9-nine- ―最高の結末を追い求めて―   作:コクーン√

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焼き肉回……!

お高いコースを食べてみたい、、、。




第33話:バレなければ良いんですよ、バレなければ……ね?

 

 

すっかり日は落ち、時刻は夜。

 

部屋が暗い中明かりも点けずにお互いベッドで寄り添いながら座り、ただぼーっとしていた。

 

特に言葉を交わすことなく、ぼんやりと……。

 

別に希亜と話をしたくないとかそんなわけじゃないし、会話をしようと思えば話題なんていくらでも出てくる。

 

けど、俺の隣で座ってる希亜の体温を感じている。それだけで満足している。心が満たされている。そんな気分……。

 

頭の中で考えてしまうのは……やっぱり他の枝での出来事。与一との戦いに敗れてしまい、皆を失った枝……。

 

「………」

 

イーリスを倒し、与一も救えた。全てが上手く行ったあの枝が無ければ、こうやって希亜と居ることは出来なかった。

 

そう考えると、自然と隣にいる希亜の肩を強く抱き寄せてしまった。

 

「……どうしたの?」

 

俺の行動に、不思議そうに見上げてくる。

 

「……いや、もしもあの枝でイーリスを倒せて無かったら、こうやって希亜と過ごせなかった……そう考えたら体が勝手に……」

 

「……ふふ」

 

嬉しそうに、はにかむ。

 

その笑顔を見て俺も自然と笑みが零れる……が、すぐに真顔になった。

 

「そう言えば……翔に聞きたいことがあった」

 

「ん?」

 

「別に、怒ってるわけじゃないんだけど……」

 

「ぇ……俺、なんかした?」

 

「イーリスを倒した枝で、私も含めてみんな自分の枝から記憶を引き継いでいたでしょ?」

 

「……あ、あー……」

 

分かった、希亜が今から何を言い出すのか理解出来た。

 

「翔……他のみんなにも、手を出してた……」

 

「………」

 

「九條さんとも、春風とも付き合ってた……あとそ……ううん」

 

「ちょーっとその言い方だと語弊があると言うか……」

 

「翔のこと、名前で呼んでた……。本人からも確認は取れてる」

 

「あー……はい、そう、でしたか……」

 

九重からさらりと聞いてはいたが……恋人から言われると、こう……心に来るもんがあると言うか……。

 

「何となく予想はしていたけど……ちょっと、ショック……」

 

「でもあの枝の時もそうだけど、他のみんなと付き合っていたって記憶……俺には無いんだよなぁ……」

 

「それは気づいていた。他の人からの翔に対する目線と翔からのに温度差があったから」

 

「そ、そっかぁ……」

 

「みんな距離を少し掴みかねていた……けど、イーリスを倒すことを優先して先送りにした」

 

「確か、九重からかなんかあったんだっけ?」

 

「そう、舞夜がみんなを集めて一度話し合った。他のみんなは私に気を遣って遠慮していた……けど」

 

「けど?」

 

「舞夜からある提案があったから、一先ずそれで納得してもらった」

 

「提案……?」

 

「それは……言えない」

 

「逆にめっちゃ気になるんだが……」

 

「あれはあの枝だからこその……、この枝の翔には関係ないから……気にしないで」

 

少し、しどろもどろに話す。一体何を言ってみんなを納得させたんだ……。

 

「……ぅぅぅ~っ」

 

「ど、どうしたっ?」

 

突然、希亜が俺に抱き着き、頭をぐりぐりと押し付ける。

 

「浮気したら、死ぬからぁ~……っ!」

 

「しないしないっ、絶対にしない。絶対っ」

 

「しないって、信じてるけど……その内私に飽きてふらっと他の人のところに行っちゃうとか……」

 

「ないない!ありえないってっ。むしろ俺が飽きられないか心配だ」

 

「それこそありえないけど」

 

「……ごめん。別の枝のこと。責めるべきじゃないってわかってるんだけど……、何か一つ違えば他の結末になっていたって考えると……うぅ……」

 

「なんか……すまん」

 

「翔は悪くないから謝らないで。これは……そう、心の整理みたいなものだから」

 

別に浮気をしたわけでもないのに、変な汗をかきそうになる。

 

「……この枝では、私を選んでくれた。そう思って深く考えないでおく」

 

「あ、はい……」

 

