そろそろ薫、日菜、麻弥さん辺りも登場させたいところ………
「えぇ〜!?リサ姉、雄樹夜さんに告白したの!?」
「………っ!」
「そう………なんですか………?」
「ま、まあそう捉えられても仕方ないよね〜……あははっ」
バンド練の休憩時間。
昨日の出来事を姉の巴づてで訊いたであろうあこが、リサにそう詰め寄った。リサは頬を掻き照れながらほんのりと赤面する。
「それでそれで、雄樹夜さんはなんて返したんですか!?」
キラキラとした純真無垢な瞳がオレに飛ぶ。
傍観するつもりでいたが、あこだけでなくRoseliaのメンバー全員から視線を向けられたんじゃあ逃げようがない。
「返したも何も、リサからキ………」
「わあー!!ダメダメ!!」
真実を告げようとするも、動揺した様子のリサがオレの口を手で無理矢理塞ぐ。自分からあんな事をしておいて、何を恥ずかしがることがあるのやら。
「本当のことだろ?」
「そうだけど……そうだけどさ〜………!」
「仕方ない。友希那、オレの代わりに言ってやってくれ」
このままでは埒があかないと判断し、友希那にバトンを託したのだが、『私には関係ないわ』と言わんばかりに、ぷいっと視線を横にそらした。
おい、なんだその反応は?
まさか、オレを見捨てる気じゃないだろうな?
「………あこ。そんなに知りたいのか?」
「うん!!知りたい!!」
「ちょっ!雄樹夜!?」
リサの静止を振り切ってあこに告げる。
「あこ、この世には "言わぬが花" ということわざがある。リサの気持ちを少しは察してやってくれ」
「それから………"知らぬが花" ということわざも………ありますね………」
「"聞くは気の毒、見るは目の毒" っていうのもあるよね?たしか」
「意味は変わってくるが、どれも知らなければ良いこともあるという解釈で間違いないな」
「わーん!みんなが難しいことばっかり言って教えてくれないよ〜!」
オレたちの対応にあこは、わんわんと大声で泣き出した。まだ中学生の彼女に大人気ない事をしたのは反省しているが、これもリサとあこのため。
それに学校に行けば、事の真相を耳にすることができる。早いか遅いか。その違いだけだ。
「ともかく、『恋愛にうつつを抜かしてバンド練に集中できない』なんてことにならないよう気をつける。それでいいな?リサ」
「もっちろん♪」
リサも大切だが、Roseliaが最高のバンドへと成長させることが第一優先。それに変わりはない。
「湊さん、本当にいいんですか?」
「ええ。メンバーのプライベートにまで口出しする気はないわ」
「しかし………」
「私自身、二人の相性は良いと思ってる。リサなら、ダメな雄樹夜を任せられるから」
「おいっ、誰がダメだって?」
音楽以外ポンコツな義妹に一番言われたくない言葉だ。
「料理、洗濯、掃除────全ての家事をできるというのかしら?」
「安心しろ。お前よりはできる」
「みくびられたものね。私があなたより劣っているというのかしら?」
「調理実習でフライパンを焦がした奴に比べれば100倍マシだ」
「昔、洗剤を入れすぎて洗濯機を壊しかけたのはどこの誰かしら?」
「なんだと」
「なによ」
この時「どんぐりの背比べだなあ」と他の四人全員が胸の内でつぶやいた。
しかし、Roseliaを結成してからというものの、友希那と会話する機会がすごく増えた。音楽に関してはもちろんのこと、学校、私生活、そのジャンルは様々で先ほどのような小さいいざこざも時たま起こる。
殆ど口を開くこともなかった中学の頃に比べればオレたちもキョウダイらしくなっていると言っていいのだろうか?
