私は先日、友人の結婚式に参加させていただき、『ああ、羨ましいなぁ………』と嘆いていました笑
趣味は睡眠。家事育児全くできない男が私でございます!!
「我々は、スポーツマンシップに乗っ取り!正々堂々戦うことを誓います!」
ごくごく普通の選手宣誓を告げ、羽丘学園の体育祭が開催された。空は生憎の晴天で、これから中止になることは決してないと感じるほどの快晴だ。できることなら雨で中止になってもらってもよかったんだが………
「頑張ろうね、雄樹夜!」
クラスメイトであり、Roseliaのベーシストであるリサが気合十分といった表情でこちらを覗く。
「あまり気乗りしないんだが……」
「まあ雄樹夜って身体能力は高いのに運動神経はあまりないからね〜」
「この身体が運動を拒むんもんでな」
実際オレは1学期初めに行う体力測定においては、全国の高校生に比べ平均数値を上回っている。ただ、リサの言った通り運動神経は皆無に等しい。
バスケではシュートが一向に入らないし、野球でも空振り三振をすることがほとんどだ。典型的な運動音痴、といったところか。それに加え体も脆い。少しでも体を動かせば足や腕が攣ることが多く、夜はその痛みでベッドにうずくまっている。
「雄樹夜ってなんの種目に出るんだっけ?」
「100メートル走だ」
「あはは〜、そうだったそうだった☆」
幸い、今回は体に負担のかからない種目に出場することが決まっていた。昨年は運動できる奴がほとんどいなくてオレがリレー種目に出ていたりもしたが、今年は熱血系が集まったおかげか注目が集まることは決してなかった。
まあそれでも走ることに変わりはないのだが、文句ばかり言ってられない。
「盛り上がっているところ、ごめんなさい」
オレとリサで話していると、後ろから友希那に声をかけられた。クラス対抗のため、友希那とは今だけ敵対関係にある。
「おお。友希那」
「一緒に頑張ろうね〜!」
「ええ」
「友希那は確か、借り物競走だったか?リサと同じだな」
「運動はあまり得意ではないもの。私にピッタリだと思うわ」
「違いない」
体育祭の競技は文字通り体を動かすものがほとんどだ。短距離走、リレー、騎馬戦といったハードなものもある。
唯一楽な競技である借り物競走は友希那にうってつけと言える。
「そういえばなんでリサは借り物競走に出ることにしたんだ?」
「だって面白そうじゃん♪」
「そうなのか」
元々女子校だったこの学校は共学になって日が浅い。だからなのかは分からないが学校内恋愛について疎いところがある。一部では恋愛禁止なんて校則もあると聞くが、羽丘にそのような項目はない。基本自由だ。
実際、他のクラスメイト同士で付き合ってるやつがいる。そいつは去年の体育祭で友希那たちと同じ借り物競争に出て『好きな人』というお題を引き、連れてきた女子生徒と愛でたく恋人関係になったのだ。
なんともロマンチックではあるがそれで玉砕してしまっては卒業まで笑い物になるのが目に見えている。よほど神経が図太くなければ無理だ。少なくとも、オレにそんな度胸はない。
「結構人気があるんだよ?借り物競走って」
「まあ、楽だからな」
「そうじゃなくて〜………」
困ったような表情で頬を描くリサ。
「お題とか、『〇〇な人』とかが多くて、色んな人との絡みがあるから、実行委員の子も張り切って考えたっていってたからね〜」
なるほど、人見知りなオレには向かない競技なのは確かなようだ。
「雄樹夜こそ大丈夫なのかしら?100mも走れるの?」
「バカにするな。流石にその距離はいける」
「また足が攣って動けなくなっても知らないわよ」
「薄情な奴だな。少しは労ってくれよ」
「その競技に出たあなたが悪いわ」
「酷いな、おいっ」
敵になるだけでここまで変わってしまうものなのか。キョウダイとして少し悲しくなる。
「リサ。クラスを代表して友希那に必ず勝ってくれ。頼んだぞ」
グッと拳を握りリサにエールを送る。
「といってもアタシとは別の組だから直接戦うことはないんだよね〜。あははっ………」
