過去の話見返すと、ああ、純愛ストーリーっていいよなぁってほのぼの思う今日この頃であります。
今回の舞台は温泉!
キャッキャうふふしますよ、もちろん。
「雄樹夜〜、おっまたせ〜!」
集合時間ギリギリになってリサは待ち合わせ場所に姿を現した。
1泊2日だけの短い旅行だというのに、パンパンに荷物が積み込まれたであろうキャリーケースを引いて彼女はやって来たのだ。
「大丈夫だ。オレも10分前に来たところだからな」
気にしていない、といった感じで応答するオレの荷物は、普段から使ってるリュックの半分ほどしか詰め込まれていない。
何せこれはただの温泉旅行。
最低限の着替えさえ入れていれば問題ないはずだからな。
「いやー、何着ていくか迷っちゃってさ〜……っていうか、雄樹夜荷物少なすぎじゃない!?」
「こんなもんだろ。逆にキャリーバッグが必要な理由がわからん」
「女の子はいざという時の為に準備が必要なんです〜」
「そうなのか」
リサは頬を膨らませながら不満げに語る。
オレの義妹である友希那がそれに当てはまるか甚だ疑問ではあるが、美容やら健康やらに人一倍気を遣っているリサのことだ。
オレには理解し難いケア用品でも入っているのだろう。
「……おっと、そろそろ電車が来る時間だ」
「オッケー。それじゃあ行こっか♪」
オレたちはそのまま改札を通り、時間通り来た電車に乗り込む。
休日の昼間にも関わらず、電車の中はガラガラで3人しか乗車していない。うち2人はオレとリサでもう1人がヨボヨボのお婆さんだ。
「楽しみだねー、温泉」
「ああ」
何時になく上機嫌なリサ。
こういう反応を見ると誘って良かったと心の底から思える。
「結構有名なところらしいぞ。ほらっ」
オレは携帯を開き、今日泊まる温泉旅館の案内ページを開く。
そこには何種類の温泉があるだとか、綺麗な部屋の写真やらがたくさん掲載されていた。
口コミも上々でこの旅館を褒めるものばかりで期待は否応にも高まる。
「テレビで取材されたこともある旅館なんだ!すごーい!」
「まりなさんに感謝だな」
「お土産渡さなくちゃね♪」
「Roseliaのみんなにもな」
本来、休みは1日だけだったが友希那の粋な計らいのおかげで2日に延期となり旅行に来れたというわけだ。
『せっかくの機会だから、楽しんでらっしゃい』と、まるで母親のような言葉を残した義妹にも感謝したい。
「お土産、何が良いかな?」
「まりなさんは甘いのが好きみたいだから温泉まんじゅうだな」
「それだと、Roseliaもみんな甘いもの好きじゃない?」
「そうなのか。あこはともかく、紗夜は意外だな」
「まだまだみんなのことを分かりきっていませんな〜、雄樹夜さん♪」
イタズラな笑みを浮かべリサは揶揄ってくる。
バンドに関すれば、音のズレやリズム、テンポといったことはすぐに違いに気づけるのだが私生活についてはからっきしだったようだ。
「これからわかるようになる」
「本当かなぁ〜?」
「本当だ」
オレたちはまだRoseliaを結成して半年ほどしか経っていない。
それぞれの考えや心情、好みや不得意な事もオレは全員分把握はできていない。
今からでもでも遅くないはずだ。対話を積み重ねて、より仲が深まれば良いな。
電車に揺られることおよそ1時間強。
目的地である温泉旅館は山奥にある。
そこには都市部では見られない自然豊かな景色が一面に広がっており、空気も何度か美味に感じた。
駅から更に歩くこと10分。
長い坂道を渡り、たどり着いた旅館は "和" を象徴するような外観で、同じく旅行に訪れた客でいっぱいだ。
オレたちはフロントへと向かい受付を済ませ予約した部屋へと入室する。
「すごーい!ひろーい!」
部屋に入るや否や、キラキラと目を輝かせながら無邪気な様子で声を上げるリサは、キャリーバッグを玄関に放置し部屋の奥へと進む。
「雄樹夜雄樹夜!こっち来て!」
急かすようにオレを呼ぶリサの方へ向かうと備え付けの露天風呂が目に入った。
そこには何の汚れもない、美しい自然が一面に広がっていたのだ。
確かに、リサのテンションが上がることも理解できる。
「絶景だな」
こちらも不意に笑みが溢れる。
「どの部屋にもあるのかな?」
「……いや、ごく少数らしいぞ」
