあえず全員分の食べ物とかの注文を済ませ、料理が届いてから新海先輩が話し始めた。

 

内容は勿論、『イーリスを倒した』と……。

 

「……まじで?終わっちゃったの?」

 

「そっか、他の枝で……」

 

「イーリス……倒せたん、ですね……」

 

皆が驚くような反応を見せる。

 

「なるほど、だから先ほどの提案が白紙になったってわけですねっ」

 

「そう言う事だな」

 

「全ての世界線のイーリスを消し去った、か。つまり、今私たちがいるこの世界線の脅威も去った……ということか」

 

「そのようね」

 

高峰先輩の言葉に応えるようにソフィが姿を現す。あ、ミニサイズ……。

 

「途中までしか観測出来ないから、イーリスと本当に決着がついたのかどうかわからないけれど……確かに、その気配が消えているの。いつも朧気に感じていたもう一人の自分の存在が、綺麗さっぱり消えている」

 

「別の枝のあなた達が、うまくやってくれたみたいね」

 

そう言ってちらりと私を見る。……ん?これは……もしや?色々と最後の戦いの話を私から聞いているパターンかな?

 

取りあえず誤魔化す様に首を傾げならソフィを見返す。

 

「……と、言われても……って感じなんだけど。実は生きてましたー、とか、ないよね?」

 

「大丈夫。……と言いたいんだが」

 

「うわっ、急に弱気になった」

 

「一回騙されてるからな……。でも、今回は大丈夫なはず」

 

……ふむふむ、しっかり死んだふりも味わったと。

 

「もしまだイーリスが生きているのなら……二十日に事件が起こる。何事もなく過ぎれば、私たちは成し遂げた……ということになる」

 

「……報告するの、ちょっと早すぎたか?」

 

「……かも」

 

二人が困った様に顔を合わせる。

 

「でも……確信はある。イーリスは、滅びた。私はそう、信じてる」

 

「ふむ……。ひとまずは二十日まで様子を見る。ということでいいか?」

 

「ええ」

 

「念のため、俺達も備えはしておくか」

 

「私も調べておくわ。念入りにね。それじゃあ、私の話は済んだから行くわ。またね」

 

用件が済んだとばかりに忙しそうに元の世界へ戻っていく。

 

「むー……最終決戦だーって緊張してたから、拍子抜けだなー……」

 

「でも……お、終わったのなら、嬉しいです。実は、私……少し、怖くて……っ」

 

「分かります。私も不安でいっぱいだったので……」

 

「分かります。強大な相手に私も怖かったです……っ」

 

取りあえず皆の言葉にのって隣の九條先輩に縋る。その様子を新海先輩と結城先輩が呆れた表情で見ている。

 

「もう、解決できたのなら……素直に喜びたいね」

 

「心配無用だ。そこで九條になよなよと縋りついてる九重が全部蹂躙してくれるさ……なぁ?」

 

「ちょっと先輩?こんなにも恐怖で怯えているか弱い乙女になんて物騒なことを仰るのですか、ギルティですよ!」

 

「……私と翔は、前回の件も含めて他の枝であなたの実力をこの目で見ている」

 

ですよねー……。

 

「いやいや、結城先輩?それとこれとはまた話が別なんですよ」

 

「九重の話は置いといて……まぁ、まだ確実な安心とは言えないけど、それでも大丈夫だ」

 

ありゃ……またスルーですかい。

 

「ふむ、慎重な結城君が断言したのだ。油断は出来んが……構えすぎる必要は無いかもしれんな」

 

「だな。……ぁ、そうだ。高峰に聞きたいことがあったんだ」

 

「む?なんだ」

 

「アーティファクト、持ってるよな?」

 

あ、言及された。

 

「っ……ぅ」

 

「ぁ……そういえば高峰先輩……。ソフィさんのこと見えてましたよね?今」

 

「質問の意図がわからんな」

 

「ソフィは、ユーザーにしか見えないんだよ」

 

「む……、そうだったのか……」

 

「え、先輩もユーザーなの?」

 

「……言い逃れは出来んな。その通りだ」

 

「……なぜ黙っていたの?」

 

「誤解しないで欲しいが、キミたちを信頼していなかったわけではない。仲間に加わったころは、アーティファクトなど持っていなかった、本当だ。入手したのは……つい最近なんだ」

 

「ぁ、言いそびれちゃった、とか……?」

 

「違う。……わけでもないが、隠しておくことで、有利に働くかもしれん、と考えてな……」

 

「……いや、すまん。嘘はやめよう。ここぞという場面で披露し、驚かせたかったんだ」

 

「っ……ふふっ……」

 

高峰先輩の言い訳に思わず笑ってしまいそうになる。

 

「……ぇ、そんな理由ぅ……」

 

