Roselia 〜屹立の青薔薇〜   作:山本イツキ

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お気に入り登録ありがとうございます。

しばらくは連載してみようかと思います。


今は元のイベントストーリーに沿ってオリキャラを組み込んでいますが、ボチボチオリジナルストーリーも展開できたらと思います。


第二曲 仲間

 (そこにいたか、友希那)

 

 

 坂道を下る最中、独り歩く義妹を見つけるが決して声をかけることはない。

 いや、声をかけることすらできないといつまた方が正しいか。

 今更奴に何を話したらいいのかもわからないし、これからライブを行う一人の歌い手の邪魔にだけはなりたくなかった。

 

 それほどオレは友希那に罪悪感を感じているのだ。

 

 結局ライブハウスに入るまでオレたちは近くにいながらも会話することなく散り散りになる。

 友希那はこの1年間ずっと、色んなライブハウスでソロ活動を続けていた。

 それは、個人のレベルアップを測るとともに今年開催される『FUTURE WORLD FES.』に向けてのメンバーを見つけ出すためでもあるからだ。

 しかし友希那の求めるレベルは尋常でなく高い。

 オレも度々足を運んでいるのだが、友希那ほど真剣に取り組んでいる奴はほんの一握りだろう。

 昔はオレたち3人でバンドを組むことを夢見ていたのだが、それはもう過去の話。

 今の友希那にそんなこと、口が裂けても言えるはずがなかった。

 

 

 「友希那は4組目、一番最後(トリ)か」

 

 

 義妹が登場するまで他の演奏を聴く。

 ──────まるで文化祭で仲の良い友達とやるようなクオリティで、音は合わさっていないしリズムもバラバラ。

 素人目からしても全く噛み合っていないように見えた。

 

 その中でも一人、名前は知らないがオレたちと同い同士ぐらいのギターを弾く薄青髪の女は、かなりの高クオリティだと感じる。

 音はしっかりと出てるし、リズムも一定。

 地道にコツコツと練習を積み重ねてきた成果なのだと実感させられる。

 演奏が終わり、颯爽とステージを後にしたその女はどこか不満げな顔をしていた。

 

 確かにうまかった、だが……………。

 

 

 「独りよがりな寂しい音、だったな」

 

 

 今の友希那とどことなく似た、そんな印象を持った。

 

 

 

………………………

 

 

……………

 

 

 

 2組目の演奏も終わり、いよいよ友希那の登場まで間近となっていた。

 それまでオレは一番後ろの壁にもたれ掛かり演奏を聴いていたが、偶然、1組目のギター女が近くを通り過ぎる。

 オレは思わず声をかけた。

 

 

 「なぁアンタ」

 

 

 オレの問いかけに目を合わせたこの女は、鋭い目つきではあったがどこか見覚えのある顔つきをしていた。

 

 「そう、アンタだ。名前、なんて言うんだ?」

 

 「…………氷川紗夜です」

 

 

 氷川────なるほど、そういうことか。

 

 

 「勘違いだったら申し訳ないが、氷川 日菜の姉妹か?」

 

 「……………えぇ。姉にあたります」

 

 「やはりそうか。オレはアイツのクラスメイトの湊 雄樹夜だ」

 

 「湊?もしかしてあの方のご家族か何か?」

 

 

 どうやら友希那とは既に顔見知りらしい。

 奴もあの演奏には一目置いたようだ。

 

 

 「ああ。これから歌う湊 友希那はオレの妹だ。()()だけどな」

 

 「義理?」

 

 「そんなことより、氷川 紗夜。さっきはいい演奏だった。何度かこのライブハウスは来たことがあったんだが、あれほどいい音を奏でるやつは見たことない」

 

 「お褒めに預かり光栄です。先程、あなたの妹さんにも同じことを言われましたが、正直、()()が私の全力だと思われるのは心外ですね」

 

 「そうか?ミスらしいミスはなかったと思うが」

 

 「他のメンバーの演奏もご覧になりましたよね?」

 

 「ああ。アンタとは比べ物にならないものだったな」

 

 「あの人たちに合わせてやってきましたが、先ほどのライブの後に脱退させられました。まあ、あんな演奏をするグループは私自身居たくありませんのでちょうどよかったです」

 

 

 やはり、この女は友希那と同じ考えの持ち主らしい。

 生真面目でストイック。

 この女なら友希那とだって釣り合うのかもしれない。

 

 

 「なあ。もしよかったら義妹とバンドを組んでやってくれないか?」

 

 「先程、あなたと同じ提案をされました。しかし一度聴いたところで何もわかりませんし、所詮口先だけだったという可能性もあります。私はもう、お遊びで演奏しているようなグループに所属する気はありません」

 

 

 この女の言ってることはもっともだ。

 真剣に音楽に取り組んでいるのであればそう考えるのは必然。

 だが、奴の言葉には引っかかる部分があった。

 

 

 「口先だけかどうかは、一度聴いたらわかる。アイツは──────そんなタマじゃない」

 

 「そんなこと言ったって───────」

 

 

 わあああああああ!!