テーブルに置いてあった案内書を確認すると、ここはこの旅館における最高クラスの部屋の一つらしい。
露天風呂はもちろん、マッサージチェアや豪華な食事までついてくるという、普通の高校生に対して身の丈に合わない優遇っぷりだ。
それにこの部屋に泊まらなくとも、大浴場やカラオケルーム、ゲームコーナーや卓球場といった娯楽施設も多数あるのでリサの言葉はあながち間違っちゃいない。
「………あっ、浴衣がある!アタシ着ようかなぁ」
「良いんじゃないか?せっかくの機会だしな」
「雄樹夜は着ないの?」
「どちらでも」
「じゃあ一緒に着よ☆」
「ああ。いいぞ」
リサは着ていたコートを脱ぎ、ハンガーにかけるとその下の白いセーターに指をかける。
「ちょっと待て」
「なに?」
「まさかとは思うが、ここで着替えようとしてるんじゃないだろうな?」
「………あっ」
今から自分がしようとした事を理解したのか、ハッと目を見開く。
「も、もう!雄樹夜のエッチ!」
理不尽極まりない言葉を吐き捨てリサは更衣室に向かった。
元々運動部に属しているリサからすれば、その場で着替えることが習慣付いているのだろう。
慣れ、というものは実に恐ろしい。
浴衣に着替え終えたオレたちは部屋でのんびり談笑した後、大浴場へと向かった。
宿泊客も大勢いたから優雅に寛ぐことはできなかったが、様々な効能がある温泉を堪能できた。
そして風呂上がり。
オレとリサは卓球場でコーヒー牛乳をかけた勝負の真っ最中だ。
「っさー!!」
強烈なスマッシュが決まり、グッと拳を握り喜ぶリサ。
これでスコアは10-10のデュース。
全くの互角といった具合だ。
「雄樹夜はそろそろ疲れてくる頃じゃな〜い?」
リサはニヤニヤと笑みを浮かべオレを揶揄う。
「心外だな。オレはお前が思っているほどスタミナ不足じゃない」
「そんなこと言って〜、足が震えてるよ〜?」
「そんなわけ………」
視線を足下に外した一瞬の隙に、リサはサーブを決めスコアが11-10となり追い込まれた。
「………してやられたな」
「油断大敵だぞ☆」
ルール違反なんてものはこの勝負にはない。
得点を決めたものが勝つ。それが唯一のルールだ。
「じゃあ言葉を返すが、今の自分の格好がオレにどう映ってるのか分かるか?」
「格好?」
「人様にお見せできないぐらい乱れてるぞ」
慣れない浴衣、それに加えて可愛さのかけらもない本気モードの卓球。
着崩れするなと言う方が無理な話。
オレはちょくちょく直すようにしていたのだが、卓球でオレを負かすことに全神経が集中しているリサはラリー中もモザイクがかかりそうなほど危険な光景が視界に入り正直困っていたほどだ。
「………はっはーん♪さてはアタシを動揺させようとそんな嘘ついたんだね〜。いっけないんだ〜」
心配をよそにリサはオレの言葉など全く信用していないような口ぶりだ。
勝利への執着心か。
頂点を目指すRoseliaのメンバーとして実に感心できる心意気だがここは公共の場。そうも言っていられない。
「聞く耳を持たないならそれでもいい。いくぞっ」
フッとボールをあげサーブを放つ。
緩やかなカーブを描いた軌道だったがリサはすぐさま反応し、綺麗に打ち返す。
「────えっ?」
しかしボールは卓球台に一度バウンドし、オレの体の横を通り抜け床を転がる。
これでスコアが12-10でリサの勝利。
コーヒー牛乳を奢る事となった。だが、勝敗がついた上に勝利したというのにリサはキョトンとした顔でオレの方を向く。
「どうしたの?」
「いいから早く着直せ。目のやり場に困る」
視線を下に移しリサは今の自分の格好を見る。
動きすぎたせいで綺麗に着ていたはずの浴衣がはだけ、赤色の下着が半分以上見えるまでになっていた。
それを認識したリサはすぐさまその場にかがむと「……エッチ」とボソッと呟く。
この卓球場にいたのがオレだけで良かった。
リサは美人だ。当然周囲の視線を浴びるだろうし、あらぬ妄想もされかねない。
そんな無粋な男共に彼女の全てを見せるわけにはいかないのだ
約束通りオレはリサに売店でコーヒー牛乳を奢り、オレは自分の分を購入し部屋へと戻る。
「ごちそうさまです♪」
「ああ」
金額はたかが数百円。
なんの痛手にもならん。
「雄樹夜ってさー、無愛想な割にめちゃくちゃ人に優しいよね」
