ある何故春が嫌いかって?
花粉症だからだよ!!!
長かった2学期を無事に終えクリスマスを迎えた。
体育祭や文化祭の学校行事に加え、バイトやバンドでは対バンの誘いが相次ぎスケジュールの管理が本当に大変だった。
いや、オレの疲労なんてたかが知れてる。
本当に大変だったのはRoseliaのメンバーたちだったはずだ。
こういう時、バンドマンたちはクリスマスライブを計画して街中で演奏する姿をよく見かけるのだがRoseliaは別。
やる時はやる、遊ぶ時は遊ぶとハッキリ区別されており今日は後者にあたる。
「雄樹夜!テーブル綺麗にしといて!」
「十分綺麗なんだが……」
「見えない埃があるかもしれないでしょ?はいっ、布巾あるから拭いといて!」
「了解した」
オレは今、リサの家で掃除の手伝いをしている。
理由はこの後に開かれるクリスマスパーティーをここで開かれるからだ。
リサ曰く、『両親は仕事が忙しいそうで今日は家に帰らないから、このままみんなでお泊まり会も兼ねよう!』とのことらしい。
それで朝から掃除を手伝いに来ているわけだが、特別何かした事はない。
元が綺麗な室内だ。オレが何かすれば逆に汚してしまう危険性がある。
微かな傷も汚れもないウォールナット柄の丸テーブルをリサに言われた通り磨いているとインターホンが鳴らされた。
「雄樹夜〜!ちょっと出てきて〜!」
「わかった」
布巾をテーブルに置き、玄関に向かうとやってきた来客を迎え入れる。
「よく来たな」
「雄樹夜さん!こんにちは!」
扉を開けて早々、あこが元気溌剌といった様子で挨拶する。
側にはその他のRoseliaのメンバーの姿もあった。
「それじゃあ早速、お邪魔しまーす!」
「お、お邪魔………します………」
「お邪魔するわね」
あこに続き、燐子、友希那が家に入る。
「………?どうした、紗夜」
「い、いえ。その………」
何か言いたげな様子で口を閉ざす紗夜。
既にリサの家にオレがいることは友希那から聞いているはずなんだが。
「違和感がなくて」
「違和感?」
「二人が既に同棲しているような感覚というか、何というか」
「よくわからんが早く入れ。寒い」
外はしんしんと雪が降っており時刻も18時を過ぎていた。
コートで防寒している紗夜に対しオレはパーカーのみ。
こんな格好でずっと外にいたなら確実に風邪を引く。
「すみません忘れてください。お邪魔します」
紗夜はそう告げてそそくさと家の中へ入る。
全く、紗夜らしくない。
何を言いたかったのか結局わからなかったから奴の進言通り全てを忘れ、オレも居間へと向かう。
そこにはクリスマスツリーや、風船、それに見合った色とりどりのオーナメントが施されていて来客たちの関心を誘った。
「すごい飾り付けですね!リサ姉と雄樹夜さんが準備したんですか?」
「私も手伝ったわ」
「まあ、ほとんどリサが用意しててオレたちは何もしてないんだけどな」
オレがやったことといえば、この装飾品の数々の荷物持ちと金を出しただけ。
選ぶのも飾りつけるのも全てリサがやってくれた。
少なくとも、オレや友希那ではここまで完璧に飾りつけることはできなかっただろう。
「お出迎えありがとね、雄樹夜」
「おやすいごようだ」
労うオレにリサは温かいココアを差し出しありがたく受け取った。
本当に彼女は気が利く。
ほんのり湯気が立ち上るホットココアを一口含み、冷えた体を温める。
「料理もすごい数、ですね………」
「こんなに食べ切れるかしら」
「大丈夫ですよっ!6人もいれば余裕です!」
「余裕、なのか?」
「まだまだいっぱいあるから遠慮せず食べてね〜♪」
「今井さん、それ以上は………」
オレが玄関にいる間に並べられたリサの手料理の数々。
肉や魚はもちろん、野菜やジャンクフードも豊富に取り揃えられていて、Roselia個々が好きなメニューもちゃんと作るあたりリサの今回のパーティの本気度が窺えるな。