「なんだその言い訳……とか、他のやつだったら言ってるけど……高峰だと妙に納得できるな」

 

「窮地に陥り……力に覚醒。ありきたりだが、燃える展開だ。憧れたんだ、分かってくれるだろうっ?」

 

いやー流石っす。ブレない意志最高っ!……問題はその場面がどこかであったのかどうかだけど。

 

「ぇ?ぁ……、えと、は、はいっ」

 

「いいんですよ、みゃーこ先輩。無理に合わせなくても良いんですよ」

 

「……その気持ち、分かります」

 

「……ええ、分かる。すごく」

 

「ぁ、いたよ。理解者いたよ」

 

「しかし……終わったのならば、ドラマティックに披露する機会も失った、というわけか」

 

「ちなみに、どんな力なんです?」

 

「フ……」

 

「ぁ、言わない気だなこの人」

 

「高峰先輩らしいですねぇ……」

 

「まぁいいじゃないか。力など、使う機会が無いのが一番だ」

 

それは同意。

 

「そうね……。伝えるのが早かったかもしれないし、実感も乏しいとは思うけれど―――」

 

「ああ、取りあえずお祝い、ってことで」

 

「二十日には確定するわけでしょ?じゃあそのあとちゃんと打ち上げしようよ。焼き肉行こっ、焼き肉!」

 

「や、やきにく……っ!?」

 

「あれ?お肉嫌いです?」

 

「い、いえ、あの、みんなで、焼き肉なんて……、わ、私なんかが、い、いいんですか……っ!?」

 

香坂先輩がキラキラした目で恐る恐る聞いてくる……愛くるしいぃー……ぁああ。

 

「ちょっと意味わかんないですけど……。いいでしょ、全然」

 

「家族以外と、い、行ったことなくて……、あ、あの、すみません、取り乱してます……っ」

 

動揺してか若干あわあわしている。

 

「私も、友達とは行ったことないかも……?」

 

「当然、私もない」

 

「無論、私もだ」

 

「まぁ行かないですよね、焼き肉とか。大人いないと」

 

「そもそも、家族以外と、外食とか、あまり……」

 

「私も」

 

「私もだ」

 

「………」

 

「みゃーこ先輩が裏切った」

 

「ぇっ!?ぁ、えと、わ、私も、そんなには、行かないので……」

 

「私も、外食で行ったことないですねー……」

 

仕事や任務ではあちこち行っているけどね。

 

「天だって友達と外食なんていかねーだろうが」

 

「にぃにもそうでしょうが」

 

「ああそうだよ悪いかよ」

 

兄妹間での不毛な争いが勃発する。

 

「ぜひ、みんなで焼き肉に行きましょう。いい思い出になりそう」

 

「やったー!焼き肉!」

 

「ふふ、楽しみだね」

 

「あ、私に幹事させて下さいっ!良い場所知ってるんですっ!」

 

勢い良く手を上げる。折角だし皆に良い物を食べて欲しいしね!

 

「おおーいいね!積極的っ!」

 

「こ、九重が……か?」

 

「え、何にぃに?そんな不安そうな顔して」

 

「……いや、そうだな。一般的な店でな?お値段が一般的なやつで」

 

「……?どうしたんですか、そんな念押しに言って」

 

「その、だな……いや、他の枝でちょっとな……」

 

「……ああ」

 

新海先輩の言葉に、結城先輩が納得するように頷く。

 

「舞夜」

 

「ん?はい?」

 

結城先輩が私の名前を呼ぶ。

 

「私たちは学生、それを忘れないで」

 

「………」

 

あ、これ。他の枝の私やらかしてるな……?絶対今回みたいに高い場所に連れて行ったやつだ。

 

聞こえなかった振りで顔を逸らす。

 

「おい、九重。俺は他の枝でお前がしているのを知ってるんだからな?わざわざ進んで幹事に名乗り上げたんだ。その気だったろ?」

 

「……えと、この枝の私には、何のことだか……さっぱりですので……あはは」

 

「……お店の予約、私がやるわ」

 

「ああっ、嘘です嘘ですっ!ちゃんと常識的範疇でのお店にしますからっ!許して下さい!」

 

「言わなければやる気だったのかよ……」

 

「……てへっ?」

 

取りあえずお茶を濁す。

 

「何か心配になって来たわぁ……」

 

「大丈夫ですっ!しっかり皆さんと予算を話し合ってから選びますので!先ほどまでのはほんの可愛い冗談ですってばっ!」

 

「……なんの話をしてんだろうね?」

 

「金銭感覚の……共有、かな?」

 

「九重さんも、お金持ち……ということなのでしょうか?」

 

「……まぁいいわ。ひとまずは……今日の前祝いをしましょう」

 

「そうだな。取りあえずお疲れ様ってことで」

 

新海先輩がコップを手に取る。

 

