成長を実感して涙する一方、嬉しくも感じるというか。
今更ながらとはなりますが、みなさん。ご卒業おめでとうございます!
これからもよろしくお願いします!
「はあ…………はあ…………」
まだ陽が上り切っていない早朝。
この時間は普段ならまだ夢の中にいるオレだが、今は外へ出て砂浜を走っている。
もちろんRoseliaのメンバーも一緒だ。
「どうして…………こんなことに……………」
肩から息をしながら、嘆くようにそう呟く。
話は昨晩にまで遡る。
リサに演奏を見てアドバイスをしてほしいということで二人で練習していた時だった。
「ねえ雄樹夜。今って体重何キロ?」
「65だな。ここ最近、食欲がわかないから少し落ちた」
「へ、へぇ」
不意にリサは目を背ける。
「ちなみにリサは…………」
「もう!女の子に体重の話を訊かないの!!」
「そうなのか」
リサから出した話題なのに、なかなか理不尽だ。
まあ本気で怒ってるわけじゃないだろうからそこまで気にすることもないが。
「それで急にオレの体重を訊いてどうしたんだ?」
「雄樹夜も友希那も、ここ最近家に引きこもってばかりだったでしょ」
「失礼な。オレは違う。ちなみに友希那は全く外に出ていなかったようだが」
「二人とも普通の人より外に出ることが少ないのは変わりないからね?」
「なっ」
まるでオレたちが "普通" とはかけ離れているとでも言いたそうな口ぶりだな。
当てはまってる部分もあるだろうが、友希那と同レベルで扱われるのは心外だ。
これでも意欲的には外出してるんだが。
「と、いうことで!明日の朝、ランニングしよう!!」
「……………は?」
オレの口からそんな間の抜けた言葉が飛ぶ。
そんなオレに構わずリサは話を続ける。
「だってほらっ!いい気分転換になるかもだよ!?」
「そうかもしれないな」
「それに……………運動しておかないと衣装のサイズが合わなくなるかもだし」
「リサは問題ないだろ。部活をしてるんだから」
「それだけじゃ足りないの!!」
「そうなのか」
女というのはつくづく大変な生き物だ。
「もちろん、他のメンバーも誘うつもりだよ」
「そうか。なら、頑張って─────」
「なに言ってるの」
そう言い切るより前にリサはオレとの顔の距離を近づける。
「雄樹夜も走るんだよ!」
「断る」
有無を言わせず断固として拒否する。
「Roseliaが体を動かすことはわかる。目的があるからな。だが、オレにはそれがない。する意味がない」
ここまで必死になる理由は一つ。
オレは運動が好きじゃない。
特別運動神経が悪いわけではないが昔から筋肉痛で動けなくなったり、足が攣ったりするのが非常に多かったからだ。
特に、太腿の裏側が攣った日には涙を流したものだ。
あれは経験しなければわからないだろう。
死ぬほど痛いぞ?ホント。
まあ結局のところ、足や腕に急激な負荷をかけたくないだけである。
だから普段の生活ですらオレは走ることは決してない。
無駄なことをして自らの体を痛めるのは馬鹿馬鹿しいからな。
「大丈夫。ジャージなら用意してるから」
「そういう意味じゃない」
「私が美味しいスイーツ作ってあげるから」
「いや、だから……………」
「雄樹夜」
リサの真っ直ぐな視線がオレを覗く。
「オレに、逃げ道はないのか」
「これも友希那のためだよ」
「なら、仕方ない」
オレが折れる形で早朝のランニングが決まった。
そして現在。
コテージの近くにある砂浜でオレたちは今走り込みを行っている。
先頭はリサ。
ダンス部とテニス部を兼部してるだけあって流石のスタミナだ。
口角をあげ、どこか楽しそうに走り続けている。
次点は紗夜。
こちらは表情を一切変えることなく一定のペースで走っている。
息に乱れもない。
まさに理想的な走り方だろう。
驚いたのはあこだ。
なんとリサと紗夜について行っている。
燐子とよくゲームをする仲だというからインドアかと思っていたが、実はリサと同じダンス部所属のバリバリ動けるタイプだった。
若い、と言ってもオレたちの二つ年下の中学生だから年齢で差別するにはまだ時期が早い。
「三人とも〜!遅れてるぞ〜!」
先頭に立つリサがオレたちにはっぱをかける。
「これでも、全力疾走、なんだが……………」
「もう、疲れたわ……………」
「コテージに……………帰りたい………………」
並走しているインドア三人組はすでに限界だ。
2キロほど走った現在オレの足は棒と化し、体は鉛のように重い。
このあと念入りにストレッチしておかないと間違いなく後日に響く。