「ジュースやお茶もあるから好きなの持っていって〜」
「はーい!」
それぞれが飲み物の入ったグラスを持ち、テーブルを囲うように着席するとと全員が一斉にオレの方を見た。
「なんだ?」
「ここは、雄樹夜さんに開会の挨拶をしてもらわないと!」
「そうそう。頼んだよ、雄樹夜っ☆」
何でオレが、と後頭部を掻き少々ボヤキつつも立ち上がり挨拶を始める。
「みんな、この一年間お疲れ様。オレから言えることはただ一つ。FWFで結果を出す、それだけだ。それまで妥協は一切許さん。覚悟はいいな?」
「当然よ」
「うん!」
「今更ですね」
「頑張りましょう……」
「はい!」
Roseliaの意思は固い。
それを知れただけでこのパーティを開いて良かったと思えた。
「では改めて、乾杯」
「かんぱ〜〜い!メリークリスマス〜〜〜!」
「メリークリスマス!」
あこが意気揚々にクリスマスパーティの始まりを告げ、リサもそれに便乗する。
「挨拶、少し固かったか?」
「いいえ。あなたらしくて素晴らしかったと思いますよ」
オレの意見に対し、隣に座る紗夜が珍しく同意してくれた。
クリスマスの奇跡、なのだろうか。
「美味しい!どの料理も美味しい!」
「あははっ、そんなに急いで食べなくても料理は逃げないぞ〜?」
「本当に、美味しいです………」
「流石ね。今井さん」
「いつもありがとう」
「ええ!?そ、そんなに褒められると照れるな〜」
嬉しさと恥ずかしさを含んだ笑みを浮かべ、リサは頬を赤く染める。
事実、どれも本当に美味い。
それ以前にリサの料理を食べて不味いと思ったものは一つとしてない。
たまに『試しに作ってみたから食べてみて〜』と言われて試食することもあるが、それでさえ失敗したところを見た記憶がない。
全てはリサの努力の賜物。褒めたくなるのも無理はないだろう。
「ところで………」
燐子が不思議そうにしながらとある料理を指さす。
「これは、一体………」
たこ焼きのような見た目をしたそれは、数ある料理の中でも真ん中付近に置かれていて少しばかり異彩を放っていた。
「よくぞ気づいてくれました!それには少しバラエティ要素を詰め込んでてね〜、中はランダムで何が入ってるかわからない "ロシアンたこ焼き" でーす!」
ばはーん、と効果音が鳴りそうな様子で紹介されたが反応は様々だ。
「何それ!?超面白そう!」
「ハズレを引いた人は罰ゲームってのでどう?」
「食べ物で遊ぶのは感心しませんが……確かに面白そうではありますね」
「は、ハズレを食べたら………どうしよう………」
「当たる確率は6分の1、まあ大丈夫でしょう」
「リサ。ちなみに中身は何なんだ?」
「それは食べてからの、お・た・の・し・み♡」
まあ相手はリサだ。
ゴーヤやにんじんといった、オレたちの苦手はものを入れたりはしないだろう。
ましてや自分も食べる危険性があるしな。
激辛か、あるいは究極に苦いものか。
見た目や匂いでは全く区別がつかん。運のみで勝敗がつきそうだ。
一人一つずつ取り、せーので口の中へ放り込んだ。
「………おっ、当たりだ!中身はホワイトチョコとイチゴ!」
事の張本人であるリサは当たりを引いたようだ。
「あこはカスタードクリームです!」
「私は……あんこ、です………」
「私は蜂蜜とバターでしょうか?濃厚で美味ね」
「みんなせいかーい!いい味覚してるねぇ♪」
続いてあこ、燐子、紗夜も当たりだったようだ。
一人一人味が違う辺り、さすがリサと言ったところだろう。
「…………」
「…………」
残るはオレと友希那。
はたして、ハズレの味を引いたのはどちらか─────
「ちょっと!なんか反応してよ!」
痺れを切らしたリサがそうツッコミを入れる。
「反応、といっても中身がわからんからなあ」
「…………」
「えぇっ?そんな難しい食材入れたかな?」
この食感は、アーモンドだろうか。ポリポリとした食感が楽しい。
それと混在しているこの苦味は一体………?
