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陸軍法務部令(昭和15年勅令第831号)
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朕陸軍法務部令改正ノ件ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
勅令第八百三十一號
陸軍法務部令
第一條 本令ニ於テ陸軍法務部ト稱スルハ統合総軍法務部、航空総軍法務部、軍法務部、航空軍法務部、師團法務部及航空師團法務部ヲ謂フ
第二條 陸軍法務部ハ統合総軍總司令官、航空総軍總司令官又ハ當該軍司令官、航空軍司令官、師團長若ハ航空師團長ノ權限ニ屬スル左ノ事務ヲ掌ル
一 軍事司法ニ關スル事項
二 訴訟ニ關スル事項
三 軍事法規ニ關スル事項
四 監獄ニ關スル事項
五 法務部將校以下ノ法務部専門事項ノ敎育及勤務ニ關スル事項
第三條 陸軍法務部ニ左ノ職員ヲ置ク
部長
部員
附
准士官、下士官及法務兵長
第四條 部長ハ統合總軍總司令官、航空總軍總司令官又ハ當該軍司令官、航空軍司令官、師團長若ハ航空師團長ニ隸シ部務ヲ掌理シ法律事項ニ付其ノ諮問ニ應ズ但シ法務部將校以下ノ法務部專門事項ノ敎育ニ關シテハ兵部省法務局長ノ區處ヲ承ク
第四條ノ二 統合總軍法務部長ハ軍法務部長、航空総軍法務部長ハ航空軍法務部長、軍法務部長ハ師團法務部長、航空軍法務部長ハ航空師團法務部長ニ所要ノ指示ヲ爲スコトヲ得
第五條 部員及附ハ部長ノ命ヲ承ケ部務ヲ掌ル
第六條 准士官、下士官及法務兵長ハ上官ノ命ヲ承ケ事務ニ從事ス
附 則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
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平成二十七年度海軍法務学生募集要綱
一、海軍法務学生とは
海軍法務学生とは、海軍依託学生生徒令にて定める海軍依託学生の一つである。将来海軍法務科士官として服役することを希望する学生諸君に対して、早期にその途を開かんとすることを目的としている。
採用に際しては身体検査・書類審査及び筆記試験と口頭試問からなる銓衡試験が行われる。海軍法務学生に採用されると、海軍依託学生として海軍兵籍に編入され、海軍軍人に準じる待遇を受けることとなる。このため、海軍法務学生には毎月手当が支給される。なお、採用後は情願による辞退は認められないので、出願に際しては自身の進路についてよくよく熟考されたし。
海軍法務学生には、将来の海軍軍人としての修養が義務として課される。このため、大学の夏季休暇を利用して軍事教練を受けることとなっている。また、海軍法務学生は在学中に高等試験司法科に合格し、司法官試補たる資格を得なければならない。大学1年次及び2年次に採用された学生は進級時に高等試験司法科の及第見込みが審査され、及第の見込みなしと判断されると依託学生を免ぜられるので学業には力を入れてほしい。
大学卒業後は、海軍法務見習尉官となり、各鎮守府・警備府・艦隊司令部に配属されて2年の実地研修を受け、海軍法務中尉として任官する。
二、出願資格
次の資格・条件を備ふる者
(イ)平成27年4月1日現在で大学令(大正7年勅令第388号)に依る大学の法学部(法文学部、法経学部などを含む)に在籍している者
(ロ)平成27年3月31日時点で年齢満25歳未満の者
(ハ)次の各項に該当しない者
1.禁錮以上の刑に處せられたる者
2.破産者にして復權を得ざる者
3.卒業迄に高等試験司法科試験合格の目途を有しない者
三、募集人数
各学年2人合計6人
四、出願期間
平成27年4月16日(木)から4月30日(木)17時まで
郵送による出願書類は4月30日(木)の消印有効
五、出願方法
志願者は下記の区分に応じて出願書類を提出するものとし、志願票以外の書類は郵送での提出となる他、各鎮守府・警備府・海軍地方人事部に志願者が持込することも可なり。なお、郵送又は持込書類には志願票仮受理証の控えを添付又は志願票仮受理証に記されたる志願者番号を転写すること。
各学年共通書類
(イ)志願票
