新学期を間近に控え、Roselia以外のバンドメンバーも出して行こうかなぁと思います。
冬の休暇を終え、3学期が始まった。
期間は短いもののテストはちゃんとあるし卒業式といったイベントもある。
日菜や薫、そしてリサと同じクラスになるのも最後かもしれないから残りの時間を大切に過ごそうと思う。
今日は始業式とこれからの行事予定の軽い説明だけで学校は終わり、オレはそのまま羽沢喫茶店へと向かいとある人物と待ち合わせをしていた。
「ちょうど10分前。流石だな」
「お待たせして、申し訳ありません」
待ち合わせていた人物である紗夜は急いできたのか、息が少し乱れている。
「全然。そんなことより早く入ろうぜ」
今の気温は4℃。
日中でこれなのだから夜になるとさらに冷え込む。
こういう時は喫茶店であったかくて甘い飲み物をいただくに限る。
店の扉を開くとカランカラン、とベルが鳴りテーブルの清掃をしていた店員がオレ達を出迎える。
「いらっしゃいませ!………あっ!」
白のシャツに黄色のエプロンを羽織った少女、羽沢つぐみが歩み寄る。
「雄樹夜さん、紗夜さん!」
「ごきげんよう。羽沢さん」
「始業式ぶりだな。新生徒会副会長さん」
「そ、その呼ばれ方は恥ずかしいです……」
オレの揶揄いに羽沢つぐみは照れ笑いしながら頬を赤く染める。
そのままオレたちは席へと案内され、勧められたオリジナルブレンドコーヒーと日替わりケーキを注文し、彼女はそれらを用意しにキッチンへと向かった。
「それにしても驚いたな。まさかお前の双子の妹が生徒会長になるなんてな」
「ええ。私も驚いてます」
紗夜は苦笑いしながらそう答える。
年を越し、オレ達の学園生活にも色々変化が生じたのだがその目玉と言えるのが生徒会役員の入れ替えだ。
生徒会長にはなんとあの奇人、日菜が就任することとなったのだ。
奴が立候補することにも驚いたが学校側がそれを了承することにも驚かされた。
副会長の羽沢 つぐみとは真面目すぎる性格が故に、自由奔放な日菜との相性は甚だ不安である。
「賑やかにはなりそうだが、やはり心配だな」
「羽沢さんには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです……」
「全然!寧ろ日菜先輩が積極的に案を出してくれるおかげで生徒会が活気付いてますよ!」
紗夜を優しくフォローする羽沢だが、そう言っていられるのも今のうちだけだ。
そう遠くない日に、日菜の暴走を止められなくなるだろう。
そして羽沢の手によってオリジナルブレンドコーヒーと日替わりケーキがオレ達の目の前に運ばれてきた。
今日のケーキはバナナブレッド。パウンドケーキの一種らしい。
バナナの熟れた甘い香りが実に心地よい。
まずはコーヒーに砂糖とミルクを多めに入れいただく。
「………うん。美味い」
「ありがとうございます!」
思わず小さな笑みが溢れる。
友希那同様、苦いものは好かんのだがこうして甘くすれば美味しく飲むことができる。
ブラックコーヒーはオレにとってまだまだ大人な味だ。
「このバナナブレッドも素晴らしいです」
「これ、お父さんの自信作なんです」
「コーヒーともよく合う」
「落ち着く味ですね」
濃厚なバナナの甘さに加えしっとりとした生地とくるみの食感の対比が面白い。
今度リサに頼んで焼いてもらおう。
オレ達がティータイムを楽しんでいる間に別の客が来て、その対応をすべく羽沢は席を立った。
それと同時にオレは本題を切り込む。
「それで、今日はどういった要件だ?」
羽沢珈琲店で待ち合わせようと言い出した張本人である紗夜にティーカップを片手にそう問いかける。
「要件、という程のものはないですよ」
「なに?」
「単にあなたと話がしたかっただけです」
「驚いた。お前がそんなことを言い出すなんてな」
紗夜にしてはなんとも曖昧な理由だ。
これは良い変化と捉えるべきなのだろうか。
「安心してください。今井さんには連絡済みです」
「そこは別にどうでもいい。というか、オレも連絡してるしな」
紗夜からすれば、あくまで浮気をしているわけじゃない、とリサに示しているつもりなんだろうな。
そういう真面目なところはやはり何もかわっちゃいない。
ちなみに、今日はバイトに出ているせいでこの場にいないリサからはOKというスタンプが送られている。
「こっちは日菜が生徒会長になったが、花咲川はどうなんだ?」
「それが………」
オレの問いに紗夜は目線をずらし言葉を濁す。
「あなたが驚いて口の中のものを全て出してしまいそうな人が就任したので、この話はこれを食べ終えてからにしましょうか」
「わかった。じゃあクイズ形式にするか」
「クイズ?」
「ああ。回答は一度だけ。もし合ってたらコーヒーを奢ってもらう。外したらオレが奢ってやろう」
「……いいでしょう」
少し悩んだ素振りを見せ紗夜は了承した。
オレは残ってたバナナブレッドを口に放り込み咀嚼しながら考える。
オレが驚くほどの人物。はて、一体誰が当てはまるんだ?
