Roselia 〜屹立の青薔薇〜   作:山本イツキ

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連日の投稿となります。


今回は雄樹夜さんと友希那さんの話になります。

雄樹夜さんが、少しキャラ変します。


第三曲 誤解

 リサを家に送り届け、自宅へと戻ると時計の針はすでに21時を指していた。

 

 

 「ただいま」

 

 

 真っ暗な玄関に灯りをつけそう告げるも、誰も返事を返すことはない。 

 友希那も義父(とう)さんも部屋にいるはずだし、義母(かあ)さんはリビングでテレビを見ている頃だろう。

 義母さんには事前に晩御飯は済ませてくると通達済みだ。

 少し遅くはなったが叱られることはないだろう。

 

 洗面所にいくと、風呂から上がったばかりであろう友希那と顔を合わせる。

 服を着ていてくれたことが不幸中の幸いだ。

 せめて鍵でもかけてくれれば入ることはないんだが。

 

 

 「…………………」

 

 「…………………」

 

 

 目を合わせるだけで二人に沈黙の時間が流れる。

 ファミレスでリサは、友希那がオレのことをよく話すと言っていたが、今の眉間に皺がよったこの表情からは想像もつかない。

 明らかに嫌悪されてると言っていいだろう。

 

 

 「………………遅いじゃない」

 

 

 沈黙を破ったのは友希那だった。

 

 

 「リサと晩飯食べに行ってたんだ。本人に聞いたらわかる」

 

 

 オレはありのままの事実を話す。

 

 

 「別に疑ってなんかいないわ。二人が同じクラスになったことは知っているのだから」

 

 「一緒になれなくて残念だったな」

 

 「毎年(いつも)のことよ」

 

 「どうかな。以外にも来年は同じクラスになってるのかもしれないぞ」

 

 「まだ先の話よ。今日は疲れたからもう寝るわ」

 

 「ああ。おやすみ」

 

 

 友希那が部屋から出たことを確認し、服を脱ぎ、そのまま風呂へと入る。

 互いに話すこと自体久しぶりだが、それ以上に話しかけられた事に驚いた。

 新しい仲間と出会えて奴も気分が高揚しているんだろう。

 それは義理の兄妹として嬉しく思う。

 

 

 「そう言えば、氷川 紗夜にはオレが()()()()()と言ってしまったんだよな」

 

 

 CiRCLEでの会話を思い出しながら湯船に浸かる。

 オレと友希那はキョウダイであっても、実のところどっちが上でどっちが下かはハッキリしていない。

 オレが施設に預けられた時は、名前や血液型、生年月日など不明確なことが多く、両親が誰なのかすら判明していないのだ。

 "雄樹夜" と名付けたのは友希那の父でありオレの義父で、オレが施設に預けられてすぐに引き取ったという。

 親父がどうして施設に来たのか、また、どうしてオレを引き取ろうと思ったのか気にはなるが、聞かないようにはしている。

 いずれ義父から語られる時が来るその日までは──────。

 

 

 「まあ、実際どっちが上でどっちが下かなんてお互い気にしてないんだけどな」

 

 

 オレも友希那もあまり物事に興味を持つ方じゃないし、形式はどうであろうと構わない。

 ただ、リサ曰く『雄樹夜の方がお兄ちゃんっぽい』という理由からオレが兄と名乗っているだけというのが現状である。

 あまりにミステリアス。

 それが湊 雄樹夜という男の本性だ。

 

 

 「これをクラスメイトたちが知ったらどうなるだろうな」

 

 

 このことを知っているのは友希那とリサだけで、特に口止めしたわけではないが、二人は特に何も話していないらしい。

 湊雄樹夜は湊友希那のキョウダイ。

 その事実だけで十分と判断したんだろう。

 

 その気遣いに乗じてオレからも口外することは決してない。

 

 

 「さて。のぼせる前に、体を洗うか」

 

 

 独白も済んだところで、体を清める。

 シャンプーやトリートメントにこだわりも無いから義母に適当に買ってきてもらったやつを使っている。

 リサからは毎度しつこく、『いい匂いで気になるから、どこのメーカーか教えてくれ』と言われるが、このことを話すと必ず疑われてしまう。

 オシャレに気を使う女子高生は大変だと思い知らされるな。

 

 

 数十分後に風呂から上がり、携帯を起動させると同じ家にいるはずの友希那からメッセージが届いていた。

 

 

 『お風呂から出たら私の部屋に来て』

 

 

 眠いと言っていたはずなのにどうして…………。

 そんな不思議な気持ちを抱えそそくさと体を乾かし服を着る。

 