足が攣ることだけはなんとか避けなくてはいけないな。
「だらしないですよ。特に湊くん」
「そうですよ〜。男の子なんだからもっと頑張ってくださいよ〜!」
「性別で、差別するのは、やめろ」
息を切らしながら反論する。
男が誰でも運動できると思わない方がいい。
ここにその典型がいるのだから。
「友希那も、あんまり引きこもってばかりだと、衣装着れなくなるよ〜!」
「そんなヘマは、しないわ…………!」
「りんりんも〜!もう少し頑張って〜!」
「あ、あこ……………ちゃん……………」
そばにいるインドア二人組も目を回し、精一杯腕を振る。
目標だった3キロを走り終える頃には、オレたちは地に体を預け座り込むほど消耗していた。
リサ、紗夜、あこは未だ余裕そうな表情を浮かべている。
「もう、今日は、寝る」
「コラコラ〜。なんのためにコテージ借りたの〜?」
冗談を言うオレの腕を掴み、強引にコテージへと引っ張る。
陽が昇りオレたちの体が溶けきる前になんとか中へと入ることができクーラーがよく効いた場所へと移動し風にあたる。
「ふぅ、生き返る」
「運動不足はほどほどにね〜」
「オレはまだマシだ。あの二人を見ろ」
オレが指を差す方。
燐子は床に座り込む様に動かず、友希那に至っては神に祈るかの様に腹に手を当て、背を床に預けている。
よほど今日の早朝ランニングがこたえたんだろう。
「これじゃあライブでもすぐスタミナ切れでバテるだろうな」
「そんなこと、ないわ」
むくり、と顔だけを起き上がらせる友希那だが未だ顔は青ざめたまま。
その言葉に説得力のかけらもない。
「三人とも、休んでる暇はありません。すぐに朝食を済ませて練習しますよ」
「殊勝な心掛けだな、紗夜。そのストイックさは尊敬するが無理は良くない。昨日も夜遅くまで弾き続けいただろ」
「私にとってこれは普通です。しかし、アナタの意見には賛同します」
「何がだ」
「ライブでのスタミナ切れについてです。練習では問題なくてもライブ本番ではいつも以上に体力を消耗する。今のままでは完璧な演奏をし続けることは不可能です」
「そうだな、その通りだ。それじゃあ練習メニューにもスタミナ強化の項目を設けておく」
「もちろん、アナタも参加していただいたますよ?」
「何を言う。オレは…………」
「ゆーきや〜?これも、Roseliaのためだからね?」
「……………………」
後ろでニコリと笑うリサにオレは恐怖を覚える。
いわばこれは脅しだ。
Roseliaのためという事を良いことに、オレの苦手も克服しようとしている。
それに、どこか他のメンバーの視線もいつもより鋭く感じる。
このグループにおいて男尊女卑という言葉は存在しない、むしろ逆転していると言っても良い。
「…………ほどほどに組み込もう」
「決まりですね」
まるで勝ったかの様に小さく笑う紗夜。
勉学、スポーツにおいて隙がないのは、こうも恐ろしいものなんだな。
「それじゃあ、これからスタミナ強化も兼ねて海に行こう〜☆」
「賛成〜!」
「行きません」
「嫌よ」
「お断り……………します……………」
「却下だ」
「えぇ〜〜!?」
リサからの提案だったが、意見が分かれた。
まずは、賛成意見から。
「なんでなんで〜!?せっかくの海ですよ?遊ばなくちゃもったいないですよ〜!!」
「そうそう!あこのいうとおりだよっ!!」
賛成したのはリサとあこ。
まあ予想通りといったところか。
確かに二人から水着を持ってくるように執拗に忠告されはしたが使うことになるとは想像していなかった。
何せこの二台巨塔を説得できるほどの
「私たちに遊んでいる暇なんてありません」
「その通りよ。ライブまでもう時間はない。何のために合宿しにきたのか忘れたのかしら?」
考えていた通りの回答だ。
さて、この展開をどう覆すのか。
「りんりんは何で嫌なの?」
「え、えっと……………私は……………」
どうやらあこは燐子を味方に引き入れようとしているらしい。
良い判断だ。
「海…………コワイ………………ムリ…………」
何を想像したのか、急に青ざめていく燐子。
まあ仕方ない。燐子も元はインドア組。
あことは違う人種なのだから。
「むむむ〜…………じゃあ雄樹夜は!?」
燐子は諦めリサはオレに決定権を委ねる。
まあオレが拒否したのは友希那と紗夜が許可しないと考えたからで、オレ自身海で遊びたくないわけじゃない。
暑いのは好みではないが、海の冷たい水で涼みたいとも思う。
それに昨日は一日中練習していたんだ。
息抜きだって必要だとも考える。
