Roselia 〜屹立の青薔薇〜   作:山本イツキ

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あこ&燐子、紗夜、リサ姉ときて今回は我らがRoseliaのリーダー友希那さん!

今回は猫好きなキョウダイにとって、最高の物語となります。



第十七曲 楽園

 いつもと何ら変わらない日常。オレたちRoseliaは頂点を目指し日々練習に励んでいる。

 "頂点" と抽象的に口にしているが決して目的もなく演奏をしているわけではない。

 音楽を愛する人たちにも、そうでない人たちにもRoseliaの音楽が最高だと思ってもらえるようなそんな圧倒的な存在でいて欲しい。少なくともオレはそう考えている。

 

 

 「おはよう」

 

 

 練習がオフの日である今日。いつもより遅い時間に目覚めた友希那は目を擦りながら居間へと姿を現した。

 

 

 「()()()()()

 

 「………?」

 

 

 ソファでテレビを見ながらキョウダイに挨拶を交わす。不思議そうに首を傾げる友希那に時計を指差すと時刻はすでに10時を回っていた。

 この世の中10時を越えればお昼だろう、というオレ独自の勝手な認識があるのだが友希那には関係のないことだったな。

 

 

 「また徹夜か?」

 

 「0時には寝たわ」

 

 「ならいい」

 

 

 ここのところライブ続きだったからキチンと体を休めてほしいのだが、そうも言っていられないのだろう。

 

 

 

 「まりなさん伝で対バンの申し込みが殺到しているようだ。リストアップしといたから目を通しておいてくれ」

 

 「わかったわ」

 

 「スケジュールが確定したら場所と時間も抑えておくから、決まったら連絡してくれると助かる」

 

 「いつもありがとう」

 

 「気にするな。Roselia(オマエたち)は頂点を目指して頑張ればいい」

 

 

 休日「オフ」だろうとオレたちの頭にあるのは音楽のことばかり。まあ好きでやってるから苦痛だと感じたことは決してないんだけどな。

 友希那は冷蔵庫の中にしまわれていた朝食を取り出し一人黙々と食べ始める。それと同時に視聴していたテレビ番組が次のコーナーへと移行する。

 

 

 『───はいっ!私は今、地元で有名な猫カフェに来ております!見てくださいこの可愛い子猫ちゃんたちを!!」

 

 

 猫カフェ、猫カフェか………。

 猫好きなオレや友希那からすればまさに楽園と言えるべき場所だな。一挙手一投足全てが可愛らしく見え思わず笑みが溢れる。

 実際に行ったことはないが前々から興味はあった。生憎、近辺に猫カフェがなく、一番近くでも電車で20分ほどはかかる。

 それにこういった動物を擁するカフェというのはメインターゲット層は若い女性。男一人で行くにはどうにも周囲の目が気になるところだ。

 リサは部活で忙しいし、あこや燐子はゲームをすると言っていたし、紗夜は犬派だと言うし、誘う相手がいなければ行く気にはなれないな。

 オレの交友関係の狭さのせいでもあるが、親しくもなく、話すことがない人といるだけで息苦しく感じてしまうからな。

 

 

 「友希那。言い忘れてたんだが………」

 

 

 パッと後ろを振り返ると友希那は箸で掴んでいたレタスをポトリと皿に落とし、頬をほんのりと紅く染め、何かに魅了されるような表情でテレビに釘付けになっていた。

 

 

 「友希那?」

 

 

 オレがそう問いかけると、現実に引き戻されるかのようにいつもの小難しい顔に戻りこちらへ視線が向く。

 

 

 「な、何かしら?」

 

 「いや、すまん。忘れてくれ」

 

 「そう」

 

 

 あんな破顔した友希那を久しぶりに見たことにより、何を伝えるのか忘れてしまった。奴がそうなった原因はテレビに映る猫たちによるものなのは言うまでもない。

 義妹はオレ以上の猫好き。過去に、野良猫を拾ってきては家で飼うと泣きじゃくったことがあるほどだ。

 …………待てよ。ちょうどそこにうってつけの人物がいるじゃないか。

 猫好きで、オレと親しくて、一緒にいても息苦しくならない人。

 

 

 「友希那」

 

 「なに?」

 

 「今日暇だろ」

 

 「ええ、まあ」

 

 「よかったらでいいんだが、一緒に────」

 

 「行くわ」

 

 

 機先を制するように放たれた友希那の言葉。

 その力強さと真剣な眼差しから、断る理由もないといった感じだ。

 