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 

 家の2階にある二つの部屋はオレと友希那で別れて使っている。

 昔はどちらか一方の部屋で遊んでは寝ていたりすることもあったが、今はもう互いの部屋の内装すら知らない。

 友希那の部屋に入るなんて、いつ以来なのかもわからないほどだ。

 

 一度深呼吸して、数回扉をノックする。

 

 

 「友希那。オレだ」

 

 

 そう扉越しに告げると、ガチャっとゆっくり扉が開く。

 

 

 「入って」

 

 

 友希那の言葉通りに部屋へと入る。

 やはりというべきか、あの頃と部屋の中身はまるで違っていた。

 数多くの音楽雑誌に有名バンドのポスター。

 紫を基調とした色合いは友希那らしさを物語っていた。

 

 

 「適当に座ってもらって構わないわ」

 

 「そうか。なら遠慮なく」

 

 

 オレは椅子に腰掛け、友希那はベッドに座る。

 机の上にはオリジナルの歌詞やそれぞれの楽器のコードが無造作に散らばっていた。

 夜な夜な物音が聞こえることはあったのだが、ここまで考えているとは。

 フェスの期限も近づき、友希那も本気なんだろう。

 

 

 「それで、話ってなんだ」

 

 

 世間話もなしに直球で質問する。

 

 

 「単刀直入に言うわ。あなたにも私のバンドに入ってほしい」

 

 「……………はっ?」

 

 

 あまりに唐突な発言にあっけらかんとしていると、友希那は更に言葉を続けた。

 

 

 「あなたの演奏力の高さは私が一番よく知っているわ。なのに何故音楽から離れているのか、私にはわからない。それを直接聞きたくて呼んだの」

 

 

 真剣な眼差しでそう問いかける友希那。

 友希那がこんなことを思っていてくれていたなんて嬉しくて仕方ないのだが、オレの考えはもう決まっている。

 

 

 「親父の無念を晴らす。そう臨んで演奏してきたが、オレにはその「覚悟」がなかった。楽器ひとつマスターするのに努力するのはもちろん、才能だって必要だ。オレには、どちらともなかったんだ」

 

 「どうしてそんなことが言えるの?そんなこと、わかるとは限らな──────」

 

 「わかるんだよ!!」

 

 「……………っ!」

 

 

 久々に出した大声に友希那は怯む。

 

 

 「音楽は嫌いではない。だが、義父さんのバンドを越えようだとか、頂点を目指すだとか、そんな大層な夢を抱けるほどオレは理想的な思考を持ち合わせていない。そんな奴は、オマエのバンドには不要だろ?」

 

 

 友希那は音楽に対して一切妥協しない。

 だからこそあれほどの歌声を "努力" で手に入れることができたんだろう。

 氷川 紗夜だってそうだ。

 一度しか演奏を聴いていないが、その音は "努力の結晶" と呼ぶべき音色だった。

 いずれ集うであろう他のメンバーだって同等の事をやって退けるだろう。

 

 だが、オレはどうだ?

 途中で投げ出して、友希那とだってまともに話すことすらできない。

 今まで罪悪感だとか言ってきたが、今話してそれは全くの別物だと言うことがよくわかった。

 奴に抱いていた感情。

 

 それは──────嫉妬。

 

 

 あの歌声に、あの情熱に、あの才能に、とてつもなく嫉妬していたんだ。

 今だからわかる。

 オレは人としてあまりにも最低だ。

 友希那にも義父さんにも頭が上がらない。

 

 何が恩返しだ。

 何が仇をとるだ。

 

 

 そんな言葉、恥ずかしくてとても言えたもんじゃない。

 

 

 友希那だってさぞ失望していることだろう。

 

 

 「…………………」

 

 

 ふと顔を上げると突如、友希那は無言で立ち上がり部屋を飛び出す。

 オレも急いで後を追うと、友希那が行き着いた先はオレの部屋だった。

 

 

 「じゃあ───────これは、何?」

 

 

 オレの部屋にあるのは、ギターやベース、ドラム、シンセサイザーと言った数々の楽器たち。

 棚にはコードや楽器の弾き方などの紙がまとまったファイルがびっしりと詰め込んでいて、友希那は何故かこのことを知っているかのようだった。

 

 

 「これが、努力していないと言ってる人の部屋かしら?」

 

 「それは…………昔の名残だ。もう、何年も触ってない」

 

 「嘘をつかないで」

 

 

 取り繕った言葉を並べるも、義妹はすぐに嘘だと見抜く。

 友希那はおもむろにギターを手に取るとコードをアンプへと差し、爪弾いた。

 

 