二人には悪いがオレの考えは決まった。
「良いんじゃないか?海に行っても」
「ほんとっ!?」
「嘘っ!!マジで!?」
予想外、と言いたそうに二人は驚いた様子を見せる。
それは他の三人も同様だった。
「本気で言ってるの?」
「少し信じられませんね」
「なん、で……………?」
「次のライブに向けてセットリストにある曲は完璧に演奏できている。あとは友希那次第だが…………まあ焦る必要はないだろう」
「海で遊べば、曲が浮かんでくるとでも言いたいのかしら?」
「そうだ。オマエは気負いすぎだ。それに、部屋に引きこもってばかりだと思い浮かぶものも思い浮かばない。息抜きも必要だと思うが?」
「そう……………」
「それに、これまで練習を積み重ねてきたリサとあこが可哀想だろ。この日のために新しい水着を買ったらしいからな」
「ちょっ!それなんで知ってるの!?」
「おばさんが教えてくれた。リサに似てお喋り好きだからな」
「もお〜〜!でも嬉しい!」
オレが伝えたいことは全て伝えた。
あとは他のメンバーに判断を委ねるつもりだが、
「行きましょう」
こうしてオレたちは今日1日海で遊ぶことが決まった。
◆◆◆
コテージを離れ海へと向かい歩き出すオレたちRoselia。
その最中、一人離れて歩く友希那に声をかける。
「本当に良かったのか?承諾して」
「今更何を言ってるのかしら」
呆れた、と言わんばかりにそう返す。
「みんながずっと練習していたことは知ってた。息抜きが必要なことぐらいわかっているつもりよ」
「そうか」
「実際、気が滅入っていたからちょうどいいわ」
「仮曲 『熱』。夏をイメージしたことはわかったが、曲調はどこか暗く感じだが」
「静かに燃え上がる炎。それが私たちに合ってると思ったの」
「抽象的で、それ故に難しいな。轟々と燃え盛る炎ならイメージしやすいが、静かに燃える炎、か……………」
最も簡単に想像がつく炎といえば太陽だ。
銀河という大規模な範囲で惑星を照らす広大な陽。
それを曲に落とし込むとするのであれば、ハイテンポで体の内側から熱く燃えたぎるような曲に仕上げればいい。
だが、友希那曰くその曲はRoseliaには不相応だと言う。
バラードとはまた違ったRoseliaらしい熱のある曲。
なるほど、これは確かに難航するわけだ。
「オレにできることがあったらなんでも言ってくれ」
「ええ。そうさせてもらうわ」
小さく笑いそう答える友希那。
しばらく歩くと、太陽に照らされ光り輝く海が見えてきた。
普段の生活では見ることのできない、目を奪われるような景色に自ずと気分が高揚する。
「みんな!早く早く!」
「置いてっちゃいますよ〜!!」
アウトドア組は嬉しそうに熱されたアスファルトの道を駆ける。
階段を降り砂浜へ出ると、シーズン真っ只中にも関わらず人はそこまで多くなく、遊べるスペースも十分にあった。
全く、オレたちはつくづくついている。
ビーチパラソルと二つのローチェアがある場所を借り、女性陣は水着に着替えに更衣室へと向かう。
「さて、と」
オレは服を脱ぎ、あらかじめ下に着ていた水着姿になる。
オレの体は貧相というほどではないと思うが、周りを見れば皆オレ以上に立派な体格をしていた。
「……………」
それにしても太陽が眩しい。
こんなことならサングラスでも持ってくれば良かった。
「雄樹夜〜!おまたせ〜☆」
声のする方を向くと、それぞれ違った表情で姿を現した。
「どうどう?似合ってる?」
先陣はリサ。
ニヤニヤと笑いながらポーズをとっているようだが、感想を求める相手を間違えている。
「ああ。いいんじゃないか?」
そんなありきたりな言葉しか返せない。
もっと事細かく褒めるべきなんだろうが、オレにそんな語彙力はない。
「ねえねえ雄樹夜。友希那のはどう?」
「ちょっと。押さないで、リサ…………」
友希那の肩をだき少し強引に前へと押し出す。
「……………まあ、いいんじゃないか?」
「私が選んだんだよー?可愛いでしょ〜♪」
「そうだな」
「もうっ、雄樹夜ー?もっとちゃんとみて褒めないと、ホラっ!」
再度全員の姿を見るがこれと言った感想は出てこない。
水着に対してオレは布地が少ない服、という認識しかしていないのだ。
「すまんな。碌な感想が言えなくて」
「まあ、これが雄樹夜らしいってことかー」
「そういうことにしといてくれ」
「あっ、サングラス持ってきてるけど使う?」
「ありがたく使わせてもらおう」
リサがカバンの中から取り出したサングラスを受け取りかける。
