元ヴィランの宿敵とはいえ、女の子とクソナードが同居したらラッキースケベ全開のラブコメが始まるに決まってる!
出久くんと転弧ちゃんにどうにかしてくっついてほしいという願望があるのでこんな感じの空気感で長めにじっくり書けたらいいなと考えています
序盤にアダルト動画を誤爆するシーンがあるのでそこだけ少し喘ぎ声のアダルト描写があります
事件の発端は、自室で過ごす穏やかな土曜の夜に訪れる。
『あん、あ、あっ…しゅごい…っ!んっ、あんっ…おっきぃの…奥にぃ…!ああぁっ…イくぅぅ………んぉっ…おほぉぉぉぉ!!』
「……うええっ!?何!?何の声!?」
浴室から出てきた出久は、ドアを開けるなり響き渡る大音量にびくりと肩を震わせた。
獣じみた女性の激しい喘ぎ声と、叩きつけるような律動に合わせて絶え間なく続くぐっちょり濡れた卑猥な音。
否が応でも厭らしいものを連想せざるを得ない、そんな欲情まみれの音声が部屋中に響いていた。
「い、いずっ……いず……くくん……」
同居人の転弧は抱えたクッションに隠れるように蹲り、ベッドの横で震えている。
ヴィラン達との決戦後に敵拠点の奥深くから発見された彼女は、オールマイトたっての頼みで今はヒーロー科2年に進級した出久の元に預けられていた。
「こ、これ……スマホ、裸の女の子が…!」
相当動転しているのか、彼女は一点を指差して意味を成さない言葉をあわあわと繰り返していた。
指差す先、どうやら音の出所はテーブルに放られたスマホらしいのだが、辺りを見回す視線が転弧とかち合った途端、出久の身体がびくりとフリーズする。
「てっ……転弧さん……」
「……出久くん…っ」
意志とは無関係に、あんまりにも露骨な音と共に視界に飛び込んでくる転弧の表情に思わず顔が底から熱くなる。
そもそも、女性との会話すら未だに覚束ないクソナード全開の出久が、いきなり同年代の少女と同棲して平静でいられるわけがない。
要するに今日もそういう、峰田が聞いたら泣いて怒り狂いそうな“事件”が起きたわけである。
切なく顰められ、今にも泣き出しそうな涙をたっぷり溜めた双眸、耳元まで熱っぽく紅潮した頬。
横で無遠慮に響く嬌声も相まって出久にはそれがやけに煽情的に見えてしまう。
ん、と緩慢に息を呑む彼の仕草に転弧も何かを察したのか、潤んだ目を更に困惑に見開いた。
「ちっ違うの、これは…その、っ…!」
僕が見てたんじゃないの、と。
斜め下に目線を泳がせ、しばらく言葉にあぐねた転弧はやがてもう堪えきれない、とばかりに出久目掛けて飛びついた。
「う、うわぁん!」
「うわあああ!?って近い!近いよ転弧さん!!」
勢い任せのダイブを出久は慌てて受け止めたが、不安定にしゃがみ込んでいた体は容易くバランスを崩して転弧ごと背後に倒れ込んでしまう。
押し倒されるまま、彼女の柔らかい感触が出久の全身にむにゅりと密着する。
日頃から鍛えた身体は転弧の体重程度なら負担でもないはずなのに。
ひぃ、と堪らず喉に乾いた音が吹き抜けた。
だって胸板に当たる特に柔い弾力の正体は、必死に考えを逸らしてももうひとつしか思い当たらない。
(転弧さん…このマシュマロのような触感と温度…下着つけてない!!!違う!!そんな分析しなくていいよ僕!!)