 「埃なんて一切かぶってないし、チューニングもしっかりしてる。キチンと手入れが行き届いている証拠よ。これでもあなたは音楽に対して情熱がないと言えるの?」

 

 「……………全く、友希那には敵わないな」

 

 「だからこそわからないわ。ここまでしているのに、どうして音楽を辞めてしまったの?」

 

 「立ち話もなんだ。今度はここで話さないか?」

 

 

 オレの提案に友希那は無言で頷いた。

 先ほどとは逆で友希那が椅子に、オレはベッドに腰掛ける。

 

 

 「こう見えて、友希那にバンドを誘われた時は本当に嬉しかった。それこそ、飛び跳ねそうになるほどな」

 

 「でも、入ってくれないんでしょう」

 

 「ああ。オレなんかよりもよっぽど適任な奴らがいるはずだ」

 

 「まるでそれが誰なのかわかっているような口ぶりね。それはずっと、ライブハウスに通い続けて探っていたとでも言うつもりかしら?」

 

 「なんだ、知っていたのか?」

 

 「当然よ。言葉を返すようだけど、私も嬉しかったのよ。アナタに私の歌声を聴いてもらえて」

 

 「そうか、驚いたな」

 

 「お互い様よ」

 

 

 久しぶりに話した本心と本心。

 互いの知らなかったことが次々と明かされる。

 

 

 「なら、今日CiRCLEに行ったことも知ってるんだな」

 

 「ええ。紗夜と何か話していたみたいだったけれど」

 

 「その通りだ。本人からも聴いたが、バンドを組むそうだな。奴なら友希那とだって吊り合うだろう」

 

 「だからこそアナタを誘ったのだけれど」

 

 「勘弁してくれ。オレには荷が重すぎる」

 

 「頑固ね」

 

 「当然だ」

 

 「今日CiRCLEに来たのは他にも目的があったからだと思うのだけれど?例えば、バイトの面接を受けに来たとか」

 

 「その通りだ。全く、情報源は一体誰なんだろうな」

 

 

 適当に言葉を濁すが思い当たる人物が一人しかいない。

 間違いなく、幼馴染(リサ)だろう。

 

 

 「何故あそこでバイトする事にしたの?」

 

 「色々なライブハウスにいったが、設備も立地も一番良かったのが理由の一つだ」

 

 「ふふっ、もう一つの理由は私のサポートをしたいって聞いたけど?」

 

 

 もう全ての情報が筒抜けらしい。

 別に口止めしてるわけでもなかったし、オレが怒ることは決してない。

 

 

 「まあ、些細な罪滅ぼしだとでも思ってくれ」

 

 「そんなこと思わないわ。でも、嬉しい」

 

 「そうか。なんだか、久しぶりの会話だとはとても思えないな」

 

 「アナタが一方的に遠ざけていただけでしょう。私は何も気にしていなかったのに」

 

 「他人の心なんてわからん。だが、こうしてオレの気持ちは伝えることができたんだ。今はその喜びを噛み締めるよ」

 

 「私も同じ気持ちよ。これからもよろしく」

 

 「ああ」

 

 

 オレの勘違いから始まった仲違いはこれで終戦を迎えた。

 時計を見ると跡少しで日付が変わろうとしていた。

 流石にここまで夜更かししていると明日の学校の授業に影響が出かねない。

 

 新学期早々に遅刻なんて目も当てられないからな。

 

 

 「それじゃあそろそろ寝るか」

 

 「ええ。そうしましょう」

 

 

 友希那は立ち上がり、自分の部屋へと歩みを進める。

 

 

 「雄樹夜」

 

 

 久しぶりに呼ばれたオレの名前。

 背を向けたまま小さくこう告げた。

 

 

 「明日は、リサと3人で一緒に登校しましょう」

 

 

 友希那からの提案にオレは断る理由はなかった。

 

 

 「そうだな。久しぶりに、3人で」

 

 

 そう約束を取り付け、友希那は小さく笑った。

 オレも言葉ではなく表情で返し、友希那は部屋へと戻る。

 

 

 (それにしても、今日は色々あった)

 

 

 誰もいなくなった部屋で一人心の中で呟く。

 携帯の電源を入れ、友希那にあれこれ入れ知恵をした張本人にメッセージを送る。

 

 

 『お陰様で友希那と和解できた。感謝している』

 

 

 口下手なオレから送る感謝の言葉。

 同じ時をずっと過ごした幼馴染にもきっと届いていることだろう。




本人にとって重要なことでも相手にとっては対して思っていないことなんてよくあることです。

だからこそ、人付き合いは難しい。
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