「他の枝のみんなも、今の私みたいに少し嫉妬しながらも幸せになってる。そう思えば気はまぎれそう……かな?」

 

「折り合いをつけて頂きありがとうございます……」

 

あの枝の俺……死ぬなよ……。

 

「ねぇ、翔」

 

「ん?」

 

「この枝で、私を見つけてくれて……ありがとね」

 

「どしたんだ。急に……」

 

「この枝で翔と出会って、私は救われた……ううん、変われた。それはきっと他の枝じゃ出来なかったと思う」

 

「あー……どうだろうな……」

 

「翔にとって最初はイーリスを倒せなかった私の原因を知るためだったかもしれない……けど、こうして今は恋人して一緒にいられる。それが嬉しい」

 

「……ああ、俺もだよ」

 

確かに始めはイーリスを倒すために希亜のことを知ろうとした。だけど、次第に希亜自身が気になっていたのも事実。

 

「……イーリスを倒し街を救ったことで、私たちの戦いは終わった……」

 

「だな。一応まだ確証とは言えないし、他のアーティファクトも集めないといけないけどさ」

 

「うん……、それと、これは私の個人的なお願い……みたいなものなのだけど……聞いてもらっても、いい?」

 

「何でも言ってくれ」

 

個人的なお願い……?まぁ、好きな人のお願いともあらば何でも叶えたいけどさ。

 

「ここではない……どこかの枝で、私だけじゃなくて……舞夜のことも助けてあげて」

 

「九重を……?」

 

助けるって……何をだ?

 

「うん、あの子も……きっと誰にも言えない物を、心の奥に閉まってると思うから」

 

「………」

 

……希亜が言いたい事は何となく理解は出来る。これまでの与一やイーリスとの戦いを見ていれば……。

 

「希亜には、それが何か想像出来てるのか?」

 

「何かまでは……分からないけど、私達に話していない事があって、どこか距離を置いている」

 

「俺達と……距離をぉ……?」

 

あの九重が……?天以上にグイグイ来てるぞ。

 

「普段の彼女からは想像出来ないのは私も一緒。けど……私がそうだったから、何となく」

 

「……感じるものが、あるってことか」

 

「……うん。他の枝の記憶がある今だから分かる。彼女も今までの私みたいに何かに囚われている……そんな感覚」

 

俺には良く分からなかったが、希亜自身がそうだったからこそ共通点があったのかもしれない。

 

「もしどこか他の枝で機会があったら、お願いね」

 

「……わかった。って言えれば良いんだけどなぁ……俺が九重の相手に務まるとは到底思えん」

 

「翔は凄い。もっと自信持って良い」

 

「いやいや、庶民の俺とは違ってめっちゃでかい実家とか離れまで持ってて、家の中でもかなり高い地位だぞ?」

 

「……九條さんも似た感じじゃない?」

 

「……あー……ですね……」

 

あれ?言われてみれば確かに……九條もお嬢様だったな。

 

「……この話、止めませんか?希亜さん」

 

「……そうする。私もちょっともやもやする」

 

困った様に声を上げる希亜を優しく抱きしめる。

 

「ん~……」

 

抱きしめた俺にもっとくっつこうと体をすりすりと動かす。

 

「翔は、どんな女の子が好き?」

 

「どんなって、希亜が好きだけど」

 

「そうじゃなくて、服とか。翔の好みが知りたい」

 

「だから、希亜だよ」

 

「そうじゃなくてー」

 

少し拗ねるように俺を覗き見る。

 

「希亜の好きにして欲しいんだよ。俺が言ったら、意味ないだろ」

 

「好きな人の好みに合わせたいって思うのは、普通だと思う」

 

「じゃあ、希亜の好みを教えて」

 

「翔」

 

即答である。

 

「だから、好み好み。服とか」

 

「そのままでいい」

 

「じゃあ俺も」

 

「じゃあって……」

 

「そうとしか答えられないだろ」

 

「……デートしたとき、可愛いって言って欲しいんだもん」

 

「希亜が可愛いって思う服着てくれよ。それが一番似合うし、絶対可愛い」

 

「ぅー……、わかった……」

 

「そうか、デートか……。どこか行きたい?」

 

「遊園地とか、動物園とか、夜景の綺麗な場所とか。定番なところ」

 

「うん、いいな、行こう」

 

恋人とのデートを想像し、胸が躍る。

 

「でも……二十日までは、駄目だね」

 

「……だな。ちゃんと確認出来るまでは、我慢だな」

 

「それまでに……どこ行きたいか、考えておく」

 

「俺も考えておく」

 

これからの特別な日常を一緒に考える……それだけで幸せな気分だ。

 

「翔」

 

「ん?」

 

「これからも、よろしくね」

 

「こちらこそよろしく」

 

「私を、絶対に離さないでね」

 

「ああ、絶対に離さない」

 

そう言って強く抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五月二十日を越え、無事を確認した私達ヴァルハラ・ソサイエティは本日……!念願の焼き肉にやって来ていたっ!!