そもそも花咲川にいる知り合いなんてごく僅かだ。
Roseliaの紗夜と燐子、あとは日菜繋がりでPastel*Paletteの丸山彩と白鷺千聖ぐらいなもんか。
紗夜はまずないだろう。
生徒会長という役柄が似合いすぎているし驚きという点に関しては皆無だ。
燐子も意外性からしたら当てはまりそうだが、引っ込み思案のあいつが引き受けるとは到底思えない。
となると、丸山彩か白鷺千聖か………。
そうこう考えている内に全てを食べ終えオレの答えを伝える。
「花咲川の新生徒会長は丸山彩。違うか?」
テレビでもドジな様子を度々見せている、という理由での選出。
果たして結果は………。
「残念。
誤回答した事に少し嬉しそうな様子で紗夜が答える。
「クソッ。いい線いってたと思ったんだがな」
「しかし、なぜ丸山さんだと思ったんですか?」
「消去法だ。それで、花咲川の新生徒会長は誰になったんだ?」
紗夜はふぅっと息を吐き、その人物の名を告げる。
「───白金さんです」
「………は?」
よく聞こえなかった。
オレの耳には『しろかね』と聞こえたのだが。
「すまん。もう一度言ってくれ」
「花咲川の新生徒会長は白金燐子さんです」
「マジで?」
「はい。本当です」
予想外の返答に思わず固まる。
今鏡でオレの顔をみたら、何とも言えない表情をしているに違いない。
しかし、あの引っ込み思案がとうとう表舞台に立ってしまったのか。
これは成長、いや、大成長と言っても過言ではない。
一年前のアイツじゃ考えられないことだからな。
「まさか、立候補な訳ないよな?」
「前生徒会長に頼まれたというか、押し付けられたというか………」
「断りきれないところがあいつらしいな」
「それでも彼女は言ってましたよ。『このままでは嫌だ』と」
「ほう」
このまま、というのは自分自身の性格についてだろう。
自己肯定感の低い燐子は、ライブの最中でもあまり前には出ず与えられた音をしっかり奏でると言った印象だ。
それが悪いとは言わない。
だが、Roseliaが頂点を目指すには志が低いとも思える。
あまり言い過ぎては燐子の負担になると思って躊躇してきたが、彼女が変わろうとしているんだ。
対応の仕方も変えていかなければならない。
「次に会って話すのが楽しみだ」
その一言に尽きる。
「それはそうと、あなたはクイズに正解することはできませんでしたね」
「はいはいわかってるよ。同じものでいいか?」
「ええ。お願いします」
堅物の権化だった紗夜もこういったくだらない遊びにすすんで付き合ってくれるようになった。
昔は取っ付きにくい感じが否めなかったが、今はこうして二人だけでお茶をしている。
……いや、それはオレもか。
人は他者との関わりを経て良い方にも悪い方にも変わってしまう。
それがRoseliaの音楽にどうもたらすのか、これから先のバンド活動も楽しみでならない。
◆◆◆
羽沢珈琲店を出たオレたちは並んで商店街を歩く。
「紗夜はこの後どうするんだ?」
「家に帰ってもすることがありませんし、CIRCLEのスタジオを借りて本番さながらの練習をするつもりでした」
「奇遇だな。オレもそこに用事がある」
「用事、というかバイトでは?」
「その通り」
では一緒にいきましょうか、と同じ目的地に向かい歩き始めるが、普段世話になってるまりなさんに差し入れでもしようとコンビニで人気沸騰中と言われているスイーツを買おうとまずはコンビニに向かった。
何故それを知っているかって?