「もしかして、コーヒーか?」
「雄樹夜せいかーい!アーモンドと溶かしたコーヒーパウダーを流し込んだのだね!」
「と、いうことは………」
「ハズレたのって………」
「湊さん?」
「…………」
全員の視線が一点に集まる。
当の友希那は口を閉ざし平静を装っているが、奴の考えてることなんて手に取るようにわかる。
「友希那。口の中を見せてみろ」
オレの言葉に友希那は首を横に振る。
当然だろう。一度噛んだ瞬間、その中身が口いっぱいに広がって顔を一瞬顰めた姿をオレは見逃さなかったからな。
その後の咀嚼も演技。
だから今、友希那は口の中を見せられないというわけだ。
「白状しろ、友希那。お前がハズレを引いたんだろ?」
「…………!!」
観念したように友希那はグラスに入ったジュースを口内に流し込み、ロシアンたこ焼きの中身と共に胃の中へ放り込む。
「ゆ、友希那さん?」
「一体………何が入って………」
「………今までにない酸味が、襲って………」
基本五味の中でもリサは酸味を選んだそう。
常時鉄仮面の義妹がここまで眉間に皺を寄せ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるほどだ。
余程の刺激があったに違いない。
「リサ、一体何を入れたんだ」
「えーっとね、グレープフルーツとライム、あとはクエン酸を少々って感じかな」
不味くならず、誤魔化しも出来ないギリギリのラインを攻めた結果がコレなのだろう。
優しいリサだったからこれだけの被害で済んだのかも知れない。
イタズラが好きそうなあこなら、スイーツと見せかけて納豆やら漬物やら中に仕込んでいそうではある。
まあ、それを引き当てるのもあこである事は容易に想像がつくな。
◆◆◆
リサの手料理、そして食後のデザートであるクリスマスケーキも堪能した後、オレたちはあこが持ってきたテレビゲームをしていた。
「あぁあ友希那さん!カーブカーブ!ドリフトして!!」
「ドリフト?それは何かしら」
今やってるゲームというのが、4人で対戦ができる大人気レーシングゲーム。
今操作しているのはオレと友希那、燐子、そして紗夜だ。
リサは晩御飯の片付けをしていて、あこは友希那の操作を口で助言する係を請け負っている。
「友希那、勝つ気あるのか?ずっと壁に車体がめり込んでるぞ」
「やり方がよくわからないもの」
最下位独走状態の友希那はさておき、燐子はやはり上手い。
スルスルとCPUたちの間を通り抜け一位を直走っている。
紗夜も序盤は崖から落下してばかりだったが徐々に慣れていったようで全体の4位と検討中だ。
オレは真ん中の6位。何となくではあるがコツを掴んできたところ。
「これだけアイテムを使っているというのになかなか追いつけん」
「白金さんが速すぎなんです」
「ふふっ………」
和かに笑いながらも鬼のようなコーナリングを見せ続ける燐子はそのままの勢いでゴール。
2位と圧倒的な差をつけてのゴールインとなった。
続いてオレが3位で、紗夜が4位でフィニッシュ。言わずもがな義妹は最下位でこの勝負は幕引きとなった。
「やり方は分かってきたがまだまだだな」
「いいえ……雄樹夜さんも、お上手………ですよ」
「そうか?」
「はい……とっても………」
ゲームにおいて燐子に褒めてもらうことは、バンド練でオレに褒められることと同等だとあこは語る。
確かに、腕利きの人間から技術を褒められることは嬉しいものだな。
「紗夜も乗り気じゃなかった割には本気でやってたように見えたが」
「………負け続けるのが悔しいだけです」
いつも以上に眉間に皺を寄せ感情を露わにする紗夜は最後の最後でアイテムによる妨害を受けオレより下の順位となった。
もちろんその妨害もオレによるもの。