※志願票は、兵部省の電網住所の特設頁(https://hyoubu.go.jp/houmu/32nuew3nf7s45545jmiujd)に所定事項を入力し送信すること。
※志願票送信後に電網親書にて志願票仮受理証が送信されるので保存すること。
(ロ)在学証明書
(ハ)戸籍抄本
※出願期間開始日以前7日以降の発行日であることを要す。
※電磁記録による提出の場合は当該記録を志願票に添付書類とすることができる。
第一学年在籍者提出書類
イ、ロいずれか一つの書類及びハの提出を要す
(イ)高等学校又は高等女学校高等科成績証明書
(ロ)大学入学者検定試験成績証明書
※書類は発行者において厳封処理されたるものとし、開封時は無効。
(ハ)学校医又は医師の身体検査証明書
※学校医の身体検査証明書は、高等学校又は高等女学校高等科第3学年時の学校健診記録を以て可とす。
※医師の証明書類は直近一年前迄のものとし、学校医作成のものに準拠することを要す。
第二学年・第三学年在籍者提出書類
(イ)学部成績証明書
※出願期間開始日以前7日以降の発行日であることを要す。
(ロ)学修状況報告書
※書類は発行者において厳封処理されたるものとし、開封時は無効。
※学部長等が作成し、当該学生の成績が、卒業までに高等試験司法科試験合格の見込の有ることにつき、客観的に説明し得ることを要す。
※様式雛形を兵部省の電網住所の特設頁(https://hyoubu.go.jp/houmu/fu43ruf3ui4rtwnfwurfnw)に掲載せり。各大学においてはこの様式に準拠せらるることを希望す。
(ハ)大学入学時健診結果票
六、銓衡方法
身体検査・書類審査・筆記試験・口頭試問とする。
海軍において志願票を受理したる後、志願者の在籍各大学に宛てて志願票受理証と海軍依託学生出頭令状を発信するので、志願者は各大学の学生課等を通じてこれを受領すべし。各鎮守府司令長官又は警備府司令長官の通知により、5月16日(土)から5月17日(日)にかけて各鎮守府・警備府・海軍地方人事部において軍医による身体検査を実施するので志願者は令状記載の日時に出頭すること。この際の往復の旅費は現物支給されるので、交通機関の窓口に志願票受理証と海軍依託学生出頭令状を提示すること。
成績証明書及び学修状況報告書を基にして海軍内部で審査を行い、身体検査および書類審査の合格者には、再度在籍各大学に宛てて出頭令状を発信するので、志願者は各大学の学生課等を通じてこれを受領すべし。各鎮守府司令長官又は警備府司令長官の通知により、5月30日(土)から5月31日(日)にかけて筆記試験及び口頭試問を実施するので志願者は令状記載の鎮守府又は警備府に出頭すること。5月30日(土)の宿泊は鎮守府及び警備府の海兵団宿舎にて実施し、糧食は官給とする。なお、希望者には前日からの宿泊及び糧食も認める。往復の旅費も亦身体検査時と同じく現物支給となる。
筆記試験の内容は学年によって異なる。
第1学年には、高等学校及び高等女学校卒業程度の範囲で国語及漢文、歴史、哲学概論、心理及論理、法制及経済、外国語(英・独・仏・露語の中から志願者が希望する1ヵ国語)の6科目で行われる。
第2学年、第3学年には、憲法、民法、刑法(海軍刑法を含む)、刑事訴訟法(海軍軍法会議法)の4科目で行われる。
七、採用後の手続
筆記試験及び口頭試問の結果、海軍依託学生に採用されたる者に対しては、兵部大臣より在籍大学を経て採用通知書、誓約書、身元保証書、手当金振込先指定書及び返送用封筒が6月下旬に交付される。志願者はこれらの書類を受け取った後、誓約書、身元保証書及び手当金振込指定書を返送用封筒を使用して速やかに兵部大臣に宛てて返送する。
八、海軍法務学生採用後の諸注意
海軍依託学生は、海軍の兵籍に編入され、在籍する大学を担任する鎮守府司令長官又は警備府司令長官の監督の下、在籍する大学の規定に従い、一般の学生と同様に修学する。
海軍依託学生は、大学の夏季休暇を利用して海軍軍人としての軍事教育を受ける。即ち、海軍軍人としての資質の錬成、海軍常識の涵養、軍隊生活の体験を目的に、概ね3週間程度鎮守府又は警備府の海兵団宿舎に寄宿して、軍事教練を受ける義務を負う。この際の往復の旅費及び糧食は現物支給される他、軍服は貸与される。
