Roselia 〜屹立の青薔薇〜   作:山本イツキ

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本当に久しぶりですね。

今日で仕事納めです。


第二十四曲 夢現

 また、この景色か。

 オレは今、何もない真っ白の空間の中にただ一人佇んでいる。

 具体的な場所はわからないがここがどういった世界線だということは認識している。

 

 夢の中。

 

 そう。現実世界のオレは今ベットの上に横たわり目を閉じ寝息を立てている頃だろう。

 そしてこの夢を見るのは初めてではない。特に高校生になってからは見る機会が多くなったように思う。

 人は、何か強く願っていることがあると例え本人が認識していなくともそれが叶っている状態を『願望夢』として夢に見ることがあるという。

 

 これがオレの望み?

 

 何もない、人もいない、誰の手に汚されることのない真っ白な世界になることがオレの願望だとでもいうのか?

 

 生憎オレにそんな過激な思想はない。

 平和であればいいという考えは皆と等しく持ち合わせているのだが………。

 

 

 「さて、どうしたものか」

 

 

 特にする事もなく困り果てる。

 普段はこの夢が覚めるまで、ただボーッと空を眺めたり寝転んだり、辺りを彷徨いたりして時間を潰しているのだがそれも飽きた。

 何か特別な変化が欲しいところだな。

 

 

 ザザッ────ザザザッ──────

 

 

 そう考えていた時だった。

 真っ白な空間が突如として歪みだし、電磁波のような音を発しながらモニターが出現する。

 そのモニターに映し出されたのはとある分娩室の様子。

 一人の女性が今、母親になろうとしている瞬間だ。額からは大量の汗が滴り、ベットのシーツを握る手に力がこもっている。

 助産師さんの力も借り一人の生命が誕生した。体の特徴を見るに生まれたのは男の子だ。

 甲高い産声が院内にこだまする。

 

 

 『よかった………本当に、良かった………』

 

 

 子供を産み終え母親となった女性が涙ながらにそう吐露した。

 

 

 (オレは一体何を見せられているんだ?)

 

 

 生命の誕生は非常にめでたいことではあるがオレへの関連性が見出せず首を傾げる。

 そして場面が変わり、生まれたばかりの子供と母親はとある施設へと入っていく様子が映し出された。

 その施設の職員らしき人と母親は何かを話しているようで双方とも辛そうな表情をしている。

 しばらく話をした後、母親は立ち上がり自分の子供を人撫でし涙ながらに口を開いた。

 

 

 『ごめんね………私がお母さんで、ごめんね………』

 

 

 申し訳ないという気持ちがこちら側にも伝わってくる。

 察するにこの母親には旦那がおらず、子供を育てきれないと判断して施設に預けることにしたといった感じか。

 オレと似たような境遇だな。可哀想に。

 この子供は実の親の愛情を受けることなく育っていくのだろうか。せめて、非行に走らないよう願う。

 

 ここで画面がぷつりと切れ、同時に目が覚めた。

 鳴り響くアラーム音を切り、ベットから起き上がると部屋のカーテンを開ける。

 休日が明けた今日は生憎の曇り空。近頃は気温も下がり暖かいコーヒーが恋しくなる季節に移り変わってきている。

 部屋を出て階段を降りると、そこには義父の姿があった。

 

 

 「おはよう。義父さん」

 

 

 徹夜明けなのか、どことなく疲れているように見える。

 

 

 「おはよう。今日も学校か?」

 

 「ああ。その後はRoseliaのバンド練を手伝うつもり」

 

 「そうか」

 

 

 義父は嬉しそうに微笑む。

 

 

 「雄樹夜がまたこうして音楽に携わってくれるのは、父として、元ミュージシャンとして嬉しく思うよ」

 

 「全部、友希那のおかげだ」

 

 「あの子もずっと気にしているようだったからね。これからもそばに居続けてあげて欲しい」

 

 「もちろん」

 

 

 ここでふと夢での出来事を思い出す。

 

 

 「義父さん」

 

 「なんだい?」

 

 「オレが───」

 

 

 夢の中で目の当たりにした光景。

 母親の出産。

 施設に預けられた子供。

 他人事とは思えない出来事の連続で、それはまるで自分の過去の映像のように思えて………。

 

 

 「雄樹夜?」

 