辺りを見渡すが余計な光は全て遮られ、先ほどまで鬱陶しく感じていた眩しさも無くなった。
リサの用意の良さには毎度感心させられる。
再度Roseliaの方を向くと皆が驚いた様子でオレを見ていた。
「なんだ?」
「その…………なんと、いいましょうか…………」
言葉に詰まる紗夜。
「ええっと、キラキラというか…………ねぇっ!りんりん!」
「う、うん…………そう、だね…………」
もはや言語化すること自体諦めたあことそれを察した燐子。
「渡した私がいうのもなんだけどさー…………」
他のメンバー同様、言葉を濁すリサだったが─────
「フフッ、似合ってるわよ」
「そうか」
『……………ッ!?』
小さく笑いそう評する友希那。
どうやら他のメンバーは違う気持ちを抱いているようだが、向こうが話したくなさそうだから問い詰めるのはよそう。
それからオレたちは今、ビーチバレーをして遊んでいる。
「友希那〜。いくよー」
リサの掛け声と共にボールが宙に放たれる。
その球をレシーブしようと体を動かすが見事にからぶる。
タイミングも位置もよくない。
これでは友希那のところでボールが止まるのは想像にかたくない。
「はぁ、はぁ…………水の中だからか、動きが鈍く感じるわね」
「苦戦してるな」
オレはさりげなく声をかける。
「何かコツでもあるのかしら?」
「簡単だ。落ちてくるボールに対して正しい位置で、正しいタイミングでかまえてれば良い」
「タイミング、位置…………」
「
「やってみるわ」
「リサ。ボールをあげてくれ」
「OK!いくよー!」
高々とリサからボールが放たれ、落ちてくる場所を考慮しポジションをとる。
球はオレの思っていた通りに落下し、完全に勢いを殺すと、フワッと友希那の頭上で宙に舞う。
「位置……………タイミング……………リズム…………!」
ブツブツと独り言を呟く友希那に声をかけた。
「いけっ」
「……………それっ!」
ボールは高々と舞い上がりようやく他のメンバーにラリーが繋がった。
そしてそのボールはあこへと向かう。
「友希那さんが上げたこのボール!絶対落とさないよ!!」
「あ、あこちゃん……………ファイトッ………!」
「闇の力をくらうがいい!聖堕天使あこ姫の必殺魔球─────」
「おいっ、ラリーを続けるつもりはないのかアイツは」
「究極の!!ダーク…………ええっと、スペシャルアタック!!!」
派手な掛け声と共にフルスイングされた右腕は豪快に空を切り、勢いそのままにあこは海へ沈む。
「あれが、リズム……………」
「いや、あれはただのイタイやつだ」
困惑する友希那にそう釘を刺した。
……………………
…………
バンドのことはすっかりと忘れ、遊び、そして海を満喫し尽くした時には、すでに夕方を迎えていた。
コテージへと引き返そうとしたその時、屋台で店じまいをしていたおじさんに呼び止められ、『よかったら使ってくれ』とたくさんの花火をいただいた。
そして今、夕陽に照らされた海を前にオレたちは花火を楽しんでいる。
「綺麗だね〜」
「そうですね」
静かに燃える線香花火をみて感慨深い想いになるリサと紗夜。
「あこ、打ち上げ花火やってみたいです!」
「宇田川さん。危険なのでやめましょうね」
「はーい」
「こういうのも、たまには良いもんだな」
「ええ」
久方ぶりにやる花火はいいものだ。
昔はリサの家と一緒にやっていたもんだが、今はもう昔の話。
だが、心も身体も成長した今でも楽しめているのは、まるでオレたちが童心にでもかえっているかのようだ。
「ねぇ、雄樹夜」
「なんだ」
「アナタの言っていたことは、正しかったわ」
突然の言葉に首を傾げる。
「何に対してだ?」
「部屋に引きこもってばかりではアイデアは思い浮かばない、ということよ」
「何か思いついたのか」
「私のイメージにあった『静かに燃え上がる炎』。それは、儚くともその美しさに魅了される線香花火そのものだと思ったの」
「なるほど、そうきたか」
メラメラと、轟々とした炎ではなく、焚き火や蝋燭のような炎でもない。
線香花火。その可憐な炎はまさにRoseliaのイメージに近いものを感じる。
どうやら、壁を今乗り越えたようだ。
「これは、新曲が楽しみだな」
「ええ。期待しててちょうだい」
のちにこの時に閃いた曲が完成し、 "熱色スターマイン" になるのはまだ先の話。
一昨日はエイプリルフールということで何か嘘を考えていたのですが、この日についた嘘は一年間は実現しないという話を聞き、騙される側に徹しました(笑)
最後になりますが、評価、感想お待ちしています。
何卒なにとぞ〜