高等試験司法科試験に及第したる者は大学卒業まで法務学生としての待遇を受ける。第3学年の依託学生は同年度の高等試験司法科試験に不合格と決定したるときより依託学生を免ぜられる。
この他、出願資格(ハ)号に該当することは当然の事、品行素行不良又は怠惰で訓戒を加えるも改悛なき者、学業の成績不良の者、疾病その他身体又は精神の異常により将校としての現役の服務に堪えざると認める者、その他将校たるに相応しからざる者は、依託学生を免ぜられる。この内、品行素行不良又は怠惰で訓戒を加えるも改悛なき者に該当して依託学生を免ぜられたるときは、支給された手当を返納しなくてはならない。
海軍法務学生には毎月65円の手当が支給される。
九、海軍法務見習尉官拝命
大学卒業後は、海軍現役軍人として服役する。大学卒業後4月1日を以て、兵部大臣より海軍法務見習尉官を命ぜられ、その身分は奏任官の待遇とされる。海軍現役軍人であるが、階級を有しない。兵部大臣の人事発令と同時に、鎮守府司令長官又は警備府司令長官の命令により、鎮守府又は警備府の法務部に配属され、実地研修を行う。
見習尉官を拝命されている間は、鎮守府及び警備府の海兵団宿舎にて居住し、糧食は官給とする。また、手当が月額100円支給される他、軍服は貸与される。
同時に定期的に司法官試補研修所において司法修習を受講する。法務士官の任務で最も重要なものが法務官として軍法会議として裁判官、予審官、検察官に就任することである。軍法会議は複数の裁判官から成る合議体である。法務官以外の裁判官は法曹資格のない一般の将校から選出されるため、法務官である法務士官は彼らを指導し、裁判を円滑ならしめる役目を負っている。予審官・検察官としては法務下士官兵を指揮して、事件捜査にあたるためこれらの事務に精通していなければならない。法務見習士官はこれらの実務を修習するのである。
法務見習尉官は2年の司法修習勤務を経て、司法官試補考試(所謂、二回試験)中の科目から「刑事裁判」、「予審」、「検察」を受験し、これに合格しなければならない。合格後、高等官七等(奏任官)海軍法務中尉に任官する。
海軍法務中尉任官時には、服装手当として700円が支給される。
文書奥付
平成27年兵部(海軍)次官通達第129号
平成27年4月1日
関係部署
兵部省大臣官房
秘書課長
兵部省人事局
教育企画課長
人材育成課長
兵部省法務局
庶務課長
問い合わせ先
兵部省法務局庶務課海軍班(内線○○○○)
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大日本帝國福岡県福岡市西区 九州帝國大学付近のラーメン屋 2676(平成28・2016)年1月18日(月) 正午
『おい達は上から何も聞いとらんぞ。』
『せからしか!おい達は上からの命令で動いとーったい。はよう門ば開けんね。』
『今、聯隊長ん許可ばとりよーったい。ちーた黙っとかんね。』
『そんでなん、伝令ば出しよるんか。そこん電話ば使え電話ば。きさんたち、公務執行妨害で逮捕されたいとか!』
『なんこーかりよっとか、憲兵ん分際で!』
『なんかきさん!くらすぞ!』
テレビはお昼のニュースを流していた。福岡市中央区城内には、帝國陸軍歩兵第24聯隊が衛戍しており、画面はその聯隊本部営門前での喧騒の様子を伝えている。テレビから流れている映像は、視聴者が撮影したスマホ動画をテレビ局が買い取ったもののようだ。
「おーおー、派手にやっとうやん。なんや、お嬢は気にならんとな?」
平ザル(茹でたラーメンの麺を湯切りをする柄のついたザル)を慣れた手つきで振りながら、カウンター席の前に座る客に話しかけたのは、このラーメン屋の大将大森文太である。「らあめん大森」は九州帝國大学の近くで40年以上も営業している。昭和40年代後半、九州帝國大学が施設の老朽化、福岡空港の騒音などを理由としてこの地に移転してきたのとだいたい同じ時期に開店した。ラーメン1杯50銭。学生は替え玉1つ目は無料、2つ目からは1玉10銭。50銭硬貨ワンコインでラーメンを提供し、長らく九大生の胃袋を満たしてきた。