 

「うぉー!焼き肉だー!食うぞー!」

 

天ちゃんの気合の入った声を聞いて皆が楽しそうに笑う。

 

「私、朝ご飯抜いて来ちゃった。ふふ」

 

「じ、実は私も……。食べ放題なんて、初めてで……。ぁ、お腹なっちゃった……」

 

「では!急いでお店へ向かいましょうか!」

 

皆の先頭を歩き、予約を入れたお店へ向かう。

 

「九重が言うには、ちょっといいお店を選んだらしい。食べ放題でもそこそこ美味い肉って聞いてる。で、良いんだよな?」

 

「はいっ!めっちゃお得な場所ですよ!一人大体……3000円ですが、値段以上に満足して頂けるかと……!」

 

「それは楽しみね。折角の打ち上げなんだから値段は気にしないでとは言っていたけど……予想よりも安い」

 

「お店探し超頑張りましたから!ふふふ……!」

 

と、言うのは嘘です。予め候補は決めていました。

 

今日は皆を連れて行くのは……当然九重の人達の焼き肉のお店。本当は高級なやつに連れて行きたかったのだけど、流石にバレるのである程度の値段に落とした。

 

まぁ……それでも単品で頼めば一人5000円~8000円は行くし、食べ放題じゃなくてコース系しかない。

 

今回はなんとか工作して食べ放題っぽく装うように変えた。人が来ない奥の部屋を借りて、メニュー表からは全部値段を消したバージョンに変え、最初のページに食べ放題コースと書いてある物を用意した。

 

事前に皆さんからはお金を徴収済みなのでバレずに食べてくれるだろう……ふふふ。

 

「最初は何から食べるか……。無難にタン……いや、がっつりカルビも捨てがたい……」

 

「あたし、焼き肉やさんのスープ無性に好きなんですよねー」

 

「あー、わかる。おいしいよね。私も大好き」

 

「私、あの、ビ、ビビンバ?食べたことなくて、今日、チャレンジ、してみたいなぁ……と!」

 

「じゃあシェアしましょうよ。一人で食べたらすぐお腹一杯なっちゃいますよ」

 

「ハッ……!そうか……!ライス大盛りでいくつもりだったが、確かに炭水化物で腹を満たすのは勿体ないな……!」

 

「いやでもライスは大事だろ。タレが染み込んだライスが最高」

 

「わかる。ご飯が届くまでお肉食べるの我慢する」

 

「ふふ、ご飯が中々届かない時は、ソワソワしちゃうよね」

 

「うわやっべめっちゃ腹減って来た!舞夜ちゃん、早く早くっ」

 

「りょうかーい」

 

楽しみで仕方がない天ちゃんに催促される。

 

後ろで楽しそうにワイワイと皆でお喋りしているのを聞くだけで私としても満足ですわ……いやほんと。

 

駅前から少し歩き、裏路地に入って道を何度か曲がり、とある建物のエレベーターに入り昇っていく。

 

五階に着き、そのまま通路の一番奥まで案内する。

 

「お待たせしました。今日の焼き肉屋さんでーす。早速入りましょうか!」

 

「へぇー……こんな場所にお店とかあったんだな」

 

「かなり入り組んだ場所ね」

 

「でも店の雰囲気めっちゃ良さそう……」

 

木造で作られた敷居やテーブル。個室は障子で隔たれている。

 

「すみません、予約していた九重です」

 

「七名様でご予約の方ですね。どうぞこちらに」

 

店員さんの案内で一番奥の部屋へ案内される。

 

向かう道中、他の個室や席にもお客さんがいたけど……うーん、ほぼ全員が身内でしょあれ……。

 

いや、今日の為に用意してくれてるのは分かるけど……。

 

「うわぁ……すごく良い雰囲気のお店だね」

 