だが勝負は勝負だ。真剣な戦いに汚いもへったくれもない。
「みんなー!お風呂沸いたから順番に入ってってー!」
まるで母親のような口ぶりでリサは声をかけてきた。
話し合いの結果、あこと燐子が先に風呂へ。
友希那と紗夜はそのままリビングで話すといって別れ、オレは後片付けが済んだリサの跡をついていく。
向かった先はリサの部屋だ。
最後に入ったのは10年も前だったか。その時の記憶は定かではないが、化粧品やら服やら年頃の女の子らしいものがずらりと並んでいる。
「何か緊張するね」
「そうか?」
照れるように頬を掻くリサと彼女のベットの上に並んで座っている。
「10年近くずっとそばにいるんだ。二人きりなんて慣れてるだろ」
「そういう意味じゃないんだけどなあ……」
リサの言いたいことが理解できず首を傾げると、小さくか細い声で説明する。
「……クリスマスの日に男女が二人きりって………そういうことじゃないの」
「2人?6人じゃなくてか」
「もー!今、この部屋にはって意味なの!」
先ほどまでのお淑やかさはどこへいったのやら。鈍感だとか唐変木だとか、様々な罵声を優しく浴びる。
そこに関しては自覚してる面もあるので言い返すようなことはしない。
「悪いな、いつも」
「む〜。そうやってすぐ謝ってくれるとこはいいんだけどさあ……」
「恥ずかしい話だが、誰かと付き合うのはリサが初めてだから勝手がわからないんだ」
「それはアタシも同じだよ」
「ああ。同じだな」
お互い初めて同士。
付き合い始めたはいいものの、そこからの進展の仕方がわからない。
ベッドに置いていた手の上に自らの手を重ねたリサはそっと頬に口付けをした後、オレにしか聞こえないような声で呟く。
「ねえ。雄樹夜はさ、エッチなことって興味ないの?」
微笑むような表情で呟かれた一言に驚いて目を見開いた。
他人の恋愛話は好きでも、自分の恋愛については奥手だったはずのリサからそんな言葉が飛び出してくるなんて素直に驚いたのだ。
反応に困っているとリサは続けて話す。
「手も繋いだし、キスもしたし、恥ずかしいとこも見せあった。もうこれから先の進展ってさ、エッチなことをするしかなくない?」
何とも短絡的。
だがそれを否定しようにも、恋愛経験ゼロのオレに否定する根拠がない。
「………リサはそれでいいのか?」
「うん。雄樹夜になら抱かれたいって思う。ううん、抱いてほしい」
リサの決意は固い。
愛する彼女がこうも言ってくれるのだから応えなければ男が廃るというもの。
………いや違うな。
応えなければ、ではない。
オレもリサと同じ気持ちなのだから。
「リサ」
向かい合った最愛の彼女は両手を広げオレを迎え入れる
バンッ!!
「リサ姉!お風呂空いたよー!」
『…………!?』
この場に似つかわしくない少女の声がドアを勢いよく開いた音と共にこだまする。
ビクッと体を震わせたリサは咄嗟に手を引っ込めチラリとその少女、あこの方を向く。
「え、えーと……友希那と紗夜は?」
「先にリサ姉どうぞだってー」
「そっかそっか!じゃあ先に入ろうかなー」
苦笑いを浮かべそそくさと脱衣所へと向かうリサ。
しかし、異様な空気をあこも察したみたいで………。
「ところで、二人はここで何してたの?」
純粋無垢な疑問が飛ぶ。
よっこらせとベッドから体を起こし、あこの頭にそっと手を添え誤魔化しを含みつつ答える。
「オレたちは恋人同士だからな。二人だけにしか話せないことを話していた」
「気になるー!」
「あこも好きな人ができたらわかる。それから、これからはちゃんとノックしろよ。常識だからな」
「はーい………」
あこが来なければどうなっていたのか。
ある意味、この無頓着な行動に助けられたとも言えるな。
次は大晦日か元日か
一年を26話も使うのってなかなかやりすぎたかな?