 「………なんでもない」

 

 

 まだそれを訊くには時期尚早のような気がして口を閉ざした。

 不思議そうにする義父だったがオレの考えを尊重し、これ以上何も聞いてくることはなくただ「頑張りすぎないように」とだけアドバイスを送り自室へと戻っていった。

 

 

 「………おはよう」

 

 

 眠そうな目をこすりながら友希那も二階から降りてきた。

 

 

 「おはよう。寝癖、すごいことになってるぞ」

 

 「後で直すから気にしないで」

 

 「もっとリサを見習え」

 

 「余計なお世話よ」

 

 

 ツンとした表情で友希那は居間へと向かう。

 リサと友希那とでは意識の差が明らかである。

 喉のメンテナンス以外は基本適当な義妹に対し、リサは徹底的な自己管理によってスタイルや髪、そして肌のケアを行なっているらしい。(リサに関しては本人談)。

 友希那は合宿以降、定期的に外に出るようにしているらしいがそれと同時に食べる量、特に菓子類が増えているように思う。

 太りすぎて衣装が入らなくなったとか、パフォーマンスの低下だとかは勘弁して欲しいところだな。

 

 まあ、それこそ余計なお世話か。

 

 なんだかんだライブ本番までには調整してくるし、音楽に関して奴に "失敗" の二文字はないのだから。

 オレも居間へと向かい朝食を済ませる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「〜♪〜♪」

 

 

 そして迎えた放課後。

 バイトが休みのオレは今日もライブハウス『CIRCLE』でRoseliaのバンド練の手伝いをしている。

 最も、手伝いという名のコーチングに近い。

 

 

 「あこ、まだまだドラムが走ってる。もっと落ち着いて演奏しろ」

 

 「はーい………」

 

 「リサもまだリズムが不安定だな。フレーズを覚えきれていないのが丸わかりだぞ」

 

 「ごめんなさーい………」

 

 「燐子は────」

 

 

 Roseliaが結成されてからおよそ半年。

 メンバー個々の実力は成長してきてはいるが、頂点を目指すにはまだまだ実力不足だ。

 特にリサとあこ。この二人はその模様が顕著に現れている。

 

 

 「………もう1時間か。そろそろ休憩にしよう。各自、さっき言ったことを忘れないようにな」

 

 

 オレは席を立ち、友希那と今後の打ち合わせを行う。

 

 

 「雄樹夜さんいつにも増して厳しい〜………」

 

 「まあまあ。これもアタシたちの為だと思ってさ!頑張ろ☆」

 

 

 落ち込むあこを優しく慰めるリサ。

 彼女の気配りだとか励ましだとかはRoseliaの精神的支柱として有難い存在だ。

 オレや友希那だと言葉足らずになりがちだからな。

 

 

 「あっ!そうだ!」

 

 

 あこが何かを思い出したかのようにそう声をあげ鞄の中から一冊の本を取り出した。

 

 

 「みなさん!よかったら夢占い、してみませんか?」

 

 

 あこの提案に全員の視線が向く。

 

 

 「夢占いってなんだ?」

 

 「今クラスの間で流行ってるんですけど、昨日見た夢でこれからの運勢がわかるっていうやつなんですけど………ダメですか?」

 

 「いいじゃん!面白そうだし♪」

 

 「そう………ですね…………」

 

 

 その提案に肯定するリサと燐子。

 

 

 「宇田川さん。私たちに遊んでいる時間はありませんよ」

 

 「そうね。その前にさっき雄樹夜に指摘されたことを直すのが先じゃないかしら」

 

 

 否定的な立場の紗夜と友希那。

 まあ双方いつも通りの立ち位置といったところか。

 あとはオレの意見によるのだが、自分自身昨晩の夢について知りたいことがある。

 

 

 「休憩時間までだからな」

 

 「やったー!」

 

 

 残り10分ほどといったところか。

 ずっと張り詰めていては気が抜けずいい演奏に繋がらない。

 息抜きも大切だと友希那に言った手前、ここであこの提案を断るのは自分の言葉に嘘をつくのと同義だからな。

 

 

 「それじゃあまずリサ姉!昨日どんな夢を見たの?」

 

 「ええっと、確か………Roseliaのみんなと料理してる夢だったかな〜」

 

