深呼吸をして携帯を手に取る。綾小路姫乃の携帯の画面には朝香果林の四文字と後1回押せば電話をかけれるボタンが表示されている。
少し震える指で画面を押し、呼び出し音が耳元から鳴る。
「はい、もしもし。久しぶりね綾小路さん」
「夜分遅くにすみません果林さん、次の日曜日は、その…ご予定は空いていますでしょうか?」
「ちょっと待ってね、次の日曜日は…空いているわね」
「で、では私とショッピングに行きませんか?」
「いいわよ、丁度行きたいお店もあったの。一緒に行きましょ!」
「ありがとうございます!では10時頃にお台場で待ち合せましょう!」
失礼しますと言い電話を切った。緊張の糸が切れ、傍にあるベットに倒れこみ枕に顔を埋めたまま歓喜の声を叫び足をパタパタさせている。
尊敬し、憧れ、好意を寄せている果林とのショッピング。例え果林からすると仲間とのお出かけに感じているかもしれない。だが姫乃は果林とデートをするんだ、と感じ舞い上がっていた。
「何を着ていくか今から考えなきゃ!」
自室のクローゼットを開け鏡と奮闘を始めた。
約束の日曜日、約束の10時より10分早く着いた姫乃はガラスに映った自分の姿を確認したり携帯で時間を見たりと落ち着かない様子で果林を待っていた。
「綾小路さん」
再度自分の姿を確認していると横から果林が声をかけた。
「果林さん!おはようございます!」
「待たせちゃった?」
「いえ、私も先程来ました」
「綾小路さんその恰好、とても素敵よ」
「あっありがとうございます!果林さんにそう言ってもらえてとても嬉しいです!」
スクールアイドルとしてもだが、モデルとして活躍する果林の隣で歩けるというのに半端なコーディネートはできないと考えている為、この数日間試行錯誤した私服を褒めてもらった事に姫乃は安堵と幸福感に包まれた。
「果林さんもとても素晴らしいコーディネートでとても素敵です!」
「ふふっ。ありがとう」
「私あまり服や装飾品には詳しくなくて…果林さんにそういった類の事を今日色々教えて頂ければと思いまして…よろしいでしょうか?」
「私で良ければいいわよ。今日行きたいお店が丁度そういったお店なの。行きましょ!」
「ありがとうございます!」
2人はお台場の様々な服屋、美容用品店を見て回り、そして昼になり2人はカフェに入った。それぞれ飲み物と料理を頼み一息ついていた。
「果林さんのおかげで色々勉強になりました。ありがとうございます」
「喜んでもらえてよかったわ。綾小路さんは」
「あ、あのっ果林さん…」
「なぁに?」
「その…あの…し、下の名前で呼んでいただくことって…駄目ですか?」
顔を赤らめ、もじもじと言う姫乃に果林はニヤニヤしながら姫乃の手を取り、姫乃ははぅあ!?と奇声を上げた。
「姫乃…ふふっ、これでいいかしら?」
「は、はい…ありがとうございます…」
今にも沸騰しそうな姫乃を見て果林は悪戯っぽく笑い、頼んでいた飲み物が届き、コーヒーを飲んだ。
小1時間程喫茶店で雑談を交わし、ショッピングを再開した。果林が使っている物やおすすめした美容品を買い、姫乃はやや多めの荷物を笑顔で持っていた。
「果林さんは何か買わないんですか?」
「私は今欲しい物が見当たらないから大丈夫よ」
「で、では私とお揃いのアクセサリーが欲しいのですが…どうでしょうか?」
「いいわよ。一緒に選びましょうか」
2人は一案近いお洒落な小物売り店に入っていった。
「何にするか悩みますね、どれも素敵で目移りしちゃいます」
「鞄につけれる物とかが良さそうね~」
綺麗な物から可愛らしい物まで豊富な品揃えで2人は時間をかけてゆっくり見ていった。ふと果林が足を止めまじまじと見つめていたので姫乃はその視線の先を見ると、手のひらサイズで可愛らしいパンダのぬいぐるみがあった。
「果林さんパンダ好きなんですか?」
「へ!?…ま、まあ…その…うん…」
少し頬を赤らめ少し慌てふためく果林に姫乃はときめいた。クールで美しく、魅惑的なお姉さんという印象の果林がパンダが好きで更に頬を赤くして慌てているのだ。その光景はたった一瞬とはいえ、初めて果林の写真を見た時と同じ、もしくはそれ以上に胸が高まった。
「それにしましょう!」
「ええっ!?もう少しお洒落な物が良いんじゃ」
「いえ!私はこれが良いんです!」
「あなたって意外とグイグイ来るのね、ちょっと意外」
「す、すみません…つい興奮してしまいまして…」
「いいのよ。じゃあこれにしましょうか」
2人はパンダのぬいぐるみを取ってレジへ並んだ。
会計を済ませた2人は外に出て帰路に着いてた。
「駅まで送ってくださりありがとうございます」
「いいのよ。気にしないで」
夕日が2人を照らす。2人の鞄には先程買ったパンダがぶら下がっている。
「か、果林さん…あの…またこうしてお出かけを誘っても大丈夫でしょうか…?」
「もちろん!私からも誘うわね」
「ありがとうございます!」
少し無言の時間が流れ、ふと果林の顔を見た時、夕日により綺麗に照らされたビルの鏡や空を背景に果林の横顔がやけに美しく、立ち止まって見つめていた。
「どうしたの?」
果林は何故立ち止まったか分かっている様な顔で姫乃を見て、姫乃はもじもじと両手の指を絡めていじりながら
「果林さんがとても綺麗でつい…」
「ふふっじゃあ写真でも撮ってみる?」
「いいんですか!?」
「撮られるのは嫌いじゃないもの」
「私、実はカメラが趣味で…よく綺麗な景色や物を撮りに行ったりするんです。果林さんを初めて写真で見た時いつか私もこの人を撮りたいと思っていたんです!」
「とても嬉しいわ、じゃあこの夕日がビルに隠れる前に撮りましょ!」
ここがいい、このポーズはどうか。そんな会話をしながら2人は日が暮れても盛り上がり、町の光を背景に数枚撮り、姫乃の携帯の充電が残り15%を切った通知を目途に撮影会を終了し、駅へ再び歩いた。駅に着き、電車が来るまで後数分。2人は撮った写真を見て笑いあっていた。
姫乃は寝る支度をし、果林に今日撮らせてもらった写真をアルバムに送信しお礼のメッセージを書き、机に置かれた鞄につけたパンダを見て果林のあの顔を思い出していた。思い出すだけで胸の鼓動は早くなり、会いたい気持ちがどんどん膨らんでくる。
「いつかあの顔も撮れる日が来るのかな…」
ぼそっと呟いた言葉がいつか言霊となり実現しないかと思い、ベットに寝転んだ。