オレたちには血のつながりはない。
だがそれ以上に、互いに信頼しあい、隠し事をしないキョウダイになったのだ。
「こんなことで腹を立てるなんて、心配だわ」
「言ってろ」
思ったことを全て口にしてしまうのも、キョウダイとして信頼しているからなのだろうか………。
「みなさん、いつまで休憩しているのですか?もう本番も近いですから、早く練習を再開しますよ」
「ええ。ごめんなさい」
「はーい!」
「頑張ろうね!りんりん!」
「う、うん………!」
やや強引に話を終わらせ、それぞれの楽器を手に取るRoselia。
友希那に代わり、生真面目な紗夜が空気を締める。よくある光景ではあるが、奴の表情はいつになく険しく感じて────
(…………)
日菜絡みか、或いは別の理由か。
どちらにせよ、疑惑がある以上放っておくことはできない。
「紗夜」
チューニングを始める彼女に声をかける。
「練習終わり、時間あるか?」
「え、ええ。まあ………」
「少し話があるからこのまま残ってくれ」
「………わかりました」
淡々としたいつもの様子とは違い、目線を逸らしどこかオレとの接触を嫌がっているような感じがする。
紗夜の様子がおかしいことは明らか。余計なお世話だと言われようが、放っておくわけにはいかない。
以前のように、彼女のかんに触るような言動には気をつけないといけないな。
◆◆◆
練習終わり、メンバーと別れた後、私たちは近くの公園へと場所を移す。
それにしても先程の話には驚いた。まさか、湊くんと今井さんが恋人関係になるなんて………。
たった半年だけの間柄ではあるけれど、彼に関してある程度は理解しているつもりだ。湊くんは音楽以外には特に関心を寄せることはなく、バンド練とバイト以外では基本人との交流を持たない。いや、関心を寄せていないように見せていただけだったのかもしれない。彼も思春期真っ只中の男子高校生。内には何かしら秘めていたのかもしれない。
だがそれ以上に、今井さんから告白したというのには驚かされた。見た目は遊び人といった風貌の彼女だけれど、根はしっかりしているし人当たりも良い。
そんなところに彼は惹かれたのだろう。
それに二人は幼馴染。お互い好きになるのも必然だ。
(………っ)
祝福したい。けれど、それを拒もうとする醜い自分が心の中にいる。
二人は決して悪くない。悪いのは、私。
勇気を出せず、「私なんかでは……」などと自らを悲観していた結果だ。
悪いのは、私。
「ここでいいか?」
「ええ」
筒形の屋根があるベンチに横並びで腰を下ろした。
「すまんな。急に呼び出して」
「問題ありません」
カアカアとカラスが鳴き、夕暮れが近いこともあってか普段はよく目にする子供達の影は無く、この公園にいるのは私たち二人だけ。
お互い自分から話しかけるタイプではないから沈黙の時間が続く。
「あの、話があるってどういう………?」
恐る恐ると言った感じで、腕を組み無の表情を浮かべる彼に問う。
「オレの勘違いだったら申し訳ないんだが、今日はどこか紗夜の様子がおかしく感じた。それで、個別に呼び出したってわけだ」
「………そんなにおかしかったですか?」
「ああ。少なくとも、普段より眉間に皺が寄っていた」
思うところがあったのは事実だが、いつも鈍感な彼に気づかれるとはよほど顔に出ていたということなのだろう。
「察しが良くなったのも、今井さんとお付き合いしたからこそですかね」
決して隠すことなく思いのままを告げる。
「おいおい、揶揄うのはよせ。それに、リサと付き合いだしたって言っても昨日のことだぞ?」
「それでも、幼い時からずっとそばにいたんでしょう?」
「それはそうだが………」
「ようやく想いが通じ合ったんだと思いますよ。もちろん、いい意味で」
彼らと同じ、いや、それ以上の関係である双子の妹が私にはいる。自由奔放で、裏表がなくて、すごい才能を有している妹、日菜に対し私はずっとコンプレックスを抱えていた。