「勝ち負けにこだわりはないのだけれど、お互い怪我のないように頑張りましょう」
友希那はそう言い残しこの場を後にする。
「ところで、リサはなんで借り物競争に出ようとしたんだ?」
「別にそれだけじゃないでしょ?リレーにも出るし、長距離走にも出るし」
運動部を掛け持ちしてるリサはさすがというべきか、他のクラスメイトとは比較にならないほどの運動能力を有している。熱血系男子が集ううちのクラスでは引っ張りだこの存在だ。
多くの種目に出場する代わりにと交換条件として、借り物競走に立候補するあたり交渉も上手い。そこまでして出たい理由を聞いてみたが、本人からは『秘密♪』とだけ伝えられている。
「再三言うが、ケガにだけは気をつけてくれ」
「雄樹夜もね〜♪」
『100m走に出場する選手は入場門に集まってください』という放送が入りオレはそこへ向かう。ただ走るだけというのであればオレの運動音痴はマイナス要素になり得ない。
足手纏いになるのも嫌だから本気で走るとするか。
◆◆◆
私が借り物競走に参加した理由はただ一つ。
走らなくていいから。それだけよ。
近頃は雄樹夜の勧めでジョギング程度はするようになったけれど、それも新しい曲へのインスピレーションを得るためだけのもの。
「それにしても………」
周りの生徒たちを見るとどこかクラスの中でも中心に位置する人たちばかり。その理由はおおよそ見当がつく。
私がこの競技に出場できたのは幸運だったのかもしれないわね。
「あれー?湊さんじゃないですか〜」
どこかのんびりとした口調でAfterglowの青葉さんが声をかけてきた。
「あなたもこの競技に?」
「そうですよ〜。ちなみに、蘭とひーちゃんも参加しまーす」
「お互い頑張りましょう」
「そうですねー。それはさておき、さっきのおにーさんの走り、すごかったですね〜!」
「ええ。私も驚いたわ」
運動が苦手だったはずの雄樹夜だったけれど、驚くほどの速さで一位でゴール。今後のために必ず本気で走らないと思っていたからこそ余計に驚いた。
「それを言うなら彼だって………」
「あーくんもなかなかでしょ〜♪」
どこか自分のことのように笑みを浮かべる青葉さん。彼女が "あーくん" とあだ名する美竹 葵君は私でも知っている有名人。
Afterglowのギターボーカル、美竹さんの双子の弟さんで学年問わずの人気者であり、人当たりも良い印象がある。
裏表のない真っ直ぐな人柄は、人見知りな雄樹夜にも見習って欲しいところね。
二人でそう話しているうちに私の出番が訪れた。青葉さんは笑顔でヒラヒラと手を振り別れを告げると、私はスタートラインに立つ。
「位置について。よ〜〜い───」
パンッ!
スターターピストルの音が響き渡り、私はお題の紙が書かれた机まで直走る。足の遅さはこの競技に関しては問題ない。あとは楽なお題を引いていち早くゴールすることが大切ね。
一緒にスタートした5人の中で一番遅くにそこへ辿り着き、紙を開いて実行委員の人に渡す。
他の四人のお題は
・美人だと思う人
・男装したらイケメンそうな人
・怒ったら怖そうな人
・メガネが似合う人
と、難しそうなものとそうでないものが入り混じった感じだった。私は一体どうなるのかしら………。
「第5着、湊さんのお題は………『
元気よくそうアナウンスされ送り出される。
尊敬、尊敬してる人ね………すぐ頭に思い浮かんだのは、お父さん。私に音楽の素晴らしさや楽しさを教えてくれた大切な存在。けれど、今ここにはいないから連れてくることは不可能。
そう考えると、実行委員の人の言ったとおり難しいお題ね。
(誰か、他に………)
辺りを見渡すも交友関係の薄さからかお題に該当する人が見つからない。先にお題を手にした人たちは次々とゴールし、実行委員の人のインタビューを受けていく。
このままだと不戦敗?
それだとクラスメイトに申し訳ないけれど、致し方がない。
(………あっ)
(…………?)