テレビの流す映像を気に留めずにずるずると麺をすすっていた女性は、口に含んだ麵を呑み込むと大森店主に答えた。
「別にわたしが気にしてもしょんなかろーもん。それより、おっちゃん替え玉ちょーだい。」
「はいよ。替え玉一丁。」
ラーメンを食べているのは、立花利美という21歳の女性である。立花利美の家は男爵を授けられており、彼女は当代の立花男爵の孫である。立花男爵家の初代は、日清日露戦争に出征し、初代関東軍司令官に補された軍歴を持つ陸軍大将立花小一郎である。小一郎は、予備役となった後に福岡市長に就任した経歴もあり、立花男爵家は福岡では名の知れた名家である。男爵家の孫娘である利美は現在九州帝國大学法学部の2年生であり、陸軍法務部依託学生に採用されている才女として知られている。
陸軍法務部依託学生は、海軍の法務学生よりも数が多く、毎年度各学年4人合計12人が採用されている。陸軍の方が海軍と比べて規模が大きいので採用数に違いがあるのは当然と言える。しかし、法務部将校が直接に戦闘に参加しない後方支援を担当する武官であるとはいえ、武官には男性が多く就職しているのが現状である。加えて、陸海軍の依託学生に採用されるには相当に優秀な成績を修めている必要がある。陸軍の依託学生の半数は東大の学生が占めており、九大の学生から採用されるというのは稀である。ましてや、それが女性というのであれば、言うまでもない。
「しかし、お嬢。陸軍はお嬢の未来の就職先だろうに、そんな無関心でいいもんかとおっちゃんは思うがねえ。」
「だって、うちにできることなんてないし。だいたい、法務部依託学生だってお爺様が是非にというものだから受験したら受かっただけだし。もともとうちはそれほど軍への就職は興味なかったし。なんか、軍人さんって血の気が多いのんおおかけんうちよう好かんっちゃん。」
「やれやれ、曽爺さんが陸軍大将だってのにそがんに言わんでもよかろうに。おっと、お嬢、茹で上がったぜ。」
「ん。」
利美はどんぶりを少し前に出し、大森が湯切りした麺を受け取る。タレを注いで味を調えて、ふたたびずるずるとすする。
『お前たちやめんか。通行人が見とろーが。』
『あっ、三宅中隊長殿。あっ、おい、そこのお前、なん無断で撮影しよーとか。』
『駐屯地の営門付近を無断で撮影するんは、軍機保護法違反やぞ。お前、しょっ引くぞ。』
『やめぇ言いよろうが。こんバカちん共が。それから、そこの憲兵兵。いまどき、駐屯地の門を撮影したぐらいで逮捕なんぞできるか。不当逮捕言わるっぞ。ほら、そこの君。はやく散った、散った。』
『(映像が切り替わり、スタジオの様子が移る。)動画はここで終了しております。本日は、刑事政策を専門とされ、軍事政策にも詳しい九州帝國大学法学部の渡辺教授にスタジオにお越しいただいております。渡辺教授、宜しくお願いします。』
『宜しくお願いします。』
「これんせいで、午後の1コマ休講になったっちゃん。えらいメーワクしとっとよ、おっちゃん、わかる。」
「ばってん、休みが増えるとはうれしかとやなかとね。」
「よかないよ。別日に授業の振り替えのあっけん、バイトのシフトを変えんといかんごとなった子もおる聞いとんじゃけんね。」
「なるほどのう。」
どっこいしょと丸椅子に腰かけた大森が、頬杖をつきながらテレビを眺める。
『まず、先ほどのような押し問答、そういうような光景が全国各地の陸海軍施設で見られているということですが、今回の一斉査察ですが、明らかにこれは政府主導による動きであると言わざるを得ません。』
『それは一体どういうことですか。』
『陸海軍は対等な関係なのです。畏れ多くも天皇陛下、大元帥陛下の御統率の下にそれぞれの軍は対等であり、陸軍は陸軍で、海軍は海軍で、航空隊は航空隊で、それぞれが独自に存在しているというのが、明治建軍以来の根本精神とされています。』
『なるほど。しかし、大本営という組織がありますよね。陸海軍を統合調整する組織であると私どもは認識しておりますがここが今回の一斉査察に動いたということはございませんか。』
『大本営についての意義はおっしゃるとおりです。しかし、大本営という組織は陸海軍の共同軍事作戦を円滑ならしめるために置かれているものなのです。純粋な作戦と兵站を担う機関であり今回のように陸海軍三軍を一斉査察するような権限はありません。』