 

 

 友希那の登場と共に会場が一斉に湧き上がり、薄紫のサイリウムが光り輝く。

 会場の空気すら塗り替える圧倒的な存在感。

 それを、隣で呆然見ている氷川紗夜も感じ取っていることだろう。

 

 

 「〜〜〜♪」

 

 

 やはり歌の上手さは言うまでもない。

 それにただ突っ立ってるわけでもなく、体の動きで抑揚もつけ、サビではグッと勢いを増して音を乗せている。

 もはやその技術は高校生の域を超えている。

 

 

 「どうだ?アイツの歌声は」

 

 

 驚きっぱなしの氷川 紗夜に声をかけてみる。

 

 

 「……………正直驚きました。あれだけ豪語できる理由がよくわかりました」

 

 「そうか。なら、これからよろしく頼む」

 

 

 氷川 紗夜にそう言い残し、会場を後にする。

 そう、オレがここへきたのは友希那の歌声を聴きに来ただけではない。

 すぐに受付へと向かい、名を名乗る。

 

 

 「今日バイトの面接を受けにきた湊 雄樹夜です。月島 まりなさんはいらっしゃいますか?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 オレはこの一年、ただのんびり過ごしていたわけではない。

 こう見えて、友希那のライブは毎回観に行ってるし、それぞれのライブハウスの良し悪しもチェックしてあった。

 その中でも特にいい印象を受けたこのライブハウス『CIRCLE』で友希那のライブのサポートをしたい。

 そんな不純な動機でここに来たのだ。

 

 受付の人に話を通し、面接官が待つスタッフルームへと案内される。

 

 

 「あっ!いらっしゃい、待ってたよ!」

 

 

 朗らかな雰囲気をかもちだす女性が小さく手を振り、オレを迎え入れてくれた。

 

 

 「面接に来ました。湊雄樹夜です」

 

 「湊くんね。私は月島まりなです!あっ、適当に座ってくれて構わないよ」

 

 

 月島さんの言葉に従い、近くにあった白椅子に腰掛ける。

 

 

 「えーっと、湊雄樹夜くん。高校2年生、演奏経験はありで………………えっ!もしかして友希那ちゃんのお兄さん!?」

 

 「ええ、まあ」

 

 「やっぱり!でも、どうしてスタッフのバイトをやろうと思ったの?友希那ちゃんのお兄さんなら、ステージに上がって演奏とかするんだと勝手に想像しちゃうんだけど」

 

 

 月島さんの考えはもっともだ。

 アレほどの歌声を持つ義妹が家族にいるのだから歌ったり、楽器を奏でたりするのが普通だろう。

 だが、オレにはそれをする()()()()()

 オレは、音楽を捨てたんだ。

 

 

 「すみません、あまり詳しく話すと長くなってしまうのですが…………」

 

 「ああ、話したくないなら大丈夫だよ!」

 

 「助かります」

 

 「正直、男性スタッフがいなかったから私としてもいてくれたらすごくありがたいの。セッティングとかもできるだろうし、よかったらここでバイトしてみる気はないかな?」

 

 「え?面接とかは…………」

 

 「そんなもの型式だけだよ。オーナーからも既に採用していいって言われてるから!」

 

 

 なんて緩い職場なんだ。

 事前に送った書類審査だけで通るなんて、大丈夫なのだろうか。

 そんな不安に駆られる。

 

 

 「それで、月島さん」

 

 「まりなでいいよ♪」

 

 「じゃあまりなさん。オレの方こそ、宜しくお願いします」

 

 「うんっ!よろしく!」

 

 

 なんの苦労もなくオレは『CiRCLE』のバイトとして働くことになった。

 人付き合いが苦手な身としてはコミュニケーションが最大の難関だろうが、そこはリサにでも教わろう。

 バイトをすること自体まだ誰にも話していないわけだしな。

 