「照明の明るさと、店の暗さの程よいバランスが店内に落ち着きをもたらしている様に見える……素晴らしい」

 

「ささ、適当に座って下さいな。……まずはドリンク頼みます?」

 

円卓テーブルに全員が座ったのを見て一番入口に近い場所を陣取る。

 

立て掛けられているメニュー表を取り出してテーブルに広げる。

 

「どれにしよっかなー……って、値段とか書いてない感じなんだね」

 

「食べ放題の中に飲み物も含まれてるのかこれ?」

 

「ですねー……正確には食べ飲み放題らしいですよ」

 

「なるなる。それで書かれてない感じなのかー」

 

「お店ごとの拘りとかがあるからねー。食べ放題だから値段は要らん!みたいな」

 

「でもさ、ちょっと気にならない?食べ放題で食べてるのが単品で幾らしてんだろってさ」

 

「ふふ、その気持ち分かっちゃうかも」

 

「ですよねー!そういった面に対してなのかね?」

 

「んなこと良いから、早く飲み物選べって」

 

「あーい」

 

「あ、注文はデンモクで私が纏めて送るので、飲み物や食べ物があったら私に言って下さいっ」

 

「各自で勝手に頼めばいいんじゃねぇかそれ」

 

「いえっ!本日の幹事は私なので!こういうのやってみたかったんですっ」

 

「気合入ってんなー……」

 

先に飲み物を注文し、食べ物を皆で見る。

 

「よっし、食うぞー!超食うぞー!」

 

「取りあえず、カルビは人数分頼むとして……。あとはみんなが食べたいの適当に頼むかー」

 

「あたしタン!タン塩!」

 

「タン塩ねー。了解」

 

デンモクの注文から適当に二人前を頼む。

 

「思ったよりメニューが豊富ね……。私、ハラミ食べたい。春風は?」

 

「私、あの……、ど、どうしよう。つ、次までに決めておくので、ほ、保留で……!」

 

「私はホルモンを頼んでおきたい。焼くのに時間がかかるからな」

 

「ハラミとホルモンですねー」

 

ホルモンは網にくっつきそうだし替えの網も後で必要になりそうかなー。

 

「あと、サラダも。ぁ……これ、大きさどれくらいだろう……?」

 

「写真的には二人前に見えますねー。なので二つ三つ頼んでおきますね」

 

「うん、お願い」

 

「ご飯食べる人ー、何人いる?」

 

「はいっ!!」

 

新海先輩の確認に高峰先輩が元気よく手を上げる。

 

「テンションたけぇ……。あたしもー」

 

「私も。春風は?」

 

「た、食べます!」

 

「私もお願いしまーす」

 

「俺もだ。九重は?」

 

「私も食べるので全員ですね!」

 

全員分の注文を入れ、ワイワイと騒ぎつつも最初の注文を終える。

 

先に飲み物が届き、私が幹事ということで新海先輩から一言貰って乾杯をしている間に本命の肉が届いた。

 

「やったー!肉が届いたぞー!」

 

「やっと食える。腹減ったー」

 

「え、と……。どんどん焼いちゃおっか。焼けたのから好きに取っていってね」

 

「あたしも焼く、焼きたい!にぃに!そっちのトング取って!」

 

「ほらよ」

 

「サンキュ!」

 

「ん~……」

 

「食べたいのは決まった?」

 

「ぁ、えと、……怒られそう、ですけど……。この極厚、ベーコン……、気になって……」

 

「いや怒んないですよ。にぃやんもソーセージとか大好きですし」

 

「次頼むつもりだった。ベーコンも次行きますか」

 

「は、はいっ、ベーコン!」

 

ふふ、やっぱりそれを頼みますか。メニューに追加しといて良かった……。

 

「じゃあ、私も変わり種いきたい。ハーブチキン」

 

「ぁ、私もそれ気になってた。おいしそうだよね」

 

「ベーコン、ソーセージ、ハーブチキンですねー。次のタイミングで頼んでおきますので、取りあえずは今のを食べましょうか」

 

「九重君の言う通りだ。まずは目の前の肉に集中しようではないか!」

 

……目を輝かせている。滅茶苦茶楽しみだったんだろう。うんうんその気持ちすっごく分かりますよ。

 

「友と肉を囲む……。フフフ、私も昂ぶる気持ちを抑えられん……フフフ」

 

「今ふと思ったんですけど、高峰先輩ってなんで友達いないんですか?」

 

