毎度のごとく、好評なら続編、不評なら別の物語を執筆する予定です。
序盤は暗いですが、徐々に元のストーリーへと戻る予定です。
では、スタートです。
人は何を持って幸せと呼べるのだろうか?
唐突にこんな疑問を嘆くオレもどうかしてるが、少し聞いて欲しい。
まず幸せとは、裕福な家庭に生まれ育ったり物事がうまくいったり人に褒められたり………基準は人それぞれあるだろう。
幸せとは明るい意味の言葉。基準は違えど感じるものは皆同じだ。
幸福感を差し置いて他にない。
一点、オレは世間からしたら不幸な運命を強いられた。
生まれて直後に施設へ預けられ、親はオレを置き去りにし姿を晦ましたんだ。
生みの親を知らない。
自分の名前を知らない。
ここがどこかもわからない。
生まれたての赤子は、ただ泣き叫ぶことしかできなかった。
施設で過ごしてしばらく経つとオレはある親の元へと引き取られた。
その人物は、人気ロックミュージシャンの肩書をもつ男だ。
彼、もとい今の義父にはオレと同い年の一人娘である友希那がいたが、それと同等に可愛がってくれた。
そしてオレたちが思春期を迎える頃には義父はミュージシャンを辞め、友希那とはどこか疎遠な関係になってしまった。
家で顔を合わせても会話することなんて決してない。
それも、父がある理由で音楽業界から姿を消したことに起因しているんだろう。
友希那は今、音楽を自分の価値を証明する為の手段としか考えていない。
昔はオレと幼馴染、そして義父で満面の笑みを浮かべながら、何度も何度もセッションをしたと言うのに……………。
友希那の笑顔はもう随分と見ていない。
義両親も理由が理由なだけに、ヤツには何も言えずにいる。
家族内がギクシャクし、幼馴染を含む友人関係も今は最悪の状況だといっても過言ではない。
そしてオレは高校を入学を機に、ある決意をした。
赤子の時に拾い育て上げてくれた義理の両親に。
そして、ずっと共に育ってきた友希那への感謝の印として、オレの出来る限りのことを尽くそうと。
オレがこの家にいて良かったと思ってもらえる為に。
◆◆◆
「さて、啖呵を切ったのはいいものの、どうしたものか…………」
時間はあっという間に過ぎていき、オレたちは17歳を迎え、高校2年になった。
この一年、友希那は一人孤独に音楽のスキルを高めている。
反面オレは、何をしていたわけでもなくただ呆然と日々を過ごしていた。
一つのことに熱中し努力し続けられる友希那とは全くの対極。
オレは大抵のことはこなせる自信があるが、音楽に関しては違う。
出来るはずのレベルまでいかず、そのハードルの高さに絶句し投げ出してしまった。
アレはそう易しいものじゃない。
いくら練習しようが上達する気配が全くなかったのだ。
しかし、そう感じたのはオレだけではなかった。
子供の頃から一緒にセッションしてきた幼馴染もまた同じ壁にぶち当たってしまったのだ。
「雄ー樹夜♪おっはよー☆」
「あぁ。おはよう、リサ」
オレの肩を軽く叩いて挨拶したのがその幼馴染、今井リサだ。
栗色の艶やかな長い髪と両耳に付けている兎のピアスが特徴的で、見た目は完全に高校生デビューを果たしたギャル。
しかし味の好みが渋かったり、面倒見が良かったりと色々な面でギャップのある少し変わったヤツだ。
「今日から2年生だね〜」
「そうだな」
「クラス替えとかどうなるのかなぁ?去年は3人とも離れ離れになっちゃったから、今年は一緒がいいな〜」
「そうだな」
「そういえば、一個下の子にすごくカッコいい子が入学してきたって噂聞いたことある?」
「そうか。初耳だ」
「…………ねぇ、雄樹夜」
「なんだ?」
「もうちょっと楽しく話そうよ〜。せっかく一緒に登校してるんだからさ〜」
「すまん」
口数の少ないオレにとって、誰かと会話をするのはかなりハードなことだ。
その反面、リサは社交的で愛想もいいから誰とでも仲良く出来る。
その能力が実に羨ましい。
「でもまっ、アタシだけが雄樹夜のことをよく知ってるっていうのも悪くないかなぁ。あははっ」