 

 「シフトの調整があるから、空いてる日があったら教えてね」

 

 「わかりました」

 

 「とりあえず今日は終わり!これから宜しくね!」

 

 「はい。失礼します」

 

 

 まりなさんに頭を下げスタッフルームを後にする。

 ロビーに出ると、ライブが終わった影響かすごい人だかりができていた。

 その会話に聞き耳を立てると、どれも友希那の歌声に関する話ばかりだ。

 凄かっただとか、あんなふうになりたいだとか。

 これだけ褒め称えられると、オレも誇らしく思う。

 しかし、オレがあの歌姫の義兄だと知ったらここにいる人たちはどんな反応をするのだろうか。

 第一、誰も信じようとすらしないと思うがな。

 

 

 (この流れに乗じて友希那にバレないように帰るか)

 

 

 そう心で呟いた瞬間だった。

 

 

 「あれ?雄樹夜じゃん!」

 

 

 背後から嬉しそうに声をかけてきたリサは、どうやら友希那のライブを観に来ていたらしい。

 

 

 「よお。奇遇だな」

 

 「用事ってまさかこのことだったの〜?もう、それだったら一緒に観たかったのになぁ」

 

 「それもあるが、もう一つあったんだ」

 

 「もう一つって?」

 

 「ここのバイトの面接だ。とりあえず合格することはできた」

 

 「やったじゃん!おめでとう!」

 

 

 まるで自分のことのように喜ぶリサ。

 本当にこの幼馴染は人が良すぎるな。

 

 

 「この後予定はあるのか?」

 

 「ん?特にないけど」

 

 「せっかくだしどこか食べに行かないか?もちろんオレが奢る」

 

 「えっ!いいの!?」

 

 「ああ。そのかわり、接客についていろいろ聞かせてくれ」

 

 「そんなのお安い御用だよ〜☆」

 

 

 オレたちはCiRCLEを出てファミレスへと向かう。

 辺りはすっかり暗くなっていて、先ほどの観客たちと距離を取れば人の話し声すら聞こえない静かな道になりそこを二人で歩く。

 この辺りは冬だとイルミネーションで飾り付けされ綺麗なのだが、今は暖かさが戻った春。

 満開の桜も日の光がなければその美しさは影に潜む。

 しかし、この暗闇の中だからこそリサの明るさが際立って見えるのはオレだけなのだろうか。

 

 

 「それにしても、雄樹夜と同じクラスなのは驚いたな〜」

 

 「そうだな。仲のいい生徒同士って案外同じクラスになりにくいっていうジンクスがあるからな」

 

 「そうそう!その証拠に、友希那と雄樹夜って同じクラスになったことってなかったよね?」

 

 「友達、ではないが "兄妹" ってのは絶対同じクラスにならないらしいな。幼稚園から高校まで、2クラスしかなかった時だって一緒になることはなかった。だからオレはクラスでのアイツの様子を知らない」

 

 「ははーん、さては寂しいのかな?」

 

 「バカ言え」

 

 

 悪戯に笑うリサの額にデコピンする。

 照れ隠し、なんて気持ちではない。

 少し調子に乗っていたからお灸を据えるためにやったまでだ。

 

 

 「もぉ〜、乙女に対して乱暴するなんてひど〜い!」

 

 「"暴力" じゃない "制裁" だ。あまり人を揶揄うんじゃない」

 

 「だって、雄樹夜っていつも表情を変えないからさ〜」

 

 「そんなことないぞ。小指をタンスの角にぶつければ痛がるし、欠伸をすれば顔も崩れる」

 

 「その瞬間に立ち会えないから悲しいんだよねぇ」

 

 「そのうち見れるだろ、多分」

 

 

 オレたちは隣の家に住む幼馴染。

 部屋の窓越しからなら、互いの部屋の様子がわかるからそう言ったのだが、カーテンを閉めればわかるはずもない。

 それに万がいち─────いや、あまり変な想像をするのはよそう。

 

 あまりそういうのには興味がないが、相手は女子高生。

 不快な思いをさせるわけにはいかん。

 

 そうこう話していると、すぐにファミレスへと辿り着いた。

 夕食時ということもあって、席はかなり埋まっている。

 家族連れに会社帰りのサラリーマン。

 さすがはファミリーレストランだな、いろんな客層を抑えてある。

 

 店員に案内された席へと座りメニューを開く。

 

 

 「リサ、遠慮する必要はないから好きなものを注文するといい」

 