「本当、お嬢は興味ないんやあ。」
テレビを見ずに手元のスマホを操作しながらラーメンをすする姿を見て、大将は苦笑した。
「そらそうやもんね。それより、うちは気になっとーことのあるっちゃん。」
「おや、なんや?」
ずるずるっと麺をすすり終えた利美は、大森に向かって話し出した。
「うちん高女時代の後輩。おっちゃんも名前はしっとろう、福岡彩香って。」
「ん?ああ、そういえば、いつだったか、夕方んニュースにでとったことのあったな。水泳の高体連福岡県の代表選手で優勝したとかで、県庁で表彰されたんやなかったか?」
「そうそう、そん子、うちの一個後輩なんよ。」
スマホの画面を操作しながら利美は話を続けた。
「あん子とは、うちが高等科の生徒会長、あん子が高等科1年で体育祭の実行委員やったときに知りおうてね。あん子は、尋常科にいるときから既にちょっとした有名人やったけんねえ、うちも顔は知っとったとよ。そんで、体育祭の実行委員会の会議の後にちょっと呼び止めてね、水泳部のエースのあなたがなぜ実行委員などをしているのかって聞いたのよ。普通は練習時間が削られるからこういう仕事かはやらないもんでしょ。だのにあん子ときたら、クラスのみんなからやれって押し付けられちゃってってあっけらかんとして言うもんだからね。」
利美はレンゲでラーメンのスープをすくって口に持っていった。一口飲みほすと、更に話を続けた。
「そんで、なんかあん子のこと気になっちゃってね。押し付けられた委員だって言ってたからやる気ないんだろうなって思ってたら、他の実行委員よりも精力的に動くわ、先頭になって盛り上げるわ、元気いっぱいの子でねえ。ホント良い意味での体育会系女子って感じやったわ。」
「お嬢のお気に入りの後輩が有名人やったとはなあ。今度うちのラーメン食べに連れてきてくれな。」
「そうやな。いっぺん連れてくるわ。あん子もラーメン好きやしな。」
「おお、サイン貰わななあ。そんで、そん子のなにが心配なんや。」
利美はスマホをテーブルの上に置いて話しを続けた。
「それがな。あん子、電話しても出らんし、電親も既読にならんっちゃん。」
「なんか、約束でもしとったんか。」
「まだ、約束はしとらんとけどね。今年の福岡高女の卒業式で、うちとあん子が卒業生の来賓に選ばれとって卒業生を前に話してくれいわれとるんよ。うちは福岡高女初の陸軍法務部依託学生採用者として去年に引き続き、あん子は去年のインカレでいくつかの種目で一位とったけん。ばってん2人もいらんやろ。去年うちがしたっちゃけん、今年はあん子にしてもらおう思てね。」
「なんやお嬢。面倒毎を後輩に押し付けようっちゅう話やないか。」
大森がゲラゲラと笑うと、それにつられて利美も苦笑する。
「あん子もこんな面倒な先輩を持ってしまったんが運のツキたい。よかとよかと。たまには先輩風ば吹かさんばね。ばってん、折り返しの電話も電親の返信もなかっちゃんね。なんばしよっとかね、ほんなこつ。」
「旅行にでも行っとんやなかとね。」
「携帯も持たずにね。あん子はこれまで夜か翌日には連絡くれよったけんね。3日も連絡かえさんかったのなんて初めてなんよ。」
「いまどきん子が3日も連絡とれんってね。そいは、ちょっと心配じゃのう。」
「ほうやろ。おっちゃんもそう思うやろ。ほんとなんしよんのやろ。」
スマホを睨みつけながら、利美は深く溜息を吐いた。先ほどまでと同様にテレビからの音声は利美の耳には届いていなかった。
『おっしゃるような国防に穴が開くということはないでしょう。例えば、地震などの災害時、つまり電子機器が使えないような状況にあっても軍は機能しているということは、国民諸君がしっかり記憶しております。ただ、現場の若干の混乱は1日から3日ぐらいは続くとは思います。』
『帝國軍隊が混乱するというのは問題ではないということでしょうか。』
『帝國陸海軍はこの程度で動揺するような脆弱な組織ではありません。災害時と同じ程度には混乱するでしょうが、それに比べても、若干の混乱であるといえましょう。我々は軍に対する信頼を厚くし、何事もないかのように振る舞うことが大切です。治安を乱さず、不安を煽らず、昨日までと同じように生活すること、それが大事でしょう。』