「っ、………」

 

天ちゃんの素朴な質問に高峰先輩の動きが止まる。

 

「おい……天。なんだよ急に……」

 

「へ?」

 

「なんで急に煽ったんだよお前……。高峰、真顔になっちゃっただろ……」

 

「ぁ、別に煽ったんじゃなくて!純粋に疑問だったの!」

 

自分の発言に気付き慌てて弁解をし始める。

 

「若干会話かみ合わないけど、喋るのが苦手ってわけじゃなさそうだし、クラスに同じ趣味の人、一人や二人はいそうだしっ」

 

「いわゆるオタクという人種であれば、何名か心当たりはあるな」

 

「そういう人たちと仲良くしないんですか?」

 

「しない。人見知りだからな。私は」

 

「ぇ……どこが?」

 

「キミたちと普通に話せているのは、司令官という人格を演じているからだ」

 

「いゃ普通……。ぁ、うん、はい」

 

普通と言う定義に疑問を持ったが、大人のスルーをする。

 

「素の私……いや、僕は、全く喋らんぞ。出来る限り目立たないようにもしているしな」

 

司令官のロールプレイを止め、ぼそぼそと話す。……あーあ……。

 

「ほ~……。なんか二名程めっちゃ頷いていますけど」

 

「私も学校では全く話さない」

 

「私も……。そもそも、もう一人の私に頼らないと……みなさんとの会話も、危うかったので……」

 

「コミュ障拗らせてるなぁー……。三人とも普通に友達いそうなのになー」

 

「お前だって人のこと言えねーだろうが」

 

「いやまぁ、人見知りではありますけど。舞夜ちゃん以外にもいるよ。一応」

 

「どうせ猫被ってだろ」

 

「そりゃ被りますよ。清楚気取ってますよ。にぃやんだってクール気取ってるでしょ」

 

「気取ってるわけじゃねーようるせーな」

 

「私が聞いた感じでは、クラスや他の女生徒からは目が怖いって話を聞いたことがありますね」

 

「え、まじで……?」

 

「まぁ……はい。たぶん身長が高いことも相まってだとは思いますが」

 

「確かによく知らない人からするとにぃに威圧的に見えるもんねー」

 

「そんな気全くないんだが……。それ、どこ情報……?」

 

「どこ……?そこら辺の女生徒、でしょうか?」

 

「そこら辺のって……」

 

「舞夜ちゃん、割と誰とでも気軽に話すからなぁ……。普通に男子ともお喋りしてるよ」

 

「対人スキルたけぇな……」

 

「ふふん、護身術してますからね!」

 

「そっちの対人スキルじゃねーよ。今のは流石に無理があるだろ」

 

「違います違います。護身術の関係で年齢性別関係なく色んな人と話すので自然と平気なんですよ」

 

「あ、なるほどねー」

 

「確かに……実家でも色んな人と話してたもんな」

 

「ま、クラスメイトとお喋りしてるのは暇つぶしに丁度良いからってのもありますが……」

 

「舞夜ちゃんよく授業中に寝てるもんね」

 

「先生にバレない様に頑張ってます」

 

「いや、真面目に聞けよな」

 

「はーい、焼けて来たよー。どんどん食べてー」

 

「ありがとう。九條さんは、誰が相手でも態度を変えない気がする」

 

「え?うーん……どうだろう。私も人によって変えたりはするけど……」

 

「ぁ、これ焦げちゃいそう。どうぞどうぞー」

 

「ぁ、ありがとう、ございます。いただきます」

 

「俺も食べよ。いただきまーす」

 

「ホルモンは……。流石にまだ早いか。いつ食べごろなのか、いまいち分からん」

 

「一旦網が空いたら最後に焼きましょう。ついでに網の交換もしておきたいので」

 

「そうだな、そうしよう」

 

「……私からも、聞きたいことがある」

 

「ホルモンを頼んだのは私だが、好きに食べてくれて構わない」

 

「そうじゃない。彼……深沢与一のこと」

 

「ふむ……」

 

高峰先輩が目を細め、箸を置く。それを見て新海先輩が身構える。それに気づかない振りをしつつ焼き肉を楽しむ。ぁ、このタン美味しぃ……。

 

「何を知りたい」

 

「別の枝で、私たちはおそらく彼に―――」

 

「……いえ、私たちは、深沢与一と戦った」

 