「相変わらず、リサは冗談が上手い」
「冗談じゃないんだけどなー」
「その不機嫌に頬を膨らました顔も、あざとさが際立っていいと思うぞ。他の男なら
「雄樹夜も、冗談を言うようになったじゃん?」
「冗談じゃない。本心だ」
「て、照れるからやめてよー!」
「正直なやつめ」
リサは笑いながらそう言うと、オレの背中をバンバンと強く叩く。
友希那もこれぐらい分かりやすい性格ならよかったのに。
アイツは感情をオレ並みに表に出さないからどう接していいか本当にわからない。
まあ、オレが言えることではないけどな。
すると、さっきまで笑っていたリサの表情が一変し重い口を開いた。
「あの、さ………今日も友希那とは、一緒じゃないの………?」
その内容というものは、いるはずだった義理の妹に関することだった。
隠す必要もない。オレは正直に答える。
「さあな。オレが家を出る頃にはいなかったよ」
「そっか………最近、ますます疎遠になっちゃったね」
「そう落胆することじゃない。今のアイツは自分の音楽に囚われていて、周りを見る余裕がないだけだ。それに、喧嘩をしているわけでもないからリサは話しかけても無視されることなんてないだろ?」
「それはそうだけどさ…………」
「友希那にとやかく言う資格は今のオレにはない。何せ、
「………………」
オレの言葉にリサは口を閉ざす。
捨ててしまった、というのは音楽に対する情熱のことだ。
アレだけ親父を超えるミュージシャンになると豪語したものの、こうして何もせずただ日常を送っている。
中途半端で辞めてしまったオレに友希那は失望したに違いない。
リサもそのことを察して、何も言わなくなった。
オレは決して場の空気を重くしようと発言したわけじゃないんだが、申し訳なく思う。
自分の語彙力のなさに、心底呆れる。
「すまんな。決してリサを苦しめようとは考えていなことは理解してほしい」
「も、もちろんだよ!雄樹夜は悪い人じゃないしね☆」
リサの明るい性格には本当に感謝している。
オレも少しは見習わないといけないな。
「そんなことよりほらっ!早く学校に行こ!」
駆け足で向かうリサの背中を追い、学校まで残り数十メートルの道を一気に駆け抜ける。
◆◆◆
「ふぅー、とうちゃ〜く!」
「おいっ、リサ………別に走る意味は、なかったんじゃないか?」
突如走り出すリサの後を追うのが精一杯で、追い抜くなんてことは叶わなかった。
見た目で誤解されがちだが、リサは結構運動ができる方だ。
運動部に所属してる上にコンビニでバイトもしているから、体力面ではオレも友希那も到底敵わない。
おまけに料理や裁縫もお手の物。
社交的な性格も含めて、まるで隙がない。
「だって、早くクラス分けの掲示板が見たいじゃん♪」
「はぁ、はぁ…………だとしても、急に走り出すのはないと思うんだが?」
「雄樹夜、だらしないぞ〜。この距離で息切れするなんて運動してない証拠だよ?」
「ダンス部とテニス部をかけもちしてる人間に、帰宅部のオレの気持ちがわかってたまるか」
「2年生になったし、いい機会だから何か部活に入部してみたら?いい体つきしてるんだからさ〜」
「女子だらけのこの学園にオレの入れる部活動はない。体験入部程度で十分だ」
オレたちが通う羽丘学園は何年か前まで女子校だったためか、男子生徒が極端に少ない。
学校のイメージというものはそう簡単に拭い切れるものじゃないと痛感させられる。
オレがここを受験したきっかけだって、友希那とリサがここを受けると言ったからという不純な動機によるものだ。
入学したこと自体に悔いはない。
だが、女だらけの学校生活というのも肩身が狭くて過ごしづらいのも確かだ。
「そんなこと言わずにさ、体験入部でもいいじゃん?」
「時間ができれば、な」
「あぁ〜!そうやってまたはぐらかす〜」
「そんなことよりも、自分のクラスがどこになったか、早く知りたいんじゃなかったか?」
「わわっ!そうだった!」