同じ歳で同じ遺伝子を持つ自分とは違い圧倒的な存在感を放つ日菜に嫉妬し、あまつさえ遠ざけてしまった。
17年近くそばにいるけれど、妹の考えがいまだに理解できない。
それは、日菜のことを理解することを諦めたから。自らの殻に引き篭り、ちっぽけな
対し、今井さんはそうではなかった。
私と違い、幼少期の頃からではあるが湊くんたちに寄り添い、"幼馴染" という立ち位置を築き上げてきた。
音楽一筋の湊さんに、自責の念に囚われていた湊くん。その二人から決して離れることなくそばに居続け、支えてきた今井さんがいたからこそ今の二人があるんだと思う。
Roseliaを結成できたのは今井さんがいたからこそだと言っていい。
献身的で、明るくて、人当たりが良い彼女だからこそ、きっと………。
「リサには感謝しかない。だからこそ、これから少しづつでも返していこうと思ってるよ」
仏頂面の彼から笑みが溢れる。私ではきっとできなかったであろうその表情に、今井さんとの差をひしひしと感じる。
(やはり、あなたには今井さんがお似合いです)
妬み憎しみといった感情は決してなく、心の底からそう思える。
「………おっと、少し逸れてしまったな。それで紗夜、話を戻すんだが────」
「もう、大丈夫です」
機先を制するように彼の言葉を遮り立ち上がると、夕日が美しく輝く空を仰ぎながら続けて話す。
「今のあなたを見て、吹っ切れたような気がします。私の悩みはもうありません」
「何だ?この短時間で何があった?」
「ふふっ。教えませんよ」
悪戯にそう笑い返す。
この想いを打ち明けることは二度とない。私の中に思い出として残すだけだ。
「フッ、紗夜。お前も随分と笑うようになったな」
「あなたがそれを言いますか?」
「お互い様だ」
「Roseliaに加入するまでの私だと、考えられなかったでしょうね」
「オレもだ。本当、友希那たちのおかげだな」
「あなたからすれば今井さんの存在が一番大きかったのでは?」
「そうだな。これからは彼氏として頑張っていくつもりだ」
「バンド内に恋愛事情を持ち込むなど、許しませんからね」
「当たり前だ」
彼がそう豪語したその時、湊くんの携帯が鳴る。内容を確認すると携帯をしまい、立ち上がった。
「そろそろ帰るか」
「そうですね」
夕陽を浴びながら私たちは帰路に着く。
「先程のメール、今井さんからですか?」
「今日はお互い家に誰もいないから良かったら晩御飯でもって誘われてな」
「楽しんできてくださいね」
「まあいつものことだ。リサの飯は美味いし助かってる」
「たまには湊くんも料理をしてみては?」
「なるほど……確かにいいかもな」
「今井さんもきっと喜びます」
「紗夜は料理できるのか?」
「ええ、人並みには」
「なら、今度教えてくれ。場所は提供するし代わりと言ってはなんだが、ギターの練習も手伝う」
「私でよければいくらでも教えますよ」
「助かる」
「ですがその前に……今井さんとの馴れ初め話を聞かせてください」
「気になるのか?」
「もちろん」
「意外だな」
「私だって高校生ですから。少しながら興味はあります」
「いいだろう。その代わり、家に送るまでだからな」
「お願いします」
これは、私が夢見た想い人との何気ない日常。
他愛もない話をして、下らないことで笑い合って、そうやって大人になって、いずれはそれ以上の関係になる。
平凡でも幸せであり続けたらそれで良かった。けれど、その未来に辿り着くのはまだまだ先らしい。
運命とは残酷なもの。
でも不思議と悲しみはない。想いを伝えられなかった後悔さえも。
なぜなら、相手があまりに強大で私以上にお似合いだと思ったから。
今はただ二人のこれからを願いたい。
私にとって唯一で、特別で、そして、初恋の人─────
どうか、お幸せに。
ほろ苦い初恋というのも、また人生。
何でもかんでも、そう上手くはいきません。
皆さんにとっての "初恋" はどうだったでしょうか?
相手は人によって様々だと思いますが、その当時の心境を踏まえて読んでいただけたのなら幸いです。