彼女の体温と重みに思考が一気に真っ白になる。
「出久くんこれ止めてぇ!怖いぃ!」
「分かったから、ちょ待…当たって…」
溺れたような情けない声を上げながら身を起こそうとするのだが、混乱しきった腕にはろくに力が入らない。
出久がもたついていると、ややもせず溜息と共に卑猥な大音量がぷつりと途切れた。
「………るせぇな………」
這うような低いぼやきと共に出久の視界に人型の影が落ちる。
「動画くらいでピーピー騒ぐんじゃねぇよ童貞と処女」
「と…弔さん…ありがとう…あと童貞としょ…じょ…はちょっと…」
弔さん、と仰向けのまま溢すのをじとりと見下ろすのは、彼の部屋に住むもう一人の同居人だ。
転弧と瓜二つの容姿をした、しかし彼女と対照に気怠げな曰く付きの姉妹(仮)。
騒音に眠りを妨げられたせいか、不機嫌な眉間には深い皺が寄っている。
「うぅ……ごめんなさい…でも弔ちゃんびっくりしないの?」
「しねぇよンなもん…誤タップすんなら音切っとけ迷惑」
「う、うん…わかった」
ばっさり吐き捨てると、弔はスマホを転弧に投げ渡すなり早々に踵を返した。
欠伸を噛み殺し、文句もそこそこに隣の部屋に引っ込んでしまう。
かつては巨悪の個性を宿し暴威を振るっていたが、出久やヒーロー達に打倒されてからは保護され、雄英での監察処分という事で落ち着いている。
強い個性抑制の処置と薬剤の副作用で相当の体力を消費するらしい彼女は、こんな具合に1日の大半を眠って過ごすことがほとんどだ。
だから余計に、夜の騒音に過敏になっているのだろう。
「あの、転弧さん?」
しんと平穏を取り戻した部屋で、未だにくっついたまま離れない微妙な沈黙を窺うようにそっと声をかける。
転弧は小さく肩を揺らすと、おずおずと出久に向き直った。
端末を握り締める指の隙間からはメッセージアプリの見慣れた背景画面が覗いている。
「メッセ読んでたら動画再生しちゃったみたいで……ええと、峰田くんの」
あぁ、と出久はようやく納得がいったと肩を竦めた。
峰田がいかがわしい動画をA組共有のルームに誤爆したのだろう。
それをタイミング悪く指先で触れてしまい、という顛末らしい。
案の定、転弧のスマホ画面には同じ目に遭った女子達からであろう怒りのスタンプがポコポコと乱舞している。
「それは驚くよね、慌てるのも仕方ないよ」
「ん……」
苦笑う出久に、転弧は少し言い淀んで意味ありげな視線を向けた。
こちらの出方を窺うような上目遣いに、一瞬緊張が走る。
危機感知はまるで反応しない、そのくせ爆弾が飛んできそうな甘い緊張感。
「出久くんも……好きなの?……こういうの」
「…………へ?」
「ほら、だって……出久くんも男の子だし……」
ぽつんと零れた言葉に出久の目がきょとんと丸くなる。
数秒言葉の意味を考え込んで、理解と同時に頬が赤く瞬間沸騰した。
早鐘を打ち始める心臓がうっかり失言と一緒に飛び出してしまいそうだ。
「えあ!?や、そんな、さすがにここまでは…って、いやいや違うよ!?」
「やっぱり興味あるんだ」
「あわわわわわ違うってそれは!!!」
ぱたぱたと勢いよく両手を振るのだが、必死過ぎるのも却って怪しく見えなくもない。
もはや語るに落ちる、と言ったところか。
首を傾げて訊ねる転弧の表情は詰るような、そのくせ何処か期待するような探りを入れる色があって、出久は隠しきれないと諦めたように頬を掻いた。
「まぁ……………全然ないって言ったら嘘になるんだけど……」
気まずく視線を最大限斜め下に逸らして、消え入りそうな声音で白状する。
羞恥たっぷりの吐露に、ゆうに数秒、転弧の答えはない。
頬を擦る人差し指が居た堪れなくひくりと揺れた。
(やっちゃった……さすがに今のはセクハラだよなぁ……何て謝れば……え?)
気取られないよう微かに盗み見た転弧の表情は、意外にも、出久の方が困惑するほど晴れていた。
例えるならばとっておきの秘密を教えられた子供のように、見開いた赤い瞳には純粋な好奇心がキラキラと溢れている。
「僕、も………」
え?と、届いた言葉に今度は心の声が喉からも漏れた。
意味を問い返すよりも先に、転弧は熱っぽい口振りで囁くように告げる。
「あのね、僕も…こういうの…ち、ちょっとだけね、興味あって………」
声を潜めるように指先で触れた薄い唇から、出久は目が離せない。
陽に当たった事もなさそうな白い肌が桜色にぽやんと染まっていく。
「いず、く…くんがよければ……」
「っ……」
「してみたいな……って」
思わずごくりと息を呑んでしまった。
喉が上下する感覚がいやにはっきり出久の脳内に響く。
転弧の告白はほんの短い簡易な言葉の、溜息のような囁きのはずだったのに。
おかしな温度に熱くなる身体の奥を彼は確実に自覚していた。
ひたすらに考えがまとまらない。
勢いのまま頷きたいし、しちゃいけないと理性は警告するし、だけど本当のところの僕の本音は……。
「あ、い…っ、出久くん嫌だよね、ごめんね…!」
「嫌なわけないよ…っ!!」
その瞬間、出久は慌てて離れようとする転弧の手を咄嗟に掴んだ。
ひゃ、と小さい悲鳴が漏れる。
今度はさっきと逆に、出久の重みを支えきれない転弧が勢いのまま床に押し倒された。
覆い被さるように重なった身体。
至近距離の転弧に出久の形の影が色濃く落ちた。
ごめん、と反射的に口走ったきり、二言目がどうしても出てこない。
思いの外大きく張ってしまった声に転弧の目が大きく見開かれたまま、息も出来ず見つめ合うだけの時間が3秒、4秒。
目一杯握り締めた手首は焦るくらい細く華奢で、出久はもう一度ごめん、と呟きながらゆっくりと込めた力を緩めていく。
「僕だって…ずっと、転弧さんとしたいって思ってた」
……なんか、言うべき順序がめちゃくちゃじゃない?