それは、そこで働いてる店員に聞いたからだ。
コンビニに特に用事はない紗夜は外で待つと言い、自動扉が開くと同時に聴き慣れた入店音が響く。
「しゃしゃせ〜……おおー、雄樹夜さんじゃないですか〜」
レジに立ち適当な挨拶をする女、青葉モカはオレを見つけると声を掛けてきた。
「相変わらずだな」
「モカちゃんは今、空耳チャレンジにハマってましてー」
「何だそれ?」
「どんな言葉でも最後に『せ』がつけば問題ないでしょ〜って説を立証中でーす」
「水曜○のダウ○タウンか」
Afterglowの中でも異彩を放つこの女は、雰囲気も口調も独特でRoseliaにはいないキャラクターだ。
話して不快感もない、寧ろ面白いとも思う。
「今日はどういったご用件で〜?」
「リサに勧められたここのスイーツを買いにな」
「ああー、それなら後二つほど残ってたと思いますよー」
「助かる」
「持ってきますねー」
青葉はそのまま陳列されたスイーツを二つ持ってきて会計を始める。
「ところで、リサはどこにいるんだ?」
普段なら青葉の横でレジを任されているはずのリサだが、今日はその姿が見当たらない。
バイトだと言っていたからここにいるのは間違いないのだが。
「
「そうか」
オレの言葉に青葉がニヤニヤと揶揄うような目つきでオレを見る。
「おやおや〜?もしかして愛する彼女を心配して立ち寄ったというのが本命とか〜?ひゅーひゅー♪」
「茶化すな」
「そんな優しい
「なんだ?」
「レシートでーす♪」
「レシートじゃねぇか」
思わず某人気芸人のネタが繰り広げられる。
コイツは数少ない、オレをイジってくる奴でもある。
「いやー、雄樹夜さんの反応は見てて面白いですなー」
「お褒めに預かり光栄だ」
手渡された商品を受け取り、金を渡すと『またのご来店を〜』と見送られ店を出た。
「待たせたな」
「いえ。お気になさらず」
オレたちは再び横に並んでCIRCLEへと向かい歩き出す。
「青葉さんと仲良いんですね」
「見てたのか」
「何を話してるかまではわかりませんが、険悪そうな様子には見えなかったので」
「まあ、悪い奴じゃないからな」
人の傷つくことは絶対に言わないのが青葉の良いところだ。
Afterglowの中でもメンバーを揶揄って笑っている様子が目に浮かぶが、それは悪意からくるものではないのは容易に想像がつく。
「実際のところ、あのコンビニに立ち寄ったのは、本当は今井さんの様子を見たかっただけなのでは?」
紗夜も青葉と同じようなことを口にする。
それも同じ表情でだ。
「アイツにも言われたが、それはない。本当にこのスイーツが目当てだっただけだ」
「俄かに信じられませんね」
「オレがそんな過保護に見えるか?」
「今井さんに対してはそうだと思います」
「まあ大切なことに変わりはないが……」
「やはりそうじゃないですか」
「それを過保護と一緒にするな」
オレの言葉で紗夜は上品に笑う。
そこまで面白いことを言ったつもりはないのだが、奴からすればツボに入ったのだろう。
「今井さんは必ず喜びますよ」
「だからなぁ……」
「何だか、彼女が────」
プーーーッ!!
突如猛スピードで突っ込んできた車がクラクションを鳴らすと、慌てて紗夜の肩を抱き寄せ回避する。
接触すれば大怪我は免れなかっただろう。
それだけに、今も心臓はバクバクと鳴り響いている。
「大丈夫か?」
「え、ええ……」
驚いた表情を見せる紗夜にも怪我はない。
とにかく、大事に至らなくて本当に良かった。
「……スマンな」
「え、何がですか?」
「急に肩を掴んで」
「いえ、その……ありがとうございます」
紗夜は消え入るような声で感謝し、視線を逸らすと頬を赤らめた。
(……心臓に悪い)
心でそう呟いた紗夜の心臓はオレとは違った意味で鼓動が跳ね上がっていたことは、知る由もなかった。
紗夜さんはまだ彼に未練があるのですかねぇ……
個人的には昼ドラみたいなドロドロとした三角関係は好みなのですが、リサさん相手だとまあそれは無理そうですね
と、いうわけで次回をお楽しみに