誰もいないはずなのに、勝手に扉が開いたり、冷蔵庫から大事に取っていたプリンが消えていたり…………まあ後者は食い意地の張った獣の仕業だったわけですが笑
笑えるものもあれば笑えない本気で怖いものも存在します。
今回は一体何が起きるのやら。
夜の学校。
それは恐怖の対象として扱われることが多く、過去に死んだ生徒の幽霊だとか、学校に恨みを持つ生徒の怨念が漂っているとかありもしなさそうな話が飛び交っている。
もちろんオレはそんなもの信じちゃいない。
幽霊なんてこの世に居ないと思ってるし、人の恨みや呪いが顕現するなんてそれはもうアニメや漫画の世界だ。
ここは現実。
そんなこと起こり得ない。
……………ん?
なぜ今、オレがこんな話をしたかって?
それはこの状況を見て考えてもらおうか。
「ねぇ、雄樹夜……………」
「なんだ」
「ちゃんと、そばにいる、よね?」
「何を言ってる。今、おまえに腕を掴まれて歩いてる最中だろ」
見えもしないナニカに怯えながらリサは体を震わす。
「それにしても更衣室に忘れ物をして帰るなんて、らしくない」
「だ、だってぇーーー!!」
話は数時間前に遡る。
夕食、そして入浴を済ませ部屋でくつろいでいた時だった。
オレの携帯に着信が入ったのだ。
その相手が今隣で縮こまっている女、リサ。
なんでも今日の部活終わりに着替えてる最中、携帯をロッカーの中に忘れたらしい。
明日から学校も盆休みに入り完全に閉まることになり、次に開くのが1週間後らしくそのまま携帯を放置できないということでオレに助けを求めてきた。
全く、携帯が一週間使えないだけでそこまで焦る必要があるのか?
…………いや、彼女のことだ。
オレの数十、数百倍交友関係のある彼女からすれば、一週間連絡が途絶えるとなるとそれ相応に周囲から心配の目が向けられるはず。
友達が多いというのも辛いものだな。
決して羨ましくはないが。
「それじゃあオレはここで待ってるから。早く─────」
「えっ、ちょっと!?なんでそうなるの!?」
女子更衣室の前に着き、ドアの前で静止するとリサはグッと腕を掴む力を強める。
「当然だろ。ここは女子専用だ。そんなところに男のオレが入るわけにはいかない」
「今は誰もいないから大丈夫だよっ!!」
「しかしだな…………ほらっ、誰かいるかもしれないだろ?」
「もしここに誰かいるとしたら絶対幽霊じゃん!!」
なるほど。その可能性は考慮してなかった。
万が一そんなのと遭遇でもしたらリサは恐怖のあまり気絶することは免れない。
幼馴染のためにも、オレ自身覚悟を決める必要がありそうだ。
「仕方ない。誰かに見つかった時は弁明頼んだぞ」
「そんなことお安いご用だよ☆」
オレは先陣を切り女子更衣室の明かりを灯す。
ロッカーがずらっと並んでいるのとところどころにパイプ椅子が並ぶだけでなんの変哲もないところだった。
学校の男友達たちはここを "女の園" と称しているが呆気ないもんだ。
体育で使用する男子更衣室と決して大差はない。むしろ同じと言える。
この光景を見たら絶望するのだろうか。
「それで、携帯はあったのか?」
「ちょっと待ってね〜」
オレは壁に体を預け、ロッカーを漁るリサを見る。
「………………ねぇ」
「なんだ?」
「あんまジロジロ見ないでよ………ロッカーの中、結構汚いんだから」
頬を膨らませ、頬を染めながらそう話すリサ。
別にそんなこと気にしないんだけどな。
「そうか。なら部屋を出るから─────」
「わかった!!見てていいから!!お願い
一体オレはどうしたらいいんだ。
リサの考えが読めない言動に小さくため息をつく。
「もう少し整理したらどうだ?」
「雄樹夜にだけは言われたくないな〜」
「むっ」
「私、ダンス部とテニス部兼任してるから物が多くてさ〜」
「筋肉痛にならないのか?」
「別に?だって運動好きだし♪」
「オレには今後一切理解できない感情だ」
幼馴染といえど分かり合えない。
嫌いなことはどう足掻いても嫌いなのだから。
「…………あっ!あったー!」
探し物を天に掲げ、パァッと笑顔になるリサ。
「やれやれ。次からは気をつけるんだぞ」
「ホントごめんね〜。明日喫茶店で何か奢るからさ?許して?」
「その前に新曲の練習だ。ライブも近いからしばらくは遊んでいられないからな」
「雄樹夜も厳しい〜」
「用が済んだのなら早く帰るぞ。学校にも迷惑をかけるわけにもいかないからな」
「そうだね!こんな怖いとこから早くおさらばしよう!」
威勢良く飛び出したはいいものの、またしてもリサはオレの腕にしがみつき、足を振るわせながら校舎を歩く。