 

 「それじゃあ10時に家を出るからその予定で」

 

 「わかったわ」

 

 

 音楽以外にはさして興味を抱くことのない友希那だが、こと猫において話は別だ。

 オレ自身、ここまで過敏になるとは思いもしなかったがこちらとしては好都合。

 ライブのMCもリサやあこたちに任せきりだから、もう少し見聞を広めてほしいというのは義兄の勝手な願いではあるが………一つでも話題を持てるのはいいことだろう。

 

 口数が少なくもう少し会話をした方がいいと注意されてるのはオレも同じだからな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 猫カフェに行く道中、オレたちの間に特に会話はないが、これが湊キョウダイの普通であって決して仲が悪いわけではない。

 買い物だって二人で行くし、食事中も会話はする。ただ、両者共に口数が極端に少ないだけである。

 しかし、店に入れば関係ない。

 

 

 「友希那みろ!あそこに、あんなところにも………!」

 

 「なんて………!可愛らしいの………!」

 

 

 入店してすぐに見える光景。

 無数の猫たちがごく普通に過ごしているだけだというのにオレたちの目には全ての行動が愛おしく感じられる。全く末恐ろしい。

 普段の生活では5割がバンド、4割がバイトで残りの1割というのがオレの脳内を占めているのだが、この店に来てからは10割、100%が猫で埋め尽くされてしまった。

 友希那もまた同様に、普段のクールな表情からは想像がつかないほど惚気ている様子だ。

 手を洗い、清潔にしてからいよいよ猫たちと対面する。

 

 

 「さて、どれから堪能してやるかな」

 

 

 周囲を見渡しオレ好みの猫を探す。

 基本的には猫全般が好きなのだが、個人的にはマンチカンのような小さい猫が好みである。

 

 

 「………おっ?」

 

 

 キャットタワーの頂点に居座る小さい毛玉。

 しかもこちらをジッと見つめており、どこか『こっちへ来い』と言わんばかりの迫力を感じゆっくりと歩み寄る。

 

 

 「……………」

 

 「……………」

 

 

 互いに見つめ合うが会話はない。まあ当然か。正直、こういった場所は不慣れだからどうしていいかわからないのが本音だ。

 困った困った………。

 

 

 「お客様!」

 

 

 そんなオレに女神の救済かのように店員さんが話しかけてくれた。

 

 

 「この子は "メイちゃん" って言ってすごく人懐っこい女の子なんですよお〜!」

 

 「なるほど。人懐っこい、か」

 

 

 再度目を合わせてみる。

 しかし、あちらからこっちにアクションを仕掛けることはなく、再び互いの視線がぶつかり合い膠着状態へと陥る。

 人との付き合いにおいてもオレから話しかけることは決してないのだが、猫に対しても同じだったようだ。

 このまま抱きかかえるのも手段の一つだろうが、それが気に食わず逃げられでもしたらオレはきっと立ち直れない。傷つくのがとにかく怖い。万が一そんな状況にでもなれば二度とこの楽園に近づくことはないだろう。

 

 オレとメイちゃんの様子を見て店員さんはポケットからおやつを取り出しオレに手渡した。

 

 

 「メイちゃんが大好きなおやつです。よかったらお使いください!」

 

 「すみません。何から何まで」

 

 「いえいえ!これが仕事ですから」

 

 

 今はただこの人に感謝しかない。

 ジッとオレを見つめるメイちゃんにおやつをそっと口元へ運ぶと、視線をそれに映しニオイを確認するとぱくぱくと食べ始めた。

 もうその様子を見ているだけで満足、眼福だ。口をペロリと舐め取り、メイちゃんはスッと立ち上がるとオレに飛び掛かるように大ジャンプしそれを受け止めた。

 

 

 「おっとと」

 

 

 話には聞いていたがここまでの跳躍を見せるとは驚きだ。しなやかで力強い。

 全身がバネという言葉を体現しているようだった。

 

 

 「あらいいですね〜♪」

 

 「結構あったかいんですね」

 

 「猫の体温はだいたい38℃と言われてますので」

 

 「なるほど。通りで」

 

 

 メイちゃんから伝わるほのかな温もりは冬場だと重宝しそうだな。最も、カイロや毛布とは違って生きているから拒まれる可能性もあるのが難点か。

 好きなもの(ネコ)から拒絶されればオレは人間不信、いや、猫不信に陥るのは間違いない。

 嫌われられず、かつ適度な触れ合いを。

 それができれば十分満足だ。

 