「……なるほど。そういう運命もあり得るだろうとは思っていたが……」

 

「………。キミが知りたいのは、動機か。与一が我々の敵に回った」

 

「いいえ、違う。それはもういい」

 

二人の真剣な声に他の人も注目し始める。

 

「知りたいのは、なぜあなたが彼の味方をするのか」

 

「ふむ……。裏切ったのか、私は」

 

「ええ」

 

「え、じゃあ、先輩とも……戦ったの?」

 

「正確に言えば、矛は交えてはいない。その前に……舞夜が彼の意識を断った」

 

チラリと私を見る。

 

「わーお……」

 

驚く天ちゃんからトングを貰い、九條先輩と一緒に焼けた肉を取り分ける。

 

「ぁ、そっちの少し小さいね」

 

「別に良いと思いますよ。肉は幾らでも来ますし」

 

「ここのお肉、すっごく美味しいね。良いの使ってるのかな……?」

 

「……ドウデショウネー。あ、追加で頼みましょうか」

 

ふむ、九條先輩には何となく違和感を感じるのかもしれない。

 

「あなたは、正義感の強いタイプに思える。普段の言動から、そう感じる」

 

「だから、解せない。あなたが彼に共感する理由が、わからない」

 

「共感、か……。フ……」

 

結城先輩の疑問に静かに笑う。

 

「食べながら話しても?」

 

「ええ、私も食べる」

 

取り分けた肉を食べつつも、高峰先輩がぽつぽつと語り始める。

 

「私たちは幼馴染でな。今の言動からは考えられんだろうが、幼い頃の与一は、内向的だったんだ……。友人も私くらいしかいなかった。もっとも……共に遊んでいたのは小学生の低学年くらいまでだがな」

 

「いつも一緒にいたよ。あの頃は与一も―――いや、既に兆候はあったのかもしれない」

 

「虫の足や羽をちぎったり、アリの巣に水を流し込んだり、そういう遊びをよくしていた。とはいえ、当時は何も思わなかった。似たようなことをしている者は、他にもいたしな」

 

「女子には理解しがたいかもしれないが、新海翔なら分かってくれるだろう」

 

「あー……、まぁ、いたな。そういうことするやつ」

 

「そうだろう。あの頃は、特別ではなかった。与一は、普通の範疇にいた。まだ、な……。他とは決定的に違うと感じたのは……ある出来事がきっかけだ」

 

「車に轢かれた猫を見つけてな。あまりの惨さに私は直視出来ず、近づくことも出来なかった。しかし、与一は迷わず抱き上げたよ」

 

「弔ってやるのかと思った。与一はなんて優しい男なのかと、感動もした。だが、違った……。与一は、猫の死体を公園に運び、ベンチの上に寝かせると……観察をし始めたんだ」

 

「観察……?」

 

「ね、猫の死体を……?」

 

高峰先輩の言葉に、戸惑う。

 

「そうだ。潰れた腹、飛び出した内臓、折れた四肢。血に濡れることも厭わず、全てを、つぶさに」

 

小学生の記憶なのに鮮明に覚えているってことは、やっぱり高峰先輩の中では相当な思い出ってことですね。

 

「どうして、そんなことを……」

 

「好奇心だろうな。どうしようもなく、惹かれるのだろう。死という概念に……。だから触れたいし、殺したいのさ。自ら手で」

 

「死を忌む私には……理解できない」

 

「私もだ。理解など出来ないし、共感もしていない。……あの時、与一は私に何か話しかけていた。唖然としていた私の耳には、全く届かなかったが」

 

「……鮮明に覚えているのは。実に嬉しそうな笑顔と……、私が恐怖に竦んでいると気づいた瞬間の、あの冷たい目」

 

「理解したのだろうな……。自分が常識の外にいるのだと。あのとき、初めて……」

 

「それからだ。外向的になり、キミたちが知る与一になったのは。常識の内にいる自分を、演じ始めた」

 

「………。彼は、心の奥底では、他者との繋がりを求めているように感じた」

 

「……かもしれないな。人と接すれば接するほど、与一は他者との違いに苦しみ、孤独を感じてしまうことだろう」

 

「……その孤独を、初めて与えたのは―――僕だ」

 

「全て僕のせいなどと、自惚れたことは言わん。僕がいなくとも、与一はいつか孤独の苦しみを味わうことになっただろう」

 