全く、見えないものの何が怖いんだか。
学校に存在すると言われている七不思議も、かつて在籍していた生徒たちが考えたもので間違いないだろう。
知らぬ間に階段の段数が増えているだとか、体育館からバスケットボールのドリブル音が聞こえたりだとか、どれも突拍子もない。
しばらくすると、入ってきた前面ガラス張りの扉までたどり着くとそれを開けようとする。
「………………ん?」
しかし、押し扉のはずがどれだけ力を込めようともびくともしない。
試しに引いてみるもののやはり1ミリも動くことはなかった。
「どう、したの?」
恐る恐る、リサはオレの背中から覗く。
「開かない」
「なんで……………?」
「警備員が締めてしまったか、はたまた怪奇現象か」
「後半はない!絶対ない!」
「そうだな」
我ながらあり得ない話をしまったな。
だが、この考えに至った訳がある。
「リサ。学校の七不思議って知ってるか?」
「な、なに!突然!?」
「以前Afterglowのメンバーから訊いた話なんだが……………」
「こんな時にそんな話題出すなんて何考えてるの!?鬼畜なの!?」
もはやキャラ崩壊と言ってもいいほど汚い言葉遣いになるリサ。
どうしてもそう言った考えにはなりたくないようだ。
あくまで可能性の話なんだが、そこまで怖いものなのか。
「すまんすまん。忘れてくれ」
「もぉ、雄樹夜嫌い…………」
「悪かったって。ほらっ、行くぞ」
「行くって、どこに……………?」
「体育館の非常口だ。以前、Afterglowたちが同じ現象に巻き込まれた時、そこから脱出したらしいからな」
「なら早く行こう!もうこんなとこ早く出よう!」
「あぁ」
オレたちは足早に体育館へと向かう。
正面玄関から体育館まではかなりの距離があり、その道中、勝手ながら噂に聞く七不思議を解明していこうと考えた。
リサにこれを言ったら間違いなく叱責されるだろうから、何食わぬ顔で、ごく自然と、そのルートを辿る。
まずは、気がつけば段数が増えていると言われる階段。
ここの段数は12段。
まず数え間違えることなんてないだろう。
心の中でその段数を数えていく。
(10…………11………………12)
階段の踊り場まで辿り着き、数を数え終えたがやはりその数字に狂いはない。
やはりデマだったか。
『13』
突如として放たれたその一言。
オレの声でもなければ、後ろで震えるリサのものでもない。
オレの耳元で囁く聞き覚えのない女性の声。
幻聴が聞こえただけだ、と考えたいところだがオレの耳は完全にその音を拾ってしまった。
「………………」
思わず立ち止まり黙り込む。
それを見かねてリサが心配そうに背後から顔を出す。
「雄樹夜…………?」
「すまん。なんでもない」
学校の七不思議。
本当に実在するのかもしれないな。
***
階段を登ると今度は音楽室に通ずる廊下へと出る。
曰く、無人であるはずのその部屋でピアノの音が聞こえてくるらしい。
俄かに信じがたいが、先程の現象を経験してしまってはあり得なくもないと言う考えに至るのは無理もないだろう。
オレはリサに勘付かれないようにポーカーフェイスを続けている。
「そんなに怯えてしまっては何かあった時対処できないぞ?」
「何かあった時は雄樹夜が守ってよお…………」
いつにも増して弱気なリサを見てどこか新鮮さを感じる。
普段はオレや友希那の世話をしてくれる言わば姉のような存在のはずが、今はその逆。
夜にトイレへ行きたくなった時とかどうしてるんだろうか。
まあ、さして興味はないが。
「あっ、コラっ!そこのキミたち」
「………………っ!!」
「ひゃああ!!」
突如としてオレたちの目の前に、学校に駐在している警備員の姿が映る。
リサの声に当てられ、オレも驚いてしまった。
「いったいそこで何してるんだ?」
「忘れ物をとりに来ただけです。今から帰ります」
「そうかそうか。気をつけて帰るんだよ」
警備員は和かに答える。
「近頃、変な噂が飛び交っていてね…………」
「変な噂?」
「なんでも、この学校に幽霊が出るとかなんとか」
「ひっ……………!」
「はははっ。そう怖がることはないよ。学校に幽霊が出るなんてよく耳にする話じゃないか」
「そ、そうですよねぇ〜」
「詳しいんですね」
「生徒さんたちがよく話してくれるんだよ。ほらっ、私ってあそこら辺をよくうろつくから」
警備員が指差す方向は、ここと対面にある無人の教室が並ぶエリア。
あんなところ巡回する必要もないだろうに、その言葉が妙に引っかかる。