 

 実にリサらしい夢だな。

 ここにいる全員がそう感じたことだろう。

 

 「誰かと一緒に料理をする夢を見たあなたは、共に進むパートナーを求める心の表れです、だって!」

 

 「共に進むパートナーって………」

 

 

 リサがそう呟くと視線がオレの方に向いた。

 

 

 「他に意味はないのか?」

 

 「料理がうまくできたのなら、幸運を暗示し幸せな生活が送れるでしょう、とも書いてます!」

 

 「料理自体はうまくできたからそっちの意味合いが強いかもね☆」

 

 

 彼女はそう告げるがオレ自身反省すべきところがある。

 付き合い始めてしばらく経つが、2人でどこかへ出かけるといったことはしたことがなかった。

 遊園地なり水族館なり、リサが行きたいところへ連れて行く必要がありそうだな。

 

 

 「次は〜、りんりん!」

 

 「わ、私は………お母さんの、実家の、田舎に………帰ったよ………?」

 

 「田舎に帰る夢を見たあなたは、日々の忙しさから離れのんびり休息を取りたいのかもしれません、だって!」

 

 「ええっ………!?」

 

 

 燐子はそう考えていなかったと言わんばかりに、驚いたような声を上げる。

 

 「確かに、ここ最近は練習やライブで忙しかったわね」

 

 「白金さん。体調不良を起こす前に必ず一言言ってくださいね」

 

 「え、えっと………はい………」

 

 

 燐子は否定しているようだが、ここ最近休みが無かったのも事実だ。

 疲れが溜まっていてもなんら不思議ではない。

 初めは娯楽程度に思ってあこの提案を呑んだが、思わぬ収穫があった。夢の内容でここまでその人の抱える心情が見えるのだから、次からも定期的に取り入れることを視野に入れないと。

 

 

 「次は………友希那さん!」

 

 「私?そうね────」

 

 「どうせ猫だろ」

 

 「猫だね〜」

 

 「猫ですね」

 

 「猫………」

 

 

 有無をいわせず友希那の見た夢を全員が断定する。

 

 

 「猫が出てくる夢を見た友希那さんは………」

 

 「ちょっと。まだ猫の夢だって決まったわけじゃないでしょう」

 

 「なら、他に何があるっていうんだ」

 

 「………別にないわ」

 

 

 ほら見たことか。

 やっぱり猫じゃないか。

 

 

 「猫が出てくる夢を見た友希那さんは、今後振り回されそうな予感。また、嫉妬心などを示す場合もあり、恋のライバルが現れるかもしれません」

 

 「恋の、ライバル?」

 

 

 その言葉が妙に引っかかる。

 それはオレだけではないようで。

 

 

 「友希那〜、誰かに恋してるの〜?」

 

 

 リサが悪戯な笑みを浮かべ、揶揄うように肘で友希那を小突く。

 

 

 「ありえないわね。私に限ってそんなことは」

 

 

 そんな義妹は至って毅然とした態度を貫く。

 

 

 「リサ。何も恋愛感情を抱く相手が人間だけとは限らないぞ」

 

 「どう言う意味?」

 

 「友希那の場合、その対象が人ではなく猫になるってだけの話だ」

 

 「ああ!なるほど!」

 

 

 納得したように手のひらをポンと打つリサ。

 そんな最中、友希那からは鋭い視線がオレに飛ぶが無視して再度話を振る。

 

 

 「次は紗夜だな。昨日はどんな夢を見た?」

 

 「私ですか?そうですね………確か、外国にいたと思います」

 

 「外国か」

 

 「ええ。最近読み始めた小説の舞台ともなってる国です。どことまで明言はしていませんが、長閑な自然と古風な街並みが一体化していると書かれています」

 

 

 イメージだとヨーロッパが近いか。

 日本では見られない風景は、夢でもいいから直で見てみたいと思える。

 

 

 「外国に行った夢を見たあなたは、仕事・学業面で実力以上の成果が出たり良い評価を得るなど運気の上昇を暗示している、そうです!」

 

 「良かったな。紗夜」

 

 「占いはあまり信じないのですが……そうですね、良いことがあれば嬉しいです」

 

 

 紗夜の言う通り、占を真に受ける必要は全くない。

 そうなれば良いな、気をつけないといけないな、といった軽い感じで受け止めるのが正解だろう。

 