「どうした。急に」
「バンドの練習の時だって、厳しいことをたくさん言われるけど、甘いものとかジュースを差し入れてくれたりするじゃん?もしかして、アタシたちに気を遣ってくれてるのかな〜って思ってさ」
「特別、何かをしてあげたいとかはない。ただ、厳しくしすぎるのも良くないと思ったのは事実だ」
Roseliaの大半は、自らが求める基準が高くストイックな人間が多い。
オレや友希那、紗夜がまさにその典型だ。
対し、リサや燐子がフォローに回ってくれることが殆どなのだが、この中で誰よりも演奏力が稚拙なあこにはどうしても強く物事を言いがちになる。
子供っぽいところがアイツのいいところではあるのだが、演奏は別。
一番年下だからといって甘やかすわけにもいかない。
だが、あこはまだ中学生。
ほんの些細なことで引きずることだってあるだろうし、オレたちのせいで音楽を嫌いになってしまってはいけない。
だからこそオレは近頃は差し入れという形でフォローするように心がけているのだ。
「へぇ、そんなこと考えてたんだ」
「意外だったか?」
「ううん。そういう素直なとこも、アタシは大好きだよ」
リサは惚けたような笑みを浮かべ、組んでいたオレの腕にギュッと力を込めた。
決してリサに褒められる為に発言したわけじゃないんだが、結果として良い方向に繋がった。
それもこれも全ては彼女のおかげだ。
オレはただ、言葉足らずでぶっきらぼうな自分にリサがしてくれたことをメンバーたちに返しているだけ。
幼馴染であり、彼女でもあるリサには感謝してもしきれないことばかりだ。
これからもその恩を少しずつでも返していきたいな。
◆◆◆
陽が完全に落ち、夜を迎えとすぐさま豪勢な夕食にありついた。
地元で取れた新鮮な野菜やら魚やら、料理に関して全くのど素人であるオレからしても思わず『美味い』と溢してしまうほどだ。
料理上手なリサも同様、運ばれてくる数々の料理に舌鼓を打ち満面の笑みを浮かべて全てを平らげた。
最後に運ばれた柿のシャーベットを食べ終えたオレたちは広縁で満月が浮かぶ夜空を眺めていた。
「ふぅ〜、食べた食べたー」
「喜んでくれて何よりだ」
リサは満足そうな様子でお腹を摩る。
「美味しすぎてつい食べ過ぎちゃった。アタシ、すぐ体型に出るから困るんだよねぇ……」
「そう言ってリサが太ったところを見たことないんだが」
「見えないところに脂肪が溜まってるんです〜」
「そうだったのか」
「そう言う雄樹夜も全然太らないよね。運動しないのに」
「体質のせいじゃないか?」
「う、羨ましい………」
羨望の眼差しを受けるがオレはその意味がわからず首を傾げる。
太りにくいという事は同時に筋肉が付きにくいという意味も持つ。
細マッチョと呼べば聞こえはいいがオレはそんな大層な体つきをしていない。
もやし同然だ。
決して羨ましがられるものではない。
「ほらっ、アタシなんてこんなにお肉がついてる」
そういってリサは浴衣越しに自らの腹の肉をつまみ強調するが、オレにはそうは見えない。
「痩せてるだろ。リサは」
「そんなに甘いことばっかり言ってたら本気にしちゃうからダメ!」
「別にいいだろ」
「ダメなものはダメなの!!」
例えリサが太ったとしてもオレの気持ちは変わらない。
それを言葉にして伝えたいのだが、どう言えば正解かわからない。
「雄樹夜はアタシに優しすぎるよ………」
「当然だ」
「もう!そんなこと、他の女の子に言っちゃダメだからね!」
頬をぷくーっと膨らませリサはそっぽを向く。
どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。
これは、何らかの形で制裁しなくてはならないようだな。
「……悪かった。リサのやりたいことを一つ聞くから拗ねるのをやめてくれ」
顔を背けるリサの肩に手を置きそう告げると、ゆっくりとこちらを向き、リサはとんでもないことを口にする。
「………じゃあ、一緒に温泉入って」
「は………?」
「聞こえなかったの?アタシと一緒に、温泉に入って………もう、恥ずかしいんだから何回も言わせないでよ………」
この部屋には備え付けの露天風呂が外にある。混浴をしようと思えば出来るのだが、まさかリサからそんな提案をされるとは思いもしなかった。