「ところで、そこのキミ」
そう考えていると警備員の視線がオレに向く。
「なんでしょう」
「首に吉川線が出てるけど…………私の見間違いだよね」
「ッ!?」
警備員から視界を外し携帯のカメラを開き首元を見る。
吉川線というのは、縊死や絞殺等により抵抗してできる引っ掻き傷のことでもちろんオレはそんな場面に遭遇したことはない。
100%、警備員の見間違いだろう。
そう思いつつカメラを覗くもオレの首元は一切の傷もなく体にも違和感なんてものはなかった。
「やはり、見間違いだったようで──────」
再度視線を警備員に戻すも、さっきまで目の前にいたその男は忽然と姿を消した。
耳を澄ますも、足音も聞こえてこない。
警備員はこの場にパッと現れ瞬時に姿を消したのだ。
「ちょっと……………ねぇ……………」
さいほどより震えが大きくなるリサ。
「冗談だろ、おいっ……………」
その恐怖は伝染する。
見間違いであって欲しかった。
だが現実として警備員はもういない。
いや、元から存在していたのかすら危うい。
巡回していたというのも、もしかしたら………………。
「─────いやぁあああああ!!!」
「リサ!」
奇声を発しながら、リサはどこかへ走り去る。
大声で呼び止めようとするものの、この状況への恐怖が勝り極限状態へと追い込んだのだ。
その状態に陥ってるのはリサだけじゃない。
「は、はははッ」
オレもまた恐怖のどん底へと叩き落とされてしまった。
今はもう、この不可思議な状況をただ笑うことしかできないのだ。
半ば放心状態のオレの携帯に着信が入る。
『もしもし?雄樹夜』
発信主は友希那。
奴にしてはなかなかにナイスタイミングだ。
「友希那……………幽霊って、実在するんだな……………」
『なに?突然』
「いいや、なんでもない。また帰ったら詳しく話す」
『それはいいけれど、忘れ物をとりに行くだけですごく時間がかかっているのね。どこか寄り道でもしているのかしら?』
「寄り道はしていない。遠回りはさせられているが」
『……………さっきから言ってる意味が全然わからないわ』
「これを正確に伝えられるほどオレは落ち着いてない」
現にオレの心臓は今、バクバクと爆発的に動きすぐにでも破裂してしまいそうな勢いだ。
男としては情けないが、そんなことがどうでもいいほど今はとにかく独りになりたくない。
「急で悪いんだが、今から
『それは構わないけれど…………』
「あとできればこのまま電話は繋いだままでいてくれ。頼む」
『わかったわ。すぐに向かうわね』
「助かる」
その後、一目散に逃げ出したリサを2-A組の教室前で確保し、そのまま体育館から外に出て友希那と合流し帰路についた。
オレは誓う。
もう二度と、夜に一人で学校には行かないと。
そして、幽霊が存在しないなどと発言しないことを。
…………………
…………
「本当にそんなことがあったとでも言うのかしら?」
「あったんだよ!本当に!!」
「オレたちが嘘を言ってるとでも思っているのか?」
学校から帰宅し、家に誰もいないことを理由に今日はリサの家に泊まることになった。
すぐさま今日経験した話を全く信用しない友希那に、リサと二人であれやこれやと説明しているが、奴は眉間に皺を寄せるだけ。
今日に限っては友希那の反応に怒りを覚える。
あんな現象に巻き込まれれば誰だって冷静じゃいられなくなるし、嘘だと思われたのであれば心外でならない。
「別に疑っているわけではないわ。二人の顔を見ればわかるもの」
「もう今年は絶対、ホラー番組は見ないからな」
「私もだよお…………」
「よほど怖かったのね」
もう思い出しただけでも気が滅入る。
これから学校に行くことが億劫になりそうだ。
「何かテレビでもつけるか?このまま無音の空間にいるのは落ち着かん」
「そうだね!何か面白い番組はないかな〜」
リサはテレビのリモコンを押し、電源を起動させる。
最新の大きなテレビには、今オレたちが最もみたくない番組が映し出される。
『ご覧いただけたでしょうか?戸棚の後ろに映る白い影を」
「いやあぁぁぁぁ!!」
「……………………」
この世に神がいるのであれば訴えさせてくれ。アンタ、悪趣味にも程があるよ。
幽霊怖い、マジむり、もう恐ろしい、ほんとやだ………。
夏場にやる幽霊を題材にしたバラエティ番組は絶対見ないようにしてます。
何故って?怖くてトイレに行けないからさ!!
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