 

 「そういえば、猫カフェって抱っこをするのはNGだって聞いたことがあるんですが………」

 

 「メイちゃんから抱っこをせがんできたようなので大丈夫です♪」

 

 

 店員さんがOKと言うのであれば問題ないか。他の客には悪いがオレはこのモフモフを存分に味わうとしよう。

 

 

 「そういえば、友希那はどうしてるんだ………?」

 

 

 辺りを見渡してみるが義妹の姿は見当たらない。今オレの目に映っているのは、猫と戯れる他の客とブラッシングをしたりして手入れをしている店員、そして────大の字で横たわる何者かに群がる猫の光景だった。

 

 

 「おい」

 

 

 その人物に声をかける。

 

 

 「何かしら?」

 

 「ズルイぞ。一体どんな魔法を使った?」

 

 

 羨ましい気持ちと妬む気持ちが入り混じる。そして我ながら魔法とは、非現実的な言葉だ。

 だが、そう考えない限り仏頂面の友希那の元へは猫たちは集わない。

 普段から登下校の時に猫と戯れているから扱いに慣れているからか?

 

 

 「魔法なんて使ってないわ」

 

 「じゃあ何をしたっていうんだ」

 

 「簡単なことよ。コレを使ったの」

 

 

 奴の手に握られていたのは、猫じゃらしに猫用のおやつ。なるほど、通りで猫たちが寄ってくるわけだ。

 

 

 「お前、()()()()()?」

 

 

 猫カフェでは金を払うことによって多数のサービスが受けられる。友希那が手にしているものたちがいい例だ。猫が中々近寄ってくれない客たちのために販売してる、言わばドーピング剤。『ライブブースト』ならぬ『キャットブースト』といったところか。

 そこまでして猫たちに好かれたいとは、友希那。超本気なんだな。

 

 

 「言いがかりはよして頂戴。これは可愛らしいこの子達への、ほんのささやかな()()よ!」

 

 「何が奉仕だ。誠実な振る舞いみたいな感じで言うんじゃねえ」

 

 「猫に好かれるためなら、私はどんなことだってするわ」

 

 「犯罪者かお前は」

 

 「………あら?その子も可愛らしいわね」

 

 「メイちゃんは誰にも渡さんぞ……!」

 

 「今にみてなさい。この魔法のアイテム(ねこじゃらし)で誘惑してみせるわ」

 

 「や、やめろ………!」

 

 

 悪戯な笑みを浮かべメイちゃんを惑わす友希那。それを見させまいと体を反転したが、もう手遅れ。それを見た瞬間、メイちゃんはオレの腕の中から飛び出し友希那の元へ駆け寄った。

 新しい遊び相手を見つけたメイちゃんは他に群がる猫たち同様、奴のキャットブーストにより洗脳されてしまったのだ。

 

 友希那………いや、猫を拐かす魔女め………!

 

 

 許さん………この恨み、晴らさずして帰れるものか………!!

 

 

 「店員さん」

 

 

 オレはすぐさまメイちゃんとの仲を取り持ってくれた店員さんを呼ぶ。

 

 

 「はい、なんでしょうか?」

 

 「この店で一番高い猫用ご飯をください。そして願わくば………あの義妹よりたくさん猫が寄ってくるようなものも用意していただければ助かります」

 

 「わ、わかりました!至急用意します!」

 

 

 店員さんは慌てるようにオレの注文したものを取りに裏口へと向かう。

 課金する相手に対し、こちらが無課金で挑む必要はない。そっちがその気なら、こちらだって手段を選ぶ必要はない。

 それに軍資金はバイトをしているこちらの方が上。奴の財政などたかが知れてる。

 

 残念だったな友希那。

 お前はオレを怒らせた。

 

 奪われたメイちゃんのためならば、オレは鬼にでも悪魔にでもなってやろう。

 やるならば徹底的に。それがオレの流儀だからな。

 

 

 「ふふっ。あなたも堕ちたものね」

 

 「なんとでも言え。絶対吠え面かかせてやる!」

 

 「望むところよ!」

 

 

 病的猫愛者たちの、なんともみっともない視線がぶつかり合う。

 その後、課金アイテムを手にしたオレは友希那との壮絶な猫たちへのラブコールを行い続けたが、『他のお客様のご迷惑になるので………』という店員さんからの一言によって終戦を迎えた。

 




猫カフェ、行ってみたいんだけど、行ってくれそうな友達やキョウダイが私にはいないの………

はあ…………
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