「もう飲んじゃってるけど、みなさまグラスをお持ちください」

 

その言葉に皆が自分のコップを持つ。

 

「俺と希亜以外、実感はないとは思うけど、みんなに助けられて―――あ、これ。二十日に言った方がいいか……」

 

「グダグダだなおい」

 

「うるせーよ。とにかく、あー……。お疲れ様でした!乾杯っ!」

 

「かんぱーい!!」

 

乾杯の台詞に合わせて皆でコップを合わせた。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ。急に呼んだのに、来てくれてありがとな」

 

「ううん、とっても楽しかった。誘ってくれてありがとう」

 

「次は二十日以降だな。フフ……今から楽しみだ」

 

「んじゃ、解散ってことで。香坂先輩、一緒に帰りましょー」

 

「は、はい。おつかれ、様でした……」

 

「ええ、また」

 

ファミレスの一時を終えて、皆が各々帰って行くのを見送る。

 

「皆さん、帰りましたねー」

 

振り返り、新海先輩と結城先輩を見る。

 

「すまんな、折角九重が色々と準備してくれていたのにさ」

 

「いえいえ、気にしないでください。ちょーっと、残念な気持ちはありますが……」

 

「お泊まり……だろ?」

 

「……お二人が知っている枝では、みんなとお泊まりはされていたのでしょうか?」

 

「ちゃんとしていたぞ。実家の離れでな」

 

「ええ、一緒に夕食も作っていたわ」

 

「うわぁ……何それ超羨ましいです……いいなぁ……」

 

くそ、他の枝の私め、良い思いをしやがって……っ!

 

「別に、アーティファクト関係無しに普通に集まって泊まれば良いんじゃないか?」

 

「……あっ、それもそうですねっ!天才ですかっ!!」

 

「いや、普通に考えて分かるだろ……」

 

こちとらそのために用意していた家って考えだったので……!そっか、普通に誘って泊まればいいや。

 

「そうと決まれば……焼き肉の件も合わせて早速動かないと……っ!」

 

「ほどほどにお願いね」

 

「加減はしますのでご安心を」

 

私の言葉に苦笑いをして見ている。

 

「あ、そうだ……お二人はイーリスと戦った最後の記憶をお持ちしている……で良いのですか?」

 

「ああ、持っているぞ」

 

「私も。恐らく翔と同じくらいには」

 

「ほうほう……、最後にイーリスと戦った時の私って、お役に立てていましたか?」

 

どうしても気になってしまう。どの様な結末を迎えたのか。

 

「役に立ったかって……なぁ?」

 

「ええ、ほんとにね」

 

何を知っているのか、呆れるように笑う。

 

「あ、あのー……?」

 

「やりたい放題してたぞ。与一とイーリスに対して」

 

「やりたい、放題……ですか?」

 

「そうね、最後には魔眼の彼も救ってね」

 

……っ?深沢先輩を……?それは一体どういう意味で……。

 

「んー……なんか、色々とあったようですね」

 

「また後で話すさ。九重がどうだったのかって」

 

「じっくりと話すことになりそうね」

 

「そういうのでしたら……また今度機会を作っておきます」

 

なんか長くなりそうなので後にしよう。おじいちゃん達への報告の為に聞いておきたかったけど、それも含めて二十日に回させてもらおっと。

 

「それでは、私も一度実家に戻りますね!」

 

「ああ、気を付けてな」

 

「お疲れさま」

 

「はいっ!お二人も、お疲れ様でした!」

 

ま、二人はこれからお疲れになるんでしょうが……!

 

私を見送る二人に手を振りながらその場を去る。

 

「………」

 

暫く歩いて迎えに来てる車に乗り込む。

 

「お疲れ様です」

 

「壮六さんでしたか、お疲れ様です」

 

「先ほど連絡をもらった通り、今後の予定はキャンセル……でよろしかったですか?」

 

「それでお願いいたします。一応二十日までは警戒しますが……多分大丈夫だと思います」

 

「つまりは……」

 

「神は討たれた。そういうことです」

 

「……そうですか。宗一郎様が詳しく聞きたがりそうですね」

 

壮六さんの声にも、若干喜びが混じる。

 

「私もまだ詳しくは聞けてないから、話せないんだけどなぁ……あはは」

 

「あっ、でも、離れの方でのお泊まりはどこかのタイミングでしようと考えてます。アーティファクト関係無く」

 

「普通にご友人とのお泊まり、ということですね?」

 

「ですです。大丈夫ですか?」

 

「それは喜ばしい事ですので、お好きに使って下さい」

 

「ありがとうございます。あ、それから二十日以降に全員で祝勝会を予定しているのでそのお店のリストアップを……」

 

 

 





あと数話で第四章も終わりそうですね……。後日談とかおまけとかを……書きたい。

いやーここまで長かった……気がしますw

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