恥ずかしいなら何故そんな提案をする、と思わず口にしてしまうところだったが、それを飲み込み彼女の考えを尊重することにした。
するとリサは立ち上がると浴衣を脱ぎ始め、オレはすぐさま背中を向ける。
パサッ、パサッと浴衣が床に落ちる音が耳に入るが聞こえていないように振る舞い、リサが『先、入ってるね』と告げ外の露天風呂へと向かった。
オレも遅れて浴衣を脱ぎ、掛け湯をしてから湯船に浸かる。
湯気で視界が悪くないがハッキリとわかるのは、リサが隣にいるということ。
そして、互いに全裸ということだ。
「湯加減はどう?」
「ちょうどいい。リサはどうだ?」
「うん。アタシもいい感じ」
「そうか」
何食わぬ様子で淡々と会話を進めるが隣を向くことだけはできない。
仮にもオレたちは高校生。
それも幼少期の頃を知る幼馴染だ。
こんな場面、緊張するなという方が無理があるだろう。
「……雄樹夜はさ、今幸せ?」
「ああ……幸せだ」
「そっか。よかった」
竹筒から源泉湯が流れ出る音と、しんしんと静かに鳴く虫の音がこの異質な空間を包み込む。
リサはいつもとは正反対に口数が少なくなっているし、オレは緊張で話すどころではない。
落ち着くものも落ち着けない状態が続く。
「ねえ」
ちゃぽっとお湯が揺れ動き、リサの滑らかな指がオレの頬を突く。
「何でこっち見ないの?」
核心をつくようなセリフを吐露するリサ。
「………察してくれ」
混沌する脳内でようやく絞り出した言葉だったが、リサには理解できなかったようで……。
「ふふっ、雄樹夜も男の子だったんだね」
いつもの揶揄い方とは少し違う。
まるで優しく包容するような、妖艶な声色だ。
リサはそのまま指を離し、オレの腕に自らの背中をくっつけ肩に頭を預ける。
「肩、借りるね」
「ああ」
「重い?」
「いや、問題ない」
「ありがとう」
平然と受け答えしているが心臓がバクバクと脈打ち呼吸をするのがやっとの状態だ。
リサの声が、肌の感触が、体温が、オレを狂わせる。
「もしかして緊張してる?」
「あ、当たり前だろ。こんな状況……」
「えへへ。アタシも」
照れた様子で正直に告げたリサは片手をオレの手の上に合わせる。
「緊張しすぎて、心臓出ちゃいそう」
「オレもだ」
「昔はよく友希那と3人でお風呂に入ってたのにね」
「あれは10年以上前のことだろ。今とは全然違う」
「うん、そうだよね。昔はもっと小さくて、よく笑う子だったよね。雄樹夜は」
「………昔のことは覚えていない」
「そう?アタシはよく覚えてるよ。2人のお父さんの部屋に入ってイタズラして怒られたり、野菜を食べなくて怒られたり」
「怒られてばかりじゃないか」
「あの時の二人は可愛かったなぁ」
怒られたと言っても手を挙げられることも激しく叱責されることは決してなかった。
義父は、ダメなことはダメと優しくきちんとオレたち二人を教育していた事はよく覚えている。
「今やオレたちは高校生だ。時が経つのは本当に早い」
「雄樹夜、おじさんみたいな事言ってる」
「事実だからな」
「これからも一緒にバンドしたり、遊んだり、こうして旅行に行けるかな……?」
「……ああ。もちろんだ」
「嬉しい」
そう告げた瞬間、リサはオレの腕に抱きついた。
衣服を着ていればわからなかった柔らかい感触が今、オレの腕に触れている。
「あまりひっつくな」
「ーーーねえ、雄樹夜」
オレの名を呼ぶ彼女は手を離すとそのままオレの頬を両の手で添えるように掴み、唇を奪われた。
一瞬の出来事で動揺し、つい目にしてしまった。
リサの生身の姿を────。
「ようやく目が合った♡」
「……頼むからこれ以上は………」
「照れてる雄樹夜も可愛い♪」
「勘弁してくれ………」
オレの今の体温はこの温泉よりも熱い。
そう断言できる。
リサはもうこの状況に慣れてしまったのか、裸体を見られても平気な様子だ。
やはり、慣れというものは恐ろしい。
今のオレには、少々。
いや、かなり。刺激が強すぎる。
温泉旅行から帰ってきてからもしばらくは、今日の出来事を思い出しリサのことを直視する事はできなかった。
作者はクソ変態野郎です。はいっ、伊達に18禁小説執筆してません。
今回のIFストーリーをそっちで執筆してやりますよ!ええ、そりゃあもう!
そっちもお楽しみに!