心のどこかでは冷静にそんな分析をブツブツと繰りながら、それでも出久は思いの丈をそのまま真っ直ぐ彼女に告げた。
「あの、転弧さん……っ、僕はっ、君が……っ!!」
「……ふぁーーーあ……水………」
最高潮に張り詰めた初々しい熱気は、突然のゆるい欠伸で破られた。
無遠慮にも程がある粗雑さでドアが蹴り開けられ、弔がのそのそと顔を出す。
寝惚け眼を擦る弔が気怠く視線を向けた先には、押し倒した姿勢のまま唖然と硬直する出久と転弧の姿があった。
「え、あ………こ、これはですね弔さん………」
きょとん、と不思議そうに見つめる弔に対して、出久は背中に嫌な氷が伝うような心地だ。
同じ顔をした姉妹(仮)を押し倒している真っ最中にどんな反応をしたらいいのか、これはもう分析思考でどうにかなるレベルじゃない。
弔と出久は幾度となく運命的な邂逅を繰り返してきた間柄ではあるのだが、おそらく今日が史上最悪に気まずいエンカウンターなのは間違いないだろう。
ちなみに視界の端では転弧が今にも気絶しそうな顔で目を回していた。
暗い深紅の双眸が躊躇なく二人を眺め回し、無言で現況を把握する。
あの、と辛うじて絞り出した震え声に弔の眉間がぴくりと反応した。
ひどく緩慢な仕草で、乾いて掠れた唇が微かに揺れる。
「あ?……あぁ……どうぞ続けて」
(や、続けられるわけないんだけど!?)
出久の混乱など知らず、怒るでも、揶揄するでもなく。
弔はほとんど吐息に溶けるような疲れた一言を吐き捨てると、早々に冷蔵庫に向かってしまった。
おそらく眠気と喉の渇きが尋常でなかったのだろう。
冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを掴むと、指先を一本離した独特のフォームで一気に呷る。
「ねみぃ……」
そのまま、弔は出久達を顧みる事なく、わしわしと寝癖の髪を掻きながら再び部屋に引っ込んでしまった。
一連の低空飛行死柄木ハリケーンを固唾を飲んで見守っていた出久と転弧は、パタン…と静かにドアが閉まる音でようやく肩を撫で下ろした。
「……弔さん、行っちゃったね…」
「……うん…」
どちらが言い出すでもなく、流れで身を起こした二人は改めて小さく息を吐く。
安堵とも失意とも取れそうな溜息。
それでも、どちらも互いの至近距離を離れようとはしなかった。
何から話そうか、逡巡する微妙な沈黙を不意に転弧の声が破る。
「僕もね、出久くん好きだよ」
俯いたまま、ふと告げられた言葉。
投げられた言葉をキャッチして、眺めて、咀嚼して、飲み込んだところで出久は本日数度目かの赤面大爆発を起こしてみせた。
「え………ええええええ!!!!」
目を丸くして、わなわなと震えて叫ぶ彼を、転弧は照れたようなこそばゆい微笑で見つめている。
「待って!え!?いや、本当に!?あ、嫌とかそういうんじゃなくむしろ嬉しいというか転弧さんにそんな事言ってもらえるなんてあまりにも幸せ者過ぎてちょっと現実を受け止めきれないというか…えっ幻覚?幻覚じゃないよね?」
「……ふふ、出久くんおもしろいね」
例の早口で捲し立てる出久に、彼女は口元を抑えるようにしてくすくすと笑う。
目を細めると、悪戯っぽい表情は弔によく似ているのに、彼女とはまた違う毒気がある。
それは致死性はないのに、一度喰らうと後を引きそうな、小悪魔じみた毒気。
「そういうとこ、すき」
「〜〜〜っっ!!!」
「出久くん首まで真っ赤だよ、ねーえ?」
両手で顔を覆う出久を覗き込むように転弧がにまにまと問いかける。
なんであんな告白しちゃったんだろう!なんて反省は既に遅く。
穏やかな土曜の夜に起きた小さな事件は、こうしてより大きな事態へと出久を盛大に突き転がしていくのだった。