 

 「最後は雄樹夜さん!」

 

 『…………』

 

 

 オレの番が回ってきたと思ったら全員が沈黙する。

 

 

 「どうした?」

 

 「正直、一番想像しづらいかもしれませんね」

 

 「はい………」

 

 「雄樹夜って、夢って見たりするの?」

 

 「まあな」

 

 

 どうやらオレは音楽以外に全く興味のない人間だと思われているらしい。

 まあこれといった趣味もないし無理もないか。

 

 

 「あなたも猫でしょう」

 

 「一緒にするな猫バカ」

 

 

 友希那にだけはわかったような口は利かせない。

 

 

 「昨日……と言うか、ここ最近変な夢ばかり見るんだ」

 

 「変な夢?」

 

 「ああ。真っ白い空間にモニターみたいなのがあってな。そこで映像を見せられるんだよ」

 

 

 オレはこれまで見てきた夢について話す。

 その異質さには全員が驚くと同時に、考え込むようにして俯いてしまった。

 

 

 「不思議な夢ね」

 

 「だろ?」

 

 「その映像に雄樹夜さんは全く見た記憶がないんですよね?」

 

 「少なくとも、オレは他人の人生を第三者の目線で見てる気持ちだった」

 

 「出産して、施設………」

 

 「理由がどうであれ、生まれたばかりの子供を施設に預けるなんて考えられません」

 

 「アタシも紗夜に同意だけど、自分で産んだ子供をそうせざるを得ないぐらい苦しい事情があったっかもしれないんだよね」

 

 

 

 5人それぞれが意見を述べる。

 同じ女性であるが故にその言葉にはより重みが増し、核心をついているものもある。

 苦しい思いをしてまで出産した大切であろう赤子を手放すのは、男であるオレにも考えられない選択だ。

 リサが言ったように並々ならぬ事情があったにしろ、人として褒められる行動をしていないのも事実。

 

 だが、どうしてもあの女性を責めきれない。

 

 

 本当に最低な人間なのであれば、あれほどの涙を流さない。

 女性の真意は本人のみぞ知る。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 バンド練習の帰り道。

 オレと友希那、そしてリサは同じ家路を辿っていた。

 

 

 「最近すっかり寒くなったよねぇ」

 

 「2人とも、風邪なんて引かないようにね」

 

 「お前がいうか」

 

 

 オレたちを心配する友希那の風邪は、喉からくる。ボーカルとして致命的だ。

 近頃はインフルエンザが流行していて、重症化もあり得るという話をニュースで聞いたので諸君も気をつけてくれ。

 ……はて、オレは誰に何を言ってるのだろうか。

 

 

 「明日は久々の休みだ。ゆっくり体を休めろよ」

 

 「ええ。そのつもりよ」

 

 「やったー!休みだー♪」

 

 「それで、だな………リサ」

 

 

 嬉しそうな表情を浮かべる彼女の方を向く。

 

 

 「どうしたの?」

 

 「実は、まりなさんから温泉旅館1泊2日、ペアチケットなるものを貰ったんだが……一緒にどうだ?」

 

 

 握りしめているそのチケットは休憩の後、まりなさんに呼ばれて受け取ったもの。

 なんでも、お客さんから頂いたものの都合が合わなくなって代わりに行ける人を探していたらしくありがたく頂戴した。

 リサの夢占いで、どうやら不満もあるみたいだしちょうどいい。

 

 

 「いく。絶対行く!」

 

 「決まりだな」

 

 

 リサならそう言うと思った。

 一方、友希那は不思議そうな様子でリサを見る。

 

 

 「リサ、あなた確か明日は………」

 

 「大丈夫!問題ない!」

 

 「なんだ?何か予定があったのか?」

 

 「気にしないで!ほんっとうに大丈夫だから!」

 

 

 本人が大丈夫だと言うのならそれ以上追求する必要はないだろう。

 

 

 「明日13時には駅前に来てくれ。結構遠いらしいから遅刻はできんぞ」

 

 「りょーかい♪」

 

 

 せっかくの機会だ。

 そこらの観光スポットでも調べておくかな。

 明日が楽しみだ。

 




次回はリサ姉と温泉旅行。

あーーたのしみ
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