「でも、僕なんだ。最初に与一を孤独にしてしまったのは、紛れもなく、僕なんだ……。だから―――」

 

「……一人くらい、あいつの全てを受け止めてやる友がいなくては……やるせないじゃないか……」

 

「僕が与一の味方をするのは、それだけだ」

 

「………」

 

「理解など、到底出来ないかもしれんがな」

 

「……いえ。ありがとう、話してくれて。そして、ごめんなさい。無遠慮に踏み込んでしまった」

 

「気にしないでくれ。誰かに話したかったのかもしれないな。すっきりしたよ」

 

少し、楽になったのか、高峰先輩が笑う。

 

「それと、私からも謝罪を。今しがた、とても大事なことに気がついたのだが……、話は、食べ終わってからにすべきだったかな?」

 

「………」

 

高峰先輩の言葉に、結城先輩が眉を顰め、九條先輩が苦笑いをしていた。ま、普通にグロなシーンでしたしね。

 

「………、………」

 

しかし天ちゃんと香坂先輩は特に気にした様子もなく分けられた肉をご飯と一緒に食べていた。

 

「……へ?あ、すみません。あたしと先輩、気にせずバクバク食べてて……」

 

「え……?あ、ちゃ、ちゃんと、話は聞いてました……!」

 

「いやズレてんなこの人……。聞いてたからこそでしょ、ほら、ね?内容的に……」

 

「……ぁ……っ、す、すみません……。グロシーン見ながらでも、ご飯食べれるタイプで……。……すみません」

 

「まぁ、食べるの強いられてましたからね。お肉とかサラダとかガンガン取り分けていた人達がいましたから」

 

「ですって、九條先輩」

 

「ぅ、す、すみません……。焦がしちゃいけないと思って……」

 

「一旦全部焼いたし、高峰のホルモン焼くか」

 

「お前もマイペースだな!」

 

「暗い雰囲気引きずってもしょうがないだろ。今日は打ち上げだぞ、打ち上げ」

 

「そうね、ごめんなさい。私が質問したのがよくなかった。そろそろ、お肉と向き合いましょうか」

 

「追加で頼むか。希亜と九條がハーブチキンで、先輩はベーコンでしたっけ」

 

「あとビビンバも」

 

「ぁ、はい、お願い、しますっ」

 

「舞夜ちゃんっ、あたしこのスープ飲みたい!」

 

「お任せを―」

 

「ぁ、ごめんなさい。あとサンチュも」

 

「はーい」

 

デンモクをポチポチとタッチして追加注文をしていく。

 

「男性のお二人は何か頼みますか?」

 

「俺は……この特選ステーキってのが気になってるんだが……」

 

「これですか?頼みます?」

 

「実は私も気になっていた。この際食べてみたい」

 

「了解です。ではステーキですし一人前で頼んでおきますねー」

 

自分用でロースを適当に頼むとして、他には……。

 

「この牛肉の握りを頼もうと思いますが、他に食べたい人はいますかー?」

 

「握りっ?寿司じゃなくて?」

 

「そそ、お肉で握ってるの」

 

「なにそれ!食べるっ!」

 

「俺も気になるわそれ」

 

天ちゃんに続き、皆も気になったようだ。

 

「では、全員分ということで……」

 

一人当たり二貫なので一個余るけど……まぁ戦争でいっか。

 

他にもサラダや肉に巻く葉っぱを頼んでおく。

 

「注文完了ですっ」

 

空になった皿などを入口近くに纏めて置き、次の為にスペースを空けてく。

 

ホルモンを眺めながら待っている間、この場の全員が共通している話題など知れているので、自然と話はアーティファクト関係に収まる。

 

「ひとまずの脅威は去ったとして……まだ行方知れずのアーティファクトは存在するのだろう?」

 

「そうね、全て回収しなければ……また事件が起こるかもしれない」

 

「でも……どうやって見つければ……」

 

「問題はそれですよねぇ……。騒ぎでも起こしてくれないと―――ぃ、ってぇ……」

 

新海先輩が痛むように頭を抑える反応をし、思わず手に持っている箸を止めて見てしまう。

 

「お、どした?大丈夫?」

 

「ぁー……大丈夫。その問題解決したわ」

 

「……今の、オーバーロード?」

 

「ああ、別の枝の記憶をもらった。俺、アーティファクト探せるようになったわ」

 

「……?どういうこと?」

 