 「えぇ〜?そんなこと言われたら余計迷うじゃん〜」

 

 

 悩みに悩み抜いた末に、リサは一番人気の『ハンバーグプレート&デザート付き』なるものを、オレは『パンケーキ&ブラックコーヒー』を注文した。

 

 

 「雄樹夜って見かけによらず甘いもの好きだよねぇ。しかも少食だし」

 

 「ああ。コーヒーも砂糖とミルクがなければ飲めないからな。それに、たいして体を動かしてるわけでもないから腹も空かん」

 

 「ホントっ、クールなとこといい、食べ物の好みといい、二人ってほんと似てるよね〜」

 

 「血はつながってないのに、不思議なものだ」

 

 

 自虐として言っているが、この事についてオレも友希那も全くと言っていいほど気にしてなんかいない。

 

 

 「知ってる?雄樹夜って女子から結構人気あるんだよ?『カッコいい!』って」

 

 「そうか、それは初耳だな。ちなみにだが、リサも男子の間ではかなり人気があるんだぞ」

 

 「ええっ!?なんでなんで?」

 

 「社交的な性格に加えて運動も勉強もできる。嫌いになる男の方がどうかしてる」

 

 「や、やだなー。そんなに褒めないでよ〜」

 

 「…………まあ、変な男に騙されない事だ」

 

 

 照れるリサに釘を刺す。

 

 

 「でも、もしもの時は雄樹夜が守ってよね♪」

 

 「言っておくがオレは非力だぞ?」

 

 「もう、こういう時は『命に変えても守ってやる』とか言わないとー!」

 

 「……………そうなのか。善処はするが」

 

 

 これが今の高校生の普通なのだろうか。

 そんな臭いセリフ、よく言えたものだ。

 

 しばらくするとオレたちが注文したメニューが全て届き、手を合わせそれを食べる。

 

 

 「んん!美味し〜♪」

 

 

 満面の笑みで頬に手を当て、美味そうにハンバーグを頬張るリサ。

 ここまで喜んで食ってくれるなら店員も本望だろう。

 

 

 「そう言えば、友希那が一人バンドメンバーに誘ったらしいぞ」

 

 「えっ!誰誰!?」

 

 「氷川紗夜。日菜の姉だ」

 

 「ああー!いつもヒナの話に出てくる子だよね?」

 

 「演奏を聴いたが、友希那が声をかけるだけのことはある。アレなら友希那とだってやっていけるだろう」

 

 「そっかー、ついに友希那にも仲間ができたんだ〜」

 

 「感慨深い思いだな」

 

 「友希那、大丈夫かな?アタシたちとしか話してるとこ見ないから、ちゃんとコミュニケーション取れるのかな?」

 

 「"音楽" という共通の話題があるから大丈夫だと思うぞ。それに、そんなに気になるならメンバーに入れてもらったらどうだ?」

 

 「…………………」

 

 

 オレのその提案にリサはコロッと表情を変え、重苦しいものとなった。

 いくらなんでも、突拍子もなさすぎたか。

 

 

 「すまん。忘れてくれ」

 

 「ううん。そうじゃなくてね……………」

 

 

 何が言いたそうに口をモゴモゴとするリサ。

 

 

 「その…………雄樹夜は、最近友希那と話してるのかなって思って」

 

 「さあな。オレも友希那も自分から話に行くようなタイプではないからな」

 

 「アタシは二人と話すからわかることなんだけどさ、二人とも、アタシに対してはお互いのことをよく話すんだよ?」

 

 「そうなのか」

 

 

 あの友希那がオレのことを…………?

 一体何を話すというのか。

 

 

 「雄樹夜は耳がいいから音の違いに気づいてくれるとか、才能があるのに勿体無いとか…………友希那は雄樹夜の事をずっと褒めるんだよ」

 

 「アイツがそんなことを……………」

 

 「なのになんで互いに話したりしないのかなって思って。喧嘩をしてるわけでもないのにさ………………」

 

 「まあ、機会があれば話してみる。今はアイツの音楽活動を陰ながら応援するつもりだ」

 

 「そっか。雄樹夜がそうするならもうアタシから言えることはないかな☆」

 

 「ああ。リサも友希那のことを支えてやってくれ」

 

 「うん!もちろんだよ!」

 

 

 友希那との会話。

 今のオレには少しハードルが高すぎる課題だな。




近いほど距離を遠く感じる。

雄樹夜さんは今まさにそんな感じなのでしょうか。

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