「ほらっ、行くぞ」
「な〜んだ、雄樹夜も気になってるじゃ〜ん♪」
「自分のクラスが分からないと教室に入れないだろ」
「冷たーい………」
拗ねた様子を見せるリサを置いて、1人先にクラス分けの表を目にする。
オレのクラスは──────A組か。
友希那はB組で……おぉ、リサも同じA組か。
…………げっ、あの変人たちとも同じクラスかよ。
これはまた、濃いメンバーが勢揃いで。
「やったじゃん!アタシたち同じクラスだね☆」
「あぁ、中学以来だな」
「友希那とも隣のクラスだし、いつでも会いに行けるね〜♪」
「そうだな」
オレたちは校庭を後にし、新しい教室へと足を踏み入れる。
そこにいたのはまだ顔の知らないやつが大多数で、記憶にあるのが極一部だけだ。
その一部に数えられるヤツがオレの座るはずの机に屯していた。
「あっ、リサちーとユッキー!おはよー!」
「おっはよー、ヒナ〜♪」
「…………おい、日菜。その呼び方はやめてくれ。オレには似合わない」
「ええー、この方が親しみやすくていいと思うんだけどなー」
オレの机に腰掛け頬を膨らますのは、この学園の才女とも名高い氷川日菜だ。
定期テストはいつも満点。天才という言葉は彼女の為にあるといっても過言はない程の逸材だが、その反面感性が他の人とまるで違う。
ヤツがただ1人入部している天文部は『変人の住処』と呼ばれていて、その異様な人間性を物語っている。
ちなみにオレは日菜のことが嫌いではない。むしろ人として関心すらしている。
ただ、アイツのハイテンションさが苦手なだけだ。
「オレはそんなファンシーなニックネームを命名されるほど、周りに好かれてないぞ」
「そんなこと関係ないけどなー。でも、あたしたちがちゃんとユッキーを理解してればそれで十分!」
「ヒナー、いいこと言うね〜♪」
「えへへ、リサちーありがと!」
「…………何か違うくないか?」
リサは日菜の頭を、よしよしと優しく撫でた。
「おや、何の話をしているんだい?よかったら私も混ぜてくれ」
「…………またややこしいのがきた」
オレたちの会話に混ざってきたのは羽丘学園が誇る名役者、瀬田薫だ。
バレンタインでもらったチョコは数知れず。
その中世的な顔たちは女子の心を鷲掴みにし、学校外にもその名を轟かせる超有名人だ。
しかし、これは関わってわかることなんだが、普段は何を言ってるか分からない発言が多く困惑させることが多々ある。
薫も日菜同様、変人に値するには十分な人間性の持ち主だ。
オレが掲示板を見た際に言った "変人たち" というのはこの2人を指している。
「おや?雄樹夜じゃないか。今日もいつもと変わらないスマートな顔をしているね。はぁ、儚い…………」
「リサ、通訳頼む」
「ええっ!?そ、そうだなー…………褒めているのは間違いないと思うよ?」
「薫、正解は」
「そんなもの存在しないさ。人によって受け取り方はそれぞれ違う。それもまた儚い…………」
「そうか。なら、褒め言葉として受け取ろう」
「ふふっ、雄樹夜は今日もクールだね」
「薫と似たようなもんだろ」
友達付き合いが苦手なオレがこうやって人と話すことができているのは、誰であろうリサのおかげだ。
話す人間が個性の塊なのは見ての通りだが、決して悪い奴等ではないのは確かだ。
少し………いや、普通とはかなりズレているのも間違いないんだけどな。
「──────あっ、チャイムが鳴ったね」
「そろそろ席につこっかー」
「また会おう、子猫ちゃんたち」
「やっと静かになった…………」
そこから先は、新しい担任の先生の紹介があったり、始業式をやったりでバタバタとスケジュールをこなし、気がつけば下校の時間を迎えていた。
「雄樹夜〜、この後どうする?」
「今日は予定があるんだ。すまんが、今日は先に帰らせてもらう」
「うんっ、また明日ねー☆」
リサにそう告げ、足早に教室を出る。
既に下校してるであろう奴を探しに。
いかがだったでしょうか?
ご安心ください。ここから盛り上げて見せますので…………