ふっと目が合った私と関わりの深い人物。
絶対音感を持ち、圧倒的な才能をその身に宿したRoseliaの指導係。
尊敬。確かに、雄樹夜はその言葉に該当するはず。私は一目散にきょうだいの元へ駆け寄った。雄樹夜は驚いた様子を見せるも、すぐさまこの状況を理解したような顔をする。
「まさかと思うが、オレだと言うのか?」
「ええ。そうよ」
「わかった。なら、連れて行かれようか」
本来なら敵同士である私たち。けれどそれ以前に、ずっと苦楽を共にした大切な家族である。雄樹夜の手を引きそのままゴールした。
「湊さん、4着でゴールです!それではお聞きしますが、彼のどこを尊敬しているのですか?」
乱れた息を整えその問いに答える。
「音楽に対して一切妥協せず真摯に向き合う姿勢。そして、己の実力をひけらかさずダメなところはダメとハッキリ口にしてくれる。そういうところはすごく尊敬しているわ」
「友希那………」
「Roseliaを陰から支えてくれ本当に感謝しているわ。この場を借りて言わせてもらうけれど、いつもありがとう。これからもよろしく頼むわね」
本来なら決して口にしないであろう感謝の言葉。どうやら私もこの体育祭の熱に当てられてしまって毎上がっているようね。
残る競技はあとわずか。もう私の出番はないけれど、勝つのは私たちよ。
……………
………
100メートル走に200メートルリレー、部活対抗リレーと立て続けに出場して、いよいよ迎えたアタシにとって最後の出場種目。
正直、体は重いし蓄積された疲労は限界に近いけどクラスメイトや部員たちから頼られるのはすごく嬉しい。なんだか、アタシを必要としてくれてる感じがするから。
今のところ、どの競技でも一位を取れてるから借り物競走も一位を目指したいところだね☆
「リサ〜!頑張って〜!」
「おーっ!」
クラスの女の子たちからエールを受け取り腕を大きく突き上げて応える。
(よーし、頑張るぞ〜♪)
鉢巻を締め直し、気合いを入れ直す。
今思えば雄樹夜や友希那、クラスメイトたちにもアタシがこの競技に立候補した理由を言ったことはなかった。誰にも伝えたことはなかったその理由。
それは────
「それでは次の参加者は位置についてください!」
………いけないいけない。競技に集中しなくちゃ。
クラスのみんなが期待の眼差しでアタシを見ている。不思議と緊張はない。
これで勝てばクラスの優勝は確実なものになる。クラスメイトたちの願い、そしてアタシの目的、両方を背負いスタートラインに立つ。
「位置について!よ〜〜い………」
パンッ!
スターターピストルの音が響き、駆け出した。幸いなことに、この競技に参加したのは帰宅部や文化部といった子達ばかりでアタシは独走状態に入り、すぐさまお題の紙が置かれた場所へと辿り着き、その一枚を手に取り中身を確認する。
(…………っ♪)
心の中で小さくガッツポーズし、お題を実行委員の人に渡す。
「ぶっちぎりの一位で到着した今井さん!そのお題は、『
そうアナウンスされた言葉に観客たちはざわめき出す。
特別……すなわち、他と比べて信頼や想いを寄せるという意味。同じ性別の子であればそれが "親友" という言葉に変わり、異性の子であれば "恋慕" という言葉になる。
アタシの行動一つでどちらかになるのは明らか。そのまさかを期待し、観客たちは盛り上がりを見せる。
ついさっきAfterglowのひまりが出した『好きな人』というお題。それに続くとも取れるお題に男子たちは自分のことかと胸が高まっている様子だ。
キミたちには申し訳ないけど、アタシには初めから心に決めた人がいる。
自分には関係ないだろう、とどこか上の空な様子のその人物元へアタシは一目散に駆け寄った。
「雄樹夜」
クラスメイト、そして全校生徒からの視線を一点に受けるアタシと雄樹夜。驚いた様子も、嫌そうな様子も見せず、ただいつも通り、クールな表情で疑問を投げかける。
「特別な人、だったか。何故俺がそれに該当するか教えてくれるか?」
雄樹夜自身、アタシの想いを理解していないのだろう。でも、アタシは知っている。彼が、恋愛関連に疎いということを。
アタシ自身、雄樹夜には表立って好意を寄せるような事を言った覚えはないし、手を繋いだことも、休日に二人だけで出かけたこともない。
家が近所の幼馴染。今井 リサ「アタシ」をその程度にしか思っていなかったんだろう。
間違ってはいない。けれどそれは、雄樹夜の考え。アタシは違う。
カッコよくて、優しくて、落ち着きがあって、献身的で、ちょっとだらしがないところがあって、音楽が大好きな人。挙げればキリがない程の想いを彼に寄せている。
アタシは、雄樹夜に対して芽生えてる気持ちの名前を知っている。
それは────恋愛感情。
アタシは、雄樹夜のことが────
「ねえ、雄樹夜」
「なんだ」
「目、瞑ってくれる?」
アタシのお願いにコクリと頷いて返しそっと瞼を閉じる雄樹夜。そんな彼の頬に手を添え、アタシはそっと互いの唇を合わせた。
数秒、十数秒と沈黙の時間が流れ、ここがアタシたちだけの空間となる。
「………これでわかった?」
小さく笑みを浮かべそう問いかける。
「………ああ」
口下手な雄樹夜らしい答えを受け取り、同じく笑みを溢す彼の手を引きゴールまで走る。
この行事を利用したみたいでみんなには申し訳ない、けれど、こうでもしないとアタシの気持ちは伝わらないと思ったから。
これからは学校のみんながアタシたちカップルの証人。
気軽に手を出そうとしたら、許さないからねっ☆
いかがだったでしょうか?
この想いの伝え方、リサさんらしい真っ直ぐさがあっていいなあと執筆しながら考えてました笑
まだまだ最終回には程遠いからね!?
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