「別の枝の俺が、探知のアーティファクトと契約した。そいつを使えば、探せる」

 

……ということは、九條先輩の神社での一件を終えた……という事ですね。

 

「??……使えばって、別の枝でしょ?使えないじゃん」

 

「翔は、別の枝で契約した聖遺物を、あらゆる枝で使用できる」

 

「は?まじかよ、チートじゃん」

 

「探知だけじゃなくて他にも色々と貰ってるから、今の俺強いぞ?……って言いたいところだけど」

 

「だけど?」

 

「そのアーティファクトたちをいとも簡単に蹴散らす人間が……ここにいるから、なぁ……」

 

苦笑いをして肉を食べている私を見る。

 

「そうね、深沢与一のアーティファクトも物ともせず倒せるもの」

 

「え?えぇ……?舞夜ちゃんが……?なにそれ気になる」

 

……いやまぁ、あの枝での話は一応二人から詳しく聞いていますが、身に覚えがないことを言われるのは……。

 

「お二方、NGです。事務所を通して下さいな」

 

口の前で×マークを作る。

 

「ははっ、だってさ天。諦めろ」

 

「え~……。教えてよっ、ね?お願い!」

 

駄目と言われ、本人の私に直で頼んで来る。

 

「必要な時が来たらね?その時に見せてあげるから」

 

多分その機会は来ないかもだけど……。

 

「……そうね。けど、可能なら使う機会は訪れない方が一番ね」

 

「そう思いたいけれど……」

 

「シリアスな雰囲気をだしつつも、肉を焼き続けるみゃーこ先輩である」

 

「え?ぁ、ごめんなさい。無意識にしてた……」

 

「構わない。ホルモンもそろそろ良いだろう。皆も食べたまえ」

 

話の腰を折ってしまったが、ちょうど良いタイミングで注文の肉たちが届いたので、再びそっちへ集中する。

 

その後にもう一度追加で注文をして、皆で楽しく打ち上げを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「ではな。今日は楽しめた、感謝する」

 

「おつかれっしたー!」

 

「さ、さようならっ」

 

「またね」

 

「ではではっ!また集まりましょうねー」

 

焼き肉会も終え、外に出るとすっかり夜になっていたので、解散となった。

 

駅前で天ちゃんと香坂先輩が電車に乗るので、その場で皆解散する。

 

新海先輩は結城先輩を家まで送る……イチャコラするので、手を振りながら自分のマンションへと一人で向かう。

 

「探知系のアーティファクト、ねぇ……」

 

焼き肉を食べていたあの時に探知のアーティファクトの記憶を新海先輩に渡したって言うことは、石化した九條先輩の枝を無事救えたってことだと思う。……けど、どんな感じだったんだろ?

 

ゲームと同じ流れで九條先輩が止めに入ったんだろうか……?まぁ、解決したから探知のアーティファクトを手に入れてるわけだし、九條先輩がアーティファクトを掌握したんだろうなぁ……。

 

となると、剪定されてなかった唯一の枝も無事救えた……となる。

 

「……いよいよ、全部終わりになって来たね」

 

イーリスを倒し、後はそれぞれの枝での後日談……新章のお話をして……って、今日のもそれの一つだったね。

 

他には……全部のアーティファクトを回収してから、最初の日に戻ってアーティファクトが無い日常の為に門を閉じた枝を作る必要がある程度かな?

 

それもこの枝の私がする必要はないけど……。

 

しんみりした気持ちで夜道を歩く。

 

「……うん」

 

すべきことは全て終えた。後は……どうしよっかな。のんびりと日常を過ごしておく……でいいのかな?

 

んー……でもなぁ。このまま皆と関わったままでいると、色々と面倒な人達が茶々入れて来そうだし……。

 

「まずは、そっちを片付けないといけないかもね」

 

イーリスを倒したことで今度は一ノ瀬家や他の一部の人達に動きが見られる。そう遠くない内に何か大きな動きが起こりそうだし、その時に皆に迷惑が掛からない様にしっかりと阻止しておかないと。

 

「……はぁ、結局のんびりできそうには無いかもねぇ」

 

これから起こるであろう騒動を考え、思わずため息を吐いた。

 

 





これで第四章、『ゆきいろゆきはなゆきのあと』の本編も終わりになります!

次のエピローグを書いて……この枝も終わりですねぇ。

多分エピローグは超短くなりそうw

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